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平成28年(う)第181号薬事法違反被告事件
平成28年6月24日福岡高等裁判所第1刑事部判決
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中40日を原判決の刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人堺祥子作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるか
ら,これを引用する。
1事実誤認の主張について
論旨は,要するに,被告人は,原判示の乾燥植物片(以下「本件植物片」という)
が違法な薬物を含有するという認識はなく,未必的にも故意はなかったから,被告
人の故意を肯定して,被告人が原判示の指定薬物(以下「本件薬物」という)を含
有する本件植物片を所持したと認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明
らかな事実の誤認がある,というのである。
そこで記録を調査して検討するに,被告人には本件薬物を含有する本件植物片を
所持した故意を肯認することができるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが
明らかな事実の誤認は存しない。以下その理由を説明する。
(1)原審で取り調べた各証拠によれば,平成26年8月19日,被告人に対する
脅迫の被疑事実による被告人方居室の捜索差押許可状が執行され,その際本件植物
片が発見され,被告人は,自身で購入したことを自認して,それを任意提出し(原
審甲9),その後,本件植物片が鑑定され,本件薬物の成分が検出されたことが認
められるから(原審甲8),被告人が本件薬物を含有する本件植物片を所持してい
たことは明らかである。
また,本件薬物は,平成26年7月15日公布,同月25日施行の厚生労働省令
第79号により,当時の薬事法(平成25年法律第84号による改正前のもの,現
在は法律名が「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法
律」と改正されており,同法において同じ規制がされている)2条14項に規定す
る薬物に指定された(以下「指定薬物」という)ものである。
(2)被告人は,検察官調書(原審乙8)において,任意提出当日の平成26年8
月19日,北九州市甲区内のハーブ販売店「A」で本件植物片を購入したが,その
際,販売員に合法かどうかを確認し,合法で規制がかかっていないと言われたから,
合法なものと信じていた旨供述する。
当時の薬事法は,中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用(当該作用の維
持又は強化の作用を含む)を有する蓋然性が高く,かつ,人の身体に使用された場
合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある薬物を厚生労働省令で指定して規制
し,その販売,所持,譲り受け等を禁止しており,現在もそのような規制の仕組み
に変わりはない。しかし,これらのいわゆる危険ドラッグと称される薬物は,市中
で公然と販売されており,実際,本件薬物は,平成26年6月24日の東京都豊島
区で発生した交通事故の容疑者から検出されたことを端緒に,同年7月15日に厚
生労働省令で指定薬物に指定されたものであって,本件薬物が本件当時相応に蔓延
していた可能性は否定できない。
そして,違法とされる指定薬物を公然と販売することには相応のリスクを伴うか
ら,規制回避のために同じような薬理作用がありながら成分が異なる薬物が次々に
出現していたのであり,そのため,通常は,規制の対象外の同様の薬理作用のある
薬物を販売し,指定薬物をことさら販売することは避けるものと考えられる。また,
本件薬物が指定薬物として指定されてから被告人が購入して任意提出するまでは短
期間であり,本件植物片の外観から本件薬物の含有を判断することはできないこと
を踏まえれば,被告人が購入した販売店も,本件植物片が本件薬物等の指定薬物を
含有していたことを確知してはいなかった可能性は否定できないし,たとえ販売員
が本件薬物等の指定薬物を含有する可能性を認識していたとしても,日常的に取締
りや監視が行われる中,客に対して違法である可能性を説明することは考え難い。
