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平成29年2月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成28年(行ケ)第10103号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成29年2月7日
判決
原告株式会社永木精機
同訴訟代理人弁理士岡田全啓
竹中俊夫
扇谷一
被告訴訟引受人株式会社HI-TOOL
脱退被告Y
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2015-800093号事件について平成28年3月28日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
(1)脱退被告は,平成24年1月24日,発明の名称を「掴線器」とする特許出
願をし,平成26年1月31日,設定の登録(特許第5465733号)を受けた
(請求項の数1。以下,この特許を「本件特許」という。甲34)。本件特許出願
は,実用新案登録出願(実用新案登録第3163196号。出願日平成22年1月
15日。以下「もとの出願日」という。)の変更である。
(2)原告は,平成27年3月31日,本件特許について特許無効審判を請求し,
無効2015-800093号事件として係属した。
(3)特許庁は,平成28年3月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本
は,同年4月7日,原告に送達された。
(4)原告は,平成28年4月28日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
した。
(5)本件特許に係る特許権は,被告訴訟引受人(以下「引受人」という。)に移
転され,平成28年5月23日,特許登録原簿にその移転登録がされた。
2特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(甲34)。以下,請求
項1に記載された発明を「本件発明」という。また,その明細書(甲34)を,図
面を含めて「本件明細書」という。
【請求項1】長レバーのリング部に引張力を負荷することで,テコを利用してケ
ーブルを把持する構造の掴線器において,その長レバーの後端に設けたリング部を,
長レバー及びケーブルの平面に対して15°~45°に捻ったことを特徴とする掴
線器
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,①
本件発明は,下記アの引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び
下記イないしソの周知例に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をする
ことができたものではないから,特許法29条2項の規定に違反して特許されたも
のではない,②本件発明は,その発明の詳細な説明の記載が,当業者がその実施を
することができる程度に明確かつ十分に記載したものであり,同法36条4項1号
に規定する要件(以下「実施可能要件」ということがある。)を満たしており,実
施可能要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものではない,というも
のである。
ア引用例:米国特許1942625号公報(甲1。昭和9年公開)
イ周知例1:特開2002-199568号公報(甲2)
ウ周知例2:特開2010-226872号公報(甲3。平成22年10月7
日公開)
エ周知例3:特開2000-245024号公報(甲4)
オ周知例4:米国特許3599297号公報(甲5の1。昭和46年公開)及
び「米国特許3599297号公報の図面の説明図」と題する書面(甲5の2)
カ周知例5:特開平10-255547号公報(甲6)
キ周知例6:特公昭42-10075号公報(甲7)
ク周知例7:実開昭54-102800号公報(甲8の1)
ケ周知例8:実願昭52-176706号のマイクロフィルム(甲8の2)
コ周知例9:特開2005-89084号公報(甲9)
サ周知例10:特開2000-288952号公報(甲10)
シ周知例11:特開2003-181539号公報(甲11)
ス周知例12:特開2008-48488号公報(甲12)
セ周知例13:特開2005-205492号公報(甲13)
ソ周知例14:特開平10-146619号公報(甲14)
(2)本件発明と引用発明との対比
本件審決が認定した引用発明,本件発明と引用発明との一致点及び相違点は,以
下のとおりである。なお,「/」は,原文の改行部分を示す(以下同じ。)。
ア引用発明
ボディ12および腕15を有するフレーム11を備え,前記ボディ12および前
記腕15の接合部に隣接して顎16が形成され,より短い腕20とより長い腕21
が形成されたベルクランク18は,前記ボディ12に支点ピン22により枢着され,
前記より短い腕20は,ピン26上で枢動される顎25を受け,前記より長い腕2
1は,ピン33に枢動できるように取り付けられるハンドル32を有し,前記ハン
ドル32の柄を受けて導くためのガイド36を備えたブラケット35は,その外端
部に隣接する前記腕15の側に形成され,前記ハンドル32は,前記ピン33と前
記ブラケット35との間に段差状の屈曲する部分を有し,前記ハンドル32の外の
方に伸びている一端は目37を備えた,ワイヤー把持具であって,/逆時計回り方
向に前記ベルクランクを回すために外の方に前記ハンドル32を引くことにより,
枢着された前記顎25が,ワイヤー38に対して前記顎16の方へ移動するとすぐ
に,前記ワイヤー38は確実に握持され,/引っ張る負荷が前記目37に適用され
るとき,前記ガイド36のその形状と配置にあわせて,前記ハンドル32の前記段
差状の屈曲と枢着接続部の移動の円弧がよく調整されているので,引っ張る動作は
常に前記ワイヤー38のほぼ軸方向とされ,把持面の位置またはそのあたりで,前
記ワイヤー38が曲がったり捻れたりすることを防止し,かつ絶縁型の前記ワイヤ
ー38への損傷や切断を生じないワイヤー把持具。
イ一致点
長レバーのリング部に引張力を負荷することで,テコを利用してケーブルを把持
する構造の掴線器において,その長レバーの後端にリング部を設けた掴線器。
ウ相違点
本件発明は,「その長レバーの後端に設けたリング部を,長レバー及びケーブル
の平面に対して15°~45°に捻った」ものであるのに対し,引用発明は,「ハ
ンドル32は,前記ピン33と前記ブラケット35との間に段差状に屈曲する部分
を有し」ているが,「捻った」部分を有するものではない点。
4取消事由
