弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決並びに第二審判決を破毀する。
     本件を和歌山地方裁判所に差戻す。
         理    由
 弁護人池辺甚一郎上告趣意第一点について。
 所論第二審たる和歌山地方裁判所の第一回公判において、弁護人からA及びBを
証人として申請したるところ、裁判所は之が申請を却下したことは、右公判調書に
よつて明らかである。然るに同裁判所は右却下したA及びB両人提出の各始末書を
証拠として採つているのである。右は明らかに刑訴応急措置法第一二条第一項の規
定に違反し、延いて憲法第三七条第二項に違憲の判決と言わねばならぬ。蓋し、憲
法第三七条第二項によれば「刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を
充分に与へられ、、、る権利を有する」と規定しているのであつて、刑訴応急措置
法第一二条第一項は右憲法第三七条第二項の内容を実現するため設けられた規定で
あること、換言すれば、刑訴応急措置法第一二条第一項は憲法第三七条第二項の規
定そのものに淵源して設けられた規定であることは明らかと言わねばならぬ。尤も、
第二審裁判所の第一回公判期日において前示証人申請が却下せられた後、第二回公
判期日においては刑訴第三五三条後段の場合である、一五日以上開廷しなかつたこ
とによつて、第一回公判期日と同一構成の裁判所において公判手続が更新されてお
り、而して右更新後の公判期日においては重ねて前示証人の申請はなかつたのであ
るが、右は弁護人としては同一構成による裁判所に対し、重ねて前に却下された証
人申請を繰返しても、再び却下せられるものと考えるのは寧ろ当然とすべきである。
従つて右更新後の公判期日において証人申請がなかつたからとて、上示証人申請を
却下しながら遂に始末書を証拠に採つた第二審の措置は、前示刑訴応急措置法並び
に憲法の各条項に違反するものと解するを相当とする。而して、原上告審に提出さ
れたる上告趣意書第四点には「云々ABヲ、、、、証人トシテ喚問セラレ度旨ノ申
請ヲ為シタリ、、、之等ノ証人ヲ喚問シ或ハ証拠物ニ付キ取調ヲ為スノ必要ナルハ
明カナリ然ルニ原審裁判所ハ之レカ証拠ニ付キ何等取調コ為ササルモノニシテ審理
ヲ尽ササル違法アリト云ハサルヲ得ス」との主張ありて、右主張の内容には、証人
申請を却下しながら始末書を証拠に採つたのは違法なりとの主張を包含するものと
解すべく、而してその違法の内容は、前示刑訴応急措置法並びに憲法の各条項の違
反に帰着するものなるに拘わらす、原上告審は「証拠調の範囲は刑事訴訟法第三百
四十二条のごとき特別の規定ある場合を除き裁判所の自由に決し得べきところであ
るから所論の各証人を原裁判所が取調べなかつたことをもつてその審理手続に違法
ありというを得ない」として之を排斥したのは、憲法第三七条第二項に違反した違
憲の判決であつて、従つて結局上示第二審の措置を違憲にあらずと為したるに帰着
するものであるから、論旨はこの点において理由あり。
 仍つて爾余の論旨に対する説明を省略し、刑訴第四四七条、第四四八条の二第一
項に従い主文のとおり判決する。
 この判決は、斎藤裁判官沢田裁判官を除く他の裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 柳川真文関与。
 裁判官斎藤悠輔同沢田竹治郎の反対意見は次のとおりである。
 刑訴応急措置法第一七条は「高等裁判所が上告審としてした判決に対しては、そ
の判決において法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかについてし
た判断が不当であることを理由とするときに限り、最高裁判所に更に上告すること
ができる。」と規定して、再上告を許容するには、原上告判決に憲法適否の判断の
存すること及び再上告理由がその判断の不当であることを理由とするときに限るこ
とを要件としている。しかるに本件再上告趣意第一点は、第二審裁判所は弁護人か
ら証人としてC、A、Bの訊問を申請したにもかかわらずすべてこれを却下しなが
ら、その却下した証人、A及び同B両人の各始末書を証拠として採用し有罪の判決
を為し原上告判決もこれを是認したのは刑訴応急措置法第一二条に違反する違法の
判決であると言うにある。従つて、その再上告理由は普通の法律違反を理由とする
もので何等憲法適否を理由とするものでないこと明白である。されば、本論旨は、
再上告適法の理由となり得ないこと当最高裁判所大法廷の判例(昭和二三年(れ)
