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平成21年4月21日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成19年(ワ)第10772号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成21年2月10日
判決
アメリカ合衆国オハイオ<以下略>
原告ノードソンコーポレーション
訴訟代理人弁護士近藤惠嗣
訴訟復代理人弁護士丸山隆
同森田聡
東京都三鷹市<以下略>
被告武蔵エンジニアリング株式会社
訴訟代理人弁護士竹田稔
同川田篤
訴訟代理人弁理士須藤阿佐子
同須藤晃伸
訴訟復代理人弁護士服部謙太朗
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙物件目録記載の各装置を製造し,販売し,その販売の申出を
してはならない。
2被告は,前項記載の各装置を廃棄せよ。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,発明の名称を「少量材料分配用装置」とする特許第376238
4号の特許(以下,この特許を「本件特許1」,この特許権を「本件特許権
1」という。)及び特許第3506716号の特許(以下,この特許を「本
件特許2」,この特許権を「本件特許権2」という。)の特許権者である原
告が,被告が別紙物件目録記載の各装置(以下「被告装置」と総称し,ま
た,同目録1記載の装置を「被告装置−1」,同目録2記載の装置を「被告
装置−2」という。)の製造,販売及び販売の申出をする行為が,本件特許
権1,2の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,特許法100条1項,2
項に基づき,被告装置の製造,販売等の差止め及び廃棄を求める事案であ
る。
2争いのない事実
(1)当事者
ア原告は,液体精密制御装置の製造販売を業とするアメリカ合衆国オハ
イオ州法によって設立された会社である。
イ被告は,液体精密制御装置の製造販売を業とする株式会社である。
(2)原告の特許権
ア本件特許権1
(ア)原告は,平成9年7月15日にした特許出願(特願平10−50
7367号)の一部を分割して,平成15年4月28日,発明の名称
を「少量材料分配用装置」とする発明につき特許出願(優先権主張日
平成8年7月17日・優先権主張国米国,特願2003−12387
4号。以下「本件出願1」という。)をし,平成18年1月20日,
本件特許権1の設定登録(請求項の数9)を受けた。
(イ)本件特許1に係る願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「
本件明細書1」という。)の特許請求の範囲の請求項5の記載は,次
のとおりである(以下,請求項5に係る発明を「本件発明1」とい
う。)。
「【請求項5】少量の液体材料を分配する材料分配装置であって,
該材料分配装置は,出口端および該液体材料を受ける入口端を有す
る第一流路と,該第一流路の該出口端の近傍に配置されるバルブ座
と,往復動バルブと,を有するバルブ組立体と,該第一流路の該出
口端に接続される入口部分を有する第二流路と液体材料の流れを分
配するオリフィスを有する出口部分とを備えるノズル組立体と,該
往復動バルブは,第一位置から該バルブ座の側に近い第二位置にま
で急速に移動可能であって,これにより該第一流路における液体材
料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一流路
における液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し込
み,該往復動バルブは,該第二位置から該バルブ座に着座する第三
位置まで急速に移動可能であって,これにより該第二流路を通して
の液体材料の流れが分断され,該オリフィスから分配される液体材
料の流れが該第二流路の該出口部分から離れて液体材料の小滴を形
成することを特徴とする材料分配装置。」
(ウ)本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである。
1−A少量の液体材料を分配する材料分配装置であって,該材料分
配装置は,
1−B出口端および該液体材料を受ける入口端を有する第一流路
と,該第一流路の該出口端の近傍に配置されるバルブ座と,往
復動バルブと,を有するバルブ組立体と,
1−C該第一流路の該出口端に接続される入口部分を有する第二流
路と液体材料の流れを分配するオリフィスを有する出口部分と
を備えるノズル組立体と,
1−D該往復動バルブは,第一位置から該バルブ座の側に近い第二
位置にまで急速に移動可能であって,これにより該第一流路に
おける液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す
一方,該第一流路における液体材料のいくらかを該出口端から
該第二流路に流し込み,
1−E該往復動バルブは,該第二位置から該バルブ座に着座する第
三位置まで急速に移動可能であって,これにより該第二流路を
通しての液体材料の流れが分断され,該オリフィスから分配さ
れる液体材料の流れが該第二流路の該出口部分から離れて液体
材料の小滴を形成する
1−Fことを特徴とする材料分配装置。
イ本件特許権2
(ア)原告は,平成9年7月15日,発明の名称を「少量材料分配用装
置」とする発明につき特許出願(優先権主張日平成8年7月17日・
優先権主張国米国,特願平10−507367号。以下「本件出願
2」という。)をし,平成15年12月26日,本件特許権2の設定
登録(請求項の数6)を受けた。
(イ)本件特許2に係る願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「
本件明細書2」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次
のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明2」とい
う。)。
「【請求項1】少量の液体材料を分配する方法であって,第一流
路(608)の出口端部の近くに配置されたバルブ座(612)と,前記
第一流路内に位置された往復動バルブとを有するバルブ組立体(60
0)を貫通して延在している前記第一流路(608)の入口端部に液体
材料を供給し,前記第一流路(608)の出口端部から前記液体材料を
受け取る入口部分と,前記液体材料を分配する細長いノズルを貫通
して延在しているオリフィス(622)が設けられている出口部分とを
有し,ノズル組立体(602)を貫通して延在している第二流路を,前
記バルブが前記バルブ座(612)から離れた第一位置にあるときに前
記液体材料で満たし,前記バルブを,前記第一位置から,前記第一
位置よりも前記バルブ座(612)へより近づいた第二位置まで,加速
し,それによって,前記第一流路(608)にある前記液体材料の大部
分を前記第一流路の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一
流路内の残りの液体材料を前記出口端部から前記第二流路内へ流し
て前記ノズルの出口から液体材料の流れとして分配させ,前記バル
ブを,前記第二位置から,前記バルブ座(612)と係合して着座する
第三位置に向かって移動させ,それによって,前記第一流路(608)
の入口端部に向かう前記液体材料の流れを減少させるとともに,前
記第二流路を通過する液体材料の流れを増加させ,前記バルブを前
記第三位置に移動して,前記バルブを前記バルブ座(612)に対して
急速に閉鎖し,それによって,前記第二流路を通過する前記液体材
料の流れを止め,前記ノズルの前記出口から分配されている前記液
体材料の流れを前記ノズルの前記出口で分断して小滴にすることを
特徴とする方法。」
(ウ)本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである。
2−A少量の液体材料を分配する方法であって,
2−B第一流路(608)の出口端部の近くに配置されたバルブ座(61
2)と,前記第一流路内に位置された往復動バルブとを有するバ
ルブ組立体(600)を貫通して延在している前記第一流路(60
8)の入口端部に液体材料を供給し,
2−C前記第一流路(608)の出口端部から前記液体材料を受け取る
入口部分と,前記液体材料を分配する細長いノズルを貫通して
延在しているオリフィス(622)が設けられている出口部分とを
有し,ノズル組立体(602)を貫通して延在している第二流路
を,前記バルブが前記バルブ座(612)から離れた第一位置にあ
るときに前記液体材料で満たし,
2−D前記バルブを,前記第一位置から,前記第一位置よりも前記
バルブ座(612)へより近づいた第二位置まで,加速し,それに
よって,前記第一流路(608)にある前記液体材料の大部分を前
記第一流路の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一流
路内の残りの液体材料を前記出口端部から前記第二流路内へ流
して前記ノズルの出口から液体材料の流れとして分配させ,
2−E前記バルブを,前記第二位置から,前記バルブ座(612)と係
合して着座する第三位置に向かって移動させ,それによって,
前記第一流路(608)の入口端部に向かう前記液体材料の流れを
減少させるとともに,前記第二流路を通過する液体材料の流れ
を増加させ,
2−F前記バルブを前記第三位置に移動して,前記バルブを前記バ
ルブ座(612)に対して急速に閉鎖し,それによって,前記第二
流路を通過する前記液体材料の流れを止め,前記ノズルの前記
出口から分配されている前記液体材料の流れを前記ノズルの前
記出口で分断して小滴にする
2−Gことを特徴とする方法。
(3)被告装置の構成
ア被告装置は,次のとおりの構成を備えている。
a少量の液体材料を分配する材料分配装置であって,その材料分配装
置は,
b1バルブシート機構に設けられた出口開口部と,ケーシングに設け
られた前記液体材料の供給源に接続されている入口部分とに渡って
延在する流路と,
b2前記バルブシート機構の前記出口開口部の近傍に配置されるバル
ブシートと,
b3上下方向に往復運動を行うバルブシャフトと,
b4を有するバルブ組立体と,
c前記バルブシート機構の前記出口開口部と流体的に連通するととも
に,液体材料の流れを分配する出口部分を有する円筒形のオリフィス
を備えるノズル機構と,を有しており,
d前記バルブシャフトは,前記往復運動における最も上方の位置(第
一位置)から前記バルブシートに着座する位置(第三位置)まで急速
に移動可能であって,その過程で前記流路における液体材料のうち,
そのバルブシャフトの進行方向に存在する液体材料の一部を前記流路
の周囲に逃がす一方,そのバルブシャフトの進行方向に存在する前記
液体材料の前記一部よりも相対的に少ない残部を前記バルブシート機
構の出口開口部から前記ノズル機構のオリフィスに流し込み,
e前記バルブシャフトが前記バルブシートに着座して,前記オリフィ
スを通しての前記液体材料の流れが分断され,前記オリフィスから分
配される液体材料の流れがそのオリフィスの出口部分から離れて液体
材料の小滴を形成する
fことを特徴とする材料分配装置。
イ被告装置は,本件発明1の構成要件1−A,1−B,1−Fを充足し
ている。
(4)被告装置による少量の液体材料を分配する方法の構成
ア被告装置により少量の液体材料を分配する方法(以下「被告方法」と
いう。)は,次のとおりの構成を備えている。
a少量の液体材料を分配する方法であって,
bバルブシート機構に設けられた出口開口部からケーシングに設けら
れた入口に渡って延在する流路の前記出口開口部の近くに配置された
バルブシートと,前記流路内において上下方向に往復運動を行うバル
ブシャフトとを有するバルブ組立体を貫通して延在している前記流路
の前記入口に液体材料を供給し,
c前記流路の前記出口開口部と流体的に連通するとともに,前記液体
材料を分配する出口部分を有し,ノズル機構を貫通して延在している
円筒形のオリフィスを,前記バルブシャフトが前記バルブシートから
離れて前記往復運動における最も上方の位置(第一位置)にあるとき
に前記液体材料で満たし,
d前記バルブシャフトを,前記第一位置から,前記バルブシートへ向
けて加速し,それによって,前記流路にある前記液体材料を前記流路
の周囲にその一部を流すとともに,前記流路内の前記液体材料の残部
を前記出口開口部から前記オリフィス内へ流して前記ノズル機構の出
口部分から液体材料の流れとして分配させ,
e前記バルブシャフトが前記バルブシートに接近することにより,前
記流路の周囲に向かう前記液体材料の流れが減少し,前記オリフィス
内に入る前記液体材料の流れが増加し,
f前記バルブシャフトを前記バルブシートと係合して着座する位置(
第三位置)に移動して,前記バルブシャフトを前記バルブシートに対
して急速に閉鎖し,それによって,前記オリフィスを通過する前記液
体材料の流れを止め,前記ノズル機構の前記出口部分から分配されて
いる前記液体材料の流れを前記ノズル機構の前記出口部分で分配して
小滴にする
gことを特徴とする方法。
イ被告方法は,本件発明2の構成要件2−A,2−B,2−F,2−G
を充足している。
(5)被告の行為
被告は,業として,被告装置を製造し,販売している。
3争点
本件の争点は,被告装置が本件発明1の構成要件を充足し,本件発明1の
技術的範囲に属するか否か(争点1),被告方法が本件発明2の構成要件を
充足し,本件発明2の技術的範囲に属するか否か(争点2),本件特許1に
無効理由があり,原告の本件特許権1の行使が特許法104条の3第1項に
より制限されるかどうか(争点3),本件特許2に無効理由があり,原告の
本件特許権2の行使が特許法104条の3第1項により制限されるかどう
か(争点4)である。
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(被告装置の構成要件充足性)について
(1)原告の主張
被告装置が本件発明1の構成要件1−A,1−B,1−Fを充足してい
ることは,前記第2の2(3)イのとおりである。
そして,被告装置は,以下のとおり,構成要件1−Cないし1−Eも充
足し,本件発明1の構成要件すべてを充足するから,本件発明1の技術的
範囲に属する。
ア構成要件1−Cについて
(ア)被告装置は,「前記バルブシート機構の前記出口開口部と流体的
に連通するとともに,液体材料の流れを分配する出口部分を有する円
筒形のオリフィスを備えるノズル機構」を有し(前記第2の2(3)ア
c),被告装置の「バルブシート機構の前記出口開口部」,「ノズル
機構」は,構成要件1−Cの「第一流路の該出口端」,「ノズル組立
体」にそれぞれ相当するところ,被告装置のノズル機構には,流動通
路となるべき空洞部があり,当該空洞部にオリフィスが圧入装着され
ている。
そして,被告装置の当該空洞部は,「第一流路の該出口端」に接続
される入口部分を有しているから,構成要件1−Cの「該第一流路の
該出口端に接続される入口部分を有する第二流路」に相当し,また,
当該空洞部に圧入装着されたオリフィスは,ノズル機構の出口部分に
位置しているから,被告装置のノズル機構(ノズル組立体)は,構成
要件1−Cの「液体材料の流れを分配するオリフィスを有する出口部
分」を有している。
したがって,被告装置は,「該第一流路の該出口端に接続される入
口部分を有する第二流路と液体材料の流れを分配するオリフィスを有
する出口部分とを備えるノズル組立体」を有しているから,構成要件
1−Cを充足する。
(イ)被告は,後記(2)アのとおり,被告装置のノズル機構は,「ノズ
ル」に同径のオリフィスが圧入装着され,そのオリフィス中に流動通
路に相当するものが形成され,「該第一流路の該出口端に接続される
入口部分を有する第二流路」と「オリフィスを有する出口部分」とに
分かれていないから,構成要件1−Cを充足しない旨主張する。
しかし,構成要件1−Cは,ノズル組立体は,オリフィスが出口部
分に存在することを規定しているだけで,オリフィスが第二流路の入
口部分に達していることを排除していない。
また,本件明細書1(甲4)には,本件発明1の第2実施形態とし
て,図18に管状受座組立体600が,図19ないし21にノズル組
立体602が図示され,出口開口606について,入口端部604
の「反対側の出口開口606は,ノズル組立体602と連通してお
り」(段落【0052】),「延長ノズル616は,ノズルキャップ
426’の閉塞端450’を貫通して,ボア(内径)448’内に収
容固定される。前記ノズル616は,延長オリフィス622を有する
円筒形管(チューブ)であり」(段落【0053】)との記載があ
る。上記記載によれば,ノズル組立体602には貫通孔448’が存
在し,これによって管状受座組立体600の出口開口606と連通し
ているので,この点が「該第一流路の該出口端に接続される入口部分
を有する第二流路」を意味し,また,延長オリフィス622の下端が
そのままノズル組立体の出口を形成しているから,この点が「液体材
料の流れを分配するオリフィスを有する出口部分」を意味する。
このように本件発明1の第2実施形態では,延長オリフィス622
の内径は一定であり,かつ,延長オリフィス622が閉塞端450’
を貫通して管状受座組立体600の下端に達しているところ,被告装
置の構成は,実質的に第2実施形態と同じであるから,被告装置が構
成要件1−Cを充足することは明らかである。
したがって,被告の上記主張は失当である。
イ構成要件1−Dについて
(ア)被告装置は,「前記バルブシャフトは,前記往復運動における最
も上方の位置(第一位置)から前記バルブシートに着座する位置(第
三位置)まで急速に移動可能であって,その過程で前記流路における
液体材料のうち,そのバルブシャフトの進行方向に存在する液体材料
の一部を前記流路の周囲に逃がす一方,そのバルブシャフトの進行方
向に存在する前記液体材料の前記一部よりも相対的に少ない残部を前
記バルブシート機構の出口開口部から前記ノズル機構のオリフィスに
流し込み」との構成を有しているところ(前記第2の2(3)アd),被
告装置の「バルブシャフト」,「バルブシート」,「バルブシート機
構の出口開口部」,「ノズル機構のオリフィス」は,構成要件1−D
の「往復動バルブ」,「バルブ座」,「(第一流路の)出口端」,「
第二流路」にそれぞれ相当する。
(イ)a構成要件1−Dの「第二位置」は,往復動バルブが,以下に述
べる「最初の段階」から「次の段階」へ移行する時点を意味する。
すなわち,本件発明1においては,「第一位置」から下降する往
復動バルブの下端とバルブ座との間の空間が大きい「最初の段階」
では,液体が放射状に外側に流れ,液体供給源の圧力に逆らって往
復動バルブの周囲を逆流する。この段階では,ノズルの抵抗がある
ために液体はノズルをほとんど通過できない。しかし,往復動バル
ブがバルブ座に接近するにつれて,往復動バルブの下端とバルブ座
との間の空間が小さくなって「次の段階」に達すると,液体が放射
状に外側に流れることに対する抵抗が大きくなり,往復動バルブの
下端とバルブ座との間の空間に高圧が生じる。このようにして生じ
る高圧は液体供給源の圧力よりもはるかに大きいため,ノズルの抵
抗を上回って液体を出口から排出する。そして,液体の排出は,往
復動バルブがバルブ座に着座してバルブ座を閉塞するとともにその
運動も停止することによって終了する。
この「第二位置」の技術的意義は,本件明細書1の記載(段落【
0021】,【0054】,【0056】,【0058】,図1
9,20等)から,往復動バルブが「第一位置」から「第三位置」
まで移動する間に,入口方向に逆流する流れが急激に減少し,同時
に,出口方向に向かう流れが増加する位置であることを理解でき
る。すなわち,本件明細書1には,「本発明によって,少量の液体
を分配する方法を開示する。この方法は,バルブ機構を通って延び
る第1流路の入口末端に液体燃料を供給する工程を含み,バルブ機
構は,第1流路の出口末端の近くに配置されたバルブ座及び第1流
路の中に配置された往復運動バルブを有する。バルブヘッドがバル
ブ座から間隔をおいた第1位置にある時,ノズル機構を通って延び