(1)本件発明の容易想到性判断の誤り(取消事由1)
ア判断の遺脱
イ相違点に係る判断の誤り
(2)実施可能要件に係る判断の誤り(取消事由2)
ア本件発明の要旨認定の誤り
イ実施可能要件に係る判断の誤り
第3当事者の主張
1取消事由1(本件発明の容易想到性判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)判断の遺脱
原告は,本件審判手続において提出した口頭審理陳述要領書(甲35)において,
リング部とケーブルとの接触(干渉)を回避するという課題を解決するための手段
として,ハンドルを屈曲ないし湾曲させるか,あるいは本件発明のようにリング部
を捻るかは,単なる設計事項にすぎない旨主張した。
しかし,本件審決は,原告の上記主張に対し,何らの判断もしていない。よって,
本件審決には,判断の遺脱がある。
(2)相違点に係る判断の誤り
ア課題
引用発明では,引っ張る負荷が目37に適用されるとき,ハンドル32の湾曲と
ピボット接続部の調整により,ワイヤーが曲がったり,捻れたりせず,引っ張る動
作は常にワイヤーのほぼ軸方向にある。したがって,引用発明には,「ケーブルの
屈曲によるケーブル表面に生じる屈曲のクセ及び損傷等の不都合を解決する」とい
う課題が存在している。
また,掴線器において,リング部中心とケーブル中心との距離を小さくすること
でケーブルの損傷を回避することができることは,当業者が経験的に知る技術常識
であるから,引用発明にリング部とケーブルとの接触(干渉)を回避する必要があ
るという課題が存在することは,明らかである。
イ周知技術
(ア)甲1ないし27に示されているように,もとの出願時において,「板材及
び線材を捻ることにより,一の端部の平面に対して一定の角度をもって他の端部の
平面を位置させること」は,様々な技術分野において利用されている周知技術であ
り,機械工具一般における技術常識であり,電線の架線工事の当業者における周知
慣用の技術である。
(イ)また,「板材を他の物体に干渉することを避けるように捻って,ある物体
に取り付けること」は,甲2,3及び15ないし20に開示されているように,周
知慣用の技術であるし,「線材を移動させて,ケーブルに接触することを避けなが
ら,線材を捻り,又は屈曲させて,ケーブルの向こう側や,手前側に位置させるこ
と」も,甲21ないし27に開示されているように,周知慣用の技術である。
(ウ)さらに,「捻った」構成が,移動により他の部位との干渉を避けることを
目的とするものであることも,甲10ないし14に開示されているように,技術常
識に属する事項である。
ウ周知技術の適用
(ア)発明の課題解決のために,関連する技術分野における手段の適用を試みる
ことは,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないところ,引用発明と甲2及び3
とは,いずれも架線工事に用いられる工具であり,技術分野が共通する。
(イ)そして,引用発明において,「ケーブルの屈曲によるケーブル表面に生じ
る屈曲のクセ及び損傷等の不都合を解決する」という課題を解決するために,ケー
ブルに向く面の角度を変化させるべく金属製板状体である長レバーを「捻じる」の
か,「曲げる」のかは,両構成の効果に差がなく,当業者が必要に応じて任意に定
める設計的事項にすぎない。あるいは,甲2及び3に開示された周知技術を適用し
て,「捻った」構成とすること(引用発明において,ハンドルに段差状に屈曲する
ことによってケーブルとの干渉を回避した構成を,本件発明のようにハンドルの先
端の目(リング部)を捻ることによってケーブルとの干渉を回避する構成とするこ
と)は,当業者が容易に想到できたことである。
エ阻害要因もないこと
引用発明において,段差を設けたレバーを「捻った」構成のレバーに置き換える
ことに阻害要因はない。例えば,引用発明において,ワイヤーの径が太い場合には,
ハンドル32を捻ることにより,目37がワイヤー38に接触しないように構成す
る必要がある。
オ作用効果
(ア)本件発明の作用効果は,引用発明に周知技術を適用することにより予想さ
れる範囲内のものにすぎない。
(イ)本件発明は,リング部を長レバー及びケーブルの平面に対し15°~45
°捻ったことを構成とするものであるが,リング部中心をケーブル中心に接近させ
て移動させるための構成について何ら特定されておらず,本件明細書には,捻る角
度を15°~45°とすることの意義を客観的に裏付ける記載もないから,リング
部を捻る角度の数値限定に臨界的な意義はない。
カ小括
以上によれば,引用発明において,周知技術を適用し,相違点に係る本件発明の
構成とすることは,当業者が容易に想到できたことである。
〔引受人の主張〕
(1)判断の遺脱
原告の主張は,争う。
(2)相違点に係る判断の誤り
ア本件審決における判断に誤りはない。
イ本件発明は,原告が挙げる証拠に基づき,容易に発明をすることができたも
のではない。原告が挙げる証拠の多くは,掴線器とは関係のないものである。
2取消事由2(実施可能要件に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)本件発明の要旨認定の誤り
本件審決は,本件発明の「長レバー及びケーブルの平面」とは,「長レバーが回
動する支軸に垂直な平面」を意味するとした上で,「長レバーの後端に設けたリン
グ部を,長レバー及びケーブルの平面に対して15°~45°に捻った」とは,本
件明細書の図1(a)において,長レバーの捻り箇所4の位置で「長レバーが回動
する支軸に垂直な平面」に対して「15°~45°に捻った」ことであると解され
る旨判断した。
しかし,本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書には,「長レバー及びケーブ
ルの平面」の意義は何ら記載されていない。本件審決における上記判断は,特許請
求の範囲及び本件明細書の記載に基づかないものであって,誤りである。
(2)実施可能要件に係る判断の誤り
ア本件発明は,「長レバーの後端に設けたリング部を,長レバー及びケーブル
の平面に対して15°~45°に捻った」ことを発明特定事項として規定するもの
である。しかし,本件明細書には,「長レバーの平面」及び「ケーブルの平面」が
何を指しているのか,何ら記載されておらず,その意味が不明である。したがって,
リング部を15°~45°に捻る基準が不明である。
イ本件明細書の図面からは,カムと三角レバーと長レバーの接続状態が不明瞭
であり,各構成部品の形状を把握することはできない。
ウ掴線器において,単にリング部を捻っただけでは,長レバーのリング部に引
張力を負荷した際にリング部がケーブル近傍を移動するものとはならないから,リ
ング部がケーブル中心に接近して移動するように長レバーの形状・リンク機構・ガ
