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裁判例


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主文
1 被告は,原告に対し,1717万8985円及びこれに対する平成15年1月10日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その2を原告の,その余を被告の各負担とする。
4 この判決は,原告勝訴部分に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
  被告は,原告に対し,2903万6708円及びこれに対する平成15年1月10日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   本件は,被告の開設する歯科医院で原告が被告から抜歯手術を受けた際,麻酔
に使用する注射針の選択を誤るなどの被告の過失により,使用した注射針が折れ
て原告の右上顎部組織内に迷入し,これにより後遺症が残存したと主張して,原告
が,被告に対し,不法行為又は診療契約の債務不履行を理由として,損害の賠償
を求めた事案である。
1 争いのない事実並びに証拠(甲C29)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる
事実(なお,甲C29以外で認定に供した証拠は,各項目末尾に記載する。)
(1) 当事者等
  被告は,肩書住所地において「A歯科医院」の名称で歯科医院を開設している
歯科医師である(以下,同歯科医院を「被告歯科医院」という。)。
  原告(昭和52年10月13日生)は,平成15年1月10日の後記本件事故当時,
B大学大学院工学研究科(システム情報工学専攻)の大学院生であり,同年3月
に同大学院を卒業して,同年4月にC会社に就職し,東京都武蔵野市所在のC
会社研究所に配属されて,肩書住所地から通勤している。
(2) 原告の右上顎部組織内に注射針が迷入するに至った経緯
ア 原告は,顎を開閉するたびに右耳の奥でゴリゴリと音がする症状があったこ
とから,平成15年1月10日午前10時30分ころ,右顎の痛みを主訴として被
告歯科医院を受診し,もって,被告との間で歯科治療のための診療契約を締
結した。
  被告は,原告を診察した結果,右側上顎第3大臼歯(いわゆる親知らず,以
下「本件智歯」という。)と右側下顎第2大臼歯の咬頭干渉による顎関節症と
診断し,原告に対し,治療方法として本件智歯の抜歯を勧めたところ,原告は
これに同意した。
イ 被告は,同日午前11時ころ,本件智歯を抜歯するため,1.8ミリリットルの
麻酔液を3回に分けて注入することとし,長さ21ミリメートル,太さ0.3ミリメ
ートルの注射針を本件智歯の根尖相当部と口蓋側の2箇所に刺入したとこ
ろ,刺入部の組織が硬かったため,針尖が丸くなり刺入しづらくなった。
  そこで,被告は,組織の損傷防止と刺入し易さを考慮して,長さ14ミリメート
ル,太さ0.26ミリメートルの注射針(以下「本件注射針」という。)に替えた
上,同注射針を電動麻酔器を用いて強圧をかけずに刺入し,麻酔液を注入し
た。その後,被告が本件注射針を抜こうとしたところ,同注射針は,電動麻酔
器本体の根元から折れ(長さは約14ミリメートル),原告の右上顎部組織内に
破折した注射針が迷入した(以下,本件注射針のうち原告の体内に残存した
部分を「本件残存針」といい,本件残存針が原告の体内に残存したことを「本
件事故」という。)。
  被告は,本件智歯を抜歯した後,オルソパントモによるX線撮影を行い,その
画像により,原告の上顎頭の近心付近に本件残存針があるのを確認した。そ
こで,被告は,札幌医科大学医学部附属病院口腔外科(以下「札幌医大」とい
う。)に事情を説明して,診断と治療を依頼するともに,原告に対し,注射針が
折れて原告の体内に迷入したことを説明し,札幌医大を受診するよう勧めた。
原告はそれを受けて,同日直ちに札幌医大を受診し,CT撮影を行った結果,
上顎結節から翼状突起にかけて破折片(本件残存針)が認められた(甲A
1)。
ウ 本件事故が発生したのは,被告が,本件注射針刺入部位の組織が硬かった
にも拘わらず,細い針である本件注射針を使用したため,刺入後にこれを抜く
に際して本件注射針が破折して,本件残存針が原告の右上顎部組織内に迷
入,残存したものであり,被告の注射針の選択に過失があったものと認めら
れる。
(3) 本件事故後の原告の治療経過の概要
ア 原告は,本件事故当日の平成15年1月10日から同年2月19日まで札幌医
大に通院して診察を受けた(通院実日数6日間)後,同日以降北海道大学病
院(当時は北海道大学歯学部附属病院,以下「北大病院」という。)に通院し,
本件残存針を摘出するため同月28日に同病院に入院し,同年3月3日に右
