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平成25年9月11日判決言渡
平成24年(行ケ)第10364号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年8月7日
判決
原告ローベルトボッシュゲゼルシャフト
ミットベシュレンクテルハフツング
訴訟代理人弁理士亀谷美明
同松本一騎
同平山淳
同伊藤学
被告特許庁長官
指定代理人菅原道晴
同竹井文雄
同樋口信宏
同大橋信彦
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定め
る。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1特許庁が不服2008-19854号事件について平成24年6月11日に
した審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
原告は,発明の名称を「複数の加入者間におけるデータ交換方法,通信シス
テム,バスシステム,メモリ素子,コンピュータプログラム。」とする発明
(請求項の数は出願当時15であったが,後に手続補正の結果14となっ
た。)について,平成13年12月27日に特許出願(特願2001-397
733号(パリ条約による優先権主張2000年12月28日)。以下「本
願」という。)をしたが,平成20年4月28日付けで拒絶査定を受けたので,
同年8月5日,これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は,この審判を,不服2008-19854号事件として審理した上,
平成22年8月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,
同審決の謄本を,同月17日,原告に送達した。
原告は,同年12月15日,上記審決について,知的財産高等裁判所に審決
取消請求訴訟を提起し,同裁判所は,これを平成22年(行ケ)第10388
号審決取消請求事件として審理した上,平成23年9月28日,上記審決を取
り消す旨の判決を言い渡した。
特許庁は,上記審判をさらに審理した後,平成24年6月11日,「本件審
判の請求は,成り立たない。」との審決をし,審決の謄本を,同月26日,原
告に送達した。
2特許請求の範囲
平成24年5月1日付け手続補正に基づく補正後の本願の特許請求の範囲の
請求項1の記載は,次のとおりである(甲5。この発明を,以下「本願発明」
という。また,上記補正後の本願の明細書及び図面(甲2,5)を総称して,
「本願明細書」ということがある。)。
【請求項1】バスシステムを介して相互に接続されている少なくとも2つの加
入者間におけるデータ交換方法であって,
前記データは,前記加入者から前記バスシステムを介して伝送されるメッセ
ージ内に含まれており,
前記バスシステムの負荷に従って,伝送すべき各メッセージが前記加入者の
送信意図と実行された加入者の送信プロセスとの間に経過する予め設定される
待ち時間が保証できる間は,前記データは優先順位に基づいて前記バスシステ
ムへの一義的なアクセスが行われる事象指向でバスシステムを介して伝送さ
れ,
他の場合には,前記データは時間制御されるモードでバスシステムを介して
伝送される,
ことを特徴とする複数の加入者間におけるデータ交換方法。
3審決の理由
(1)別紙審決書写しのとおりであるが,要するに,本願発明は,特開平5-3
04530号公報(甲1。以下「引用例」という。)に記載された発明(以
下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明す
ることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受
けることができない,というものである。
(2)審決が,上記結論を導くに当たり認定した,本願発明と引用発明との一致
点及び相違点は,以下のとおりである。
ア一致点
「バスシステムを介して相互に接続されている少なくとも2つの加入者間
におけるデータ交換方法であって,
前記データは,前記加入者から前記バスシステムを介して伝送されるデ
ータフレーム内に含まれており,
前記バスシステムの負荷に従って,バスシステム負荷が低い状態の間は,
前記データは特定の事象指向でバスシステムを介して伝送され,
他の場合には,前記データは特定の決定論的アクセス制御手順によるデ
ータの伝送でバスシステムを介して伝送される,
複数の加入者間におけるデータ交換方法。」
イ相違点
(ア)データが含まれるデータフレームが,本願発明は「メッセージ」であ
るのに対し,引用発明は「フレーム」である点(以下「相違点1」とい
う。)。
(イ)「バスシステム負荷が低い状態の間」が,本願発明では「伝送すべき
各メッセージが前記加入者の送信意図と実行された加入者の送信プロセ
スとの間に経過する予め設定される待ち時間が保証できる間」であるの
に対し,引用発明では「キャリアの衝突回数が予め設定してある回数C
に達していない低負荷時」であり,「特定の事象指向」が,本願発明は
「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われ
る事象指向」であるのに対し,引用発明はCSMA/CDアクセス制御
手順を用いたデータ伝送であって「優先順位に基づいて前記バスシステ
ムへの一義的なアクセスが行われる」ものではない点(以下「相違点
2」という。)。
(ウ)「特定の決定論的アクセス制御手順によるデータの伝送」が,本願発
明では「時間制御されるモード」であるのに対し,引用発明は「トーク
ンパッシングアクセス制御手順によるデータの伝送」である点(以下
「相違点3」という。)。
第3原告の主張
1引用発明の認定の誤り及び相違点2の認定の誤り
(1)審決は,引用発明について,「CSMA/CDアクセス制御手順とトーク
ンパッシングアクセス制御手順を切り替える負荷状態をキャリアの衝突回数
により推定しており,前記低負荷時を『キャリアの衝突回数が予め設定して
ある回数Cに達していない』ことにより規定し,前記高負荷時を『キャリア
の衝突回数が予め設定してある回数Cに達した』ことにより規定していると
認められる。」と指摘している。
また,審決は,相違点2について,「『バスシステム負荷が低い状態の
間』が,本願発明では『伝送すべき各メッセージが前記加入者の送信意図と
実行された加入者の送信プロセスとの間に経過する予め設定される待ち時間
が保証できる間』であるのに対し,引用発明では『キャリアの衝突回数が予
め設定してある回数Cに達していない低負荷時』である」と認定した。
(2)しかしながら,引用例に記載された「低負荷状態」とは「任意の局が呼の
送信を完了してから次に任意の局に呼の生起するまでの間隔が1/Nλであ
るような状態」であり,引用例に記載された「高負荷状態」とは「呼の送信
終了と同時に次の呼が生起するような状態」である。
引用発明において,キャリアの衝突は,各ノードが送信したデータが同じ
タイミングでバス上に流れた場合に発生するため,衝突回数Cはノードの数
と送信タイミングに依存する。したがって,「任意の局が呼の送信を完了し
てから次に任意の局に呼の生起するまでの間隔が1/Nλであるような低負
荷状態」と「キャリアの衝突回数が予め設定してある回数Cに達していない
低負荷状態」とは一致するものではなく,引用発明は「キャリアの衝突回数
が予め設定してある回数Cに達していない」ことをもって「任意の局が呼の
送信を完了してから次に任意の局に呼の生起するまでの間隔が1/Nλであ
るような低負荷状態」を便宜的に類推しているにすぎない。
同様に,引用例に記載された「呼の送信終了と同時に次の呼が生起するよ
うな高負荷状態」と「キャリアの衝突回数が予め設定してある回数Cに達し
た高負荷状態」は一致するものではなく,引用発明は,「キャリアの衝突回
数が予め設定してある回数Cに達した」ことをもって「呼の送信終了と同時
に次の呼が生起するような高負荷状態」を便宜的に類推しているにすぎない。
(3)したがって,審決による引用発明の認定には誤りがあり,「キャリアの衝
突回数が予め設定してある回数Cに達していないことで類推される低負荷時
には,前記データは事象指向であるCSMA/CDアクセス制御手順を用い
たデータ伝送で前記バス型LANを介して伝送され」,「キャリアの衝突回
数が予め設定してある回数Cに達したことで類推される高負荷時には,前記
データは決定論的であるトークンパッシングアクセス制御手順によるデータ
の伝送で前記バス型LANを介して伝送される」と認定すべきであったもの
である。
相違点2についても,「『バスシステム負荷が低い状態の間』が…引用発
明では『キャリアの衝突回数が予め設定してある回数Cに達していないこと
で類推される低負荷時』である」とすべきであった。
審決は,衝突回数Cとバスシステムの負荷を一義的に捉えているが,衝突
回数Cとバスシステムの負荷は一致しない。よって,審決の上記認定には重
大な誤りがある。
2一致点の認定の誤り
(1)引用発明においては,任意の1の端末装置において衝突検出パルスがあら
かじめ定められた値Cに達すると,その端末装置からトークンパッシング選
択信号がLAN用バス5に出力される。そして,LAN用バス5に接続され
ている全ての端末装置は,LAN用バス5からトークンパッシング選択信号
を検出して,それまで動作させていたCSMA/CDアクセス制御手順の動
作を中断させ,トークンパッシングアクセス制御手順によるデータ伝送に切
り替えて以後のデータ伝送を行う。したがって,引用発明においては,各端
末装置が個別に(自律的に)CSMA/CDアクセス制御手順からトークン
パッシングアクセス制御手順への切替えを行うことはできない。
また,引用発明においては,1本のLAN用バス5に,各端末装置が送信
するデータと任意の1の端末装置が送信したトークンパッシング選択信号が
流れる。このため,引用発明において,キャリアの衝突が頻繁に検出される
状況下では,トークンパッシング選択信号をLAN用バス5上に送信しよう
としても,トークンパッシング選択信号が他の端末装置が送信するデータと
衝突してしまい,トークンパッシング選択信号をLAN用バス5に送信する
ことが困難となる。このため,任意の1の端末装置において衝突検出パルス
の数がCに達したことが検知されたとしても,トークンパッシング選択信号
