弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一 原判決中被告人A、同B、同Cに関する部分を破棄する。
     二 被告人Aを懲役一五年に、被告人Bを懲役一二年に、被告人Cを懲
役三年六月にそれぞれ処する。
     三 右被告人三名に対し、原審における未決勾留日数中各二四〇日を、
それぞれその刑に算入する。
     四 押収してある手錠一個(東京高裁昭和四九年押第六八六号の一
六)、木刀様こん棒一本(同号の一〇)、折れた木刀一本(同号の一一)を被告人
A、同Bから、同回転式けん銃一丁(同号の二五)、けん銃実包三発(同号の二
六)、ケース入り改造けん銃五丁(同号の三四ないし三八)、空気銃一丁(同号の
二七)、小銃用実包一二発(同号の三一)、改造けん銃用の実包七発(同号の三
二)、あい口一振(同号の三九)、短刀一振(同号の四〇)、覚せい剤粉末一包
(同号の四二)を被告人Aから、それぞれ没収する。
     五 被告人Dの控訴を棄却する。
     六 同被告人に対し、当審における未決勾留日数中三〇〇日を原判決の
刑に算入する。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、被告人A、同Dの弁護人名波倉四郎、同荒山国雄(連
名)、被告人Bの弁護人杉田雅彦及び被告人Cの弁護人小林健治が提出した各控訴
趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、検察官作成の答弁要旨と
題する書面に記載されたとおりであるから、これらを引用する。
 一 被告人Aの弁護人の控訴趣意第一点の二、被告人Bの弁護人の控訴趣意第一
及び被告人Cの弁護人の控訴趣意第一点について。
 各所論は、原判示第一の(一)の事実につき、原判決は被告人AがEから落し前
名下に金員を強取しようと考え、被告人B、同CらにEにけじめをつけさせるよう
命じたことにより、被告人らの間で強盗の共謀が成立した旨認定しているが、被告
人らにはEから金員を強取しようという意思はなかつたのであるから、原判決は事
実を誤認したものであるというのである。
 しかし、原判決挙示の関係各証拠を総合すれば、所論の点を含めて原判示の事実
を認めることができる。すなわち、右証拠によつて認められるように、被告人B、
同CらがEに対し原判示の行為に及んだのは、右Eが覚せい剤の売買についてトラ
ブルを生じさせたことから、債権の取立てや覚せい剤の売買を渡世とする暴力団F
会の会長である被告人Aから同人にけじめをつけさせるよう命ぜられたためである
が、右のけじめをつけさせるという意味については、被告人らはその検察官に対す
る各供述調書において、場合によつてはEに暴行・脅迫を加えて同人から金員を取
ることである旨述べているのである。そして、現に被告人B、同CらがEを原判示
のハイツGに連れ込み、同人に対し原判示のような暴行・脅迫を加えてその反抗を
抑圧し、同人から四六万円を強取している事実を考え併せると、被告人Aが被告人
B、同CらにEにけじめをつけさせるよう命じ、被告人Bらがこれを受けた時点に
おいて、被告人らの間で原判示のとおり、場合によつてはEから金員を強取しょう
との共謀が成立したものと認めざるを得ない。
 被告人Cについて所論は、原判決が原審相被告人Hに対しては強盗の共謀を認め
ず、同人と同じ立場にあつた被告人Cに対してこれを認めたのは背理であるという
けれども、前記のEは被告人Cの紹介によつて被告人Aから覚せい剤をわけてもら
うようになつたもので、その際被告人CはAに対し、Eが不始末をすれば自分が責
任をもつと約束していた関係上、Eにけじめをつけさせることは是非とも必要なこ
とであつたのである。そうであるからこそ、被告人CはハイツGにおいて、Eに対
し、「このけじめをどうつけるか。落し前の二、三〇万円では話にならない。」な
どと言つて金員を要求し、同人をして五〇万円を出すことを承諾させるなど本件に
