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平成19年4月19日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成17年(ワ)第12207号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成19年1月22日
判決
原告山本光学株式会社
訴訟代理人弁護士辻本希世士
訴訟復代理人弁護士笠鳥智敬
松田さとみ
補佐人弁理士辻本一義
窪田雅也
神吉出
上野康成
森田拓生
被告藤田光学株式会社
訴訟代理人弁護士吉村悟
山本晋太郎
訴訟復代理人弁護士麻生英右
訴訟代理人弁理士戸川公二
補佐人弁理士中出朝夫
主文
1被告は,別紙被告物件目録(ただし,同目録添付図面第2図及び第1
4図を除く)記載の物件を販売してはならない。。
2被告は,原告に対し,72万5968円及びこれに対する平成17年
12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の,その余を被告の各負
担とする。
5この判決の第2項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙イ号物件目録記載の物件を製造し,販売してはならない。
2被告は,前項の物件を廃棄し,同物件の製造に必要な金型を除去せよ。
3被告は,原告に対し,3000万円及びこれに対する平成17年12月18
()。日訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「ゴーグル」とする後記特許権及び意匠に係る物品を
「水中眼鏡」とする後記意匠権を有する原告が,後記ゴーグルを販売する被告
,,(,の行為は上記各権利を侵害すると主張して被告に対し上記特許権ただし
請求項3を除く)又は意匠権に基づき,同物件の製造販売の差止め及び廃棄。
並びに同物件の製造に必要な金型の除去(除却)を求めるとともに,特許権侵
害又は意匠権侵害の不法行為に基づく損害賠償(訴状送達の日の翌日である平
成17年12月18日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延
損害金を含む)を請求する事案である。なお,上記特許権に基づく請求と意。
匠権に基づく請求とは,選択的併合の関係にある。
1前提事実(各項末尾に証拠を掲記したもの以外,争いがない)。
(1)当事者
原告は,眼鏡・サングラスの製造販売等を業とする株式会社である。
被告は,眼鏡の製造販売等を業とする株式会社である。
(2)原告の特許権
原告は,下記の特許権(以下「本件特許権」という。その特許請求の範囲
の請求項1の発明を「本件特許発明1,同請求項2の発明を「本件特許発」
明2,同請求項4の発明を「本件特許発明4,同請求項5の発明を「本」」
」,「」。,件特許発明5といい併せて本件各特許発明ということがあるまた
それぞれの発明に係る特許を順次「本件特許1」などといい,併せて「本件
各特許」という。なお,本判決末尾添付の本件特許に係る特許公報を「本件
特許公報」といい,その明細書を「本件明細書」という)の特許権者であ。
る。
ア特許番号第3615530号
イ出願日平成14年8月30日(特願平7−337520の分割)
ウ原出願日平成7年12月25日
エ登録日平成16年11月12日
オ発明の名称ゴーグル
カ特許請求の範囲請求項1,2,4及び5
【請求項1】
「左右一対のアイカップと,両アイカップを連結する鼻ベルトと,両ア
イカップの対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成るゴーグルにお
いて,前記アイカップと鼻ベルトとの連結を,断面略円形の棒状突起と,
該突起が相対回動可能に嵌合される係合孔とにより行なうようにし,前記
アイカップの鼻ベルト取付台部の後面に,顔面に向かって突出する棒状突
起を設け,鼻ベルトの両端部に突起係合孔を設け,前記棒状突起の先端部