をLAN用バス5を介して他の端末装置に送信することが困難となり,他の
端末装置においては,トークンパッシング選択信号を受信するまでの間は,
CSMA/CDアクセス制御手順からトークンパッシングアクセス制御手順
への切替えを行うことができない状況となる。したがって,各端末装置にお
いては,CSMA/CDアクセス制御手順からトークンパッシングアクセス
制御手順への切替えに時間を要してしまう。
(2)これに対し,本願発明においては,各加入者がバスシステムの負荷(危機
的な状況)を検出することができ,バスシステムの負荷に従って,伝送すべ
き各メッセージが前記加入者の送信意図と実行された加入者の送信プロセス
との間に経過するあらかじめ設定される待ち時間が保証できるか否かに基づ
いて,各加入者が「事象指向」と「時間制御されるモード」とを個別的に
(自律的に)切り替えることができる。これにより,引用例に記載されてい
るようなトークンパッシング選択信号をLAN用バス5上に送信する必要が
なく,バスシステムの負荷に基づいて各加入者が瞬時かつ同時に「事象指
向」と「時間制御されるモード」とを個別に切り替えることが可能であるた
め,モードの切替えを引用発明よりも大幅に短い時間で行うことができると
いう特有の効果を奏する。
(3)したがって,審決の本願発明と引用発明の一致点の認定は,このような本
願発明と引用発明の相違点を看過している点で誤りである。
3相違点2の判断の誤り
(1)「特定の事象指向」に係る相違点について
審決は,「事象指向のアクセス制御手順としては様々な態様が知られ,…
このような事象指向のアクセス制御手順は,いずれも,バスシステム負荷が
小さい場合には迅速に送信できる一方,バスシステム負荷が大きい場合に最
悪の場合において全ての利用者に有限の最大待ち時間を保証できないという
共通の特徴を有していることは当業者における技術常識である。」,「引用
発明の『CSMA/CDアクセス制御手順を用いたデータ伝送』に代えて,
同じ特徴を有し,事象指向のアクセス制御手順としてもありふれている『優
先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指
向』を採用することは,当業者が適宜選択する程度の事項に過ぎないといえ
る。」と認定した。
しかしながら,審決のこれらの認定は,以下のとおり誤りである。
ア本願発明における「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的な
アクセスが行われる事象指向」では,バスシステム負荷が大きい場合であ
っても,優先順位に基づいて,優先度の高いメッセージを送信する加入者
には待ち時間は生じず,比較的優先度の低いメッセージを送信する加入者
に待ち時間が生じるのであって,少なくとも優先順位の高いメッセージを
送信する利用者には待ち時間が保証されるものである。
これに対し,引用発明におけるCSMA/CDアクセス制御手順では,
各通信装置が送信するデータが衝突した場合に何ら優先順位は考慮されて
おらず,バスシステムの負荷が高い場合は,CSMA/CDアクセス制御
手順は全ての利用者に対して最大の待ち時間を保証できないものである。
したがって,本願発明に係る「優先順位に基づいて前記バスシステムへ
の一義的なアクセスが行われる事象指向」と引用発明のCSMA/CDア
クセス制御手順とは,審決が認定するような共通の特徴は何ら有していな
い。
また,本願発明の「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的な
アクセスが行われる事象指向」では,優先順位の低いメッセージを送信す
る送信者は,最悪の場合,無限の待ち時間を有してしまうのに対し,引用
発明の「CSMA/CDアクセス制御手順を用いたデータ伝送」では,高
負荷状態においては,全ての利用者に有限の最大待ち時間を保証できない
という欠点がある。
したがって,「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアク
セスが行われる事象指向」と,「CSMA/CDアクセス制御手順を用い
たデータ伝送」とは,その目的及び解決しようとする課題が異なり,さら
に,効果も全く異なるものである。「最優先度のデータはいつでも送信可
能であり『待ち時間』が常にゼロである一方,送信頻度が高くなると優先
度の低いデータはいくら待っても送信の機会を得ることができないという
問題」は,「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセス
が行われる事象指向」における特有のものであり,引用発明におけるCS
MA/CDアクセス制御手順の課題と何ら共通するものがない。
イCSMA/CDアクセス制御手順の代わりに「優先順位に基づいて前記
バスシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指向」を採用した場合,
高負荷時に優先順位の低いデータの待ち時間が無限に長くなるため,有効
平均待ち時間を低減できない上に,待ち時間が無限になるデータが発生し
てしまい,CSMA/CDアクセス制御手順よりも事態が深刻になること
は自明である。
よって,全ての利用者に有限の最大待ち時間を保証することができない
という欠点がある引用発明の「CSMA/CDアクセス制御手順を用いた
データ伝送」の代わりに,最悪の場合に無限の待ち時間を有してしまう
「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われる
事象指向」を採用することに当業者が想到することは到底あり得ず,また,
そのような動機付けも存在しない。
引用発明において,高負荷状態ではトークンパッシングアクセス制御手
順によるデータ伝送が行われるとしても,トークンパッシングへの切替え
に不具合が生じてCSMA/CDアクセス制御手順を継続せざるを得ない
状況もあり得るから,「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的
なアクセスが行われる事象指向」における高負荷状態の欠点は,動機付け
に関して十分に影響するものである。
ウ引用例には,各端末装置が送信するデータに優先順位を付与することは
何ら記載されておらず,示唆もされていない。
本願発明の「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセ
スが行われる事象指向」は,特に自動車のエンジン制御などリアルタイム
性,応答性を重視する特定分野で用いられるものであるが,引用例にはリ
アルタイム性に関して何ら記載がなく,技術分野そのものが異なる。
これらの点からも,引用発明の「CSMA/CDアクセス制御手順を用
いたデータ伝送」の代わりに,「優先順位に基づいて前記バスシステムへ
の一義的なアクセスが行われる事象指向」を採用することに当業者が想到
することは到底あり得ず,また,そのような動機付けも存在しない。
エ本願発明の「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセ
スが行われる事象指向」は,バスシステムの負荷が低い状態において,優
先順位に従って待ち時間が保証されるのに対し,引用発明では,キャリア
のランダムな衝突の発生を前提としているため,キャリアの衝突回数があ
らかじめ設定してある回数Cに達していない状態においても,優先順位と
は関係なく,全ての端末装置から送信されるデータに衝突による待ち時間
が発生する可能性がある。
したがって,本願発明の「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一
義的なアクセスが行われる事象指向」は,引用発明のように全ての端末装
置から送信されるデータに衝突による待ち時間が発生することがなく,引
用発明の「CSMA/CDアクセス制御手順を用いたデータ伝送」からは
到底得ることのできない効果を奏するものである。したがって,この点か
らも,引用発明の「CSMA/CDアクセス制御手順を用いたデータ伝
送」の代わりに,「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なア
クセスが行われる事象指向」を採用することに当業者が想到することは到
底あり得ず,また,そのような動機付けも存在しない。
(2)「バスシステム負荷が低い状態の間」に係る相違点について
審決は,「引用発明はバスシステム負荷に関する現象であるキャリアの衝
突の回数Cをアクセス制御手順の切り替えの指標として『予め設定される待
ち時間が保証できる間』を推定しているということができる。…一方,本願
明細書には『待ち時間』そのものをアクセス制御手順の切り替えの指標とす
ることは記載されておらず,本願発明は,バスシステム負荷に関連する現象
である中断無しの負荷や連続するメッセージの数をアクセス制御手順の切り
替えの指標として『伝送すべき各メッセージが前記加入者の送信意図と実行
された加入者の送信プロセスとの間に経過する予め設定される待ち時間が保
証できる間』を推定することを含むものであることは明らかである。したが
って,『伝送すべき各メッセージが前記加入者の送信意図と実行された加入
者の送信プロセスとの間に経過する予め設定される待ち時間が保証できる
間』の点で両者に実質的な相違点はない。」と認定した。
しかしながら,審決のこの認定は,以下のとおり誤りである。
アバスシステムの負荷とキャリアの衝突回数は一義的に対応するものでは
ない。バスシステムの負荷とは,単位時間当たりにどれだけバスを通信デ
ータが占有したかを表すものであり,単位時間当たりのバスシステム上の
データ量である。つまり,バスシステムの負荷は,バスシステム上への送
信が正常に行われたデータに関するパラメータである。一方,キャリアの
衝突は,バス上へのデータの送信が正常に行われる以前に生じる現象,す
なわちバス上へのデータの送信が成功する以前に生じる現象である。キャ
リアの衝突が発生すると,キャリアの衝突に関わったデータは破壊されて
しまい,バス上にデータとして流れることがないため,衝突によって多く
のデータが破壊される状況では衝突回数Cが多くてもバスシステム上のデ
ータ量が少ない状況が発生する。このような状況では,衝突後にわずかな
バックオフタイムの経過後にデータを再送信すれば,バスシステム上の負
荷は小さいので待ち時間をほとんど生じることなくデータの送信が可能と