おいて重要な役割を果しているのである。このように被告人CはHとは立場が異な
つているのであるから、同被告人に対し強盗の共謀を認めたからといつて、所論の
ように背理とはいえない。
 また所論は、被告人AがEから取得した四六万円のうち、同人が監禁を解かれた
後である一二月二八日の二〇万円と一月八日の八万円は被告人らの暴行・脅迫と因
果関係がないから強盗罪は成立しないという。なるほどEは一二月二五日夜監禁を
解かれ帰宅を許されているけれども、Eの原審公判廷における証言によれば、同人
が右両日金員を提供した経緯は、暴力組織F会の構成員である被告人らのハイツG
における原判示の強烈な暴行・脅迫により、反抗を抑圧され畏怖状態が継続してい
る事情の下に原判示の金員が順次提供されたものであることが明らかであるから、
右金員についても強盗罪が成立するというべきである。
 次に所論は、被告人Cは被告人BらがEに手錠をかけるのに反対したものであつ
て、監禁罪の共同正犯とは認められないという。確かに、被告人Cは被告人Bらに
対し手錠をかけないでくれといつたことは認められるが、他方、被告人らの検察官
に対する供述調書を総合すると、被告人BらがEに手錠をかけ同人を監禁すること
になつたのは、被告人Aから電話でその旨命ぜられたことによるもので、被告人C
としても被告人Aにきてもらいその指示を受けなければならない立場にあつたこと
から、被告人Aの命令に従つてEを監禁すること自体には異論はなく、ただその方
法として手錠をかけることに反対であつたに過ぎなかつたものと認められる。従つ
て、被告人Cにおいても監禁罪の共同正犯としての責任は免れない。
 その他、所論にかんがみ記録を精査し、当審における事実の取調の結果を併せ検
討してみても、原判決には所論のような事実の誤認は存しないから、論旨は理由が
ない。
 二 被告人A、同Dの弁護人の控訴趣意第一点の一、三及び第二点について。
 各所論は、原判示第三の事実につき、被告人A、同DにはIから金員を強取しよ
うという意思はなかつたのに、原判決が被告人両名に対し強盗致死罪の成立を認め
たのは事実を誤認し、その結果法令の適用を誤つたものであるというのである。
 しかし、被告人Aは、Jから同人がIから受け取るべき給料の取立を依頼され、
配下の原審相被告人Kに対し、「取り立ててやれ。話が判らない様だつたら少し位
しめてもいい。」と命じ、Kがこれを承知し、さらに被告人Bらもこれに加功する
ことになつた際、右被告人らが、いずれも、Iの態度いかんによつては同人に暴
行・脅迫を加えて同人から金員を強取することもやむを得ないと考えていたこと
は、これらの点について述べている被告人らの検察官に対する各供述調書及び被告
人B、及び右KらがIに対してとつた行動に照らして明らかである。所論は、被告
人Aの前記の命令は謀議の内容としては具体性を欠くというけれども、被告人B及
び右KらはいずれもF会の構成員として被告人Aの命令と厳しい統制の下に日頃行
動を共にしていたものであるから、被告人B及び右Kにおいて被告人Aの意図を十
分に理解しえたものと認められる。従つて、被告人Aの命令にもとずいて、原判示
のとおり被告人らの間で強盗の共謀が成立したとしても不合理ではない。
 被告人Dについては、なるほど、同被告人は原審及び当審において、Iに暴行を
したのは皆がしているので自分も加わつたに過ぎず、被告人BらがIから金員を強
取しようとしていることは知らなかつたと供述している。しかしながら、L及びM
の検察官に対する各供述調書によれば、被告人Dは被告人BらがIに対し金の支払
を求めて暴行を加えているのを、ふすまを開けたままの隣の部屋で見ていたのであ
るから、被告人Bらの意図を察していたことは明らかであり、検察官に対する供述
調書ではその旨供述しているのである。そして、被告人Dは事情を知りながら被告
人Bらに加担し、Iに対し原判示の暴行を加えたのであるから、被告人Dにおいて
