弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成29年9月1日判決言渡
平成29年(行ウ)第94号公文書部分公開決定処分取消請求事件
主文
1板橋区長が平成28年10月6日付けで原告に対してした公文書の部分公
開決定を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
1本件は,原告が,東京都板橋区情報公開条例に基づき,板橋区長に対し,板
橋区を被告とする訴訟事件の判決書の正本の公開を請求したところ,同条例6
条1項2号及び6号に該当する非公開情報に係る部分を除いて公開する旨の部
分公開決定を受けたことから,同決定には同条例10条3項,4項及び東京都
板橋区行政手続条例8条に定める理由の提示を欠く違法があるとして,その取
消しを求める事案である。
2関係法令の定め
(1)東京都板橋区情報公開条例(以下「本件情報公開条例」という。甲1)
ア1条
この条例は,区民の知る権利を尊重し,区民の公文書の公開を求める権
利を保障するとともに,公文書の公開手続等に関し必要な事項を定めるこ
とにより,区が区政に関し区民に説明する責務を全うし,区民の区政への
参加を促進し,一層公正で開かれた区政の実現を図り,もって区民と区政
との信頼関係を深め,地方自治の本旨に即した区政を推進することを目的
とする。
イ5条
何人も,この条例の定めるところにより,実施機関に対して公文書の公
開を請求することができる。
ウ6条1項
実施機関は,公開請求があったときは,次の各号のいずれかに該当する
情報が記録されている場合を除き,公開請求者に対し,当該公文書を公開
しなければならない。
(ア)2号
個人に関する情報(括弧内省略)で特定の個人が識別され得るもの。
ただし,次に掲げる情報を除く。
ア法令等の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが
予定されている情報
イ人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必
要であると認められる情報
ウ当該個人が公務員(括弧内省略)である場合において,当該情報が
その職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務
員の職及び当該職務執行の内容に係る部分
(イ)6号
実施機関又は国若しくは他の地方公共団体が行う事務又は事業に関す
る情報であって,公にすることにより,次に掲げるおそれその他当該事
務又は事業の適正な執行に支障を及ぼすおそれがあるもの
ア監査,検査,取締り又は試験に係る事務に関し,正確な事実の把握
を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しく
はその発見を困難にするおそれ
イ契約,交渉又は争訟に係る事務に関し,国又は地方公共団体の財産
上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ウ調査研究に係る事務に関し,その公正かつ能率的な執行を不当に阻
害するおそれ
エ人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及
ぼすおそれ
エ6条2項
実施機関は,公開請求に係る公文書の一部に非公開情報が記録されてい
る場合において,非公開情報とそれ以外の部分とを容易に,かつ,公文
書の公開を求めるものの請求の趣旨を失わない程度に合理的に分離でき
るときは,当該非公開情報に係る以外の部分を公開しなければならない。
オ10条1項
実施機関は,前条の規定により公文書の公開の請求があったときは,
(中略),当該請求に係る公文書の全部又は一部を公開するときはその
旨の,当該請求に係る公文書の全部を公開しないとき,第8条の規定に
より公文書の公開請求を拒否するとき及び公開請求に係る公文書が存在
しないときは公開しない旨の決定(以下「公開決定等」という。)を行
わなければならない。ただし,(以下省略)
カ10条3項
実施機関は,公開決定等を行ったときは,速やかに請求者に対し,書面
により通知しなければならない。
キ10条4項
前項の場合において,公開決定等(全部を公開する決定を除く。)をし
たときは,その理由を併せて通知しなければならない。(以下省略)
(2)東京都板橋区行政手続条例(以下「本件行政手続条例」という。甲6)
ア1条2項