なる。したがって,キャリアの衝突回数Cとバスシステムの負荷は明らか
に異なり,原理的に一対一で対応するものではなく,キャリアの衝突回数
Cからバスシステムの負荷を求めることはできない。
イ本願発明のバスシステムの負荷とは,「単位時間当たりのバスシステム
上のデータ量(メッセージの数)」に対応することは明らかであるから,
引用発明の衝突回数Cと本願発明のバスシステムの負荷は同じ指標ではな
く,バスシステム上に正常にデータが流れる以前に発生する衝突の回数C
を指標としてあらかじめ設定される待ち時間が保証できる間を推定する引
用発明と,実際にバスシステム上にデータが流れた後の単位時間当たりの
データ量(メッセージの数)であるバスシステムの負荷を指標としてあら
かじめ設定される待ち時間を求める本願発明は明らかに相違し,引用発明
の衝突回数Cと本願発明のバスシステムの負荷は全く異なる指標・概念で
ある。
ウ引用発明の「キャリアの衝突回数が予め設定してある回数Cに達してい
ない低負荷時」は,キャリアの衝突回数によって定められるものであり,
一方,本願発明に係る「伝送すべき各メッセージが前記加入者の送信意図
と実行された加入者の送信プロセスとの間に経過する予め設定される待ち
時間が保証できる間」は,「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一
義的なアクセスが行われる事象指向」によって伝送が行われるときに,最
も優先順位の低いメッセージが伝送されるまでの待ち時間によって定めら
れるものであり,両者は異なるものである。
エ引用発明は,キャリアの衝突の発生を前提としたものであり,優先順位
に基づいてバスシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指向を何ら
開示も示唆もしていない。そして,上述のように,本願発明によれば,事
象指向によりメッセージが伝送される間,優先順位が高いメッセージのみ
ならず,優先順位が低いメッセージについても,優先順位に応じて待ち時
間を保証することが可能である。また,本願発明によれば,事象指向で待
ち時間が保証できない場合は,データは時間制御されるモードで伝送され
るため,特に事象指向では待ち時間を保証できない優先順位の低いメッセ
ージの待ち時間を保証することが可能となる。引用発明では,高負荷持に
トークンパッシングアクセス制御手順によるデータの伝送を行った場合に,
優先順位の低いメッセージの待ち時間を保証することは何ら想定していな
い。したがって,「待ち時間が保証できる間」について,本願発明が「優
先順位に基づく待ち時間の保証」であるのに対し,引用発明は「衝突によ
ってランダムに発生する待ち時間の保証」であり,両者は全く異なるもの
である。
4相違点3の判断の誤り
審決は,「引用発明において『特定の決定論的アクセス制御手順によるデー
タの伝送』として『トークンパッシングアクセス制御手順によるデータの伝
送』に代えてTDMA等の『時間制御されるモード』を採用することは単なる
設計変更にすぎない。」と認定した。
しかしながら,引用発明のトークンパッシングアクセス制御手順を用いるL
ANにおいては,高負荷状態では有効フレーム平均待ち時間は有限な値WHTを
もつため何ら欠点がなく,一方,低負荷状態においてはCSMA/CDアクセ
ス制御手順を用いるLANのように待ち時間を短くすることができないという
欠点を有する。したがって,引用発明は,トークンパッシングアクセス制御手
順を主として用いるものであり,トークンパッシングアクセス制御手順におけ
る低負荷時の欠点をCSMA/CDアクセス制御手順で補償したものである。
したがって,高負荷時において有効フレーム平均待ち時間が有限な値WHTを
有し,何ら欠点のないトークンパッシングアクセス制御手順の代わりに,TD
MA方式(時分割多重方式)等の「時間制御されるモード」を採用する動機付
けがそもそも存在しない。
よって,審決の上記認定は誤りである。
第4被告の主張
1引用発明の認定の誤り及び相違点2の認定の誤りについて
(1)引用発明は,「任意の局が呼の送信を完了してから次に任意の局に呼の生
起するまでの間隔が1/Nλであるような状態」である「低負荷状態」では
ほぼ送信待ち時間なしでデータの伝送を行うことができ,「呼の送信終了と
同時に次の呼が生起するような状態」である「高負荷状態」でも有効フレー
ム平均待ち時間WHTが無限大とならずに有限な値となるように,CSMA/
CDアクセス制御手順からトークンパッシングアクセス制御手順に切り替え
るものであるから,当該切替えは「待ち時間」を意識したものであることは
明らかである。そして,「キャリアの衝突回数が予め設定してある回数Cに
達していない低負荷時」は「バスシステムの負荷」に関するものであり,当
該切替えに係る負荷状態をキャリアの衝突回数により推定していることは明
らかである。すなわち,「キャリアの衝突回数が予め設定してある回数Cに
達していない低負荷時」が,「任意の局が呼の送信を完了してから次に任意
の局に呼の生起するまでの間隔が1/Nλであるような状態」である「低負
荷状態」を推定しているといえる。更にいえば,引用発明の目的,解決しよ
うとする課題に照らせば,そのような「低負荷状態」は平均有効待ち時間が
許容できる間ともいえるから,バスシステム負荷に関する現象であるキャリ
アの衝突の回数Cをアクセス制御手順の切替えの指標として「バスシステム
の負荷に従って予め設定される待ち時間が保証できる間」を推定していると
いうことができる。
(2)審決は,同様に,「呼の送信終了と同時に次の呼が生起するような状態」
である「高負荷状態」,「キャリアの衝突回数が予め設定してある回数Cに
達した高負荷時」についても,明確に区別して使い分けており,「キャリア
の衝突回数が予め設定してある回数Cに達した高負荷時」が,「呼の送信終
了と同時に次の呼が生起するような状態」である「高負荷状態」を推定して
いるといえる。
(3)以上のとおりであるから,引用発明の認定に関して「キャリアの衝突回数
が予め設定してある回数Cに達していないことで類推される低負荷時に
は,」,「キャリアの衝突回数が予め設定してある回数Cに達したことで類
推される高負荷時には,」とすべきであったとか,相違点2の認定に関して
「『バスシステム負荷が低い状態の間』が…引用発明では『キャリアの衝突
回数が予め設定してある回数Cに達していないことで類推される低負荷時』
である」とすべきであったとの原告の主張は,いずれも誤りであり,衝突回
数Cとバスシステムの負荷を一義的に捉えているとの前提に基づく原告の主
張は失当である。
2一致点の認定の誤りについて
(1)本願発明は,「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセ
スが行われる事象指向」と「時間制御されるモード」とがどのように切り替
えられるかは構成要件としていないから,本願発明は「事象指向」と「時間
制御されるモード」を各加入者が個別かつ同時に切り替えることができると
の原告の主張は,本願発明の構成に基づかない主張であり,失当である。
(2)そして,本願明細書の「特に分配されて作動するバスシステムにおいては,
通信システムの全ての加入者は,しきい値を認識し,従って危機的な状態を
同時に認識することができる。しかし,特にマスター加入者を有する通信シ
ステムにおいては,危機的な状態が単に1つの加入者によって,あるいは幾
つかの選択された加入者によって検出されることもできる。」(【001
4】)及び「1つには,移行を明示的なメッセージによって作動させること
ができる。このメッセージは,最高順位の加入者によって送信される。この
加入者が明示的なメッセージを送信しない場合には,次に高い優先順位を有
する加入者がこのタスクを引き受けなければならない。」(【0022】)
の記載によれば,本願発明は,「分配されて作動するバスシステム」である
ことも構成要件としていないから,必ずしも「事象指向」と「時間制御される
モード」が各加入者が個別かつ同時に切り替えることができるとはいえず,
切替えに係る信号を他の加入者から受信することを包含するものと解される。
一方,引用例の「通常のジャム信号より長い接続時間をもつジャム信号で
あるトークンパッシング切替信号を送信制御部4に出力する」(【003
7】)との記載によれば,LAN用バス上に送信されるトークンパッシング
選択信号はジャム信号(ジャミング信号)であると解するのが自然である。
したがって,たとえキャリアの衝突が頻繁に検出される状況下であっても,
ジャム信号であるトークンパッシング選択信号が送信できないとか,そのた
め切替えに時間がかかるとかいうことは,技術常識に照らして起こらないは
ずである。
(3)よって,原告の主張は失当であり,本願発明と引用発明とは,少なくとも
審決が一致点とした構成に関して差異はない。
3相違点2の判断の誤りについて
(1)「特定の事象指向」に係る相違点について
原告の主張は以下のとおり失当であり,事象指向のアクセス制御手順とし
て様々な態様が知られるところ,例えば車両用のバスシステムでは送信され
るデータに優先関係が存在することから,「優先順位に基づいて前記バスシ
ステムへの一義的なアクセスが行われる事象指向」を採用することは,適宜
選択する程度の事項にすぎない。したがって,審決には原告が主張するよう
な誤りはない。
ア原告の主張(1)アについて
審決は,「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセス
が行われる事象指向」では最優先度のデータを送信する利用者には待ち時
間が保証されることを前提として,「事象指向のアクセス制御手順は,い
ずれも,…バスシステム負荷が大きい場合に最悪の場合において全ての利
用者に有限の最大待ち時間を保証できないという共通の特徴を有している
ことは当業者における技術常識である。」と認定判断している。したがっ
て,審決が,「全ての利用者に有限の最大の待ち時間を保証できる」こと
の否定の意味で「全ての利用者に有限の最大待ち時間を保証できない」の
表現を用いていること,「誰一人に対しても有限の最大の待ち時間を保証
できない」ことの意味で「全ての利用者に有限の最大待ち時間を保証でき
ない」の表現を用いているのではないことはいずれも明らかであり,審決
の上記認定判断に誤りはない。
また,本願発明と引用発明とは,①ネットワークトポロジーがバス型で
あるLANにおけるデータ交換方法である点において発明の属する技術分