イド機構を構成する必要がある。すなわち,①一般に,ケーブルの線径によっては
(特に細いケーブルでは),リング部を捻っても捻らなくてもリング部がケーブル
の位置に達せず,ケーブルの下方にしか位置できない,②ケーブル半径が三角レバ
ーの厚み1/2と長レバーの厚み1/2の和より大きいものについては,長レバー
及びケーブル平面に対して捻じっても,フックがケーブルに干渉するので,ケーブ
ルに干渉しない程度の角度を持たせながら捻じる必要がある,③長レバーの長さに
より,ケーブルを掴持する箇所とリング部中心との距離が変わり,リング部中心が
ケーブルの中心に接近したりしなかったりする。しかし,本件発明は,その特許請
求の範囲において,ケーブルの線径及び長レバーの形状・リンク機構・ガイド機構
についての構成が特定されておらず,また,本件明細書にも,これらについての記
載はない。
以上のとおり,本件発明は,長レバーを案内するガイドの形状と配置の変更,長
レバーを捻った湾曲と枢着接続部の移動の円弧の調整,ケーブルの太さによりリン
グ部がケーブルに接触しないようにするためのリング部の形状及び位置とケーブル
の太さとの相関関係などの必須の構成が特定されておらず,本件明細書にも,これ
らについての記載はないから,当業者が,本件発明を実施しようとすれば,過度の
試行錯誤を要する。
エ本件明細書には,リング部を15°~45°に捻ることにより所期の作用効
果を奏することを裏付ける記載はないから,本件発明の少なくとも一部につき,当
業者がその実施をすることができる程度の記載があるということはできない。
オ以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施
をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできな
い。よって,本件審決の実施可能要件に係る判断は,誤りである。
〔引受人の主張〕
本件審決における判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1本件発明について
(1)本件明細書等の記載
本件発明に係る特許請求の範囲(請求項1)は,前記第2の2記載のとおりであ
るところ,本件明細書(甲34)の発明の詳細な説明には,おおむね,次の記載が
ある(下記記載中に引用する図1~3については,別紙本件明細書図面目録を参
照。)。
ア技術分野
【0001】本発明は,電力の送電線及び配電線を緊張する際に使用される,ケ
ーブル(電線)を掴む掴線器に関するものであり,ウィンチのフック等を接続する
長レバーのリング部に工夫を加えることによって,ケーブル表面に生じる屈曲クセ
及び損傷を防止するためのものである。
イ背景技術
【0002】従来からテコを利用した掴線器は,長レバーとその端部にあるリン
グ部が同一平面上にある掴線器が使用されている。(図2参照)
ウ発明が解決しようとする課題
【0003】しかしながら長レバーとリング部が同一平面上にある掴線器では,
リング部の上部がケーブルに干渉してリング部中心をケーブル中心に接近させるこ
とが出来ない欠点があった。(図2b参照)その為,ケーブル中心とリング部中心と
の位置が大きくズレることになる。このズレの大きさが,ケーブルを緊線した際に
ケーブルを屈曲させることになる。(図3参照)この屈曲によるケーブル表面に生じ
る屈曲のクセ及び損傷等・・・の不都合を解決することを課題とする。
エ課題を解決するための手段
【0004】本発明は,掴線器の長レバーのリング部を15°~45°の角度に捻
ることにより,リング部の上部がケーブルに干渉することを避けてリング部中心を
ケーブル中心に接近させることが出来ることにより(図1参照)及び(図1b参照),
上記課題を解決するものである。この角度の範囲外では実用的に不適当である。
オ発明の効果
【0005】本発明による掴線器は,部品数を増やす必要もなく,只,長レバー
のリング部を捻るだけで容易に製作できる。また,ケーブル表面の損傷等・・・を防止
して,長期間設置され続けるケーブルの信頼性を向上させることが出来る利点があ
る。
カ発明を実施するための形態
【0007】図1に示すように,掴線器の長レバー1の端部にあるリング部2を
15°~45°の角度に捻ることは容易に出来,部品数も増えずコストも最小にで
きる。更に,同一平面上にある,従来使用されている長レバーに比較しても,有効
にリング部中心をケーブルに干渉させずに,ケーブル中心に接近させることが出来
る。
(2)前記(1)の記載によれば,本件発明の特徴は,以下のとおりである。
ア本件発明は,電力の送電線及び配電線を緊張する際に使用される,ケーブル
(電線)を掴む掴線器に関する(【0001】)。
従来から使用されているテコを利用した掴線器では,長レバーとその端部にある
リング部が同一平面上にある(【0002】)。しかし,このような掴線器では,
リング部の上部がケーブルに干渉してリング部中心をケーブル中心に接近させるこ
とができないため,ケーブル中心とリング部中心との位置が大きくずれることにな
り,ケーブルを緊線した際にケーブルを屈曲させることになって,ケーブル表面に
屈曲のクセ及び損傷等が生じるという問題があった(【0003】)。
イ本件発明は,前記アの問題を解決することを課題とし,かかる課題の解決手
段として,長レバーのリング部に引張力を負荷することで,テコを利用してケーブ
ルを把持する構造の掴線器において,長レバーの後端に設けたリング部を15°~
45°の角度に捻ることにより,リング部の上部がケーブルに干渉することを避け
てリング部中心をケーブル中心に接近させることができるようにした(【000
4】)。
ウ本件発明の掴線器は,部品数を増やす必要もなく,長レバーのリング部を捻
るだけで容易に製作することができ,ケーブル表面の損傷等を防止して,長期間設
置され続けるケーブルの信頼性を向上させることができる(【0005】)。
2取消事由1(本件発明の容易想到性判断の誤り)について
(1)引用発明
ア引用例(甲1)には,次のような記載がある。
(ア)本発明の1つの目的は,さまざまなサイズのワイヤーを把持しかつのばし
あるいは操作に用いるのに適する,改良された使いやすくかつ有用なワイヤー把持
具を提供することである。本発明の他の目的は,把持されるべきワイヤーの材料長
が確保され,それによりその把持面の位置またはそのあたりでの結びや捻れを防止
し,かつ絶縁型のワイヤーへの損傷や切断を生じないワイヤー把持具を提供するこ
とである。本発明の他の目的は,軽量かつ構造が簡単で,それ故,地上でワイヤー
とともに手動操作を容易にし,かつそこから取り外されたときにワイヤー上で掴み
やロックを生じないため,さらに有利な導線ワイヤー把持具を提供することである。
(1頁左欄6行~23行)
(イ)ワイヤー把持具10の1つの外形は,ボディ部12およびボディとともに