さらには,前記東京都豊島区での交通事故のように,危険ドラッグの危険性がしば
しば報道される中,購入者が合法性を確認しようとすることが不自然であるともい
えない。
これらを併せみれば,本件植物片を公然と販売する店舗で購入し,その際,販売
員から合法であると聞いた,という被告人の弁解を直ちに排斥することはできない。
(3)違法な薬物の所持,使用等を処罰する場合に対象物について求められる故意
は,当該薬物の薬理作用を認識しているだけでは足りず,通常は当該薬物の名称に
よって示されることになる,当該薬物を所持し,使用することが犯罪に当たると判
断できる社会的な意味を認識することが必要であり,そのような認識があって初め
て,故意の存在を認めるに足りる事実認識を肯認することができる。
この点,指定薬物は,覚せい剤等の規制薬物のように,属性が分かる周知された
名称があるわけではなく,指定薬物を指定する厚生労働省令でも,その化学的な成
分が規定されているにすぎない上,危険ドラッグを使用する者は,厚生労働省令を
参照しても,自分の使用する薬物が指定薬物を含有するかどうかを明確に把握する
ことは困難な実情にあった。
しかしながら,指定薬物は,有害な薬理作用の蓋然性と保健衛生上の危険のおそ
れから規制されているのであり,規制に反した所持,販売,譲り受け等が規制薬物
ほど重い刑罰の対象とされていなかった上,薬物が指定薬物に指定されると,類似
した薬理作用を有する規制の対象外の新たな薬物が取引されるようになり,その新
たな薬物が改めて規制の対象とされるなど,新たな薬物の出現とそれに対する規制
が繰り返され,そのことは危険ドラッグの使用者の間で十分周知されていた。
このような指定薬物の実態とそれを規制する趣旨に照らして,指定薬物の所持,
販売,譲り受け等が犯罪に当たると判断できる社会的な意味を考えると,その違法
性を客観面から根拠付ける事実は,当該薬物の薬理作用が規制の趣旨に合致してい
るかどうか,換言すると,当該薬物が規制されるに足りる薬理作用を有するかどう
かに尽きるというべきである。そうすると,当該薬物の薬理作用を認識し,そのよ
うな薬理作用があるために当該薬物が指定薬物として指定されている薬物と同様に
規制され得る同種の物であることを認識していれば,当該薬物を所持し,販売し,
譲り受けることなどが犯罪に該当すると判断できる社会的な意味の認識,すなわち
故意の存在を認めるに足りる事実の認識に欠けるところはないということができ
る。
これを本件についてみると,被告人は,危険ドラッグである脱法ハーブを吸引し
て相手に傷害を負わせた別件傷害被告事件の公判において,嫌なことが重なりイラ
イラして,どうしていいか分からないとき,現実逃避のため脱法ハーブを吸ってお
り,暴力的になるのは脱法ハーブが原因ではないかと思う旨供述している。また,
検察官調書(原審乙8)においては,本件植物片のことをハーブと称した上,ハー
ブを吸うと,身体が一気に硬直して物凄く重く感じ,気持ちも身体も強力な力で引
っ張られて持っていかれる感じがして,引っ張られていく感じを我慢していると,
体がフワーンと楽になったり,気持ちがダラーンと良く感じたり,嫌なことが忘れ
られたり,味覚や聴覚が冴えるように感じる旨供述し,体がフワーンとなるので,
自動車の運転には危なく,交通事故を起こしかねないため,ハーブを吸った後には
自動車は運転しないようにしていた旨供述している。そして,自動車を運転すると
き吸引を控えていたというのは,東京都豊島区での交通事故等の事件や事故を意識
した供述と理解できる。
そうすると,被告人は,本件植物片が,中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚
の作用や当該作用の維持又は強化の作用を有する蓋然性が高く,人の身体に使用さ
れた場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある薬物を含有していること,す
なわち,当時の薬事法によって規制しようとしていた薬理作用やその薬理作用によ
る危険性を十分認識するとともに,その薬理作用を期待して本件植物片を購入し所
持していたということができる。そして,被告人は,本件植物片がいわゆる危険ド
ラッグであることを前提に,それを購入して所持していた上,危険ドラッグの危険
性や取締りの強化は十分承知しており,そのため販売員に本件植物片の規制の有無