上顎異物除去術(以下「本件摘出術」という。)を受けたが,本件残存針を摘出
することはできなかった。その後,原告は,同月8日に同病院を退院し(入院
日数9日間),同月26日まで経過観察のため同病院に通院した(通院実日数
8日間)(甲A1ないし4)。
イ 原告は,同年4月に肩書住所地に転居した後,同年6月17日から同年7月1
0日まで防衛医科大学病院(以下「防衛医大」という。)に通院した(通院実日
数3日間)が,本件事故後の経過観察については,北大病院における本件摘
出術の担当医であったD歯科医師(以下「D歯科医師」という。)が原告の状態
を最もよく理解していること,防衛医大の診療体制等が原告の都合に合わな
かったことなどの理由により,同年5月以降も,北大病院への通院を継続して
いる(同年12月26日までの通院実日数は12日間。甲C1,2の3,2の5)。
2 争点及びこれに対する当事者双方の主張
(1) 原告に生じた後遺障害の程度(争点(1))
(原告の主張)
ア 原告には,本件事故による後遺症として,以下のような症状が出ている。
(ア) 本件残存針の存する箇所付近(以下「本件患部」という。)に違和感,痛
み,痺れを感じ,また右前頭部の頭痛を断続的に感じており,痛みが強い
時には痛み止めを服用している。
(イ) また,本件患部に違和感を常時感じているため,右肩に何かが乗ってい
るようで右半身に疲れを感じる,集中力を維持するのが困難である,すっき
りと眠れず睡眠不足を感じるなどの状態が続いている。
(ウ) さらに,1月に1,2回の頻度で,約1週間にわたって,本件患部の痛み
や痺れと頭痛がひどくなり,本件患部から右肩及び右手に痺れやけだるさ
が広がり,右半身に痺れを感じて,足もとがふらつくほどである。
(エ) また,仕事上のプレゼンテーション等で長時間の会話をした後や,食後
などに本件患部に痛みが発生し,また常時ある鈍い痛みのせいでけだるさ
があり,疲れも感じる。
イ 本件患部の痛みや痺れ等は,本件残存針が多くの血管や神経のある部位
に残存し,針が神経等に触れることにより発生する神経症状である。そして,
自動車損害賠償保障法施行令2条による後遺障害別等級表所定の後遺障
害等級(以下,単に「後遺障害等級」という。)は,その12級12号として「局部
に頑固な神経症状を残すもの」を定めているところ,これは他覚的所見のある
神経症状に適用されるものであり,本件では本件残存針の存在がCTやレント
ゲン画像上明らかであるから,原告の症状は同等級12級12号に当たるし,
少なくともそれと同等の等級であることが明らかである。
(被告の主張)
ア 原告の現在の症状については不知。
イ Eクリニック歯科医長F歯科医師作成の意見書(乙A2,以下「F意見書」とい
う。)によれば,本件残存針の迷入部位が上顎結節から翼状突起にかけてで
あれば,この位置は上顎神経及び視神経の分枝される正円孔・眼窩下孔に
は遠く,大きな神経節もないので,上顎歯牙及び口蓋部に知覚障害(痛み及
び痺れ)が出現する可能性はあるものの,全身に影響を及ぼし,かつ日常生
活に障害が出る程の痛みや痺れが発生するとは考えにくいとされているか
ら,原告に現在生じている痛みや痺れは,日常生活に障害が出る程のもので
はなく,原告の神経症状は後遺障害等級12級12号の「頑固」なものに当たる
とは認められない。また,一般に組織内へ埋入した破折針は,数回の顎運動
によって筋繊維の走行やその運動方向に沿って無害な位置に移動し,長期
間にわたってその部位にとどまり,後遺症をきたすことがほとんどないと言わ
れている(甲B4)。さらに,F意見書によれば,原告は本件口頭弁論終結時2
7歳であり,コンタクトスポーツを常時行うなどの職業上の問題がなければ,
時間の経過とともに残存針の周囲は線組化(周囲組織に包まれてカプセル化
すること)し,このまま同じ位置に残存する可能性が高いとされている。よっ
て,本件残存針が原告の体内に存在しているからといって,原告に後遺症を
きたすことはほとんどない。以上を総合すれば,原告の後遺症が後後遺障害
等級12級12号に当たるということも,それに相当するということもできず,原
告の後遺障害は,せいぜい後遺障害等級14級10号の「局部に神経症状を
残すもの」に当たるというべきである。
(2) 本件事故により原告に生じた損害の額(争点(2))
(原告の主張)
  原告は,被告の前記不法行為又は債務不履行により,後記アないしエのとお
り,合計2903万6708円の損害を被った。
  なお,原告には,本件残存針の今後の移動により,より重篤な後遺症や死亡等
の結果が発生することも考えられ,それにより新たな損害が生じうるところ,原告
は,本件訴訟において,上記の将来の損害については請求しておらず,本件請
求は,上記の将来に生じうる損害との関係では,本件不法行為等に基づく全損
害の一部請求となるものである。
ア 治療費及び交通費等の実費            28万6365円
