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平成一一年(ネ)第四七三号不正競争行為差止等請求控訴事件(原審・大阪地方裁判
所平成七年(ワ)第七一九三号)
          判    決
    控訴人(被告)         株式会社小谷穀粉
    右代表者代表取締役       【A】
    右訴訟代理人弁護士       田  浦     清
    被控訴人(原告)        タヒボジャパン株式会社
    右代表者代表取締役       【B】
    右訴訟代理人弁護士       松  葉  知  幸
    同               澤        登
          主    文
     一 原判決を取り消す。
     二 被控訴人の請求を棄却する。
     三 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。
          事実及び理由
第一 控訴の趣旨
   主文と同旨 
第二 事案の概要
  (以下、被控訴人を「原告」・控訴人を「被告」と略称する。)
  本件は、被告の製造販売する健康茶に使用された「タヒボの精」なる商標と
「タヒボ茶」なる表示が原告の登録商標に類似するとして、選択的に、(1)不正競争
防止法二条一項一号・三条一項・四条、あるいは(2)商標法三七条一号・三六条・民
法七〇九条に基づき、被告商品の販売等差止と損害賠償を求めた事案である。
  本件の前提事実・争点・当事者の主張は、次に付加する他は、原判決「事実及
び理由」中の「第二 事案の概要」「第三 争点に関する当事者の主張」に記載の
とおりであるから、これを引用する。
 一 被告の補充主張
  1 原判決後の平成一一年一月七日、特許庁は、有限会社自然療法研究所の登
録商標「タヒボの恵み」に関し、原告が申し立てた登録異議の申立てについて右登
録を維持するとの決定をした。右決定では、「タヒボの恵み」と「Taheeb
o」とは外観・称呼・観念のいずれにおいても類似せず、出所について誤認混同を
生じるおそれがあるとは認められないと判断された。
    したがって、商標として出願公告されている被告の商標「タヒボの精」に
ついても、原告商標と類似するものではなく、誤認混同のおそれはないものという
べきである。
  2 【C】報告書(甲二七)や【C】著「奇跡の薬木『タヒボ』」(乙二)等
によれば、「タヒボ」とは学名「ノウゼンカズラ科タベブイア属アベラネダエ種」
の俗称で、ブラジルその他の南米の地域においては「イペ・ロショ」「パウダル
コ」「ラパチョ」等とも呼ばれていること、同地域では、巷間、「タヒボ」はタベ
ブイア・アベラネダエと同じ樹木を指す言葉として人口に膾炙されていることが認
められるのであるから、「タヒボ」の名称を使用することは普通名称の使用として
許されるものというべきである。
    現在は健康ブームの時代であり健康食品への消費者の関心は極めて高く、
多種多様の健康食品が発表されている。特に日常多用される「茶」もウーロン茶・
鳩麦茶・柿葉茶等々数十種類に及ぶ商品が発売されているが、タヒボ茶もこれら健
康茶の一種であり、いずれも原材料名を「茶」の語と結合させて商品の一般名称と
して使用しているものである。
 二 原告の反論
  1 被告商標「タヒボの精」において需要者の注意を惹く要部は「タヒボ」の
部分である。「の精」の部分は需要者が注目する部分ではなく、単に付加的なもの
にすぎない。「の精」はたかだかエキスと言う意味にしかすぎず、需要者にとって
は「タヒボ」も「タヒボの精」も同じものを意味する表示である。
    「の精」を付加することによって全く別の表示になるのであれば、誤認混
同行為を禁止する不正競争防止法を潜脱することは容易である。「リプトン」に
「の精」を付加しただけで「リプトンの精」を自由勝手に使用できるとしたら、不
正競争防止法の規制は全く意味をなさない。
    被告は、「タヒボの恵み」に関する原告の登録異議申立てが容れられなか
ったことをもって、「タヒボの精」と原告商標とが非類似である論拠とするが、右
決定は『Taheebo』というレタリング化した欧文字と「タヒボの恵み」とを
比較した事案であって、「タヒボ」と「タヒボの恵み」が比較されたものではな
い。
2 「タヒボ」が「ノウゼンカズラ科タベブイア属アベラネダエ種」の異名・
別称であるとは植物の学術書には一切の記載がないし、一般にもその俗称として通
用している事実もない。
    そもそも、「タヒボ」が樹木の名前であることを裏付ける客観的な証拠は
提出されていない。被告が普通名称の論拠として挙げているものは、原告が過去に
おいて、「ノウゼンカズラ科タベブイア属アベラネダエ種」では名前として長すぎ
るので、販売促進のために単に「タヒボの木」と呼んでいた時期の僅かな資料をと
らえて論拠としているにすぎない。