略U字形状を形成する腕15を有するハウジングもしくはフレーム11を備えた発
明を具体化している。ボディ12および腕15の接合部に隣接して水平方向に伸長
する楕円形の顎16が一体に形成され,例えば弓形またはV字状等の所望の断面形
状をとり得る溝付きの面17を備える。より短い腕20とより長い腕21が形成さ
れたベルクランク18は,顎16の面とは反対側のボディ12の外側端に近接して
強固に支持する支点ピン22により枢着され,より短い腕20は,腕の分岐部に固
定されたピン26上で枢動される長方形の顎25を受けるための分岐部23を有す
る。顎16および25の間で有効な把持動作を確実にするために,複数の横断溝2
7が,28で示されるように,所望の弓形,V字状,あるいは他の所望の断面外形
を有するように,長手方向に溝形成された顎25の表面に形成されている。枢着さ
れた顎25の一端部は,そこから斜めに一体的に伸長する取っ手29を備える。溝
部17および28は,反対側の関係に配置され,ベルクランクを旋回することで互
いに近づき離れ得る。(1頁左欄31行~同頁右欄3行)
(ウ)より長い腕21の外端部は,曲げられたリンクの端を受け入れるための分
岐部30を有し,分岐部30でピン33上に枢動できるように取り付けられるハン
ドル32を有する。ブラケット35は,ハンドル32の柄を受けて導くためのガイ
ド36を備えるために,その外端部に隣接する腕15の側に,一体的に,または,
しっかりと形成される。腕15から外の方に伸びているハンドル32の一端は,ツ
ールまたは他の機械構成部品を受けるのに適しているか,グリップを操作するため
にオペレータによって直接握られることができる,そこに形成された目37を備え
ている。時計回り方向にベルクランク18を回転させるために内に向けてハンドル
32を動かすことによって,図1に図示されるように,突起29は,ハンドルの表
面を接触させて止められる。ハンドル32に突き当たることで,突起は,顎16の
面と実質的に平行に顎25の溝を彫られた面を配置するために自動的に機能する。
この装置は,顎の間に,ワイヤー38の挿入を容易にする。逆時計回り方向にベル
クランクを回すために外の方にハンドル32を引くことにより,枢着された顎25
が,ワイヤー38に対して顎16の方へ移動するとすぐに,ワイヤーは確実に握持
され,そして,ハンドルによるワイヤーの牽引力は,顎の間からワイヤーがすべる
危険のないようどのようにでも印加されることができる。この動きは,ベルクラン
ク腕21および20間の比率が,ほぼ2~1であるという事実のため,保証される。
顎25と顎16のクランプ面17に対するベルクランクの短い腕20の関係は,顎
25が顎16を接触させるものであり,そのとき,ピン26が顎16の面に直角で
ピン22の軸から引き出される線の外にある位置で,ベルクランクは,逆時計回り
方向に回される。記載されたワイヤー把持具を設計する際に向けられる特別な注意
は,グリップが調整されたり,操作されたりしているときであっても,目37を含
むハンドル32の部分は,可動顎25の作用面におおむね一直線状に配置された状
態のままである,という望ましい構造要件の配置である。ガイド36のその形状と
配置にあわせて,ハンドル32の屈曲と枢着接続部33の移動の円弧がよく調整さ
れているので,このような結果をもたらす。39に示されるように,ブラケット3
5と顎16の間の腕15が中央線をはずれている結果として,ワイヤーを曲げるこ
となく収納できる充分な空間があるが,このようにその締め付け位置にあるワイヤ
ー38の中心線は,目37の方向に配置されている。従って,ワイヤーをのばすた
めに,引っ張る負荷が目37に適用されるとき,ワイヤーが曲がったり,捻れたり
せず,引っ張る動作は常にワイヤーのほぼ軸方向にある。(1頁右欄4行~2頁左
欄10行)
(エ)図1及び3(別紙引用例図面目録参照)
イ引用例に前記第2の3(2)アのとおりの引用発明が記載されていることは,当
事者間に争いがないところ,前記アの記載によれば,引用例には,引用発明に関し,
以下の点が開示されているものと認められる。
(ア)引用発明は,ワイヤーの把持面又はその辺りでの結びや捻れを防止し,か
つ絶縁型のワイヤーへの損傷や切断を生じないワイヤー把持具を提供することを目
的の一つとする(前記ア(ア))。
(イ)引用発明では,上記(ア)の課題を解決するため,ハンドル32が,ピン3
3とブラケット35との間に段差状の屈曲する部分を有し,ガイド36の形状と配
置にあわせて,ハンドル32の上記屈曲と枢着接続部33の移動の円弧がよく調整
されている(前記ア(ウ),(エ))。
(ウ)引用発明によれば,ブラケット35と顎16の間の腕15が中央線をはず
れている結果として,締め付け位置にあるワイヤー38の中心線は,目37の方向
に配置されているため,引っ張る負荷が目37に適用されるとき,ハンドル32が
ワイヤーに接触せず移動して目37の位置がワイヤーに接近し,引っ張る動作は常
にワイヤーのほぼ軸方向にあるから,ワイヤーが曲がったり,捻れたりしないとい
う作用効果を奏する(前記ア(ウ))。
(2)判断の遺脱について
原告は,本件審決には,リング部とケーブルとの接触(干渉)を回避するという
課題を解決するための手段として,ハンドルを屈曲ないし湾曲させるか,あるいは
本件発明のようにリング部を捻るかは,単なる設計事項にすぎない旨の原告の主張
について,判断の遺脱がある旨主張する。
しかし,本件審決は,①引用発明の「ハンドル32」の「目37」を,「ワイヤ
ー38が曲がったり」しないために,さらに「捻った」構成としなければならない
必要性は見当たらず,むしろ,「ハンドル32」を「捻った」構成とすることには
阻害要因があるから,周知例1ないし14に記載された事項を適用して,引用発明
の「ハンドル32」をさらに「捻った」ものとすることが当業者において容易に想
到できたということはできず,②周知例1,2及び10ないし14に記載された
「捻った」構成を有する部位は,引用発明とは技術分野の関連性が認められないも
のであるか,あるいは,技術分野の関連性が認められるとしても,引用発明の「ハ
ンドル32」と同様の機能を有するものではなく,「捻った」構成が,移動により
他の部位との干渉を避けることを目的とするものでもないから,周知例1,2及び
10ないし14に記載された「捻った」構成が周知慣用技術であったとしても,掴
線器である引用発明の「ハンドル32」を「捻った」ものとすることが当業者にお
いて容易に想到できたということはできず,③掴線器である周知例3ないし5及び
7ないし9には,引用発明の「ハンドル32」に対応する部位が「捻った」部分を
有することについて,記載も示唆もないから,上記周知例に接した当業者であって
も,引用発明の「ハンドル32」を「捻った」部分を有するように構成することが