に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を設け,鼻ベルト両端部
の後面に前記係止突部を係止させるようにしたことを特徴とするゴーグ
ル」。
【請求項2】
「前記鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ,後方に傾斜した鼻ベルト両
端部の後面に前記係止突部を係止させるようにしたことを特徴とする請求
項1記載のゴーグル」。
【請求項4】
「左右一対の硬質プラスチック製のアイカップと,該両アイカップを連
結する弾性材料により成形された鼻ベルトと,前記両アイカップの対向外
端部相互を接続する弾性バンドとから成り,前記両アイカップの左右対向
内側には前記鼻ベルトの取付台部が突設され,該取付台部に前記鼻ベルト
両端部が取り付けられているゴーグルにおいて,前記取付台部の後面側に
断面略円形の棒状突起が設けられ,前記鼻ベルトの左右両端部に,前記棒
,,状突起が相対回動可能に嵌合される係合孔が設けられ前記アイカップは
,,前面のレンズ部と該レンズ部の周縁から後方に突出する周壁部とを備え
前記アイカップの取付台部は,レンズ部の前面よりも前方に向かって斜め
に突出するように設けられ,前記棒状突起は,取付台部の後面に対して,
前記周壁部側において鋭角をなしていることを特徴とするゴーグル」。
【請求項5】
「前記棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になる係止突部が設け
られ,前記鼻ベルトの両端部の前後面は,前記取付台部の後面と略平行な
傾斜面に形成され,前記係合孔は該鼻ベルトの両端部の前後面に対して傾
斜して設けられ,該鼻ベルトの両端部の前面が,前記取付台部の後面に面
接触し,該鼻ベルト両端部の後面が前記係止突部に係止されていることを
特徴とする請求項4記載のゴーグル」。
(3)構成要件の分説
ア本件特許発明1及び同2を構成要件に分説すると次のとおりである以,(
下,それぞれ「構成要件A」などという。。)
【請求項1】
A左右一対のアイカップと,両アイカップを連結する鼻ベルトと,両ア
イカップの対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成るゴーグルに
おいて,
B前記アイカップと鼻ベルトとの連結を,断面略円形の棒状突起と,該
突起が相対回動可能に嵌合される係合孔とにより行なうようにし,
C前記アイカップの鼻ベルト取付台部の後面に,顔面に向かって突出す
る棒状突起を設け,
D鼻ベルトの両端部に突起係合孔を設け,
E前記棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突
部を設け,
F鼻ベルト両端部の後面に前記係止突部を係止させるようにしたことを
特徴とするゴーグル。
【請求項2】
G前記鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ,後方に傾斜した鼻ベルト両
端部の後面に前記係止突部を係止させるようにしたことを特徴とする請
求項1記載のゴーグル。
イ本件特許発明4及び同5を構成要件に分説すると,次のとおりである。
【請求項4】
H左右一対の硬質プラスチック製のアイカップと,該両アイカップを連
結する弾性材料により成形された鼻ベルトと,前記両アイカップの対向
外端部相互を接続する弾性バンドとから成り,
I前記両アイカップの左右対向内側には前記鼻ベルトの取付台部が突設
され,該取付台部に前記鼻ベルト両端部が取り付けられているゴーグル
において,
J前記取付台部の後面側に断面略円形の棒状突起が設けられ,
K前記鼻ベルトの左右両端部に,前記棒状突起が相対回動可能に嵌合さ
れる係合孔が設けられ,
L前記アイカップは,前面のレンズ部と,該レンズ部の周縁から後方に
突出する周壁部とを備え,
M前記アイカップの取付台部は,レンズ部の前面よりも前方に向かって
斜めに突出するように設けられ,
N前記棒状突起は,取付台部の後面に対して,前記周壁部側において鋭
角をなしていることを特徴とするゴーグル。
【請求項5】