る第2流路は液体材料で満たされている。第2流路は,第1流路の
出口末端から液体材料を受け取る入口部分,及び液体材料を分配す
る延長ノズルを通って延びるオリフィスを備えた出口部分を有す
る。バルブは第1位置からバルブ座の近くに間隔をおいて配置され
た第2位置に加速され,これによって第1流路中の液体材料の大部
分の一部が第1流路の入口末端に向かって流れ,第1流路中の残り
の液体材料は出口末端から第2流路の中に流れ,延長ノズルの出口
から液体材料の流れとして分配される。バルブは第2位置からバル
ブ座と係合する第3位置に向かって移動し続け,これによって第1
流路の入口末端に向かう液体材料の流れが減少し,第2流路を通る
液体材料の流れが急速に増加する。最後に,バルブは第3位置に移
動してバルブ座に座り,これによって第1流路の入口末端に向かう
液体材料の流れは切られて,延長ノズルの出口から分配される液体
材料の流れはノズルオリフィスの出口末端から切れて,滴を形成す
る。」(段落【0021】),「バルブ432’は,図19に示し
たようにバルブ座612から距離”d”離間した第1ポジション
と,図20に示したように前記第1ポジション”d”よりバルブ座
612に接近して離間した第2ポジション”e”と,図21に示し
たようにバルブ座612と着座係合する第3ポジションと,を有す
る。前記第1ポジション”d”は,バルブ座612から約0.05
0インチの位置に配設される。前記第2ポジション”e”は,ノズ
ルオリフィス622の直径の約3倍より小さい距離に,好ましくは
ノズルオリフィス622の直径の約1.5倍より小さい距離に配置
される。」(段落【0054】),「ノズル616から分配される
流れ(stream)の中に,そのフローを加速させるために働き,その
後,前記流れ(stream)を減速させ,かつ前記流れ(stream)を材
料の滴に分断する力を生成するために,急速に前記シート612に
対して前記バルブ432’を閉じるように働く。」(段落【005
6】),「要求される加速および減速を実現するために,流れは分
配装置を通る複合せん断流れが要求される。バルブ432’は,初
めに,バルブ座612からもっとも遠くに離間した第1位置”d”
から第2位置”e”へ下向きに加速される。・・・バルブ432’
の前速度は,バルブ432’における局部的な高圧をつくるため
に,少なくとも50cm/秒でなければならず,好ましくは,少な
くとも80cm/秒であって,100cm/秒を超えるのがもっと
も好ましい。液体もしくは粘性流体は,チューブ形状素子601の
入口端604すなわち液体もしくは粘性材料供給源に向かってもど
すように,または,出口端6060(注:606の誤記)に向かっ
て移動可能である。その供給源は約10psiで加圧されている
が,交差する流動領域612よりはるかに大きい流動領域(バルブ
軸430’と流動穴607の壁との間の環状領域)の効果により,
材料の多く,すなわち約90%,が供給源に流れ戻る。例えば,コ
ンピュータによる流体の動的シミュレーションでは・・・バルブ4
32’が第2の位置,すなわちシート612からノズル直径の約
1.5∼3倍に近づくにしたがい,バルブ432’とシートとの間
の流動に利用可能な領域がますます制限される。・・・バルブ43
2’がシート612により近く動くにしたがい,バルブとシートと
の間の流動はさらに制限される。これにより,代わりに流量が約7
5%に減少し,供給元に戻ることにより,ノズルからの流出速度が
約20cm/秒に増加する。バルブ432’が第2位置”e”を通
ってバルブ座612へ通じた後,バルブ432’とシート612と
の間の主要な流動制限が存在し,この制限により流動速度は100
cm/秒に近づき,バルブ432’とシート612との間の圧力低
下は約500psiとなる。この段階では,ノズル612の流れ
は,約30cm/秒に加速されている。」(段落【0058】)と
記載されている。そして,上記段落【0058】の「バルブ432
’とシートとの間の流動に利用可能な領域がますます制限される」
という説明と,「交差する流動領域612よりはるかに大きい流動
領域(バルブ軸430’と流動穴607の壁との間の環状領域)の
効果により」という説明とをあわせて理解すれば,「第二位置」の
技術的意義を理解することは容易である。
なお,本件明細書1の「前記延長オリフィス622は,一般的に
は,約0.002∼約0.016インチの間の直径を有してい
る。」(段落【0053】),「バルブ432’が第2の位置,す
なわちシート612からノズル直径の約1.5∼3倍に近づくにし
たがい,バルブ432’とシートとの間の流動に利用可能な領域が
ますます制限される。」(段落【0058】)との記載に照らすな
らば,段落【0054】の「即ち,第2ポジション”e”は,バル
ブ座612から約0.036インチから約0.150インチより小
さく」の部分が「即ち,第2ポジション”e”は,バルブ座612
から約0.006インチから約0.048インチより小さく」の誤
記であることは明らかである。
b構成要件1−Dの「第二位置」は,単純に図面に示される形状に
よって定まる位置ではなく,機能的な観点を加味して定まる位置で
ある。この「第二位置」は,第一流路におけるバルブシャフトと流
路の直径比,ノズルの内径及び長さ,バルブシャフトの加速度など
に影響され,バルブシャフトの加速度は,バルブシャフトの重量と
スプリングの強さに影響される。
そして,被告装置においては,バルブシャフトが「第一位置」か
ら「第三位置」まで移動する間に,液体の逆流量が急激に減少し,
ノズルからの流出量が急激に増加することがシミュレーション(甲
7,8の1ないし18)によって確認されている(被告装置−1に
つき別紙流量グラフ目録1及び2,被告装置−2につき同目録3及
び4)。
この液体の逆流量が急激に減少し,ノズルからの流出量が急激に
増加する位置(別紙流量グラフ目録記載のシミュレーションの条件
下では,1.6ミリ秒付近においてバルブシャフトが存在する位
置)が,被告装置の「第二位置」である。なお,被告装置におい
て,例えば,マイクロ・アジャストを調整することによって,「第
二位置」を変えることは可能であるが,被告装置を使用する限り,
必ず「第二位置」が存在する。
(ウ)以上によれば,被告装置には,バルブシャフト(往復動バルブ)
が「第一位置」から「第三位置」まで移動する間に,液体の逆流量が
急激に減少し,ノズルからの流出量が急激に増加する「第二位置」が
存在し,「該往復動バルブは,第一位置から該バルブ座の側に近い第
二位置にまで急速に移動可能であって,これにより該第一流路におけ
る液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第
一流路における液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し
込み」との構成を有しているから,構成要件1−Dを充足する。
ウ構成要件1−Eについて
被告装置は,「前記バルブシャフトは,前記往復運動における最も上
方の位置(第一位置)から前記バルブシートに着座する位置(第三位
置)まで急速に移動可能であって」(前記第2の2(3)アd),「前記バ
ルブシャフトが前記バルブシートに着座して,前記オリフィスを通して
の前記液体材料の流れが分断され,前記オリフィスから分配される液体
材料の流れがそのオリフィスの出口部分から離れて液体材料の小滴を形
成する」(同e)との構成を有しているところ,被告装置の「バルブシ
ャフト」,「バルブシート」,「オリフィス」は,構成要件1−Eの「
往復動バルブ」,「バルブ座」,「第二流路」にそれぞれ相当する。
そして,被告装置には,前記イ(イ)bのとおり,「第二位置」が存在
する。
したがって,被告装置は,「該往復動バルブは,該第二位置から該バ
ルブ座に着座する第三位置まで急速に移動可能であって,これにより該
第二流路を通しての液体材料の流れが分断され,該オリフィスから分配
される液体材料の流れが該第二流路の該出口部分から離れて液体材料の
小滴を形成する」との構成を有しているから,構成要件1−Eを充足す
る。
エ小括
以上のとおり,被告装置は,本件発明1の構成要件1−Aないし1−
Fをすべて充足するから,本件発明1の技術的範囲に属する。
したがって,被告による被告装置の製造,販売は,本件特許権1の侵
害に当たる。
(2)被告の反論
被告装置は,以下のとおり,本件発明1の構成要件1−Cないし1−E
をいずれも充足しないから,本件発明1の技術的範囲に属さない。
したがって,被告による被告装置の製造,販売は,本件特許権1の侵害
に当たらない。
ア構成要件1−Cについて
被告装置は,以下のとおり,本件発明1の構成要件1−Cを充足しな
い。
(ア)構成要件1−Cにおいては,ノズル組立体は,「入口部分を有す
る第二流路」と「液体材料の流れを分配するオリフィスを有する出口
部分」とを備えることが必要とされており,あえて「入口部分」と「
出口部分」(オリフィス)とを構成として明確に区別して規定した以
上は,一定の技術的意義を有していると解さざるを得ない。
そして,本件明細書1(甲4)の発明の詳細な説明には,「入口部
分」との用語は使われておらず,「入口部98」との用語が図1などが
示す実施例との関係において用いられているのみであり,また,段落【
0026】には,「流路96は,下端部88を通って伸びる流路36
と流動連絡された入口部98を有する。流路96はまた延長ノズルオ
リフィス100を含み,ノズルオリフィス100の上端は,入口部9
8と整列してこれと交差し,ノズルオリフィス100の出口端101
から液体又は粘性材料の流れが分配される。」との記載がある。上記
記載からは,「流路96」は,「入口部98」と「延長ノズルオリフ
ィス100」とから構成されるものと理解され,このように「入口部
分」と「オリフィス」とを区別する構成は,「入口部分」における流
体の速度よりも「出口部分」における流体の速度を上昇させるための
ものであり,「ノズルオリフィス100の出口端101から液体又は
粘性材料の流れが分配される。」との効果も,このような構成から得
られるものと理解される。本件明細書1の図18から21までの実施例
は,「第二流路」の「入口部分」を備えていない点において,本件発明
1の実施例とはいえない。
(イ)以上のとおり,構成要件1−Cにおいては,ノズル組立体には,「
入口部分を有する第二流路」と「液体材料の流れを分配するオリフィ
スを有する出口部分」とを備えることが必要とされるが,被告装置の
ノズルの構成は,同径のオリフィスを有するのみであり,「入口部
分」と「オリフィスを有する出口部分」に分かれていないから,被告
装置は,構成要件1−Cを充足しない。
イ構成要件1−Dについて
被告装置は,以下のとおり,本件発明1の構成要件1−Dを充足しな
い。
(ア)構成要件1−Dの「第二位置」,「大部分」及び「いくらか」の
用語の技術的意義は,本件明細書1の記載を参酌しても,いずれも明
らかではない。そのため,被告装置においては「第二位置」を定める
ことができず,「第二位置」が存在しているとはいえないし,また,
被告装置における液体の流量が「大部分」及び「いくらか」の構成を
充足しているともいえない。
(イ)原告は,構成要件1−Dの「第一流路の該入り口端方向に流す」
とは,「逆流」が生じること,「第二位置」とは,逆流量(逆流の
量)が減少し,ノズルからの流出量(ノズルの流量)が増加する位置
をいい,この「第二位置」は,装置の一定の位置に固定されるもので
はなく,シミュレーションにより機能的に定まる旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
まず,本件発明1の特許請求の範囲(請求項5)には,「第二位
置」において逆流の量が「減少」し,ノズルの流量が「増加」してい
るとの記載はなく,特許請求の範囲(請求項5)の記載からは「第二
位置」において,逆流の量が「増加」しているか,ノズルの流量が「
減少」しているかは,問題とはならないはずである。
次に,本件明細書1の発明の詳細な説明には,「第二位置」におい
て,「逆流」の量が「約90%」から「約75%」に減少し,他
方,「ノズル」の流速(ノズルの径は同じなので,「流速」は同時
に「流量」の変化を示している。)が「約10cm/秒」から「約2
0cm/秒」に増加している旨の記載(段落【0058】)がある。
この記載によれば,「第二位置」に到達するよりも前に「逆流」の量
は既に減少を開始し,「第二位置」において既に約15%(「約90
%」−「約75%」)流量が減少した状態にあり,他方で,「第二位
置」に到達するよりも前に「ノズル」の流量も既に少しずつ増加して
いるのであるから,「逆流」が最大値を示す位置を「第二位置」とし
ているわけではない。したがって,被告装置のシミュレーション(甲
7,8の1ないし18)において逆流が最大になる「1.6ミリ秒」
付近が「第二位置」であるとの原告の主張は,本件明細書1の発明の
詳細な説明の記載と一致しない。
さらに,構成要件1−Dによれば,「第二位置」において,「大部
分」が「逆流」し,「いくらか」がノズルを流れれば足りるのであ
り,その「大部分」及び「いくらか」とはどの程度の流量をいうのか
明確ではないが,仮に「大部分」及び「いくらか」が相対的な大小を
いうとすれば,原告主張の被告装置のシミュレーションにおいては「
逆流」の量が最大になる位置を過ぎても,なお「大部分」が逆流して
いるので,この点からも,「第二位置」は,原告が被告装置の関係で
主張する「逆流」が最大値を示す位置とはいえない。
以上のとおり,構成要件1−Dの「第二位置」は,その技術的意義
が明らかでなく,不明確であるため,たとえシミュレーションをした
ところで,機能的に定まるものではないから,原告の上記主張は,失
当である。
ウ構成要件1−Eについて
構成要件1−Eの「前記第二位置」は,構成要件1−Dの「第二位
置」を意味するところ,前記イのとおり,被告装置には構成要件1−D
の「第二位置」が存在しているといえないから,被告装置は,構成要件
1−Eを充足しない。
2争点2(被告方法の構成要件充足性)について
(1)原告の主張
被告方法が本件発明2の構成要件2−A,2−B,2−F,2−Gを充
足していることは,前記第2の2(4)イのとおりである。
そして,被告方法は,以下のとおり,構成要件2−Cないし2−Eも充
足し,本件発明2の構成要件すべてを充足するから,本件発明2の技術的
範囲に属する。
ア構成要件2−Cについて
(ア)被告方法は,「前記流路の前記出口開口部と流体的に連通すると
ともに,前記液体材料を分配する出口部分を有し,ノズル機構を貫通
して延在している円筒形のオリフィスを,前記バルブシャフトが前記
バルブシートから離れて前記往復運動における最も上方の位置(第一
位置)にあるときに前記液体材料で満たし」との構成を有するとこ
ろ(前記第2の2(4)アc),被告方法の「流路」の「出口開口
部」,「ノズル機構」,「バルブシャフト」,「バルブシート」は,
構成要件2−Cの「第一流路」の「出口端部」,「ノズル組立
体」,「バルブ」,「バルブ座」にそれぞれ相当する。
したがって,被告方法は,「前記第一流路(608)の出口端部から前
記液体材料を受け取る入口部分と,前記液体材料を分配する細長いノ
ズルを貫通して延在しているオリフィス(622)が設けられている出口
部分とを有し,ノズル組立体(602)を貫通して延在している第二流路
を,前記バルブが前記バルブ座(612)から離れた第一位置にあるとき
に前記液体材料で満たし」との構成を有しているから,構成要件2−
Cを充足する。
(イ)被告は,後記(2)アのとおり,被告方法のノズル機構は,「ノズ
ル」に同径のオリフィスが圧入装着され,そのオリフィス中に流動通
路に相当するものが形成され,「第二流路」が,「前記第一流路(60
8)の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分」と「オリフィ
ス(622)が設けられている出口部分」とに分かれていないから,構成
要件2−Cを充足しない旨主張する。
しかし,本件明細書2(甲6)には,本件発明2の第2実施形態と
して,図18に管状受座組立体600が,図19ないし21にノズル
組立体602が図示され,出口開口606について,入口端部604
の「反対側の出口開口606は,ノズル組立体602と連通してお
り」(26欄2行∼3行),「延長ノズル616は,ノズルキャップ
426’の閉塞端450’を貫通して,ボア(内径)448’内に収
容固定される。前記ノズル616は,延長オリフィス622を有する
円筒形管(チューブ)であり」(26欄8行∼12行)との記載があ
る。上記記載によれば,ノズル組立体602には貫通孔448’が存
在し,これによって管状受座組立体600の出口開口606と連通し
ているので,この点が「前記第一流路(608)の出口端部から前記液体
材料を受け取る入口部分」を有する「第二流路」を意味し,また,延
長オリフィス622の下端がそのままノズル組立体の出口を形成して
おり,この点が「前記液体材料を分配する細長いノズルを貫通して延
在しているオリフィス(622)が設けられている出口部分」を意味す
る。このように第2実施形態では,延長オリフィス622の内径は一
定であり,かつ,延長オリフィス622が閉塞端450’を貫通して
管状受座組立体600の下端に達しているところ,被告方法の構成
は,実質的に第2実施形態と同じであるから,被告方法が構成要件2
−Cを充足することは明らかである。
したがって,被告の上記主張は失当である。
イ構成要件2−Dについて
(ア)被告方法は,「前記バルブシャフトを,前記第一位置から,前記
バルブシートへ向けて加速し,それによって,前記流路にある前記液
体材料を前記流路の周囲にその一部を流すとともに,前記流路内の前
記液体材料の残部を前記出口開口部から前記オリフィス内へ流して前
記ノズル機構の出口部分から液体材料の流れとして分配させ,」との
構成を有するところ(前記第2の2(4)アd),被告方法の「バルブシ
ャフト」,「バルブシート」,「流路」,「出口開口部」,「オリフ
ィス」,「ノズル機構の出口部分」は,構成要件2−Dの「バル
ブ」,「バルブ座」,「第一流路」,「出口端部」,「第二流
路」,「ノズルの出口」にそれぞれ相当する。
(イ)構成要件2−Dの「第二位置」は,構成要件1−Dの「第二位
置」と同様に(前記1(1)イ),往復動バルブが,以下に述べる「最初
の段階」から「次の段階」へ移行する時点を意味する。
すなわち,本件発明2においては,「第一位置」から下降する往復
動バルブの下端とバルブ座との間の空間が大きい「最初の段階」で
は,液体が放射状に外側に流れ,液体供給源の圧力に逆らって往復動
バルブの周囲を逆流する。この段階では,ノズルの抵抗があるために
液体はノズルをほとんど通過できない。しかし,往復動バルブがバル
ブ座に接近するにつれて,往復動バルブの下端とバルブ座との間の空
間が小さくなって「次の段階」に達すると,液体が放射状に外側に流
れることに対する抵抗が大きくなり,往復動バルブの下端とバルブ座
との間の空間に高圧が生じる。このようにして生じる高圧は液体供給
源の圧力よりもはるかに大きいため,ノズルの抵抗を上回って液体を
出口から排出する。そして,液体の排出は,往復動バルブがバルブ座
に着座してバルブ座を閉塞するとともにその運動も停止することによ
って終了する。
この「第二位置」の技術的意義は,往復動バルブが「第一位置」か
ら「第三位置」まで移動する間に,入口方向に逆流する流れが急激に
減少し,同時に,出口方向に向かう流れが増加する位置である。
そして,被告方法においては,バルブシャフトが「第一位置」か
ら「第三位置」まで移動する間に,液体の逆流量が急激に減少し,ノ
ズルからの流出量が急激に増加することがシミュレーション(甲7,
8)によって確認されており,この位置(別紙流量グラフ目録記載の
シミュレーションの条件下では,1.6ミリ秒付近においてバルブシ
ャフトが存在する位置)が,被告方法における「第二位置」である。
(ウ)以上によれば,被告方法には,バルブシャフト(往復動バルブ)
が「第一位置」から「第三位置」まで移動する間に,液体の逆流量が
急激に減少し,ノズルからの流出量が急激に増加する「第二位置」が
存在し,「前記バルブを,前記第一位置から,前記第一位置よりも前
記バルブ座(612)へより近づいた第二位置まで,加速し,それによっ
