弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決中判示第一の事実、同第二の事実に関する部分を
破棄する。
     公訴事実中右判示第一及び第二の印紙税法違反の各所為につき、被告会
社を免訴する。
     その余の本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人二宮喜治の上告趣意第一点について。
 所論は、第一審判決の判示第四の事実が告発書記載の事実と同一性のないことを
前提として、告発のない事実につき公訴を不法に受理したものとして判例違反を主
張するのであるが、第一審判決の判示第四の事実に照応する公訴事実第四と告発書
記載の事実とを対照すると、前者は請負契約の内容並びに印紙税逋脱の態様につき
後者をより具体的かつ詳細に摘示しているにすぎないもので、その間公訴事実の同
一性が認められるから、これと同趣旨に出でた原判断は正当であり、従つて判例違
反の主張は前提を欠き採ることをえない。
 同第二点について。
 所論は、土地改良区はその公共団体的性格よりして、印紙税法五条一号の「公署」
に該当すると解すべきであり、原判決がこれを同号の公署に当らないと判断したの
は誤りであるというのにあつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(土地改良
区が印紙税法五条一号にいう「公署」に当るか否かを決するには、土地改良区が一
般に法令上どのような法的性格を有するものであるかということよりも、主として、
印紙税法自体を全体的に観察し、とくに同条各号に列挙されているものを比較対照
して同条一号にいう「公署」の意味内容を判定すべきものであるところ、五条には
その一号において「公署」を掲げたにもかかわらず、六号ノ四において公共団体の
観念に含まれる営造物法人たる日本国有鉄道を掲げているほか、他にも一般の法令
用語上は公署に当るべき公けの機関が多数掲げられており、土地改良区も昭和三二
年四月二〇日法律六九号土地改良法の一部を改正する法律の付則八項により印紙税
法五条の五号ノ七ノ二として同条一号の公署とは別個に掲げられたものであること
等を勘案すれば、同条一号の「公署」には、右改正前においても土地改良区のごと
きを含まなかつた趣旨と解するべきである。それゆえ、原判示は正当で、所論の違
法はない。)
 同第三点及び第四点について。
 所論は単なる法令違反及び量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に
当らない。
 職権により調査すると、本件の契約書二通が被告会社と土地改良区との共同作成
にかかり、被告会社が土地改良区から交付を受けて保存するものであることは、記
録上明らかなところである。しかるところ、昭和三二年四月二〇日法律六九号土地
改良法の一部を改正する法律の付則八項により印紙税法五条五号ノ七ノ二として「
土地改良区」が非課税団体として加えられ、同年七月一八日同法が施行され、しか
も、改正前にした行為に対する罰則の適用についてはなお従前の例による旨の規定
は存しないのである。従つて同日以後においては、土地改良区と個人との契約に際
し連署によつて共同作成した証書で個人に交付するものについては、印紙税法五条
五号ノ七ノ二の土地改良区の発する証書として印紙税の納付を要しないものと解す
るを相当とし、何ら犯罪を構成しないこととなつたのである。すなわち右改正によ
り、右の関係において印紙税納付を命ずる規範に変更を生じ逋脱行為の可罰性は失
われたものというべきであるから、第一審判決中判示第一及び第二の印紙税逋脱の
部分は、刑訴三三七条二号にいう「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」に当
るものと解しなければならない(昭和二五年(あ)第二七七八号同三二年一〇月九
日大法廷判決、集一一巻一〇号二四九七頁参照)。従つて原判決及び第一審判決中
判示第一及び第二の印紙税逋脱の部分は刑訴四一一条一号、四一三条但書、四一四
条、四〇四条、三三七条二号によりこれを破棄し、右公訴事実につき被告人を免訴
すべきものである。
 しかしてその余の本件上告は理由がないので同四一四条、三九六条によりこれを
棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
 公判出席検察官 田中万一
  昭和三六年七月一四日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助

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