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平成14年(行ケ)第79号 審決取消請求事件
平成14年7月16日口頭弁論終結
          判    決
    原   告     日本製薬株式会社
    訴訟代理人弁理士  岸田正行,水野勝文,小花弘路
    被   告     大正製薬株式会社
    訴訟代理人弁護士  鈴木 修,伊藤玲子
          主    文
    原告の請求を棄却する。
    訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 特許庁が無効2000-35621号事件について平成14年1月7日にした審
決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 前提となる事実
 1 特許庁における手続の経緯
 (1) 本件商標
商標権者  被告(大正製薬株式会社)
登録出願日 平成11年4月22日
設定登録日 平成12年5月12日
登録番号  第4382626号
商標の内容 「リポビタンD」の文字と「プラス」の文字とを二段に横書きし
てなるもの(審決書添付の本件商標参照)。
指定商品  第5類「薬剤」
(2) 本件手続
無効審判請求人 原告(日本製薬株式会社)
被請求人    被告(大正製薬株式会社)
審判請求日   平成12年11月13日(無効2000-35621号)
審決日     平成14年1月7日
審決の結論   「本件審判の請求は,成り立たない。審判費用は,請求人の
負担とする。」
審決謄本送達日 平成14年1月18日(原告に対し)
 2 審決の理由の要点
 【別紙2】の審決書の写し(以下「審決書」という。)のとおりであるが,その
要旨は,次のとおりである。
 (1) 本件商標が商標法4条1項11号に該当する理由として原告が引用する商
標のその1は,登録第434141号の1の商標で,「プラス」の文字を縦書きし
てなるもの,その2は,登録第2098289号の商標で,「PLUS」の文字を
横書きしてなる商標である(これらの登録商標を一括して「引用商標」という。引
用商標は,「薬剤」を指定商品として含む。なお,引用商標の出願,登録等の経緯
は,審決書2頁に記載されているとおり。)。
 (2) 本件商標は,「リポビタンD」と「プラス」の文字を上下二段に表示した
ものであって,両文字は同じ書体,同じ大きさで表されていて,「プラス」の文字
は「リポビタンD」の文字の下段の中央に位置するよう配置され,まとまりよく一
体に構成されている。「リポビタンD」の文字は著名な商標である。「プラス」の
文字は,「加える」を意味するごくありふれた一般的な日常語であって,本来の薬
剤の成分に他の成分を加えた薬剤の成分,効能等を表すために,「○○○プラス」
の表示形式で薬剤の商標に付して「プラス」の文字が使用されている実情がある。
 (3) 本件商標中の「リポビタンD」が著名であること,並びに「プラス」の文
字がごくありふれた日常語にすぎないこと,及び「プラス」の文字が「成分を加え
る」の意味で他の語に付して商品の成分,内容等を表すものとして使用されている
事実があることからすると,識別標識として強く支配的な印象を受けるのは「リポ
ビタンD」の文字部分であり,本件商標に接した取引者,需要者が「リポビタン
D」の文字部分を捨象して「プラス」の文字部分をもって取引に当たるものとは判
断することができない。
 そうとすれば,本件商標は,「リポビタンデープラス」,「リポビタンデー」及
び「リポビタン」の称呼のみを生ずるものである。そして,引用商標は,それらの
文字に相応していずれも「プラス」の称呼を生ずる。
 (4) 両商標は,構成音数,音構成において顕著に相違し,称呼において類似し
ないものと認められる。また,本件商標は,引用商標と外観及び観念においても類
似の商標とすべき事由は見出し得ない。
第3 当事者の主張の要点
原告主張の審決取消事由の要点は,【別紙1】(平成14年4月18日付け原告
準備書面(1)の本文を引用したもの)のとおりである。他方,被告は,前記の審決
の判断は極めて正当なものであることなどを主張し,原告の取消事由に関する主張
を争うものである。
第4 当裁判所の判断
 1 原告は,本件審決が,本件商標について,「まとまりよく一体的に構成され