    なお、「タヒボ」(原判決別紙商標目録(二)記載のもの)は平成一〇年一
二月二五日に商標登録され、被告の異議申立ては理由がないものと判断されてい
る。
第三 当裁判所の判断
 一 不正競争防止法に基づく請求について
  1 原告会社の設立、原告商品(ブラジル北部のアマゾンに自生する樹木であ
る「ノウゼンカズラ科タベブイア属アベラネダエ種」の内部樹皮を原料とする樹木
茶)の販売と宣伝広告、マスコミ等での原告商品あるいは右樹木の紹介の経過につ
いては、原判決二六頁六行目から同四八頁三行目までに記載のとおりであるから、
これを引用する(但し、同二七頁初行「特殊自体」を「特殊字体」に改める。)。
  2 右認定のように、ブラジルの薬用植物の中で注目すべきものに「パウデア
ルコ」といわれる植物があり、正式には「ノウゼンカズラ科タベブイア属」の植物
であるが、その中でも「紫イペー」といわれる種類が最も薬効があるといわれ、中
でも「アベラネダエ種」がさらに薬効があるとされていること、「タベブイア属」
の植物はその薬効により古代インカ帝国の時代から「神からの恵みの木」を意味す
る「タヒボ」と称されており、いまでは民間で広く「紫イペー」「イペロショ」等
と呼ばれているが、一部ではなお「タヒボ」と呼ばれていること、右「タベブイア
属」の植物はブラジル等では今でも「神からの恵みの木」とも呼ばれ、中でも「イ
ペー・ローザ」と呼ばれる種類には各種薬効があり、その仲間で「タヒボ」と呼ば
れるものの樹皮を細粉したものは制癌剤として広く知られていることが認められる
(乙二〈昭和六三年九月に発行された「奇跡の薬木『タヒボ』」《サンパウロ大学
農学部名誉教授【C】著》〉・三・六・八〈平成八年四月発行の「ブラジル産薬用
植物事典」《【D】著》〉・九)。
    こうした「タヒボ」といわれるアマゾンの薬木がわが国に知られるように
なったのは比較的新しく、昭和六〇年一月発行の「医療・健康ニュース」(乙九)
には、「日本では聞き慣れないお茶」として「タヒボ」、すなわち「学名をタベブ
イアアルテシーマというノウゼンカズラ科の樹木で、主にブラジルのアマゾン流域
の熱帯からアンデス山脈に至るジャングル地帯に生息している樹木」から作られる
茶のことが紹介され、「とくに人間の体にとって非常に良い結果を与えるタヒボは
赤紫色の花が咲くブラジル原産のものがよいといわれ」、その薬効は西欧諸国でも
医学的に注目され始めているとの記事が掲載されていた。
    そして、原告が、会社を設立した昭和六〇年一二月以降、「タヒボ」の名
称で原告商品を製造販売しその宣伝広告に努めた結果、平成元年頃には健康雑誌等
に「タヒボ」茶の効用が記事として取り上げられるようになり、その後幾度も健康
雑誌等に掲載されたことによって、「タヒボ」茶が樹木茶の一種として健康食品に
関心のある需要者に広く知られるようになり、さらに、我が国の医学界でも「タヒ
ボ」茶の制癌効果等が研究の対象とされるに至ったことが認められる(甲四ないし
八《枝番を含む》、一四、三三等)。
    右各事実や、原告による宣伝広告の中でも原告商品の原材料となる内部樹
皮を採取する木が「タヒボ」と呼ばれるものと受け取られるような記述がされてお
り、従来、同様の茶が我が国に紹介されていなかったこともあって、需要者の間に
おいてそのような認識が一般化してきたことは容易に窺われる。  
3 ところで、不正競争防止法一一条一項一号にいう「商品若しくは営業の普
通名称」とは、取引者・需要者において特定の商品又は役務を指す一般的名称とし
て認識され通用しているものをいい、その名称が原産地あるいは原材料名で表示さ
れているときは、それが特定の原産地や原材料を指すものと一般に認識される程度
に表示されていれば足りるものと解すべきであり、当該商品が新商品として開発さ
れたものであるときは、名称の表示が必ずしも正確な地名や学名を用いていない場
合であっても、それを普通名称と認める妨げにはならないものというべきである。
    本件についてこれをみるに、原告商品の原材料は、正確な学名を「ノウゼ
ンカズラ科タベブイア属アベラネダエ種」という樹木の内部樹皮であるが、ブラジ
ルその他の南米諸国では右樹皮の持つ特別な薬効を古代から珍重し、「神からの恵
みの木」という意味を込めて「タヒボ」と称しその細粉を茶として飲用することが
民間に伝承されていたことは前記認定のとおりである。原告は、こうした由来に基
づき、右樹皮から製造した樹木茶の商品名を定めるに当たり原材料である樹木の学
名や南米各国での他の通称を採用せず、右伝承に由来する俗称の一つである「タヒ
ボ」を採用して「タヒボ」茶と命名したものと窺われる。
    従って、原告商品の「タヒボ」なる名称は、商品の種類である茶の原材料
を原産地での俗称に倣って表示したものと認められ、タヒボ茶というのは、我が国
の従来茶である「鳩麦茶」「どくだみ茶」「アロエ茶」等と同種類の表示というこ
とができる。