を確認しているのであるから,本件植物片の含有する本件薬物が,他の指定薬物と
同様に規制され得るそれらと同種の物であり,指定薬物として取締りの対象に入る
可能性を認識していたものというべきである。
したがって,被告人は,法が本件薬物を違法なものとして処罰の対象としたとこ
ろの違法の実質は十分に認識していたことは明らかである。被告人に誤認があった
としても,その誤認は,指定薬物としての指定の有無に尽きる。
(4)本件植物片の外見や使用感等からは,危険な薬物であるという認識自体は可
能であっても,指定薬物とは指定されてない同様の薬理作用のある薬物が蔓延して
いる状況下では,指定の事実自体を認識することには困難を伴う。しかし,当該薬
物が処罰の対象とされている違法の実質を十分認識している以上,当該薬物には指
定薬物として指定されていない薬物しか含有されていないと信じたことに十分合理
的な理由があるなど,特異な状況が肯定できる場合でなければ,故意が否定される
ことはないというべきである。
被告人は,原審公判において,販売員から「だんだん規制され,危ない物が入り
だしているので,これを使ってから運転はしないでください」と注意を受けたこと
があり,購入した店舗が一時閉店していたが,再度オープンした後は新しくなって
オーナーが変わったから安全だと説明されたというのであり,さらには,過去にそ
の店舗から出たところを警察官から職務質問され,そのとき所持している薬物を見
せたところ,今は規制されていないから自己責任だと言われた旨供述している。
被告人は,販売員から合法だと告げられるなどしたから合法だと信じたというの
であるが,販売員でしかない者が違法か合法かを適切に判断できる立場にないこと
も,その言葉が信頼に足りる状況にないことも,いずれも明らかであるし,取締り
の対象となって閉店した店が,再度オープンしたからといって,販売店で取り扱う
商品が合法なものと推認できないこともまた明らかである。そうすると,本件の事
実関係の下では,被告人が本件植物片には指定薬物として指定されている薬物が含
有されていないと信じたことに合理的な理由があったことなど,被告人の故意を否
定するに足りる特異な状況も認められないというべきである。
被告人が,弁解するように,指定薬物が含有されていない合法なものと誤信して
本件植物片を購入して所持していたとしても,被告人は,違法の実質を承知してい
たというべきであり,違法なものを違法だと思わなかったというにすぎず,故意の
存在が否定されることにはならない。
以上のとおりであって,原判示事実を認定した原判決の判断は結論において相当
であるというべきであり,他に所論が縷々主張するところを踏まえて検討しても,
原判決に所論の事実誤認は存しない。
論旨は理由がない。
2量刑不当の論旨について
論旨は,要するに,被告人を懲役6月に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であ
る,というのである。
そこで記録を調査して検討するに,本件は,被告人が自宅で指定薬物を含有する
本件植物片約1.467グラムを所持したという当時の薬事法(平成25年法律第
84号による改正前のもの)違反の事案である。
被告人は,本件植物片の害悪が分かっていながら,本件犯行に及んだのであって,
違法薬物に対する親和性や依存性がうかがえる。被告人は,平成15年11月に窃
盗罪で懲役1年6月,執行猶予3年に処せられ,その執行猶予期間は満了したもの
の,平成24年7月には傷害罪で懲役1年,執行猶予4年に処せられ,社会内での
更生の機会を再び与えられながら,その判決から2年余りの執行猶予期間内に本件
犯行に及んでいる。その刑事責任を軽くみることはできない。
そうすると,被告人が,本件犯行後は,暴力団関係者や薬物関係者との関係を断
ち,名古屋で新生活を始めて真面目に生活していたこと,本件で約半年にわたって
勾留されて事実上の制裁を受けていることなど,所論が被告人のために酌むべき事
情として主張する点を併せて検討しても,原判決の量刑はやむを得ないものであっ
て,これが重過ぎて不当であるということはできない。
論旨は理由がない。
3結語
よって,刑訴法396条,刑法21条,刑訴法181条1項ただし書により,主
文のとおり判決する。
検察官植田浩行公判出席
(裁判長裁判官山口雅高裁判官向野剛裁判官高橋孝治)

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