ている」と認定,判断した点に誤りがある旨主張する。
 しかし,審決書添付の本件商標をみると,「リポビタンD」の文字及び「プラ
ス」の文字を上下二段に表示したものであること,両文字は同じ書体,同じ大きさ
で表されていること,「プラス」の文字は「リポビタンD」の文字の下段の中央に
位置するように配置されていることが認められ,本件審決が「まとまりよく一体的
に構成されている」と認定,判断したのは相当であって,是認し得る。原告の主張
は採用することができない。
 
 2 原告は,本件審決が,「「プラス」の文字は,「加える」を意味するごくあ
りふれた一般的な日常語であ」るとし,「本来の薬剤の成分に他の成分を加えた薬
剤の成分,効能等を表すために,「○○○プラス」の表示形式で薬剤の商標に付し
て「プラス」の文字が使用されている実情がある」と認定した点に誤りがある旨主
張する。
 (1) そこで検討するに,確かに,「プラス」には,「加える」以外にも,正の
数の符号である「+」や「よいこと」というような意味があるが,これらも一般的
な日常語として使われる意味であり,もともと「加える」というのが基本的な意味
である上,証拠(甲2の1~3,乙2~4)によれば,「バイシンプラス」(ファイ
ザー製薬)につき,「「バイシンプラス」は,ビタミンをプラスすることで目の細胞
に栄養を補給し,・・働きがある。」と,「カコナールプラス感冒薬」(山之内製
薬)につき,「カコナールブランドの「カコナール総合感冒薬」の姉妹品として,効
き目成分に胃粘膜保護剤をプラスし,・・」と,「バイクリアプラス」(バイエル薬
品,エーザイ)につき,「従来の水虫・たむし治療薬「バイクリア」にかゆみ・痛み
止め成分を加えた・・「バイクリアプラス」を・・新発売・・4成分を新たに加え
たことにより,・・随伴症状の改善にも効果を発揮・・」と,「ハイビタミネン
1・6・12プラス」(佐藤製薬)につき,「さらに天然型ビタミンEをプラスする
ことで・・諸症状を緩和します」と,「ダンプラスC」(住友製薬)につき,「3種
の生薬・・にビタミンCをプラスした」と,それぞれ説明されていることが認めら
れ,薬剤の商標において,「○○○プラス」の表示形式で使われる場合,本来の成
分に他の成分を加えた薬剤の成分,効能等を表すために使用されている実情がある
ことを認め得るのであって,審決の認定は相当である。原告の主張は採用の限りで
はない。
 (2) なお,この点に関し,原告は,準備書面(2)において,反論の形ではある
が,ファイザー製薬の「バイシンプラス」につき,企業のサイトページでは,「ビ
タミンをプラスすることで・・」と記載されている(甲2の1)ものの,その商品
のパッケージには,成分効能を表すものとして「プラス」の文字が使用されておら
ず(甲7の1),一般消費者向けのサイトページの説明では「プラス」の文字は使
用されていない(甲9)旨を,さらには,証拠(甲7の2~6)を援用して,「プ
ラス」「PLUS」の文字は,あくまで商標として記載され,成分,効能等の表示
として使用されているものではない旨をも主張するので,以下に検討しておく。
 「バイシンプラス」については,上記サイトページ(甲2の1)の説明から,ビ
タミンという成分を加えたことをもって「プラス」の文字が使用されたものである
ことが分かるのであり,後の二者(甲7の1,甲9)に同じ記載がないからといっ
て,「プラス」の文字を使用した意味が否定されるわけではない。なお,後の二者
(甲7の1,甲9)においては,「プラス」の文字の下段に並んで「ビタミン配
合」と青地に白抜きの文字が記載されていることが認められ,これに前者(甲2の
1)の存在をも併せ勘案すれば,「ビタミン配合」との記載は,前者(甲2の1)
に明記された「プラス」の意味を一般消費者に対して簡潔かつ分かり易く説明した
ものと推認される。この点に関する原告の主張は採用することができない。
 さらに,上記証拠(甲7の2~6)は,いずれも商品のパッケージを写したもの
であるところ,確かに,前記サイトページ(甲2の1)のようにある成分をプラス
した旨の直接的な記載はない。しかし,上記証拠の中には,「チョコラザーネプラ
ス」との商品名の下段に並んで「尿素20%+ビタミンE+グリチルリチン酸二カリ
ウム」との図式的な記載(甲7の2),「カイゲン感冒カプセル「プラス」」との
商品名の下段に並んで「ゴオウ・地竜・ビタミン・胃粘膜保護成分配合」との記載
