弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件即時抗告を棄却する。
理由
1本件即時抗告の趣意は,弁護人Aが提出した即時抗告申立書に記載されたとおりであ
るから,これを引用する。
所論は,要するに,弁護人は,検察官に対し,刑訴法(以下「法」という。)316条の20
第1項に基づき,(1)Bの平成18年3月27日付け検察官C作成の供述調書1通及び他の検察
官作成の供述調書2通,(2)被告人の同月31日付け検察官C作成の供述調書(以下,C検
察官が作成した供述調書を「BのC調書」「被告人のC調書」といい,Bの他の検察官が
作成した供述調書を「Bの2通調書」といい,以上を「本件各検察官調書」という。)の開
示を請求したが,拒否されたので,同年7月31日付け証拠開示命令申立書により同条の26第
1項に基づき原裁判所に本件各検察官調書の証拠開示命令を請求したところ(以下「本件開
示請求」という。),原裁判所はこれを棄却した,しかし,本件各検察官調書は,本件犯
行当時,D(以下「D」という。)が心神耗弱の状態にあったことを被告人が認識してい
たか否かが主要な争点の1つになっている本件被告事件において,被告人がE県警F署に勾
留中の同房者Bへの発言(以下「Bへの発言」という。)を問題にして作成されたもので
あり,その作成の時期,状況等から貴重な証拠であって,被告人の主張との関連性及び必
要性において,証拠価値は大きく,被告人にとって有利である一方で,検察官にとって致
命的証拠が含まれている可能性があり,最も重要な争点に関する貴重な証拠であって,被
告人の防御権行使上極めて重要であるから,原決定は容認できないので,これを取り消し,
検察官に対し,証拠の開示を命じる旨の決定を求める,というのである。
そこで,一件記録を調査して検討する。
2まず,本件準詐欺被告事件の公訴事実の要旨は,平成14年9月ころからホームヘルパ
ーとしてDの介護等を行っていた被告人が,平成16年5月11日,G市内の銀行で,老年期痴
呆(認知症)に罹患していたDの心神耗弱に乗じて,その承諾をさせるなどし,所定の手
続などを取り,銀行員をしてD名義の銀行預金口座から1500万円を払い戻して被告人管理
の銀行預金口座に振込入金させ,また,同年6月1日,同銀行で,同様Dの上記状態に乗じ
て,その承諾をさせるなどし,D名義の定期預金口座を解約し,その払戻し元利金のうち
4000万円を前記被告人管理の銀行預金口座に振込入金させ,もって財産上不法の利益を得
た,というものであり,本件窃盗被告事件の公訴事実の要旨は,前記立場にある被告人が,
平成16年5月13日から同年12月20日までの間に,前後48回にわたり,銀行支店等において,
Dが前同様の状態にあることにつけ込んで不正に入手した同人名義のキャッシュカードを
使用して銀行の現金自動預払機を作動させて,現金合計4938万円を引き出して窃取した,
というものである。
3本件公判前整理手続と本件証拠開示に関する裁定の概要
本件各事件については,公判前整理手続に付され,平成18年2月1日(以下,月日は平成
18年のそれである。)に第1回公判前整理手続(以下,その期日を「第1回期日」の例によ
り表記する。)が行われ,以来期日が重ねられ,8月15日の第10回期日で,本件開示請求に
ついて,同請求は相当性を欠くとして,これを棄却する旨の原決定がなされ,また,弁護
人によるBの証人請求を却下し,争点及び証拠の整理の結果の確認が行われ,これらが同
日付け「事件の争点整理の結果」と題する書面(以下「本件争点整理結果書」という。)
のとおりであることに,弁護人の準詐欺罪は成立しない旨の主張が付加され,また,証拠
の整理の結果についても,証拠等関係カード記載のとおりで,弁護人請求証拠の一部の採
用が留保されて,以上について検察官及び弁護人は,その結果に相違ない旨述べ,10月2日
