弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決中,本件の開示請求文書中贈与税に係る記載のうち,公示対象者
の申告者氏名及び納税地の部分以外の部分に関する部分を取り消す。
2前項の取消しに係る部分の訴えを却下する。
3控訴人のその余の控訴を棄却する。
4控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2控訴人の平成18年6月14日付け行政文書開示請求につき,処分行政庁が
同月28日付けでした行政文書不開示決定を取り消す。
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
,(「」1控訴人が行政機関の保有する情報の公開に関する法律以下情報公開法
というに基づき処分行政庁に対し平成18年法律第10号による改正前。),,
の相続税法49条の規定により,平成16年1月1日から同年12月31日ま
での間公示していた相続税に係る申告書の記載についての開示を求めたとこ
ろ,処分行政庁が不開示決定したので,控訴人がその取消しを求めた。
2原判決は,控訴人の請求を棄却したので,控訴人がこれを不服として控訴を
した。
3前提事実及び争点は,次項に当審における主張を付加するほかは,原判決の
「事実及び理由」中の「第2事案の概要等」の1及び2に記載のとおりであ
るから,これを引用する。ただし,原判決3頁の3行目の「本件口頭弁論終結
時」を「原審口頭弁論終結時」に改め,同5行目の次に行を変えて「ウ国税
庁長官は,平成19年8月8日,控訴人の審査請求に対し,本件不開示決定を
変更し,本件行政文書中の贈与税に係る記載のうち,公示対象者の申告者氏名
及び納税地の部分以外の部分を開示するとの裁決をした(乙8」を加える。。)
4被控訴人の当審における主張
控訴人は,本件不開示決定を不服として,平成18年8月22日,国税庁長
官に対し審査請求をし,同長官は,これを受けて,同年10月23日,情報公
開・個人情報保護審査会に諮問したところ,同審査会は,平成19年6月27
日,本件行政文書中の贈与税に係る文書の記載のうち,公示対象者の申告者氏
名及び納税地以外の部分を開示すべきであると答申した。国税庁長官は,同答
申を受けて,同年8月8日,本件不開示決定を変更し,贈与税に係る文書のう
ち,公示対象者の申告者氏名及び納税地の部分以外の部分を開示する旨の裁決
をした。処分行政庁は,同裁決に基づいて,同年9月25日,控訴人に対し,
当該部分を開示した。したがって,本件訴えの当該部分については訴えの利益
が消滅しており,不適法であるから,却下すべきである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,控訴人の請求のうち,本件行政文書中の贈与税に係る記載のう
ち,公示対象者の申告者氏名及び納税地の部分以外の部分に関する請求部分は
不適法であり,その余の部分は理由がないと判断するが,その理由は,次項以
下に説示を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3争点に対す
る判断」の1から4に記載のとおりであるから,これを引用する。
2前記のとおり,国税庁長官は,平成19年8月8日,控訴人の審査請求に対
し,本件不開示決定を変更し,贈与税に係る文書の記載のうち,公示対象者の
申告者氏名及び納税地以外の部分を開示するとの裁決(乙8)をしたから,本
件不開示決定のうち当該部分は効力を失った。したがって,本件訴えのうち,
当該部分に係る訴え部分については取消しの対象を欠き不適法であり,却下を
免れない。
3本件行政文書中の相続税に係る記載の部分開示については,同文書における
申告者氏名,納税地及び納税価格のうち個人識別情報の部分である申告者氏名
と納税地を除いた課税価格の部分だけを開示すると,この部分情報を他の一般
的な情報と併せ照合するとき,近隣住民など一定範囲内の者には被相続人及び
その家族構成などが判明し,同時に,その相続人もまた判明することがあり得
るのであるから,かかる場合には,上記課税価格という部分情報から特定の相
続人が相続取得する相続財産額という他人に知られたくない個人情報が明らか
になるおそれがないとはいえず,本件においても,同様の相続人の権利利益を
害するおそれがないとは認められないから,個人識別情報の部分以外の部分を
開示することができる旨定める情報公開法6条2項の規定を適用すべき場合に
は当たらないと解すべきである。なお,上記行政文書中の贈与税に係る記載の
部分開示については,裁決によって部分開示が認められているので判断をしな
い。
4控訴人は控訴理由において(1)改正後の相続税法には過去に公示された,,,
内容を非開示情報とする旨の規定がなく,処分行政庁の裁量によって本件行政
文書を非開示としたが,情報公開法に関する衆議院内閣委員会及び参議院総務
委員会の附帯決議等からうかがわれる立法趣旨に反した恣意的運用である(2),
平成17年4月1日行政機関個人情報保護法が施行され,平成18年3月31
日前記改正前相続税法49条が規定した公示制度が廃止されたとしても,特別
の法令上の根拠もないままに,それまで開示していた情報を非開示とすること
により保護に値する利益が新たに発生するとはいえない(3)原判決は本件不,,
開示決定が決定時における法令を適用したものであり,未施行の法令を適用し
たのではないから,法律不遡及の原則を定めた憲法39条に違反しないと説示
するが,憲法39条は効力の生じた法律に適用されるもので,未施行の法律に
適用されるものではないから,それに言及する原判決には法律不遡及の原則の
解釈に誤りがある旨主張する。
しかし上記(1)について本件不開示決定は情報公開法5条1号ただし書イ,,
の場合に当たらず,同条本文に該当するとしてされたものであるところ,旧相
続税法の上記規定に基づいて過去に一定期間公示されていた情報であっても,
本件不開示決定の時点において既に公開されておらず,かつ,上記公示制度の
廃止,行政機関個人情報保護法の施行など関係法令に照らして保護されるべき
個人情報については,同号ただし書イの「法令の規定により又は慣行として公
にされ,又は公にすることが予定されている情報」に当たらないとした原判決
の判断は正当として是認することができ,その判断が恣意的であるということ
もできない。
上記(2)について控訴人の主張は過去に法令の規定により公示されていた,,
ことがある情報については,情報公開法5条1号ただし書イに該当する旨を主
張するものであるが,上記のとおり,行政庁による開示の可否の判断時点にお
いて既に公開されておらず,かつ,関係法令に照らして保護されるべき個人情
報は同号ただし書イに規定する情報には当たらないと解すべきである。控訴人
の主張は採用できない。
上記(3)について原判決は本件不開示決定は本件不開示決定時点における,,
法令の規定に従って判断されたものであり,法規を遡求適用したものでないこ
とを説示するものであって,誤りはない。控訴人の主張は独自の見解に基づき
原判決を論難するものであり,採用できない。
5以上の次第で,控訴人の本件請求のうち,贈与税に係る文書の記載のうち,
公示対象者の申告者氏名及び納税地の部分以外の部分に関する請求部分は不適
法であるから,原判決中当該部分を取り消し,取消しに係る部分の訴えを却下
し,その余の部分に関する原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄
却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第4民事部
裁判長裁判官稲田龍樹
裁判官浅香紀久雄
裁判官高野輝久

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