も強盗致死罪の共同正犯としての責任は免れない。
 以上のとおりで、原判決には事実の誤認及び法令適用の誤りはないから、論旨は
理由がない。
 三 原判決の被告人A、同Bに対する法令の適用について。
 <要旨>職権をもつて案ずるに、刑法四六条二項にいう「其一罪ニ付キ無期ノ懲役
又ハ禁錮ニ処ス可キトキ」というのは、法定刑に選択刑があるときは選択を
加えたうえ、法律上の減軽事由があるときはそれに法律上の減軽を施したものが無
期刑である場合を指すと解すべきところ、原判決は、被告人Aの所為につき法令を
適用するにあたり、原判示第三の強盗致死罪につき所定刑中無期懲役刑を選択した
(本件では法律上の減軽を施す事由は存しない。)のであるから、これと併合罪の
関係に立つ原判示その余の罪(いずれも所定刑中懲役刑が選択されている。)は、
同条項にいう「他ノ刑」に当たり、これを科すべきではないのに、原判決が、同条
項は、宣告刑が無期刑になるべき場合を規定した趣旨であつて本件はこれに当たら
ないとしたのは、法令の解釈適用を誤つている。更に、原判決は、同法七二条の加
減の順序に関し、同条は、同時に加重減軽すべき事由があるときの順序を定めたも
のであるところ、本件はこの場合に当たらない(本件は正にこの場合にほかならな
い)との独自の解釈に立つて、前記強盗致死罪を含む各罪について酌量減軽をした
後併合罪の加重を施すという誤りを犯した結果、同被告人に対し懲役二〇年という
宣告刑を導き出している。しかしながら、そもそも酌量減軽は、宣告刑を決定する
にあたり犯情に照らしてなお重きに失すべき法定刑ないし処断刑の範囲を裁判上緩
和するための手段であるから、法律に定めるすべての加減を終えた最終段階で行な
われるべきものであつで酌量減軽をした後併合罪の加重を施した原判決は同法七二
条の明文に反しその趣旨を没却するものである(昭和四〇年一一月二日最高裁判所
第三小法廷判決・刑集一九巻八号七九七頁及び改正刑法草案五二条各参照)。そし
て、もし前記強盗致死罪につき所定刑中無期懲役刑を選択したうえ酌量減軽をする
ならばその処断刑は懲役七年以上一五年以下であるのに、原判決は懲役二〇年の宣
告刑を導き出しているのであるから、右法令適用の誤りは判決に影響を及ぼすこと
が明らかだといわねばならない(なお、この点についても前記草案五〇条二号は、
無期の懲役又は禁固を軽減するときは、七年以上二十年以下の懲役又は禁固とす
る、と定めている。)。原判決は被告人Bについても右と同様の誤りを犯した結
果、その影響の下に共犯者間の地位や行為の態様等を考量のうえ懲役一五年の宣告
刑を導き出したものと考えざるを得ないから、右法令適用の誤りはやはり判決に影
響を及ぼすことが明らかであるというべきである。以上の次第で原判決中被告人
A、同Bに関する部分は、その余の論旨に対して判断をするまでもなくこの点にお
いて破棄を免かれない。
 よつて、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決中同被告人らに関する部分
を破棄したうえ、同法四〇〇条但書に従い、被告事件につき、つぎのとおり判決を
する。
 原判決が確定した事実に法令を適用すると、被告人A、同Bの原判示第一の
(一)の所為中、監禁の点は刑法六〇条、二二〇条一項に、強盗致傷の点は同法六
〇条、二四〇条前段に、原判示第三の所為は同法六〇条、二四〇条後段に、被告人
Bの原判示第二の所為は被害者ごとに刑法六〇条、二〇四条、罰金等臨時措置法三
条一項一号に、被告人Aの原判示第四の(1)及び(5)の所為はいずれも銃砲刀
剣類所持等取締法三一条の三第一号、三条一項、火薬類取締法五九条二号、二一条
に、同(2)及び(3)の所為はいずれも昭和四八年法律第一一四号による改正前
の覚せい剤取締法四一条一項四号、一七条三項に、同(4)の所為は同法四一条一
項二号、一四条一項にそれぞれ該当するところ、被告人Aの原判示第四の(1)及
