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裁判例


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       主   文
一 被告が原告に対し昭和四七年一月二七日付でなした戒告処分はこれを取消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
主文と同旨。
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和三五年九月一日臨時補充員として採用され、千葉郵便局郵便課勤
務を命ぜられて以来、郵政事務官として引続き同課に勤務しているものである。
2 被告は、昭和四七年一月二七日付で原告に対し、原告が昭和四六年一一月二五
日、二六日、同年一二月九日の三日間につき上司の承認を欠き職務を怠つたとし
て、国家公務員法(以下国公法という。)第八二条による戒告の懲戒処分(以下本
件懲戒処分という。)をなした。
3 しかしながら、本件懲戒処分は違法であるから、その取消を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1、2の事実は認める。
三 抗弁
1 本件懲戒処分の処分理由
 本件懲戒処分は、昭和四六年一一月二五、二六日、同年一二月九日についての原
告の年次有給休暇(以下年休という。)請求に対して、次に詳述するとおり被告が
適法な時季変更権の行使をしたにもかかわらず、原告が右各日の勤務を欠いたこと
を理由としてなされたものである。
2 本件懲戒処分に至る経緯
(一) 昭和四六年一一月一九日、二五、二六日の年休請求
(1) 原告は、昭和四六年一一月一九日は「日一」(午前七時から午後二時四五
分までの勤務)、同月二五、二六日は「一六勤」(二五日午後五時二〇分から翌二
六日午前八時四〇分までの勤務)の勤務指定を受けていたところ、同月一四日、千
葉郵便局郵便課A主任(以下A主任という)に対し、右三日間についての年休請求
書を提出し、右請求書は、同月一六日午前八時四〇分ころ、A主任から同課の休暇
関係事務を担当している同課課長代理B(以下B課長代理という)に渡された。
(2) B課長代理は、勤務指定表を見て検討したところ、一一月一九日は支障は
ないが、一一月二五、二六日については、すでに後述の欠務許容人員である一八名
の休暇(週休一一名、計画年休五名、結婚特別休暇一名、病気休暇一名)が予定さ
れていて、勤務の差繰りも困難であり、また株式繁忙期(株式会社が決算後の配当
金等を書留郵便物として多く発送することによる繁忙時期)で業務量も増加するた
め、原告の年休を認めることは事業の正常な運営を妨げると判断し、その検討結果
を同日ただちに郵便課課長C(以下C課長という)に報告した。
(3) C課長は、右報告を受けて、一一月九日の年休は付与することとしたが、
一一月二五、二六日の年休請求についてはB課長代理と共に勤務指定表を見なが
ら、勤務差繰りについて個別的に再検討し、また非常勤の雇用についてもその可能
性を検討したが、勤務の差繰りについては、病弱であるとか、一六勤の連続のため
とか、経験不足であるとかの各理由で無理であり、また非常勤の雇用については、
当時学校が休みでなく学生が雇用できず、深夜勤務であるため主婦などのパートタ
イマーの雇用も不可能であつた。
(4) こうした検討の結果、C課長、B課長代理は、一一月二五、二六日につい
ての原告の年休請求を認めることは事業の正常な運営を妨げるものと判断し、B課
長代理は、一一月一六日午前一一時ころ原告を自席に呼び、一一月一九日の年休に
ついて付与する旨通知するとともに、一一月二五、二六日の休年については株式繁
忙のうえに勤務の差繰りがつかないなどの理由を説明して、右両日には与えないで
他日に変更する旨通知し、あわせて別の希望日を聞いた。これに対して、原告は右
両日に固執したので、B課長代理は「それでは課長に直接話してみるように。」と
話したところ、原告は年休請求書を持つて立去つた。
(5) 同日、原告はC課長に対して年休請求書を提出したが、B課長代理から原
告とのやりとりの模様の報告を受けていたC課長は、原告の右両日についての年休
時季指定の希望が強いことを考慮し、「現時点では年休は与えられないが、まだ日
もあることだし、病欠予定のものが出勤するとか、事情の変更があるかも分からな
いし、時間に余裕もあるのでしばらく待つてほしい。」旨伝えたところ、原告は立
去つた。
(6) その後、一一月二〇日午前中、C課長とB課長代理は、原告の一一月二
五、二六日の年休請求について、あらためて勤務指定表を見ながら勤務の差繰りに
ついて検討したが、やはり差繰りは無理であつたので、最終的に右年休は与えず、
時季変更権を行使することとした。
(7) そこで、C課長は、一一月二一日午後五時頃、原告を自席に呼んで、業務
支障があり、人員の差繰りができないので繁忙のため年休請求は承認できない旨伝
えたところ、原告は「何が何んでも休む。」と言つたので、右課長は「休んだ場合
は無断欠勤となりますので二五日は出勤しなさい。」と命じたが、原告は「無断欠
勤でも結構だ。」と言い捨てて立去つた。
(8) 一一月二五、二六日の「一六勤」に原告は出勤しなかつた。当日は監督責
任者である郵便課副課長D(以下D副課長という)を含め二〇名の職員を配置して
いたが、原告が欠勤したため一九名で作業せざるをえなくなつた。
(二) 昭和四六年一二月九日の年休請求
(1) 原告は、昭和四六年一二月九日は「日一」の勤務指定を受けていたとこ
ろ、同月四日午前八時四五分ころ、原告はC課長に対し、年休請求書を提出した。
(2) ところが、右一二月九日は、小包郵便物の最繁忙期であつたこと、すでに
繁忙期における欠務許容人員である一四名の休暇(週休一〇名、計画年休二名、代
休二名)が予定されていたこと、三六協定が締結されていなかつたので超過勤務に
よる補充もできなかつたこと、非常勤は六、七〇名雇用していたが、それでも手が
まわらないうえに、一二月初めは学生が休みでなく、非常勤雇用の大部分は女子で
あるため早朝からの勤務は無理であつたことの各理由のため、年休を付与すること
ができない状況にあつた。