処分,行政指導及び届出に関する手続に関しこの条例に規定する事項に
ついて,他の条例に特別の定めがある場合は,その定めるところによる。
イ2条1項
この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定める
ところによる。
(ア)3号
申請条例等に基づき,行政庁の許可,認可,免許その他の自己に対
し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める
行為であって,当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととさ
れているものをいう。
ウ8条1項
行政庁は,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は,
申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならない。ただし,
(以下省略)
エ8条2項
前項本文に規定する処分を書面でするときは,同項の理由は,書面によ
り示さなければならない。
3前提事実(掲記の証拠等により容易に認定することができる。)
(1)原告は,平成28年9月7日,本件情報公開条例に基づき,同条例上の
実施機関(2条1号)である板橋区長に対し,「東京地方裁判所平成28年
1月26日判決(損害賠償請求事件)に係る判決文」及び「東京高等裁判所
平成28年9月1日判決(損害賠償請求控訴事件)に係る判決文」の公開を
請求した(以下,当該請求を「本件公開請求」という。甲1,2)。
本件公開請求の対象たる各文書(以下「本件請求対象各文書」という。)
は,第三者(以下「別件訴訟原告」という。)を原告とし,板橋区を被告と
する訴訟事件(以下「別件訴訟」という。)における第1審及び控訴審の各
判決書の正本である(甲5の1・2,弁論の全趣旨)。
(2)板橋区長は,本件公開請求について,平成28年10月6日付けで,本
件請求対象各文書の一部を公開する旨の部分公開決定(以下「本件処分」と
いう。)を行い,その頃,原告に対し,同日付け公文書部分公開通知書(以
下「本件通知書」という。)を交付し,その後間もなく,本件請求対象各文
書につき,①事件番号の表示のうち号数字の記載部分,②当事者の表示欄の
うち別件訴訟原告の住所及び氏名の記載部分,③当事者の表示欄のうち板橋
区長の肩書の記載(被告の代表者である旨の記載を除く。)部分,④「主
文」欄のうち却下された訴えの内容の記載部分,⑤「事実及び理由」欄のう
ち各項の標題及び裁判所の判断の結論の記載等を除くほとんどの記載部分を
いずれも墨塗りにした本件請求対象各文書の写しを原告に交付した(甲4,
5の1・2)。
(3)本件通知書には,「公開できない部分及び理由」欄に次のとおりの記載
がされているが,そのほかには本件処分における非公開部分の内容及びその
非公開の理由についての記載はされていない(甲4)。
「(公開できない部分の概要)
住所,氏名,事件番号,処分名,処分内容」
「板橋区情報公開条例第6条第1項2,6号該当
(理由)
個人情報
行政運営情報」
(4)原告は,平成28年10月24日付けで,板橋区長に対し,本件処分に
ついて審査請求をしたが,現在までこれに対する裁決はされていない(甲1
1,乙1,弁論の全趣旨)。
(5)原告は,平成29年3月1日,本件処分の取消しを求めて本件訴えを提
起した(顕著な事実)。
4争点及び当事者の主張
本件の争点は,本件処分が理由提示の要件を満たしているか否かであり,こ
の点に関する当事者の主張は次のとおりである。
(原告の主張)
(1)本件情報公開条例に基づく公開請求に対して実施機関が公文書の全部又
は一部を非公開とする場合,同条例10条3項に基づき,当該決定をした旨
を書面により通知しなければならず,この通知を行う際には,同条4項及び
本件行政手続条例8条に基づき,理由の提示を書面により行うことを要する。
そして,理由の提示は,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意
を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を
与える趣旨のものであるところ,公文書を非公開とする決定について提示す
る理由としては,公開請求者において条例所定の非公開事由のどれに該当す
るのかをその根拠とともに了知し得るものでなければならず,単に非公開の