容易に想到できたということはできず,上記は,周知例1及び2に記載された「ス
トラップ」の「捻った」構成が周知慣用技術であることを踏まえても同様であり,
④周知例6及び9に記載された「ワイヤー等の屈曲のクセ及び損傷」の原因及び回
避のための構成は,引用発明とは異なり,周知例7及び8では,引用発明と関連す
るものの,その回避のための構成は,引用発明とは異なるから,周知例6ないし9
に接した当業者であっても,引用発明の「ハンドル32」を「捻った」部分を有す
るように構成することが容易に想到できたということはできない旨判断した。
上記判断は,要するに,本件発明が引用発明及び各周知例に記載された周知技術
に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないこと,すなわち,
掴線器において,リング部とケーブルとの接触(干渉)を回避するという課題を解
決するための手段として,リング部を捻るという構成が設計事項であるとはいえな
いことを具体的に判断したものであるということができる。よって,本件審決には,
原告の主張する判断の遺脱はない。
(3)相違点に係る判断の誤りについて
ア周知例等の記載
各文献には,以下の事項が記載されているものと認められる。
(ア)周知例1(甲2)
架空高圧配電線の架線において,振分け装柱に架空高圧配電線を絶縁し支持する
ために使用される振分け架線金具に関し,耐張碍子を腕金に連結する捻りストラッ
プが,板状体のものを捻った構造であること(【0001】,【0012】,【図
1】)。
(イ)周知例2(甲3)
電柱の腕金に取り付けられる碍子の支持構造に関し,耐張碍子を腕金に連結する
捻りストラップが,板状体のアーム32を捻った構造であること(【0001】,
【0004】,図8)。
(ウ)周知例3(甲4)
電柱の腕金の碍子に高圧配電線の通り電線を張り渡した通り装柱を振分け装柱に
変更する工法及び活線振分け金具に関し,張線器30を耐張碍子24に連結する引
き留めクランプ25が,平板状のものを曲げた構造を有すること,及び掴線器33
の捻りのないレバー状の部位が張線器30の伸縮杆31の先端に連結されること
(【0001】,【0016】,【0017】,【0025】,【図4】,【図
5】,【図9】)。
(エ)周知例4(甲5の1・2)
ワイヤー把持具において,リンク40が捻りのない平板状であり,かつ,ピン4
2の軸方向に屈曲していないため,ピン42の軸に垂直な平面であって,リンク4
0が移動する平面では,ワイヤー38,顎16及び顎32が存在しておらず,顎3
2と顎16がワイヤーを挟んだ状態では,リンク40の外端部の目46は,ワイヤ
ー38に近接した位置にある構成とすること(1頁左欄47行~右欄24行,図2,
図3)。
(オ)周知例5(甲6)
電線などの線状体を掴持する用途に使用される線状体把持器に関し,連結部材7
の連結部19を引っ張ると,連結部材7が引っ張られて連結部19は線状体に重な
る位置まで移動し,作動部材3は回動して可動側掴線部4を押し上げることで線状
体Wを固定側掴線部2と共に上下から挟み付けて掴線する構成とすること(【00
01】,【0021】,【図1】,【図2】)。
(カ)周知例6(甲7)
把持表面が凹面であるアンビルと凸状であるカム状部材からなるワイヤー緊張機
は,把持作用によりワイヤーを押しつぶし,ワイヤーを凹面に一致するよう曲げて
しまうという不利な点があること(1頁右欄2行~19行)。
(キ)周知例7(甲8の1)及び周知例8(甲8の2)
掴線器において,被張設線を掴線するために作動レバーの端部を引張すると,作
動レバーの端部は被張設線の自由部(無負荷部)を持上げ被張設線の挟持部を傾斜
させるので,被張設線に曲がりぐせがつき著しく損傷するという欠陥を有していた
こと,並びに捻った部分及び屈曲した部分を有しない作動レバーの端部を鉛直断面
U形状とすることで,該端部の上方向移行は何らの障害もなく円滑に行われること
(2頁4行~17行,6頁2行~7行,第1図,第2図)。
(ク)周知例9(甲9)
エレベータ用ケーブルを引っ張った状態に保持するときに,当該エレベータ用ケ
ーブルの先端部を掴持する用途に好適に用いることができる掴線器に関し,一対の
掴線部の各々の把持溝の溝面が,滑り止め用凹凸部である多数の係止条部を有して
いるため,エレベータ用ケーブルが一対の掴線部により上下から掴持されたとき,
各係止条部がケーブル素線に食い込んでケーブル素線を損傷させてしまうおそれが
あること,及び掴線器の連結部材(11)が捻った部分を有さず,支軸(12)の
軸方向に屈曲していない平板状の形状であること(【0001】,【0004】,
【0005】,【図1】~【図5】)。
(ケ)周知例10(甲10)
六角レンチに関し,レバーの干渉を避けるため,六角棒の稜部を最小曲げ半径と
して90度曲げ,さらに一方の面部にα度の捻りを与えること(【0001】,【
0003】~【0005】)。
(コ)周知例11(甲11)
自動車ボデーの補修工具に関し,延長部が所望の捻れ角だけ捻ることができると
同時に,所望の形状に曲げることができるので,干渉物を避けてボデーの凹みに先
端の押圧部を当てることができること(【0001】,【0025】,【002
8】,【0029】,【図5】)。
(サ)周知例12(甲12)
回転電機巻線に関し,巻線端部を長手方向に180°捻ることにより,隣接する
回転電機巻線の巻線端部が干渉しないこと(【0001】,【0007】)。
(シ)周知例13(甲13)
内側が複数の連結穴部に区画された多穴管に関し,多穴管を曲げるとともに所定
角度の捻り成形を施すことで,芯金本体の平坦部が捻られた連結壁との干渉を避け
ることができること(【0039】~【0042】,【0048】,【004
9】)。
(ス)周知例14(甲14)
曲げ加工が施されたチューブを次の曲げ加工位置に移動する際に曲げ型と干渉し
ないように,チューブがチューブ曲げ装置により捻られること(【0018】,【
0026】)。
(セ)甲15~27
a甲15(特開2009-153244号公報)
ケーブル弛み防止吊り車に関し,屈曲した上部レバー25b及び下部レバー25a
を有する,通信ケーブルを一対のブレーキ材25cで把持して制動する制動手段
(【0035】,【0036】,【図12】)。
b甲16(特開2009-215056号公報)
長手軸まわりに180度捩られた捩り部が形成された通い綱ロープの掛け止め補
助具10(【0025】,【0026】,【図3】,【図4】)。
c甲17(特開2007-159270号公報)
延在方向に対して交差するように水平方向に周回しつつ上昇する,所謂,豚の尻
尾形状に先端部21bが形成された棒状部材を有する電柱設置装置(【0020】,
【図1】)。
d甲18(特開2005-183101号公報)