て,前記第一流路(608)にある前記液体材料の大部分を前記第一流路
の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体
材料を前記出口端部から前記第二流路内へ流して前記ノズルの出口か
ら液体材料の流れとして分配させ」との構成を有しているから,構成
要件2−Dを充足する。
ウ構成要件2−Eについて
被告方法は,「前記バルブシャフトが前記バルブシートに接近するこ
とにより,前記流路の周囲に向かう前記液体材料の流れが減少し,前記
オリフィス内に入る前記液体材料の流れが増加し」との構成を有すると
ころ(前記第2の2(4)アe),被告方法の「バルブシャフト」,「バル
ブシート」,「流路」,「オリフィス」は,構成要件2−Eの「バル
ブ」,「バルブ座」,「第一流路」,「第二流路」にそれぞれ相当す
る。
そして,被告方法には,前記イのとおり,「第二位置」が存在する。
したがって,被告方法は,「前記バルブを,前記第二位置から,前記
バルブ座(612)と係合して着座する第三位置に向かって移動させ,それ
によって,前記第一流路(608)の入口端部に向かう前記液体材料の流れ
を減少させるとともに,前記第二流路を通過する液体材料の流れを増加
させ,」との構成を有しているから,構成要件2−Eを充足する。
エ小括
以上のとおり,被告方法は,本件発明2の構成要件2−Aないし2−
Gをすべて充足するから,本件発明2の技術的範囲に属する。
そして,被告装置は,被告方法の使用にのみ用いる物であるから,被
告による被告装置の製造,販売は,特許法101条4号により,本件特
許権2を侵害するものとみなされる。
(2)被告の反論
被告方法は,以下のとおり,本件発明2の構成要件2−Cないし2−E
をいずれも充足しないから,本件発明2の技術的範囲に属さない。
したがって,被告による被告装置の製造,販売は,本件特許権2を侵害
するものとみなされる行為に当たらない。
ア構成要件2−Cについて
本件発明2の構成要件2−Cの「第二流路」は「前記第一流路(608)
の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分」と「オリフィス(62
2)が設けられている出口部分」を有することが必要であるところ,被告
方法は,「第一流路」が「第二流路」の「出口部分」であるオリフィス
と直接に連通した構成であり,「第二流路」が「前記第一流路(608)の
出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分」を備えていない。
したがって,被告方法は,構成要件2−Cを充足しない。
イ構成要件2−Dについて
(ア)構成要件2−Dの「第二位置」,「大部分」及び「残りの」の用
語の技術的意義は,本件明細書2の記載を参酌しても,いずれも明ら
かではない。そのため,被告方法においては「第二位置」を定めるこ
とができず,「第二位置」が存在しているとはいえないし,また,被
告装置における液体の流量が「大部分」及び「残りの」の構成を充足
しているともいえない。
(イ)これに対し原告は,「第二位置」とは,逆流量が減少し,ノズル
からの流出量が増加する位置をいい,この「第二位置」は,装置の一
定の位置に固定されるものではなく,シミュレーションにより機能的
に定まる旨主張するが,上記主張は,前記1(2)イ(イ)と同様の理由に
より,理由がない。
(ウ)したがって,被告方法は,構成要件2−Dを充足しない。
ウ構成要件2−Eについて
構成要件2−Eの「前記第二位置」は,構成要件2−Dの「第二位
置」を意味するところ,前記イのとおり,被告方法には構成要件2−D
の「第二位置」が存在しているといえないから,被告方法は,構成要件
2−Eを充足しない。
3争点3(本件特許権1に基づく権利行使の制限の成否)について
(1)被告の主張
本件特許1には,以下のとおり無効理由があり,特許無効審判により無
効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定によ
り,原告は,被告に対し,本件特許権1を行使することができない。
ア無効理由1(新規性の欠如①)
本件発明1は,以下のとおり,本件出願1の優先権主張日(平成8年
7月17日)前に頒布された刊行物である乙4(米国特許第40661
88号明細書)に記載された発明と同一であるから,本件特許1には,
特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)が
ある。
(ア)乙4には,①請求項1として,「高温の粘性液体を加圧源から基
材上に押出し吐出する接着剤分配装置において,内部を貫いて形成さ
れた中心ボアを有する本体;前記中心ボアに接続され,粘性液体を前
記中心ボアに供給する前記本体内の通路手段;前記中心ボアの一端に
取り付けられたバルブシート;前記中心ボア内に,前記バルブシート
と動作係合するように配設された可動のバルブ機構;前記バルブシー
ト内に形成された通路;前記バルブ機構が前記バルブシート内の通路
を通る前記粘性流体の流れを動作制御すること;前記本体内に前記中
心ボアと隣接して形成され,加熱手段が内部に配設されたヒータボア
;及び前記本体内で前記加熱手段と前記中心ボアとの間に形成された
複数の平行ボアで,前記バルブ機構と同心円状に配置され,熱交換手
段として機能する複数の平行ボア;から成る接着剤分配装置。」(訳
文・5頁15行∼6頁1行),②「本発明はある表面への液体の塗布
に関し,特に押出しあるいは吹出しされた物質をビーズ,リボンまた
は小サイズの単位付着物として,高速の製造条件下において所望のパ
ターンで塗布するのに用いられる装置に関する。」(訳文・1頁15
行∼17行),③「本発明の主目的は,溶融接着剤塗布器の吐出ノズ
ルに隣接して配置される新規の熱交換器であって,接着剤を基材上に
分配する直前に,接着剤の温度を高めた温度に上昇させ維持する熱交
換器を提供することにある。本発明の別の目的は,マニホールド形状
の熱交換器であって,接着剤がマニホールド内に配設されたヒ−タか
ら伝達された最大量の熱を吸収するように形成された接着剤用の流体
流路を有する熱交換器を提供することにある。本発明の更に別の目的
は,マニホールド形状の新規な熱交換器であって,マニホールドの中
心ボアに配設されたバルブエレメントを周方向から取り囲む熱交換器
を提供することにある。この実施態様は,バルブのすぐ近くに隣接す
る溶融接着剤が液体状態に維持されることにより,液状の接着剤が固
化点にまで冷却され,塗布バルブの機能動作を妨げるという問題の解
消を保証する。」(訳文・2頁8行∼18行),④「本体つまりマニ
ホールドブロック11は,それを貫通して形成された段状ボア14を
有し,段状ボア14はマニホールド11に形成された複数の並行ボア
つまり通路によって入口ポート15に接続されている。バルブ機構1
7が段状ボア14を貫いて延び,マニホールドブロック11の一端に
取り付けられたノズル機構13と動作連通している。」(訳文・3頁
3行∼7行),⑤「出口ノズル機構13は,不図示の小ネジによって
マニホールドブロック11に密封固定されたエンドプレート25を有
する。エンドプレート25は段状ボア26を備え,段状ボア26の一
端にバルブシート27が圧入されている。出口ノズル28が,ネジ切
り保持ナット29によりエンドプレート25に密封固定されている。
バルブエレメント19は圧縮バネ30によってバルブシート27と係
合する閉位置に付勢され,圧縮バネ30は作動ロッド18のフランジ
部31とモータハウジング(ブロック)22内の段状ボア32の一端
とに対して作用している。」(訳文・3頁16行∼22行),⑥「接
着剤分配装置の所望の動作回数を制御する調整可能なタイミング手段
が設けられ,接着剤分配装置から分配される接着剤の単位付着物のサ
イズを決める時間間隔の持続時間を定める。ホットメルト接着剤は,
マニホールドブロック11の入口ポート15から環状通路24内へ入
り,平行ボアつまり流体通路16を介し,段状ボア14の上端に至る
ように加圧ポンプ給送される。」(訳文・4頁21行∼26行),
⑦「エアモータ機構12が作動しバルブ機構17を往復移動させる
と,接着剤が段状ボア47及びノズル28の出口孔50を介して分配
される。」(訳文・5頁2行∼3行)等の記載がある。
(イ)本件発明1の構成要件1−Dの「第二位置」,「大部分」及び「
いくらか」の技術的意義はいずれも明確ではない。
しかし,本件発明の液体の流れの傾向は,構成要件1−Dにあると
おり,バルブが「第一位置」からバルブ座に向けて下降する際に,①
第一流路の液体材料の「大部分」を第一流路の入り口端方向に流すこ
と,②第一流路の液体材料の「いくらか」を出口端から第二流路に流
し込むことという単純なものである。このような流れの傾向は,流体
における質量保存則(流体の流入量と流出量とが常に等しいという法
則)に基づく流れの傾向を描写したにすぎず,流動抵抗を考慮して
も,容易に予想される流れにすぎない。すなわち,このような液体材
料の流れは,ノズルから流れた液体材料以外はすべて入口端(又は入
口端部)に向けて流れざるを得ず,それは,流体における質量保存則
そのものであり,また,流動抵抗を考えても,ノズルの径が小さいこ
とから,バルブシート(又はバルブ座)に着座する直前までは,ノズル
から流れ出る液体材料はわずかであることも容易に予想することができ
る。
また,A作成の鑑定意見(乙38,43)によれば,このような液体
の流れは,乙4記載の装置においても容易に予測され,乙4記載の装
置,乙5記載の装置及び乙22記載の装置に係るシミュレーション(
乙31ないし33)の結果は,上記予測を適正に反映するものであ
る。
そうすると,構成要件1−Dの「第二位置」は,バルブが「第一位
置」からバルブ座に着座する「第三位置」までの間のいずれかの位置に
存在し,「大部分」と「いくらか」は,単に液体材料の流れ(流量)の
相対的な大小をいうにすぎないものと解される。
(ウ)前記(イ)の構成要件1−Dの「第二位置」,「大部分」及び「い
くらか」の解釈を前提に,上記(ア)の各記載と図1(FIG.1)及
び図2(FIG.2)を総合すると,乙4には,次のような発明(以
下「乙4発明①」という。)が記載されている。
a少量の接着剤を分配する分配装置であって,その分配装置は,
b出口端(バルブシート27中の流路の下端)及び該接着剤を受け
る入口端(入口ポート15)を有する第一流路(マニホールドブロ
ック11内,段状ボア14内,スリーブ23内,エンドプレート2
5内,バルブシート27内などに形成される。)と,該第一流路の
該出口端の近傍に配置されるバルブ座(バルブシート27の部材の
うちバルブエレメント19が着座する箇所)と,往復動バルブ(バ
ルブ機構17)と,を有するバルブ組立体と,
c該第一流路の該出口端に接続される入口部分を有する第二流路(
出口ノズル28中の流路)と液体材料の流れを分配するオリフィ
ス(出口ノズル28内の流路の内径が小さい下端の部分)を有する
出口部分とを備えるノズル組立体と,
d該往復動バルブは,第一位置から該バルブ座の側に近い第二位置
にまで急速に移動可能であって,これにより該第一流路における液
体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一
流路における液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し
込み,
e該往復動バルブは,該第二位置から該バルブ座に着座する第三位
置まで急速に移動可能であって,これにより該第二流路を通しての
液体材料の流れが分断され,該オリフィスから分配される液体材料
の流れが該第二流路の該出口部分から離れて液体材料の小滴を形成
する
fことを特徴とする材料分配装置。
(エ)これに対し原告は,乙4発明①は,供給源の圧力で液体を分配す
る装置であって,バルブが開いている時間間隔の制御によって液体の
分配量を制御するものであり,液体材料の供給圧力が高く,バルブが
開いているときに常に材料が流出しているはずであり,バルブが下降
する際に逆流が生じる構成のものではない旨主張する。
しかし,乙4には,バルブが開いているときに,「常に」材料が流
出していることを理解することができる記載はない。
また,乙4発明①では,ホットメルトを使用しているが,ホットメ
ルトを使用しているガン・ユニットにおいても,「約2.5㎏/c
㎡」(約35psi)程度の低い圧力において使用することがあるこ
と(乙39の10頁2行∼3行)に照らせば,乙4発明①において
も,バルブが開いているときに,「常に」材料が流出していると理解
することは困難である。
したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,失当
である。
(オ)そして,乙4発明①の構成aないしfは,本件発明1の構成要件
1−Aないし1−Fにそれぞれ相当するから,本件発明1は,乙4発
明①と同一である。
イ無効理由2(新規性の欠如②)
本件発明1は,以下のとおり,本件出願1の優先権主張日(平成8年
7月17日)前に頒布された刊行物である乙5(独国特許出願公開第4
013323号明細書)に記載された発明と同一であるから,本件特許
1には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項
2号)がある。
(ア)乙5には,①請求項1として,「分配すべき物質を供給する供給
ボアと接続する貫通ボアと,ボアに軸線方向へ摺動自在に支持された
アンカおよび位置不変のストローク制限部材からなるパルス状に駆動
される分配ピストンとを有し,支持部材に設置されたバルブ体を有
し,1つまたは複数の流動性のまたは流動化可能な物質,特に,接着
剤,加熱接着剤,インキ,ラッカなどを分配する分配バルブであっ
て,貫通ボアが,分配すべき物質の出口範囲において,分配ボアに狭
窄される形式のものにおいて,供給ボア(9,9’)が,アンカ(
5)を受容する貫通ボア(3)の上端に設けてあることを特徴とする
分配バルブ。」(訳文・7頁14行∼20行),②請求項5とし
て,「分配部材(20)には,ネジナット(22)によって分配部
材(20)の雄ネジに固定され分配ボア(8)を形成する分配スリー
ブ(21)が設けてあり,この場合,分配スリーブ(21)が,下端
に,分配媒体のための出口(23)を有することを特徴とする請求項
1−4の1つまたは複数に記載の分配バルブ。」(訳文・8頁1行∼
4行),③「本発明は,分配すべき物質を供給する供給ボアと接続す
る貫通ボアと,ボアに軸線方向へ摺動自在に支持されたアンカおよび
位置不変のストローク制限部材からなるパルス状に駆動される分配ピ
ストンとを有しかつ支持部材に設置されたバルブ体を有し,1つまた
は複数の流動性のまたは流動化可能な物質,特に,接着剤,加熱接着
剤,インキ,ラッカなどを分配する分配バルブであって,貫通ボア
が,分配すべき物質の出口範囲において,分配ボアに狭窄される形式
のものに関する。」(訳文・2頁12行∼17行),④「貫通ボア(
3)は,分配バルブの出口範囲において,狭窄されて分配ボア(8,
8’)に移行する。分配すべき物質の供給は,供給ボア(9)を介し
て,あるいは,別の方式として,バルブを直列に配置した場合に,例
えば,非接触で横方向接着剤塗布のため,破線で示したボア(9’)
を介して行われる。バルブ体(1)は,合目的的には,バルブ体に着
脱自在に結合された分配ヘッド(10)と,調整ヘッド(11)とを
有する。バルブ体(1)は,電磁コイル(13)の電気接続片(12
’)を固定したスリーブまたはカバースリーブ(12)によって囲ま
れている。好ましくは六角形に構成されたアンカ(5)は,ボア(
3)に同心に配置されかつ絶縁材料製スリーブまたは埋込部材(1
4)によって分離された電磁コイル(13)と作用結合する。アン
カ(5)は,アンカ受容ボア(3)内に上下動自在に設けてあり,そ
の下端に,好ましくは,プラスチックからなり密封円錐体を有するこ
とができるバルブヘッド(15)を備えている。バルブヘッド(1
5)は,バルブ座(14’)と作用共働して,縮小された貫通ボア(
3’)を密封する。好ましくはプラスチックからなるバルブ座(14
’)が,コイル埋込部材(14)の構成部分であれば極めて有利であ
る。」(訳文・4頁25行∼5頁11行),⑤「分配ヘッド(10)
は,有利な簡単な組込のため,雄ネジによって支持部材(2)に螺着
できるよう構成され,スリーブ(12)またはその閉鎖リング(12
’’)を上端に支持したノズル部材(20)からなる。分配部材(2
0)には,ネジナット(22)によって分配部材(20)の雄ネジに
固定され分配ボア(8,8’)を形成する分配スリーブ(21)が設
けてある。分配スリーブ(21)は,下端に,分配媒体の出口(2
3)を有する。ボア(3,3’)および分配ボア(8,8’)または
コイル埋込部材(14)および分配スリーブ(21)は,密封リン
グ(24)によって,分配材料の逸出が防止されるよう構成されてい
る。」(訳文・5頁23行∼6頁3行),⑥「本発明に係る分配バル
ブは,塗布ヘッドまたは塗布バーまたは塗布フレーム(図示しない)
の構成部分であってよく,この場合,場合によっては,所定のパター
ンにもとづき複数の同一の分配バルブを設けることもできる。このよ
うな塗布ヘッドを使用して,1つまたは複数の分配バルブの補助下
で,対向する対象物上に,滴状または線状に分配された低温接着剤を
塗布でき,特に,加熱によって流動化した接着剤,即ち,加熱接着
剤,インキ,ラッカなどを,所定のパターンにもとづき,滴状または
線状に塗布することもできる。」(訳文・7頁2行∼7行)等の記載
がある。
(イ)前記ア(イ)の構成要件1−Dの「第二位置」,「大部分」及び「
いくらか」の解釈を前提に,上記(ア)の各記載と図1(FIG.1)
を総合すると,乙5には,次のような発明(以下「乙5発明①」とい
う。)が記載されている。
a少量の接着剤を分配する分配装置であって,その接着剤分配装置
は,
b出口端(バルブ座14中の流路の下端)及び前記接着剤を受ける
入口端(供給ボア9)を有する第一流路(バルブ座14内などに形
成される。)と,その第一流路のその出口端の近傍に配置されるバ
ルブ座(バルブ座14の部材のうちバルブヘッド15が着座する箇
所)と,往復動バルブ(アンカ5)と,を有するバルブ組立体と,
c前記第一流路の前記出口端に接続される入口部分を有する第二流
路(分配ヘッド10中の流路)と液体材料の流れを分配するオリフ
ィス(分配スリーブ21の先端)を有する出口部分(出口23)と
を備えるノズル組立体と,
d前記往復動バルブは,第一位置から前記バルブ座の側に近い第二
位置にまで急速に移動可能であって,これにより前記第一流路にお
ける液体材料の大部分をその第一流路の前記入口端方向に流す一
方,その第一流路における液体材料のいくらかを前記出口端から前
記第二流路に流し込み,
e前記往復動バルブは,前記第二位置から前記バルブ座に着座する
第三位置まで急速に移動可能であって,これにより前記第二流路を
通しての液体材料の流れが分断され,前記オリフィスから分配され
る液体材料の流れがその第二流路の前記出口部分から離れて液体材
料の小滴を形成する
fことを特徴とする材料分配装置。
(ウ)これに対し原告は,乙5発明①は,供給源の圧力で液体を分配す
る装置であって,バルブが開いている時間間隔の制御によって液体の
分配量を制御するものであり,液体材料の供給圧力が高く,バルブが
開いているときに常に材料が流出しているはずであり,バルブが下降
する際に逆流が生じる構成のものではない旨主張する。
しかし,乙5には,バルブが開いているときに,「常に」材料が流
出していることを理解することができる記載はないから,原告の上記
主張は,その前提を欠くものであり,失当である。
(エ)そして,乙5発明①の構成aないしfは,本件発明1の構成要件
1−Aないし1−Fにそれぞれ相当するから,本件発明1は,乙5発
明①と同一である。
ウ無効理由3(新規性の欠如③)
本件発明1は,以下のとおり,本件出願1の優先権主張日(平成8年
7月17日)前に頒布された刊行物である乙22(特開平5−2644
12号公報)に記載された発明と同一であるから,本件特許1には,特
許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)があ
る。