根拠規定を示すだけでは十分でない(最高裁平成4年12月10日第一小法
廷判決・裁判集民事166号773頁(以下「平成4年最判」という。)参
照)。具体的には,該当条項のみを示した場合はもとより,その記載内容が
条文を引き写した程度にすぎず,実質的に該当条項のみを示した程度である
場合も,理由の提示に不備があり違法である。
(2)これを本件処分について見ると,本件通知書には,「個人情報」及び
「行政運営情報」と記載されているのみであり,これは本件情報公開条例6
条1項2号及び6号の内容をそれぞれ一語で言い換えたものでしかない。そ
して,非公開情報として列挙された「住所,氏名,事件番号,処分名,処分
内容」のうちいずれが同項2号に該当し,いずれが同項6号に該当するのか
明らかではないし,同項6号については,同号アないしエのいずれに該当す
るのか,いずれにも該当しない場合にはどのような情報に該当するのか,公
にすることによりどのようなおそれが生じるのかについて,何一つ述べられ
ていない。
また,本件処分においては,公開された文書のほぼ全部が墨塗りになって
おり,その非公開部分のどの部分が「住所,氏名,事件番号,処分名,処分
内容」のいずれに該当するのかという対応関係も全く判然としない。
(3)そうすると,本件処分における理由の提示は,その態様から処分行政庁
の恣意が抑制されたものとは認められないし,原告の不服申立てを著しく困
難ならしめるものであるから,理由提示の要件を満たさないことが明らかで
ある。したがって,本件処分は,本件情報公開条例10条3項,4項及び本
件行政手続条例8条に反し,違法である。
(4)なお,板橋区長は,原告が別件訴訟の訴訟記録を閲覧したことを処分理
由として主張するが,処分後に同区長が入手した情報に基づき理由の後付け
をしたものであるし,そうでなくても処分時にその理由を提示していないか
ら,理由提示の要件を欠くことに変わりはない。
(被告の主張)
(1)本件情報公開条例10条4項は,書面により理由を通知すべきことを求
めていない。また,本件行政手続条例8条2項は,処分を書面でする場合に
限定して書面による理由の提示を求めているところ,本件情報公開条例10
条3項は公開決定等を行った後にその旨を書面により通知すべきことを求め
ているにすぎず,同公開決定等は処分を書面でする場合に当たらない。この
ように,同条例に基づく公開決定等については,同条例上も本件行政手続条
例上も,書面による理由の提示を求められていない。
原告が依拠する平成4年最判は,条例上,書面に処分理由を記載(付記)
することが求められていた事案に係るものであって,これと事案を異にする
本件はその射程外である。
(2)平成4年最判においても,当該公文書の種類,性質等とあいまって,開
示請求者が非開示事由のどれに該当するのか等を当然に知り得るような場合
には,単に非開示の根拠規定を示すだけでも構わないものとされている。
そして,本件請求対象各文書は判決書であるところ,判決書は,別件訴訟
原告が被告たる板橋区に対して請求した内容,請求原因,訴訟物に関する攻
撃防御方法,証拠等が記載されているという性質を有しており,これらは全
て別件訴訟原告の個人情報に当たるのであり,このような本件請求対象各文
書の種類及び性質からして,公開請求者はそれが本件情報公開条例6条1項
2号本文の「個人に関する情報」に該当することを当然知り得るのである。
しかも,公開請求者たる原告は,本件公開請求をした時点で,既に民事訴訟
法91条1項に基づき別件訴訟の判決書を閲覧し,本件請求対象各文書が誰
を当事者とする判決書であるかについて個人識別情報を有していたから,
「個人に関する情報」たる当該判決書が「特定の個人が識別され得るもの」
(同条例6条1項2号本文)に該当することを当然知り得るのである。
すなわち,本件公開請求をした原告は,本件請求対象各文書が「個人に関
する情報」で「特定の個人が識別され得るもの」であることを元々知ってお
り,その前提で本件通知書上の理由を読めば,本件請求対象各文書が本件情
報公開条例6条1項2号に該当することを当然知り得るのであるから,本件
処分に係る理由の提示は十分である。
(3)板橋区長は,本件公開請求につき,原告が既に別件訴訟の判決書を閲覧
していることが推認されたため,別件訴訟原告のプライバシー保護のため,
本件処分のような部分公開を実施せざるを得なかったのであって,本件処分
が処分行政庁の恣意によるものとはいえない。また,前記(2)のとおり,公