(3) そこで、C課長は右同日、同所において、原告に対し、「業務に支障があ
り、小包繁忙期であるので差繰りは困難であるから他の時季に与える。」旨告知し
たところ、原告は「なにがなんでも休みます。」と言つたので、右Cは「九日の日
は出勤しなさい。」と命令したが、原告は「無断欠勤でも結構です。」と言い捨て
て立去つた。
(4) 原告は、右一二月九日に出勤しなかつたため、同日は原告が欠勤のまま業
務運行せざるを得なかつた。
(三) 以上のとおり、原告は上司であるC課長から年休請求にかかる右三日の希
望日は、業務支障があるので年休を付与することができない旨を申し渡され、労働
基準法(以下労基法という。)第三九条第三項但書の時季変更権の行使を明確に告
知されていたにもかかわらず、勤務を欠いたものである。
3 そこで、被告は、原告の欠務は国公法第九八条及び第一〇一条第一項前段に違
反し、同法第八二条第一、二号に該当すると判断し、右各法条を適用して、昭和四
七年一月二七日付で原告に対し本件懲戒処分を行なつた。
4 時季変更権行使の正当性
 しかして次に詳述するとおり、前記時季変更権の行使は適法になされたものであ
るから、本件懲戒処分は違法ではない。
(一) 千葉郵便局郵便課の業務内容
(1) 千葉郵便局郵便課における定員は、昭和四六年一一月二日現在一二二名で
あるが、現在員は一一八名(課長一名、副課長三名、課長代理三名、主事二名、主
任一七名、事務官九一名及び事務員一名)であり、四名欠員であつた。
(2) 現在員一一八名のうち、副課長以上の管理者を除く一一四名についての担
務の概要は次のとおりであつた。
①勤務形態
日勤 午前八時三五分から午後五時まで
半日勤 午前八時三〇分から午後〇時一〇分まで
日一 午前七時から午後二時四五分まで
日二 午前七時三〇分から午後三時一五分まで
日三 午前八時三〇分から午前四時一五分まで
日四 午前九時一五分から午後五時まで
中一 午前一〇時一五分から午後六時まで
中二 午前一一時から午後六時四五分まで
夜一 午後一時から午後八時四五分まで
夜二 午後一時二〇分から午後九時五分まで
一六時間勤務(以下一六勤という)
 午後五時二〇分から翌日午前八時四〇分まで
(日一は日勤一、中一は中勤一、夜一は夜勤一の略称、以下これに準ずる。)
②係
経理係 課の庶務等を扱い、六名の固定職員を配置。月曜日から金曜日は「日
勤」、土曜日は「半日勤」、週休日は日曜日
窓口係 切手の売却等窓口業務を扱う。「日一」「日二」「日四」「中二」「夜
二」の勤務がある。
伝送係 郵便運送経路ごとに定められた発着時刻に郵便物を受授、処理する業務。
「日二」「中二」「一六勤」の勤務がある。
特殊係 書留通常郵便物、書留速達通常郵便物を処理する業務。「日二」「日三」
「中二」「夜二」「一六勤」の勤務がある。
小包係 普通小包郵便物、書留小包郵便物を処理する業務。「日二」「中二」「一
六勤」の勤務がある。
郵袋主管係 千葉県下の各郵便局で取扱う郵袋の補充、回収の調整を図る業務。
「日四」の勤務。
通常係 速達通常郵便物、普通通常郵便物等を処理する業務。「日一」「日三」
「日四」「夜一」「夜二」「一六勤」の勤務がある。
(3) 右窓口係以下の各業務に配置される一〇八名は右「日一」以下の九種類の
勤務形態により別途勤務指定を受け、その四六時中の業務遂行により郵便課業務の
正常な運行が確保されるのである。
(4) 原告は、右郵便課業務につき経験も豊かであつて、比較的業務に精通して
いるので、右速達、通常、特殊、窓口の各業務を主として担当し、勤務形態も前記
各種類の勤務を交替して指定されており、昭和四六年一一月二五、二六日は「一六
勤」、同年一二月九日は「日一」の各通常係に勤務指定されていた。
(二) 欠務許容人員
(1) 郵便課業務は前記のように交替制の勤務形態となるため、同課では、週休
者の後補充のための定員(以下週休定員という)九・五名とこの他の年休、病気休
暇等の後補充のための定員(以下予備定員という)四・五名が配置されていた。
(2) 週休定員は、労働者に少なくとも毎週一回の週休日を確保するための要員
であるから、交替制勤務でないいわゆる官執型勤労者(課長、副課長、経理係など
九名)の場合には必要でなく、また取扱い郵便物が極端に減少する日曜日、到着す
る要分配郵便物数が平日より少なくなる月曜日には、各五二名、一六名の職員に対
して週休を付与することが可能である。したがつて、週休要員の算出方式は次のと
おりである。
122(定員)-9(官執型職員)-52(日曜日週休者)-16(月曜日週休
者)÷5(火曜日~土曜日の日数)=9(週休定員)
 また予備定員についても官執型労働者が休んだ場合は他の官執者が代行、相互応
援するものであるから、予備定員は交替制勤務者一一三名に対して一人あたり一年
間に二〇日間の年休が発給されるので、その算出方式は次のとおりである。
113×20(年休総計数)÷300(1年間の労働日数)●7.5(予備定員)
(3) 以上のように、予備定員としては三名の不足となるが、被告は、夏期、年
末年始などの繁忙期以外の時季にあつては週休定員、予備定員を合わせて、一八名
を欠務の許容限度として運用していたもの(但し、後記のように最繁忙期である年
末においては欠務許容人員は一四名)であるから、右定員をもつてしても職員の年
休は完全に消化されうる状態にあつたことが明らかであり、さらに非常勤職員を雇
用して年休、病気休暇その他の休暇の後補充措置を講じていた。
(4) 右のとおり、被告は年休の消化のために定員上及び定員外の諸措置を講じ
て対処しているのであるが、同課における職員一人あたりの現実の年休消化状況に
ついてみるに、昭和四六年度は一八・一日、同四七年度は一八・二日となつてお
り、一般的に職員は突発的な用件、急病等に備えて数日分翌年に繰越しているとい
う実情を考慮すれば、同課においては二〇日間の年休消化が可能な状態にあつたの
である。
(三) 事業の正常な運営を妨げる事由
(1) 労基法第三九条第三項但書にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」に当
るかどうかは、当該労働者の所属する事業場を基準として、事業の規模、内容、当