(ア)乙22には,①「液体がノズル放出口(3)を通してノズル(
2)から少量,パルス方式でターゲット(5)へ放出される分析液
体(7)のターゲットへの供給装置であって,分析液体が加圧下に保
持される圧力チャンバー(1)からなり,圧力チャンバー(1)から
ノズル放出口(3)までの液体の流路にバルブ口(23)と,バルブ
口(23)の開閉のための位置決め素子(12)によって動く閉鎖素
子(13)とを有するバルブユニット(11)が備えられ,および,
バルブ口が閉鎖するあいだ,閉鎖素子(13)の動きによって液体の
放出が維持されるようにバルブユニット(11)が組み立てられてい
ることを特徴とする装置。」(【請求項1】),②「本発明は,液体(
fluid)がノズル放出口を通してノズルから少量,パルス方式でターゲ
ットへ放出される,分析液体のターゲットへの調整供給(proportioned
feeding)装置に関する。」(段落【0001】),③「本発明の目的
は,前記の不都合を避け,分析液体のために現在まで通常に使用され
る“ドロップオンデマンド”法のばあいよりも実質的に多い,しか
し一方では,希釈器やディスペンサーで現在まで成し遂げられる最少
量よりも少ない,厳密に決められた量の,分析液体の特定量を生じ(ge
nerate)させうるような,分析液体のターゲットへの供給装置を提供す
ることである。」(段落【0008】),④「分析液体7は圧力チャ
ンバー1中で加圧下に保持される。分析液体は,圧力発生デバイス9
により,接続しているブランチ6aを経由して貯蔵容器6から供給さ
れる。」(段落【0017】),⑤「圧力チャンバー1とノズル放出
口3の間の液圧連結はバルブユニット11により開口および閉鎖され
うる。バルブユニット11(図1ではバルブが開口位置にある状態を
示し,また以下,単にバルブともいう)は,位置決め素子12によっ
て動かされる閉鎖素子13からなり,バルブユニット11が閉鎖位置
にある状態では,前記閉鎖素子13の環状のシーリングリム(sealing
rim)15は,同じく環状のシーリングシート(sealingseat)17
に板封じ方式で押しつけられている。シーリングリム15に囲まれた
領域は閉鎖領域19を意味する。」(段落【0018】),⑥「ノズ
ル放出口3の方向においてシーリングシート17の前に,ノズルプレ
−チャンバー4が配されている。これは,バルブ放出口とバルブ口2
3(バルブ開口時)を除いてふさがっている。」(段落【0019
】),⑦「閉鎖領域19はノズル放出口3より広い。これは閉鎖素子
13が閉鎖する間“液圧加速(hydraulicgearingup)”あるいは“
液圧伝動(hydraulictransmission)”を引きおこす,言い換えれ
ば,閉鎖素子13が閉鎖する間,閉鎖素子13がノズル放出口3の方
向へ動くよりもかなり速く,液体がノズル放出口3を通って移動す
る。それによって,閉鎖素子13の比較的ゆっくりした動きによって
バルブ11が閉鎖する間,液体の放出がとくによく維持され促進され
る。」(段落【0021】),⑧「本発明においてとくに重要な点
は,液圧加速にある。インクジェット技術(いわゆる“ジェッティン
グ(jetting)”)において,要求される液体の放出を確実にするため
には,ノズル内での流速が少なくとも1m/sでなければならない。
本発明において,液体の流れの正確な中断を達成するためにはバルブ
の閉鎖する間も同様に高速度が要求されることが見出された。」(段
落【0022】),⑨「液圧加速が有効であるためには,バルブ11
のバルブ口23,これはシーリングリム15とシーリングシート17
との間の環状のすきまによって形成されるが,その開口横断面(openi
ngcross-section)が閉鎖領域19よりも小さい方が有利であ
る。」(段落【0024】)等の記載がある。
(イ)前記ア(イ)の構成要件1−Dの「第二位置」,「大部分」及び「
いくらか」の解釈を前提に,上記(ア)の各記載と図1を総合すると,
乙22には,次のような発明(以下「乙22発明①」という。)が記
載されている。
a少量の分析液体を分配する分配装置であって,その分配装置は,
b出口端(圧力チャンバー1とノズルプレ−チャンバー4との境界
部分)及び該液体を受ける入口端(ブランチ6aが圧力チャンバー
1において開口する部分)を有する第一流路(圧力チャンバー1)
と,該第一流路の該出口端の近傍に配置されるバルブ座(シーリン
グシート17のうち,閉鎖素子13が着座する箇所)と,往復動バ
ルブ(閉鎖素子13)と,を有するバルブ組立体と,
c該第一流路の該出口端に接続される入口部分(ノズルプレ−チャ
ンバー4)を有する第二流路(ノズル2内の流路)と液体の流れを
分配するオリフィス(ノズル2のうちノズル放出口3の径と同径の
部分)を有する出口部分とを備えるノズル組立体と,
d該往復動バルブは,第一位置から該バルブ座の側に近い第二位置
にまで急速に移動可能であって,これにより該第一流路における液
体の大部分を該第一流路の該入口端方向に流す一方,該第一流路に
おける液体のいくらかを該出口端から該第二流路に流し込み,
e該往復動バルブは,該第二位置から該バルブ座に着座する第三位
置まで急速に移動可能であって,これにより該第二流路を通しての
液体の流れが分断され,該オリフィスから分配される液体の流れが
該第二流路の該出口部分から離れて液体材料の小滴を形成する
fことを特徴とする材料分配装置。
(ウ)これに対し原告は,乙22発明①は,供給源の圧力で液体を分配
する装置であって,バルブが開いている時間間隔の制御によって液体
の分配量を制御するものであり,液体材料の供給圧力が高く,バルブ
が開いているときに常に材料が流出しているはずであり,バルブが下
降する際に逆流が生じる構成のものではない旨主張する。
しかし,乙22には,バルブが開いているときに,「常に」材料が
流出していることを理解することができる記載はないから,原告の上
記主張は,その前提を欠くものであり,失当である。
(エ)そして,乙22発明①の構成aないしfは,本件発明1の構成要
件1−Aないし1−Fにそれぞれ相当するから,本件発明1は,乙2
2発明①と同一である。
エ無効理由4(新規性の欠如④)
本件発明1は,以下のとおり,本件出願1の優先権主張日(平成8年
7月17日)前に頒布された刊行物である乙23(独国特許出願公開第
4202561号明細書)に記載された発明と同一であるから,本件特
許1には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1
項2号)がある。
すなわち,乙23は,乙22に係る特許出願(特願平5−11517
号)の優先権主張の基礎とされた独国特許出願に係る公開特許公報であ
って,乙23の記載は,乙22の記載とほとんど同一である。
したがって,乙23には,乙22発明①の構成aないしfを有する発
明が記載されているところ(以下,この発明を「乙23発明①」とい
う。),構成aないしfが本件発明1の構成要件1−Aないし1−Fに
それぞれ相当することは前記ウ(エ)のとおりであるから,本件発明1
は,乙23発明①と同一である。
オ無効理由5(進歩性の欠如)
本件発明1は,以下のとおり,乙4(米国特許第4066188号明
細書),乙5(独国特許出願公開第4013323号明細書),乙2
2(特開平5−264412号公報)又は乙23(独国特許出願公開第
4202561号明細書)に記載された発明に,周知技術を適用するこ
とにより当業者が容易に想到することができたものであるから,本件特
許1には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2
号)がある。
(ア)相違点
原告は,乙4,5,22又は乙23に記載された発明(以下「乙4
等記載発明①」という。)は,いずれも供給源の圧力で液体を分配す
る装置であって,バルブが開いている時間間隔の制御によって液体の
分配量を制御するものであり,バルブが下降する際に逆流が生じる構
成のものではないから,乙4等記載発明①と本件発明1とは,乙4等
記載発明①が本件発明1の構成要件1−Dの「第二位置」及び「液体
材料の大部分を第一流路の該入り口端方向に流す」との構成を備えて
いない点で相違する旨主張する(以下,この相違点を「原告主張相違
点1」という。)。
(イ)周知技術
aバルブの先端に生ずる圧力を利用した分配方式
液体の供給圧力よりも,バルブの先端に生ずる圧力を利用して液
体又は粘性材料を押し出すという分配方式は,本件出願1の優先権
主張日前に,周知である(例えば,下記の乙34ないし36,乙2
2)。
(a)乙34
乙34(特開平7−125199号公報)は,「インクジェッ
トプリンタ用ヘッド」に関するものであるが,乙34には「従来
のヘッドでは,比較的容量の大きいインク溜まり(キャビティ)
の,ノズルから遠い箇所でインクに圧力を加え,その圧力により
インクをノズルから噴出させるという方式をとっていたため,イ
ンクの噴出力が弱い。しかし,本実施例のヘッドではノズルの直
後に配置されたプランジャの平坦部を高速でノズル側に移動させ
ることにより,プランジャ先端の平坦部とノズルとの間のインク
を直接ノズル方向に押し出す。このため,インクの噴出力が強い
と同時に,平坦部とノズルとの間に存在するインクが機械的圧力
により効率よくノズルから押し出される。」(段落【0012
】)との記載がある。上記記載によれば,乙34記載の装置は,
インクを,その供給圧力によるのではなく,「ヘッド」の「機械
的圧力」により,押し出している。
(b)乙35
乙35(特公昭48−9264号公報)は,「溶融材からの粒
子を製造する方法」に関するものであるが,その明細書の発明の
詳細な説明には,「針即プランジャ7,7’の下方への動きは出
口領域に於けるノズル2の縮小領域6と針7の端面との間に比較
的に高圧の遷移域即ち加圧領域を形成し,溶材12の一部にノズ
ルから該溶材を放出しようとする余分の力が与えられる。」(4
欄14行∼18行)との記載がある。上記記載によれば,プラン
ジャが下方に動くことにより,加圧領域が次第に形成され,溶材
がノズルから放出される。
(c)乙36
乙36(米国特許第5205439号明細書)は,「電子部品
面実装用に少量の粘性物質を供給するディスペンサ」に関するも
のであるが,乙36には「本発明によれば,ディスペンサ内の粘
性物質に作用する圧力は,バルブニードルが上昇位置にあると
き,粘性物質がノズルから流出しないように選定される。バルブ
ニードルがバルブ当たり面の方向に向かって下方に移動するとき
だけ,粘性物質はノズルから流出する。」(訳文・4頁12行∼
16行)との記載がある。上記記載によれば,バルブニードルが
下方に移動するときだけ,(その圧力により)粘性物質がノズル
から流出する。
(d)乙22
乙22には,「本発明は,・・・分析液体が加圧下に保持され
る圧力チャンバー1からなり,・・・バルブ口が閉鎖するあい
だ,閉鎖素子13の動きによって液体の放出が維持される」(段
落【0010】)との記載がある。上記記載によれば,「閉鎖素
子13」の「動き」により液体が放出される。
b液体の供給圧力の適宜の調整
(a)バルブの先端に生ずる圧力を利用して液体又は粘性材料を押
し出す際,液体の供給圧力を適宜調整し得ることは,本件出願1
の優先権主張日前に,周知である。例えば,乙22の段落【00
12】には,「圧力チャンバー1」(=第一流路)が「0.1か
ら5bar」(1平方インチ当たりポンド(psi)に換算する
と「約1.5から約72.5psi」)で加圧されることが記載
されており,供給圧力は,最大値と最小値とにおいて50倍もの
幅際があり,供給圧力を広範囲に調整することが可能である。
(b)供給圧力を,バルブシャフトが「第一位置」にあるとき,液
体がノズルから流出しない程度の圧力に設定することも,周知で
ある(例えば,下記の乙34,36)。
①乙34
乙34には,「インクが噴出した後は,ノズル穴25は再び
インク自身のメニスカスにより蓋をされる」(段落【0012
】)との記載がある。
②乙36
乙36には,「ディスペンサ内の粘性物質に作用する圧力
は,バルブニードルが上昇位置にあるとき,粘性物質がノズル
から流出しないように選定される。」(訳文・4頁12行∼1
4行)との記載がある。
c逆流
バルブシャフトが下降する際に「逆流」を生じさせ,また,バル
ブシャフトが下降する際に排除される液体のうち,ノズルから流出
する量以外の量が逆流することは,本件出願1の優先権主張日前
に,周知あるいは技術常識である(例えば,下記の乙34,3
5)。このような液体の流れは,乙4記載の装置,乙5記載の装置
及び乙22記載の装置に係るシミュレーション(乙31ないし3
3)の結果からも裏付けられる(乙38,43)。
(a)乙34
乙34には,「プッシュロッド17を急速に伸ばす。すると図
6(c)に示すように,プランジャ先端とノズル板との間の隙間
27のインクの一部がノズル穴25から外部に噴出される。」(
段落【0012】)との記載があり,「隙間27」にある「イン
クの一部」のみが,外部に噴出することが記載されている。
また,図6(c)において,「インクの一部」が外部に噴出す
る一方,インクの残部が左右の方向に流れている状況が「矢印」
により描かれている。
外部に噴出するインクの量は文字などの印刷に必要な微量であ
り,それ以外のインクは,質量保存則に従い,供給側に逆流せざ
るを得ない。
(b)乙35
乙35は,「溶融材からの粒子を製造する方法」に関するもの
であるが,その特許請求の範囲には,「溶融材を容器に入れ,該
容器の底に設けられた少なくとも1個のノズルを通して該溶融材
を移動する冷却表面上に滴下させてこれを固形化する溶融材から
粒子を製造する方法において,前記ノズル内で該ノズルの出口端
部の上方で針を上下往復動させること,前記針の往復動及び前記
ノズルの下端面に設けられた流出制限通路とにより該ノズル内の
領域で溶融材を加圧すること,前記加圧領域内に生じた比較的高
い圧力を一方では所定量の溶融材を該加圧領域から前記出口端部
の制限通路を通して放出しこれを分離させることにより又他方で
は溶融材を該加圧領域から前記針に沿って前記容器内へ逆流させ
ることによって低減させることを特徴とする溶融材から粒子を製
造する方法。」(4欄35行∼5欄4行)との記載がある。
上記記載は,ノズル内において「針」(プランジャ)により溶
融材を加圧することにより,一方においては,所定量の溶融材を
出口端部から放出し,他方では溶融材を「針に沿って前記容器内
へ逆流させる」というものである。
乙35記載の装置において,出口端部から押し出された溶融剤
は,「細粒状」のものであり,プランジャが下降する際にそれ以
外の溶剤は,質量保存則に従い,「逆流」せざるを得ない。
(ウ)容易想到性
前記(イ)のとおり,①「バルブの先端に生ずる圧力を利用して液体
又は粘性材料をオリフィスから押し出す」構成,②その際,液体の供
給圧力を適宜調整すること,③バルブシャフトが下降する際に「逆
流」が生じるようにすることは,いずれも周知である。
また,往復動バルブのストロークを調整したり,ノズルの径を変更
することも周知(例えば,乙4,5,36)であり,これを従来の分
配装置に適用することは設計的事項にすぎない。
さらに,従来の液体の分配装置において,数値流体解析シミュレー
ション(例えば,乙30)を実施し,液体の供給圧力,ノズル径,往
復動バルブのストロークなどを調整することも,そのようなシミュレ
ーションを認識し,使いこなすことが可能な当業者において,何の困
難もないことであるし,シミュレーション自体が当然に予想している
適用例であるともいえる。
そして,本件発明1の構成要件1−Dのように「大部分」を逆流さ
せるとすることの作用については,本件明細書1において,「バルブ
432'は,初めにバルブ座612からもっとも遠くに離間した第1位
置”d”から第2位置”e”へ下向きに加速される。この距離によ
り,バルブ軸430’は,きわめて大量の材料がノズル616に存在
する前に,必要な速度に加速されうる」(段落【0058】)との記
載があるのみであり,その効果は,「液体又は粘性材料の小滴を分配
する」という程度のものにすぎない。この程度の作用効果は,乙4等
記載発明①のいずれにおいても奏するものであり,格別のものとはい
えない。
したがって,当業者においては,乙4等記載発明①に,上記周知の
技術を適用することにより,原告主張相違点1に係る本件発明1の構
成(構成要件1−Dの「第二位置」及び「液体材料の大部分を第一流
路の該入り口端方向に流す」との構成)を採用することは容易に想到
することができたものである。
カ無効理由6(明細書の記載要件違反)
本件発明1に係る本件明細書1は,以下のとおり,「発明の詳細な説
明」の記載が当業者が「その実施をすることができる程度に明確かつ十
分に」記載されたものではないため,平成14年法律第24号による改
正前の特許法36条4項(以下,同条を単に「特許法36条」とい
う。)の要件(いわゆる実施可能要件)に適合せず,また,特許請求の
範囲に記載された特許を受けようとする発明が明確ではなく,同条6項
2号の要件(いわゆる明確性要件)に適合しないから,本件特許1に
は,同条4項,6項2号の要件を満たしていない特許出願に対してされ
た無効理由(平成14年法律第24号附則2条1項の規定によりなお従
前の例によるものとされた同法による改正前の特許法123条1項4
号)がある。
(ア)本件発明1の特許請求の範囲(請求項5)の記載中には,「該往
復動バルブは,第一位置からが該バルブ座の側に近い第二位置にまで
急速に移動可能であって,これにより該第一流路における液体材料の
大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一流路におけ
る液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し込み」(構成
要件1−D)との記載がある。
しかし,以下のとおり,本件明細書1の特許請求の範囲の記載
はもとより,発明の詳細な説明及び図面を参酌しても,本件発明
1の「第二位置」,「大部分」及び「いくらか」の用語の技術的
意義は明らかでない。そのため,どこが「第二位置」であるのかを
特定することは困難であり,どのようにすれば「大部分」及び「いく
らか」というような液体材料の量の関係になるのかも明らかではな
い。
a「第二位置」
仮に「第二位置」が「第一位置」と「第三位置」との間に存在
する位置であるとしても,その技術的意義は明らかでなく,これ
が明らかとならない以上,「第二位置」を特定することは当業者
においておよそ困難である。
すなわち,本件明細書1(甲4)の発明の詳細な説明には,「
前記第2ポジション”e”は,ノズルオリフィス622の直径の約
3倍より小さい距離に,好ましくはノズルオリフィス622の直径
の約1.5倍より小さい距離に配置される。」(段落【0054
】)との記載があるように,「第二位置」である「第2ポジショ
ン”e”」をノズルオリフィス622の直径の約3倍より小さい距
離にとることが示されており,また,図20には,「第2ポジショ
ン”e”」が図示されている。
しかし,本件明細書1には,「ノズルオリフィス622の直径の
約3倍より小さい距離」を計測すべき始点及び終点は明確にされて
おらず,また,図20に記載された「バルブ座」はテーパーが付
いており,どの部分を始点に計測するかによって異なった位置と
なり得るのに,本件明細書1には,どの位置を「第2ポジション
”e”」として特定すべきなのか明らかでない。
さらに,本件明細書1の発明の詳細な説明には,①「前記延長オ
リフィス622は,一般的には,約0.002∼約0.016イン
チの間の直径を有している。」(段落【0053】),②「前記第
2ポジション”e”は,ノズルオリフィス622の直径の約3倍よ
り小さい距離に,好ましくはノズルオリフィス622の直径の約
1.5倍より小さい距離に配置される。即ち,第2ポジション”e
”は,バルブ座612から約0.036インチから約0.150イ
ンチより小さく,好ましくはバルブ座612から約0.003イン
チから約0.024インチより小さい。」(段落【0054】)と
の記載がある。上記①の記載によれば,「オリフィス622」の直
径は,「約0.002∼約0.016インチ」であるから,この直
径から計算した「3倍より小さい距離」は「約0.006∼約0.