開請求者たる原告は,部分公開とされた理由が個人識別情報にあることを容
易に知り得たのであり,原告にとって,部分公開の理由は明確でその争点も
明確であるから,本件処分に対する不服申立てが困難であったとはいえない。
したがって,理由の提示の趣旨に照らしても,本件処分が理由提示の要件
を欠くとはいえない。
(4)なお,本件通知書上の記載が不十分であると判断される場合に備え,本
件訴訟において,予備的に,「原告は,本件公開請求をした時点で,既に別
件訴訟の判決書を民事訴訟法91条1項に基づき閲覧済みであり,当該判決
書の当事者の住所,氏名等の個人識別情報を知悉していたから,本件請求対
象各文書について,個人識別情報についてのみ墨塗りをするだけでは,別件
訴訟原告のプライバシーを侵害することとなるため」との理由を補充して主
張する。板橋区長は,本件通知書を発送する時点で,原告が別件訴訟の判決
書を閲覧していたことを合理的に推認していたものであり,上記主張は処分
後に入手した情報により理由を後付けするものではない。
第3当裁判所の判断
1(1)本件情報公開条例10条3項は,実施機関が公開決定等を行ったときは,
速やかに請求者に対して書面により通知しなければならない旨を規定し,同
条4項は,前項の場合において,公開請求に係る公文書の全部を公開する決
定ではない公開決定等(以下「非公開決定」という。)をしたときは,その
理由を併せて通知しなければならない旨を規定している。この同条4項の規
定は,行政庁が申請により求められた許認可等を拒否する処分(本件情報公
開条例に基づく公開請求に対してされる非公開決定はこれに当たるものと解
される。)をする場合に,申請者に対し,同時に当該処分の理由を示さなけ
ればならない旨を規定している本件行政手続条例8条1項本文に対する特別
の定め(同条例1条2項)と位置付けられるものである。
一般に,法令が行政処分につき理由を提示すべきものとしている場合に,
どの程度の提示をすべきかは,処分の性質と理由の提示を命じた各法令の趣
旨・目的に照らしてこれを決定すべきであるところ,本件情報公開条例が上
記のように非公開決定をしたときにその理由を併せて通知すべきものとして
いるのは,同条例に基づく公文書の公開請求制度が,区民の公文書の公開を
求める権利を保障することにより,区民と区政との信頼関係を深め,地方自
治の本旨に即した区政を推進することを目的とするものであること(同条例
1条)や,非公開決定が請求者に公文書の公開という利益を付与しない性質
の処分であることに鑑み,非公開の理由の有無について実施機関の判断の慎
重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに,非公開の理由を公開
請求者に知らせることによってその不服申立てに便宜を与える趣旨に出たも
のというべきである。このような理由の提示制度の趣旨に鑑みれば,非公開
決定をしたときに提示すべき理由としては,公開請求者において,同条例6
条1項各号所定の非公開事由のどれに該当するのかをその根拠とともに了知
し得るものでなければならず,単に非公開の根拠規定を示すだけでは,当該
公文書の種類,性質等とあいまって公開請求者がそれらを当然知り得るよう
な場合は別として,同条例10条4項の要求する理由の提示としては十分で
はないといわなければならない(平成4年最判参照)。
(2)ところで,被告は,本件情報公開条例に基づく非公開決定について,同
条例上も本件行政手続条例上も書面による理由の提示を求められていないか
ら,本件は平成4年最判とは事案を異にする旨を主張する。
しかし,本件情報公開条例10条3項は,実施機関が公開決定等を行った
ときは,速やかに請求者に対して書面により通知しなければならない旨を規
定し,同条4項は,前項の場合において,非公開決定をしたときは,その理
由を併せて通知しなければならない旨を規定しているのであり,その文理上,
非公開決定の理由の通知は原則として当該処分を通知する書面によって併せ
て行われることが予定されているものと解するのが自然である。また,本件
行政手続条例8条2項は,申請により求められた許認可等を拒否する処分を
書面でするときはその理由を書面により示さなければならない旨を規定して
いるところ,同項に規定する「処分を書面でするとき」とは,行政手続法8
条2項と同様に,処分を書面で名宛人に通知する場合をいうものと解するの
が相当であり,これと別異に解すべき特段の事情は見当たらない。したがっ
