弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士小林武夫、同亀田得治、同石川克二郎の上告理由第一点ないし
第三点について。
 按ずるに、特定した土地の引渡を目的とする本件訴の如きものにつき、原告(被
上告人)たる申請人をして権利の満足を得せしめた所論内容のような仮処分の執行
された場合は、仮の履行状態が作り出されているのであり、その当否は本案訴訟の
当否にかかっているのであるから、その仮の履行状態及びその状態の継続中に起き
た新な事態を本案訴訟の当否の為めの判断の資料と供することはそれ自体論理的矛
盾であり、従つて本件のように原告(被上告人)が仮処分の執行により特定した土
地の引渡を受けた後、該土地が所論のように滅失したとしても裁判所はかかる事実
を斟酌することなくして(換言すれば仮処分の執行のなかつた状態において)請求
の当否を判断すべきものと解するを相当とし、これと同趣旨に出でた第一審判決並
びにこれを引用した原判決の各判断はいずれも正当である(昭和一三年一二月二〇
日大審院第二民事部判決民集一七巻二三号二五〇二頁、昭和八年四月二五日同院第
五民事部判決民集一二巻八号七四四頁各参照)。所論はすべて右と相容れない見解
を前提とし、種々論説するものであつて採るを得ない。
 同第四点について。
 所論原判示はいささか正確を欠くが、原判文全体を熟読すれば、右は本件土地の
埋没前すなわち前示仮処分執行前の状態において上告人は本件土地を国に引渡して
いなかつたことは上告人において明らかに争つていなかつたという趣旨をうたつて
いるものと解すべきであり、かかる擬制自白(記録を精査すればこの擬制自白は認
められる)に基いて原判決のように判断することは前段説示のとおり毫も妨げない
ところであるから、原判決には所論の違法ありというを得ない。それ故、所論は採
用できない。
 同第五点について。
 所論の点に関する原判示もいささか明確を欠くうらみなしとしないが、原判決並
びにその「相当とし」た第一審判決を通覧すれば、原判決は所論の部分についても、
被上告人国の本件土地に対する所有権に基づく妨害排除の主張を是認した趣旨であ
り、原判決中所論の点はあらずもがなの無用の措辞と認めるを相当とする。従つて
原判決には所論の違法ありというを得ず、所論は採用し難い。
 同第六点について。
 しかし、原判決並びにその引用にかかる第一審判決を通読すれば、原判決は所論
(二)及び(六)を除くその余の土地についても上告人を不法占有者と認定してお
り、原判決及び第一審判決の認定した事情に鑑みれば、右土地について上告人を不
法占有者と認定した原判決の判断は十分首肯できるから、原判決には所論の違法は
なく所論は採用できない。
 同第七点について。
 しかし、原判決によれば、国が上告人を所論のように差別待遇したことは上告人
の立証を以てしては認められないというのであるから、所論違憲の主張はその前提
を欠くものであり、原判決が上告人の違憲の主張を排斥した結論は正当である。所
論が論難する原判示はあらずもがなの蛇足と認めるを相当とする。それ故所論は理
由がなく、採用できない。
 同第八点について。
 しかし、原判決が憲法にいわゆる良心に従わないで、なされたという事跡は所論
を参酌しつつ本件記録を通覧するも、毫末も認められないから、所論違憲の主張も
亦その前提を欠き、採るを得ないものとする。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとお
り判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    高   木   常   七

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