弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主     文
被告人を懲役1年6か月に処する。
被告人から200万円を追徴する。
理     由
【有罪と認定した事実】
 被告人は,大阪府泉南郡A町町長として,同町が発注する各種公共事業に関し,事業計画・
予定価格・契約方法の決定,指名競争入札の指名業者の選定,入札執行,落札業者との請負契
約の締結等の事務を統括掌理していたものであるが,
第1 平成13年1月26日,大阪府泉南郡A町〈以下略〉所在のA町役場町長室において,
建築工事等を業とするB株式会社の取締役であったCから,同町が平成14年度にその建築工
事の発注を予定していた「D新築工事」の入札に関し,同工事の入札予定価格を同社が指名競
争入札参加資格を有する6億円未満に設定するとともに,同社を同工事の指名競争入札参加業
者として選定・指名し,さらに本体工事と設備工事とを一括発注するなど,同社に有利かつ便
宜な取り計らいをしてほしい旨の依頼を受けてこれを承諾し,その場で,その謝礼として供与
されるものであることを知りながら,同人から現金100万円の供与を受け,もってその職務
に関し請託を受けて賄賂を収受した。
第2 平成14年2月6日,前記町長室において,前記Cから,前記D新築工事の指名競争入
札参加業者の選定に関し,同人が希望する業者を選定・指名してほしい旨の依頼を受けてこれ
を承諾し,同年6月9日,大阪府泉南郡A町〈以下略〉付近路上に駐車中の普通乗用自動車内
において,その謝礼として供与されるものであることを知りながら,同人から現金100万円
の供与を受け,もってその職務に関し請託を受けて賄賂を収受した。
【有罪認定に供した証拠】(省略)
【法令適用の過程】
(1)「有罪と認定した事実」第1,第2に記載の被告人の各行為は,いずれも平成15年法律
第138号による改正前の刑法197条1項後段に該当する。
 これらの罪は刑法45条前段の併合罪であるから,刑法47条本文,10条により,犯情の
重い第2の罪の刑に法定の加重を行う。
 その結果導き出された刑期の範囲内で,当裁判所は,後記「量刑の理由」により,被告人を
主文の刑に処することとした。
(2) 被告人が前記の各犯行により収受した賄賂は,いずれも既に被告人がその全部を費消し
ていて没収することができないので,刑法197条の5後段により,その価額合計200万円
を被告人から追徴する。
【量刑の理由】
 本件は,A町町長の職にあった被告人が,町が発注するD新築工事の指定競争入札に関し
て,(1) 懇意にしていた建設会社の取締役から,同社が入札業者に指名されるように入札予
定価格を設定するとともに,落札後の利益確保のために工事を一括発注してもらいたい旨の具
体的な依頼を受けてこれを承諾し,その際同人からその謝礼として100万円の賄賂を差し出
されたが,飲食費や競馬・パチンコ等の遊興費欲しさからこれを受け取り(第1の犯
行),(2) その後さらに,同人から,同社が同工事を落札できるよう指名競争入札業者の組
み合わせの面で便宜を図ってもらいたい旨の具体的な依頼を受けてそれを承諾し,同様の動機
からその謝礼として100万円の賄賂を受け取った(第2の犯行)という事案である。
 本件各犯行は,A町の行政のトップにあった被告人が,自らの私腹を肥やすため,同じ業者
から2度にわたり合計200万円もの収賄を行ったというのものであって,公益を第一に考え
るべき公務員倫理からはるかにかけ離れた振る舞いであり,賄賂の額も大きく,その身勝手極
まりない利欲的動機にも全く酌むべきものがない。
 その犯行の具体的態様を見ても,まず第1の犯行において,被告人は,それまでも本件贈賄
業者から再々飲食等の接待や選挙応援等を受けていたことから,業者の身勝手な依頼を即時に
承諾しているばかりか,その謝礼として業者が差し出してきた賄賂をほとんど躊躇なく受け取
っているのであって,公務員に求められる高度の倫理意識が完全に鈍麻していることが窺われ
る。また,第2の犯行においても,被告人は,1回目の収賄に味を占め,「便宜を図ってやっ
たのだから謝礼を受け取るのは当然だ」と言わんばかりに本件贈賄業者に対して更なる賄賂を
要求しているのであり,しかも賄賂授受の現場を誰にも見られないよう休日の朝にわざわざ人
気のない場所まで行って賄賂の授受を行ったりしているのであって,その犯行は一層積極的か
つ悪質なものとなっている。
 そして,D新築工事に関するこの間の推移を見ると,第1の犯行後,当初の建設計画が縮小
されるなどした結果,本件贈賄業者は,その目論見どおり,本件工事を一括して落札するに至
っているのであって,賄賂により町政が歪められたのではないかという強い疑念を抱かざるを
得ない結果となり,公務の公正に対する町民の信頼を失墜させるに至っている。
 昨今公務員の不祥事が相次いだことから,その綱紀粛正を図るべく,平成12年4月1日に
は国家公務員倫理法が施行され,同法43条により地方公共団体においても同法による国等の
施策に準じた形で地方公務員の職務に係る倫理の保持のために必要な施策を講じるよう求めら
れているところ,本件被告人のように,地方公共団体のトップにある者は,その職員に対し一
層の綱紀粛正を指導し徹底させるだけでなく,自らも率先して高度の公務員倫理の保持に努め
なければならないのに,あろうことか,被告人は,自らの私腹を肥やさんがために,同倫理法
施行後1年も経ないうちに第1の犯行に及んだばかりか,その約1年後には更に悪質な第2の
犯行にも及んでいるのである。本件被告人の各犯行は,単に町政に対する町民の信頼を著しく
裏切ったというにとどまらず,公務員全体に対する信頼の回復と綱紀粛正の流れにも大きく水
を差すものであって,その責任は重大であるといわねばならない。
 本件のような地方公共団体の首長の収賄事犯に関しては,往々,首長がその職を辞し,反省
態度を示しさえすれば,その収賄金額いかんでは刑の執行猶予の恩典をを付与するような量刑
傾向もないではなかったが,上述したとおり公務員全体に高度の倫理意識が求められているこ
とに加え,地方分権の理念に基づき地方公共団体に国の権限や財源が委譲される流れにあるこ
とを併せ考えると,地方公共団体の首長の収賄事犯については,当然のことながらこれまで以
上に厳正な対処が求められることになるのであって,前述のようなこれまでの量刑の在り方は
根本から見直す必要があるのではないかと考えられる。
 そこで,以上見たような諸般の事情を総合勘案すると,被告人の刑事責任は重大であるとい
わざるを得ないのであって,他面,被告人は本件各犯行を認めて反省態度を示しており,当然
のこととはいえ町長の職を既に自ら辞していること,被告人には前科がないこと,被告人の妻
や次男が今後の更生への助力を約束していること,など被告人のために酌むべき事情の存する
ことを十分に考慮したとしても,本件においては,被告人に対する刑の執行を猶予するのは相
当ではないというべきであって,当裁判所は,前述したような諸事情を総合考慮し,主文の刑
を量定した次第である(検察官求刑-懲役2年6か月,追徴200万円)。
   平成17年12月14日
  大阪地方裁判所第7刑事部
       裁判長裁判官   杉 田 宗 久
    裁判官   鈴 嶋 晋 一
    裁判官   小 畑 和 彦

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