弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人山田由紀子、同中川明、同大島有紀子、同東澤靖、同錦織明、同村上
典子、同小林幸也、同山下朝陽、同小野晶子の上告理由第一ないし第四について
一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 上告人の母は、平成三年一月四日、長野県厚生農業協同組合連合会D総合病
院において外来患者として初診を受け、その後二回通院した後、同月一八日に入院
して上告人を出産したが、上告人の出生届をしないまま、同月二三日に退院して行
方不明となった。
 2(一) 上告人の母は、「セシリア・E」と名乗っていたが、D総合病院におい
て受診し、同病院に入院した際、旅券、健康保険証等の身分を証する物は、何も所
持しておらず、片言の英語と身振りで意思を伝えていた。
  (二) 上告人の母の入院の際、D総合病院職員がその供述に基づいて作成した
カルテには、名前「セシリアME」、生年月日「一九六五年(昭和四〇年)一一月
二一日」と記載されている。
  (三) 上告人の母が入院した際に提出された入院証書の患者の氏名欄には、「
Cecilee M.E」又は「Cecille M.E」、生年月日欄には「6
5年11月21日」と記載がされていたが、この記載はだれがしたのか不明である。
  (四) 上告人の母に会ったD総合病院の産婦人科婦長や後に上告人の養父とな
ったFは、上告人の母はフィリピン人ではないかとの印象を抱いた。
 3 上告人の出生届は、上告人の出産に関与したD総合病院のG医師によって提
出されたが、右届出に添付された「孤児養子縁組並びに移民譲渡証明書」と題する
書面には、「Ma CEcilia E」が、「A」の唯一の親で、上告人の現在
の養父母と養子縁組をするなどの記載がされており、その署名欄には、「Ma C
Ecilia E」と記載がされているが、この記載は、上告人の母に付き添って
いた友人が代筆したものである。
 4 被上告人による調査の結果、次の事実が明らかになった。
  (一) 旅券を所持する者が本邦に上陸しようとする場合には、その者が、出入
国管理及び難民認定法施行規則五条一項所定の入国記録カード(EDカード)を作
成し、これを旅券と共に入国審査官に提出して、上陸の申請をすることとされてい
るが、入国記録カードには、一九八八年二月二四日に、左記の者が、フィリピン共
和国のマニラを発ち空路大阪から入国した旨の記録があり、その署名欄には「Ce
cillia m E」と署名がされている。この者については、我が国からの出
国の記録はない。
           記
  国  籍   フィリピン
  氏  名   E,CECILIA,M
  性  別   女
  生年月日   一九六〇年一一月二一日
  旅券番号   F五三二九七六
  目  的   観光
  (二) フィリピン共和国に対する旅券発行の有無についての照会結果によれば、
一九八七年一〇月二六日、旅券番号F五三二九七六をもって、申請者CECILI
A MERCADO Eに対して、旅券が発行されていること、同人の生月日(誕
生日)は一一月二一日(生年の記録はない。)で、出生地はTalavera,N
ueva Ecijaと記録されていることが判明した。
  (三) フィリピン共和国Nueva Ecija州Talavera市に提出
されている出生証明書には、フィリピン国籍を有する婚姻した父母の間の子として、
Cecilia Eが、一九六〇年一一月二一日に、Nueva Ecija州T
alavera市において出生した旨の記載がされている(以下、右出生証明書に
係る者を「E本人」という)。
 5 上告人の父を知る手掛かりは何もない。
二 上告人は、日本で生まれ、その父母がともに知れないから、国籍法(以下「法」
という。)二条三号に基づいて日本国籍を取得したと主張して、日本国籍を有する
ことの確認を求めて本訴を提起した。
 これに対し、原審は、前記事実関係の下において、次のとおり判示して、上告人
の請求を棄却すべきものとした。すなわち、(1) 法二条三号の立法趣旨が無国籍
者の発生をできる限り防止しようとすることにあることからすれば、法二条三号の
「父母がともに知れないとき」とは、父母についての手掛かりが全くないわけでは
ないが、その資料が不十分であり、その結果父及び母のいずれについても特定する
ことができない場合を含むものと解するのが相当である。(2) しかし、自己が日
本国籍を有することの確認を求める訴訟においては、自己に日本国籍があると主張
する者が、国籍取得の根拠となる法規に規定された要件に自己が該当する事実を主
張立証しなければならないものであるから、立証責任のある上告人が「父母がとも
に知れない」ことをうかがわせる事情を立証しても、相手方である被上告人におい
て、「父又は母が知れている」ことをうかがわせる事情を立証し、その結果、一応
父又は母と認められる者が存在することがうかがわれるに至ったときは、「父母が
ともに知れない」ことについての証明がないことになるというべきである。(3) 
上告人の出生時の状況からみて、上告人の母がだれであるかは、一応知れないとい