野が同じであり,②バスシステムを介して互いに接続されている複数の加
入者間のデータ交換を,一方では通常の場合においてメッセージの送信が
より少ない待ち時間で高い確率で可能であって,他方では最悪の場合にお
いて有限の最大待ち時間を保証することが可能な新規かつ改良されたデー
タ交換方法等を提供することを目的とする点において解決課題が同じであ
り,③バスシステムの負荷が比較的少ない通常の場合においては,データ
が含まれるメッセージを即座に又は極めて短時間内に送信できるように事
象指向のプロトコルを採用し,他方の場合においては,最悪の場合におい
ても有限の最大待ち時間でメッセージを送信することができる決定論的な
プロトコルを採用するという点において課題解決手段が同じであり,そし
て,④通常の場合においては,バスシステムへ迅速にアクセスでき,少な
い待ち時間でメッセージの伝送が可能であるという効果を維持しつつ,最
悪の場合においては,メッセージが伝送されるまでの最大の待ち時間が保
証されるという点において効果も同一である。よって,「優先順位に基づ
いて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指向」と,
「CSMA/CDアクセス制御手順を用いたデータ伝送」とは,その目的
及び解決しようとする課題,効果が異なるとの原告の主張は失当である。
イ原告の主張(1)イについて
引用発明は,高負荷状態が推定される高負荷時には事象指向のCSMA
/CDアクセス制御手順ではなく決定論的であるトークンパッシングアク
セス制御手順によるデータ伝送が行われるから,「優先順位に基づいて前
記バスシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指向」の高負荷状態
における欠点は,動機付けに関して影響するものではない。
ウ原告の主張(1)ウについて
CSMA通信方式に例示される事象指向のアクセス制御手順としては
様々な態様が知られるところ,いずれを採用するかは送信されるデータの
特性や適用するシステムの特徴等に応じて適宜選択されるものであり,事
象指向ではたとえバスシステムの負荷が低い状態でも衝突の確率はゼロで
はないことから,送信されるデータに優先関係が存在する場合,優先度の
高いデータが確実に送信される確率が高くなるように,「優先順位に基づ
いて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指向」を採用
することは,普通に行われていることにすぎない。そして,一定の課題を
解決するために均等物による置換,技術の具体的適用に伴う設計変更など
は,当業者の通常の創作能力の発揮であり,「低負荷状態では迅速に送信
できる」という共通の効果を有する周知の手法が複数ある場合,種々の長
所・短所を総合的に判断するなどして適用するシステムに最適なものを選
択することはシステムを具体的に設計するに当たり当業者が当然行うこと
にすぎないから,引用例に各端末装置が送信するデータに優先順位を付与
することが記載されていないことは,容易想到性に関して何ら影響するも
のではない。
エ原告の主張(1)エについて
原告の主張する,バスシステムの負荷が低い状態において優先順位に従
って待ち時間が保証されるという本願発明の効果は,「通常の場合におい
てはバスシステムへ迅速にアクセスでき,少ない待ち時間でメッセージの
伝送が可能であるという効果を維持しつつ,最悪の場合においてはメッセ
ージが伝送されるまでの最大の待ち時間が保証される」という,本願発明
の解決しようとする課題に対する効果とは直接関係するものではなく,デ
ータに優先関係がある場合における優先度の高いデータを確実に送信した
いという課題に対応する効果であるところ,そのような課題に対して優先
度に基づく事象指向を採用することは周知であるから,本願発明の「事象
指向」の効果は容易想到性の判断に何ら影響するものではない。
(2)「バスシステム負荷が低い状態の間」に係る相違点について
原告の主張は以下のとおり失当であり「『伝送すべき各メッセージが前記
加入者の送信意図と実行された加入者の送信プロセスとの間に経過する予め
設定される待ち時間が保証できる間』の点で両者に実質的な相違はない。」
との審決の判断に誤りはない。
ア原告の主張(2)アについて
審決は,衝突回数Cとバスシステムの負荷を一義的に同一のものと捉え
ていないから,原告の主張は,その前提からして失当である。
また,本願発明は「前記バスシステムの負荷に従って,…予め設定され
る待ち時間が保証できる間は」と規定するのみであり,バスシステムの負
荷が何により規定されるものかは特定していない。さらに,本願発明の実
施例の一つである「直接連続するメッセージの数」は,各メッセージのデ
ータ量の大小により必ずしも「どれだけバスを通信データが占有したか」
を反映しないから,原告の主張(2)アは失当である。
さらにいえば,本願発明も引用発明も,「バス上を流れる単位時間当た
りのデータ量」を正確に推定することが目的ではなく,通常の場合におい
てはバスシステムへ迅速にアクセスでき,少ない待ち時間でメッセージの
伝送が可能であるという効果を維持しつつ,最悪の場合においてはメッセ
ージが伝送されるまでの最大の待ち時間が保証されるようにすることであ
るといえるから,キャリアの衝突回数が「単位時間当たりのバスシステム
上のデータ量」であるバスシステムの負荷に一対一に対応しない旨の原告
の主張は,審決の結論に影響を及ぼすものではない。
イ原告の主張(2)イについて
本願発明は,「実際にバスシステム上にデータが流れた後の単位時間当
たりのデータ量(メッセージの数)であるバスシステムの負荷を指標とし
て予め設定される待ち時間を求める」ことは構成要件としていないから,
原告の主張は本願発明の構成に基づかないものであり,失当である。
そして,引用発明は,その目的,解決しようとする課題からみて,待ち
時間を意識していることは明らかであり,「任意の局が呼の送信を完了し
てから次に任意の局に呼の生起するまでの間隔が1/Nλであるような低
負荷状態」ではほぼ送信持ち時間なしでデータの送信を行うことができ,
「呼の送信終了と同時に次の呼が生起するような状態」でも有効フレーム
平均待ち時間が有限となるようにするために,事象指向であるCSMA/
CDアクセス制御手順と決定論的であるトークンパッシングアクセス制御
手順とを切り替えるものであるから,当該切替えは「バスシステムの負荷
に従って,伝送すべき各メッセージが前記加入者の送信意図と実行された
加入者の送信プロセスとの間に経過する予め設定される待ち時間が保証で
きる間」か否かによりなされるものと解され,少なくとも引用発明のシス
テムにおいては,当該「予め設定される待ち時間が保証できる間」に係る
バスシステムの負荷状態(あるいは「予め設定される待ち時間が保証でき
る間」自体。)をキャリアの衝突回数により有効に推定し得ていることは
明らかである。
ウ原告の主張(2)ウについて
本願発明は「伝送すべき各メッセージが前記加入者の送信意図と実行さ
れた加入者の送信プロセスとの間に経過する予め設定される待ち時間が保
証できる間」と規定するのみであり,最も優先順位の低いメッセージが伝
送されるまでの待ち時間によって定められることは発明の詳細な説明をみ
ても記載も示唆もされていない。
本願発明の実施例によれば,「予め設定される待ち時間が保証できる
間」は,中断されない時間的負荷が時間的しきい値を上回った場合又は直
接連続して伝送されるメッセージの数が時間的しきい値を上回った場合に
より推定することを含むものであり,これらは優先度の高低と直接関係す
るものではないから,原告の主張は当を得ないものである。
エ原告の主張(2)エについて
本願発明の「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセ
スが行われる事象指向」でも,事象指向である以上,複数の装置が同時に
送信することにより衝突が生じ,比較的優先度が高くても衝突相手より優
先度の低い方は再送信が成功するまで待ち時間が生じるものであるから,
当該待ち時間の保証は,あくまで確率論的に論じられる「衝突によってラ
ンダムに発生する待ち時間の保証」に他ならない。
したがって,「待ち時間が保証できる間」に関して,本願発明と引用発
明が全く異なるとの原告の主張は失当である。
4相違点3の判断の誤りについて
引用例には,「トークンパッシングアクセス制御手順を主として用いる」こ
とは記載も示唆もされておらず,一般に,当業者は高負荷状態が頻発するよう
なシステム設計はしないため,通常は低負荷状態がほとんどであるようなこと
が多いと解するのが自然であるから,当該アクセス制御手順を主として用いる
ことは自明でもない。高負荷時において何ら欠点のないトークンパッシングア
クセス制御手順の代わりにTDMA方式等の「時間制御されるモード」を採用
する動機付けが存在しないとの原告の主張は,引用例全体の記載からみて,失
当である。
また,車両用LANにおける通信方式として,CSMA/CD方式,トーク
ンパッシング方式のほか,TDMA方式も周知慣用のありふれたものである。
そして,伝送遅延を補償するリアルタイムデータ伝送用プロトコルとしてTD
MA方式とトークンパッシング方式とは代替可能であることは当業者によく知
られており,一定の課題を解決するために均等物による置換,技術の具体的適
用に伴うコストや制御の容易性等を勘案した設計変更などは,当業者の通常の
創作能力の発揮であるから,「最悪の場合でも有限の待ち時間を保証できる」
という共通の効果を有する公知の決定論的なアクセス制御手順として「トーク
ンパッシングアクセス制御手順によるデータの伝送」に代えてTDMA方式等
の「時間制御されるモード」を採用することは単なる設計変更であるとした審
決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,以下のとおり,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,
審決に取り消されるべき違法はないと判断する。その理由は次のとおりである。
1引用発明の認定の誤り及び相違点2の認定の誤りについて
(1)引用例(甲1)には,以下の記載がある。
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はバス型LAN(ローカルエリアネットワー
