弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人内田八三郎同横地秋二の上告趣意第一点について。
 記録を調べてみると、被告人が昭和二三年三月一五日頃Aからその盗品であるこ
とを知りながら中古自転車一輛を買受けて賍物を故買したという事実については、
検察官において公訴を提起しなかつたに拘らず第一審裁判所は、右事実についても
審判して被告人を有罪としたこと、ならびに被告人のした控訴において原審は、第
一審判決に認定された犯罪事実につき審判した上、被告人の前記昭和二三年三月一
五日頃の賍物故買の事実についてはその証明が十分でないとの理由によつて無罪を
言渡したことは、論旨に指摘するとおりである。
 すなわち、被告人の前記昭和二三年三月一五日頃の賍物故買の事実については検
察官の公訴の提起がなかつたに拘らず第一審裁判所が事件の実体に触れて審判した
結果被告人の控訴申立により原審に事実上繋属するに至つたのであるから、原審は
右事実については適法な公訴の提起がなかつたものとして公訴棄却の裁判をしなけ
ればならなかつたわけであり、右事実の存否に触れて審判し無罪の言渡をしたのは、
論旨の主張するように審判の請求を受けない事件につき判決をした違法あるもので
ある。しかしながら、事実審たる原裁判所において被告人に対し前記事実について
無罪の判決が言渡された以上、被告人は今後再び同一の事実について公訴を提起さ
れる虞もなくなつたのであるから、公訴の提起がなかつたという理由で公訴棄却の
裁判を受けるよりも被告人にとつてはむしろ有利なわけである。それゆえ、右判決
を破毀して公訴棄却の裁判を求める論旨はその実益がないばかりでなく、結局被告
人に不利益な主張に帰するから上告の適法な理由とならない。
 同第二点について。原判決の判示事実第二(四)に、所論のように被告人が「自
転車一輛を……文京区a町B方で同人に代金五千円で売却の周旋をし」と記載され
ていること、ならびにその証拠説明の所論買取始末書中に「……判示のC方に持つ
て行き同人に代金五千円で売つてやつた」と記載されていて、右判示事実と証拠と
の間に喰い違いがあるように見えることは所論のとおりである。しかし、記録に編
綴されている被告人の作成提出に係る買取始末書を見ると同書面には「文京区a町
番地は解りませんがBという人に私が持つて行き金五千円で売つて来てやりました」
と記載されており、また原判決が証拠に引用した被告人の原審公判廷における供述
にも被告人が自転車一台をBに代金五千円で売つてやつたと述べているのであるか
ら、前記証拠説明の買取始末書中にCに売つてやつたと記載されているのは、文京
区a町のBに売つてやつた旨の誤記であると認められる。従つて、原判決には所論
のような違法はなく論旨は理由がない。

 第一審Aに対する司法警察官の所論聴取書中には論旨指摘のごとく「D」という
記載はあるが「E」という記載のないことは事実である。しかし、本件記録中の被
疑者EことDに対する司法警察官の訊問調書ならびに被告人に対する前科照会書等
によると、DはEの異名であつて別人でないことが明らかであるから、原審が所論
聴取書中の記載を論旨指摘のような記載があるものとして証拠に引用したからとて
その実質に誤りはないのであるから所論のような違法があるものではない。
 よつて本件上告を理由ないものと認め、旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決
する。
 以上は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 橋本乾三関与
  昭和二五年一〇月二四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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