高圧引下用バインドレス碍子51の中央側の巻付用突出体54に引留し,掛止用
突出体に隣接した巻付用突出体54に「8字」状に巻き付けた高圧引下用絶縁電線
(【0009】,【図9】)。
e甲19(特開2003-87952号公報)
腕金装柱バンドの柱径調整バンド片に関し,一端側を緊締バンド片6と接続し,
他の一端部に,電柱D面から突出する方向にして挟持部片11,11を相対して列
設したバンド基片(【0001】,【0009】,【図3】)。
f甲20(特開2000-224725号公報)
架線走行システムに関し,鉄塔などの構造物の上部及び下部に2列にして架線1
が張設され,上部架線から下部架線に架線走行装置51aを移動させるため,鉄塔
などの構造物の上部から下部に向けて適宜捩じりを与えながら曲げて配設される補
助レール51c(【0001】,【0056】,【図7】)。
g甲21(特開2010-17014号公報。平成22年1月21日公開)
絶縁された素線を複数撚り合わせた,引込線等をなす撚り線(【図4】等)。
h甲22(特開2010-11675号公報。平成22年1月14日公開)
電線や碍子等に巻付けたバインド線(【図4】等)。
i甲23(特開2009-176497号公報)
電線を碍子の頂部に固定する際に,電線や碍子に巻き付けたバインド線(【図1
2】等)。
j甲24(特開2008-182846号公報)
ホットスティックを着脱自在に保持し吊り下げるための,U字状の第1アームと
L字状の第2アームを備えた吊り具(【0001】,【0055】,【図1】)。
k甲25(特開2005-147907号公報)
架空送電線において,ギャロッピング等の異常振動を検知する架空送電線の異常
振動検知機構に関し,曲げられた形状を有するアークホーン(【0001】,【図
4】)。
l甲26(特開2002-142343号公報)
螺旋状ケーブル支持具の架設装置に関し,案内線とケーブル用支持線に順次巻回
する螺旋状ケーブル支持具(【0001】,【0017】,【図1】)。
m甲27(特開2001-339834号公報)
長杆部の下端部を巻回して光ケーブルの引込線が保持できるようにした保持部を
設けて形成された光ケーブルの保持具(【0010】,【図1】等)。
イ相違点の容易想到性
(ア)引用発明は,前記(1)イによれば,ワイヤーの把持面又はその辺りでの結び
や捻れを防止し,かつ絶縁型のワイヤーへの損傷や切断を生じないワイヤー把持具
を提供することを目的とし,かかる課題の解決手段として,ハンドル32が,ピン
33とブラケット35との間に段差状の屈曲する部分を有し,ガイド36の形状と
配置にあわせて,ハンドル32の上記屈曲と枢着接続部33の移動の円弧がよく調
整されるようにした構成を採用し,これにより,引っ張る負荷が目37に適用され
るとき,ハンドル32がワイヤーに接触せず移動して目37の位置がワイヤーに接
近し,引っ張る動作は常にワイヤーのほぼ軸方向にあるから,ワイヤーが曲がった
り,捻れたりしないという作用効果を奏するものである。
そうすると,引用発明は,前記1(2)アの本件発明の課題と共通する課題を,ハン
ドル32が,ピン33とブラケット35との間に段差状の屈曲する部分を有し,ガ
イド36の形状と配置にあわせて,ハンドル32の上記屈曲と枢着接続部33の移
動の円弧がよく調整されるようにした構成を採用することにより,既に解決してい
るということができるから,上記構成に加えて,あるいは,上記構成に換えて,ハ
ンドル32を「捻った」部分を有するように構成する必要がない。
(イ)また,前記アの周知例等の記載によっても,掴線器において,長レバーの
移動により,その後端に設けられたリング部がケーブルなど他の部材と干渉するの
を避けるために,長レバーを「捻った」部分を有するように構成することが,もと
の出願日前に,当業者に周知慣用の技術であったとは認められない。すなわち,周
知例1,10ないし14,甲16及び20には,部材を「捻った」構成が記載され
ているものの,周知例1は「耐張碍子を腕金に連結する捻りストラップ」,周知例
10は「六角レンチ」,周知例11は「自動車ボデーの補修工具」,周知例12は
「回転電機巻線」,周知例13は「多穴管」,周知例14は「チューブ」,甲16
は「通い綱ロープの掛け止め補助具」,甲20は「架線走行システムの補助レー
ル」に関するものであって,掴線器に関するものではなく,掴線器の長レバーと同
様の作用や機能を有する部材に関するものでもない。なお,周知例2及び甲21は,
もとの出願日後に公開された文献であって,もとの出願日前の周知慣用の技術を示
す証拠としては失当であるが,この点を措いても,周知例2は「耐張碍子を腕金に
連結する捻りストラップ」,甲21は「引込線等をなす撚り線」に関するものであ
って,掴線器に関するものではなく,掴線器の長レバーと同様の作用や機能を有す
る部材に関するものでもない。同様に,周知例3,甲15,17ないし19及び2
2ないし27は,いずれも掴線器に関するものではないし,そこに記載されている
のは,部材を「曲げた」又は「巻き付けた」構成であって,そもそも「捻った」構
成でもない。さらに,周知例4ないし9は,掴線器に関するものであるが,長レバ
ー又はそれに相当する部材を「捻った」構成とすることについて,記載又は示唆す
るものではない。
(ウ)したがって,そもそも,掴線器において,長レバーの移動により,その後
端に設けられたリング部がケーブルなど他の部材と干渉するのを避けるために,長
レバーを「捻った」部分を有するように構成することが,もとの出願日前に,当業
者に周知慣用の技術であったとは認められないし,引用発明において,上記構成を
備えるようにする動機付けもない。
(エ)むしろ,引用発明の構成に加えて,ハンドル32を「捻った」部分を有す
るように構成する場合には,引用発明では,目37がワイヤーに近接した位置とな
るように調整されているため,目37がワイヤーに接触するおそれがあり,目37
がワイヤーに接触しないようにするには,目37とワイヤーとの距離を遠ざけるよ
うにガイド36の形状と配置を変更することや,ハンドル32の段差状の屈曲と枢
着接続部の移動の円弧の再調整をすることが必要になるから,引用発明において,
その構成に加えて,ハンドル32を「捻った」部分を有するように構成することに
は,阻害要因があるというべきである。
(オ)以上によれば,引用発明において,周知例等に記載された事項に基づいて
相違点に係る本件発明の構成を備えるようにすることが,容易に想到できたという
ことはできない。
ウ原告の主張について
(ア)原告は,引用発明において,「ケーブルの屈曲によるケーブル表面に生じ
る屈曲のクセ及び損傷等の不都合を解決する」という課題を解決するために,ケー
ブルに向く面の角度を変化させるべく金属製板状体である長レバーを「捻じる」の
か,「曲げる」のかは,両構成の効果に差がなく,当業者が必要に応じて任意に定