(甲7の3),「ラマストン プラス スプレー」との商品名の下段に並んで「か
ゆみ止め成分配合」との記載とさらにその下方に「シクロピロクスオラミン+塩酸
ジブカイン」との目立った記載(甲7の5)があることが認められる。これに上記
「バイシンプラス」の例,さらに,後に説示するように,医薬品において「○○○
プラス」という表示形式が多用され,一般消費者にもそのことが認識されているも
のと推認されることなどの事情に照らせば,上記パッケージの記載は,「○○○プ
ラス」との表示とも相まって,一般消費者に対し,簡潔かつ分かり易く,従前のも
のに何らかの成分が加えられて効能が向上した医薬品である旨の説明をしたものと
理解することも可能である。よって,「プラス」の文字は,あくまで商標としての
み記載され,付加された成分,効能等の表示として使用されているものではない旨
の原告の主張は,直ちには採用することができない。
 ちなみに,原告が援用する証拠の一部(甲7の6,「ラマストン プラスL液」
のパッケージ)には,上記のような記載はなく,また,「ドウーテスト・hCGプラ
ス」(甲7の4)については,成分,効能等が加えられた趣旨か,十字のマークを
言葉で表現したのか,判定が+か-で出ることに関係するのかなど必ずしも趣旨が
はっきりしない(この点につき,同封の説明書にどの程度記載されているかの証拠
はない。)。しかし,パッケージの記載のみにおいてこのような例があるからとい
って,直ちに,審決の上記認定が誤りであるということはできない。
 (3) なお,原告は,別件の審決を援用し,また,被告の「リポビタンD」のシ
リーズ商品群について言及するが,上記認定判断を左右するものではない。
 3 原告は,審決が,「識別標識として強く支配的な印象を受けるのは「リポ
ビタンD」の文字部分であると認めざるを得ないから,本件商標に接した取引者,
需要者が「リポビタンD」の文字部分を捨象して「プラス」の文字部分をもって取
引に当たるものとは判断することができない。」とした上,「本件商標は,・・・
「リポビタンデープラス」・・「リポビタンデー」及び・・「リポビタン」の称呼
のみを生ずるものである」と認定,判断したことの誤りを主張する。
 証拠(甲2の1,3,甲6の2~7,甲7の1~6,甲9)及び弁論の全趣旨に
よれば,原告が引用商標につき,他の製薬会社と使用許諾契約を締結し,使用を認
めているものとして,「バイシン/プラス」(ファイザー製薬),「バイクリア/
プラス」(バイエル薬品,エーザイ),「ハイシー/プラス」(武田薬品工業),
「新V.ロートプラス」(ロート製薬,商標登録されたが審判により登録は無効とさ
れた(甲8)),「ウレパール/プラス/ローション」(大塚製薬),「グロンサン
/プラス」(中外製薬),「サンテドウ/プラスE」(参天製薬),「チョコラザ
ーネプラス」(エーザイ),「カイゲン感冒カプセルプラス」(カイゲン),「ド
ウーテスト・hCGプラス」(ロート製薬),「ラマストン/プラス/スプレー」
(佐藤製薬),「ラマストン/プラスL/液」(佐藤製薬)などの例があることが
認められる。
 他方,証拠(乙1~14,16~28)及び弁論の全趣旨によれば,一般用医薬
品の商品名として,「ベルゲン5プラス」(明治薬品),「アルドミンプラス」
(ゼネル薬工粉河),「ワムナールプラス/ローション」(ゼリア新薬工業),
「新ヘパリーゼプラス」(ゼリア新薬工業),「ワーボンプラス軟膏」(田辺製
薬),「マーロックスプラスチュアブル」(山之内製薬),「メンソレータムAD
/プラス」(ロート製薬),「イノセア/プラス錠」(佐藤製薬),「ストナプラ
ス」(佐藤製薬),「リナロンプラス」(佐藤製薬),「デューリットクールプラ
ス」(資生堂薬品),「ルシフェール/250プラス」(キッコーマン),「カコナー
ルプラス感冒薬」(山之内製薬),「バイビタミネン1・6・12プラス」(佐藤製
薬),「ダンプラスC」(住友製薬)などがみられ,さらに,商標登録までされた
ものとして,「マーロックス プラス」(ローヌプーランローラーインターナショナルホールディングスイ
ンコーポレーテッド),「ピロエース/プラス」(藤沢薬品工業),「マイティアプラス」
(千寿製薬),「BSSプラス」(アルコンユニバーサルリミテッド),「ルシフェール-LU
プラス」(キッコーマン),「ワカ末プラス」(鐘紡),「ベッセンDプ