ク)に関し,特にトークンパッシング方式とキャリヤ
(ママ)
検知多重アクセス/
衝突検出方式の2種類のアクセス制御手順を必要に応じて切替えて相互間の
通信を行うバス型LANに関する。
【0004】CSMA/CDアクセス制御手順を使用したLANにおいては,
LAN用バス5に接続された複数台の端末装置50~Nのそれぞれは,LA
N用バス5上のキャリアの有無,すなわち,他の端末装置の何れかがフレー
ムを送信しているか否か,を検出する。もしキャリアを検出したときはビジ
イすなわちLAN用バス5が使用中であると判断し,LAN用バス5上のキ
ャリアが検出されなくなる(アイドル状態)なる
(ママ)
まで待機し,アイドル状態
になったとき,制御状態のみまたはデータを含み,始まりと終りの識別子を
宛先と送信元アドレスをもつフレームをLAN用バス5に送出する。
【0005】LAN用バス5上をフレームが伝搬していく時間(伝搬遅延時
間)が存在するので,アイドル状態を検出した端末装置の内の1つが上のよ
うなフレームを送出したとき,他の端末装置からもフレームを送出しフレー
ムが衝突する場合を生ずる。そこで,フレームを送出する端末装置は,衝突
の有無を監視し,衝突検出時は,ジャミング信号を予め定められた一定時間
送出し,衝突を他のステーショ
(ママ)
に連絡したのち通信を中断する。次いで,
LANを構成する端末装置それぞれに予め与えられている互いに異なる待ち
時間経過後に,LAN用バス5の監視状態から再びフレームの送信を行う。
【0006】また,トークンパッシングアクセス手順を用いたLAN用装置
においては,図3のようにLAN用バス5に接続された複数の端末装置50
~Nを特定の順序,たとえば端末装置50から始まりNまでの端末装置をこ
の順序で送信権を得ると送信要求が存在する端末装置は巡回して来たトーク
ンを捕獲し,データを含むフレームを送出してから,トークンを送出し,下
流の端末に送信権を渡す。トークンが一定時間以上巡回しなくなったことを
検出すると,通常端末装置50~Nの内の一つがLAN用バス5上の残存フ
レームを消去し,新たに上述したトークンを発生する。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】今,図3に示すN台の端末装置50からN
までに伝送されるまでの信号の伝搬遅延時間をτとすれば隣接局間の平均伝
搬遅延時間はτ/(N-1)となる。トークンフレームの保留時間をτTと
し,各局の平均局内遅延時間をτD(CSM/CD(判決注:「CSMA/
CD」の誤記と認められる。以下同じ。)アクセス制御手順の場合はτD≒
キャリア検出遅延時間,トークンパッシングアクセス制御手順の場合はτD
≒トークン検出遅延時間+トークン送出遅延時間)とする。各端末装置から
の呼の生起は,平均生起呼数密度λの準ランダム生起とし,平均保留時間を
hとする。
【0008】任意の局が呼の送信を完了してから次に任意の局に呼の生起す
るまでの間隔が1/Nλであるような状態を低負荷状態と称する。また,N
個の局全てに送信要求があり,かつ,呼の送信終了(CSMA/CDの場合
はリトライタイムアウト時も含む)と同時に次の呼が生起するような状態を
高負荷状態と称する。
【0010】まず,CSMA/CDアクセス制御手順により通信を行う場合
には,低負荷状態のときの有効フレーム平均送信待ち時間WLCは,平均生起
間隔が1/Nλであるから,送信要求の生じた端末装置はキャリアの有無を
識別するために必要な端末内遅延時間τDのみとなる,すなわち,WLC=τ
D≒(τD〈〈1/Nλ)となる。
【0011】高負荷状態での有効フレーム平均待ち時間WLCは上述した仮定
に従うと,有効なフレームの送信状態はないのでWHC=∞となる。
【0012】上述の説明から明らかなようにCSMA/CDアクセス制御手
順を用いたバス型LANでは低負荷状態では負荷フレーム平均待ち時間は殆
んど0で,即時にフレームの送出を開始することができるが,高負荷状態に
おいてはフレームの衝突/再送を繰り返し,有効フレーム平均待ち時間が急
激に増大して,フレームの転送が不能となるという欠点を有している。
【0030】従って,トークンパッシングアクセス制御手順を用いるLAN
においては,高負荷状態では有効フレーム平均待ち時間は有限な値WHTをも
ち,平均してWHT時間後には端末装置からデータを送信することができるが,
低負荷状態でもWLTなる有効フレーム平均待ち時間を要するため,低負荷状
態においてはCSM/CDアクセス制御手順を用いるLANのように上述し
た待ち時間を短くすることができないと言う欠点を有する。
【0031】本発明の目的は高負荷時にはトークンパッシングアクセス制御
手順によるデータの伝送を行い,低負荷時にはCSM/CDアクセス制御手
順を用いたデータ伝送を行い従来よりも有効平均待ち時間を短かくし効率良
くデータの伝送を行うことのできるバス型LANを提供することにある。
【0035】ネットワーク立上げ時は,CSMA/CDモードで動作するも
のとする。
【0049】このようにして,CSMA/CDアクセス制御手順により端末
装置間のデータの伝送を行っている場合にキャリアの衝突回数が予め設定し
てある回数Cに達するとトークンパッシングアクセス制御手順によるデータ
伝送に切替えて以後のデータ伝送を行う。
【0051】また,インジケータパルスの出力間隔がトークンタイマのタイ
ムアウト時間より長いとアイドル検出パルス241は出力されずトークンタ
イマの再起動が行われ第2のカウンタのカウンタ値がリセットされる。トー
クンタイマ24からアイドル検出パルス241が続いて出力され第2のカウ
ンタ22によるカウント値が予め定められた値Dに達する。すなわち,アイ
ドル状態が引続いてD回生ずると,第2のカウンタ22から第2の起動信号
がブロードキャストフレーム生成部21に出力される。
【0056】モード切替制御部3はブロードキャストフレーム検出信号23
1を受信すると,イネーブル信号32の出力を中止し,トークンパッシング
アクセス制御手順実行部2の動作を中断させ,イネーブル信号31を出力し,
CSMA/CDアクセス制御手順実行部1を動作状態とすると共に,モード
制御部4は送信制御部4にトークンパッシングモード信号を送出し,送信制
御部4の入力をトークンパッシングアクセス制御手順実行部2Aの出力側か
らCSMA/CDアクセス制御手順実行部1の出力側に切替える。
【0057】このようにして,トークンパッシングアクセス制御手順により
端末装置相互間のデータ伝送を行っているとき,アイドル状態が引き続き先
述したD回繰え
(ママ)
返されるとCSMA/CDアクセス制御手順によるデータ
伝送に切替える。
【0064】
【発明の効果】以上説明したように本発明のLANを用いることによりLA
N用バスに接続される各端末装置において低負荷時には,ほぼ送信持ち時間
なしでデータの送信を行うことのできるCSMA/CDアクセス制御手順に
よりデータの送信を行い,キャリアの衝突回数を第1のカウンタでカウント
して,予め定めた値にこのカウント値が達するとトークンパッシングアクセ
ス制御手順によるデータの送信に切り替え,トークンパッシングアクセス制
御手順でデータの送信を行っているとき第2のカウンタでカウントされるア
イドルフレームの回数が予め定められた値に達するとCSMA/CDアクセ
ス制御手順によるデータの送信に切替えることができるため,送信データの
持ち時間を従来のこの種のLANより小として効率よくデータの送信を行う
ことできるという効果を有する。
(2)上記(1)の引用例の記載によれば,引用発明は,高負荷時にはトークンパ
ッシングアクセス制御手順によるデータの伝送を行い,低負荷時にはCSM
A/CDアクセス制御手順を用いたデータ伝送を行い従来よりも有効平均待
ち時間を短くし効率よくデータの伝送を行うことのできるバス型LANを提
供することを目的として,CSMA/CDアクセス制御手順によりデータ伝
送を行っている場合にキャリアの衝突回数があらかじめ設定してある回数C
に達するとトークンパッシングアクセス制御手順によるデータ伝送に切り替
えるとともに,トークンパッシングアクセス制御手順によりデータ伝送を行
っているときにアイドル状態が引き続きD回繰り返されると,CSMA/C
Dアクセス制御手順によるデータ伝送に切り替える発明が記載されていると
認められる。
そうすると,審決が,引用発明を
「バス型LANを介して相互に接続されている少なくとも2つの端末装置相
互間におけるデータ送信方法であって,
前記データは,前記端末装置から前記バス型LANを介して伝送されるフ
レーム内に含まれており,
キャリアの衝突回数が予め設定してある回数Cに達していない低負荷時に
は,前記データは事象指向であるCSMA/CDアクセス制御手順を用いた
データ伝送で前記バス型LANを介して伝送され,
キャリアの衝突回数が予め設定してある回数Cに達した高負荷時には,前
記データは決定論的であるトークンパッシングアクセス制御手順によるデー
タの伝送で前記バス型LANを介して伝送される,
複数の端末装置相互間のデータ送信方法。」
と認定したことに誤りはない。
(3)原告は,引用発明については,「キャリアの衝突回数が予め設定してある
回数Cに達していないことで類推される低負荷時には,前記データは事象指
向であるCSMA/CDアクセス制御手順を用いたデータ伝送で前記バス型
LANを介して伝送され,」,「キャリアの衝突回数が予め設定してある回
数Cに達したことで類推される高負荷時には,前記データは決定論的である
トークンパッシングアクセス制御手順によるデータの伝送で前記バス型LA
Nを介して伝送される」と認定すべきであり,相違点2に関しては,「『バ
スシステム負荷が低い状態の間』が…引用発明では『キャリアの衝突回数が
予め設定してある回数Cに達していないことで類推される低負荷時』であ
る」と認定すべきであると主張する。
この点,引用発明において,アクセス制御手順を切り替える「キャリアの
衝突回数があらかじめ設定してある回数Cに達する」ことと,引用例におい
て「高負荷状態」と記載される「N個の局全てに送信要求があり,かつ,呼
の送信終了(CSMA/CDの場合はリトライタイムアウト時も含む)と同
時に次の呼が生起するような状態」(【0008】)とは,同一の状態とい
うことはできないものの,「高負荷状態においてはフレームの衝突/再送を
繰り返し,有効フレーム平均待ち時間が急激に増大して,フレームの転送が