める設計的事項にすぎない旨主張する。
しかし,引用発明は,前記イ(ア)のとおり,ハンドル32が,ピン33とブラケ
ット35との間に段差状の屈曲する部分を有し,ガイド36の形状と配置にあわせ
て,ハンドル32の上記屈曲と枢着接続部33の移動の円弧がよく調整されるよう
にすることによって,引っ張る負荷が目37に適用されるとき,ハンドル32がワ
イヤーに接触せず移動して目37の位置がワイヤーに接近し,引っ張る動作は常に
ワイヤーのほぼ軸方向にあるから,ワイヤーが曲がったり,捻れたりしないという
作用効果を実現するものである。したがって,引用発明において,ハンドル32が
段差状の屈曲する部分を有するように構成するか,捻った部分を有するように構成
するかは,技術的意義の異ならない設計的事項にすぎないなどということはできな
い。
(イ)原告は,周知例1及び2に開示された周知技術を適用して,引用発明のハ
ンドル32に段差状に屈曲することによってケーブルとの干渉を回避した構成を,
本件発明のようにハンドルの先端の目(リング部)を捻ることによってケーブルと
の干渉を回避する構成とすることは,当業者が容易に想到できたことである旨主張
する。
しかし,周知例1及び2には,部材を「捻った」構成が記載されているものの,
周知例1は「耐張碍子を腕金に連結する捻りストラップ」,周知例2は「耐張碍子
を腕金に連結する捻りストラップ」に関するものであって,掴線器に関するもので
はなく,掴線器の長レバーと同様の作用や機能を有する部材に関するものでもない。
さらに,周知例1及び2に記載された部材を「捻った」構成は,ケーブルとの干渉
を回避するために設けられた構成でもない。したがって,引用発明のハンドル32
が段差状の屈曲する部分を有する構成に換えて,周知例1及び2に記載された事項
を適用する動機付けがないか,仮にこれを適用しても,相違点に係る本件発明の構
成には至らない。
(ウ)原告は,引用発明において,段差を設けたレバーを「捻った」構成のレバ
ーに置き換えることに阻害要因はない旨主張する。
しかし,前記イ(ウ)のとおり,そもそも,掴線器において,長レバーの移動によ
り,その後端に設けられたリング部がケーブルなど他の部材と干渉するのを避ける
ために,長レバーを「捻った」部分を有するように構成することが,もとの出願日
前に,当業者に周知慣用の技術であったとは認められないし,引用発明において,
上記構成を備えるようにする動機付けもないから,引用発明の構成に換えて,ハン
ドル32を「捻った」部分を有するように構成することに阻害要因があるか否かを
論じるまでもなく,引用発明において,周知例等に記載された事項に基づいて相違
点に係る本件発明の構成を備えるようにすることが,容易に想到できたということ
はできない。
エ以上によれば,本件発明は,引用発明及び周知例等(甲2~27)に記載さ
れた事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)小括
以上のとおり,本件審決における本件発明の容易想到性の判断に誤りはない。よ
って,取消事由1は,理由がない。
3取消事由2(実施可能要件に係る判断の誤り)について
(1)本件発明の要旨認定の誤り
原告は,本件審決が特許請求の範囲に記載された発明特定事項である「長レバー
及びケーブルの平面」とは,長レバーが回動する支軸に垂直な平面を意味し,「長
レバー及びケーブルの平面に対して15°~45°に捻った」とは,図1(a)に
おいて,長レバーの捻り箇所4の位置で,長レバーが回動する支軸に垂直な平面に
対して15°~45°に捻ったことを意味する旨判断したのは,特許請求の範囲及
び本件明細書の記載に基づかないものであって,誤りである旨主張する。
ア「長レバー及びケーブルの平面」の意義
(ア)本件明細書には,前記1のとおり,本件発明が,従来から使用されている
テコを利用した掴線器では,長レバーとその端部にあるリング部が同一平面上にあ
り,リング部の上部がケーブルに干渉してリング部中心をケーブル中心に接近させ
ることができないため,ケーブル中心とリング部中心との位置が大きくずれること
になり,ケーブルを緊線した際にケーブルを屈曲させることになって,ケーブル表
面に屈曲のクセ及び損傷等が生じるという問題があったことから,かかる問題を解
決することを課題とし,かかる課題の解決手段として,長レバーのリング部に引張
力を負荷することで,テコを利用してケーブルを把持する構造の掴線器において,
長レバーの後端に設けたリング部を15°~45°の角度に捻ることにより,リン
グ部の上部がケーブルに干渉することを避けてリング部中心をケーブル中心に接近
させることができるようにするという構成を採用し,これにより,部品数を増やす
必要もなく,長レバーのリング部を捻るだけで容易に製作することができ,ケーブ
ル表面の損傷等を防止して,長期間設置され続けるケーブルの信頼性を向上させる
ことができるという作用効果を奏するものであることが記載されている。
(イ)本件明細書の【図2(a)】は,従来使われている長レバーと端部にある
リング部が同一平面上にある掴線器の正面図であるところ(【0006】),従来
の掴線器の構造に関する技術常識を踏まえれば,同図から,長レバーのリング部が
設けられた端部とは反対側の端部が,三角レバーとピンによって枢動できるように
取り付けられた構成が記載され,長レバーはピンの支軸を中心に回動しながら移動
し,支軸を中心とした長レバーの回動は支軸に垂直な平面で行われるから,従来の
掴線器において,長レバーは,支軸に垂直な平面内を,支軸を中心に回動しながら
移動するものであることが理解できる。そして,本件明細書には,従来の掴線器で
は,長レバーとその端部にあるリング部が同一平面上にあり,リング部の上部がケ
ーブルに干渉してリング部中心をケーブル中心に接近させることができないことが
記載されているところ,仮に支軸に垂直な平面内又はその近傍にケーブルが存在し
ないとすれば,長レバーとリング部が同一平面上にあったとしても,リング部の上
部がケーブルに干渉することはないから,同図に記載された従来の掴線器において
は,長レバーが回動する支軸に垂直な平面内又はその近傍にケーブルが存在してい
ることが理解できる。したがって,同図に記載された従来の掴線器においては,お
おむね,長レバーが回動する支軸に垂直な平面内に,長レバー(及びその端部に設
けたリング部)並びにケーブルが存在することが理解できる。
ところで,本件明細書には,本件発明の掴線器は,部品数を増やす必要もなく,
長レバーのリング部を捻るだけで容易に製作することができるものであることが記
載されているところ,上記記載を踏まえて本件明細書を見れば,当業者は,本件発
明は,従来の掴線器において,長レバーのリング部を捻っただけのものであって,