  平成15年12月26日から平成17年1月7日までの治療費及び交通費等とし
て,合計28万6365円を要した。
イ 慰謝料                        500万円
  本件事故後の入院及び通院期間,後遺症の状況,今後3年程度は半年に1
度の割合で北大病院に通院が必要であり,その後も1年に1回程度の通院が
一生涯必要となること,脳の近接部位に鋭利な金属が残存していることに対
する恐怖感・不安感等を考慮すれば,慰謝料としては500万円が相当であ
る。
ウ 逸失利益                  2105万0343円
(ア) 基礎収入
  原告は,本件事故時である平成15年1月当時25歳であり,同年4月に就
職しているところ,原告のような若年労働者の場合,同年代の者の平均賃
金と異ならない賃金を得ている場合には,全年齢の平均賃金をもって逸失
利益を算定すべきである。そして,原告の平成15年4月から11月までの
平均月収が24万3311円,同年6月のボーナスが11万0341円,同年1
2月のボーナスが44万2470円であることから,これを年収に換算すると3
47万2540円となり,また,平成16年1月から6月までの平均月収が30
万0524円,同年6月のボーナスが45万1959円であることから,これを
年収に換算すると450万0721円となるところ,平成14年賃金センサスの
第1巻第1表産業計・企業規模計・男子労働者・大卒の25歳ないし29歳の
平均賃金は437万2200円であるから,原告は同年代の平均賃金と異な
らない収入を得ているということができ,原告の逸失利益は,同賃金センサ
スの男子労働者・大卒・全年齢平均の年収である674万4700円を基礎収
入として計算すべきである。
(イ) 労働能力喪失率
  前記争点(1)の原告の主張に記載のとおり,原告の後遺障害は後遺障害
等級12級12号に当たるから,労働能力喪失率は14パーセントというべき
である。
(ウ) 労働能力喪失期間
  本件事故当時,原告は25歳であったところ,再手術が困難で本件残存針
が一生涯体内に残存することから,労働能力喪失期間は67歳までの42
年間である。
(エ) 中間利息の控除方式
  まず,中間利息の控除割合については,最高裁判所平成16年(受)第188
8号,平成17年6月14日第三小法廷判決(以下「平成17年判決」という。)
がなされたことから,これに従って年5パーセントを採用することとするが,
年5パーセントという数値は,現価算定の割引率として実社会における実
質的な運用利益と比較してあまりにも高率に過ぎるところ,控除率につき,
社会の実態を無視した利率を採用しながら,控除方式のみは社会の実態
に合わせてライプニッツ方式を採用し,複利とするなどということは,一貫し
ないばかりか,結果の妥当性を欠くものである。また,同判決は,控除率を
年5パーセントとする理由として,民事執行法88条2項,破産法99条1項2
号,民事再生法87条1項1号,2号,会社更生法136条1項1号,2号を援
用しているところ,これらの規定はいずれもホフマン方式による中間利息控
除を定めたものであるから,将来の逸失利益を現在価額に換算するために
控除すべき中間利息についても,ホフマン方式を採用することが論理的に
一貫する。さらに,同判決が金員は年5パーセントの割合で増殖することを
擬制するのであれば,それに重ねてライプニッツ方式を採用することによ
り,金員は年5パーセント複利で増殖することを擬制する結果になるが,そ
うすると,加害者が損害賠償の支払を遅らせた場合には,加害者は支払う
べき金額につき年5パーセント複利で利殖をすることになり,一方で損害賠
償請求権の遅延損害金は年5パーセント単利であるため,加害者は支払を
遅らせれば遅らせるほど,複利と単利の差額分を利得してしまうことにな
る。よって,ライプニッツ方式の採用は,遅延損害金により加害者の債務の
履行を促進するという法の趣旨とも矛盾するというべきである。
  以上によれば,中間利息を控除するに際しては,ライプニッツ方式ではな
く,より被害者に有利なホフマン方式を採用し,42年のホフマン係数22.2
930を用いるべきである。
(オ) 以上に基づき,原告の逸失利益の現価を算定すると,下記計算式のと
おり,2105万0343円となる。
 (計算式) 6,744,700×0.14×22.2930=21,050,343
エ 弁護士費用 270万円
  原告は,本件訴訟手続を原告訴訟代理人らに委任し,弁護士費用相当額と
して270万円の支払を約束した。
(被告の主張)
  原告の主張のうち,原告が本件訴訟手続を原告訴訟代理人らに委任したことは
認めるが,その余は不知ないし争う。
第3 争点に対する当裁判所の判断
1 原告の本件事故後の症状及び生活状況等について
  前記争いのない事実等,証拠(甲A1ないし4,甲C29,34の2,乙A2)及び弁論