て,本件情報公開条例上及び本件行政手続条例上,非公開決定につき書面に
よる理由の提示が求められていない旨の被告の主張は,それ自体にわかに採
用し難いものといわなければならない。
この点をさて措くとしても,非公開決定の性質及びこれについて理由の提
示を命じた本件情報公開条例の趣旨・目的に照らせば,同条例に基づく非公
開決定をする場合に提示すべき理由の程度については,その提示を書面によ
って行うかどうかに関わらず,前記(1)のとおりに解すべきであって,いず
れにしても,これに反する趣旨の被告の主張は採用することができない。
2(1)本件情報公開条例10条4項は,公開決定等を行ったときは速やかに通
知しなければならない旨を定める同条3項の場合において,非公開決定をし
たときはその理由を併せて通知しなければならないとするものであるから,
非公開決定をしたときは速やかにその通知と併せてその理由を通知すること
を求めているものと解される。
しかるに,本件処分については,前記前提事実(3)のとおり,原告に交付
された本件通知書には非公開の理由が記載されているが,そのほかには,本
件処分の通知と併せて原告に対して非公開の理由が提示されたとは認められ
ない。そこで,本件処分について本件通知書によってされた理由の提示が,
前記1(1)の観点から,本件情報公開条例10条4項の定める理由提示の要
件を満たすものと認められるか否かについて検討する。
(2)前記前提事実(3)のとおり,本件通知書には,公開できない部分の概要と
して,「住所,氏名,事件番号,処分名,処分内容」と記載されているほか,
公開できない理由として,「板橋区情報公開条例第6条第1項2,6号該
当」,「(理由)個人情報,行政運営情報」と記載されている。このうち,
「個人情報」は本件情報公開条例6条1項2号本文の規定を,「行政運営情
報」は同項6号柱書の規定を,それぞれ簡潔に言い換えただけのものである
から,本件通知書は,実質的には,単に非公開の根拠規定が同項2号及び6
号であることを示したにすぎないものというべきである。
そして,本件請求対象各文書の非公開部分は多数の箇所に及んでいるとこ
ろ(前記前提事実(2)),本件通知書上の記載によっては,各非公開部分の
ほとんどの部分について「住所,氏名,事件番号,処分名,処分内容」のい
ずれに該当するのか判然としない上,各非公開部分と公開できない理由との
対応関係が示されていないため,そもそも,公開請求者たる原告において,
各非公開部分につき,その非公開の理由が本件情報公開条例6条1項2号及
び6号のいずれなのか又はその両方なのかを知ることはできない。すなわち,
本件請求対象各文書の非公開部分のうち,事件番号並びに当事者の住所及び
氏名に係る部分(前記前提事実(2)の①,②)については,原告によって特
定された本件請求対象各文書が訴訟事件の判決書であることに照らし,公開
請求者たる原告において,非公開の理由が同項2号所定の個人識別情報に該
当することにあるであろうことは推測し得るものといえるが,非公開の理由
に同項6号に該当することも含まれるのかを知ることはできないし,その余
の部分(同③ないし⑤)については,本件請求対象各文書の種類,性質等に
照らしても,非公開の理由が同項2号及び6号のいずれなのか又はその両方
なのかを知ることはできないものといわざるを得ない。(なお,仮に,本件
通知書上の記載について,本件請求対象各文書の非公開部分の全ての非公開
の理由が同項2号及び6号の両方であることを示す趣旨であると解したとし
ても,次に述べるとおり,少なくとも同項6号については,非公開の根拠規
定が同号であることが示されるだけでは理由の提示として十分ではないから,
結局,理由提示の要件を満たすものとはいえない。)
また,本件情報公開条例6条1項6号は,公開の請求に係る公文書に,
「実施機関又は国若しくは他の地方公共団体が行う事務又は事業に関する情
報であって,公にすることにより,同号アないしエに掲げるおそれその他当
該事務又は事業の適正な執行に支障を及ぼすおそれがあるもの」に該当する
情報が記録されている場合には,これを公開しないことができるとするもの
であるところ,原告によって特定された本件請求対象各文書の種類,性質等
を考慮しても,本件通知書のように非公開の根拠規定が同号であることが示
されるだけでは,いかなる根拠により同号所定の非公開事由のどれに該当す
るとして非公開決定がされたのかを,原告において知ることはできないもの
といわざるを得ない。
