弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人外山佳昌、同石口俊一、同山田延廣の上告理由について
 一 本件は、福山市の住民である上告人らが、同市が土地区画整理法(以下「法」
という。)九六条二項、一〇四条一一項に基づいて備後圏都声計画事業東部土地区
画整理事業(以下「本件事業」という。)の保留地として取得した土地につき、本
件事業の施行規程所定の要件がないのに随意契約の方法で売却した違法及び時価よ
り低廉な価額で売却した違法があると主張して、地方自治法二四二条の二第一項四
号に基づき、同市に代位して、右売却当時同市の市長の職にあった被上告人に対し、
時価と売却価額との差額相当の損害賠償を求める住民訴訟事件である。
 原審は、(1)住民訴訟制度の目的からすれば、住民訴訟の対象となるべき「財
産の処分」における「財産」とは、地方公共団体の住民の負担に係る公租公課等に
よって形成された地方公共団体の公金及び営造物以外の財産を意味するものと解す
べきであり、したがって、住民訴訟の対象となるべき「契約の締結」も、財産の処
分を内容とするものである場合には、右の意味における「財産」の処分を内容とす
るものでなければならないところ、市が土地区画整理事業の施行者として取得する
保留地は、右の意味における「財産」には当たらず、その随意契約による処分は右
の意味における「契約の締結」に当たらない、(2)右の保留地は、事業施行者と
しての市が取得するのであり、地方公共団体としての市が取得するのではないから、
その処分としての契約も、施行者としての市が締結するのであって、地方公共団体
としての市が締結するのではないし、そもそも保留地は、実質的には減歩を受けた
土地所有者全員の共有に属するものと目すべきものであり、市の財産処分に関する
法令の規定は適用されない(法一〇八条一項後段)、(3)市の施行する土地区画
整理事業の費用は市が負担する(法一一八条一項)から、保留地が不当に廉価で売
却された場合に市が損害を被る可能性はあるが、同事業の費用は保留地の処分金だ
けでなく公共施設管理者負担金(法一二〇条)、国庫補助金(法一二一条)、事業
計画に定められた市の負担金等によっても賄われるのであり、費用不足による損害
が生ずるかどうかは事業が完了するまではその可能性があるにすぎない、(4)そ
うすると、保留地の売却の段階でその行為を住民訴訟の対象にすることは、事業の
在り方そのものを直接対象とすることになり、制度の予定しないところといわざる
を得ない、などの理由を挙げて、本件訴えは不適法であると判断し、これを却下し
た。
 二 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は次のと
おりである。
 住民訴訟は、地方自治法二四二条一項所定の財務会計上の違法な行為又は怠る事
実を対象とするものでなければならない(同法二四二条の二第一項本文)ところ、
普通地方公共団体の所有に属する不動産は、公有財産として同法における「財産」
に当たるものと規定されている(同法二三七条一項、二三八条一項一号)から、普
通地方公共団体の所有に属する不動産の処分は、当該不動産が当該普通地方公共団
体の住民の負担に係る公租公課等によって形成されたものであると否とを問わず、
同法二四二条一項所定の「財産の処分」として住民訴訟の対象になるものと解され
る。また、右の不動産について売買契約を締結する行為は、同項所定の「契約の締
結」に当たり、住民訴訟の対象になるものと解される。
 記録によれば、本件の保留地は、本件事業の換地処分の公告があった日の翌日で
ある昭和五六年九月五日に福山市の所有に属することとなり、同市がこれを同五七
年八月二七日に随意契約によって売却したというのであるから、右売却当時同市の
「財産」であったものであり、右売却行為は、「財産の処分」及び「契約の締結」
に当たり、住民訴訟の対象になるものというべきである。同市は、本件事業の施行
者として保留地を取得し、これを処分したのであるが、もとより普通地方公共団体
の事務として本件事業を施行していたのであり(地方自治法二条三項一二号)、普
通地方公共団体としての地位とは別個独立に施行者としての地位を有し、これに基
づいて保留地を取得して処分したというものではない。また、市が保留地を定める
のは、土地区画整理事業の施行の費用に充てるためである(法九六条二項)から、
保留地の処分は、その財産的価値に着目してされる行為にほかならず、これについ
ては、一般の財産の処分に関する法令の規定は適用されないものの、右の保留地を
定めた目的に適合し、施行規程で定める方法に従わなければならないものと定めら
れており(法一〇八条一項)、施行規程のうち保留地の処分方法を定める規定(法
五三条二項六号)は、財務会計上の規範ということができる。現に、本件事業の施
行規程(昭和四四年福山市条例第五七号)においては、保留地の処分は、施行者が
あらかじめ予定価格を定め、一般競争入札によるのを本則とし、入札希望者がない
とき、落札者が契約を結ばないとき、国又は地方公共団体が公用又は公共の用に供
するため必要とするとき、その他特に施行者が必要と認めたときには、随意契約に
よることができる旨が規定されており(同条例七条)、これは財務会計上の観点か
ら保留地の処分方法を規制するものと解される。本件の保留地の売却がこのような
施行規程等財務会計職員の遵守すべき規範に適合するものであったか否かを審査す
ることは、本件事業の在り方そのものを直接審査の対象にするものではないことが
明らかである。そして、市の施行する土地区画整理事業に要する費用は施行者であ
る市が負担することとされており(法一一八条一項)、保留地の処分代金額が低下
することは、他に新たに財源を求めない限り、市が一般財源から負担すべき額の増
大をもたらすから、特段の事情のない限り市に損害を生じさせるものというべきで
ある。なお、市の施行する土地区画整理事業においては、当該事業の施行後の宅地
の価額の総額がその施行前の宅地の価額の総額を超える場合に、その差額に相当す
る金額を超えない価額の一定の土地を保留地として定めることができるものと規定
されている(法九六条二項)のは、右差額が施行者である市が費用を負担して施行
する土地区画整理事業の結果生み出される価値であることから、これを従前地の所
有者らに帰属させずに事業の費用に充てて市の財政負担を軽減することができるも
のとする趣旨であると解されるのであり、保留地が実質的に減歩を受けた土地所有
者らの共有に属するというのは、相当でない。
 以上のとおり、本件の保留地の処分は、「財産の処分」及び「契約の締結」に当
たるものとして、住民訴訟の対象になると解することができるから、これと異なる
見解に立って本件訴えを不適法として却下した原判決は、地方自治法二四二条の二
第一項の解釈適用を誤るものとして、破棄を免れない。そして、本件については、
更に審理判断を尽くさせるため、原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   出   峻   郎
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    遠   藤   光   男
            裁判官    井   嶋   一   友
            裁判官    藤   井   正   雄

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