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平成12年(行ケ)第319号 特許取消決定取消請求事件
     判    決
 原 告 フマキラー株式会社
 代表者代表取締役 【A】
 訴訟代理人弁理士 浜本忠、佐藤嘉明、高橋邦彦
 被 告 特許庁長官 【B】
 指定代理人 【C】、【D】、【E】、【F】
     主    文
 特許庁が平成11年異議第71705号事件について平成12年7月17日にし
た決定を取り消す。
 訴訟費用は各自の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 主文第1項同旨の判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、名称を「エアゾール装置を用いた害虫防除方法」とする特許第2819
481号(平成2年6月13日出願、平成10年8月28日設定登録。本件発明)
の特許権者であるが、特許異議の申立てがあり、平成11年異議第71705号事
件として審理されたところ、平成12年7月17日、「特許第2819481号の
特許を取り消す。」との決定があり、その謄本は同年8月7日原告に送達された。
 2 後記訂正前の本件発明(請求項1に係る発明)の要旨
 容器内に有効成分及び噴射剤を充填してエアゾール化して成るエアゾール装置を
害虫を防除する部屋に置き、その内容物を噴射角度が55°~85°の範囲となっ
た左側の噴射口と噴射角度が55°~85°の範囲となった右側の噴射口よりほぼ
V字状に一時期に噴射するようにしたことを特徴とするエアゾール装置を用いた害
虫防除方法。
 3 決定の理由
 別紙1「決定の理由」のとおり。
 4 訂正審決の確定
 原告は、本訴係属中の平成12年9月11日、特許請求の範囲の減縮を目的とし
て明細書の訂正をすることについて審判を請求し、訂正2000-39104号事
件として審理された結果、同年12月19日、別紙2「訂正審決の理由」のとおり
の理由をもってする訂正審決があり、確定した。
 5 訂正後の本件発明(請求項1に係る発明)の要旨
 非水性の有効成分原液/噴射剤の容量比が4/6以下であって、噴霧口が直径l
mm以下のエアゾール装置を、害虫を防除する部屋に置き、その内容物を噴射角度
が55°~85°の範囲となった左側の噴射口と噴射角度が55°~85°の範囲
となった右側の噴射口よりほぼV字状に一時期に噴射するようにしたことを特徴と
するエアゾール装置を用いた害虫防除方法。
第3 原告主張の決定取消事由
 決定は、訂正前の請求項に基づき本件発明の要旨を認定し、これに基づき刊行物
1記載の発明との対比において本件発明の進歩性を否定しているが、特許請求の範
囲の減縮を目的とする訂正を認める審決が確定したことにより、結果的に本件発明
の要旨の認定を誤ったことになり、違法となったものである。
第4 当裁判所の判断
 原告主張の事由により決定は取り消されるべきものであり、本訴請求は理由があ
る。
 よって、訴訟費用の負担につき行訴法7条、民訴法62条を適用して、主文のと
おり判決する。
(平成13年3月22日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
         裁判長裁判官   永   井   紀   昭
            裁判官   塩   月   秀   平
            裁判官   橋   本   英   史
別紙1
 決定の理由
 1 引用刊行物記載の発明
 取消理由通知において引用した刊行物1(特開平1-190609号公報)に
は、「噴剤バルブは、直径0.3mm以上の噴射口を有する・・・その形状は特に
限定されない。例えば噴射口を数個とりつけたり、噴射角度を上方以外の任意の角
度に設置したり」(公報第4頁左上欄第2~7行)、試験例2に「面積16m2、
高さ2.5mの部屋で本殺虫噴射剤・・・比較した。すなわち部屋の中心を噴射点
とし」(公報第5頁右上欄下から10行~下から6行)、「試験例2と同様に、殺
虫成分、溶剤、噴射剤を・・・エアゾール容器に充填し、噴射口が上方45°の方
向へ設置されるよう・・・本発明殺虫噴射剤を得た。約40㎡の食堂で2個噴射
し」(公報第5頁右下欄第10~16行)と記載されており、これらの記載からみ
て、刊行物1には、容器内に有効成分及び噴射剤を充填してエアゾール化して成る
エアゾール装置を害虫を防除する部屋で、その内容物を噴射角度45°で2個噴射
するようにしたエアゾールを用いた害虫防除方法が記載されているものと認める。
 2 対比・判断
 本件発明と刊行物1に記載の発明を対比すると、両者は、「容器内に有効成分及
び噴射剤を充填してエアゾール化して成るエアゾール装置を害虫を防除する部屋に
置き、その内容物を噴射するようにしたエアゾール装置を用いた害虫防除方法」で