該労働者の担当する作業内容、性質、作業繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等
諸般の事情を考慮して客観的に判断すべきである。
 これを本件についてみると次のとおりである。
(2) 一一月二五、二六日の年休について
① 千葉郵便局は、千葉県下の基点となる局で、千葉県下あてに差出された郵便物
はまず千葉局に到着し、同局で県下の各郵便局ごとに区分し運送されるものであ
り、同局の郵便物の運送便は、主として夜間に集中するため、これらの区分作業に
従事する「一六勤」は、千葉局のみならず千葉県下の多数の郵便局の業務運行にも
大きな影響を与える勤務であり、この「一六勤」を欠員のまま運営すること自体、
事業の正常な運営を妨げるものである。
② 「一六勤」は代替性、補充性が極めて困難なものである。「一六勤」は二日間
にわたる徹夜の勤務であることから、できるだけ必要最小限の人員によつて業務の
正常運行を確保するために経験豊かで業務に精通した職員を配置し、新しい職員、
非常勤職員をもつて代替することはできず、また他の担務者の応援による補充、相
互応援による補充は不可能であり、したがつて、「一六勤」でこれまで欠員のまま
業務運行をなしたことはほとんどなく、「一六勤」に指定された人が年休請求する
という例もほとんどないという慣行的事実があつた。
③ 一一月二五、二六日頃は、前記のようにいわゆる株式繁忙の時期であり、千葉
郵便局の業務は極めて多忙であつた。
④ 本件は、郵政省が郵便日数表を国民に公表(昭和四六年一〇月二五日)し従来
にもまして業務の正常運営を確保しなければならない状況にあつたときに発生し
た。
⑤ 一一月二五、二六日は前記のようにすでに承認された欠務員が一八名(週休一
一名、計画年休五名、結婚特別休暇一名、病気休暇一名)で、欠務許容限度に達し
ており、三六協定がないので時間外勤務を命じて欠務による業務支障を回避するこ
とも、勤務指定変更、週休振替えによつて代替要員を確保することも不可能ないし
困難な状況であつた。
(3)一二月九日の年休について
① 原告は、前記のように「日一」に勤務指定され、通常係を担当することとされ
ていたが、原告が欠務したため通常係に八名配置予定のところ七名で運行せざるを
得なかつた。一二月九日当時は、歳暮のため小包郵便物が増加するなど郵便事業に
とつて最繁忙期で、臨時の運送便が四便も到着する状況であつたから、配置予定人
員に不足を生じたこと自体事業の正常な運営を妨げるものといわなければならな
い。
② 一二月九日は、すでに承認された欠務者が一四名(週休一〇名、計画年休二
名、代休二名)で、年末の最繁忙期における欠務許容限度に達していた。
③ 本件が郵便日数表の公表直後のことであり、また三六協定がなく代替要員確保
が困難であつた状況は右(2)と同様であつた。
(四) 時季変更権行使の告知
 前記2(本件懲戒処分に至る経緯)で詳述したように、C課長は、原告に対して
明確に請求の日には年休を与えないで他の日に与える旨の意思表示をなし、時季変
更権の行使を告知している。
(五) 原告の本件年休取得による業務支障
(1) 時季変更権行使の要件である事業の正常な運営を妨げる場合に当るか否か
は、年休請求時以降当該休暇日前における事前の蓋然性の判断によるべきであつ
て、休暇日後において結果的にその支障を防止しえたか否かによつて定められるべ
きものではないから、右の事後における業務遂行の結果によつて前記の事業の正常
な運営に支障を生じるおそれがある場合に当るとの判断の当否を左右しうるべきで
はない。
 しかし、本件においては原告が欠務したことにより、次のような業務支障が結果
的に発生した。
(2)一一月二五、二六日の業務支障
① 右「一六勤」の監督責任者であるD副課長は、原告の欠務を補充するため、副
課長の本来的業務である管理業務を一部犠牲にし、仮眠もとらずに普通郵便物の区
分業務に従事して最大限の努力を払つたけれども次のとおり不結束(未処理のこ
と)郵便物が発生した。
② 千葉郵便局に伝下二号と称する運送便で午前三時三〇分に到着した定型外郵便
物五万三千通のうち、一万通が不結束となり、また伝下三号と称する運送便で午前
六時五〇分に到着した郵便物のうち、定型郵便物三千通と定型外郵便物八千通の合
計一万一千通が不結束となり、その結果配達が半日ないしは一日遅れることとなつ
た。
(3)一二月九日の業務支障
 前記のように年末の最繁忙期であつたため、普通郵便物の運送便は定められた時
刻に、一定の台数が発着しているところ、臨時運送便が原告が勤務すべき時間帯に
四便到着し、副課長の実務応援にもかかわらず、午後五時までに未開被の郵袋一〇
〇袋二万五千通が不結束となつた。右不結束の一要因は原告の欠務にあることは明
らかである。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実中、被告が適法な時季変更権の行使をしたとの点を否認し、その
余の事実は認める。
2 同2(一)の事実について
(一)(1)の事実は認める。
(二)(2)の事実は不知。
(三)(3)の事実は否認する。
(四)(4)の事実のうち、B課長代理が一一月一六日午前一一時ころ原告を自席
に呼び、一一月一九日の年休は与えるが、一一月二五、二六日の年休については忙
しいなどの理由で与えないと言つたこと、またC課長のところへ行くように原告に
言つたとの点は認めるが、その余の事実は否認する。
(五)(5)の事実は否認する。
(六)(6)の事実は不知。
(七)(7)の事実のうち、C課長が一一月二一日午後五時ころ原告を自席に呼ん
で、一一月二五、二六日の年休請求は繁忙のため承認できないといつたとの点は認
めるが、その余の事実は否認する。
(八)(8)の事実は認める。
3 同2(二)の事実について
(一)(1)の事実は認める。
(二)(2)の事実は否認する。
(三)(3)の事実のうち、C課長は原告に対し、忙しいので年休は与えられない
と告知したことは認めるが、その余の事実は否認する。
(四)(4)の事実は認める。
4 同2(三)の事実のうち、原告が勤務を欠いたことは認めるが、その余の事実
については否認する。
5 同3の事実中、被告が昭和四七年一月二七日付で原告に対し本件懲戒処分をな
したことは認める。