から翌年3月26日までにかけて20回の公判期日が指定され,詳細な審理計画が定められて,
公判前整理手続を終了した。
本件争点整理結果書によると,本件各事件の争点は,(1)Dは,本件各公訴事実記載
の行為当時(平成16年5月11日から同年12月20日まで),老年期痴呆のため事物に対する判
断能力や財産管理能力が著しく障害された状態,すなわち心神耗弱の状態にあったか否か,
(2)被告人は,上記各行為当時,Dが上記の心神耗弱の状態にあったことを認識し,こ
れに乗じて各行為を行う意思があったか否か,とされ(以下,順次「本件争点1」「本件争
点2」という。),これを巡り,多岐にわたる間接事実について,主張が対立し,整理され,
これらに対する立証予定が定められている。
検察官は,本件争点2に関する主張として,本件争点1に関し主張した各事情に加え,○1
被告人の専門知識及び被告人とDとの関係を上げ,Dが心神耗弱の状態にあったことを認
識できないはずはないとする点及び○2被告人の認識を直接裏付ける被告人の言動を上げ,
被告人が,Dの状態に関し,平成15年5月10日ころにクリニック職員に,同月13日ころにD
の長男H及びその妻Iに,平成16年ころブティック店員に,対しなした発言等,同年12月2
日から受けている精神科の初診時のアンケートでの記載内容を主張し,これに対し,弁護
人は,○1につき,概ね認めるが,被告人はDが痴呆症でないと認識し,また,痴呆症にな
らないよう最善の介護をした旨を,○2につき,検察官主張の各発言の事実はないし,アン
ケートはDに頼まれ,医師の指示により,Dの意向に従って記入したものであると主張し
ていた。
本件開示請求は,本件争点2の,直接には○2に関わるものであるが,本件争点整理結果書
のとおり,Bへの発言事実は,本件争点2の○2に関する主張として掲げられていなかった。
4原決定は,前記のとおり本件開示請求を棄却したが,原裁判所は,本件即時抗告に対
する意見書で,その理由として,弁護人が,Bへの発言に関して,事実上及び法律上の主
張を全くしておらず,第9回期日において原裁判所が示した「事件の争点整理の結果(案)」
(以下「第9回案」という。)には間接事実のレベルにおいても,Bへの発言を記載しなか
ったが,その案は,第10回期日において,若干の修正を経て,Bへの発言の記載がないま
ま,争点整理の結果として確定していること,本件争点2は,本件の争点の一つであるが,
Bへの発言内容自体が争点となっているわけではなく,当該発言が被告人の前記認識の認
定に関連する程度もごく薄いものと考えられるから,間接事実レベルにおいても本件の争
点とはしなかった経緯があること,以上により,本件各検察官調書は,弁護人の主張に関
連するものではなく,仮に関連するとしてもその程度はごく薄いものである一方,開示を
認めることによって更なる訴訟遅延,争点拡散等の弊害を招くものであるとして,相当性
を欠くと判断した旨を示している。
5しかして,本件においては,更に次の経過が認められる。
(1)まず,検察官は,本件争点2に関し,その○2の被告人の認識を直接裏付ける被告人
の言動として,本件争点整理結果書記載の被告人の言動等に加えて,6月27日の第7回期日
において,同日付け追加証明予定事実記載書の第2項で,被告人が勾留中に同房者であるB
に対し「おばあちゃんは,やっぱりボケてたのよね。でも,逮捕された最初に『私はおば
あちゃんの許可を得ていた』と言ってしまったので,その後,引っ込みがつかなくなり,
事件のことを認めていないのよね。」などと打ち明けていた事実を主張し,これを立証す
るための証拠として,BのC調書の抄本(甲138)を証拠請求し,弁護人が不同意としたた
め,「F警察署留置場内での被告人の言動等」の立証趣旨でBの証人尋問を請求し,弁護
人は「しかるべく」と述べた。
(2)弁護人は,その後,検察官に対し,7月10日付け証拠開示請求書(以下「第1次開