の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,同認定を左右するのに足りる証拠は
ない。
(1) 原告は,本件事故後に札幌医大で診察を受けた際,担当医から,本件残存針
が迷入した部位は細かな血管や神経が多数存在するところであり,手術で摘出
するのは困難であって,本件残存針がこのままの状態で安定していれば問題は
ないと思われるが,何かのきっかけで針が移動する可能性はあり,針が脳に近
づいた場合には,生命の危険がある上,手術で摘出することは今以上に困難に
なるなどと説明を受けたため,平成15年3月のB大学大学院卒業を控えて修士
論文を作成しなければならない時期に,生命の危険が生じうる可能性があるほ
どの事態が生じたことで強く悩んだ。その後,同医大の担当医から,摘出術が成
功する可能性が低いため経過観察する方針である旨告げられた原告は,本件
残存針が脳近くの体内に残ったままとなり,さらに移動して神経,血管,脳を傷
つける可能性があることを強く心配して,他の医師の見解を聞くことを希望し,北
大病院の紹介を受けて同病院で診察を受けることとした。そして,北大病院で
は,摘出術は難しい手術で,成功率は50パーセント程度であると思われること
や後遺症があり得ることなどの説明を受けたが,手術を受けることを決意し,同
月3日に5時間に及ぶ本件摘出術を受けたものの,本件残存針を摘出すること
はできなかった。同手術後,原告は,手術部位に大きな腫れがあったものの,卒
業及び内定していた現在の職場への就職準備のため,抜歯前の同月8日に退
院し,痛み,不安,それらによる食欲不振や寝不足等を抱えながら,修士論文の
作成や就職準備をすることを余儀なくされ,また同手術の影響で口を開けること
ができなくなり,強い痛みに耐えながらリハビリをする必要があったため,卒業旅
行に参加したり卒業生同士の会合に出席することもできなかった。
(2) 原告は,本件摘出術を受けた後,平成16年8月ころまで,常時,本件患部に
違和感,痛み,痺れを感じ,また右前頭部の頭痛が断続的にあって,痛みが強
い時には処方を受けた痛み止めを服用していた。また,上記違和感から,右肩
に何かが乗っているような感じがして右半身に疲れを感じ,集中力の維持が困
難であったり,すっきりと眠れないため睡眠不足を感じるなどの状態が続いた。
さらに,1か月に1,2回の頻度で,約1週間にわたって,本件患部の痛みや痺
れ,右前頭部の頭痛がひどくなり,本件患部から右肩及び右手に痺れやけだる
さが広がって,右半身に痺れを感じて足もとがふらつくといった症状が生じること
もあった。特に,平成16年4月末に北大病院で診察を受けた帰りの飛行機内で
は,息が一瞬止まり,深呼吸を数回して息を整えるのに数分かかるほどの激痛
を右顎部分に感じて,右顎部分から右半身にかけての痛みが2週間ほど続き,
同年8月に飛行機に乗った際にも,右顎の部分に強い痛みを感じ,しばらく頭痛
が続くことがあった。また,同年6月末の仕事上の企画発表を準備するため,議
論を頻繁に行うようになった際,顎の部分に違和感を感じ,20ないし40分程度
の口頭発表の練習をした後には,痺れるような痛みを感じた。
  平成16年8月以降は,原告は激しい痛みを感じることは大分なくなってきたも
のの,仕事上のプレゼンテーション等で長時間の意見発表や会話をした後,風
呂に入った後及び食後は鈍い痛みが出現し,また,右半身のけだるさや倦怠
感,右顎の後の方からの鈍い痛みと頭痛は継続しており,集中力や仕事の能率
はかなり低下していると感じている。
(3) 北大病院における原告の担当医であるD歯科医師は,上記の原告の症状のう
ち,「通常はそれほど強い痛みではないが,時々1週間くらい続けて痛み,痺れ
が強くなることがあり,その場合には頭痛も生じる。仕事で長時間にわたって企
画発表などをした場合には患部に痺れるような痛みがある。入浴後,食後にも
頭痛が生じることがある。」という症状は,本件残存針が直接的に作用している
というよりは,むしろ本件摘出術が原因ではないかと考えられるところ,これらの
症状は少しずつ良くなってきているようであるが,今後どれくらいの期間で改善し
ていくか,また完全に消失するか否かは何ともいえず,本件摘出術の手術侵襲
が及んだ部位は常時動きがある部位であるため安静を保つことは困難であり,
治療に時間を要していると思われ,今後もいわゆる「古傷が痛む」という症状が
生じる可能性があるとしているほか,航空機内での原告のいう「激痛」について
は,気圧の関係があると思われるものの,詳細な医学的機序は不明であるとし
ている(甲C34の2)。
(4) また,D歯科医師によれば,本件残存針は,平成15年5月2日撮影のレントゲ
ン写真及び同年7月18日撮影のCT画像においては,それぞれ前回の位置より
やや後方に移動していたが,同年12月26日,平成16年4月及び同年7月26
日撮影のCT画像においては,明らかな移動は認められず,遅くとも甲C34の2