6(一) 同4(一)の事実は認める。
(二) 同4(二)の主張は争い、事実については不知ないし否認する。
(三) 同4(三)の事実について
(1) (2)①の事実については「一六勤」を欠員のまま運行すること自体、事
業の正常な運営を妨げるとの点は否認し、その余の事実については認める。
(2) (2)②、③の事実は否認する。
(3) (2)④の事実は認める。
(4) (2)⑤の事実は三六協定がなかつたことを認め、その余の事実は否認す
る。
(5) (3)①の事実のうち、一二月九日当時は郵便事業にとつて最繁忙期であ
つたとの点は否認し、その余の事実は認める。
(6) (3)②の事実は否認する。
(7) (3)③の事実のうち、代替要員確保が困難であつたとの点は否認し、そ
の余の事実については認める。
(四) 同4(四)の事実は否認する。
(五) 同4(五)の事実は不知。
五 原告の主張
本件懲戒処分は次に詳述する理由により違法であるから取消を免れない。
1 時季変更権の不行使
(一) 本件懲戒処分の理由は、「上司の承認を得ないで勤務を欠き職務を怠つ
た」というのであるが、原告は、労基法第三九条に従い正当に有給休暇権を行使し
たにすぎないものであるから、これに対して使用者の承認、不承認の観念を容れる
余地のないことは昭和四八年三月二日最高裁判所第二小法廷判決の指摘するところ
である。従つて、すでにこの点で本件処分はその前提を欠き違法であるから取消を
免れない。被告は、年休権は使用者(上司)の承認があつてはじめて行使できると
の前提に立ち、本件年休請求に対する不承認の理由を縷々主張している。しかし、
これが労基法第三九条第三項但書の時季変更権の行使に転化するいわれはない。
(二) 本件については、次のとおり年休請求の経緯からも被告が時季変更権の行
使をしていないことは明らかである。
 原告は、当時全逓信労働組合千葉地区本部執行委員の地位にあり、第三回執行委
員会の決定にもとづき、昭和四六年一一月二五、二六日の両日組合オルグの任務が
与えられた。そこで原告は、従来の経緯に照らして組合休暇(郵政省において一定
の条件がととのえば組合活動について無給の休暇を認めるという制度)等は認めら
れないだろうと判断し、年休で組合オルグに出発しようと考え、かなり早い一一月
一四日所定の手続で年休の届をなした。ところが同月一六日になつてB課長代理か
ら直接C課長に請求するよう指示されたので、同日課長に届を出した。しかし、同
月二一日午後五時ころ同課長に呼出され、仕事が忙しいので年休は承認できないと
回答された。
 これに対して原告は、「滞留もないし、私一人休むことがどうして仕事に支障が
あるのか。」と質問したところ、同課長は「結婚とか葬式のような社会通念上必要
なものは差し上げます。又承認しても組合活動に使用した場合は取消すことがあり
ます。」と答えたので、同課長との間で使用目的によつて制限する理由はあるかな
いかで論争となつた。そして最後になつて原告は、「業務に差しさわりがあるなら
具体的に説明すること。」「もし納得がいけば考慮する。」「どうしてもその日が
だめなら他日指定をして下さい。」と要請したが、同課長は「承認できません。」
と連呼し、「他日指定もできません。」とそのすべてを拒否した。そこでやむなく
原告は「説明もできない、他日指定もできないでは自分も納得できないからいずれ
にしてもその日は休ませていただきます。」と言つてその場を離れた。
 一二月九日分の年休請求についても同様な経過をたどつた。
(三) 右のように、被告が自認している休暇戦術、争議行為支援の場合はもちろ
んのこと、春闘、年末の闘争時に入つて三六協定が無締結になると、被告は本件の
場合のように組合オルグ等の組合活動の為の年休請求に対して「闘争時」であるこ
とを理由として原則的に不承認としてきた。前掲最高裁判所判決がでる前は、業務
上の都合の問題は余り議論されず、もつぱら年休の利用目的をあれこれせんさくし
ては、組合活動の為に利用したことが判明すれば年休を取消すなどと堂々と主張
し、事実、千葉郵便局で年休請求理由と事実が異るという理由で戒告処分に付され
た例があつた。右判決後は、「業務上の都合」なる言葉を前面に出し、その真意を
隠ぺいしてきた相違は認められるが、むしろ手段において悪質というべきである。
このように被告は年休の利用目的による差別的取扱いをしているのであつて、被告
の右取扱いは、年休の利用については使用者の干渉を許さないという年次有給休暇
の制度の趣旨に反することは明らかである。
2 時季変更権の濫用
 仮に、被告が時季変更権を行使したとしても、本件は次に詳述するように時季変
更権の濫用であるから、本件懲戒処分は取消を免れない。
(一) 労基法第三九条第三項但書の「事業の正常な運営を妨げる」場合とは、一
般的には、企業またはその一部としての事業場において、ある特定の業務の正常な
運営が一体として阻害されることをいい、年次有給休暇の制度の趣旨に反しないよ
う合理的に解釈しなければならないが、具体的には次のとおりである。
(1) この年休請求権は、憲法第二七条に基づく労働者の休息権を根拠とするも
ので、人たるに値する生活をするための不可欠の基本的権利であり、それゆえ労基
法第三九条は、労働者の請求した時季に年休を付与することを大原則とし、使用者
の時季変更権は例外として位置づけているのである。従つて、時季変更権の行使は
厳格な要件が具備してはじめて効力をもつものと解するのが相当である。
(2) 右に対応して労基法三九条は、使用者に対して労働者がそれぞれ所定日数
の年休を当該年度内にとれるための具体的措置をとるよう義務づけている。
(3) したがつて、使用者は、労働者が所定日数の年休をとつても、「事業の正
常な運営を妨げ」られないよう、それを計算に入れた従業員数が各事業場の最少限
度の常態的雇用人員となつていなければならない。
(4) 右事業の正常な運営を妨げないだけの人員配置を前提として、事前に予測
の困難な突発的事由の発生等の特別の事情により、請求の時季に年休を与えること
ができない場合においてはじめて時季変更権の行使が認められるものと解するのが
相当である。
(5) よつて、休むことによつて通常考えられる程度の支障が生じるだけでは時
季変更権を行使することはできず、重大かつ予想外の支障の発生が蓋然的に見込ま
