弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 原告らが,被告に対し,労働契約上の権利を有することを確認する。
2 被告は,
(1) 原告aに対し,290万8652円及びこれに対する平成15年3月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確定
に至るまで毎月25日限り52万3500円
(2) 原告bに対し,243万3044円及びこれに対する平成15年3月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確定
に至るまで毎月25日限り43万7900円
(3) 原告cに対し,186万8988円及びこれに対する平成15年3月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確定
に至るまで毎月25日限り33万6381円
(4) 原告dに対し,276万8081円及びこれに対する平成15年3月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確定
に至るまで毎月25日限り49万8200円
(5) 原告eに対し,212万4677円及びこれに対する平成15年3月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確定
に至るまで毎月25日限り38万2400円
(6) 原告fに対し,242万9355円及びこれに対する平成15年3月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確定
に至るまで毎月25日限り43万7236円
(7) 原告gに対し,224万6357円及びこれに対する平成15年3月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確定
に至るまで毎月25日限り40万4300円
(8) 原告hに対し,152万9612円及びこれに対する平成15年3月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確定
に至るまで毎月25日限り27万5300円
(9) 原告iに対し,257万4170円及びこれに対する平成15年3月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確定
に至るまで毎月25日限り46万3300円
(10) 原告jに対し,327万5931円及びこれに対する平成15年3月2
6日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確
定に至るまで毎月25日限り58万9603円
(11) 原告kに対し,219万2462円及びこれに対する平成15年3月2
6日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確
定に至るまで毎月25日限り39万4600円
(12) 原告lに対し,262万9176円及びこれに対する平成15年3月2
6日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確
定に至るまで毎月25日限り47万3200円
を支払え。
3 原告らのその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,被告の負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
       事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項と同旨
2 被告は,
(1) 原告aに対し,301万0107円及びこれに対する平成15年3月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確定
に至るまで毎月25日限り54万1760円
(2) 原告bに対し,253万4555円及びこれに対する平成15年3月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確定
に至るまで毎月25日限り45万6170円
(3) 原告cに対し,194万5552円及びこれに対する平成15年3月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確定
に至るまで毎月25日限り35万0161円
(4) 原告dに対し,290万4040円及びこれに対する平成15年3月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確定
に至るまで毎月25日限り52万2670円
(5) 原告eに対し,226万2803円及びこれに対する平成15年3月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確定
に至るまで毎月25日限り40万7260円