O前記棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になる係止突部が設け
られ,
P前記鼻ベルトの両端部の前後面は,前記取付台部の後面と略平行な傾
斜面に形成され,
Q前記係合孔は該鼻ベルトの両端部の前後面に対して傾斜して設けら
れ,
R該鼻ベルトの両端部の前面が,前記取付台部の後面に面接触し,
S該鼻ベルト両端部の後面が前記係止突部に係止されていることを特徴
とする請求項4記載のゴーグル。
(4)原告の意匠権
ア本件意匠権
原告は,次の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本
件登録意匠」という)を有している。。
登録番号第988008号
出願日平成7年9月12日(意願平7−27031)
登録日平成9年5月2日
意匠に係る物品水中眼鏡
本件登録意匠別紙本件意匠公報のとおり
イ類似意匠
原告は,本件登録意匠を本意匠とする別紙意匠公報類似1ないし5(甲
5ないし9)記載のとおりの類似1ないし5の類似意匠(平成10年法律
第51号による改正前の意匠法〔以下「旧意匠法」という〕22条),。
の意匠権を有している(以下「本件各類似意匠」と総称し,個別に指称,
するときは「本件類似意匠1」などという。。)
(5)被告の行為
被告は,業として,平成17年4月ころから,別紙被告物件目録添付図面
第1図,第3図ないし第13図,第15図ないし第19図記載の子供用水中
(「」。,「」。)ゴーグル以下被告製品というなおその意匠を被告意匠という
を輸入し,販売していた(ただし,被告製品の構成については一部争いがあ
る。。)
(6)本件各特許発明の構成要件充足性
被告製品は,本件各特許発明の構成要件Aないし同D,同Gないし同M,
同P,同Q及び同Sを充足する。
(7)出願経過等
ア本件特許権は,原告が,平成7年12月25日にした出願(特願平7−
337520号。以下「本件親出願」という。また,本件親出願の願書に
添付された明細書を「本件親出願当初明細書」といい,本件親出願当初明
細書と,本件親出願の願書に添付した図面を併せて「本件親出願当初明細
書等」という。乙19参照)を,平成14年8月30日に分割出願した特
許発明について,平成16年11月12日に設定登録を受けたものである
(甲1。同分割出願を以下「本件分割出願」という。。)
イ本件親出願は,平成14年10月28日付け(起案日)で拒絶査定を受
け,原告は同年12月4日に審判請求をし(不服2002−23364
号,同月24日に手続補正書(乙18の2)及び本件親出願の特許請求)
の範囲を補正する手続補正書(乙18の3)を提出した。原告は,平成1
7年9月30日,本件親出願について拒絶理由通知を受けた(乙18の
8。同拒絶理由通知には,本件親出願の特許請求の範囲請求項4ないし)
7については,特許法29条2項により特許を受けることができないと記
載されていた。これを受け,原告は,同年11月9日,補正書を提出して
請求項4ないし7を削除した結果,平成18年1月6日に本件親出願につ
いて特許権の設定登録を受けた(特許第3755546号。乙18の10
・12。その特許公報は乙20。)
(8)無効審判請求
被告は,平成18年5月15日,特許庁長官に対し,本件各特許の無効審
判請求をし(無効2006−80089号事件,特許庁は,同年11月7)
日,同事件において,本件各特許をいずれも無効とする旨の審決をした(乙
67。原告は,同審決の取消しを求めて,知的財産高等裁判所に審決取消)
訴訟を提起している(甲60。)
2争点
(1)本件特許権に基づく差止請求等について
ア被告製品の技術的構成(争点1−1)
イ被告製品は本件特許発明1及び同2の各構成要件を充足するか(構成要
件E及び同Fの充足性(争点1−2))
ウ被告製品は本件特許発明4及び同5の各構成要件を充足するか
(ア)構成要件Nの充足性(争点1−3)
(イ)構成要件Rの充足性(争点1−4)
(ウ)構成要件Oの充足性(争点1−5)
エ本件各特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるか
(ア)本件分割出願は分割出願の要件に違反するか(争点1−6)
(イ)本件特許1及び同2について
a構成要件E,同F及び同Gの「係止突部」の意義は不明確であり,
特許請求の範囲が不明確である無効理由があるか(争点1−7)
()b本件特許1には実施可能要件違反の無効理由があるか争点1−8
c本件特許1には進歩性欠如の無効理由があるか(争点1−9)
d本件特許2には進歩性欠如の無効理由があるか(争点1−10)
(ウ)本件特許4及び同5について
a構成要件Nの「鋭角」の意義は不明確であり,特許請求の範囲が不
明確である無効理由があるか(争点1−11)
,,,b構成要件O同Q及び同Rの意義は不明確であり本件特許5には
特許請求の範囲が不明確である無効理由があるか(争点1−12)
c本件特許4には進歩性欠如の無効理由があるか(争点1−13)
d本件特許5には進歩性欠如の無効理由があるか(争点1−14)
オ出願経過禁反言の法理の適用の有無(争点1−15)
カ公知技術の抗弁(争点1−16)
(2)本件意匠権侵害に基づく差止請求等について
ア被告意匠は本件登録意匠と類似するか(争点2−1)
イ本件登録意匠は登録無効審判により無効とされるべきもであるのか(争
点2−2)
(3)原告の損害額(争点3)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1−1(被告製品の技術的構成)について
【原告の主張】
(1)被告製品の技術的構成は,別紙イ号物件目録に記載のとおりである。原
告は,被告作成の別紙被告物件目録添付図面のうち,第1図,第3図ないし
第13図,第15図ないし第19図についてはあえて異議を述べないが,第
2図及び第14図は不正確であるから,第2図は削除し,第14図は原告作
成の別紙イ号物件目録の第10図を用いるべきである。
また,被告は,別紙被告物件目録添付図面中の符号10a・10bが指す
部材を示す名称として「ピボット軸」を用いているが「ピボット軸」とは,
旋回の中心のことであり,同部材を指す名称としては誤りであって「棒状突
起」を用いるべきである。
(2)被告製品の構成を本件各特許発明の構成要件に即して分説すると,以下
のとおりである。
ア本件特許発明1及び同2に対応する構成
a左右一対のアイカップと,両アイカップを連結する鼻ベルトと,両ア
イカップの対向外端部相互を接続するゴムバンドとから成るゴーグルで
ある。
b前記アイカップと鼻ベルトとの連結を,断面略円形の棒状突起と,該
棒状突起が相対回動可能に嵌合される貫通孔とにより行うようにしてい
る。
c前記アイカップの鼻ベルト取付台部の後面に,顔面に向かって突出す
る棒状突起を設けている。
d前記鼻ベルトの両端部に貫通孔を設けている。
e前記棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜するフック
部を設けている。
f鼻ベルトの両端部の後面に前記フック部を係止させるようにしてい
る。
g前記鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ,後方に傾斜した鼻ベルトの
両端部の後面に前記フック部を係止させるようにしている。
イ本件特許発明4及び同5に対応する構成
h左右一対の硬質プラスチック製のアイカップと,該両アイカップを連
結する弾性材料により成形された鼻ベルトと,前記両アイカップの対向
外端部相互を接続するゴムバンドとから成る。
i前記両アイカップの左右対向内側には前記鼻ベルトの取付台部が突設
,。され鼻ベルト取付台部に前記鼻ベルトの両端部が取り付けられている
j前記鼻ベルト取付台部の後面側に断面略円形の棒状突起が設けられて
いる。
k前記鼻ベルトの両端部に,前記棒状突起が相対回動可能に嵌合される
貫通孔が設けられている。
l前記アイカップは,前面のレンズ部と,該レンズ部の周縁から後方に
突出する周壁部とを備えている。
m前記アイカップの鼻ベルト取付台部は,レンズ部の前面よりも前方に
向かって斜めに突出するように設けられている。
n前記棒状突起は,鼻ベルト取付台部の後面に対して,前記周壁部側に
おいて鋭角をなしている。