ラス」(日本たばこ産業),「ユンケルECプラス」(佐藤製薬),「ガスター
10プラス」(山之内製薬),「スマリン40プラス」(エスエス製薬)などがある
ことが認められる(以上につき,証拠上,商品名が段を異にして表示されているこ
とが確認できたものについてのみ,「/」を表示した。)。
 なお,本件において,原告が自ら製造販売する医薬品名として引用商標を使用し
ていることを示す証拠はなく,さらに,原告の使用許諾を得ているものにおいて
も,上記のとおり,いずれも「○○○プラス」あるいは「○○○プラス○○○」と
いう表示形式の標章として使用されているのであって,「プラス」又は「PLU
S」そのものを表示した標章を使用している例があることを示す証拠はない。
 以上によれば,一般医薬品において,「○○○」という各医薬品固有の名称に
「プラス」という文字が付加された「○○○プラス」という表示形式の商品名を有
するものが多数に上っており,このことは,一般消費者にもコマーシャルなどを通
じてある程度認識が及んでいるものと推認されるところであって,識別標識として
の機能は,「○○○」という部分にあり,「プラス」という文字部分に識別標識機
能があるとは認め難い。
 この点に加え,「リポビタンD」が著名であること,「プラス」の文字がありふ
れた日常語で前記のような意味で使用されていることなどの前記の事情を併せ勘案
すると,取引者,需要者が「リポビタンD」の文字部分を捨象して,「プラス」の
文字部分をもって取引に当たるものとは到底認められない。これと同旨の本件審決
の認定,判断は是認し得る。そして,「リポビタンDプラス」という商標において
は,「リポビタンデープラス」,「リポビタンデー」及び「リポビタン」の称呼の
みを生ずるとする本件審決の認定,判断も相当であって,「プラス」という独立の
称呼や観念が生じるものとは認められない。よって,本件商標と引用商標とは,構
成音数,音構成において顕著に相違し,称呼において類似しないし,外観及び観念
においても類似の商標とすべき事由は見出し得ない旨の本件審決の認定,判断は,
相当である。
 以上の点に関する原告の主張は採用することができない。
 4 原告は,本件審決が,「「PLUS」商標が各種の商品について登録がある
か否か,或いは請求人の述べる医薬品メーカーが引用商標について使用許諾契約を
しているか否かは,本件商標の構成から離れた事柄であるから,これらの主張は上
記判断を左右するものではない。」とする点も誤りであるとも主張するが,いかに
原告が数社の医薬品メーカーと使用許諾契約を締結したり,薬剤関係の業界雑誌に
広告を掲載しようとも,上記の判示を覆すに足りるものではなく,原告の主張は採
用の限りではない。
 
 5 以上のほか,原告の主張をすべて精査しても,本件審決を取り消すべき事由
は見当たらない。
 6 結論
 以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他審決には
これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判
決する。
東京高等裁判所第18民事部
   裁判長裁判官   永  井  紀  昭
         裁判官   塩  月  秀  平
         裁判官   田  中  昌  利
【別紙1】  平成14年4月18日付け原告準備書面(1)
 (下記は,上記準備書面の本文について,文書の書式は変更したが,用字用語の
点を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)
1.本件審決には、判断の誤りの違法があり、この違法は本件審決の結論に影響を
及ぼすものであるから、本件審決は取消されるべきものである。
2.審決理由に対する認否
(1)審決理由1については認める。
(2)審決理由2については認める。
(3)審決理由3記載の請求人が主張した事実については認める。
(4)審決理由4記載の被請求人が主張した事実については認める。
(5)審決理由5記載の当審の判断については争う。
3.審決理由5当審の判断に対する認否
(1) 本件無効審判審決理由(以下「審決理由」という)の5当審の判断中、
(1)の(ア)について
 本件商標が、同書体同大の文字で、「リポビタンD」と「プラス」を二段に表示
したものであること、又「リポビタンD」は被告(被請求人)が滋養強壮保健剤に