(6) 原告fに対し,249万9362円及びこれに対する平成15年3月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確定
に至るまで毎月25日限り44万9836円
(7) 原告gに対し,234万8868円及びこれに対する平成15年3月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確定
に至るまで毎月25日限り42万2750円
(8) 原告hに対し,159万2563円及びこれに対する平成15年3月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確定
に至るまで毎月25日限り28万6630円
(9) 原告iに対し,264万2622円及びこれに対する平成15年3月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確定
に至るまで毎月25日限り47万5620円
(10) 原告jに対し,342万1669円及びこれに対する平成15年3月2
6日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確
定に至るまで毎月25日限り61万5833円
(11) 原告kに対し,227万9972円及びこれに対する平成15年3月2
6日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確
定に至るまで毎月25日限り41万0350円
(12) 原告lに対し,288万4760円及びこれに対する平成15年3月2
6日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年4月25日以降本判決確
定に至るまで毎月25日限り51万9200円
を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,原告らが,被告に対し,被告のした懲戒解雇が無効であると主張して,
労働契約上の権利の確認と未払賃金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容
易に認められる事実)
(1) 当事者
ア 被告は,昭和47年1月7日,教育基本法,学校教育法及び私立学校法に従い
私立専修学校を設置することを目的とし,併せて,その収益を学校の経営に充てる
ため教育用品小売り事業等の収益事業等を行うことを目的として設置された学校法
人であり,千代田工科芸術専門学校及び千代田海洋科学ビジネス専門学校を設置し
ている。
イ 原告aは,昭和50年1月16日,被告との間で労働契約を締結し,平成13
年4月以降はデザイン系責任者の地位にあり,デッサン担当教員として教鞭をと
り,漫画担任を兼務していた。
ウ 原告bは,昭和54年11月15日被告との間で労働契約を締結し,平成14
年4月以降は総務課に所属していた。
エ 原告cは,昭和52年6月15日,被告との間で労働契約を締結し,平成11
年4月以降は放送芸術科担当教員として教鞭をとり,担任を兼務していた。
オ 原告dは,昭和45年11月1日,被告の前身である千代田学園との間で労働
契約を締結し(同契約は後に被告に承継された。),平成13年4月以降は専門課
程漫画科を担当して教鞭をとり,同科責任者の地位にあった。
カ 原告eは,昭和55年3月15日,被告との間で労働契約を締結し,平成12
年4月以降はアミューズメント科教員として教鞭をとり,担任を兼務していた。
キ 原告fは,昭和51年4月1日,被告との間で労働契約を締結し,平成12年
7月にデザイン教務学科長に就任し,平成14年4月以降は高等課程の担当を兼務
し,教鞭をとっていた。
ク 原告gは,昭和52年10月1日,被告との間で労働契約を締結し,就職課に
所属していた。
ケ 原告hは,平成4年3月15日,被告との間で労働契約を締結し(当初は嘱託
であったが平成13年4月に専任となる。),平成11年4月にデジタルアニメー
ション科担任に就任し,平成14年4月以降はアニメーション科の担当を兼務し,
教鞭をとっていた。
コ 原告iは,昭和51年3月27日,被告との間で労働契約を締結し,平成13
年4月以降はキャラクターデザイン科の担任として教鞭をとるとともに,千代田工
科芸術専門学校教務部学科長に就任した。
サ 原告jは,昭和52年4月1日,被告との間で労働契約を締結し,平成9年以
降はCGクリエーター科責任者の地位にあり,同科学級担任を兼務していた。
シ 原告kは,平成3年3月15日,被告との間で労働契約を締結し,平成14年
3月15日以降はイラストレーション科担任,デジタルアニメーション科担任を兼
務し,教鞭をとっていた。
ス 原告lは,昭和49年12月1日,被告との間で労働契約を締結し,平成5年
4月以降は漫画科1年生の学級担任及び同科教科を担当して教鞭をとっていた。
セ 原告らは,いずれも千代田学園第一教職員組合(以下,「第一教職組」とい
う。)に加入している。
(2) 被告の就業規則等
ア 被告の就業規則には次のような規定が設けられている(甲3の1・本件に関連
する規定のみ抜粋)。
第37条(賞罰委員会)
1項 表彰及び処罰は,賞罰委員会の推薦または申告によりこれを行う。