不能となる」(【0012】)のであるから,「低負荷状態」から「高負荷
状態」に近づくにつれて,バス上においてキャリアの衝突回数が増大するこ
とは明らかであり,衝突回数は,バスの負荷状態を推定するための指標とし
て用いられていることは明らかである。
そして,引用発明は,衝突回数があらかじめ定めた値に達して「高負荷状
態」に近づいたと推定されるときを「高負荷時」,あらかじめ定めた値に達
するまでを「低負荷時」として,アクセス制御手順をCSMA/CDアクセ
ス制御手順とトークンパッシングアクセス制御手順とに切り替えるものであ
るから,「キャリアの衝突回数が予め設定してある回数Cに達していない低
負荷時には,前記データは事象指向であるCSMA/CDアクセス制御手順
を用いたデータ伝送で前記バス型LANを介して伝送され,キャリアの衝突
回数が予め設定してある回数Cに達した高負荷時には,前記データは決定論
的であるトークンパッシングアクセス制御手順によるデータの伝送で前記バ
ス型LANを介して伝送される,」との審決の引用発明の認定に誤りはない
(この点に関する原告の上記主張は,審決の上記認定に誤りがあるとする理
由にはならない。)。
2一致点の認定の誤りについて
(1)原告は,引用発明においては各端末装置が個別にCSMA/CDアクセス
制御手順からトークンパッシングアクセス制御手順への切替えを行うことが
できないのに対し,本願発明においては,各加入者が瞬時かつ同時に「事象
指向」と「時間制御されるモード」とを個別に切り替えることができ,モー
ドの切替えを引用発明よりも大幅に短い時間で行うことができるという特有
の効果を奏すると主張する。
(2)しかしながら,本願発明は,「前記バスシステムの負荷に従って,伝送す
べき各メッセージが前記加入者の送信意図と実行された加入者の送信プロセ
スとの間に経過する予め設定される待ち時間が保証できる間は,前記データ
は優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われる事
象指向でバスシステムを介して伝送され,他の場合には,前記データは時間
制御されるモードでバスシステムを介して伝送される,」と特定されている
ものの,「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行
われる事象指向」と「時間制御されるモード」をどのように切り替えるのか
については,特定されていない。
(3)また,本願明細書(甲2)には,「…特に分配されて作動するバスシステ
ムにおいては,通信システムの全ての加入者は,しきい値を認識し,従って
危機的な状態を同時に認識することができる。しかし,特にマスター加入者
を有する通信システムにおいては,危機的な状態が単に1つの加入者によっ
て,あるいは幾つかの選択された加入者によって検出されることもでき
る。」(【0014】),「通信システムの全ての加入者は,危機的な状態
を同時かつエラー許容で検出することができるので,事象指向されるデータ
伝送から決定論的なデータ伝送の移行自体とその反対の移行も,同時にエラ
ー許容されて実行することができる。なお,移行については,複数の可能性
がある。」(【0021】),「1つには,移行を明示的なメッセージによ
って作動させることができる。このメッセージは,最高順位の加入者によっ
て送信される。この加入者が明示的なメッセージを送信しない場合には,次
に高い優先順位を有する加入者がこのタスクを引き受けなければならない。
…例えば,CAN-バスシステムにおいて実現されているような,ビット調
停においては,好適なメッセージを送信してよい,n個の加入者が存在し,
その場合にnはエラー許容レベルも特徴づけている。…通信システム内で危
機的な状態が検出された後に,加入者の各々は,明示的なメッセージを送信
しようとしなければならない。…」(【0022】),「他の可能性は,危
機的状態の存在に関する通信システムの加入者の暗示的な報告である。その
場合に危機的な状態の検出がすでに,データ伝送の切り替えをもたらす。全
ての通信コントローラは,事象指向のデータ伝送から決定論的なデータ伝送
へ切り替え,その後危機的な状態(エラー許容)が発見されるとすぐに,そ
の後のデータ伝送のためにそれに応じたプロトコルを利用する。…」(【0
023】)との記載があり,本願発明の実施例としても,事象指向されるデ
ータ伝送から決定論的なデータ伝送への移行とその反対の移行については複
数の可能性があるとされ,①最高順位の加入者(又は,次に高い順位の加入
者,あるいはn個の加入者)によって送信される明示的なメッセージによっ
て移行させる態様と,②それぞれの通信コントローラ(加入者)が,危機的
な状態の検出をすると,事象指向のデータ伝送から決定論的なデータ伝送に
切り替える態様とが記載されているから,本願発明は,これらの複数の態様
を含むものであると認められる。
よって,上記原告の主張は,本願発明の構成に基づくものではなく,採用
することができない。
3相違点2の判断の誤りについて
(1)「特定の事象指向」に係る相違点について
原告は,審決が「事象指向のアクセス制御手順は,…バスシステム負荷が
大きい場合に最悪の場合において全ての利用者に有限の最大待ち時間を保証
できないという共通の特徴を有していることは当業者における技術常識であ
る。」「引用発明の『CSMA/CDアクセス制御手順を用いたデータ伝
送』に代えて,同じ特徴を有し,事象指向のアクセス制御手順としてもあり
ふれている『優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが
行われる事象指向』を採用することは,当業者が適宜選択する程度の事項に
過ぎないといえる。」と認定したのは誤りであると主張する。
ア事象指向のアクセス制御手順について
公知文献には,事象指向のアクセス制御手順について,以下の記載があ
る。
(ア)「図解情報通信ネットワークの基礎〔第2版〕」(乙2)
「LANのアクセス方式は,大きくCSMA/CD方式,トークンパッ
シング方式およびTDMA方式の3つに分けられる。」(202頁下か
ら3行目ないし2行目)
「(b)動作原理
CSMA/CD方式の動作原理を…に示す。①データを送信しようと
するノード(端末)はバスが空き状態であることを確認し,フレームパ
ケットをバス上に送出する。②各ノードはパケット信号のアドレスを常
に監視し,これが自分宛のパケットであれば取り込む。③パケットを受
信したノードはCRC方式により誤りチェックを行い,誤りがなければ,
情報フィールドからLLCデータを取り出す。
(c)衝突検出と再送制御の方法
複数のノードから同時にパケットが送出されると,バス上でパケット
どうしの衝突(混信)が発生する。CSMA/CD方式では衝突を検出
する(衝突検出)と,ある一定の遅延時間をおいて再びパケットをバス
上に送信し,再送を行う(再送制御)。…衝突を検出すると,端末B,
Cに対しそれぞれ異なった時間遅れ(バックオフ時間)を設定して,再
送指示を行う。端末B,Cはそれぞれ決められたバックオフ時間後にパ
ケットを再送し,再度の衝突を回避する。再送は最大16回まで繰り返
され,16回の試行がすべて失敗したときは異常終了となる。」(20
4頁20行目ないし205頁6行目)
(イ)特開平3-16346号公報(甲8)
「ここで,ローカルバス上へのアクセス権を制御するためのコンテンシ
ョンシステムという用語はCSMA/CA(アクセス/衝突/回避),
CSMA/CR(搬送波検出多重アクセス/衝突分解)もしくはCSM
A/CD(搬送波検出多重アクセス/衝突検出)タイプのうちの一つの
プロトコルもしくはそれと類似のプロトコルを意味するものと解すべき
である。」(4頁左下欄12行目ないし19行目)
「同じローカルバスに接続されたデータ伝送端末はCSMA/CA,C
SMA/CR,CSMA/CDあるいはそれと類似のタイプのコンテン
ションシステムに従ってそのバス上に伝送することによって同バスに対
する衝突を防止したりそれらを収容したりすることができる。」(6頁
左下欄2行目ないし7行目)
(ウ)特開2000-183925号公報(甲9)
「【0003】送信データの破壊を防ぐための手法としては,各データ
通信装置がデータを送信する前に通信媒体を観測し,他のデータ通信装
置が送信したデータが通信媒体上にある場合にはデータ送信を行わない
ようにしてデータの衝突を回避するCSMA(CarrerSenseMultiple
Access)方式や,データ送信中においてもデータ衝突を検出するために
通信媒体を観測し,データ衝突を検出した場合にはその時点でデータ送
信を中止する機能をCSMA方式に付加したCSMA/CD(CarrerS
enseMultipleAccesswithCollision)方式,あるいは,送信データ
の内容やデータ送信装置毎に送信の優先度を規定しておき,通信媒体上
でデータの衝突が生じた際には,優先度の高い送信データを優先的に送
信するアービットレーション方式等が一般的であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで,CSMA方式を採用したデ
ータ通信装置において,通信媒体上にデータが送信されていないことを
確認してからデータ送信を開始するまでにかかる時間は各データ通信装
置により差がある。このため,データ送信を開始するまでの時間が短い
データ通信装置ほど優先的にデータ送信が可能になり,データ送信を開
始するまでの時間が長いデータ通信装置ほどデータ送信の機会を得にく
かった。したがって,データ送信を開始するまでの時間が短いデータ通
信装置のデータ送信頻度が高くなった場合に,データ送信を開始するま
での時間が長いデータ通信装置は,いくら待ってもデータを送信するこ
とができないという問題があった。
【0005】また,アービットレーション方式を採用した場合には,上
述したようにデータ送信の優先度が送信データの内容やデータ通信装置
によって固定されている。このため,優先度の高いデータの送信頻度が
高くなった場合にはこのデータが優先的に送信され,優先度の低いデー
タはいくら待っても送信の機会を得ることができないという問題があっ
た。」
(エ)特開平4-299629号公報(甲10)
「【0011】
【実施例】以下,図面を参照しながら本発明の実施例について詳細に説
明する。以下に説明する実施例は,本発明を車両用の多重伝送方法であ
っていわゆるCSMA/CD-AMP方式と称されるネットワークアク
