弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人A1に関する部分を破棄し、右部分につき本件を東京高
等裁判所に差し戻す。
     上告人A2の本件上告を棄却する。
     前項の部分に関する上告費用は上告人A2の負担とする。
         理    由
 上告代理人鍛治利一名義の上告理由第一点ないし第四点について。
 しかし、原審における所論の各事実認定は、挙示の証拠に照合して肯認するにか
たくない。
 被上告人が本件家屋の敷地を所有者Eより賃借していることは、上告人A2の自
白するところであつて(原審が引用した第一審判決の事実摘示参照)、その賃借権
が地主に対する関係において有効に存在するかどうかは、本件には直接の関係がな
いばかりでなく、本件家屋を被上告人の所有と断じた原審の前示認定を妨げるもの
でもない。
 論旨はひつきよう原審がその裁量権の範囲内において適法にした証拠の取捨判断
および事実の認定を争うものか、ないしは原審の認定に副わない事実を主張して原
判決に所論の違法ある如く非難するに帰するから採るを得ない。
 同第五点について。
 所論の原判示には、所論の如く、挙示の証拠に照して稍首肯しがたい点がないで
はない。しかしその点は本件家屋所有権の帰属に関する原審の認定に別段影響ある
ものとは認められないから、論旨は採用しがたい。
 同第六点について。
 しかし所論は原審で主張せず、また原審も認定していない事実を前提として原判
決に所論の違法ある如く主張するものであるから採るを得ない。
 同第七点について。
 原判決は、上告人A2のみならず、上告人A1に対しても本件家屋の明渡並びに
賃料相当の損害金の支払を命じていることは所論のとおりである。
 原判決の理由とするところは「上告人らが現に本件家屋を占有していること(上
告人A1は上告人A2の使用人として占有しているというのであるから、反証のな
いかぎり上告人らは共同で占有しているものと認める)……は上告人らの認めて争
わないところであり、右占有について被上告人に対抗するに足る正当の権原を有す
ることは、他に上告人らの何ら主張しないところである」からというのである。
 けれども、原審の引用した一審判決(事実の摘示)によると、上告人A1は、右
「何ら権原なく本件家屋を占有している」旨の被上告人の主張を否認していること
が窺われるから、これを認めて争わなかつたのではなく、右はむしろ当事者間に争
いのある事実と解さなければならない。
 もつとも原判決は、この点に関し特に割註を附し、「上告人A1は、A2の使用
人として占有しているというのであるから、反証のないかぎり上告人A2と共同し
て占有しているものと認める」旨判示している。しかしこれとても前示一審判決の
摘示事実によれば、「被告(上告人)A2の使用人として本件家屋に居住している
に過ぎない」とあつて、必ずしも占有の事実を認めたものとは解されないばかりで
なく、使用人が雇主と対等の地位において、共同してその居住家屋を占有している
ものというのには、他に特段の事情があることを要し、ただ単に使用人としてその
家屋に居住するに過ぎない場合においては、その占有は雇主の占有の範囲内で行わ
れているものと解するのが相当であり、反証がないからといつて、雇主と共同し、
独立の占有をなすものと解すべきではない。
 されば、原判決は当事者間に争いのある事実につき自白の成立を認めたことに帰
するのであり、他に特段の事情あることにつき何ら説示せず、たやすく上告人A1
の不法占有を認め、家屋明渡のほかに賃料相当の損害金支払の義務までも認めた原
判決は、他人の使用人の占有および不法行為に関する法の解釈を誤まり、ひいては
審理不尽、理由不備の違法に陥つたものというべく、この部分に関する論旨は結局
理由あるに帰し、原判決中上告人A1に対する部分は破棄を免れない。なお違憲を
いう点もあるが、その実質は原審の単なる法令違背を主張するに帰するから採るを
得ない。
 よつて、上告人A1につき民訴四〇七条、上告人A2につき同三九六条、三八四
条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    高   木   常   七
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫

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