048インチ」となるはずであるのに,上記②には,「第2ポジシ
ョン”e”」の位置は,「約0.036インチから約0.150イ
ンチより小さく」と記載されており,「オリフィス622」の直径
の「9.375倍」から「18倍」離れている。このように実施例
の説明においても,矛盾があり,本件明細書1から,「第二位置」
の技術的意義を理解し,かつ,その位置を特定することが一層困難
なものとなっている。
b「大部分」と「いくらか」
本件明細書1の発明の詳細な説明の段落【0058】には,「
コンピュータによる流体の動的シミュレーション」に関する記載
がある。しかし,上記記載は,多くの仮定を前提とした仮想モデ
ルにおける一態様を描写しているにすぎず,上記記載から「大
部分」及び「いくらか」の用語の技術的意義を認識することは
できない。また,段落【0059】のa)からf)までにドット
の加速及び減速並びに力に影響を与える多数の要素が例示されて
いるが,これらの要素もまた複数の要素に影響されるものである
から,これらの多様な要素を規定することなく,「大部分」及
び「いくらか」という用語の技術的意義を特定することもでき
ない。
仮に「大部分」及び「いくらか」の用語には,格別の技術的意義
がなく,単に相対的な大小をいうにすぎないとしても,前記aのと
おり,「第二位置」を特定することは困難であり,どのようにすれ
ば「大部分」及び「いくらか」というような液体材料の量の関係に
なるのか明らかではない。
(イ)以上のとおり,本件明細書1においては,本件発明1の「第二
位置」,「大部分」及び「いくらか」の用語の技術的意義は明ら
かではなく,発明の詳細な説明の記載が当業者が本件発明1を実
施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはい
えないし,かつ,特許請求の範囲の記載により特許を受けようと
する発明が不明確であるから,実施可能要件及び明確性要件を満た
していない。
(2)原告の反論
ア無効理由1(新規性の欠如①)に対し
(ア)本件発明1と乙4発明①とは,乙4発明①が,本件発明1の構成
要件1−D及び1−Eを充足する構成を有していない点において相違
する。
本件発明1の往復動バルブは,構成要件1−D及び1−Eの構成に
よって,単なる開閉バルブとも,注射器のような往復動ポンプのピス
トンとも異なる作用をしている。
これに対して,乙4記載のバルブ機構17は,単に,ボールエレメ
ントバルブ19によってバルブシート27を開閉しているにすぎず,
バルブが開いている時間によって接着剤の流出量を制御するものであ
り,高圧によって生ずるホットメルト材料の流れを遮断することがバ
ルブ機構17の作用である(乙4の訳文・4頁24行∼26行,5頁
15行)。
このように乙4記載の装置は,供給源の圧力で液体を分配する装置
であって,バルブが開いている時間間隔の制御によって液体の分配量
を制御するものであり,本件発明1のようにバルブが下降する際に逆
流が生じる構成のものではなく,また,乙4には,本件発明1の構成
要件1−D及び1−Eの構成は開示されていない。
すなわち,乙4には,「この種の加熱循環システムの一例は・・・
米国特許第3,788,561号に示されている。同特許に例示され
ているように,・・・」(訳文・4頁18行∼20行)との記載があ
るように,「米国特許第3788561号」は,乙4の記載を補充す
るものである。そして,甲12(米国特許第3788561号明細
書)には,「ホットメルト材料の比較的高い圧力,例えば,1平方イ
ンチ当たり350ポンドの圧力で作動し,・・・。ボールバルブ(6
7又は67a)のほとんど瞬間的な開放により,それぞれのノズルか
らホットメルト材料の流れが射出される(もし,バルブが開放された
ままであれば,流れが継続するであろう)。」(原文8欄16行∼2
7行,訳文・2頁11行∼18行)との記載等があることに照らすな
らば,乙4記載の装置は,材料供給源の圧力が高いことにより材料が
オリフィスから射出され,バルブを開いている時間を制御することに
よって1回当たりの射出量を制御するものであることが明らかであ
り,バルブが開いている間は材料が流出することが前提となってい
る。他方,本件発明1においては,本件明細書1に「約4psi∼約
30psiの一定の圧力で液体又は粘性材料を押し込む。」(段落【
0029】)との記載があるとおり,液体又は粘性材料の供給圧力
は,1平方インチ当たり約4ポンド∼約30ポンドにすぎず,この程
度の圧力では,「一般的には約50,000∼約250,000セン
チポアーズの粘度を有する液体又は粘性材料」(段落【0029】)
を細いオリフィスを通して押し出すことはできない。
(イ)被告が主張する乙4記載の装置に係るシミュレーション(乙3
1)は,原告が被告装置について行ったシミュレーションの条件をそ
のまま用いたものであり,被告の選択した条件は,乙4には記載がな
く,また,技術常識を働かせても,乙4から読み取ることはできな
い。かえって,乙31のシミュレーションは,10psiという低い
圧力を液体供給源の圧力として選択するなど,明らかに,乙4の開示
に反する条件設定を行っている。
したがって,乙31のシミュレーションをもって,本件発明1が乙
4発明①と同一であることの根拠とすることはできない。
(ウ)以上によれば,本件発明1は乙4発明①と同一であるとの被告の
主張は,理由がない。
イ無効理由2(新規性の欠如②)に対し
(ア)本件発明1と乙5発明①とは,乙5発明①が,本件発明1の構成
要件1−D及び1−Eを充足する構成を有していない点において相違
する。
本件発明1の往復動バルブは,構成要件1−D及び1−Eの構成に
よって,単なる開閉バルブとも,注射器のような往復動ポンプのピス
トンとも異なる作用をしている。
これに対して,乙5記載のアンカ5は,ピストンのように働くもの
であるところ(乙5の訳文・6頁10行∼20行),アンカ5の周囲
には小さい隙間しか構成されていないこと,ストローク間隙4’が極
めて小さいのと比較して貫通ボア3の下部である貫通ボア3’が大き
いこと,分配ボア8,8’の直径がアンカ5の周囲の隙間と比較して
大きいことに照らし(同訳文・5頁5行,17行∼19行等),アン
カ5が下降する際に,貫通ボア3’に存在する流動性の物質又は流動
化可能な物質が上方に流れることはあり得ない。
このように乙5記載の装置は,供給源の圧力で液体を分配する装置
であって,バルブが開いている時間間隔の制御によって液体の分配量
を制御するものであり,本件発明1のようにバルブが下降する際に逆
流が生じる構成のものではない。
また,乙5には,本件発明1の構成要件1−D及び1−Eの構成は
開示されていない。
(イ)被告が主張する乙5記載の装置に係るシミュレーション(乙3
2)は,原告が被告装置について行ったシミュレーションの条件をそ
のまま用いたものであり,被告の選択した条件は,乙5には記載がな
く,また,技術常識を働かせても,乙5から読み取ることはできな
い。かえって,乙32のシミュレーションは,バルブが最も大きく開
かれているとき(Time=0)でも,ノズルから流れ出る流量が全くない
など,乙5記載の装置の作動状況を正しくシミュレーションしたもの
ではない。
したがって,乙32のシミュレーションをもって,本件発明1が乙
5発明①と同一であることの根拠とすることはできない。
(ウ)以上によれば,本件発明1は乙5発明①と同一であるとの被告の
主張は,理由がない。
ウ無効理由3(新規性の欠如③)に対し
(ア)本件発明1と乙22発明①とは,乙22発明①が,本件発明1の
構成要件1−D及び1−Eを充足する構成を有していない点において
相違する。
乙22記載の装置は,供給源の圧力で液体を分配する装置であっ
て,バルブが開いている時間間隔の制御によって液体の分配量を制御
するものであり,本件発明1のようにバルブが下降する際に逆流が生
じる構成のものではない。
すなわち,乙22には,①「その目的は,・・・分析液体が加圧下
に保持される圧力チャンバーからなり,圧力チャンバーからノズル放
出口までの液体の流路にバルブ口と,バルブ口の開閉のための位置決
め素子(positioningmember)によって動く閉鎖素子とを有するバル
ブユニットが備えられ,およびバルブ口閉鎖の際の閉鎖素子の動きに
よって液体の放出が維持(support)されるようにバルブユニットが組
み立てられることによって達成される。」(段落【0009】),
②「本発明のばあい,前記の“ドロップオンデマンド”微調整の
ための装置とは対照的に,ノズル区画(これはノズル放出口のすぐう
しろに位置する)が特定量の液体が放出されるべきときに圧縮される
わけではない。そのかわり,ノズル放出口は,中の分析液体が(たと
えば0.1から5barの)永続的な圧力を受けている圧力チャンバ
ーと,流体的に連結している(hydraulicallyconnected)。特定量の
分析液体の放出は,圧力チャンバーとノズル放出口の間の液圧連結(h
ydraulicconnection)を短時間開口し再び閉鎖するバルブユニットの
閉鎖素子によって,制御される。」(段落【0012】),③「閉鎖
領域19はノズル放出口3より広い。これは閉鎖素子13が閉鎖する
間“液圧加速(hydraulicgearingup)”あるいは“液圧伝動(hydra
ulictransmission)”を引き起こす,言い換えれば,閉鎖素子13が
閉鎖する間,閉鎖素子13がノズル放出口3の方向へ動くよりもかな
り速く,液体がノズル放出口3を通って移動する。それによって,閉
鎖素子13がの比較的ゆっくりした動きによってバルブ11が閉鎖す
る間,液体の放出がとくによく維持され促進される。」(段落【00
21】),④「本発明においてとくに重要な点は,液圧加速にある。
インクジェット技術(いわゆる“ジェッティング(jetting)”)にお
いて,要求される液体の放出を確実にするためには,ノズル内での流
速が少なくとも1m/sでなければならない。本発明において,流体
の流れの正確な中断を達成するためにはバルブの閉鎖する間も同様に
高速度が要求されることが見出された。したがって,液圧加速がなけ
れば,閉鎖素子が開口位置から閉鎖位置まで1m/sのオーダーで移
動することが必須である。前記高速度に伴う困難な点(バルブのシー
リングシートに対するダメージ,位置決め素子に対するダメージ,閉
鎖位置からの閉鎖素子のはね返り)は,液圧加速により回避される。
最適の流体動力学的条件は,理にかなった構造の経費で達成されう
る。」(段落【0022】)との記載がある,上記記載から明らかな
とおり,乙22記載の装置は,バルブを開放している間,圧力源の圧
力によって液体がノズルから放出されるものであり,バルブが閉鎖さ
れつつある間も流量が低下しないように,閉鎖素子の動きによって流
体の放出を維持(support)するものである。このことは,特許請求の
範囲の「請求項1」において,「バルブ口が閉鎖するあいだ,閉鎖素
子(13)の動きによって液体の放出が維持されるようにバルブユニ
ット(11)が組み立てられていることを特徴とする装置」と記載さ
れていることからも明らかである。したがって,乙22記載の装置に
おいては,閉鎖素子のゆっくりした動きであっても,液圧加速(hydra
ulicgearingup)によって液体の放出が「維持され促進される」もの
である。
これに対して,本件発明1では,往復動バルブが第一位置から第二
位置まで移動する間は,流体の大部分を入り口端方向に流す流れ(逆
流)が生ずることが必須の要件(構成要件1−D)となっており,バ
ルブが下降する際に逆流が生じる構成のものではない乙22記載の装
置とは明らかに異なる。
また,乙22には,本件発明1の構成要件1−D及び1−Eの構成
の記載も示唆もない。
(イ)被告が主張する乙22記載の装置に係るシミュレーション(乙3
3)は,原告が被告装置について行ったシミュレーションの条件をそ
のまま用いたものであり,被告の選択した条件は,乙22には記載が
なく,また,技術常識を働かせても,乙22から読み取ることはでき
ない。かえって,乙22の特徴は,「・・・閉鎖操作の間,すなわち
バルブユニットの閉鎖状態(閉鎖位置)の方向へと閉鎖素子が動くこ
とによって,液体の放出が阻止されず維持され促進されるように考慮
してバルブユニットが組み立てられる・・・」(段落【0015】)
ことにあり,この特徴について,乙22の対応米国特許である米国特
許第5356034号に係るクレーム15(甲13)に「ノズルを通
過する分析液体の流量が閉鎖動作の間を通して実質的に変化しない」
と明確に記載されている。すなわち,乙22の装置は,閉鎖素子(バ
ルブ)が閉鎖位置(バルブシート)に接近するに従って流量が減少す
ることを防止する点に特徴があり,バルブが開いている間は液体供給
源の圧力によって液体が流出することが前提とされている。しかる
に,乙33のシミュレーションは,バルブが開いているにもかかわら
ず,ほとんど流出する流量がない期間がほとんどであるのみならず,
流量が大きく変化しており,乙22記載の装置の作動状況をシミュレ
ーションしているものといえない。
したがって,乙33のシミュレーションをもって,本件発明1が乙
22発明①と同一であることの根拠とすることはできない。
(ウ)以上によれば,本件発明1は乙22発明①と同一であるとの被告
の主張は,理由がない。
エ無効理由4(新規性の欠如④)に対し
前記ウにおいて,乙23発明①と実質的に同一の発明である乙22発
明①について述べたところと同様の理由により,本件発明1は乙23発
明①と同一であるとの被告の主張は,理由がない。
オ無効理由5(進歩性の欠如)に対し
(ア)乙34等の開示事項について
a乙34には,単に,プランジャによってインクを押し出すことを
記載しているだけであり,プランジャの動きによってインクがノズ
ル方向とは逆方向に押し出されることについての記載も示唆もな
い。また,乙34においては,「インク保留部14のインクはノズ
ル25の先端部でそれ自身の表面張力によりメニスカスを形成し,
これによりノズル穴からのインクの漏出が防止される。」(段落【
0010】)との記載があるとおり,プランジャがノズル25の穴
を塞ぐことはなく,バルブがバルブ座(バルブシート)に着座する
ことによって液体材料の小滴を形成することも記載されていない。
b乙35は,乙34と同様に,単に,プランジャによって溶材を押
し出すことを記載しているだけであって,「液体材料の大部分を該
第一流路の該入り口端方向に流す」こと(構成要件1−D)の記載
も示唆もなく,また,乙35記載の小径通路3は常時開放されてお
り,プランジャが小径通路を塞ぐこともないから,バルブがバルブ
座(バルブシート)に着座することによって液体材料の小滴を形成
することも記載されていない。
もっとも,乙35には,「該材料の圧力を一方では溶融材の所定
の分量のノズルからの流出と分離をもって他方では溶融材をノズル
内の針に沿って逆流させ前記容器内に戻すことによって逃がすこ
と」(2欄20行∼23行)との記載があるが,この記載は,乙3
5におけるその他の記載(例えば,3欄12行∼13行の「溶材1
2の流入と吸引のための領域4」との記載,4欄7行∼12行のプ
ランジャ7,7’の動きと溶融材の動きとの関係に係る記載)と矛
盾しており,「逆流させ前記容器内に戻すことによって逃がす」と
の記載箇所を文字どおりの意味に理解することはできず,プランジ
ャによって押しのけられる容積の大部分を逆流させることを示唆し
ていると解釈すべきではない。
c乙36には,「プランジャ40がその最下端位置にあるとき,バ
ルブニードル30がバルブ当たり面32に当接する」(訳文・5頁
26行∼27行)との記載があるが,「液体材料の大部分を該第一
流路の該入り口端方向に流す」こと(構成要件1−D)の記載はな
い。かえって,乙36には,「バルブニードルのサイズは,バルブ
ニードルが2つの両端位置間を移動する際に分配すべき粘性物質の
量に等しい分だけ容量を変化させるように選択するのが極めて有利
である。」(訳文・4頁3行∼5行),「プランジャとして作用す
るバルブニードルがその前方に存在する一定量の粘性物質をノズル
に向かって押すことで排除量におおよそ等しい量の粘性物質が吐出
される。」(訳文・4頁9行∼11行)との記載がある。上記記載
は,「バルブニードルが一方の端から他方の端まで移動する際に押
しのける容積が,分配すべき粘性物質の量と等しくなるようにバル
ブニードルのサイズを選択しておくことが極めて有利であ
る。」,「バルブニードルがプランジャとして作用していて,その
前方に存在する粘性物質をノズルに向かって押し出すから,それに
よって押しのけられる容積とほぼ等しい量の粘性物質が吐出され
る。」という意味であり,バルブニードルによって押しのけられた
容積が吐出されることを明示している。したがって,乙36で
は,「液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す」こ
とは明らかに否定されている。
(イ)容易想到でないこと
a(a)乙4等記載発明①は,供給源の圧力で液体を分配する装置で
あって,バルブが開いている時間間隔の制御によって液体の分配
量を制御するものであり,バルブが下降する際に逆流が生じる構
成のものではなく(前記ア(ア),イ(ア),ウ(ア),エ),いわゆ
るオン−オフ・バルブ,すなわち,液体供給源の圧力によって液
体が流出するような条件の下で,バルブがバルブ座に当接して流
路を閉鎖することによって液体の流出を止めるという構成のもの
である。
(b)これに対して,乙34,35は,いずれも,バルブがバルブ
座を閉鎖するという構成を有しておらず,プランジャ又は圧力発
生部材の動きによって圧力変動を生じさせることによって液滴の
形成を加速するという構成のものである。このように,乙4等記
載発明①と乙34,35に記載された発明は,基本的な原理が全
く異なるから,両者を組み合わせる動機などあり得ない。
(c)また,乙36は,バルブニードルが押しのけた容積とほぼ等
しい量の液体を吐出すること,バルブニードルがバルブ当たり面
に当接することを開示しているものの,乙36の「粘性物質に作
用する圧力は,ノズル部24の底部にある粘性物質を流出させる
のに充分なものとし,バルブニードル30とバルブ当たり面32
が粘性物質の通過を開始及び停止させる単なるドロップシャッタ
として作用するようにしてもよい。」(訳文・6頁22行∼27
行)との記載からも明らかなとおり,乙36に主たる実施態様と
して記載されているバルブニードルの作用と,乙4等記載発明①
におけるオン−オフ・バルブとは択一的なものであるから,乙4
等記載発明①に乙36に記載された発明を組み合わせる動機は存
在しない。
b分断されなければ糸状になる材料を分断して滴にするには,バル
ブを急加速してから材料を押し出し,かつ,その流れを急速に止め
る必要があるため,本件発明1においては,第一位置から第二位置
までの間には,ほとんど材料をノズルに送り込むことなく,バルブ
を加速し,その後,材料をノズルに送り込み,バルブがバルブ座に
着座して急速に停止する際に,その加速度(減速度)によって生じ
る慣性力によって材料の糸を分断して滴を形成している(本件明細
書1の段落【0055】,【0056】,【0058】)。
しかるに,乙34ないし36には,本件発明1の「液体材料の大
部分を該第一流路の該入り口端方向に流す」という構成(構成要件
1−D)についての記載もなければ,示唆もない。
また,本件発明1の優先権主張日当時,本件発明1の属する液体
分配装置の技術分野においては,バルブ(シャフト)が下降する際
に排除される液体は,そのほとんどがノズルから吐出することが想
定されており,仮に物理現象としては逆流が起こりうる条件が存在
していたとしても,それは望ましくないこととして当業者の意識か
ら排除されていた。
なお,被告提出の鑑定意見(乙38,43)は,バルブエレメン
トが運動する前の状態でノズルからの液体の流出量が無視できるほ
ど小さいことを前提とした場合,バルブエレメントが下降する動作
を開始した当初は液体の入口ポートの方向への流れが出口ノズルへ
の流れよりも多く生じ,バルブエレメントがバルブシートに着座す
る前に,液体の入口ポートの方向へ流れが減少し,かつ,出口ノズ
ルからの流れが増加することを当業者が予測できると結論するもの
であり,その結論自体は争わない。しかし,上記鑑定意見は,流体
抵抗を無視した場合,質量保存則のみから上記結論を導くことがで
きるとした点で理論的に誤りであり,また,乙4,5,22記載の
各装置に係るシミュレーション(乙31ないし33)の結果は上記
予測を適正に反映しているとした点においても誤りがある(甲15
のB作成の意見書)。
c以上のとおり,乙4等記載発明①と乙34ないし36を組み合わ
せる動機が存在せず,また,仮にこれらを組み合わせたとしても,
当業者が,本件発明1の「液体材料の大部分を該第一流路の該入り
口端方向に流す」構成(構成要件1−D)を容易に想到することが
できたものとはいえない。
(ウ)したがって,本件発明1は進歩性を欠く旨の被告の主張は理由が
ない。
カ無効理由6(明細書の記載要件違反)に対し
(ア)前記1(1)イ(イ)aのとおり,本件明細書1(甲4)の段落【00
21】,【0054】,【0056】,【0058】の各記載及び図
