弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人高澤文俊,同高橋正俊の上告趣意のうち,死刑制度に関して憲法13条,
31条,36条違反をいう点は,死刑制度がこれらの規定に違反しないことは当裁
判所の判例(最高裁昭和22年(れ)第119号同23年3月12日大法廷判決・
刑集2巻3号191頁,最高裁昭和32年(あ)第2247号同36年7月19日
大法廷判決・刑集15巻7号1106頁)とするところであるから,理由がなく,
その余は,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当た
らない。
なお,所論にかんがみ記録を調査しても,刑訴法411条を適用すべきものとは
認められない。
付言すると,本件各犯行時における被告人の完全な責任能力を肯定した原判断
は,正当として是認することができる。
また,本件は,祈とう師として活動していた被告人が,自宅で共同生活を送って
いた信者らと共謀の上,2名の信者に対し,ほぼ並行的に,1か月近くの間,悪霊
を追い払うための儀式的な行為として,「御用」と称した上,それぞれ連日のよう
に数時間ずつ断続的に,顔面,大腿部,頭部,背部等を手けんや太鼓のばち等で多
数回殴打し足げにするなどの暴行を加え,両名を打撲等の傷害に基づく挫滅症候群
により死亡させたという各傷害致死と,その後,5か月足らずの間に,別の信者5
名に対し,やはり他の信者らと共謀の上,順次あるいは並行的に,いずれも殺意を
もって,同様の暴行を加え,うち4名を同様に死亡させて殺害し,最後の1名につ
いては傷害を負わせるにとどまったという各殺人及び殺人未遂の事案である。
いずれにおいても多人数で長期間にわたり執ような暴行を加え続けた各犯行の態
様は,なぶり殺しともいえる陰惨なものであり,6名もの命を次々に奪った結果は
誠に重大である。被告人にすがりながら,救われることなく命を失った被害者らの
苦痛,無念さは察するに余りあり,本件で両親又はその一方を失った子供たちの前
途も案じられる。被害者らの遺体が部屋に寝かされて腐敗するままに放置されてい
たことなどもあり,遺族らの被害感情は極めて厳しい。宗教的集団による事件とし
て本件が社会に与えた影響も非常に大きい。
被告人は,自らを神ないし神の使いであるとする宗教的な集団を形成し,その絶
対的な力を背景に,利己的で酌量の余地のない動機に基づいて,特定の信者を次々
に標的に選び出した上,自ら,あるいは共犯者となった他の信者に命令して,上記
のような暴行を加え,被害者らを死に至らしめ,あるいは殺害したのであり,その
刑事責任は,共犯者らに比較して際立って重い。しかも,被告人は,公判廷におい
て,当時は宗教的な確信のために被害者らの死についての認識もなかったなど,不
合理な弁解をして自己の刑責を免れようとしており,十分な反省の情が認められな
い。
このような諸事情に照らすと,本件各犯行について被告人の宗教的確信の影響が
あったことは否定できないこと,被害者らが必ずしも被告人らの暴行から逃げよう
としていなかったこと,前科がないことなど,被告人のために酌むべき情状を十分
考慮しても,被告人の罪責は誠に重大であり,被告人を死刑に処した第1審判決を
維持した原判断は,当裁判所もこれを是認せざるを得ない。
よって,刑訴法414条,396条,181条1項ただし書により,裁判官全員
一致の意見で,主文のとおり判決する。
検察官渋佐愼吾公判出席
(裁判長裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官
田原睦夫裁判官近藤崇晴)

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