び(5)の銃砲刀剣類所持等取締法違反罪と火薬類取締法違反罪はいずれも一個の
行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により重
い銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪で処断することとして所定刑中懲役刑を選択
し、原判示第四の(2)ないし(4)の覚せい剤取締法違反罪につき所定刑中懲役
刑を選択し、被告人A、同Bの原判示第一の(一)の強盗致傷罪につき所定刑中有
期懲役刑を、原判示第三の強盗致死罪につき所定刑中無期懲役刑をそれぞれ選択
し、被告人Bの原判示第二の各傷害罪につきいずれも所定刑中懲役刑を選択する
が、被告人A、同Bの以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪なので、同法四六条二
項本文の規定に従い無期懲役刑で処断することとして他の懲役刑を科さず、なお犯
情を考慮して同法六六条、七一条、六八条二号により酌量減軽をする。ここで情状
について考えるのに、本件各犯行の罪質・態様及び被害の重大性ことに原判示第三
のIに対する暴行は執拗かつ残虐であつて、その結果同人を死亡させるに至らしめ
たことに徴し、本件の犯情は悪質であるといわなければならない。そして、被告人
AはF会の会長で原判示第一及び第三の各犯行を命じたものであり、被告人Bは原
審相被告人Kとともに右の各犯行において積極的な役割を果たしたものであつて、
被告人両名の刑責は重大である。よつて、所定刑期の範囲内で被告人Aを懲役一五
年に、被告人Bを懲役一二年にそれぞれ処し、原審における未決勾留日数をそれぞ
れの刑に算入することにつき刑法二一条を、没収することにつき原判決摘示の法令
を、原審における訴訟費用を負担させないことにつき刑訴法一八一条一項但書をそ
れぞれ適用して、主文のとおり判決をする。
 四 被告人Dの弁護人の控訴趣意第三点の二及び被告人Cの弁護人の控訴趣意第
二点について。
 所論は、被告人両名に対する原判決の量刑は重きに過ぎ不当であるというのであ
る。
 被告人Dについては、前記のとおり強盗致死罪が成立し、原判決の懲役七年の刑
を減軽する余地はないから、論旨は理由がない。
 被告人Cについて、原審記録を精査し、当審における事実の取調べの結果を併せ
て考察するに、本件事案の性質・態様にかんがみると、被告人の刑責は軽視でき
ず、原判決の懲役四年の量刑も首肯できないわけではない。しかしながら、被害者
Eに対する暴行はほとんど原審相被告人K及び被告人Bによるもので、被告人Cは
同人を足で一回蹴つたに過ぎないこと、被告人は右Eとの間で示談を整えているこ
と、これまで道路交通法違反罪で三回罰金刑に処せられただけで他に前科・前歴は
ないこと、その他被告人の反省の態度、年齢、境遇等所論指摘の被告人に有利な事
情を斟酌すると、原判決の刑はやや重きに過ぎ、これを軽減する余地があると判断
される。それゆえ、論旨は右の限度で理由がある。
 よつて、被告人Dの本件控訴は理由がないから、刑訴法三九六条によりこれを棄
却することとし、当審における未決勾留日数を算入することにつき刑法二一条を適
用して、主文のとおり判決をする。
 被告人Cの本件控訴は理由があるから、刑訴法三九七条一項、三八一条により原
判決中同被告人に関する部分を破棄することとし、同法四〇〇条但書の規定に従
い、被告事件につき、つぎのとおり判決をする。
 原判決が確定した事実に原判決摘示の法令を適用し、所定刑期の範囲内で被告人
を懲役三年六月に処し、原審における未決勾留日数を刑に算入することにつき刑法
二一条を、原審における訴訟費用を負担させないことにつき刑訴法一八一条一項但
書をそれぞれ適用して、主文のとおり判決をする。
 (裁判長裁判官 寺尾正二 裁判官 丸山喜左エ門 裁判官 田尾健二郎)

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