ある点で一致するが、エアゾール装置の内容物を、本件発明では、噴射角度55~
85°の範囲となった左側の噴射口と噴射角度55~85°の範囲となった右側の
噴射口よりほぼV字状に一時期に噴射するのに対し、刊行物1に記載の発明では、
噴射口を斜め上方の角度で2個噴射するものであるが、その噴射角度は45°であ
り、左側の噴射口と右側の噴射口よりほぼV字状に一時期に噴射することについて
の記載がない点で相違する。
 上記相違点について検討すると、刊行物1に記載の発明は、内容物を斜め上方に
噴射する噴射装置を2個噴射するものであって、噴射点を部屋の中心とすることも
記載されているから、部屋の中心を噴射点とし、部屋内に内容物を広く拡散させる
ように、その斜め上方という噴射方向から、それぞれの噴射装置の噴射方向を左右
対称となるように配置して噴射すること、即ち、左側の噴射口と右側の噴射口より
ほぼV字状に一時期に噴射することは当業者が容易に想到し得るものである。
 また、内容物や噴射口径等が同一条件であれば、内容物の飛散距離や有効成分降
下位置は噴射角度に依存するものであって、噴射角度を任意の角度に設置すること
も刊行物1に記載されているから、所望の飛散距離や有効成分降下位置に応じて、
噴射角度の範囲である55~85°を見いだすことは当業者が必要に応じて適宜な
し得るものである。
 そして、本件発明の効果も、側面上方へ噴射するという噴射方向からは予測し得
る範囲のものであって、格別顕著なものとは認められない。
 したがって、本件発明は、刊行物1に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものである。
 3 決定のむすび
 以上のとおり、本件発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることがで
きない。
 したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出
願に対してされたものと認める。
 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則14条
の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政
令(平成7年政令第205号)4条2項の規定により、上記のとおり決定する。
別紙2
 訂正審決の理由
 1 請求の要旨
 本件審判の請求の要旨は、特許第2819481号(平成2年6月13日出願、
平成10年8月28日設定登録)の明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のと
おり、すなわち、下記aないしbのとおり訂正することを求めるものである。
 a.特許請求の範囲の請求項1の「【請求項1】容器内に有効成分及び噴射剤を
充填してエアゾール化して成るエアゾール装置を害虫を防除する部屋に置き、その
内容物を噴射角度が55°~85°の範囲となった左側の噴射口と噴射角度が55
°~85°の範囲となった右側の噴射口よりほぼV字状に一時期に噴射するように
したことを特徴とするエアゾール装置を用いた害虫防除方法。」を
「【請求項1】非水性の有効成分原液/噴射剤の容量比が4/6以下であって、噴
霧口が直径lmm以下のエアゾール装置を、害虫を防除する部屋に置き、その内容
物を噴射角度が55°~85°の範囲となった左側の噴射口と噴射角度が55°~
85°の範囲となった右側の噴射口よりほぼV字状に一時期に噴射するようにした
ことを特徴とするエアゾール装置を用いた害虫防除方法。」と訂正する。
 b.明細書第7頁第6行~7行(特許公報第2頁第4欄第28~29行)の「容
器内に有効成分及び噴射剤を充填してエアゾール化して成るエアゾール装置を」を
「非水性の有効成分原液/噴射剤の容量比が4/6以下であって、噴霧口が直径l
mm以下のエアゾール装置を、」と訂正する。
 2 訂正審決の判断
 これらの訂正事項について検討すると、上記訂正事項aは、「容器内に有効成分
及び噴射剤を充填してエアゾール化して成るエアゾール装置を」を「非水性の有効
成分原液/噴射剤の容量比が4/6以下であって、噴霧口が直径lmm以下のエア
ゾール装置を、」に訂正するものであって、エアゾール装置の内容物及び噴射口の
口径を限定するものであるから、特許請求の範囲の滅縮を目的とするものである。
 上記訂正事項bは、発明の詳細な説明を上記aの訂正に伴って、これと整合させ
るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
 そして、上記訂正事項a、bは、願書に添付した明細書第7頁第14行~第27
頁第4行(特許公報第4欄第36行~11欄第26行)に記載の実施例では、例示
の溶剤は非水性のもので、水を添加することは記載されておらず、第21頁第13