使用する商標として需要者間に広く認識されている商標である点については認め
る。
 しかし、本件商標が「まとまりよく一体的に構成されている」という点について
は争う。
 本件商標は、「リポビタンD」と「プラス」の文字を上下二段に表示した構成で
あり、また、同書体、同大とはいえ、上段はカタカナと欧文字の6文字「リポビタ
ンD」、下段はカタカナの3文字「プラス」であり、外観上も一連、一体的な態様
とはいえない。従って、原審決のように本件商標が「まとまりよく一体的に構成さ
れている」ものとはいえない。
 一般的に上下二段に表示された商標においては、これが一連に称呼、観念される
ような特別の事情がない場合、上下各段が分離され、夫々より独立の称呼、観念を
も生じるものである。
(2) 審決理由の5当審の判断中(1)の(イ)について、
 原審決が『本件商標構成中「プラス」の文字は、「加える」を意味するごくあり
ふれた一般的な日常語であって、被請求人の提出に係る証拠によれば、薬剤関連の
企業のサイトページに、(目薬の)「『バイシンプラス』(「バイシン」が太字で
表されている)は、ビタミンをプラスすることで・・・」(乙第1号証の1)、
「カコナールプラス感冒薬」「効き目の成分に胃粘膜保護剤をプラス」(乙第1号
証の2)、「・・・治療薬『バイクリア』にかゆみ止め成分を加えた・・・「バイ
クリア プラス」を・・・新発売・・・」(乙第1号証の3)のように、本来の薬
剤の成分に他の成分を加えた薬剤の成分、効能等を表すために『○○○プラス』の
表示形式で薬剤の商標に付して『プラス』の文字が使用されている実情がある』と
している点については争う(甲第2号証)。
 まず、第一に「プラス(PLUS)」の文字は「加える」こと以外にも「マイナ
ス」の対語として、「プラス成長」「プラス効果」或いは「プラス思考」等のよう
に正方向の意味合い、或いは好ましいことの意味合いとしても日常的に使用されて
いるので、常に単に何かを「加えること」の意味が一義的に生じるものではない。
 第二に、上記3件のサイトページの存在のみをもっては、直ちに、商品「薬剤」
の分野において、「プラス」の文字自体が単独に「既存の商品に新たな成分を加え
たもの」等の意味を表すために常套的に使用されていると認めるのは速断に失す
る。
 第三に「プラス」「PLUS」の文字自体が、薬剤との関係において、その成
分、効能等を具体的かつ直接的に表示するものではなく識別性を有することは、下
記の異議事件及び審判事件等で明らかにされているとおりである。
 即ち、異議2000-90123号では『申立人提出に係る証拠によれば「・・
胃粘膜保護剤をプラスし、新発売・・」「・・ビタミンEをプラス配合した目
薬・・」「・・ビタミンEをプラスすることで・・」等のように文章中において、
何らかの効能を「加えたこと」の意味合いで「プラス」の語が使用されていること
は認め得るとしても、これをもって、直ちに「プラス」の文字が商品の原材料・効
能・用途・数量等を表示するものであるとすることはできない。また、他に「プラ
ス」「PLUS」の文字自体が商品の品質等を表示するものとして使用されている
事実は見当たらない』と説示されている(甲第3号の1)。
 また、無効審判2000-35586では『そして、「プラス」の文字(語)
は、被請求人提出の証拠によれば、例えば、「・・・ビタミンをプラスすること
で・・・」(乙第1号証の1)、「・・・成分に胃粘膜保護剤をプラスし・・・」
(乙第1号証の2)、「・・に防カビ効果をプラス」(乙第1号証の4)のように
「加えること、足すこと」等の意味合いの語として使用されていること、製品名と
して「○○○プラス」「△△△プラス感冒薬」等の使用例が認められるとしても、
これらの証拠(乙第1号証)の用例をもってして、被請求人の主張のように、商品
「薬剤」の分野において、「プラス(PLUS)」の文字自体が、単独に「既存の
商品に新たな成分を加えたもの」等の意味を表すために常套的に使用されているも
のとは俄に認め難いところであるから、「プラス(PLUS)」の文字が、その指
定商品との関係において自他商品識別標識としての機能を有しないということはで
きない。』と説示されている(甲第3号証の2)。
 被告の販売する滋養強壮保健剤「リポビタンD」のシリーズ商品をみても、「リ
ポビタンD」(甲第4号証の1)の成分に、更に1つの成分(ゴオウ抽出液M0.