第四四六号同年七月二九日言渡大法廷判決)に照し明らかなところである。然るに
多数意見は、これを以て「延いて憲法第三七条第二項に違憲の判決と言わねばなら
ぬ」として、その理由を「刑訴応急措置法第一二条第一項は右憲法第三七条第二項
の内容を実現するため設けられた規定であること、換言すれば刑訴応急措置法第一
二条第一項は憲法第三七条第二項の規定そのものに淵源して設けられた規定である
ことは明らかと言わねばならぬ」と説明している。若し、多数意見のごとく憲法規
定の内容を実現するため設けられた法律規定に反することがすなわち憲法の条規に
反するものとすればすべての法律違反は尽く憲法違反となるであらう。例えば、社
会福祉、社会保障及び公衆衛生に関する立法は憲法第二五条の規定の内容を実現す
るために設けられ同条に淵源するものであり、また、財産権に関する法律は、憲法
第二九条第二項の規定の内容を実現するために設けられ同条項に淵源するものであ
り、更らに、刑事訴訟法は憲法第三一条の内容を、民事訴訟法は憲法第三二条の内
容をそれぞれ実現するために設けられるものであるからである。
 しかも本件における第二審判決の基礎となつた口頭弁論は、第一回(昭和二二年
一〇月二七日)の公判における口頭弁論ではなく、その後において更新された第二
回(同年一一月一四日)の公判における口頭弁論に基くものであり、その第二回の
公判における口頭弁論においては、その公判調書の記載によつて明らかなように弁
護人からC、A、及びBの証人申請は全然為されていないのである。しかるに、多
数意見は、此の証人申請をしなかつた事実を認めながら「右は弁護人としては同一
構成による裁判所に対し、重ねて前に却下された証人申請を繰返しても、再び却下
せられるものと考えるのは寧ろ当然とすべきである」と説明して、更新後の口頭弁
論において請求しなかつた証人喚問をこれを請求した場合と同一に解している。し
かし、右多数意見の見解は、弁護人の主張しない且つ記録上全然根拠のない単なる
臆測に過ぎないものである。仮りに多数意見の臆測するような理由で証人申請をし
なかつたからと言つて、それは弁護人の封建的思想に基く一種の「あきらめ」に外
ならないのであつて、その申請しなかつた結果の責は弁護人自ら負担すべく、これ
を裁判所に負担せしむる理由はない。それ故多数意見は判決の基礎となつた口頭弁
論における訴訟手続を看過して、強いて判決の基礎となつていない更新前の口頭弁
論における訴訟手続の当否を論ずるもので、明らかに刑訴第四八条第一項、第三五
三条の規定を無視し同第六四条に違反する見解といわねばならぬ。
 しかのみならず本上告理由は原上告審において主張せられたものではなく、本件
再上告を理由として全く新らたに主張したものである。されば原上告判決において
は、もとより本論点につき何等の判断もしていないのは当然であつて、原上告判決
に憲法適否に関する判断の存することを要する点からしても本論旨は再上告の目的
物を欠く不適法な論旨といわざるを得ない。この点に関し多数意見は原上告審にお
いて上告趣意第四点として主張せられたとするけれども該四点なるものは証人喚問
及び証拠物の取調等をしないのは審理不尽だという論旨であつて断じて刑訴応急措
置法第一二条違反の主張でないことその趣意書に照し明白であるからこの点におい
ても多数意見は全然事実に反する見解である。
 これを要するに本論旨は再上告の目的物の観点からしても、また、攻撃方法たる
再上告理由の観点からしても、ともに、不適法たるを免れない。されば多数意見は、
その両観点における事実上の見解と法律上の見解において、それぞれ二重の誤りを
包蔵する四重の誤を犯し、かくて原上告判決に因つて既に執行力を生じた、裁判の
安定を破壊し、惹いて濫訴を奨励して事件の輻輳と渋滞とを結果するものと断ぜざ
るを得ない。
 なお、論旨第二点は普通の上告理由であつて、憲法適否の上告理由ではなく、ま
た、論旨第三点は原上告審において何等これを主張した形跡がなく、従つて原上告
判決において毫もこれに関する判断が存在しないものであるから前述の理由により、
いずれも再上告適法の理由とならない。本件再上告は不適法として棄却すべきであ
る。
  昭和二三年一一月五日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
 裁判官小谷勝重は差支のため署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義

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