その他,部品数を増やしたり,捻る以外の形状の変更を行ったりしないものである
と理解するということができる。したがって,本件発明の掴線器においても,【図
2(a)】に記載された従来の掴線器と同様に,おおむね,長レバーが回動する支
軸に垂直な平面内に,長レバー及びケーブルが存在することが理解できる。また,
【図1(a)】は,長レバーの端部にあるリング部を捻った掴線器の正面図(本件
発明の実施例に係る図)であるところ(【0006】),同図においても,捻り箇
所4が長レバーの先端のリング部のすぐ根元側に設けられており,長レバーは,支
軸側の端部から捻り箇所4の直前までは,回動する支軸に垂直な平面内にあると理
解される。
そうすると,本件発明において,「長レバー及びケーブルの平面」とは,長レバ
ーが回動する支軸に垂直な平面を意味するものと理解することができる。
イ本件発明は,「長レバーの後端に設けたリング部を,長レバー及びケーブル
の平面に対して15°~45°に捻った」ことを発明特定事項として規定するもの
であるところ,前記アのとおり,「長レバー及びケーブルの平面」とは,長レバー
が回動する支軸に垂直な平面を意味するものと理解することができる。したがって,
上記発明特定事項は,本件明細書の記載から,長レバーの後端に設けたリング部を,
長レバーが回動する支軸に垂直な平面に対して15°~45°に捻ったことを意味
するものと理解することができる。よって,本件審決における本件発明の要旨認定
に誤りはない。
(2)実施可能要件に係る判断の誤り
ア原告は,本件発明は,「長レバーの後端に設けたリング部を,長レバー及び
ケーブルの平面に対して15°~45°に捻った」ことを発明特定事項として規定
するものであるが,本件明細書には,「長レバーの平面」及び「ケーブルの平面」
が何を指しているのか何ら記載されておらず,リング部を15°~45°に捻る基
準が不明である旨主張する。
しかし,前記(1)のとおり,本件明細書の記載から,「長レバー及びケーブルの平
面」とは,長レバーが回動する支軸に垂直な平面を意味するものと理解することが
でき,「長レバーの後端に設けたリング部を,長レバー及びケーブルの平面に対し
て15°~45°に捻った」とは,長レバーの後端に設けたリング部を,長レバー
が回動する支軸に垂直な平面に対して15°~45°に捻ったことを意味するもの
と理解することができる。
イ原告は,本件明細書の図面からは,カムと三角レバーと長レバーの接続状態
が不明瞭であり,各構成部品の形状を把握することはできない旨主張する。
しかし,【図1(a)】や【図2(a)】には,支点ピン,三角レバーのより短
い腕において枢動されるようにカムを受けるピン,及び三角レバーのより長い腕に
おいて長レバーが枢動できるように取り付けられるピンが記載されているところ,
これらの接続状態は,本件発明が前記(1)アのとおり,従来の掴線器において,長レ
バーのリング部を捻っただけのものであって,その他,部品数を増やしたり,捻る
以外の形状の変更を行ったりしないものであると理解されることに照らせば,例え
ば引用例1に見られるような,従来の掴線器と同様の接続状態,すなわち,ボディ
と三角レバーとは支点ピンにより枢着され,三角レバーのより短い腕はピン上で枢
動されるカムを受け,三角レバーのより長い腕はピンに枢動できるように取り付け
られる長レバーを有するというように接続されるものであることを理解することが
できる。
ウ原告は,単にリング部を捻っただけでは,長レバーのリング部に引張力を負
荷した際にリング部がケーブル近傍を移動するものとはならず,リング部がケーブ
ル中心に接近して移動するように長レバーの形状・リンク機構・ガイド機構を構成
する必要があるところ,本件発明は,その特許請求の範囲において,ケーブルの線
径及び長レバーの形状・リンク機構・ガイド機構についての構成が特定されておら
ず,本件明細書にも,これらについての記載はないから,本件発明の実施には,過
度の試行錯誤を要する旨主張する。
しかし,長レバーの後端に設けたリング部を捻った構成とした場合に,長レバー
のリング部に引張力を負荷した際にリング部がケーブル近傍を移動するようにする
ための,長レバーを案内するガイドの形状と配置や,長レバーを捻った湾曲と枢着
接続部の移動の円弧の調整,ケーブルの太さによりリング部がケーブルに接触しな
いようにするための,リング部の形状と配置などは,ケーブルの線径,掴線器を構
成する各部分の形状,大きさ,厚みなどに基づいて,当業者であれば,適宜決定す
ることができる事項である。
エ原告は,本件明細書には,リング部を15°~45°に捻ることにより所期
の作用効果を奏することを裏付ける記載はないから,本件発明の少なくとも一部に
つき,当業者がその実施をすることができる程度の記載があるということはできな
い旨主張する。
しかし,物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為を
いうから(特許法2条3項1号),物の発明について実施可能要件を充足するか否
かについては,当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常
識とに基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その物を製造し,使用するこ
とができる程度の記載があるか否かによるというべきであって,所期の作用効果を
奏することを裏付ける記載の有無いかんにより実施可能要件の充足性が直ちに左右
されるものではない。
オそして,前記(1)のとおり,「長レバーの後端に設けたリング部を,長レバー
及びケーブルの平面に対して15°~45°に捻った」とは,本件明細書の記載か
ら,長レバーの後端に設けたリング部を,長レバーが回動する支軸に垂直な平面に
対して15°~45°に捻ったことを意味すると理解することができるから,当業
者であれば,従来の掴線器の構成を踏まえて,本件発明の掴線器を製造し,使用す
ることができる。
よって,当業者であれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の
出願当時の技術常識に基づいて,本件発明を実施することが可能であったと認めら
れる。
(3)小括
以上によれば,本件審決における実施可能要件に係る判断に誤りはない。よって,
取消事由2は,理由がない。
4結論
以上によれば,原告の本訴請求は理由がないから,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官髙部眞規子
裁判官柵木澄子
裁判官片瀬亮
(別紙)
本件明細書図面目録
(別紙)
引用例図面目録
【図1】
【図3】

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