の意見書を作成した平成17年2月の時点では,本件残存針は外側翼突筋の後
面に付着したような状態で安定していると思われ,この状態のままで安定してい
れば,大事に至る可能性は低いだろうと思われるとし,今後の経過観察につい
ては,特に異常がなければ1年に1回程度の定期的な経過観察とCT撮影で足り
るが,症状の悪化や新たな症状の発現がある場合には,CT撮影等の検査を早
急に行う必要があると判断している(甲A3,4,甲C34の2)。
  なお,本件残存針の残存部位は,細かな血管や神経が多数ある所であり,現
時点では,本件残存針の摘出は困難な状態である(甲C34の2,乙A2)。
2 争点(1)(原告に生じた後遺障害の程度)について
  上記認定事実に基づき,原告の後遺障害の程度について判断するに,本件残存
針の上記移動状況に照らすと,本件残存針は,遅くともCT画像上明らかな移動が
認められなくなった平成15年12月ころには外側翼突筋の後面に付着したような状
態で安定するに至り,原告の右上顎の神経等が集中している部位に残存して摘出
困難な状態となっているものというべきであるから,その症状の推移をも併せ考慮
すると,この時点で症状は固定したものと認めるのが相当である。そして,原告の
現在の症状は,前記1(2)で認定したとおりであって,激しい痛みを感じることは大
分なくなってきているものの,常時ある鈍い痛みのせいでけだるさがあり,特に仕
事のため長時間の発表や会話をした後などには,通常より強い鈍い痛みが出現
し,原告としては本件患部の痛みなどのため集中力や仕事の能率が低下している
と感じているというのであるから,これらの事情を総合すると,原告は通常の労務
に服することはできるものの,ときには労働に差し支える程度の神経症状が出現し
ており,その原因は本件残存針の存在ないしその摘出術の合併症によるものとい
うことができ,これらは本件残存針の存在という他覚的所見の裏付けがあるという
ことができるから,原告の後遺障害の程度は,後遺障害等級12級12号の「局部
に頑固な神経症状を残すもの」の程度に達していると認めるのが相当である。
  これに対し,被告は,本件残存針の残存部位から,上顎歯牙及び口蓋部に痛み
及び痺れが出現する可能性はあるものの,全身に影響を及ぼしかつ日常生活に
障害が出る程の痛みや痺れが発生するとは考えにくく,原告の神経症状は後遺障
害等級12級12号の「頑固」なものに当たるとは認められない旨,時間の経過とと
もに本件残存針の周囲は線組化し,このまま同じ位置に残存する可能性が高く,
本件残存針が存在しているからといって,原告に後遺症をきたすことはほとんどな
いのであり,本件残存針の存在をもって原告の後遺症が同等級12級12号に当た
るということも,それに相当するということもできないなどと主張し,その主張に沿う
証拠として,F意見書などを指摘する。確かに,F意見書には,被告の上記主張を
裏付けるかのような記載があるものの,同意見書は,平成15年9月1日までに作
成された甲A1ないし4の各診断書及び同年1月10日に被告歯科医院において撮
影されたレントゲン写真3枚を資料とし,同年9月1日の時点で迷入異物(本件残存
針)がやや移動していることを前提に作成されたものであって(乙A2,弁論の全趣
旨),原告を直接診察してはおらず,また,原告に関する診療録を具体的に精査し
た上での意見でもないことから,原告の症状の推移及び現在の状態を正確に反映
したものということはできない。また,その内容も,本件残存針の残存部位等の状
況を基にして,後遺障害が発生する可能性について一般的な医学的知見を述べる
という側面が強い上,残存針に起因する神経症状について特段の臨床的裏付け
が示されているわけではなく,前記認定のような原告が現実に感じている症状自体
を否定するような内容のものということもできない。さらに,前記認定のとおり,原告
の現在の症状の原因は,本件残存針の存在そのものではなく本件摘出術の影響
であるとも考えられるとされているところ,そうであるとすれば,仮に本件残存針の
残存部位が後遺症の発生をきたすようなものでないとしても,それによって直ちに
原告に後遺症が生じたこと自体が否定されるものということもできない(なお,本件
摘出術は,本件事故に対する治療行為として実施されることが通常予見可能とい
うべきであるから,原告の後遺障害の原因が本件摘出術であるとしても,それによ
り本件事故との間の因果関係が否定されるものではない。)。よって,同意見書が
あることを考慮しても,前記認定が左右されるものではない。
  そして,他に前記認定を左右するのに足りる的確な証拠はない。
3 争点(2)(本件事故により原告に生じた損害の額)について
(1) 前記争いのない事実等(2)の事実によれば,被告には,原告に対する治療行
為として麻酔注射を行うに際し,患者の体内に注射針を迷入させることのないよ
う,適切な太さの注射針を選択した上で注射を行うべき注意義務があるのにこ
