弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2処分行政庁が控訴人に対して平成18年5月11日付けでした平成18年度
の特別区民税及び都民税特別徴収額の賦課決定を取り消す。
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要(略語等は,原則として,原判決に従う)。
1本件は,平成18年度の特別区民税及び都民税の賦課期日(同年1月1日)
に東京都文京区の住民基本台帳に記録されておらず,米国に滞在していた控訴
人が,被控訴人に対し,処分行政庁が同年5月11日付けで控訴人に対してし
た,同年度の特別区民税及び都民税特別徴収額の賦課決定(以下「本件処分」
という)の取消しを求めた事案である。。
原審は,控訴人の請求を棄却したため,控訴人が控訴した。
2前提事実,争点及び当事者の主張は,原判決の「事実及び理由」第2の1及
び2に摘示されたとおりであるから,これを引用する。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は以下の
とおりである。
2外国滞在者の住所の認定について
(1)特別区内に住所を有する個人に対しては,特別区民税及び都民税が課さ
れる(地方税法1条2項,24条1項1号,294条1項1号,734条2
項,3項,736条1項。以下,準用規定である同法1条2項,734条及
び736条の引用は割愛する。また,特別区内に住所を有する個人である。)
か否かは,当該特別区の住民基本台帳に記録されているか否かによって定ま
るが,記録されていない者であっても,当該特別区内に住所を有すると認め
られる場合には,その者を住民基本台帳に記録されている者とみなして,特
(,別区民税及び都民税を課することができるとされている同法294条2項
3項,24条2項。個人の特別区民税及び都民税の賦課期日は,当該年度)
の初日の属する年の1月1日である(同法318条,39条。)
(2)地方税法294条1項1号にいう住所の意義については,同法上にこれ
を定めた規定はないものの,民法22条は住所とは各人の生活の本拠をいう
と規定しており,地方税法294条1項1号にいう住所について,これと反
対の解釈をすべき特段の事由はないことから,同条にいう住所とは各人の生
活の本拠をいうと解するのが相当である(最高裁判所昭和29年10月20
日大法廷判決・民集8巻10号1907頁参照。そして,各人の生活の本)
拠とは,その者の生活に最も関係の深い一般的生活,全生活の中心を指すも
のであり,一定の場所がある者の住所であるか否かは,客観的に生活の本拠
たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当である
()。最高裁判所平成9年8月25日第二小法廷判決・集民184号1頁参照
(3)本件処分は,平成18年度の住民税(特別区民税及び都民税)の特別徴
収額の賦課決定であるから,その賦課期日は平成18年1月1日である。原
判決の「事実及び理由」第2の1の前提事実のとおり,控訴人は,従前東京
都文京区α××番14号(以下「原審控訴人肩書地」という)に住んでい。
たが,平成18年1月1日時点においては同区の住民基本台帳に記録されて
おらず,かつ,米国に滞在していた。そこで,地方税法294条3項を適用
するに当たり,控訴人のように従前特別区(本件では文京区)に住んでいた
が賦課期日には外国に滞在していた者の住所の認定をいかに行うべきかが問
題となる。
この点,前記(2)で説示したとおり,省庁に勤務する国家公務員がその勤
務先から海外勤務を命ぜられて海外に単身赴任した場合の当該公務員の地方
,,税法294条1項1号にいう住所の認定についてもその出国前の生活状況
出国の目的,期間,当該公務員の生活状況,その家族の生活状況,帰国後に
予定される生活状況等を総合的に考慮し,客観的に生活の本拠たる実体を具
備しているか否かにより判断するのが相当である。
なお,昭和41年5月31日自治府第54号各都道府県総務部長,東京都
総務・主税局長あて自治省税務局長通達「外国人等に対する個人の住民税の
取扱いについて(乙5)は,法施行地外において,継続して1年以上居住」
することを通常必要とする職業を有する場合,法施行地に住所を有しないも
のと推定してさしつかえないと規定しているが(同通達11(1),出国期間)
が1年未満の場合については,上記推定規定の直接の適用場面ではないと解
すべきであるから,その出国期間が1年未満であることを一つの事情としつ