うことができるが、被上告人は、上告人の母とE本人とが同一人であることをうか
がわせる事情を立証しており、E本人と上告人の母は同一人である蓋然性が高いか
ら、上告人の母が知れないことについて証明されたものとはいい難い。
三 しかしながら、原審の右二の(2)及び(3)の判断は是認することができない。
その理由は、次のとおりである。
 1 法は、出生の時に父又は母が日本国民であるとき、又は出生前に死亡した父
が死亡の時に日本国民であったときに、その子は日本国民とすることとしているが
(二条一号、二号)、日本で生まれた子の父母がともに知れないとき、又は国籍を
有しないときも、その子を日本国民とするものとしている(同条三号)。これは、
父母の国籍によって子の国籍の取得を認めるという原則を貫くと、右のような子は
無国籍となってしまうので、できる限り無国籍者の発生を防止するため、日本で生
まれた右のような子に日本国籍の取得を認めたものである。そうすると、法二条三
号にいう「父母がともに知れないとき」とは、父及び母のいずれもが特定されない
ときをいい、ある者が父又は母である可能性が高くても、これを特定するには至ら
ないときも、右の要件に当たるものと解すべきである。なぜなら、ある者が父又は
母である可能性が高いというだけでは、なおその者の国籍を前提として子の国籍を
定めることはできず、その者が特定されて初めて、その者の国籍に基づいて子の国
籍を決定することができるからである。
 2 法二条三号の「父母がともに知れないとき」という要件に当たる事実が存在
することの立証責任は、国籍の取得を主張する者が負うと解するのが相当であるが、
出生時の状況等その者の父母に関する諸般の事情により、社会通念上、父及び母が
だれであるかを特定することができないと判断される状況にあることを立証すれば、
「父母がともに知れない」という要件に当たると一応認定できるものと解すべきで
ある。そして、右1に述べたとおり、ある者が父又は母である可能性は高いが、な
おこれを特定するには至らないときも、法二条三号の要件に当たると解すべきであ
ることからすると、国籍の取得を争う者が、反証によって、ある者がその子の父又
は母である可能性が高いことをうかがわせる事情が存在することを立証しただけで、
その者がその子の父又は母であると特定するには至らない場合には、なお右認定を
覆すことはできないものというべきである。
 3 原審の適法に確定した前記事実関係によれば、上告人の母親は、氏名や誕生
日を述べてはいたが、それが真実であるかどうかを確認することができるような手
掛かりはなく、上告人を出産した数日後に行方不明となったというのであるから、
社会通念上、上告人の母がだれであるかを特定することができないような状況にあ
るものということができる。これに対して、被上告人は、上告人の母とE本人とが
同一人である可能性がある事情を立証している。しかし、上告人の母が述べた生年
とE本人の生年には五年の開きがあること、入院証書及び「孤児養子縁組並びに移
民譲渡証明書」と題する書面に記載された上告人の母の氏名のつづりは、フィリピ
ンにおいて届け出られたE本人の氏名のつづりや、入国記録カードに記載された署
名のつづりと異なっていること、E本人が我が国に入国してから上告人の母の入院
までには約三年が経過しているにもかかわらず、上告人の母は、片言の英語と身振
りのみで意思を伝えていたことなど、上告人の母とE本人との同一性について疑い
を抱かせるような事情が存在することも、原審の適法に確定するところである。原
審も、右の可能性の程度を超えて、E本人が上告人を出産した母であると特定され
るに至ったとまで判断しているわけではない。
 そうすると、被上告人の立証によっては、上告人の母が知れないという認定を覆
すには足りず、日本で生まれ、その父については何の手掛かりもない上告人は、法
二条三号に基づき、父母がともに知れない者として日本国籍を取得したものという
べきである。
四 以上によれば、上告人が日本国籍を取得したことを否定した原審の判断は、法
二条三号の解釈適用を誤ったものというべきであり、右違法は判決に影響を及ぼす
ことが明らかであるから、この点をいう論旨は理由があり、その余の論旨について
判断するまでもなく原判決は破棄を免れない。そして、前示説示によれば、これと
同趣旨の理由の下に上告人の請求を認容した第一審判決は、正当として是認すべき
ものであるから、被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって、原判決を破棄し、被上告人の控訴を棄却することとし、行政事件訴訟法
七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員
一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    中   島   敏 次 郎
            裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    河   合   伸   一

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