そうすると,前記前提事実(3)のとおりの記載があるにすぎない本件通知
書によってされた理由の提示は,本件情報公開条例10条4項の定める理由
提示の要件を満たすものと認めることはできないというほかない。
(3)この点につき,被告は,原告は既に別件訴訟の判決書を閲覧し,その当
事者に係る個人識別情報を有していたから,本件請求対象各文書が本件情報
公開条例6条1項2号本文に規定する「個人に関する情報で特定の個人が識
別され得るもの」に該当することを当然知り得たのであり,本件通知書上の
記載は原告に対する理由の提示として十分である旨主張する。この主張は,
訴訟事件の判決書の公開請求者が当該訴訟事件の当事者の住所,氏名等の情
報を知っている場合には,当該判決書に記載された情報は,それ自体として
は特定の個人を識別し得るものでなくても,同号本文に規定する個人識別情
報に当たり,同号ただし書アないしウ所定の事由にも当たらないため,同号
所定の非公開事由に該当するとの解釈を前提に,原告は,自ら別件訴訟の判
決書を閲覧していた以上,本件請求対象各文書の非公開部分が同号所定の非
公開事由に該当することをその根拠とともに了知し得たことをいう趣旨と解
される。
しかし,本件通知書を見ても,本件処分につき,原告が既に別件訴訟の判
決書を閲覧してその当事者に係る個人識別情報を有していたことを根拠に本
件情報公開条例6条1項2号所定の非公開事由該当性を認めたものであるこ
とを示す記載は何ら存在しない。そして,被告の主張が前提とする上記解釈
は,その当否はさて措き,少なくとも同条例の解釈として当然に導き出され
るものとはいえない(例えば,公開請求者が事件番号や当事者名を知ってい
る場合には,その公開請求者は当該判決書を民事訴訟法91条1項に基づい
て閲覧することが可能であるため,当該判決書は本件情報公開条例6条1項
2号ただし書アに規定する「法令等の規定により公にされている」ものに当
たることとなり,結局,非公開事由には当たらないという解釈も成り立つ余
地がある。)から,被告が主張するように原告が本件公開請求に先立ち別件
訴訟の判決書を閲覧し,別件訴訟原告の住所,氏名等の情報を知っていたと
いう事実があったとしても,本件処分を受けた原告において,上記のような
被告の解釈を前提に自身の閲覧等の事実を根拠に同号所定の非公開事由に該
当すると判断されたことを当然知り得るものとはいえない。
なお,そもそも,本件通知書においては,非公開の根拠規定として本件情
報公開条例6条1項2号のほか同項6号も併記されているのであるから,被
告の主張によっても,前記(2)のとおり,同項6号所定の非公開事由につい
ての理由の提示が十分ではないことに変わりはない。
そうすると,被告の主張を踏まえて検討しても,本件通知書上の記載によ
っては,いかなる根拠により本件情報公開条例6条1項2号及び6号所定の
非公開事由に該当するとして非公開決定がされたのかを,原告において知る
ことはできないものといわざるを得ない。
3被告は,本件通知書上の記載が不十分であると判断される場合に備えて,本
件訴訟において,「原告は,本件公開請求をした時点で,既に別件訴訟の判決
書を民事訴訟法91条1項に基づき閲覧済みであり,当該判決書の当事者の住
所,氏名等の個人識別情報を知悉していたから,本件請求対象各文書について,
個人識別情報についてのみ墨塗りをするだけでは,別件訴訟原告のプライバシ
ーを侵害することとなるため」との理由を補充して主張するとする。
しかし,本件処分の取消訴訟において被告から訴訟上の主張として非公開の
理由の説明がされたとしても,そのような事後的な説明では前述した理由提示
の趣旨・目的に沿わないから,それによって本件処分に係る理由の提示の不備
の瑕疵が治癒されるものということはできない(最高裁昭和47年12月5日
第三小法廷判決・民集26巻10号1795頁,平成4年最判参照)。
4以上によれば,本件処分は,本件情報公開条例10条4項の定める理由提示
の要件を欠いた違法な処分であるというべきであって,その取消しを求める原
告の請求には理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決
する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官古田孝夫
裁判官貝阿彌亮
裁判官志村由貴

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