2項 賞罰委員会については,別に定める。
第43条(勧告退職,懲戒解雇)
 次の各号の1に該当する行為があった場合は,懲戒解雇とする。ただし,情状酌
量の余地があれば勧告退職にとどめることがある。また改悛の情が明らかに言動に
顕れて再度その行為を行わないと認められた場合は,特に減給にとどめることがあ
る。
(7) 学園の職務上の機密をもらしたとき。
(12) 学園について流言その他学園に不利益をもたらすような宣伝を行ったと
き。
(14) 過失または故意で学園に重大な損害を与えたとき。
イ 被告の賞罰委員会規則には次のような規定が設けられている(甲3の2・本件
に関連する規定のみ抜粋)。
第2条(委員会)
 委員会は,表彰及び処罰すべきものについて,表彰並びに訓戒・譴責以外の処罰
の程度方法等を審議し,理事会に上申する。
第8条(弁明の機会)
 委員会は,訓戒・譴責以外の処罰について議する場合,審議を受ける本人に口頭
または文書による弁明の機会を与えなければならない。
(3) 第一教職組らによる記者会見
 平成14年9月17日,第一教職組は,東京私立学校教職員組合連合及び千代田
学園保護者会結成の呼びかけ人代表らとともに,東京都庁記者クラブにおいて記者
会見を行い(以下,「本件記者会見」という。),その際,報道陣に対して,記者
会見メモ,団体交渉記録,千代田学園の経営状況に関する鑑定意見書,補充鑑定意
見書,新校舎着工についてご承諾のお願い,物件案内書,新聞記事,組合作成のビ
ラ数種を配布した(甲1の1~1の12,4の1~4の8の2,8)。
(4) 被告に対する仮差押え
 平成13年11月29日,原告らのうち,原告hを除く11名は,ほか17名と
ともに,東京地方裁判所に対し,債務者を被告,請求債権を平成13年5月から同
年11月までの未払賃金請求権,仮差押不動産を台東区α1丁目30番8の土地と
する同庁平成13年(ヨ)第21256号不動産仮差押命令申立てを行い,同月3
0日,同命令(以下,「本件仮差押命令」という。)が発令されたが,その後,被
告が仮差押解放金として2132万9350円を供託したため,同年12月21
日,同命令に基づく保全執行は取り消された(甲5の1,乙3,5)。
(5) 懲戒解雇
ア 被告は,平成14年9月26日,原告らを懲戒解雇した(以下,「本件懲戒解
雇」という。)。
イ 被告は,平成15年3月27日,原告らのうち,原告hを除く11名を懲戒解
雇した(以下,「予備的懲戒解雇」という。)。
(6) 賃金支給日
 被告においては,毎月25日に前月15日から当月14日までの賃金を支給する
ものとされている(乙4,弁論の全趣旨)。
2 争点
(1) 本件懲戒解雇の有効性
(2) 予備的懲戒解雇の有効性
(3) 被告が原告らに支払うべき金額
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件懲戒解雇の有効性)について
(被告の主張)
ア 原告らが,本件記者会見時に,第一教職組(当時の組合員は原告ら12名の
み)と共謀の上,報道陣に対して,①団体交渉録,②千代田学園の経営状況に関す
る鑑定意見書,③補充鑑定意見書(もっとも,被告の決算書類とは異なる虚偽の事
実が多々記載されている。)を配布したことは就業規則43条7号に該当し,ま
た,④記者会見メモ,⑤日商岩井不動産株式会社が被告に無断で作成した物件案内
書を配布して,被告が1号館(台東区α1丁目30番8,同28番3,5,6の土
地及びこれらの土地上の建物)を売却するつもりであり,そのため法令違反により
法人解散命令を受ける可能性があるという虚偽の説明をしたことは,同条12号に
該当する。
 したがって,本件懲戒解雇は有効である。
イ 手続違背があるとの主張について
 原告らは,被告が,第一教職組との間の人事取扱協議及び都労委和解協定書に規
定されている通知説明義務を履践せずに本件懲戒解雇をしたと主張するが,同義務
は就業規則第4章に定める人事についてのものであって,同第6章に定められてい
る懲戒解雇は同義務の対象外である。
 また,原告らは,被告が,就業規則37条,賞罰委員会規則8条所定の手続を履
践せずに本件懲戒解雇をしたと主張するが,被告が同手続を履践しなかったのは,
①これらの規則において懲戒解雇を受ける者に弁明の機会を与えることとされてい
るのは,その基礎となる事実の認識に誤りがないようにするためであるところ,上
記アのような本件懲戒解雇の事由については配付資料によって事実が明らかであり
誤認の余地がないから,原告らに弁明の機会を与える必要はないこと,②本件懲戒
解雇は,原告が民事再生手続を申し立てる直前に行われたものであって,被告には
原告らに弁明の機会を与える時間的余裕が全くなかったことによるものであって,
上記各規則違反にはあたらない。
ウ 不当労働行為等について
 本件懲戒解雇が第一教職組排除を目的としたものであること及び被告内のもう一
つの労働組合である全国一般千代田学園労働組合(以下,「全国一般労組」とい
う。)との関係で組合間差別にあたることについては否認する。
(原告らの主張)
 本件懲戒解雇は,以下の理由から無効である。
ア 手続違背