示請求」という。)により,本件各検察官調書を法316条の15第1項により開示請求し,ま
た,第7回期日で原裁判所から,弁護人においてもBを証人請求するのであれば,次回期日
までに証人請求するとともに,証言予定事実記載書を事前に検察官に開示するよう準備を
求められていたことから,本件各検察官調書の開示を受けていなかったが,7月19日,原裁
判所に,弁護人請求証人調一覧表(以下「証人一覧表」という。)と題する書面を提出し,
Bを証人とし,「平成17年11月頃,証人がF警察署留置場に留置されていた際,被告人と
同房であった時期があり,雑談の中で,被告人から種々本心を打ち明けられたが,それに
よると,『被害者はしっかりしたおばあちゃんで,痴呆などではなかった。被告人は騙す
なんて気持ちはなかったし,悪いことはしていない。それを認めない検察官からひどい取
調べを受けた。』とのことであった。証人自身,その後検察官から3度呼ばれて,これら被
告人との会話のことを聞かれたが,証人が話したようには調書には書いて貰えなかった。」
旨を記載し,尋問事項書には,立証趣旨として,「被告人は,F署の監房で,同房の証人
に対し,犯行時被害者が痴呆症であることの認識はなく,犯意はなかったのに,取調官が
信じてくれず,調書もとってくれないと言って嘆いていたこと。」と記載し,尋問事項を
列記した(以上の書面は第7回期日で求められた準備に相応する。)。
(3)検察官は,7月19日,弁護人のBの証人尋問事項は,伝聞供述の証拠能力に関する
法律の区別によらず,また,BのC調書の録取過程に問題があるかのように主張しようと
するなど,本来の争点以外の事実を争点化しようとするものと認められる,Bに関する証
拠調べ請求が争点を無用に拡大させ,その結果,争点中心主義による迅速な審理を実現す
べき公判前整理手続を踏まえた本件の公判審理が遅延することになるのは,証拠調べ請求
をした検察官の本意ではない,として,BのC調書抄本及びB証人の証拠調べ請求を撤回
し,前記(1)の6月27日付け証明予定事実記載書の第2の全部を削除して証明予定事実を
変更する旨記載した同日付け検察官意見書を提出し,これを踏まえ,弁護人に対し,第1次
開示請求は請求の基礎が失われたから,これに応じられない旨の回答をした。
(4)7月20日の第8回期日で,弁護人は前記(2)を踏まえ,「F警察署留置場内での
被告人の言動等」の立証趣旨でBを証人請求し,検察官は(3)の検察官意見書のとおり
と対応し,B証人は不必要の意見を述べた。
(5)弁護人は,検察官に対し,新たに7月28日付け証拠開示請求書で本件各検察官調書
の開示を請求し(以下「第2次開示請求」という。),その理由として,弁護人の第1次開
示請求に対する検察官の前記(3)の回答につき,その対応に疑問はあるが,検察官の意
向を配慮し,本件争点2に関連する証拠として,争点を限定して証拠の開示を請求する,こ
の争点に関し,検察官は,膨大な書証のほか,多数の証人の取調べ請求をしているが,同
争点の解明上,これら証拠の信用性や被告人の主張の信用性を比較考量する上で,他に変
えがたい価値があり,貴重な証拠で被告人の防御権行使上極めて重要である旨主張した。
これに対し,検察官は,本件各検察官調書は,その存否にかかわらず法316条の20第1項に
基づき開示することが相当とは認められない旨7月31日付け回答書で回答した。
そこで,弁護人は,原裁判所に対し,7月31日付け本件開示請求をしたが,その内容は検
察官に対するものと同旨である。
(6)原裁判所は,7月31日の第9回期日において,検察官及び弁護人に対し,Bへの発
言の記載がない第9回案を提示して検討を求めた。第9回期日後,弁護人は,Bへの発言の
記載がないことに意見を述べることがなく,なお,検察官は,第2次開示請求につき,前同
旨の意見書を提出した。