れる場合のみ、使用者は時季変更権を行使できると解しなければならない。つま
り、一人の労働者の休暇とそれによる業務の支障との間に著しい不均衡がおきる場
合であることを要し、日頃しばしば発生している種類、程度のもの、短期間で容易
に回復される程度ないしは日常の作業工程の中で自然に解消されるようなもの、公
衆に特段不信を与えない程度のものは、ここでいう正常な運営を妨げる場合に該当
しないのである。
(二) 本件についてみると、次のように被告の時季変更権の行使は違法無効であ
る。
(1) 千葉郵便局においては、本件当時四名の欠員があつたばかりか、週休定員
九・五名、予備定員四・五名であつた。これでは現実に所定日数の年休を当該年度
内に完全に消化できない。すでにこの点で時季変更権行使の条件である事業の正常
な運営を妨げないだけの充分な要員配置という前提を欠如している。換言すれば、
被告ははじめから職員に年休を完全消化させないことを前提として、年休不承認と
後記のように時間外労働とを企業運営の不可欠の手段としており、本末転倒であ
る。
 ちなみに郵政省でも週休定員は、交替制勤務の職場では六人に一名の割合で設け
ることになつているので、千葉郵便局郵便課の週休定員は、
122(定員)-7(管理者)-5(経理係)-14(9.5の週休定員と4.5
の予備定員)÷6=16
であり、年休消化のための予備定員は
2,440(年休総日数)÷300(1年間の労働日数)=8
である。この外病休、特別休暇のための予備定員を加算すれば一〇名以上の予備定
員が必要である。
(2) 本件原告の年休請求当時には、何んら特段の突発的事由の発生もなく、そ
の他特別の事情も全くないのである。すなわち、当時、三六協定がなかつたのは、
毎年年末闘争時においては常識であり、容易に予測可能であつた(もつとも時間外
労働という例外的な労働を企業運営上の手段として予定すること自体問題であ
る。)。また、本件発生当時は繁忙期ではない。繁忙期とは一二月一〇日以降翌一
月一〇日までのことを指すのであり、いずれにしても毎年予測されていることであ
る。
(3) 一一月二五、二六日において若干の不結束郵便物が残つたとしても、これ
はたまたま当日引受郵便物が大量であつたことが原因であり、翌日には処理されて
おり、日常的にしばしば経験されているものである。また年休の承認された一一月
一九日にも相当数の不結束郵便物が存在している。
 右の点でも時季変更権を行使するに足りる合理的根拠とはならない。
(4) 本件年休請求にかかる日の原告の担務はいずれも通常係であり、もつとも
容易に代替できる職種であつた。しかし一一月二五、二六日の「一六勤」において
も代替可能な職員が約三〇人もいたのであり、一二月九日の「日一」においては、
もつと多くの代替可能職員がいたのは明らかである。
 しかるに、日頃勤務差繰りをする際、課長代理等が直接職員に接触して勤務変更
の措置をしているのに、本件の場合に限り、被告も自認するように書面上の処理で
簡単に原告の年休請求を拒否し、誠実な態度をとらなかつたのは不当である。
(5) 被告は、欠務許容人員は一八名であるとか、繁忙期は予備定員・週休定員
の合計を限度とすると主張するが、このようなことは原告ら職員は全く知らされて
いない。これ以上の欠務がでていることもしばしばある。また「一六勤」は二〇名
で勤務するというのは一応の目安すであつて、絶対的なものではなく、もし絶対的
なものとすれば、「一六勤」勤務者は絶対に年休をとれないということになり、年
休のとれない日の存在は法律上容認されない。
(三) よつて本件懲戒処分は違法である。
六 原告の主張に対する被告の認否
1 原告の主張1は争う。
(一) 原告は、本件処分の理由中に「承認」という文言の記載があることをとら
えて、本件処分はその前提を欠き違法であると主張するが、事実上使用されている
「不承認」とは時季変更権の行使であることを看過しているものである。
(二) C課長は、原告に対して年休の利用目的を質した事実もなく、原告から利
用目的について申出があつた事実もない。したがつて、同課長は、本件年休の利用
目的について全く承知しておらず、承知していたことを前提とする原告の主張は失
当である。そもそも郵政省においては、時季変更するかどうかは、業務の正常な運
営を妨げるか否かによつてのみ判断することとされており、千葉郵便局でも同様の
考え方で運用されている。
 なお時季変更権行使の要件は存しても、家族の急病等社会通念上休暇をとるやむ
をえない事情の存する場合には、事業の正常な運営が妨げられる場合においても、
時季変更権を行使しない場合もある。しかし、これは時季変更権の事由の存否の判
断要素として社会通念上やむをえない事由を考慮することとは違うのである。
2 原告の主張2は争う。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 原告の身分および本件懲戒処分の存在
 原告の身分に関する請求原因1の事実、本件懲戒処分に関する同2の事実及び本
件懲戒処分が年休請求をした昭和四六年一一月二五日、二六日、同年一二月九日の
三日間につき上司の承認を欠き職務を怠つたことを理由としてなされた事実(以下
右年休申請を本件年休申請という)は当事者間に争いがなく、原告は本件懲戒処分
について昭和四七年二月一四日、人事院に対し不利益処分審査請求をなしたが、本
件訴訟提起前三か月経過しても裁決がなかつたことが本件記録上うかがえる。
二 時季変更権の行使
1 年次有給休暇権の性質
 年休権は、労基法第三九条第一、二項の要件を充足することによつて法律上当然
に労働者に生ずる権利であつて、同条第三項により労働者がその有する休暇日数の
範囲内で具体的な休暇の始期と終期とを特定して右の時季指定をしたときは、客観
的に同条第三項但書所定の事由が存在し、かつこれを理由として使用者が時季変更
権の行使をしない限り、右指定によつて年休が成立し、当該労働日における就労義
務が消滅するものと解すべきである。
 本件では、被告が右時季変更権の意思表示をしたか否かについて当事者間に争い
があるので、まずこの点について判断する。
2 本件年休請求の経緯
(一) 抗弁2(一)の事実のうち、(1)の事実、(4)の事実中、B課長代理
