弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役拾月に処する。
     原審における訴訟費用中、証人Aに支給した分を除くその余の二分の
一、並びに当審における訴訟費用中、証人B、同Cに支給した分を除くその余は、
これを被告人の負担とする。
     公訴事実中、横領の点につき被告人は無罪。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人鍛治利一作成名義の控訴趣意書に記載されたとおりであ
るから、ここにこれを引用する。
 控訴趣意第一点について。
 原判決がその罪となるべき事実第二として、被告人が実弟D及び自己の県税に係
る滞納処分として群馬県事務吏員Cから被告人所有に係る撚糸機三台、織機三台及
び畳六枚の差押を受け、同人から右差押物件の保管を命ぜられてこれを占有中、そ
の後二回に亘り擅にBに対し、右撚糸機三台及び織機三台を売却したとの事実を認
定しこれを各刑法第二百五十二条第二項の罪に問擬していることは所論のとおりで
ある。よつて考察するのに、公法上の金銭債権たる地方税に係る滞納処分につき準
用ある国税徴収法第二十二条第一項但書には、徴税吏員が動産を差し押えこれを滞
納者をして保管せしめる場合につき「此ノ場合ニ於テハ封印其ノ他ノ方法ヲ以テ差
押ヲ明白ニスヘシ」と規定するのに対し一般私法上の金銭債権に係る強制執行とし
て執行吏が有体動産を差し押え、これを債務者の保管に任ずる場合につき、民事訴
訟法第五百六十六条第二項後段には「此場合ニ於テハ封印其他ノ方法ヲ以テ差押ヲ
明白ニスルトキニ限リ其効力ヲ生ス」と規定し、両者その立言を異にしているけれ
ども、いずれも金銭債権に係る強制執行の手段たることにおいて差押の本質を同じ
くし、彼此その取扱を異にすべき特段の合理的根拠あるを認め難いところ、後者即
ち民事訴訟法第五百六十六条第二項の場合につき、執行吏が目的物件に対し封印そ
の他差押を明白にすべき方法を施行しなかつた場合においては、法律上差押は全然
無効に帰し、債務者以外の者に対してはもとより、債務者自身に対してもその効力
を生ぜず、目的物件の占有は依然債務者に属し、たとえ執行吏が債務者にその保管
を託し、債務者がこれを承諾したとしても、これがためその差押が有効であつて該
物件の占有は執行吏に帰し、債務者は刑法第二百五十二条第二項にいわゆる自己の
物につき公務所から保管を命ぜられたものと言うを得ないから、債務者がこれを処
分するも横領罪を構成しないとすることは、夙に大審院の判例(大正十年十月四日
判決、大審院刑事判決録二七輯六二二頁参照)とするところであるから、後者即
ち、県税その他の地方税に係る滞納処分に準用あ<要旨>る国税徴収法第二十二条第
一項但書の場合についてもこれと同様に、たとえ徴税吏員において動産の差押を
す旨を告げて滞納者にこれが保管を命じ、滞納者がこれを承諾したとして
も、封印その他の方法により差押を明白にしない限り差押は法律上無効であつて、
滞納者がこれを処分するも刑法第二百五十二条第二項の横領罪を構成しないものと
解するのを相当とする。然るにこれを本件について見るのに、各差押調書には、被
告人が叙上の如く県税滞納金のため群馬県事務吏員Cから、被告人所有に係る叙上
機械類及び畳を差し押えられ、その保管方を命ぜられた旨の記載があるけれども、
右徴税吏員Cが被告人に右物件の保管方を命ずるに当り、封印その他の標識を施し
て差押を明白ならしめた事実は、右各差押調書の記載その他原判決挙示の証拠はも
とより一件記録及び当審における事実取調の結果に徴するも、これを確認するに足
りないので、右差押の効力はこれを認めるに由がないものと言わねばならない。果
して然らば、被告人が徴税吏員から保管を命ぜられた差押物件を、擅に売却して横
領したとする本件公訴事実は結局その証明なきに帰し、被告人に対しては、無罪の
言渡を為すべきであるに拘らず、原審が被告人の所為を刑法第二百五十二条第二項
の横領罪に問擬したのは、同条項の解釈適用を誤つたか、又は事実を誤認した違法
があるものであつて、この瑕疵は判決に影
響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄免れない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 三宅富士郎 判事 河原徳治 判事 遠藤吉彦)

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