19,20等によれば,当業者が「第二位置」がいかなる技術的意義
を有するものであるかを理解することができ,また,「第二位置」が
存在すべき場所がどこであるかも理解することができる。
(イ)したがって,本件明細書1は特許法36条4項,6項2号に適合
しないとの被告の主張は理由がない。
4争点4(本件特許権2に基づく権利行使の制限の成否)について
(1)被告の主張
本件特許2には,以下のとおり無効理由があり,特許無効審判により無
効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定によ
り,原告は,被告に対し,本件特許権2を行使することができない。
ア無効理由1(新規性の欠如①)
本件発明2は,以下のとおり,本件出願2の優先権主張日(平成8年
7月17日)前に頒布された刊行物である乙4(米国特許第40661
88号明細書)に記載された発明と同一であるから,本件特許2には,
特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)が
ある。
(ア)本件発明2の構成要件2−Dの「第二位置」及び「大部分」の用
語の技術的意義はいずれも明確ではない。
しかし,前記3(1)ア(イ)と同様の理由により,構成要件2−Dの「
第二位置」は,バルブが「第一位置」からバルブ座に着座する「第三位
置」までの間のいずれかの位置に存在し,「大部分」とは,単に液体材
料の流れ(流量)の相対的な大小をいうにすぎないものと解される。
(イ)前記(ア)の構成要件2−Dの「第二位置」及び「大部分」の解釈
を前提に,前記3(1)ア(ア)の各記載と図1(FIG.1)及び図2(
FIG.2)を総合すると,乙4には,次のような発明(以下「乙4
発明②」という。)が記載されている。
a少量の接着剤を分配する方法であって,
b第一流路(マニホールドブロック11内,段状ボア14内,スリ
ーブ23内,エンドプレート25内,バルブシート27内などに形
成される。)の出口端部(バルブシート27中の流路の下端)の近
くに配置されたバルブ座(バルブシート27の部材のうちバルブエ
レメント19が着座する箇所)と,前記第一流路内に位置された往
復動バルブ(バルブ機構17)とを有するバルブ組立体を貫通して
延在している前記第一流路の入口端部(入口ポート15)に接着剤
を供給し,
c前記第一流路の出口端部から前記接着剤を受け取る入口部分と,
前記接着剤を分配する細長いノズルを貫通して延在しているオリフ
ィス(出口ノズル28内の流路の内径が小さい下端の部分)が設け
られている出口部分とを有し,ノズル組立体を貫通して延在してい
る第二流路(出口ノズル28中の流路)を,前記バルブが前記バル
ブ座から離れた第一位置にあるときに前記接着剤で満たし,
d前記バルブを,前記第一位置から,前記第一位置よりも前記バル
ブ座へより近づいた第二位置まで,加速し,それによって,前記第
一流路にある前記接着剤の大部分を前記第一流路の前記入口端部に
向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体材料を前記出口
端部から前記第二流路内へ流して前記ノズルの出口から接着剤の流
れとして分配させ,
e前記バルブを,前記第二位置から,前記バルブ座と係合して着座
する第三位置に向かって移動させ,それによって,前記第一流路の
入口端部に向かう前記接着剤の流れを減少させるとともに,前記第
二流路を通過する接着剤の流れを増加させ,
f前記バルブを前記第三位置に移動して,前記バルブを前記バルブ
座に対して急速に閉鎖し,それによって,前記第二流路を通過する
前記接着剤の流れを止め,前記ノズルの前記出口から分配されてい
る前記接着剤の流れを前記ノズルの前記出口で分断して小滴にする
gことを特徴とする方法。
(ウ)そして,乙4記発明②の構成aないしgは,本件発明2の構成要
件2−Aないし2−Gにそれぞれ相当するから,本件発明2は,乙4
発明②と同一である。
イ無効理由2(新規性の欠如②)
本件発明2は,以下のとおり,本件出願2の優先権主張日(平成8年
7月17日)前に頒布された刊行物である乙5(独国特許出願公開第4
013323号明細書)に記載された発明と同一であるから,本件特許
2には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項
2号)がある。
(ア)前記ア(ア)の構成要件2−Dの「第二位置」及び「大部分」の解
釈を前提に,前記3(1)イ(ア)の各記載と図1(FIG.1)を総合す
ると,乙5には,次のような発明(以下「乙5発明②」という。)が
記載されている。
a少量の接着剤を分配する方法であって,
b第一流路(バルブ座14内などに形成される。)の出口端部(バ
ルブ座14中の流路の下端)の近くに配置されたバルブ座(バルブ
座14の部材のうちバルブヘッド15が着座する箇所)と,前記第
一流路内に位置された往復動バルブ(アンカ5)とを有するバルブ
組立体を貫通して延在している前記第一流路の入口端部(供給ボア
9)に接着剤を供給し,
c前記第一流路の出口端部から前記接着剤を受け取る入口部分と,
前記接着剤を分配する細長いノズルを貫通して延在しているオリフ
ィス(分配スリーブ21の先端)が設けられている出口部分(出口
23)とを有し,ノズル組立体を貫通して延在している第二流路(
分配スリーブ21中の流路)を,前記バルブが前記バルブ座から離
れた第一位置にあるときに前記接着剤で満たし,
d前記バルブを,前記第一位置から,前記第一位置よりも前記バル
ブ座へより近づいた第二位置まで,加速し,それによって,前記第
一流路にある前記接着剤の大部分を前記第一流路の前記入口端部に
向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体材料を前記出口
端部から前記第二流路内へ流して前記ノズルの出口から接着剤の流
れとして分配させ,
e前記バルブを,前記第二位置から,前記バルブ座と係合して着座
する第三位置に向かって移動させ,それによって,前記第一流路の
入口端部に向かう前記接着剤の流れを減少させるとともに,前記第
二流路を通過する接着剤の流れを増加させ,
f前記バルブを前記第三位置に移動して,前記バルブを前記バルブ
座に対して急速に閉鎖し,それによって,前記第二流路を通過する
前記接着剤の流れを止め,前記ノズルの前記出口から分配されてい
る前記接着剤の流れを前記ノズルの前記出口で分断して小滴にする
gことを特徴とする方法。
(イ)そして,乙5発明②の構成aないしgは,本件発明2の構成要件
2−Aないし2−Gにそれぞれ相当するから,本件発明2は,乙5発
明②と同一である。
ウ無効理由3(新規性の欠如③)
本件発明2は,以下のとおり,本件出願2の優先権主張日(平成8年
7月17日)前に頒布された刊行物である乙22(特開平5−2644
12号公報)に記載された発明と同一であるから,本件特許2には,特
許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)があ
る。
(ア)前記ア(ア)の構成要件2−Dの「第二位置」及び「大部分」の解
釈を前提に,前記3(1)ウ(ア)の各記載と図1を総合すると,乙22に
は,次のような発明(以下「乙22発明②」という。)が記載されて
いる。
a少量の分析液体を分配する方法であって,
b第一流路(圧力チャンバー1)の出口端部(圧力チャンバー1と
ノズルプレ−チャンバー4との境界部分)の近くに配置されたバル
ブ座(シーリングシート17のうち,閉鎖素子13が着座する箇所)
と,前記第一流路内に位置された往復動バルブ(閉鎖素子13)と
を有するバルブ組立体を貫通して延在している前記第一流路の入口
端部(ブランチ6aが圧力チャンバー1において開口する部分)に
液体材料を供給し,
c前記第一流路の出口端部から前記分析液体を受け取る入口部分(
ノズルプレ−チャンバー4)と,前記液体材料を分配する細長いノ
ズルを貫通して延在しているオリフィス(ノズル2のうちノズル放
出口3の径と同径の部分)が設けられている出口部分とを有し,ノ
ズル組立体を貫通して延在している第二流路(ノズル2内の流路)
を,前記バルブが前記バルブ座から離れた第一位置にあるときに前
記液体材料で満たし,
d前記バルブを,前記第一位置から,前記第一位置よりも前記バル
ブ座へより近づいた第二位置まで,加速し,それによって,前記第
一流路にある前記分析液体の大部分を前記第一流路の前記入口端部
に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体材料を前記出
口端部から前記第二流路内へ流して前記ノズルの出口から液体材料
の流れとして分配させ,
e前記バルブを,前記第二位置から,前記バルブ座と係合して着座
する第三位置に向かって移動させ,それによって,前記第一流路の
入口端部に向かう前記液体材料の流れを減少させるとともに,前記
第二流路を通過する液体材料の流れを増加させ,
f前記バルブを前記第三位置に移動して,前記バルブを前記バルブ
座に対して急速に閉鎖し,それによって,前記第二流路を通過する
前記液体材料の流れを止め,前記ノズルの前記出口から分配されて
いる前記液体材料の流れを前記ノズルの前記出口で分断して小滴に
する
gことを特徴とする方法。
(イ)そして,乙22発明②の構成aないしgは,本件発明2の構成要
件2−Aないし2−Gにそれぞれ相当するから,本件発明2は,乙2
2発明②と同一である。
エ無効理由4(新規性の欠如④)
本件発明2は,以下のとおり,本件出願2の優先権主張日(平成8年
7月17日)前に頒布された刊行物である乙23(独国特許出願公開第
4202561号明細書)に記載された発明と同一であるから,本件特
許2には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1
項2号)がある。
すなわち,前記3(1)エのとおり,乙23は,乙22に係る特許出願(
特願平5−11517号)の優先権主張の基礎とされた独国特許出願に
係る公開特許公報であって,乙23の記載は,乙22の記載とほとんど
同一である。
したがって,乙23には,乙22発明②の構成aないしgを有する発
明が記載されているところ(以下,この発明を「乙23発明②」とい
う。),構成aないしgが本件発明2の構成要件2−Aないし2−Gに
それぞれ相当することは前記ウ(イ)のとおりであるから,本件発明1
は,乙23発明②と同一である。
オ無効理由5(進歩性の欠如)
本件発明2は,以下のとおり,乙4,5,22又は乙23に記載され
た発明に,周知技術を適用することにより当業者が容易に想到すること
ができたものであるから,本件特許1には,特許法29条2項に違反す
る無効理由(同法123条1項2号)がある。
(ア)原告は,乙4,5,22又は乙23に記載された方法の発明(以
下「乙4等記載発明②」という。)は,いずれも供給源の圧力で液体
を分配する装置に係るものであって,バルブが開いている時間間隔の
制御によって液体の分配量を制御するものであり,バルブが下降する
際に逆流が生じる構成のものではないから,乙4等記載発明②と本件
発明2とは,乙4等記載発明②が,本件発明2の構成要件2−Dの「
第二位置」及び「液体材料の大部分を前記第一流路の前記入口端部に
向けて流す」との構成並びに構成要件Eの構成を備えていない点で相
違する旨主張する(以下,この相違点を「原告主張相違点2」とい
う。)。
(イ)しかるに,前記3(1)オ(イ),(ウ)と同様の理由により,当業者に
おいては,乙4等記載発明②に,周知の技術を適用することにより,
原告主張相違点2に係る本件発明2の構成を採用することは容易に想
到することができたものである。
カ無効理由6(明細書の記載要件違反①)
本件発明2に係る本件明細書2は,以下のとおり,「発明の詳細な説
明」の記載が当業者が「その実施をすることができる程度に明確かつ十
分に」記載されたものではないため,特許法36条4項の要件(いわゆ
る実施可能要件)に適合せず,また,特許請求の範囲に記載された特許
を受けようとする発明が明確ではなく,同条6項2号の要件(いわゆる
明確性要件)に適合しないから,本件特許2には,同条4項,6項2号
の要件を満たしていない特許出願に対してされた無効理由(平成14年
法律第24号附則2条1項の規定によりなお従前の例によるものとされ
た同法による改正前の特許法123条1項4号)がある。
(ア)本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載中には,「前記
バルブを,前記第一位置から,前記第一位置よりも前記バルブ座(61
2)へより近づいた第二位置まで,加速し,それによって,前記第一流
路(608)にある前記液体材料の大部分を前記第一流路の前記入口端部
に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体材料を前記出口
端部から前記第二流路内へ流して前記ノズルの出口から液体材料の流
れとして分配させ」との記載(構成要件2−D)がある。
しかし,上記記載中の「第二位置」及び「大部分」の用語の技術的
意義は,本件明細書2(甲6)を参照しても明らかでない。
(イ)そうすると,本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載
は,いかなる場合に前記(ア)の記載(構成要件2−D)を充足するこ
とになるのか不明であって,特許を受けようとする発明が不明確であ
るから,本件明細書2は,特許法36条6項2号に適合せず,また,
同様の理由により,本件明細書2の発明の詳細な説明の記載は,当業
者が本件発明2の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載
されたものとはいえないから,本件明細書2は,同条4項に適合しな
い。
キ無効理由7(明細書の記載要件違反②)
本件特許2は,以下のとおり,本件発明2の特許請求の範囲(請求項
1)の記載は,本件明細書2の発明の詳細な説明に記載した以外の態様
を含むものであって,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明
に記載された発明であること」(特許法36条6項1号)の要件(いわ
ゆるサポート要件)に適合しないから,本件特許2は,同項1号の要件
を満たしていない特許出願に対してされた無効理由(同法123条1項
4号)がある。
(ア)本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載中には,「前記
第一流路(608)の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分と,
前記液体材料を分配する細長いノズルを貫通して延在しているオリフ
ィス(622)が設けられている出口部分とを有し,ノズル組立体(60
2)を貫通して延在している第二流路」との記載(構成要件2−C)が
あり,「第二流路」が「第一流路(608)の出口端部から前記液体材料
を受け取る入口部分」と「液体材料を分配する細長いノズルを貫通し
て延在しているオリフィス(622)が設けられている出口部分」とを有
するものでなければならないことが明らかである。
しかし,「第二流路」の構成要素である「第一流路(608)の出口端
部から前記液体材料を受け取る入口部分」については,本件明細書
2(甲6)の発明の詳細な説明中に,具体的な構成を描写した記載が
ない。また,図19においても,「第一流路」が「第二流路」の「出
口部分」を構成すべき「オリフィス622」に直結しており,「第一流
路(608)の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分」は図示さ
れておらず,他にこれを示した図面はない。
(イ)そうすると,本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載
は,本件明細書2の発明の詳細な説明に記載した以外の態様のものを
含むものであり,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に
記載された発明」であるとはいえないから,特許法36条6項1号に
適合しない。
(2)原告の反論
ア無効理由1(新規性の欠如①)に対し
(ア)本件発明2と乙4発明②とは,乙4発明②が,本件発明2の構成
要件2−D及び2−Eを充足する構成を有していない点で相違する。
その理由は,前記3(2)アと同様である。
また,乙4には,本件発明2の構成要件2−D及び2−Eの構成は
開示されていない。
(イ)したがって,本件発明2は乙4発明②と同一であるとの被告の主
張は,理由がない。
イ無効理由2(新規性の欠如②)に対し
(ア)本件発明2と乙5発明②とは,乙5発明②が,本件発明2の構成
要件2−D及び2−Eを充足する構成を有していない点で相違する。
その理由は,前記3(2)イと同様である。
また,乙5には,本件発明2の構成要件2−D及び2−Eの構成は
開示されていない。
(イ)したがって,本件発明2は乙5発明②と同一であるとの被告の主
張は,理由がない。
ウ無効理由3(新規性の欠如③)に対し
(ア)本件発明2と乙22発明②とは,乙22発明②が,本件発明2の
構成要件2−D及び2−Eを充足する構成を有していない点で相違す
る。その理由は,前記3(2)ウと同様である。
(イ)したがって,本件発明2は乙22発明②と同一であるとの被告の
主張は,理由がない。
エ無効理由4(新規性の欠如④)に対し
前記ウにおいて,乙23発明②と実質的に同一の発明である乙22発
明②について述べたところと同様の理由により,本件発明2は乙23記
発明②と同一であるとの被告の主張は,理由がない。
オ無効理由5(進歩性の欠如)に対し
(ア)前記3(2)オ(ア)によれば,乙34ないし36には,本件発明1の
構成要件1−Dの構成と同様に,本件発明2の「液体材料の大部分を
前記第一流路の前記入口端部に向けて流す」構成(構成要件2−E)
の記載も示唆もない。
そして,前記3(2)オ(ア)と同様の理由により,乙4等記載発明②と
乙34ないし36を組み合わせる動機が存在せず,また,仮にこれら
を組み合わせたとしても,当業者が,本件発明2の「液体材料の大部
分を前記第一流路の前記入口端部に向けて流す」構成(構成要件2−
D)を容易に想到することができたものとはいえない。
(イ)したがって,本件発明2は進歩性を欠く旨の被告の主張は,理由
がない。
カ無効理由6(明細書の記載要件違反①)に対し
(ア)本件明細書2(甲6)の9欄24行ないし47行,27欄11行
ないし20行,28欄47行ないし29欄31行の各記載及び図1
9,20によれば,当業者において,「第二位置」がいかなる技術的
意義を有するものであるかを理解することができ,また,「第二位
置」が存在すべき場所がどこであるかも理解することができる。
(イ)したがって,本件明細書2は特許法36条4項,6項2号に適合
しないとの被告の主張は理由がない。
キ無効理由7(明細書の記載要件違反②)に対し
(ア)本件明細書2(甲6)の25欄末行ないし26欄20行の記載及
び図19ないし21によれば,「ノズルの上端618」が,「第二流
路」の「入口部分」に当たることを容易に理解することができる。
また,「前記ノズル616は,延長オリフィス622を有する円筒
形管(チューブ)であり,・・・ノズルの上端618が閉塞端450'
の内側底面454'と面一になるように・・・取り付けられ」(26欄
10行∼15行)ている結果,延長オリフィス622の上端が「第二
流路」の「入口部分」と重なっているが,「第二流路」において「第
一流路(608)の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分」が存
在しないわけではなく,そのことによって,本件発明2の趣旨が不明
確になるものでもない。
(イ)したがって,本件明細書2は特許法36条6項1号に適合しない
との被告の主張は理由がない。
第4当裁判所の判断
本件の事案に鑑み,争点3(本件特許権1に基づく権利行使の制限の成
否)及び争点4(本件特許権2に基づく権利行使の制限の成否)から判断す
ることとする。
1争点3(本件特許権1に基づく権利行使の制限の成否)について
まず,被告主張の無効理由5(進歩性の欠如)から判断する。
被告は,本件発明1は,乙4等記載発明①(乙4,5,22又は乙23に
記載された発明)に,甲34ないし36等に開示された周知技術を適用する
ことにより当業者が容易に想到することができたものであるから,本件特許
1には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)が
ある旨主張する。
そこで,以下においては,乙22に記載された発明に基づいて当業者が本
件発明1を容易に想到することができたかどうかについて検討する。
(1)乙22の記載事項
ア乙22(特開平5−264412号公報)には,次のような記載があ
る。
(ア)「【産業上の利用分野】本発明は,液体(fluid)がノズル放出口を
通してノズルから少量,パルス方式でターゲットへ放出される,分析
液体のターゲットへの調整供給(proportionedfeeding)装置に関す