セス方法を採用したものに適用した例である。ここでCSMA(Carrer
SenseMultipleAccess)とは,各通信ノードが送信要求発生時に伝送路
の空きを確認して送信を行なう方式を意味し,CD(Collision
Detection)とは,各通信ノードは伝送路の送信信号を監視し,信号の衝
突を検出すると再送制御を行なう方式を意味し,AMP(Arbitration
onMessagePriority)とは,信号の衝突時に優先度の高いメッセージは
壊れないでそのまま送信される方式を意味する。」
イ検討
(ア)上記各文献の記載に照らすと,事象指向のアクセス制御手順には,各
通信ノードが送信要求発生時に伝送路の空きを確認して送信を行うCS
MA方式や,かかる機能に加えて各通信ノードが伝送路の送信信号を監
視し,信号の衝突を検出すると再送制御を行うCSMA/CD方式,優
先度の高い送信データを優先的に送信するCSMA/CD-AMP方式
のようなアービットレーション方式等が一般的に用いられることは,い
ずれも当業者に認識されているということができる。
そして,CSMA方式は,データ送信を開始するまでの時間が短いデ
ータ通信装置ほど優先的にデータ送信が可能になり,データ送信を開始
するまでの時間が長いデータ通信装置は,いくら待ってもデータを送信
することができないという課題があること,アービットレーション方式
には,優先度の高いデータの送信頻度が高くなった場合には,優先度の
低いデータはいくら待っても送信の機会を得ることができないという課
題があることから,これらの方式は,優先的に行われるデータ送信につ
いては即時に行われる一方,いくら待ってもデータを送信することがで
きないデータが存在し得る,という類似する課題を有することも,当業
者によって知られているというべきである。
そうすると,事象指向のアクセス制御手順においては,データ送信を
開始するまでの時間が短いデータ通信装置や最優先の利用者に対して,
有限の最大待ち時間を保証できるということはいえるものの,「全ての
利用者に有限の最大待ち時間を保証できる」とはいえないという共通の
課題があり,このことは,当業者の技術常識であると認められる。
(イ)そして,これらの事象指向のアクセス制御手順のうちいずれを採用す
るかは,送信されるデータの特性や適用されるシステムの特徴等に応じ
て適宜選択されるべきものといえ,実際にも,車両用のバスシステムに
おいては,優先順位に基づいてアクセス制御が行われるCSMA/CD
-AMP方式を用いることが通常行われていると認められるから,引用
発明における事象指向であるCSMA/CD方式に代えて,本願発明の
「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われ
る事象指向」を採用することは,特段の示唆を待つまでもなく,当業者
にとって容易に想到できるものであるということができる。
(ウ)審決は,「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセ
スが行われる事象指向」を含む「事象指向のアクセス制御手順」につい
て,「バスシステム負荷が大きい場合に最悪の場合において全ての利用
者に有限の最大待ち時間を保証できないという共通の特徴を有してい
る」としていることからすれば,「全ての利用者に有限の最大待ち時間
を保証できない」とは,「全ての利用者に有限の最大の待ち時間を保証
できる」とはいえないとの趣旨であると解されるから,上記(ア)によれ
ば,かかる審決の認定に誤りはない。
また,上記(イ)によれば,引用発明の「CSMA/CDアクセス制御
手順を用いたデータ伝送」の構成に代えて「優先順位に基づいて前記バ
スシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指向」を採用すること
は当業者が適宜選択する程度の事項にすぎない旨の審決の認定も,誤り
とは認められない。
ウ原告の主張について
(ア)原告は,「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセ
スが行われる事象指向」と,「CSMA/CDアクセス制御手順を用い
たデータ伝送」とは,その目的及び解決しようとする課題が異なり,効
果も全く異なると主張するが,事象指向のアクセス制御手順が共通の特
徴を有し,類似する課題があることは前記イ(ア)のとおりである。
(イ)原告は,CSMA/CDアクセス制御手順の代わりに「優先順位に基
づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指向」を
採用した場合,高負荷時に優先順位の低いデータの待ち時間が無限に長
くなるため,有効平均待ち時間を低減できない上に,待ち時間が無限に
なるデータが発生してしまうから,引用発明のCSMA/CDアクセス
制御手順に代えて「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的な
アクセスが行われる事象指向」を採用する動機付けはないと主張する。
しかし,引用発明においては,高負荷状態が推定される高負荷時には
決定論的であるトークンパッシングアクセス制御手順によるデータ伝送
が行われるから,「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的な
アクセスが行われる事象指向」の高負荷状態における欠点が,上記の動
機付けに影響するとはいい難いし,「優先順位に基づいて前記バスシス
テムへの一義的なアクセスが行われる事象指向」に原告の指摘する課題
があるとしても,かかる課題はCSMA/CDアクセス制御手順におい
ても共通しており,一方で,事象指向のアクセス制御手順のうちいずれ
を採用するかは,送信されるデータの特性や適用されるシステムの特徴
等に応じて適宜選択されるべきものといえるのは前記のとおりであるか
ら,原告の指摘する事情が,引用発明のCSMA/CD方式に代えて
「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われ
る事象指向」の構成を採用するに当たっての阻害事由になるとは認めら
れない。
(ウ)原告は,引用例には,各端末装置が送信するデータに優先順位を付与
することの記載も示唆もなく,技術分野の異なる本願発明の「優先順位
に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指
向」を採用する動機付けが存在しないと主張する。
しかしながら,引用発明のCSMA/CDアクセス制御手順に代えて
「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われ
る事象指向」を採用することが,特段の示唆がなくても当業者にとって
容易想到であるといえるのは前記のとおりである。また,引用発明と本
願発明は,バスシステムに接続された端末装置間のアクセス方式という
技術分野において共通しており,送信されるデータの特性や適用される
システムの特徴等を踏まえて異なる通信方式が採用されているにすぎな
いから,両発明について上記の容易想到性を否定すべき技術分野の違い
があるとはいえない。
(エ)原告は,「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセ
スが行われる事象指向」は,バスシステムの負荷が低い状態において,
優先順位に従って待ち時間が保証されるため,CSMA/CD方式のよ
うに全ての端末装置から送信されるデータに衝突による待ち時間が発生
することがなく,同方式からは到底得ることのできない効果を奏するも
のであると主張する。
しかしながら,CSMA/CD方式に代えて「優先順位に基づいて前
記バスシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指向」を採用する
ことが当業者にとって容易に想到できるものであるということができる
ことは前記のとおりであり,これにより当業者の予期することのできな
い顕著な効果が奏されるとまでいうことはできない。
エ小括
以上によれば,「特定の事象指向」に係る相違点2に関する原告の主張
は,理由がない。
(2)「バスシステム負荷が低い状態の間」に係る相違点について
原告は,審決が,本願発明や引用発明における「バスシステム負荷が低い
状態の間」とは「『伝送すべき各メッセージが前記加入者の送信意図と実行
された加入者の送信プロセスとの間に経過する予め設定される待ち時間が保
証できる間』の点で両者に実質的な相違はない。」と認定したのは誤りであ
ると主張する。
ア検討
引用発明において,キャリアの衝突回数Cは,バスの負荷状態を推定す
る指標として用いられていること,引用発明は,衝突回数Cがあらかじめ
定めた値に達して「高負荷状態」に近づいたと推定されるときを「高負荷
時」,あらかじめ定めた値に達するまでを「低負荷時」として,アクセス
制御手順についてCSMA/CDアクセス制御手順とトークンパッシング
アクセス制御手順とに切り替えるものであることは前記1のとおりである。
そして,事象指向のアクセス制御手順には,「全ての利用者に有限の最
大待ち時間を保証できる」とはいえないという共通の課題があることが,
当業者の技術常識と考えられることは前記のとおりであるところ,前記1
(1)のとおりの引用例の記載(【0012】,【0031】及び【006
4】)によれば,引用発明は,CSMA/CDアクセス制御手順において
は高負荷状態のときに有効フレーム平均待ち時間が急激に増大してフレー
ムの転送が不能になるという欠点を有していることから,高負荷時にはト
ークンパッシングアクセス制御手順に切り替えてデータの伝送を行うこと
により,有効フレーム平均待ち時間ないしは送信データの持ち時間を従来
のLANより短くして効率よくデータの送信を行うこととしたものである。
そうすると,ここにいう「高負荷状態」とは,CSMA/CDアクセス
制御手順によった場合のデータ送信に要する時間が許容できる有限の最大
待ち時間を超える場合と同視することができ,反面,高負荷状態に至らな
い状態(キャリアの衝突回数があらかじめ設定してある回数Cに達してい
ないことにより推定される。)とは,上記「有限の最大待ち時間」を超え
ない場合と同視することができる。そして,ここにいう「データ送信に要
する時間」とは,送信すべきデータの発生から送信の完了までに経過する