 被告と第一教職組との間の人事取扱協議及び都労委和解協定書によれば,被告が
組合員を懲戒解雇処分に付する場合には,事前に第一教職組に対して通知・説明を
し,意見の交換,質疑応答等を行い,第一教職組の意見を十分聴いて協議しなけれ
ばならないとされているところ,被告は,本件懲戒解雇にあたって同手続を履践し
なかった上,就業規則37条,賞罰委員会規則8条所定の手続も履践しなかった。
イ 就業規則上の懲戒解雇事由の不存在
(ア) 就業規則43条7号違反について
 上記被告の主張ア記載の①の資料は被告と第一教職組との団体交渉記録であり,
その主な内容は,学園の運営・財政状況に関するやり取りや,被告理事の乱脈経理
による財政の破綻について理事の説明を求めるものであるから,学校法人会計の透
明性の要請に鑑みれば,その内容が公開されることはいっこうに差し支えないとい
うべきであるし,同②及び③の各資料は,第一教職組が被告から直接に交付を受け
た財務諸資料により同組合が自ら作成したものであり,かつ,学校法人会計の透明
性確保のため本来公開が要請されている財務関係書類に基づいて作成されたもので
あるから,いずれの資料も就業規則43条7号にいう被告の「職務上の機密」には
該当しない。
 仮に同条号に該当するとしても,学校法人の会計に関する事項は機密として保護
する必要性が低いものであるから,これを漏洩しても懲戒解雇に相当するほどの違
法性はない。
(イ) 就業規則43条12号違反について
 被告が1号館を売却することは,当時市場に出回っていた上記被告の主張ア記載
の⑤の資料により判明していたことであるし,実際,平成14年9月18日に1号
館は売却されている。そして,学校法人が基本財産を所有することはその設立の条
件とされており(私立学校法25条),被告が唯一の基本財産である1号館を失え
ば,認可取消の可能性があることは当然であり,解散命令(同法62条)を受ける
ことがあり得ることは明白であるから,この点についての本件記者会見時の説明は
就業規則43条12号にいう「流言」には該当しない。
ウ 不当労働行為(労働組合法7条1号,3号違反)
 被告は,本件懲戒解雇以前にも,リストラと称する解雇の際等に全国一般労組の
組合員よりも第一教職組の組合員を冷遇してきたし,平成14年9月17日に被告
が報道機関各社に対して民事再生の方針を伝えるファックスを送付した際に,「今
後の学園の再建は全国一般労組と協力してやっていきたい。」旨のコメントを付す
るなど第一教職組の排除を企図してきたものであり,本件懲戒解雇もその一環とし
てなされたものであるから,労働組合法7条1号,3号に違反し,無効である。
エ 組合間差別
 上記ウのとおり,本件懲戒解雇は,第一教職組と全国一般労組との差別的取扱に
基づいて行われたものであるから民法90条に違反し無効である。
(2) 争点(2)(予備的懲戒解雇の有効性)について
(被告の主張)
 原告らのうち,原告hを除く11名は,平成13年11月29日,ほか17名と
共謀の上,真実は請求債権について被告との間で支払猶予の合意があったにもかか
わらず,これをことさらに秘匿し,既にその弁済期が徒過したかのように装った
上,保全の必要性についても,当時進行中であった被告と株式会社ゴールドクレス
ト(以下,「ゴールドクレスト」という。)との間の土地交換交渉(以下,「本件
土地交換交渉」という。)につき「現状では何ら具体性のない計画であり,単なる
資産の切り売りに終わる危険性は強い。」と虚偽の主張をして本件仮差押命令申立
てを行った。
 これにより本件仮差押命令が発令された結果,被告は,①本件土地交換交渉の決
裂により高金利の貸金業者から借入れをして資金繰りをしなければならなくなった
ことによる借入費用8595万円,②仮差押解放金2132万9350円という重
大な損害を被ったものであって,上記原告らの行為は就業規則43条14号に該当
する。
 また,上記原告らは,被告からの本件仮差押命令申立ての取下勧告に応じなかっ
た上,被告が弁明の機会を与えた際には,当時の被告経営者に責任を転嫁して自ら
の行為を正当化するような供述に終始するなど改悛の情が認められなかった。
 したがって,予備的懲戒解雇は有効である。
(原告らの主張)
 本件仮差押命令申立ての請求債権について被告との間で支払猶予の合意はなかっ
た。
 また,被告は,本件仮差押命令申立てによって被告に損害が発生した旨主張する
が,①本件土地交換交渉は,本件仮差押命令当時はまだ具体化していなかったし,
その後,被告がした土地交換の申入れに対してはゴールドクレストが事業性なしと
判断してこれを断ったのであるから,本件仮差押命令申立てと本件土地交換交渉の
決裂との間に因果関係はないこと,②本件仮差押解放金の供託については,保全異
議の申立てという他に採り得る手段があるのに敢えて上記供託を選択した被告が自
ら招いた結果であることから,本件仮差押命令申立てによる損害は発生していな
い。
 仮に被告に損害が生じたとしても,本件仮差押命令申立ては原告らの正当な権利
行使であるから違法性はない。
 したがって,就業規則43条14号所定の懲戒解雇事由にあたる事実がないか
ら,予備的懲戒解雇は無効である。