る。」(段落【0001】)
(イ)「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,前記の不都
合を避け,分析液体のために現在まで通常に使用される“ドロップ
オンデマンド”法のばあいよりも実質的に多い,しかし一方では,
希釈器やディスペンサーで現在まで成し遂げられる最少量よりも少な
い,厳密に決められた量の,分析液体の特定量を生じ(generate)させ
うるような,分析液体のターゲットへの供給装置を提供することであ
る。」(段落【0008】)
(ウ)「本発明において,閉鎖操作の間,すなわちバルブユニットの閉
鎖状態(閉鎖位置)の方向へと閉鎖素子が動くことによって,液体の
放出が阻止されず維持され促進されるように考慮してバルブユニット
が組み立てられるならば,分析液体の調整に要求される高精度な調整
にとって,本発明が非常に有利であることが見出された。」(段落【
0015】)
(エ)「図1に示される分析液体の微調整のための装置は,分析液体の
ための圧力チャンバー1および,ノズル放出口3とノズルプレ−チャ
ンバー4を有しそれを通って分析液体が少量,ターゲット5(簡単に
図で示される)へ放出されうるノズル2からなる。分析液体7は圧力
チャンバー1中で加圧下に保持される。分析液体は,圧力発生デバイ
ス9により,接続しているブランチ6aを経由して貯蔵容器6から供
給される。たとえば,ポンプが圧力発生デバイス9として役立ちう
る。しかしながら,外部の圧力源(たとえば圧縮空気)の圧力を隔膜(
diaphragm)を経由して,圧力チャンバー1中の分析液体7へと伝達す
ることも可能である。」(段落【0017】)
(オ)「圧力チャンバー1とノズル放出口3の間の液圧連結はバルブユ
ニット11により開口および閉鎖されうる。バルブユニット11(図
1ではバルブが開口位置にある状態を示し,また以下,単にバルブと
もいう)は,位置決め素子12によって動かされる閉鎖素子13から
なり,バルブユニット11が閉鎖位置にある状態では,前記閉鎖素子
13の環状のシーリングリム(sealingrim)15は,同じく環状のシー
リングシート(sealingseat)17に板封じ方式で押しつけられてい
る。シーリングリム15に囲まれた領域は閉鎖領域19を意味す
る。」(段落【0018】)
(カ)「ノズル放出口3の方向においてシーリングシート17の前に,
ノズルプレ−チャンバー4が配されている。これは,バルブ放出口と
バルブ口23(バルブ開口時)を除いてふさがっている。」(段落【
0019】)
(キ)「閉鎖領域19はノズル放出口3より広い。これは閉鎖素子13
が閉鎖する間“液圧加速(hydraulicgearingup)”あるいは“液圧伝
動(hydraulictransmission)”を引きおこす,言い換えれば,閉鎖素
子13が閉鎖する間,閉鎖素子13がノズル放出口3の方向へ動くよ
りもかなり速く,液体がノズル放出口3を通って移動する。それによ
って,閉鎖素子13の比較的ゆっくりした動きによってバルブ11が
閉鎖する間,液体の放出がとくによく維持され促進される。」(段落
【0021】)
(ク)「本発明においてとくに重要な点は,液圧加速にある。インクジ
ェット技術(いわゆる“ジェッティング(jetting)”)において,要
求される液体の放出を確実にするためには,ノズル内での流速が少な
くとも1m/sでなければならない。本発明において,液体の流れの
正確な中断を達成するためにはバルブの閉鎖する間も同様に高速度が
要求されることが見出された。したがって,液圧加速がなければ,閉
鎖素子が開口位置から閉鎖位置まで1m/sのオーダーの速度で移動
することが必須である。前記高速度にともなう困難な点(バルブのシ
ーリングシートに対するダメージ,位置決め素子に対するダメージ,
閉鎖位置からの閉鎖素子のはね返り)は,液圧加速により回避され
る。最適の流体動力学的条件は,理にかなった構造の経費で達成され
うる。」(段落【0022】)
(ケ)「ノズルプレ−チャンバー4の壁4aはシーリングシート17か
らノズル放出口3まで,少なくともある断面において好ましくは円錐
形である。液圧加速を確実にするために,閉鎖素子は合致した円錐を
さらに備える必要はなく,かわりに,閉鎖領域19は,おおむね(示
したように)水平であるか,わずかに内にわん曲しているか,もしく
はノズル放出口3の方へわん曲しているならば少なくともノズルプレ
−チャンバー4の円錐形の壁4aよりは有意に平らであることが望ま
しい。相互にかみ合い合致したシーリング面を有する円錐形のシール
は,多くの場合シーリングに有利であるとみなされるが,それにもか
かわらず,本発明においては目的とする液圧加速のために不都合であ
る。」(段落【0023】)
(コ)「液圧加速が有効であるためには,バルブ11のバルブ口23,
これはシーリングリム15とシーリングシート17との間の環状のす
きまによって形成されるが,その開口横断面(openingcross-section)
が閉鎖領域19よりも小さい方が有利である。他方,バルブ口23の
開口横断面はノズル放出口3の横断面より大きくなければならない。
それによって,バルブ開口時の分析液体の流速がバルブの流体抵抗で
はなくおもに放出口3の流体抵抗によって決定されるということが保
証される。」(段落【0024】)
(サ)「図3は,閉鎖素子13が磁気的位置決め素子34によって動か
されるばあいの具体例を示す。それは,電流の極性(polarity)の機能
としての磁気コイル36によって矢印37の方向に上下に動きうる揺
動電動子35からなる。磁気的作動は,充分に高い作動頻度,そして
同時に比較的長い作動路(1mmの大きさのオーダーの)を可能にす
る。本発明において,位置決め運動が位置決め路の末端に近づいても
速度が落ちず,加速さえされることがとくに有利である。したがっ
て,閉鎖素子の直接的な磁気的作動は,閉鎖運動が本発明のためにと
くに好都合なコース(course)を採用することを可能にする。そうし
て,閉鎖素子13は,バルブ11が閉鎖する間,シーリングリム(図
3には示されていない)がシーリングシートに突き当たるまでノズル
放出口3の方向に減速されずにあるいは加速さえして動く。この具体
例においてもまた,圧力チャンバー1を位置決め素子区画31と分離
するために隔壁32が備えられている。」(段落【0030】)
(シ)図1として,「本発明」による装置の全体のレイアウトを示す断
面図。
イ前記アの各記載及び図1によれば,乙22には,①分析液体をノズル
から少量,パルス状にターゲットへ放出する装置(前記ア(ア)),②上
記装置は,圧力発生デバイス9により加圧された分析液体7が供給さ
れ,ノズルプレ−チャンバー4に液圧連結される圧力チャンバー1と,
シーリングシート17と,位置決め素子12によって動かされる閉鎖素
子13と,圧力チャンバー1に液圧連結されるノズルプレ−チャンバー
4と分析液体7を放出するノズル放出口3とを備えたノズル2とを有
し(同(ウ)ないし(オ)),シーリングシート17が,圧力チャンバー1
がノズルプレ−チャンバー4と液圧連結される位置の近傍に配置されて
いること(同(カ),図1)が記載されていることが認められる。
加えて,前記ア(オ),(キ)ないし(ケ)の記載によれば,乙22の上記
装置において,閉鎖素子13が開口位置から閉鎖位置まで移動する際
に,分析液体7が液圧加速によりノズル2から放出されるような速度で
閉鎖素子13を移動させること,閉鎖素子13が閉鎖位置に移動してシ
ーリングシート17に押しつけられることで分析液体7の流れを分断し
ていることを把握でき,また,液圧加速とは,閉鎖素子13の移動によ
り,閉鎖素子13前方の分析液体7に圧力が生じ,当該圧力により,閉
鎖素子13前方の分析液体7にノズル2方向への流れが生じ,当該流れ
がノズルプレ−チャンバー4の円錐形状により加速されることを意味す
るものと理解できる。
ウ(ア)次に,乙22には,前記ア(コ)のとおり,「液圧加速が有効であ
るためには,バルブ11のバルブ口23,これはシーリングリム15
とシーリングシート17との間の環状のすきまによって形成される
が,その開口横断面(openingcross-section)が閉鎖領域19よりも
小さい方が有利である。他方,バルブ口23の開口横断面はノズル放
出口3の横断面より大きくなければならない。それによって,バルブ
開口時の分析液体の流速がバルブの流体抵抗ではなくおもに放出口3
の流体抵抗によって決定されるということが保証される。」(段落【
0024】)との記載がある。
上記記載及び図1を総合すると,上記記載中の「横断面」とは,分
析液体7の流れに直交する面を意味する用語であって,「バルブ口2
3の開口横断面」は,バルブ開口時すなわち閉鎖素子13が開口位置
にある時のバルブ口23を通る分析液体7の流れに直交する面を,「
ノズル放出口3の横断面」は,「ノズル放出口3を通る分析液体7の
流れに直交する面」をそれぞれ意味するものと解される。
そして,上記記載中の「バルブ口23の開口横断面はノズル放出口
3の横断面より大きくなければならない。それによって,バルブ開口
時の分析液体の流速がバルブの流体抵抗ではなくおもに放出口3の流
体抵抗によって決定されるということが保証される。」との記載部分
から,バルブ開口時すなわち閉鎖素子13が開口位置にある時のバル
ブ口23の開口横断面をノズル放出口3の横断面より大きいものとす
ることによって,バルブ開口時に,分析液体7がバルブ口23を通る
際の流体抵抗が,ノズル放出口3を通る際の流体抵抗よりも小さくさ
れていることを把握することができる。
また,上記記載中の「液圧加速が有効であるためには,バルブ11
のバルブ口23,これはシーリングリム15とシーリングシート17
との間の環状のすきまによって形成されるが,その開口横断面(openi
ngcross-section)が閉鎖領域19よりも小さい方が有利である。」
との記載部分は,液圧加速によって,バルブ口23を通る分析液体7
の流れと,閉鎖領域19を通る分析液体7の流れとが生じており,バ
ルブ開口時すなわち閉鎖素子13が開口位置にある時のバルブ口23
の開口横断面(バルブ口23を通る分析液体7の流れに直交する面)
を閉鎖領域19よりも小さくすることによって,閉鎖素子13の移動
によって発生した圧力によって生じる流れのうち多くの部分をノズル
側に流すことができること(すなわち「液圧加速が有効」となるこ
と)を説明しているものと理解できる。そうすると,当該記載部分か
ら,閉鎖素子13の移動により生じた閉鎖素子13前方の分析液体7
の圧力によって,分析液体7がノズル2方向にのみ流れるのではなく
て,ノズル2方向への流れとともに,バルブ口23を通る分析液体7
の供給側への逆流も生じていることを把握することができる。
(イ)これに対し原告は,乙22記載の装置は,供給源の圧力で液体を
分配する装置であって,バルブが開いている時間間隔の制御によって
液体の分配量を制御するものであり,バルブが下降する際に逆流が生
じる構成のものではない旨主張する。
しかし,前記(ア)で認定のとおり,閉鎖素子13の移動により生じ
た閉鎖素子13前方の分析液体7の圧力によって,分析液体7がノズ
ル2方向にのみ流れるのではなくて,ノズル2方向への流れととも
に,バルブ口23を通る分析液体7の供給側への逆流も生じているこ
とを把握することができるから,原告の上記主張は理由がない。
エ前記アないしウを総合すれば,乙22には,「少量の分析液体7を放
出する分析液体放出装置であって,ノズル2のノズルプレ−チャンバー
4に液圧連結されるとともに,加圧された分析液体7が供給される圧力
チャンバー1と,圧力チャンバー1がノズルプレ−チャンバー4と液圧
連結される位置の近傍に配置されるシーリングシート17と,位置決め
素子12によって動かされる閉鎖素子13と,圧力チャンバー1に液圧
連結されるノズルプレ−チャンバー4と分析液体7を放出するノズル放
出口3とを備えたノズル2とを有し,閉鎖素子13は開口位置から閉鎖
位置まで常に加速されて移動するものであって,その移動速度は,液圧
加速によりノズル2から分析液体7を放出できるようなものであり,閉
鎖素子13が開口位置から閉鎖位置まで移動する過程において,圧力チ
ャンバー1内で,ノズル2方向への流れが生じているとともに,分析液
体7の供給側への逆流も生じている状態が存在しており,閉鎖素子13
が閉鎖位置に移動してシーリングシート17に押しつけられることで分
析液体の流れが分断され,分析液体7の流れがノズル放出口3から離れ
て,分析液体7をパルス状に放出するとともに,バルブ開口時に,分析
液体7がバルブ口23を通る際の流体抵抗が,ノズル放出口3を通る際
の流体抵抗よりも小さいような構成を有する分析液体放出装置」(以
下「乙22記載装置」という。)が記載されていることが認められる。
(2)乙22記載装置と本件発明1との対比
ア乙22記載装置の「分析液体7」は,本件発明1の「液体材料」と液
体である点において共通する。
乙22記載装置の「放出する」ことと,本件発明1の「分配する」こ
ととの間に相違は見出せないから,乙22記載装置と本件発明1は,共
に「分配装置」であるということができる。
乙22記載装置の「圧力チャンバー1」,「シーリングシート1
7」,「閉鎖素子13」,「ノズルプレ−チャンバー4」,「ノズル放
出口3」,「ノズル2」,「開口位置」,「閉鎖位置」は,本件発明1
の「第一流路」,「バルブ座」,「往復動バルブ」,「入口部分を有す
る第二流路」,「オリフィスを有する出口部分」,「ノズル組立
体」,「第一位置」,「第三位置」にそれぞれ相当する。
乙22記載装置の「圧力チャンバー1」,「シーリングシート1
7」,「閉鎖素子13」とを合わせて「バルブ組立体」と呼ぶかどうか
は単なる名称の問題にすぎないから,乙22記載装置は,本件発明1
の「バルブ組立体」に相当する構成を有している。
本件発明1の「急速」という速度は具体的な数値により規定される速
度ではないところ,前記(1)イ,ウ(ア)のとおり,乙22記載装置の閉鎖
素子13も,供給圧力を超える圧力を発生させて,逆流を生じさせると
ともに,液体材料の流れを分断させる程度の速度で移動するものであ
り,本件発明1の「急速」という速度と乙22記載装置の閉鎖素子13
の移動速度との間に,実質的な差異は見出せないから,乙22記載装置
と本件発明とは,往復動バルブが第一位置から第三位置まで急速に移動
可能である点で共通する。
また,乙22記載装置と本件発明1とは,往復動バルブが第一位置か
ら第三位置まで急速に移動する過程で,「第一流路における液体のうち
の所定割合を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一流路にお
ける液体の残りを該出口端から該第二流路に流し込」む状態が存在して
いる点,往復動バルブが第三位置に移動してバルブ座に着座することに
より第二流路を通しての液体の流れが分断され,オリフィスから分配さ
れる液体の流れが第二流路の出口部分から離れる点で共通する。
イそうすると,本件発明1と乙22記載装置との間には,次のような一
致点と相違点があることが認められる。
(一致点)
乙22記載装置は,構成要件1−Aないし1−Cを備え,往復動バル
ブは,第一位置からバルブ座に着座する第三位置にまで急速に移動可能
であって,その過程で,第一流路における液体のうちの所定割合を第一
流路の入口端方向に流す一方,第一流路における液体の残りを出口端か
ら第二流路に流し込み,往復動バルブが第三位置に移動してバルブ座に
着座することにより,第二流路を通しての液体の流れが分断され,オリ
フィスから分配される液体の流れが第二流路の出口部分から離れて少量
の液体を分配する液体分配装置である点で,本件発明1と一致する。
(相違点)
本件発明1が,「該往復動バルブは,第一位置から該バルブ座の側に
近い第二位置にまで急速に移動可能であって,これにより該第一流路に
おける液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該
第一流路における液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し
込」む構成(構成要件1−D)を有するのに対し,乙22記載装置は,
往復動バルブが第一位置から第三位置まで移動する過程で,第一流路に
おける液体のうちの「所定割合」を第一流路の入口端方向に流し,液体
の残りを出口端から第二流路に流し込む状態が存在してはいるもの
の,「第二位置」が存在するかどうか,「所定割合」が「大部分」であ
るかどうか不明である点で相違する。
(3)容易想到性
ア「第二位置」等の解釈
(ア)本件発明1の特許請求の範囲(請求項5)の記載中には,「該往
復動バルブは,第一位置から該バルブ座の側に近い第二位置にまで急
速に移動可能であって,これにより該第一流路における液体材料の大
部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一流路における
液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し込み,」(構成
要件1−D),「該往復動バルブは,該第二位置から該バルブ座に着
座する第三位置まで急速に移動可能であって,これにより該第二流路
を通しての液体材料の流れが分断され,該オリフィスから分配される
液体材料の流れが該第二流路の該出口部分から離れて液体材料の小滴
を形成する」(構成要件1−E)との記載部分がある。
上記記載部分のうち,「第二位置」,液体材料の「大部分」の用語
について,請求項5において規定した記載はない。また,本件明細書
1(甲4)中にも,これらの用語を定義した記載はない。
しかるに,「大部分」とは,一般に,「半分より多くの部分」(広
辞苑第六版1695頁)を意味することに照らすならば,本件発明1
の「該往復動バルブは,第一位置から該バルブ座の側に近い第二位置
にまで急速に移動可能であって,これにより該第一流路における液体
材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一流路
における液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し込
み,」(構成要件1−D)とは,往復動バルブの移動方向前方より押
し出される液体材料(以下,当該液体材料の流量を「全流量」とい
う。)のうち,半分より多くの部分が第一流路の入口端方向に流れ(
以下,当該第一流路の入口端方向に流れる液体材料の流量を「逆流
量」という。),残りの部分が第二流路方向に流れる(以下,当該第
二流路方向に流れる液体材料の流量を「オリフィス側流量」とい
う。)状態が,往復動バルブが第一位置から第二位置に移動するまで
の間,継続することを意味し,「第二位置」とは,往復動バルブが第
一位置からバルブ座に向かって移動する過程で,逆流量が全流量の半
分より多い状態にある位置を意味するものと解される。
(イ)これに対し原告は,「第二位置」の技術的意義は,本件明細書1
の記載(段落【0021】,【0054】,【0056】,【005
8】,図19,20等)から,往復動バルブが「第一位置」から「第
三位置」まで移動する間に,入口方向に逆流する流れが急激に減少
し,同時に,出口方向に向かう流れが増加する位置である旨(前記第
3の1(1)イ(イ)a)主張する。
しかし,本件発明1の特許請求の範囲(請求項5)においては,「
液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一
流路における液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し込
み,」とあるとおり,逆流量とオリフィス側流量の流量について「大
部分」か「いくらか」と規定しているが,逆流量及びオリフィス側流
量が増加又は減少することについての記載はなく,原告の主張は,特
許請求の範囲の記載に基づかないものであって採用することはできな
い。もっとも,原告主張の入口方向に逆流する流れが急激に減少し,
同時に,出口方向に向かう流れが増加する位置が,逆流量が全流量の
半分より多い状態にあれば,当該位置は「第二位置」に該当するもの
といえる。
(ウ)そこで,乙22記載装置において,往復動バルブが第一位置から
第三位置まで移動する過程で,逆流量が全流量の半分より多い状態に
ある「第二位置」が存在するかどうかについて検討する。
乙22には,「本発明において,閉鎖操作の間,すなわちバルブユ
ニットの閉鎖状態(閉鎖位置)の方向へと閉鎖素子が動くことによっ
て,液体の放出が阻止されず維持され促進されるように考慮してバル
ブユニットが組み立てられるならば,分析液体の調整に要求される高
精度な調整にとって,本発明が非常に有利であることが見出され
た。」(段落【0015】。前記(1)ア(ウ))との記載がある。この記
載及び図1からは,閉鎖素子13の閉鎖操作の間,すなわち,閉鎖素
子13が開口位置から閉鎖位置方向へと動くことによって分析液体7
の放出が阻止されず維持され促進されることが理解されるが,一方
で,段落【0012】に「中の分析液体が(たとえば0.1から5b
arの)永続的な圧力を受けている圧力チャンバー」との記載があ