05ml)を加えたものが「リポビタンDⅡ」(甲第4号証の2)、2つの成分
(塩酸アルギニン300、ニンジンエキスP90)を加えたものは「リポビタンD
/スーパー」(甲第4号証の3)、6つの成分を加えたものは「リポビタンD/ロ
イヤル」(甲第4号証の4)、又成分の数は同じであるが、1つの成分(タウリ
ン)の量が増えたものが「リポビタンD/2000」(甲第4号証の5)等と表示
されており、これらの商品に付された表示中に「プラス」の文字は何処にも使用さ
れている事実もない。
(3) 審決理由5当審の判断中(1)の(ウ)について
 審決は、「リポビタンD/スーパー」「リポビタンD/ライト」「リポビタンD
/2000」等を取り上げ、「スーパー」「ライト」「2000」等は、商品の品
位、効能、形状を表示する文字であるから、「リポビタンD」に比べ印象が格段に
弱いから、これらの文字部分をもって取引に資されない、という。
 しかし、本件商標中の「プラス」は、この「スーパー」「ライト」「2000」
等とは異なり、商品の品位、効能、形状を表わすものではなく、識別性を有するも
のであるから、これらの事例と同日に論ずることは誤りである。
(4)審決理由5当審の判断中(1)の(エ)について
 原審決が、『本件商標中の「リポビタンD」が著名であること、並びに「プラ
ス」の文字がごくありふれた日常語にすぎないこと、及び「プラス」の文字が「成
分を加える」の意味で他の語に付して商品の成分、内容等を表すものとして使用さ
れている事実があることからすると、本件商標が二段に併記されていることにより
羅列されている場合に比して分離して認識される度合が強いといえるとしても、識
別標識として強く支配的な印象を受けるのは「リポビタンD」の文字部分であると
認めざるを得ないから、本件商標に接した取引者、需要者が「リポビタンD」の文
字部分を捨象して「プラス」の文字部分をもって取引に当たるものとは判断するこ
とが出来ない』とする点については争う。
 「プラス」の文字が「成分を加える」の意味で他の語に付して商品の成分、内容
等を表すものとして使用されている、というが、上記3.(2)で主張したとお
り、「プラス」の文字が商品薬剤の業界において そのように常套的に使用されて
いる事実はない。
 また、「リポビタンD」の文字部分は、識別標識として強く支配的な印象を受け
るとしても、それをもって商標を構成中の識別性を有する文字「プラス」の文字部
分が全く無視されるというものではない。
 「プラス」の文字部分は、「リポビタンD」の文字と二段に、かつ同じ大きさの
文字で表示されているので、「リポビタンD」の文字とは別個独立のものとして視
覚に映するものであり、かつ構成も複雑なものではないから外観上、無視されたり
見落とされたりするものではない。又、この「プラス」の文字は、「リポビタン
D」と観念上一つの纏った一体の意味を有するものではないから、両文字が常に不
可分一体のものとして称呼、観念されるべきものでもない。更に本件商標は現実に
使用されてはいないので、一連に称呼されているとか、「プラス」が略称されてい
るといったような取引上の特別の事情もない。従って、「プラス」は「リポビタン
D」に比べ著名性は劣るにしても、同文字が捨象され「リポビタンD」の文字のみ
を以って取引に当るとは云えない。「リポビタンD」は被告の販売する滋養強壮保
健剤「リポビタンD」シリーズの代表的な出所標識として認識され、一方「プラ
ス」は個々の商品の識別標識として認識され独立の称呼、観念を生じるものであ
り、迅速な商取引が行われる取引の現場では、代表的出所標識である「リポビタン
D」の部分が省略され、「リポビタンD」シリーズの商品の識別として「プラス」
の文字部分をもって取引されることも十分考え得るものである。
 著名商標と他の識別性を有する文字で構成される商標について、著名商標以外の