が昭和四六年一一月一六日午前一一時ころ原告を自席に呼び、一一月一九日の年休
は与えるが、一一月二五、二六日の年休は忙しいので与えないと言つた後、原告に
C課長のところへ行くように言つたこと、(7)の事実中、同課長が一一月二一日
午後五時ころ原告を自席に呼んで同月二五、二六日の年休は繁忙のため承認できな
いと言つたこと、及び(8)の事実は当事者間に争いがない。
 抗弁2(二)の事実のうち、(1)の事実、(3)の事実中、C課長は原告に対
し、一二月九日は忙しいので年休は与えられないと告知したこと、及び(4)の事
実は当事者間に争いがない。
(二) 成立に争いのない乙第三ないし第五号証の各一、第二七、第二八号証、証
人Cの証言により真正に成立したものと認められる乙第三ないし第五号証の各二、
第一〇号証の一、二、第一二号証、証人C、同Bの各証言、原告本人尋問の結果及
び右(一)の争いのない事実を総合すると次の事実を認めることができる。
(1) 原告は、昭和四六年当時全逓信労働組合千葉地区本部の非専従執行委員の
地位にあり、執行委員会の決定により同年一一月一九日、二五、二六日、一二月九
日の四日間、年末の組合オルグの任務が与えられた。そこで原告は、年休を利用し
て組合オルグを行なおうと考え、一一月一四日午前八時四〇分ころ所定の手続で一
一月一九日、二五、二六日分についてA主任に年休請求をした。同月一六日原告は
B課長代理に呼び出され、一一月一九日分は承認するが、一一月二五、二六日分は
その許否を判断できないのでC課長のところへ行つてくれと指示された。それで原
告は、すぐC課長の席に行き、右B課長代理との経過を話し、一一月二五、二六日
の年休請求をしたところ、C課長は一旦右両日は忙しいから承認できない旨即答し
たものの原告の強い要請により付与の許否につき再検討を約した。
(2) C課長、B課長代理らは勤務指定表により原告の年休を承認した場合の代
替勤務者を検討したが、当日の原告の勤務予定が深夜早朝を通ずる一六勤であつた
ため同表の上からは適当な代替者はないものと判断し、また、組合側が三六協定締
結を拒否していたので週休者等に勤務を命じ得る状況でもなく、当日前後は多くの
会社の決算関係書類が集中するものと予測して右請求を承認しないことを決めた。
(3) そこで、C課長は一一月二一日午後五時ころ原告に対し繁忙を理由に二
五、二六日の年休申請につき不承認を告知した。これに対して原告は、年休承認を
強く求め、同課長に対し繁忙の有無、程度、年休承認と年休使用目的の関係等につ
き質し、同課長との間で議論となつたが、同課長の説明した右の諸点に関する見解
を納得せず、「当日私も大事な仕事がありますから休ませていただきます」といつ
て、その場を離れた。
(4) 原告は、一二月四日所定の手続で同月九日分の年休請求をしたが、C課長
は前同様勤務指定表上代替勤務者はいないものと判断し、年末繁忙を理由に不承認
の旨を告知した。
(5) 千葉郵便局職員は当年四月から翌年三月を一年度として年休権を行使して
おり、原告の本件年休の申請はいずれも繁忙期である昭和四六年末に比較的接着し
てなされていたため、主事以上の地位にある者を除く郵便課職員の年休請求の承認
に関する権限を有するC課長は同年内に「他日指定」をする余地はないものと判断
し、また郵便課職員は年末年始の特別休暇期間(一二月二九日から翌年一月三日ま
での期間《一月一日及び週休日を除く》)にも出勤する関係上当局として代替休暇
に関する協定により各出勤者に代替休暇を遅くも昭和四七年三月末までに少なくと
も三日間を付与しなければならないため、昭和四六年度末である昭和四七年三月末
までに原告の本件年休の申請に対する「他日指定」をする確実は見込みはないもの
と判断し、原告に対し他日指定をしなかつた。
 証人C、同Bの各証言中、右認定に反する部分は措信できず、他に右認定に反す
る証拠はない。
3 証人Cの証言によれば、原告が本件年休の申請をした当時被告は職員の年休申
請に対し承認又は不承認という態度で臨んでいたことが認められるが、年休権を前
記1のように労基法第三九条第一、二項の要件を充足することによつて法律上当然
に労働者に生ずる権利と解する以上年休の成立要件として、労働者の「休暇の請
求」やこれに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はないが、その場合に使
用者側のなす「承認」ないしは繁忙を理由とする「不承認」は、法律上は使用者に
よる時季変更権の不行使または行使の意思表示にほかならないと解すべきである。
しかして、前記2に述べたとおり、C課長は繁忙を理由として原告の本件年休申請
を不承認とする旨を告知したから、これにより被告は右申請に対し時季変更権を行
使したものと認めることができる。
三 時季変更権行使の効力
1 郵便課における業務運営の実態
(一) 抗弁4(一)の事実、すなわち同郵便課の定員が昭和四六年一一月当時一
二二名であり、現在員は一一八名で四名欠員であつたこと、同課では被告主張のと
おり勤務形態については「日勤」、「日一」「一六勤」等一一種類あり、経理係、
窓口係、通常係等七種類の係があること、経理係を除く六種の業務は一〇八名の人
員で「日一」以下九種類の勤務形態により別途指定され、郵便課業務は四六時中そ
の業務は休むことなく遂行されていること、原告は右郵便課業務に精通しているの
で、速達、通常、特殊、窓口の各業務を主として担当し、各勤務形態で交替勤務を
しており、前記のように昭和四六年一一月二五、二六日は「一六勤」、同年一二月
九日は「日一」の通常係に勤務指定されていたことの各事実は当事者間に争いがな
い。
 抗弁4(三)の事実中、千葉郵便局は千葉県下の基点となる局で、千葉県下宛に
差出された郵便物は、まず千葉局に到着し、区分された後各郵便局に運送され、同
局の運送便は、特に最近の交通事情等から夜間に集中し、これらの区分作業に従事
する「一六勤」は千葉局のみならず県下の郵便局の業務運行に大きな影響を与える
勤務であること、本件当時郵政省は郵便日数表を公表したこと、一二月九日の「日
一」勤務において、原告欠務のため通常係八名のところ七名で遂行せざるを得なか
つたこと、本件年休申請当時三六協定が締結されておらず、被告は職員に超過勤務
