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長崎地裁平成21・5・22
316条の15第1項棄却
主文
本件各証拠開示請求をいずれも棄却する。
理由
1主任弁護人の本件請求趣旨及び理由は主任弁護人作成の「裁定請求書(1)」記載のとおり
であるが,要するに,検察官が取調べを請求し,「本件犯行現場には被告人と被害者しかいな
かったこと」を要証事実とするA(甲17)及びB(甲18)の各検察官調書(以下「本件検察官請
求証拠」という。)の証明力を判断するため,被告人方付近で行われた,犯人目撃の有無,不審
者立ち回りの有無等の聞き込みに関するすべての供述録取書等(捜査報告書を含む。以下
「本件各証拠」という。)につき,刑事訴訟法(以下「法」という。)316条の15第1項6号に該
当する証拠として開示命令を求めるというものである。
2裁判所が開示命令を発するに当たっては,検察官が法の規定により開示をすべき証拠を
開示していないと認められることを要する(法316条の26第1項)。法316条の15第1項に
基づく証拠開示は,同項各号に該当するものについて被告人又は弁護人からの請求がなさ
れることを要件としているところ,本件において,弁護人は,検察官に対し,本件各証拠につ
いて,法316条の15第1項5号ロに該当する証拠として開示の請求を行ったものの,同項6
号に該当する証拠として開示の請求をしていないというのであり,本件各証拠の開示を請
求したとはいえない。よって,検察官が法の規定により開示をすべき証拠を開示していない
とは認められない。
なお,検察官は,弁護人の請求に係る証拠として,①「本件発生時には既に寝ていたので
はないかと思う」などと記載された付近住民の供述調書1通,②付近住民等からの聞き込
み結果を記載した捜査報告書57通が存在するが,いずれも法316条の15第1項6号該当性
が認められない旨意見を述べるので,念のため,検察官提示に係るこれらの証拠を検討した
上付言する。まず,本件証拠①は,本件犯行時刻ころには既に就寝していてその際の状況に
ついて知らないという内容のものであり,検察官が本件検察官請求証拠により直接証明し
ようとする「本件犯行現場には被告人と被害者しかいなかった」という事実の有無に関する
供述を内容とするものではないから,同号に該当しない。さらに,本件証拠②は,いずれも警
察官作成の捜査報告書であるが,仮に,実質的には参考人(原供述者)の供述を録取した書面
であるとしてみても,その者の署名又は押印を欠くから,当該参考人の供述録取書等(法316
条の14第2号)には該当せず,また,聞き込み捜査に当たった警察官が捜査過程で作成した
供述書であるとしても,検察官が本件検察官請求証拠により直接証明しようとする上記事
実の有無に関する供述を内容とするものとはいえず,いずれにしても同号には該当しない。
弁護人は,同号の「直接証明しようとする事実の有無に関する供述」には伝聞供述も含む旨
主張する。しかしながら,一般に開示する必要性が高く,かつ,弊害も少ない類型の証拠に限
り,重要性や必要性の程度,弊害の内容及び程度等を考慮した上で開示の対象とすることと
した本条の趣旨に照らせば,同号の「供述」とは原供述のみをいうと解すべきであり,弁護人
の主張は採用できない。
3以上のとおりであるから,弁護人の本件申立てにはいずれも理由がない。よって,主文の
とおり決定する。
(裁判長裁判官・松尾嘉倫,裁判官・内藤恵美子,裁判官・佐伯良子)
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