他の文字部分からも独立の称呼を生じることは次の判例によっても明らかなところ
である。
 即ち、判決例(東高判平成6年8月30日)において、「健康科学」と「ヤクル
ト」の文字を上下二段に構成した商標からは『代表的な出所標識である「ヤクル
ト」の部分が省略され、「ヤクルト」とは独立した個々の商品の識別標識である
「健康科学」の部分に応じて、「健康科学」の称呼が生じることを否定することは
できない』と判示している(甲第5号証の1)。
 更に、判決例(東高判平成13年5月29日)においては、「TECMO WO
RLD SOCCER」の欧文字と「テクモワールドサッカー」の片仮名文字を上
下二段に横書きした構成の商標について、取引者・需要者が、その代表的出所表示
部分である「TECMO」ないし「テクモ」の語を省略して個別商標部分である
「WORLD SOCCER」ないし「ワールドサッカー」をもってこれを称呼す
ることがしばしば見受けられるであろうことは、容易に推測されるところであり、
当該商標からは「テクモワールドサッカー」の一連の称呼を生じるほか、「WOR
LD SOCCER」ないし「ワールドサッカー」の各文字部分に対応して、「ワ
ールドサッカー」の称呼が生じるものと認められる旨判示されている(甲第5号証
の2)。
 本件商標もこれら判決例と同様に「プラス」の称呼が生ずることを否定すること
はできない。
(5) 本件無効審判審決理由5当審の判断(2)については認める。
(6) 本件無効審判審決理由5当審の判断(3)について
 審決は、本件商標は「リポビタンデープラス」「リボビタンデー」及び「リポビ
タン」の称呼を生ずるものであるというが、この点については争う。
本件商標からは、上記の称呼の他に「プラス」の称呼をも生ずるものである。
 即ち、①2段に構成された本件商標を常に一連一体とみなせる程まとまりよく構
成されているとはいえないこと、②「プラス」が「○○○を加えた」を意味する語
であると一義的に判断されるのは妥当ではないこと、③薬剤に別の成分を加えた場
合、当業界では商標中に「プラス」の文字が常套的に使用されているとは到底考え
られないこと等、からみて本件商標は「プラス」の称呼をも生ずるものであり、引
用商標と本件商標は「プラス」の称呼、観念において類似する商標である。   
 
    
(7) 本件無効審判審決理由5当審の判断(4)について
 審決は、「プラス」「PLUS」商標が各種の商品について登録があるか否か、
或いは原告(請求人)の述べる医薬品メーカーが引用商標について使用許諾契約を
しているか否かは、本件商標の構成から離れた事柄であるから、これらの主張は上
記判断を左右するものではない、とする点についても妥当ではない。
 当業界において「プラス」「PLUS」に識別性があると認識されているからこ
そ、商標中に「プラス」「PLUS」の文字を使用する際、同文字を例えば他の商
標と二段に表示するなど「プラス」「PLUS」の文字部分から独立の称呼、観念
を生じる態様で使用する場合には、「プラス」「PLUS」の商標について使用許
諾契約を締結しているのである。
 同使用許諾は、引用商標について数社の医薬品メーカーに一定の条件の下に使用
許諾しているものであるが、同商標の権利保全のため、薬剤関係の代表的な業界誌
に平成8年より現在に至るまで、「プラス」印の商品を「信頼と充実のブランド」
として広告を継続して掲載している(甲第6号証)。
 審決は、上記の様な、取引上の実情を全く無視したものであり、審理不盡、理由
不備の誹りをと免れないものである。
                                     
  (以上)

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