つ,法施行地に客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かを実質的
に判断すべきである。
3本件処分の適法性について
原判決の「事実及び理由」第2の1の前提事実及び弁論の全趣旨によれば,
控訴人は,出国前に文京区内の原審控訴人肩書地に妻と共同名義で賃借した借
家に妻と共に居住し,同所に生活の本拠としての住所を有していたこと,その
勤務先の文部科学省の命令により米国において法科大学院の修士課程に在籍し
て研究する目的で渡米し,帰国後には再び文部科学省において勤務することが
予定されていたこと,同修士課程の期間を含め,海外赴任期間は平成17年3
月27日から平成18年3月16日までの予定であり,現実には赴任期間の延
長を命ぜられて同月26日に帰国したが,その海外赴任期間は通じて1年未満
(,,,であったこと期間の計算につき地方税法20条の5第1項民法140条
143条,控訴人は,その出国期間中,一度も帰国しなかったものの,米国)
における生活は上記赴任目的及び期間に限定されたものであったこと,控訴人
の出国期間中,その妻は,原審控訴人肩書地に従前どおり居住し,同所に生活
の本拠としての住所を有していたこと,控訴人は,特段の事情がない限り,帰
国後は同所に戻って従前どおり妻と共に居住することを予定しており(帰国後
引き続いて転居を伴う異動がある場合でも,帰国後いったんは同所に戻り,身
辺の物品,居住関係を整理した後に異動先住所へ転居することが通常の事態と
考えられる,現実にも,本件処分後の平成19年5月23日に控訴人肩書地。)
に転居するまでの間は原審控訴人肩書地に生活の本拠としての住所を有してい
たことが認められる。
以上の諸事情を総合的に考慮すると,控訴人は,その海外赴任先の米国に一
時的に滞在していたものにすぎず,本件処分の賦課期日である平成18年1月
1日時点において,原審控訴人肩書地にその生活の本拠としての住所(地方税
法294条1項1号)を有していたものと認められる。
4当審における控訴人の主張について
(1)控訴人は,住所の認定について,行政実例においては妻子ないし家族の
起居の事実が重視されているが,それは世帯のうち妻子等の家族は担税力を
有しておらず,夫のみが担税力を有していることが通常である点に着目した
ものと考えられるところ,妻が独立した家計を有している場合等には,妻が
居住していることは,同所に夫の住所を認定する事情にはならないと主張す
る。
しかしながら,前記3の認定,判断において,控訴人の出国前の生活の本
拠である原審控訴人肩書地にその妻が居住しているという事情を控訴人が同
所に客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かを判断する事情とし
て考慮したのは,控訴人がその家族である妻が居住する同所に戻ることが予
定されているという点に着目したものであって,妻が独立した家計を有する
か否かにはかかわらないというべきであるから,控訴人の上記批判は当たら
ない。
(2)控訴人は,当初,英語学校に通学するために平成17年3月28日から
平成18年2月まで学生としての滞在を認められて出国した後,法科大学院
に転籍し,同法科大学院の修士課程期間である平成17年8月から平成18
年5月末までの滞在許可証を得ており,また,控訴人は最大5年間まで有効
な留学生ビザを交付されていたことから,これらの期間についても,本件処
分の賦課期日における住所の認定の考慮要素とすべきであると主張する。
しかしながら,上記法科大学院の修士課程期間が平成18年5月末までで
あったとしても,控訴人の海外赴任期間は当初同年3月16日までとされ,
途中で上記赴任期間が延長されたものの,上記修士課程の終了まで赴任する
のではなく,その途中の同月26日に帰国するよう命ぜられ,控訴人はこれ
に従っていること,留学生ビザの有効期限が5年であることによって,控訴
人の1年未満の海外赴任期間がそれ以上に延長されるなどした事情は認めら
れないことからすれば,控訴人の主張する上記事情は前記3の認定,判断を
左右するものではない。
5控訴人のその余の主張も,上記認定,判断を左右するものではない。
6よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がな
いから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第11民事部
裁判長裁判官富越和厚
裁判官岩井伸晃
裁判官横田典子

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