時間,すなわち,「加入者の送信意図と実行された加入者の送信プロセス
との間に経過する待ち時間」を指すものと容易に理解することができるし,
「有限の最大待ち時間」があらかじめ設定されるものであることは明らか
である。
以上によれば,審決が,引用発明について,「キャリアの衝突の回数C
をアクセス制御手順の切り替えの指標として『予め設定される待ち時間が
保証できる間』を推定しているということができる。」として,「バスシ
ステム負荷が低い状態の間」とは「伝送すべき各メッセージが前記加入者
の送信意図と実行された加入者の送信プロセスとの間に経過する予め設定
される待ち時間が保証できる間」である点で引用発明と本願発明の間に実
質的な相違はないと認定したことに誤りはない。
イ原告の主張について
(ア)原告は,キャリアの衝突回数Cとバスシステムの負荷とは原理的に一
対一で対応するものではなく,キャリアの衝突回数Cからバスシステム
の負荷を求めることはできないと主張する。しかし,引用発明において,
衝突回数Cがバスの負荷状態を推定する指標として用いられており,審
決が衝突回数Cとバスシステムの負荷を一義的に捉えているのではない
ことは,前記1のとおりであるから,原告の上記主張は,審決の認定に
誤りがあるとする理由にはならない。
(イ)原告は,本願発明のバスシステムの負荷とは,「単位時間当たりのバ
スシステム上のデータ量(メッセージの数)」に対応するから,引用発
明の衝突回数Cとは全く異なる指標・概念であると主張する。
しかるに,引用発明において,「データを伝送しようとして衝突が生
じている状況」は,実際にデータが伝送される量の多寡はともかく,バ
ス上にデータを伝送しようとするメッセージが多く生起する状況により
生じるものであるから,この状況をもって,バスシステムの負荷が高い
と解することが誤りであるということはできず,原告が主張するように,
引用発明の衝突回数Cが本願発明におけるバスシステムの負荷と全く異
なる指標・概念であるということはできない。
(ウ)原告は,引用発明における「低負荷時」は,キャリアの衝突回数によ
って定められるが,本願発明に係る「伝送すべき各メッセージが前記加
入者の送信意図と実行された加入者の送信プロセスとの間に経過する予
め設定される待ち時間が保証できる間」は,最も優先順位の低いメッセ
ージが伝送されるまでの待ち時間によって定められると主張する。
しかしながら,本願明細書には,「伝送すべき各メッセージ」を「最
も優先順位の低いメッセージ」と特定する記載は見当たらないし,本願
発明は,「最も優先順位の低いメッセージ」ではないメッセージであっ
ても,より優先順位の高いメッセージが存在する場合には「予め設定さ
れる待ち時間が保証できる間」か否かに応じてアクセス制御手順を切り
替えることが予定されているから,原告の上記主張を採用することはで
きない。
(エ)原告は,本願発明によれば,特に事象指向では待ち時間を保証できな
い優先順位の低いメッセージの待ち時間を保証することが可能となるの
に対し,引用発明では,高負荷時にトークンパッシングアクセス制御手
順によるデータの伝送を行った場合に,優先順位の低いメッセージの待
ち時間を保証することは何ら想定しておらず,「待ち時間が保証できる
間」については,本願発明が「優先順位に基づく待ち時間の保証」であ
るのに対し,引用発明は「衝突によってランダムに発生する待ち時間の
保証」であり,両者は全く異なると主張する。
しかしながら,本願発明においても,複数の装置が同時にメッセージ
を送信することにより衝突が生じ,このうち優先度の低いメッセージは
再送信が成功するまで待ち時間が生じるところ,各メッセージは事象指
向で伝送されることから,衝突及びこれに伴う待ち時間はランダムに発
生するものであり,このことは,引用発明と異なるものではない。
また,引用発明が採用するトークンパッシングアクセス制御手順は,
「ある端末がフリー表示のトークン(フリートークン;freetoken)を
受け取ると,その端末はトークン保持端末となりフレームを送信する権
利を得ます。トークン保持端末は,あらかじめ設定されたトークン保持
タイマがタイムアウトするか,送信データがなくなるまでデータを送信
し続けることができます。トークン保持端末は,データの送信終了後に
トークンを次の端末に渡します。このように,トークンパッシング方式
では,データを送信する権利を各端末に平等に与えることができま
す。」(「わかりやすいLANの基礎」(乙3)77頁4・3の3行目
ないし9行目)とあるとおり,各々の端末のトークン保持時間が定まっ
ていることによって,優先順位の低いメッセージであっても待ち時間が
無制限となることはないから,同方式においては優先順位の低いメッセ
ージの待ち時間を保証することは何ら想定されていないとの原告の上記
主張は理由がない。
ウ小括
以上によれば,「バスシステム負荷が低い状態の間」に係る相違点2に
関する原告の主張は,いずれも理由がない。
4相違点3の判断の誤りについて
原告は,「引用発明において『特定の決定論的アクセス制御手順によるデー
タの伝送』として『トークンパッシングアクセス制御手順によるデータの伝
送』に代えてTDMA等の『時間制御されるモード』を採用することは単なる
設計変更にすぎない。」との審決の認定は誤りであると主張する。
(1)しかるに,特開平11-205352号公報(甲6)の下記の記載に照ら
せば,通信ネットワークシステムにおけるデータの伝送遅延を補償するリア
ルタイムデータ伝送用プロトコルとしてTDMA方式とトークンパッシング
方式とが代替可能であることは,当業者の知るところであると認められるか
ら,引用発明における「トークンパッシングアクセス制御手順によるデータ
の伝送」に代えて「時間制御されるモード」であるTDMA方式を採用する
ことは,単なる設計変更にすぎず,当業者にとって容易想到であると認めら
れ,これと同旨の審決の認定に誤りはない。
「【請求項6】前記通信ネットワークシステムにおいて,前記データ伝送媒
体は有線伝送媒体によって構成され,該有線伝送媒体を介したデータ伝送に
おいて伝送遅延要求の厳しいデータ伝送に対してはTDMA方式,伝送遅延
要求の厳しくないデータ伝送に対してはCSMA/CD方式によりデータ伝
送を実行する構成としたことを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の
通信ネットワークシステム。
【請求項7】前記通信ネットワークシステムにおいて,前記データ伝送媒
体は有線伝送媒体によって構成され,該有線伝送媒体を介したデータ伝送に
おいて伝送遅延要求の厳しいデータ伝送に対してはトークンパッシング方式,
伝送遅延要求の厳しくないデータ伝送に対してはCSMA/CD方式により
データ伝送を実行する構成としたことを特徴とする請求項1乃至5いずれか
に記載の通信ネットワークシステム。」
「【0003】しかし,伝送方式で現在最もLANで使われているのは,リア
ルタイム伝送には不向きのCSMA/CD(CarrierSenseM
ultipleAccesswithCollisionDetect
ion)方式である。リアルタイムアプリケーションを利用するには,伝送
遅延が一定でなければならいが,CSMA/CD方式は,送信できる時に送
信するという考えに基づいて設計されているため,遅延の保証は不可能であ
る。このため,電子メールやファイル転送などのノンリアルタイムデータ伝
送に関しては問題は少ないが,動画像や音声などのリアルタイムデータの伝
送には向いていない。
【0004】そこで,伝送遅延の保証するため,送受信端末に伝送媒体を占
有する権利を与える方式が利用されている。例えば,時間を分割してその一
部を占有させるTDMA(TimeDivisionMultiple
Access)方式や,周波数を分割してその一部を占有させるFDMA
(FrequencyDivisionMultipleAcces
s)方式などがある。しかしながら,こうした方式は,いったん占有が始ま
ると,実際に使われていなくても占有が継続されるため,チャネルの利用効
率の無駄が生じ,また他の端末の通信機会を奪うことにもなる。一方,先に
述べたCSMA/CD方式では,こうした問題はない。」
「【0088】以上の実施例では,ノンリアルタイムデータの伝送用のプロト
コルとして,CSMA/CD方式による伝送で説明したが,伝送媒体が無線
である場合,CSMA/CD方式は使えないが,CSMA方式やALOHA
方式で同様の効果を得ることができることはいうまでもない。また,リアル
タイムデータ伝送用のプロトコルとしてトークンパッシング方式を採用して
も同様の効果が得られる。」
(2)原告は,引用発明はトークンパッシングアクセス制御手順を主として用い
るものであり,トークンパッシングアクセス制御手順の低負荷時の欠点をC
SMA/CDアクセス制御手順で補償したものであるから,高負荷時に何ら
欠点のないトークンパッシングアクセス制御手順に代えてTDMA方式等の
「時間制御されるモード」を採用する動機付けは存在しないと主張する。
しかしながら,前記1(1)の引用例の記載(【0012】及び【003
0】)によれば,引用発明は,高負荷状態におけるCSMA/CDアクセス
制御手順の欠点と,低負荷状態におけるトークンパッシングアクセス制御手
順の欠点の両者を解消することを目的とするものと解され,引用例の【00
31】の記載もこれを前提とするものと解される。そして,トークンパッシ
ングアクセス制御手順に代えてTDMA方式を採用することが単なる設計変
更の範囲内であることは前記のとおりである以上,これについて動機付けの
不存在をいう原告の主張は理由がない。
5結論
以上のとおりであり,原告の主張はいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官設樂一
裁判官田中正哉
裁判官神谷厚毅

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激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
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「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
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