を命ずることができなかつたことの各事実は当事者間に争いがない。
(二) 証人Cの証言により真正に成立したものと認められる乙第一三号証、第二
〇号証の一、二、第二三号証の一ないし二八、証人Dの証言により真正に成立した
ものと認められる乙第二四号証の一ないし六〇、前掲乙第二号証の一、証人C、同
E、同Fの各証言、及び原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実を認めること
ができる。
(1) 郵政省と全逓信労働組合とが締結した「年次有給休暇に関する協約」(乙
第二号証の一)には、自由付与する年休(自由年休、以下自年という)と計画的に
付与する年休(計画年休、以下計年という)の二種類を定めており、計年には前年
度年休繰越し分のうちの一〇日と前々年度年休繰越し分全部をあてることとされて
いた。
(2) 郵便課では抗弁4の(一)のような交替勤務形態により四六時中郵便物処
理業務が行なわれている関係上、この種勤務に従事する職員一一三名に対し確保す
べき毎週一回の休日(週休日)が区々となるため、週休者の後補充の定員(週休定
員)として九・五名が配置されていたほか、年休・病休者等の後補充の定員(予備
定員)として四・五名が配置されていた。被告はこれら定員配置と郵便物の波動性
(郵便物の引受が日曜日、祝祭日は少なく、月曜日も他の週日に比較して少ないこ
とをいう)に加えて現実の職員の休暇利用状況、業務運営状況をも勘案して、欠務
許容人員を日曜日、祝祭日につき五二名、月曜日及び祝祭日の翌日につき二〇名、
その他の週日につき一八名(一二月初旬から始まる年末繁忙期は一四名)と定め、
この範囲内で週休、計年、自年、特別休暇、代替休暇、病休その他やむを得ない欠
務を処理し、右人員をこえて職員から年休申請があれば、労基法三九条三項但書に
いう業務の正常な運営を妨げる場合(以下業務支障という)にあたるとして、原則
として同項の時季変更権を行使することを前提として、申請者に対しその撤回を勧
告し、職員もこれに応じており、かかる事例は一か月に数件はあつた。
(3) しかし、その申請の理由が本人の結婚・病気、近親者の病気・不幸その他
被告において社会通念上やむを得ないと認めた場合には、それが突発的申請であ
り、かつその者の欠務により欠務許容人員をこえ業務支障があると判断されること
があつても、被告は時季変更権を行使することなく枠外と称して年休として欠務す
ることを認めていたほか(以下時季変更権の不行使、行使を便宜年休の承認、不承
認という)、当局が主催する訓練参加者、長期病欠者(これらの場合には非常勤職
員による代替措置がとられることもある)も欠務許容人員として予定せず枠外扱い
として欠務を認めていた。
(4) ところで、原告の欠務日を含む昭和四六年一一月一日から同年一二月一〇
日まで郵便課における実働人員、欠務人員、欠務理由の内訳及び欠務人員中の枠外
者は別表一のとおりであり、これによれば右期間中一一月中における欠務許容人員
をこえた欠務者のある日が、合計で一五日である。また、右期間中不結束郵便物の
あつた日は原告の欠務した日にとどまらず別表二のとおりの日数に及んでいるが、
これらの不結束郵便物も遅くも翌日までには処理されていた。
(5) 原告が欠務した一一月二五日は週休者一一名、計年者五名、病休者一名、
特別休暇者(結婚)一名合計一八名の欠務が予定されていた。ところが、二四日か
ら一六勤で二五日がその明け番に当つていた職員が家庭のいざこざのため二四日の
出勤直前に右両日につき年休申請をしたが、代替者もなく業務に支障あると判断さ
れたものの、被告はやむを得ない事情によるものとして右申請を枠外として承認し
た。また、二五日に日勤として出勤した職員が出勤後身体の不調を訴えたので、被
告は同人を枠外の年休扱いとしてその欠務を認めた。これに加えて原告が欠務した
ため二五日の欠務者の合計は二一名となつた。
 一一月二六日は原告の欠務にもかかわらず欠務者は一七名で欠務許容人員以下で
あつた。二五日、二六日原告の処理すべき業務についてはD副課長がこれにあたつ
た。
 一二月九日は週休者一〇名、年休者二名代替休暇者(週休が祝祭日と重つた職員
に与えられる休暇)二名合計一四名の欠務が予定されていたところ、一職員から近
親者の不幸を理由に年休申請があり、被告はこれをやむを得ない事由による枠外と
して承認したほか、病休者が一名あつたため、当日の欠務者は原告を加えて合計一
七名となつた。
2 効力の判断
(一) 以上の事実によれば、郵便課では、原告の欠務した日だけでなく、かなり
の日において欠務許容人員をこえた欠務者があるまま郵便物処理が行なわれ、ま
た、欠務者の多寡にかかわらずかなりの数の郵便物の処理が翌日までにわたつてい
たというのが郵便課における業務運営の実態であると認めざるを得ない。
 証人Cは現実の欠務者から枠外者を除外した員数が欠務許容人員内であれば、欠
務許容人員の範囲内で業務が運営されているとの趣旨の証言をする。しかし、枠外
者も配置定員に組込まれている以上枠外者が現実に労務提供をしなければ、実働人
員がそれだけ減少することは明らかであり、枠外者なるものを認めるということは
欠務許容人員をこえた形で業務運営がなされていたことを認めることに帰着するも
のといわざるを得ない(むしろ、欠務許容人員が設けられた趣旨に照らせば、かか
る枠外者も右人員内において処理することが予定されていたものということができ
るのである)。そして、別表二記載の原告の欠務日と他の日の郵便物処理状況を対
比すると、欠務許容人員をこえた欠務者のもとで業務運営をする場合には本件の原
告の欠務の場合と同様課長代理等の管理者又は他の勤務者が欠務者に予定された業
務を負担することにより郵便物を処理してきたものと推認することができるのであ
る。
(二) また、前記認定によれば、被告は職員の年休申請に対し社会通念上相当と
認めるものは枠外としてこれを承認し、そうでないものに対してはその申請の撤回
を勧告し、右勧告は職員の応ずるところとなつていたのである。かかる年休の申請
理由による承認又は申請の撤回勧告という措置は、被告において職員の自由な年休
権行使を阻害しない限り、職員の協力を期待することにより、休暇利用により生ず