(3) 争点(3)(被告が原告らに支払うべき金額)について
(原告らの主張)
ア 本件懲戒解雇時における原告らの賃金月額は以下のとおりであり(括弧内の金
額は平成14年9月27日から平成15年3月14日までの169日間に相当する
未払分を合計したものである。),被告の主張する賃金減額の合意は存しない。
原告a 54万1760円(301万0107円)
原告b 45万6170円(253万4555円)
原告c 35万0161円(194万5552円)
原告d 52万2670円(290万4040円)
原告e 40万7260円(226万2803円)
原告f 44万9836円(249万9362円)
原告g 42万2750円(234万8868円)
原告h 28万6630円(159万2563円)
原告i 47万5620円(264万2622円)
原告j 61万5833円(342万1669円)
原告k 41万0350円(227万9972円)
原告l 51万9200円(288万4760円)
イ 未だ履行期の到来していない賃金債権については,これまで賃金が支払われて
こなかった経緯,懲戒解雇を撤回しない被告の態度,被告が現在民事再生手続中で
あること等から,将来において,被告が原告らに対して任意に履行しないことが確
実といえるので,これについても給付判決を求める訴えの利益がある。
(被告の主張)
ア 被告と第一教職組との間で行われた平成13年度末の人員削減交渉において,
第一教職組は,教職員を削減する旨の被告の提案に対し,人員削減には同意できな
いが,その代わり賃金カットについては1人当たり年収300万円程度まで応じる
旨回答した。被告は,この事前の承諾を受けて,平成14年7月18日,第一教職
組に対し,原告らのうち,原告hを除く11名の基本給を以下の括弧内の基本給額
まで減額するとの提案をし,その旨の合意が成立した。
 したがって,本件懲戒解雇時における上記原告らの賃金月額は以下のとおりであ
る(原告hの賃金額については原告の主張を認める。)。
原告a 32万6594円
     (基本給30万8334円,通勤手当1万8260円)
原告b 31万7120円
     (基本給29万円,通勤手当2万7120円)
原告c 32万1330円
     (基本給30万5000円,通勤手当1万6330円)
原告d 33万2804円
     (基本給30万8334円,通勤手当2万4470円)
原告e 32万9330円
     (基本給30万円,通勤手当2万9330円)
原告f 30万4267円
     (基本給29万1667円,通勤手当1万2600円)
原告g 33万2784円
     (基本給30万8334円,通勤手当2万4450円)
原告i 31万7320円
     (基本給30万5000円,通勤手当1万2320円)
原告j 33万1230円
     (基本給30万5000円,通勤手当2万6230円)
原告k 30万7417円
     (基本給29万1667円,通勤手当1万5750円)
原告l 34万6000円
     (基本給30万円,通勤手当4万6000円)
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
 前記第2の1(2)によれば,被告における従業員の処罰は,賞罰委員会の推薦
または申告により行われるものとされ,同委員会は処罰すべき者について訓戒・譴
責以外の処罰の程度方法等を審議して理事会に上申するが,この場合には審議を受
ける本人に口頭または文書による弁明の機会を与えなければならないとされている
ところ(就業規則37条,賞罰委員会規則2条,8条),本件懲戒解雇が賞罰委員
会の推薦または申告により行われたことを認めるに足りる証拠はなく,また,被告
は原告らに弁明の機会を与えていないから,本件懲戒解雇は上記手続規定に違反す
るものである。
 これに対し,被告は,賞罰委員会規則8条が本人に弁明の機会を与えなければな
らないと規定している趣旨は,懲戒解雇の基礎となる事実の認識に誤りがないよう
にするためであり,本件の場合は第一教職組が本件記者会見を行ったことが配付資
料により明らかであって誤認の余地がないから,原告らに弁明の機会を与える必要
はない旨主張する。
 しかし,懲戒解雇が懲戒処分の極刑であり,通常は何らの対価もなく労働者に雇
用契約上の地位を失わせるものである上,再就職の重大な障害ともなり得ることを
考慮すると,懲戒解雇の適否について公正な審議を行うためには,第一教職組が本
件記者会見を行ったことのみならず,これに対する個々の原告らの関与の有無,程
度,懲戒事由該当性についての認識等についても,原告らに弁明の機会を与えて明
らかにする必要があるというべきであるから,被告の上記主張は採用しない。
 このほか,被告は,当時被告が民事再生手続の申立てを控えていたため原告らに
弁明の機会を与える時間的余裕がなかったとも主張するが,被告の民事再生手続申
立ては本件懲戒解雇とは何ら関係のない別個の事柄であり,原告らに弁明の機会を
与えなくてもよい理由とはならない。
 以上のとおり,本件懲戒解雇には就業規則及び賞罰委員会規則を無視した重大な