り,「圧力チャンバー1」内における分析液体7の供給圧力(0.1
から5bar)は決して高いものではないことをも考慮すると,乙2
2記載装置において,閉鎖素子13が開口位置(第一位置)にある時
に,供給圧力により,分析液体7がノズル放出口3から放出されるか
否かは,必ずしも明らかとはいえない。
しかし,原告が主張するように(前記第3の3(2)ウ(ア)),閉鎖素
子13が開口位置にある時に,分析液体7がノズル放出口3から放出
されるものと考えると,乙22記載装置は,分析液体7の供給圧力と
閉鎖素子13の前進によって生じる圧力の双方が作用して液体を分配
するものと認められる。この場合には,乙22記載装置において,バ
ルブ間口時に,分析液体7がバルブ口23を通る際の液体抵抗が,ノ
ズル放出口3を通る際の流体抵抗よりも小さいという構成を有してい
ても,必ずしも,往復動バルブが第一位置から第三位置まで移動する
過程で逆流量が全流量の半分より大きくなるとは限らず,乙22記載
装置が相違点に係る本件発明1の構成を備えているものとは直ちには
いえない。
この点に関し,被告は,供給圧力を,バルブシャフトが「第一位
置」にあるとき,液体がノズルから流出しない程度の圧力に設定する
ことは,本件出願1の優先権主張日当時,周知(例えば,乙34,3
6)であった旨主張するので,この点について更に進んで検討する。
イ乙36の記載事項
(ア)乙36(米国特許第5205439号明細書)には,①「本発明
は,少量の粘性物質,例えば接着剤や半田ペーストなど,を印刷回路
基板上に供給し,電子部品の面実装を行う装置に関する。」(訳文・
1頁26行∼27行),②「本発明によるディスペンサは,供給容器
の充填高さや環境の温度あるいはその他のパラメータと独立に,一定
の時間間隔で正確な量の粘性物質を放出可能である。」(訳文・3頁
17行∼19行),③「粘性物質は圧縮空気によってノズルから押し
出され印刷回路基板上に塗布されるのではない。つまりそうではなく
て,プランジャとして作用するバルブニードルがその前方に存在する
一定量の粘性物質をノズルに向かって押すことで,排除量におおよそ
等しい量の粘性物質が吐出される。従って,粘性物質の分配量は,粘
性物質に作用する圧力及びその粘性に依存しない。本発明によれば,
ディスペンサ内の粘性物質に作用する圧力は,バルブニードルが上昇
位置にあるとき,粘性物質がノズルから流出しないように選定され
る。」(訳文・4頁8行∼14行)との記載がある。
(イ)上記記載によれば,乙36には,ディスペンサという技術分野に
おいて,供給容器の充填高さ(すなわち,粘性物質に作用させる圧力
の変動)等に依存せずに正確な分配量の粘性物質を放出するために,
粘性物質に作用させる圧力を,バルブニードルが上昇位置にあるとき
に粘性物質がノズルから流出しないような値に設定する技術思想が開
示されているものと認められる。
そうすると,供給圧力を,バルブシャフトが開口位置(第一位置)
にあるとき,液体がノズルから流出しない程度の圧力に設定すること
は,本件出願1の優先権主張日当時,被告が主張するように周知であ
ったかどうかはともかく,乙36から,少なくとも公知であったこと
が認められる。
ウ相違点に係る構成の容易想到性
(ア)乙22には,「本発明は,液体(fluid)がノズル放出口を通してノ
ズルから少量・・・放出される,分析液体のターゲットへの調整供給(
proportionedfeeding)装置に関する。」(段落【0001】。前記(1)
ア(ア)),「本発明の目的は,・・・希釈器やディスペンサーで現在
まで成し遂げられる最少量よりも少ない,厳密に決められた量の,分
析液体の特定量を生じ(generate)させうるような,分析液体のターゲ
ットへの供給装置を提供することである。」(段落【0008】。前
記(1)ア(イ))との記載がある。上記記載によれば,「本発明」は,液
体(fluid)をノズルから少量調整供給する装置の技術分野において,「
厳密に決められた量」の分析液体を供給するという課題の解決を目的
とするものと認められる。
一方,乙36には,「本発明は,少量の粘性物質,例えば接着剤や
半田ペーストなど,を印刷回路基板上に供給し,電子部品の面実装を
行う装置に関する。」(前記イ(ア)①),「本発明によるディスペン
サは・・・一定の時間間隔で正確な量の粘性物質を放出可能であ
る。」(前記イ(ア)②)との記載があることに照らすならば,乙36
は,乙22と同様の技術分野に属し,かつ,「正確な量」(乙22
の「厳密に決められた量」に相当)の分析液体を供給するという課題
の解決を目的とする点で共通するものと認められる。
また,そもそも,逆流量の「所定割合」を,全流量の半分を超えた
量(「大部分」)とするのか,それ以外の量とするのかは,液体の分
配量をどの程度の量とするのかに応じて当業者が適宜選択することの
できる設計的事項にすぎないものである。
(イ)そうすると,乙22及び乙36に接した当業者であれば,乙22
記載装置において,正確な量の分析液体の供給を図るため,乙36記
載の「供給圧力を,バルブシャフトが開口位置にあるとき,液体がノ
ズルから流出しない程度の圧力に設定する」という技術を適用して,
分析液体7の供給圧力を,閉鎖素子13が開口位置(第一位置)にあ
るとき,分析液体7がノズル2から流出しない程度の値に設定するこ
とは,容易に想到することができたものと認められる。
そして,乙22記載装置において,閉鎖素子13が開口位置(第一
位置)にあるときは,分析液体7がバルブ口23を通る際の流体抵抗
が,ノズル放出口3を通る際の流体抵抗よりも小さいから(前記1(1)
ウ(ア)),分析液体7の供給圧力をノズル2から分析液体7が流出し
ない程度の値に設定した場合には,閉鎖素子13が第一位置から第三
位置まで移動する過程で,逆流量が全流量の半分を超え,オリフィス
側流量が残りの部分を占めた状態が閉鎖素子13の加速開始から所定
区間継続するものと認められるから(乙38,43),乙22記載装
置には,「第二位置」が存在し,相違点に係る本件発明1の構成(「
該往復動バルブは,第一位置から該バルブ座の側に近い第二位置にま
で急速に移動可能であって,これにより該第一流路における液体材料
の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一流路にお
ける液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し込」む構
成)を備えるものと解される。
(ウ)これに対し原告は,乙36は,バルブニードルが押しのけた容積
とほぼ等しい量の液体を吐出すること,バルブニードルがバルブ当た
り面に当接することを開示しているものの,乙36の「粘性物質に作
用する圧力は,ノズル部24の底部にある粘性物質を流出させるのに
充分なものとし,バルブニードル30とバルブ当たり面32が粘性物
質の通過を開始及び停止させる単なるドロップシャッタとして作用す
るようにしてもよい。」(訳文・6頁22行∼27行)との記載から
も明らかなとおり,乙36に主たる実施態様として記載されているバ
ルブニードルの作用と,乙22の装置におけるオン−オフ・バルブ(
液体供給源の圧力によって液体が流出するような条件の下で,バルブ
がバルブ座に当接して流路を閉鎖することによって液体の流出を止め
るという構成)とは択一的なものであるから,乙22に乙36を組み
合わせる動機が存在しない旨主張する。
しかし,乙36に記載された装置においては,バルブニードルの排
除量におおよそ等しい量の粘性物質が吐出するよう構成されているこ
と,すなわち,ほぼ逆流が生じないように構成され,一方,乙22記
載装置においては,逆流が生じる構成であるものの,①前記(ア)のと
おり,乙22と乙36とは技術分野及び課題が共通すること,②分析
液体7の供給圧力を,閉鎖素子13が開口位置にあるときに分析液体
7がノズル2から流出しないような値に設定することで,少なくと
も,供給圧力の変動等による供給量の変動を減少させることができる
ことに照らすならば,乙22記載装置に乙36記載の技術(「供給圧
力を,バルブシャフトが開口位置にあるとき,液体がノズルから流出
しない程度の圧力に設定する」という技術)を適用することの動機付
けないし契機が存在するというべきである。
しだがって,原告の上記主張は理由がない。
(エ)以上によれば,当業者であれば,乙22記載装置において,乙3
6記載の公知技術(前記イ(イ))を適用して,相違点に係る本件発明
1の構成を採用することを容易に想到することができたものと認めら
れる。
(4)まとめ
以上のとおり,本件発明1は,当業者が乙22記載装置と乙36記載の
公知技術に基づいて容易に想到することができたものであるから,本件発
明1は進歩性を欠くものであり,本件特許1には,特許法29条2項に違
反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判により無
効とされるべきものと認められる。
したがって,原告は,同法104条の3第1項の規定により,被告に対
し,本件特許権1を行使することができない。
2争点4(本件特許権2に基づく権利行使の制限の成否)について
まず,被告主張の無効理由5(進歩性の欠如)から判断する。
被告は,本件発明2は,乙4等記載発明②(乙4,5,22又は乙23に
記載された方法の発明)に,甲34ないし36等に開示された周知技術を適
用することにより当業者が容易に想到することができたものであるから,本
件特許1には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2
号)がある旨主張する。
そこで,以下においては,乙22に記載された方法の発明に基づいて当業
者が本件発明2を容易に想到することができたかどうかについて検討する。
(1)乙22の記載事項
前記1(1)の認定事実を総合すれば,乙22には,「少量の分析液体7を
放出する方法であって,圧力チャンバー1がノズルプレ−チャンバー4と
液圧連結される位置の近傍に配置されたシーリングシート17と,圧力チ
ャンバー1の中に配置された閉鎖素子13とを有し,側壁,上壁,及び,
ノズルプレ−チャンバー4とノズル放出口3とを備えた下方部材により形
成されている筐体を貫通して延在している圧力チャンバー1のブランチ6
aと接続する部分に分析液体7を供給し,圧力チャンバー1に液圧連結さ
れるノズルプレ−チャンバー4と,分析液体7を放出する細長いノズル部
材を貫通して延在しているオリフィス状の小径の流路が設けられているノ
ズル放出口3とを有し,ノズル2を貫通して延在している流路を,閉鎖素
子13がシーリングシート17から離れた開口位置にあるときに分析液体
7で満たし,閉鎖素子13を開口位置からシーリングシート17と係合し
て着座する閉鎖位置まで加速して移動させ,その過程において,圧力チャ
ンバー1内で,ノズル2方向への流れが生じているとともに,分析液体7
の供給側への逆流も生じている状態が存在しており,閉鎖素子13が閉鎖
位置に移動して,閉鎖素子13をシーリングシート17に対して急速に閉
鎖することで,ノズル2を貫通して延在している流路を通過する分析液体
7の流れを止め,ノズル放出口3から放出されている分析液体7の流れを
ノズル放出口3で分断して,パルス状に放出する方法。」(以下「乙22
記載方法」という。)が記載されていることが認められる。
(2)乙22記載方法と本件発明2との対比
ア乙22記載方法の「分析液体7」は,本件発明2の「液体材料」と液
体である点において共通する。
乙22記載方法の「放出する」ことと,本件発明2の「分配する」こ
ととの間に相違は見出せないから,乙22記載方法と本件発明2は,共
に「分配する方法」であるということができる。
乙22記載方法の「圧力チャンバー1」,「シーリングシート1
7」,「閉鎖素子13」,「側壁,上壁,及び,ノズルプレ−チャンバ
ー4とノズル放出口3とを備えた下方部材により形成されている筐
体」,「ノズルプレ−チャンバー4」,「ノズル放出口3」,「ノズル
2」,「開口位置」,「閉鎖位置」は,本件発明2の「第一流路」,「
バルブ座」,「往復動バルブ」,「バルブ組立体」,「第一流路の出口
端部から前記液体材料を受け取る入口部分」,「前記液体材料を分配す
る細長いノズルを貫通して延在しているオリフィスが設けられている出
口部分」,「ノズル組立体」,「第一位置」,「第三位置」にそれぞれ
相当する。
乙22記載方法と本件発明2とは,往復動バルブが第一位置から第三
位置まで移動する過程で,「第一流路にある液体の所定割合を前記第一
流路の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液
体を前記出口端部から前記第二流路内へ流」す状態が存在している点,
往復動バルブが第三位置に移動してバルブ座に急速に着座することによ
り第二流路を通過する液体の流れを止め,ノズルの出口から分配されて
いる液体の流れをノズルの出口で分断する点で共通する。
イそうすると,本件発明2と乙22記載方法との間には,次のような一
致点と相違点があることが認められる。
(一致点)
乙22記載方法は,構成要件2−Aないし2−C,2−Fを備え,バ
ルブ(往復動バルブ)がバルブ座から離れた第一位置にあるときに第二
流路を液体で満たし,前記バルブを,第一位置からバルブ座と係合して
着座する第三位置に向かって加速して移動させ,その過程において,第
一流路にある液体のうちの所定割合を第一流路の入口端部に向けて流す
とともに,第一流路内の残りの液体を出口端部から第二流路内へ流して
ノズルの出口から液体の流れとして分配させる点で,本件発明2と一致
する。
(相違点1)
本件発明2が,「前記バルブを,前記第一位置から,前記第一位置よ
りも前記バルブ座(612)へより近づいた第二位置まで,加速し,それに
よって,前記第一流路(608)にある前記液体材料の大部分を前記第一流
路の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体
材料を前記出口端部から前記第二流路内へ流」す構成(構成要件2−
D)を有するのに対し,乙22記載方法は,往復動バルブが第一位置か
ら第三位置まで移動する過程で,第一流路における液体のうちの「所定
割合」を第一流路の入口端部に向けて流し,液体の残りを出口端部から
第二流路内へ流す状態が存在してはいるものの,「第二位置」が存在す
るかどうか,「所定割合」が「大部分」かどうか不明である点で相違す
る。
(相違点2)
本件発明2が,「前記バルブを,前記第二位置から,前記バルブ座(6
12)と係合して着座する第三位置に向かって移動させ,それによって,
前記第一流路(608)の入口端部に向かう前記液体材料の流れを減少させ
るとともに,前記第二流路を通過する液体材料の流れを増加させ」る構
成(構成要件2−E)を有するのに対し,乙22記載方法では,バルブ
が第二位置から第三位置に向かって移動する間,第一流路の入口端部に
向かう液体の流れを減少させ,第二流路を通過する液体の流れを増加さ
せるような第二位置が存在するのかどうか不明である点で相違する。
(3)容易想到性
ア相違点1に係る構成の容易想到性
前記1(3)で説示したところと同様の理由により,当業者であれば,乙
22記載方法において,乙36記載の技術(「供給圧力を,バルブシャ
フトが開口位置にあるとき,液体がノズルから流出しない程度の圧力に
設定する」という技術)を適用して,相違点1に係る本件発明2の構成
を採用することを容易に想到することができたものと認められる。
イ相違点2に係る構成の容易想到性
(ア)まず,本件発明2における「第二位置」の意義について検討す
る。
本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発
明2における「第二位置」は,第一位置からこの位置に至るまでの
間,「第一流路にある前記液体材料の大部分を前記第一流路の前記入
口端部に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体材料を前
記出口端部から前記第二流路内へ流」すもの(構成要件2−D)であ
るとともに,この位置から第三位置に至るまでの間,「第一流路の入
口端部に向かう前記液体材料の流れを減少させるとともに,前記第二
流路を通過する液体材料の流れを増加させ」るもの(構成要件2−
E)である。
そして,前記1(3)ア(ア)と同様の理由により,構成要件2−Dの「
第一流路にある前記液体材料の大部分を前記第一流路の前記入口端部
に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体材料を前記出口
端部から前記第二流路内へ流」すとは,逆流量が全流量の半分を超え
ており,オリフィス側流量が残りの部分を占めていることを意味する
ものと解される。また,構成要件2−Eの「第一流路の入口端部に向
かう前記液体材料の流れを減少させるとともに,前記第二流路を通過
する液体材料の流れを増加させ」るとは,逆流量が減少し,オリフィ
ス側流量が増加することを意味するものと解される。
そうすると,本件発明2における「第二位置」とは,第一位置から
当該位置に至るまで逆流量が全流量の半分を超えた状態が維持されて
いるとともに,当該位置から第三位置に至るまで逆流量が減少し,オ
リフィス側流量が増加する状態が維持されるという条件を満たす位置
を意味するものと解される。
(イ)前記1(3)ウ(ア),(イ)のとおり,当業者であれば,乙22記載方
法において,乙36記載の技術(「供給圧力を,バルブシャフトが開
口位置にあるとき,液体がノズルから流出しない程度の圧力に設定す
る」という技術)を適用して,分析液体7の供給圧力をノズル2から
分析液体7が流出しないような値に変更し,閉鎖素子13の前進によ
って生じる圧力のみによって分析液体7を分配させるような構成を採
用することを容易に想到することができたものと認められる。
加えて,乙22の段落【0030】(前記1(1)ア(サ))の「本発明
において,位置決め運動が位置決め路の末端に近づいても速度が落ち
ず,加速さえされることがとくに有利である。」との記載から,閉鎖
素子が運動している間常に加速することが有利であることを把握でき
ること,加速運動としては等加速度運動とすることが技術的に最も容
易な駆動方法であることに照らすならば,乙22記載方法において,
閉鎖素子13を等加速度運動させることは,当業者が容易に想到する
ことができたものと認められる。そして,乙22記載方法は,バルブ
開口時に,分析液体7がバルブ口23を通る際の流体抵抗が,ノズル
放出口3を通る際の流体抵抗よりも小さいから(前記1(1)ウ(ア)),
分析液体7の供給圧力をノズル2から分析液体7が流出しないような
値に設定した上で,閉鎖素子13を等加速度運動させた場合には,バ
ルブが第一位置から第三位置に向けて移動するに伴って,ある時点ま
では,逆流量がなだらかに増加し,当該時点以降は,逆流量が急激に
減少するものであり,また,全流量に占める逆流量の割合はなだらか
に減少するものと認められる。
そして,バルブ開口時すなわち閉鎖素子13が開口位置にある時の
分析液体7がバルブ口23を通る際の流体抵抗(逆流方向の流体抵
抗)を,ノズル放出口3を通る際の流体抵抗(オリフィス方向の流体
抵抗)よりも,どの程度小さい値に設計するかについては,分析液体
7の分配量,その用途等に応じて当業者が適宜選択することのできる
設計的事項にすぎないものと認められる。また,上記時点において,
逆流量が全流量の半分を超えるような流体抵抗の値を選択すること
も,当業者が適宜選択することのできる設計的事項にすぎないものと
認められる。
(ウ)以上によれば,当業者であれば,乙22記載方法において,乙3
6記載の公知技術(前記(イ))を適用して,往復動バルブ(閉鎖素子
13)が第二位置から第三位置まで移動する間,第一流路の入口端部
に向かう液体の流れを減少させるとともに,第二流路を通過させる液
体の流れを増加させる構成(相違点2に係る本件発明2の構成)を採
用することを容易に想到することができたものと認められる。
(4)まとめ
以上のとおり,本件発明2は,当業者が乙22記載方法と乙36記載の
公知技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるか
ら,本件発明2は進歩性を欠くものであり,本件特許2には,特許法29
条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審
判により無効とされるべきものと認められる。
したがって,原告は,同法104条の3第1項の規定により,被告に対
し,本件特許権2を行使することができない。
3結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理
由がないから,いずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官関根澄子
裁判官古庄研は,転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官大鷹一郎

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