れを怠り,注射針の刺入部位の組織が硬かったために注射針を刺入しづらい状
況があったにも拘わらず,径の細い本件注射針を選択して麻酔液を注入したた
め,これを抜くに際して同注射針を折って本件残存針を原告の右上顎部組織内
に迷入させた過失があるというべきであるから,被告は,原告に対し,上記不法
行為に基づいて,原告が被った損害を賠償すべき責任がある。
(2) そこで,被告の不法行為によって原告の被った損害額について以下検討す
る。
ア 治療費及び交通費等の実費について        28万6365円
  証拠(甲C1,2の1ないし7,3,4の1ないし4,31,32の1ないし9,33,3
5)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成15年12月25日から平成17
年1月6日までの間,肩書住所地から北大病院に通院したことにより,診察
料,薬代,航空運賃等の交通費,レントゲンフィムルコピー代として,合計28
万6365円を支出したことが認められ,これらはいずれも本件と相当因果関
係の範囲内の損害と認められる。
イ 慰謝料について                    400万円
  まず入通院慰謝料については,前記争いのない事実等で認定したとおり,北
大病院への入院日数が9日間,症状固定日ころである同年12月26日までの
通院実日数が札幌医大6日間,北大病院12日間(ただし,平成15年2月19
日は両病院に通院している。),防衛医大3日間の合計20日間であり,これ
に,本件事故が発生するに至る経緯,本件残存針が迷入した部位,本件残存
針の残存状況,原告に対する治療経過,その間の原告の症状,原告の大学
院卒業及び就職に関する経過その他一切の事情を併せ考慮すれば,原告の
入通院慰謝料としては,100万円が相当である。
  次に後遺障害慰謝料については,前記のとおり原告に生じた症状の後遺障
害等級は12級12号の程度に達しているものと認められること,原告の右上
顎部組織内に本件残存針が存在しており,その部位に照らすと,今後本件残
存針が何らかの原因で移動した場合には付近の神経等を傷つけて重篤な後
遺症が発生する可能性がないとはいえず,その不安を原告が払拭できていな
いこと,本件残存針を摘出することが極めて困難であることから,今後も経過
観察のための通院が一生涯必要であると考えられること,その他本件に顕れ
た一切の事情を併せ考慮すれば,原告の後遺障害慰謝料としては,300万
円が相当である。
  以上より,本件で原告の被った精神的苦痛を慰謝するには,合計400万円
の慰謝料の支払をもってするのが相当である。
ウ 逸失利益について              1139万2620円
(ア) 基礎収入について
  前記争いのない事実等並びに証拠(甲C5の1ないし9,27の1ないし5,2
9)及び弁論の全趣旨によれば,原告は平成15年1月の本件事故時点で
は,25歳の大学院生であり,その後同年4月に現在の就職先に就職して,
同年4月から11月までの給与等として合計183万1451円,同年6月の特
別手当として11万0341円,同年12月の特別手当として44万2470円の
合計238万4262円の支給を受け,また平成16年1,2,5,6月の給与等
として合計116万5081円,同年6月の特別手当として45万1959円の合
計161万7040円の支給を受けていることが認められ,以上によれば,原
告の年収は,平成15年には約360万円程度,平成16年には約485万円
程度であったことが推認できる。
  一方,平成15年賃金センサス第1巻第1表産業計・企業規模計・男子労
働者・大卒の25歳ないし29歳の平均年収額が435万2700円,同賃金セ
ンサス男子労働者・大卒・全年齢平均の平均年収額が658万7500円で
あることは,当裁判所に顕著である。
  以上を総合すると,原告は,平成15年から平成16年にかけて,上記賃金
センサスの男子労働者・大卒の25歳ないし29歳の平均年収額におおむ
ね相当する額の収入を得ていたというべきであるから,生涯にわたって男
子大卒者の平均年収と同程度の収入を得る蓋然性があると認めるのが相
当である。よって,逸失利益算定の前提としての原告の基礎収入は,上記
全年齢平均の年収額に相当する658万7500円とするのが相当である。
(イ) 労働能力喪失率について
  原告の後遺障害は,前記認定のとおり,後遺障害等級12級12号の「局
部に頑固な神経症状を残すもの」の程度に達しているということができる
が,その労働能力喪失率については,前記認定のとおり,本件患部の違和
感,痛み,痺れが常時あったものの,北大病院における主治医であるD歯
科医師によれば,その症状は少しずつ良くなってきているようであり,原告
本人としても,平成16年8月以降は激しい痛みを感じることが大分なくなっ
ているというのであるし,長時間のプレゼンテーション等でなければ仕事上