    そして、原告商品が相当期間にわたり多額の費用を掛けて宣伝広告される
ことによって健康雑誌等にも幾度も取り上げられ、健康食品に関心のある需要者間
に広く知られるようになったことも前記認定のとおりである。
    そうであれば、「タヒボ」茶はブラジル北部を中心に生育する樹木の内部
樹皮を原材料とする樹木茶の一種であり、「タヒボ」はその原材料を指す名称とし
て使用されていることが、遅くとも被告商品が発売された平成六年九月頃までに
は、健康食品に関心のある需要者一般に認識され、それに伴い取引者にも一般に同
様の認識が広がっていたものと推認される。
    してみると、原告商品の「タヒボ」なる名称は、南米産の樹木茶の原材料
を指す普通名称であると認めるのが相当である。
  4(一) 原告は、「タヒボ」が「ノウゼンカズラ科タベブイア属アベラネダエ
種」の異名・別称であるとは植物の学術書には一切の記載がないし、南米各国で一
般にもその俗称として通用している事実もないとして普通名称であることを否定す
る。
     たしかに、熱帯植物研究会編「熱帯植物要覧」(第三版・平成三年九月
発行、甲二四)には「ノウゼンカズラ科タベブイア属アベラネダエ種」の異名とし
ては「イペーロッショ」のみが挙げられていて、「タヒボ」なる俗称のあることは
記載されていないが、他方、サンパウロ大学農学部名誉教授の前記著書(乙二)や
前記「ブラジル産薬用植物事典」(乙八)には「アベラネダエ種」に「タヒボ」な
る俗称のあることが記載されていることは前記のとおりである。
     そもそもある商品の原材料を示す名称が普通名称に当たるというために
は、その名称が植物の学術書に異名又は俗称として記載されていることを要するも
のではなく、一部の地域あるいは一時期において俗称・通称として用いられていた
にすぎないものでも、その後特定の商品等を示す一般名称として広く通用するに至
ったものは普通名称というに十分であるし、全くの造語であっても普通名称という
妨げになるものではないから、原告の右主張は理由がない。
     なお、乙二の著者である右教授は、原告からの指摘を受けて、ブラジル
において「タヒボ」なる名称の樹木の存在しないことを承認し、平成六年一二月に
発行された右著書の改訂版では「タヒボ」なる名称の使用を中止していることが認
められる(甲二七の1・2、三〇)が、右初版本の記述が全くの誤りであったとま
でを自認しているとも見られない上、「タヒボ」なる俗称が古代インカ帝国の時代
に「ノウゼンカズラ科タベブイア属アベラネダエ種」を指すものとしてインディオ
により用いられていたことは同教授自身も認めているところである(甲一、二七の
二、乙六《甲三〇と同じ》の六二頁参照)。
(二) 原告は、原告商標の「タヒボ」(原判決別紙商標目録(二))は平成一
〇年一二月二五日に商標登録されたとして、「タヒボ」なる名称が普通名称でない
ことの根拠としている。
     たしかに、甲六三・六四によれば、原告主張のとおりの商標登録がされ
たことは認められるが、特許庁の商標登録に関する判断が直接侵害訴訟における当
裁判所の判断を左右するものではないから、右登録の事実が前記判断を否定する根
拠となるものではない。
  5 右検討のとおり、被告商標「タヒボの精」及び被告表示「タヒボ茶」のう
ちいずれも「タヒボ」なる名称は南米産の樹木茶の原材料を示す普通名称であり、
被告商品にはこれを通常の字体で表示しているのであるから、普通名称を「普通に
用いられる方法で表示」したものと認められ、結局、被告商標及び被告表示を使用
することが不正競争に当たるということはできない。
    従って、原告の不正競争防止法に基づく請求は、その余の点について判断
するまでもなく、理由がなく棄却すべきである。
 二 商標法に基づく請求について
   商標法二六条一項二号にいう「普通名称」も前記一3と同旨に解するのが相
当であるところ、被告商標及び被告表示のうち「タヒボ」なる名称は「普通名称」
と解すべきであって、これを被告商標及び被告表示に使用することは「普通に用い
られる方法で表示」するものと認められることも前記一3・5に判断したとおりで
あるから、右部分を除外した被告商標及び被告表示は原告商標「Taheebo」
に類似するものとはいえない。
   従って、原告の商標権に基づく請求も、その余の点について判断するまでも
なく、理由がなく棄却すべきである。
第四 結論
  以上の次第で、原告の本訴請求は棄却すべきところ、これと異なる原判決は失
当であるからこれを取り消すこととして、主文のとおり判決する。
  (口頭弁論終結日 平成一一年七月一三日)
    大阪高等裁判所第八民事部
        裁判長裁判官   鳥 越 健 治 
           裁判官   小 原 卓 雄
           裁判官   川 神   裕

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