手続違反があるから,その余について判断するまでもなく,本件懲戒解雇は無効で
ある。
2 争点(2)について
 被告は,原告らのうち,原告hを除く11名が,ほか17名の従業員とともに,
本件仮差押命令申立てをしたことによって,①本件土地交換交渉が決裂し,被告が
高金利の貸金業者からの資金借入を余儀なくされて高額の借入費用を支出したこ
と,②仮差押解放金を供託したことが就業規則43条14号にいう「重大な損害」
に該当する旨主張するので検討する。
(1) 上記①について
 証拠(甲12,19,乙9,10)及び弁論の全趣旨によれば,平成13年6月
8日,被告とゴールドクレストとの間で,将来的に1号館やその付近の土地が売却
される場合には,被告が他の買受け希望者に優先してゴールドクレストと協議をす
ること等について覚書が交わされたこと,同年12月ころ,被告が,ゴールドクレ
ストに対し,上記土地について売却ではなく土地交換を行いたい旨提案し,交換の
対象となる土地について両者で協議したが意見が折り合わなかったこと,このため
本件土地交換交渉は遅くとも平成14年3月ころまでに決裂したことが認められ
る。
 したがって,本件仮差押命令申立てと本件土地交換交渉の決裂との間には相当因
果関係がないから,仮に被告が資金繰りのために高金利の貸金業者から資金借入れ
を行い,そのために支出した費用があるとしても,これを本件仮差押命令申立てに
よる損害ということはできない。
(2) 上記②について
 被告は,本件仮差押命令による執行を免れるため,比較的低額の費用をもって保
全異議の申立てをするなどの手段を採ることもできたのに,後に取り戻す余地があ
るとはいえ,敢えて高額な仮差押解放金を供託して執行取消しを求めるという手段
を選択したものである。
 もっとも,保全異議の審理にはある程度の期間を要するので,特に急を要するよ
うな事情がある場合には,供託の事実さえ明らかにすれば速やかに執行が取り消さ
れる仮差押解放金の供託を選択するのが妥当であるが,本件ではそのような事情が
あったことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって,本件仮差押命令申立てと被告が仮差押解放金を支出したこととの間
には相当因果関係がないというべきである。
(3) 以上のとおり,本件仮差押命令申立てによって被告が就業規則43条14
号にいう「重大な損害」を被ったとは認められず,懲戒解雇事由が存しないから,
予備的懲戒解雇は無効である。
3 争点(3)について
(1) 証拠(甲10の1~10の12)によれば,本件懲戒解雇時における通勤
手当を除いた原告らの賃金月額は以下のとおりであることが認められる(括弧内の
金額は平成14年9月27日から平成15年3月14日までの169日間に相当す
る未払分を合計したものである。)。
 被告は,原告らのうち,原告hを除く11名については,平成13年度末の人員
削減交渉の際に第一教職組がした賃金減額についての事前承諾を受けて,被告が平
成14年7月18日に第一教職組に対して具体的金額を示して賃金減額の申入れを
し,これによって賃金減額の合意が成立したと主張するが,本件全証拠及び弁論の
全趣旨によってもこれを認めるには足りない。
 なお,通勤手当は,就労のために要した実費を補償する趣旨で支給されるもので
あるから,現実に就労しなかった解雇期間中は支給の前提を欠く。
原告a 52万3500円(290万8652円)
原告b 43万7900円(243万3044円)
原告c 33万6381円(186万8988円)
原告d 49万8200円(276万8081円)
原告e 38万2400円(212万4677円)
原告f 43万7236円(242万9355円)
原告g 40万4300円(224万6357円)
原告h 27万5300円(152万9612円)
原告i 46万3300円(257万4170円)
原告j 58万9603円(327万5931円)
原告k 39万4600円(219万2462円)
原告l 47万3200円(262万9176円)
(2) 口頭弁論終結日の翌日から本判決確定までの間に弁済期が到来する賃金に
ついては,被告が本件懲戒解雇以前から賃金未払を続けていた経緯や本件訴訟にお
ける被告の応訴態度等を勘案すると,予めその請求をする必要があると認められ
る。
(3) したがって,被告は,原告らに対し,①本件懲戒解雇の翌日である平成1
4年9月27日から平成15年3月14日までの期間(169日間)に相当する上
記(1)の括弧内の未払賃金及びこれに対する同月26日から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による金員,②同年4月25日から本判決確定に至るまで毎月2
5日限り上記(1)の月額賃金を支払わなければならない。
4 以上のとおり,原告の請求は主文第1項及び第2項の限度で理由があるから認
容し,その余は棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第19部
裁判官 木野綾子

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