の影響もそれほど大きいとまでは言い難いことも窺われることに照らすと,
その労働能力喪失率は10パーセントを超えることはないと認めるのが相
当であり,他に同認定を左右するのに足りる的確な証拠はない。
(ウ) 労働能力喪失期間について
  前記2で認定したとおり,原告の症状固定時期は平成15年12月ころであ
るから,その時点で原告は26歳に達しているところ,そのころの原告の後
遺障害は,当初に比べて少しずつ良くなってきていると一応評価できるもの
の,本件残存針を摘出することは極めて困難であって,その原因を除去す
ることができず,また,D歯科医師の前記意見書(甲C34の2)によれば,
原告の症状が完全に消失するか否かは何とも言えず,現在でも痛み止め
を処方していて,手術侵襲の及んだ部位が常時動きのある部位で安静を
保つことが困難であることから治癒に時間を要していると考えられることな
どの事情を総合考慮すると,原告の労働能力喪失期間は,就労可能年齢
67歳までの41年間に及ぶと認めるのが相当であり,同認定を左右するの
に足りる的確な証拠はない。
(エ) 中間利息控除について
  民法404条において民事法定利率が年5パーセントと定められたのは,
民法の制定に当たって参考とされたヨーロッパ諸国の一般的な貸付金利や
法定利率,我が国の一般的な貸付金利を踏まえ,金銭は,通常の利用方
法によれば年5パーセントの利息を生ずべきものと考えられたからであり,
現行法は,将来の請求権を現在価額に換算するに際し,法的安定及び統
一的処理が必要とされる場合には,法定利率により中間利息を控除する考
え方を採用している。例えば,民事執行法88条2項,破産法99条1項2号
(旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)46条5号も同
様),民事再生法87条1項1号,2号,会社更生法136条1項1号,2号等
は,いずれも将来の請求権を法定利率による中間利息の控除によって現
在価額に換算することを規定している。損害賠償額の算定に当たり被害者
の将来の逸失利益を現在価額に換算するについても,法的安定及び統一
的処理が必要とされるのであるから,民法は,民事法定利率により中間利
息を控除することを予定しているものと考えられる。このように考えることに
よって,事案ごとに,また,裁判官ごとに中間利息の控除割合についての
判断が区々に分かれることを防ぎ,被害者相互間の公平の確保,損害額
の予測可能性による紛争の予防も図ることができる。上記の諸点に照らす
と,損害賠償額の算定に当たり,被害者の将来の逸失利益を現在価額に
換算するために控除すべき中間利息の割合は,民事法定利率によらなけ
ればならないというべきである(平成17年判決)。
  次に,中間利息控除の控除方式については,従来の最高裁判決におい
て,ライプニッツ方式又はホフマン方式のいずれによって算定しても不合理
ではないとされていたところ,特に控除すべき中間利息の控除期間が長期
にわたる若年者等の事例において,全年齢平均賃金とライプニッツ係数の
組合せによるいわゆる東京方式と初任給固定賃金とホフマン係数の組合
せによるいわゆる大阪方式のいずれを採用するかによって算定結果に大
きな差異が生じることが問題とされ,東京地方裁判所,大阪地方裁判所及
び名古屋地方裁判所それぞれの交通事件を専門的に取り扱う部が協議し
た結果,平成11年11月,大量の交通事故による損害賠償請求事件の適
正かつ迅速な解決の要請,地域間格差の是正,被害者相互間の公平及び
損害額の予測可能性による紛争の予防などの観点から,交通事故におけ
る逸失利益の算定方式について共同提言がなされるに至った。同共同提
言によれば,原則として,幼児,生徒,学生の場合,専業主婦の場合及び
比較的若年の被害者で生涯を通じて全年齢平均賃金又は学歴別平均賃
金程度の収入を得られる蓋然性が認められる場合については,基礎収入
を全年齢平均賃金又は学歴別平均賃金によることとし,中間利息の控除
方法については,特段の事情のない限り,年5パーセントの割合によるライ
プニッツ方式を採用することとされ,実務上,同共同提言が取り入れられ
て,現在においては,逸失利益算定に関する中間利息の控除につき,実務
の大勢は,賃金センサス第1巻第1表の産業計・企業規模計・男子又は女
子労働者の全年齢平均賃金又は学歴別平均賃金を基礎収入とした上,年
5パーセントの割合によるライプニッツ方式を採用して逸失利益を算定して
おり,このような取扱いは一定の合理性を有するものというべきである。
  そして,逸失利益の算定において,適切かつ妥当な損害額を定めるため
には,基礎収入の認定方法と中間利息の控除方法とを,具体的妥当性を
もって整合的に関連させることが必要であると解されるから,本件において
原告の逸失利益を算定するについても,前記共同提言の趣旨及び裁判実
務の運用状況をも併せ考慮すると,基礎収入につきいわゆる全年齢平均