行(特許公報第9欄21行)には「原液噴射剤の容量比としては、4/6以下が好
ましく」、第22頁第5~第6行(特許公報第9欄第32行)には「噴射口として
は、1.0mm以下が好ましく」と記載されているから、願書に添付した明細書に
記載された事項の範囲内のものであって、且つ、実質上特許請求の範囲を拡張し又
は変更するものでない。
(独立特許要件)
(a)本件発明
 訂正後における本件請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)は、その訂
正明細書の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】非水性の有効成分原液/噴射剤の容量比が4/6以下であって、噴
霧口が直径lmm以下のエアゾール装置を、害虫を防除する部屋に置き、その内容
物を噴射角度が55°~85°の範囲となった左側の噴射口と噴射角度が55°~
85°の範囲となった右側の噴射口よりほぼV字状に一時期に噴射するようにした
ことを特徴とするエアゾール装置を用いた害虫防除方法。」
(b)刊行物記載の発明
 訂正審判請求人の提示した刊行物(特開平1ー190609号公報)には、「内
容組成は殺虫原液5~20容量%、水15~30容量%、および噴射剤50~90
%の比率で配合される。」(公報第3頁右上欄第5~8行)、「噴剤バルブは、直
径0.3mm以上の噴射口を有する・・・その形状は特に限定されない。例えば噴
射口を数個とりつけたり、噴射角度を上方以外の任意の角度に設置したり」(公報
第4頁左上欄第2~7行)、試験例2に「面積16㎡、高さ2.5mの部屋で本殺
虫噴射剤・・・比較した。すなわち部屋の中心を噴射点とし」(公報第5頁右上欄
下から10行~下から6行)、「実施例 試験例2と同様に、殺虫成分、溶剤、噴
射剤を下表に示す組成にて100mlエアゾール容器に充填し、噴射口が上方45
°の方向へ設置されるよう・・・本発明殺虫噴射剤を得た。約40㎡の食堂で2個
噴射し」(公報第5頁右下欄第10~16行)と記載されており、これらの記載か
らみて、刊行物1には、「殺虫原液5~20容量%、水15~30容量%、および
噴射剤50~90%の比率で配合を充填してエアゾール化して成るエアゾール装置
を害虫を防除する部屋の中央に2個置き、その内容物を噴射角度45°で噴射する
ようにしたエアゾールを用いた害虫防除方法」が記載されているものと認める。
(c)対比・判断
 本件発明と刊行物に記載の発明を対比すると、刊行物には、本件発明の構成要件
である「非水性の有効成分原液/噴射剤の容量比が4/6以下であって、噴霧口が
直径lmm以下のエアゾール装置で、内容物を噴射角度55~85°の範囲となっ
た左側の噴射口と噴射角度55~85°の範囲となった右側の噴射口よりほぼV字
状に一時期に噴射する」ことについては記載されていない。
 すなわち、刊行物に記載のエアゾール装置は、その内容物を「殺虫原液5~20
容量%、水15~30容量%、および噴射剤50~90%」の比率で配合するもの
であるように、水を必須成分とし含有し、噴射角度は45°で噴射するものである
から、本件発明の「非水性の有効成分原液/噴射剤の容量比が4/6以下」で「噴
射角度55~85°の範囲」で噴射するものとは構成が相違する。
 そして、本件発明は、エアゾール装置を、その内容物を非水性として、その有効
成分原液/噴射剤の容量比、噴射口の口径及び噴射角度を上記のように特定するこ
とにより、「有効成分を遠くへ飛散させることができ有効成分の噴霧降下位置が拡
がり、使用できる部屋の広さも拡大し、十分な効力を発現できる。さらに、従来
は、エアゾール容量が大きく、例えば10畳あたり100mlも使用していたた
め、液化石油ガスやジメチルエーテルの如き、爆発性を有する噴射剤を多量に使用
することができず、不燃性のフロン等が用いられていたが、本発明の方法によれ
ば、噴射総量を低減することができ、前述の危険性が著しく低下し、少量で広い部
屋に使用し、十分な効力を発現できる」という明細書記載の顕著な効果を奏するも
のであるから、本件発明は、刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発
明をすることができたものでもない。
 以上のとおりであるから、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項
により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができない発明で
もない。
 3 訂正審決のむすび
 したがって、本件審判の請求は、特許法第126条1項ただし書1号及び3号に
掲げる事項を目的とし、かつ、同条2項ないし4項の規定に適合する。
 よって、結論のとおり審決する。

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