(7)原裁判所は,第10回期日で,前記3のとおり,原決定をし,B証人の請求を却下し,
本件争点整理の結果等を確認し,公判前整理手続を終了した。
6以上を踏まえて検討すると,原裁判所は,本件公判前整理手続において,本件争点1,
2を定め,これを判定するため,争いのない事実と本件争点に関する主張とを整理し,本件
争点に関する主張では,本件争点2に関し,○2の被告人の認識を直接裏付ける被告人の言動
に関する個々の事実を証明予定事実として明らかにさせて,その立証予定を出させている。
それなのに,弁護人は,Bへの発言を本件争点○2の証明予定事実として提示できるのに,
これに関する事実上及び法律上の主張をしていない。もっとも,弁護人が原裁判所の準備
要求に応じて提出している証人一覧表等は,検察官のBへの発言立証に対応して,これを
争い,弁護人がBへの発言を主張,立証をする予定があることを示しているし,証人尋問
請求はそれによる証明予定事実があることを前提とするものであり,その証明を予定する
内容も証人一覧表等の記載内容から明らかであり,なお,これが検察官のBへの言動に関
する追加証明予定事実等の撤回後も維持されているから,実質的にその主張をしているの
ではないかとみる余地もないではない。しかし,これはもともと検察官の証明予定事実等
に対する反証として提出されたものであり,検察官の証明予定事実等が撤回された後,自
らの証明予定事実とすることが容易にできるのに,その旨全く主張されることがなかった
だけでなく,その趣旨は分かりにくいが,第2次開示請求及び本件開示請求においては,開
示に関するものではあるが,自ら検察官の意向に配慮し,本件争点2に関連する証拠として
争点を限定するとしている。のみならず,その後,原裁判所から第9回案を提示され,そこ
にBの発言に関する事実が本件争点2の(2)の関係事実の争点として記載されていないこ
とが明白に示され,これを承知しながら,Bへの発言の追加や弁護人提出の証人一覧表の
取扱について何ら主張ないし言及していない。これらの諸点に照らすと,弁護人は,Bへ
の発言を証明対象事実として主張しているとみることはできない。このことは,前記のと
おり,第10回期日で,原決定がなされた後にも,本件争点整理結果書にBへの発言が記載
されていないのに,相違ないとしてこれを確認していることや,Bの証人請求が却下され
たのに,異議を留めておらず,また,新たな他の証拠方法等について請求ないしそのため
の留保をしていないことからも裏付けられる。
以上によると,本件開示請求においては,所論がいう法316条の20の前提となる証明予定
事実を明らかにした事実上及び法律上の主張がないといわざるを得ない。弁護人は,本件
開示請求において本件争点2に関連する証拠として,争点を限定して本件開示請求をすると
しているが,本件公判前整理手続の中では,その○2として個々の言動の有無を主張し,立
証していくこととして争点,立証予定を整理,確認してきた趣旨に反するというだけでな
く,この趣旨にも照らすと,同条項の主張としては足りないし,もとより○2の個々の証明
対象事実との関連性が希薄であることは明らかであり,したがってまた本件争点2との関連
も薄いといわざるを得ず,被告人の防御の準備のための必要性も高いとは認められない。
以上の諸点に照らすと,その他所論が指摘する点を検討しても,検察官が開示すべき証
拠を開示していないと認めず,弁護人の本件開示請求が相当性を欠くとして棄却した原決
定は是認することができる。
なお,既に前記のとおり本件公判前整理手続が終了しているが,即時抗告の利益は失わ
れないと解する。
7よって,本件即時抗告は理由がないから,刑訴法426条1項後段により,主文のとおり
決定する。
(裁判長裁判官・田中亮一,裁判官・髙木順子,裁判官・小池健治)

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