弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人青柳孝、同青柳孝夫の上告理由第一点について。
 第一審判決事実摘示には、被上告人が上告人との合意により本件土地の賃貸借を
解除し、知事の許可を受けた旨の被上告人の主張事実は、上告人においてこれを認
めるとの陳述記載があり、上告人は昭和三五年四月二〇日の原審第三回口頭弁論期
日において、第一審判決事実摘示のとおり第一審口頭弁論の結果を陳述したうえ、
新らたに土地返還の合意の不成立を主張すると述べたのであるから、原審がこれを
自白の撤回と認めてその許否を判断したことは正当である。所論は採用できない。
 同第二点について。
 原判決およびその引用する第一審判決は、挙示の証拠により、賃貸人賃借人双方
の事情として、判示諸般の事実を認定したうえ、(イ)農地法二〇条二項三号にい
う賃貸人がその農地を耕作の事業に供することを相当とするか否かにつき考慮さる
べき賃貸人の労働力は、賃貸人およびその家族の労力に限り、いかなる雇傭労働力
の利用をも許さないことを意味するものではないと解すべく、したがつて、仮りに
本件土地返還後被上告人の保有すべき判示面積の農地を被上告人の独力で耕作する
ことが労力的にみて不可能であるとしても、そのことから直ちに、被上告人が本件
土地を耕作の事業に供することを目的としないもの、あるいは、目的とすることが
不可能であると断定することは相当でなく、(ロ)本件解約は一応農地の転用転売
を目的としたものではなく、(ハ)他方、上告人は長男である訴外Dの原判示教員
就職の時期以来本件契約の当時まで引き続き農業経営の規模を縮小する意思を有し
ていたものであり、(ニ)本件契約が上告人の生計に対し農地法二〇条二項三号の
趣旨に反する程度に悪影響を及ぼすものとは認められないと判断したのであり、叙
上の認定判断は正当として是認できる。所論は、原審の認定と相容れない事実およ
び原審の認定しない事実を援用し、独自の見地に立つて、原審が適法にした事実認
定および法律上の判断を論難するものであり、採用できない。
 同第三点について。
 原判決が正当の事由があると判示したのは、本件解約の合意およびこれに対する
知事の許可が農地法二〇条二項二三号に違反し無効である旨の上告人の主張を排斥
したうえで、語を重ねて、右合意および許可が有効である所以を説示したまでのこ
とであり、当事者の主張しない事実に対し判断したことにはならない。しかして、本
件の場合正当の事由があるとした原審の判断は是認できる。所論は採用できない。
 同第四点について。
 所論は、原審が被上告人において宅地転用のための転売を目的として本件契約を
した旨判示したごとく曲解し、この前提に立つて理由そごをいうものであり、採用
できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介

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