ることがあるべき業務への影響、他の勤務者への負担増を少なからしめる方策とし
て合理性を肯認し得るものであるが(もとよりそれは年休請求をその理由によつて
法的に差別することにはならない)、被告の撤回勧告に職員が応じない場合には、
年休制度の本則に立ちかえり「年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところで
あり、休暇をどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由である
とするのが法の趣旨であると解するのが相当である」(最高裁第二小法廷昭和四八
年三月二日判決民集二七巻二号一九七頁)というべきであるから、その年休申請が
権利の濫用であると認められるような特段の事情の存する場合を除きその欠務によ
る業務支障が認められなければ、右申請に対する時季変更権の行使は許されないも
のと解するほかない。そして、右にいう業務支障とは、当該事業場における業務の
正常な運営が全体として阻害されることをいうものと解すべきであり、それは、年
休制度の趣旨に反しないように、かつ単なる業務処理量の多寡という個別的物理的
観察にとどまることなく、当該事業場の日常的業務運営の実態に即して合理的に判
断されなければならない。
(三) 既に認定したところを総合すると、被告は自ら業務支障の目安として欠務
許容人員を設定しながら、先ず管理者主催の訓練参加者を枠外として欠務すること
を許容し、更に突発的申請であつても申請理由によつては欠務を許容し、これら欠
務者の担当業務の全部又は一部は他の勤務者により処理され、不結束郵便物が残つ
てもそれは翌日中に処理されるというのが郵便課業務の実態であるということがで
きるのである。一方原告の本件年休申請は被告側の認識の有無は別として組合活動
に利用する目的でありその申請も一一月二五日、二六日分については同月一四日、
一二月九日分については同月四日と比較的早期になされており、しかもその期間も
三日にとどまり、その時期も年末最繁忙期の始まる一二月一〇日以前であること等
に照らせば年休権行使が社会通念上著しく不相当なものとまでは認めがたく、いず
れも当日の未処理郵便物は翌日までに処理されているのであり、かかる事実関係と
前記郵便課における業務運営の実態を対比すれば、被告が原告の本件年休申請に対
し業務支障を理由として時季変更権を行使したことは客観的相当性を欠くものとし
てその効力を生じないものといわなければならない。
 もつとも、前掲乙第二四号証の一ないし二〇によれば、昭和四六年一一月一日か
ら同月一九日までの間における郵便物の不結束はいずれも一六勤の勤務時間帯であ
る午前一時から午前四時にかけての伝下一、二便につき生じており、原告が一一月
二五日、二六日の一六勤につき年休申請をした同月一四日当時、C課長が一旦右申
請の不承認を告知した後再検討を約した同月一九日当時及び同課長が最終的に不承
認を告知した同月二一日当時において同月二五日、二六日の一六勤につき不結束が
予想されたものと認めることができ、従つて、原告の右年休申請を承認するならば
更に抗弁4の(三)記載のように千葉県下のキー局ともいうべき千葉郵便局におけ
る不結束郵便物増加による業務への影響が予測し得たものと一応はいい得るところ
である。しかし証人B、同Fの証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告の担当
する一六勤の通常係の業務はいわゆるベテランが望ましいとはいえ、その種の経験
者に限定しなければならないほど高度のものではなく、少なくとも一年程度の経験
者であればこなし得るものであり、また他の勤務者との共同作業により遂行される
もので、欠務者の担当業務がそのまま残つていくというものでないことが認めら
れ、他方、証人Bの証言及び原告本人尋問の結果によれば、前記認定のように被告
側はかなり日時の余裕があつたのに代替者につき勤務指定表の上でのみ検討したに
とどまり、週休変更の場合には管理者が個別交渉しているのに本件の場合具体的に
他の職員に対し代替についての協力要請をしなかつたのであり(このことは一二月
九日の場合も同様である)加えて前記のように二六日の欠務者は原告を加えて欠務
許容人員以下である一七名であつたから、当初の欠務予定者は一六名であり、仮に
前日来の一六勤において不結束郵便物が残つたとしても当日の日勤者により早期に
これを処理することが可能であることが予測し得たこと(現に右両日に不結束郵便
物数は他の日と格段の相違はなかつた)などの事情に照らせば、被告が原告の前記
年休申請につき時季変更権を行使したことは相当であると認めることはできない。
 被告は郵政省が昭和四六年一〇月二五日郵便日数表を国民に公表したから当時は
特に業務支障が許されない実情にあつた旨主張する。しかし、原告が欠務しない日
であつても未処理郵便物が残されたこともあつたのである。もとより、原告の欠務
の日を含めて不結束郵便物が翌日に持越されることがやや常態化していた千葉郵便
局の業務運営の実態は好ましいものではなく改善を要することはいうまでもない
が、それは健全な労使関係の確立による三六協定の締結、欠務者が出た場合の他の
職員による密度の高い執務協力態勢の確立、更には財政事情の許す限度内での要員
の確保等により抜本的に解決されるべきもので、個々の年休請求の許否ということ
で事足りる問題ではないのである。
四 結語
 以上の次第であるから、原告の三日間の欠務は適法な年休権の行使であつて、右
欠務を理由とする本件懲戒処分は違法として取消すべきである。
 よつて、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民
事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 松野嘉貞 東原清彦 片野悟好)
別表一(乙第一三号証、第二三号証の一ないし一八、証人Cの証言による)
<19906-001>
<19906-002>
<19906-003>
<19906-004>
<19906-005>
<19906-006>

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