賃金を用いるとともに,年5パーセントの割合によるライプニッツ方式を採用
するのが相当である。
  これに対し,原告は,平成17年判決のとおり控除率を5パーセントとすると
しても,控除方式としては被害者に有利なホフマン方式を用いるべきである
こと,同判決は民事執行法88条2項,破産法99条1項2号,民事再生法8
7条1項1号,2号,会社更生法136条1項1号,2号を援用しているところ,
これらの規定はいずれもホフマン方式による中間利息控除を定めたもので
あるから,逸失利益の算定において控除すべき中間利息についても,ホフ
マン方式を採用することが一貫すること,同判決が金員は5パーセントで増
殖することを擬制するのであれば,それに重ねてライプニッツ方式を採用す
ることにより,加害者が損害賠償の支払を遅らせれば遅らせるほど,複利
と単利の差額分を利得してしまうことになって,遅延損害金により加害者の
債務の履行を促進するという法の趣旨と矛盾することなどから,中間利息
控除方式としてはホフマン方式を採用すべきである旨主張する。
  しかしながら,平成17年判決は,中間利息の控除割合を民事法定利率
(年5パーセント)によらなければならないとしているにとどまり,控除方式に
ついては何ら触れていない。そして,年5パーセントの割合によるライプニッ
ツ方式を採用することに一定の合理性があることは前記説示のとおりであ
り,また,原告が指摘する法の各規定については,破産法99条1項2号
(旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)46条5号も同様)
の趣旨は,破産法99条1項1号(旧破産法(平成16年法律第75号による
廃止前のもの)46条1号も同様)において破産手続開始後の利息請求権を
劣後的破産債権としたこととの均衡上,無利息債権についても破産手続開
始後弁済期に至るまでの中間利息を控除するとしたものであり,民事再生
法及び会社更生法の各規定は,それぞれ再生債権者及び更生債権者間
の議決権の衡平の観点から期限未到来の無利息債権について中間利息
を控除することとしたものであり,民事執行法の規定は,期限未到来の無
利息債権につき,配当における他の債権者との衡平の観点から実質的に
中間利息を控除することとして定められたものであると解されるから,これ
らの規定があることをもって,中間利息控除方式について一般的にホフマ
ン方式を採用する趣旨であるということはできない。さらに,中間利息の控
除割合を年5パーセントとした上で控除方式をライプニッツ方式とした場合
には,履行を遅らせる加害者に利得を得させる結果となり,法の趣旨に反
するとの点についても,民法404条所定の民事法定利率は不法行為等の
加害者のみに適用されるものではなく,同法は加害者の履行を促進する趣
旨で定められたものとはいえないから,その前提の理解において不適切で
あり,これを採用することはできない。
  以上のとおりであるから,原告の主張をたやすく採用することはできない。
(オ) そうすると,原告の逸失利益を算定するについては,658万7500円を
基礎収入とし,これに労働能力喪失率10パーセントを乗じた上,ライプニッ
ツ式計算方法を用いて(年5分の割合による41年間のライプニッツ係数は
17.2943である。)中間利息を控除して計算すると,下記計算式のとおり
1139万2620円となる。
 (計算式)6,587,500×0.1×17.2943=11,392,620(小数点以下切捨て)
エ 上記アないしウの合計額は,1567万8985円となる。
オ 弁護士費用について
  弁論の全趣旨によれば,原告は,本件訴えの提起,追行を原告訴訟代理人
らに委任し(この点は当事者間に争いがない。),相当額の報酬の支払を約束
したことが認められるところ,本件事案の内容,主な争点,難易度,審理経
過,認容額等の事情を総合考慮すると,本件における被告の不法行為と相当
因果関係のある損害として被告に請求しうる弁護士費用としては,上記認容
額の約1割に相当する150万円と認めるのが相当である。
第4 結論
   以上によれば,原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は,1717万
8985円及びこれに対する不法行為の日である平成15年1月10日から支払済み
まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があ
るからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして,
主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官  奥  田  正  昭
裁判官  鈴  木  秀  行
裁判官  金  田  健  児

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