o前記棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になるフック部が設け
られている。
p前記鼻ベルトの両端部の前後面は,前記鼻ベルト取付台部の後面と略
平行な傾斜面に形成されている。
q前記貫通孔は該鼻ベルトの両端部の前後面に対して傾斜して設けられ
ている。
r該鼻ベルトの両端部の前面が,前記鼻ベルト取付台部の後面に面接触
している。
s該鼻ベルトの両端部の後面が前記フック部に係止されている。
【被告の主張】
(1)被告製品の構成は,別紙被告物件目録記載のとおりである。
(2)被告製品の構成を,本件各特許発明に対応させた場合の構成は以下のと
おりである。
①被告製品である水中ゴーグル1aは,左右一対のアイカップ2a・2b
と,この左右のアイカップ2aと2bとを互いに連接するブリッジ・リン
ク3aと,前記左右アイカップ2a・2bの左右両端同士を鉢巻き状に連
結し,かつ,バックル部4b・4cにおいて長さ調節可能なゴムバンド4
aとから構成されている(別紙被告物件目録添付図面第1図参照。)
②左右のアイカップ2a・2bは,淡色透明のポリスチレン樹脂を一体成
形して成り,正面のレンズ部6a・6bと,レンズ部6a・6bの周縁か
ら後方(接眼側)へ突出する円筒形の周壁部7a・7bとを一体に有する
(別紙被告物件目録添付図面第4図参照。)
③上記アイカップのレンズ部6aと6bとが隣向して対向する縁角部のそ
れぞれには,舌状の持出ブラケット8a・8bが斜め前方へ差し延べるよ
うに一体成形により延成されている(別紙被告物件目録添付図面第1図な
いし第3図,第6図ないし第8図,第11図及び第12図参照。)
④上記アイカップの周壁部7a・7bの接眼側端縁のフランジFには,柔
らかで弾力的な軟質樹脂製の明色不透明なジャバラ形の吸盤ベローズ7c
・7dが嵌合接着してあり(別紙被告物件目録添付図面第1図,第2図,
第4図,第6図ないし第8図参照,この吸盤ベローズ7c・7dの開口)
縁を手で眼窩の周縁に圧接させると,当該左右のアイカップ2a・2bを
眼窩周縁に吸着させることができる。
⑤舌状持出ブラケット8a・8bの接眼側には,ピボット軸10a・10
bが対向する周壁部7a・7bの壁面と略平行に突設されており,これら
ピボット軸10a・10bの突端部は,前記持出ブラケット8a・8bの
傾斜に沿うように片流れ形状の丸頭ヘッドhを形成しており,その周壁部
側は角丸の法肩(のりかた)aを成し,その反対側の法尻(のりじり)に
は当該ブラケットの突端方向へ平行に突出する∠形のフック部11a・1
(,,,1bを形成してある別紙被告物件目録添付図面第3図第5図第6図
第8図参照。)
⑥ブリッジ・リンク3aは,左右に股開き状に分岐する股部31・31,
中間部に厚肉部32を有する細幅湾曲板状の軟質樹脂製のリンク部材であ
って,当該ブリッジ・リンクの両端近傍には,上記ピボット軸10a・1
0bと略同径の貫通孔31a・31bが開設してあり,かつ,前記股部3
1・31の厚肉部32寄りの前面側には滑りリブ32a・32bがそれぞ
れ形成されている(別紙被告物件目録添付図面第6図ないし第10図参
照。)
⑦ゴムバンド4aは,左右両アイカップ2a・2bの両端側面に持出状に
添設したフィン2c・2dに開設されたバンド通し孔2e・2fに折返し
に挿通されてバックル部4b・4cにおいて長さ調節可能に1本締めの鉢
巻きループを構成している(別紙被告物件目録添付図面第1図,第3図,
第11図及び第12図参照。)
⑧被告製品の水中ゴーグル1aにあっては,アイカップ2a・2bの対向
する内側部に突成された持出ブラケット8a・8bの上記ピボット軸10
a・10bを,上記ブリッジ・リンク3aの両端近傍の貫通孔31a・3
1bに対し角丸の法肩(のりかた)aを先にして丸頭ヘッドhからそれぞ
れ押込んで貫入させるとともに,ピボット軸10a・10b突端の丸頭ヘ
ッドhの法尻(のりじり)にあるフック部11a・11bを前記ブリッジ
・リンク3aの貫通孔31a・31bの孔縁に引っ掛けて連結させたこと
によって,左右のアイカップ2a・2bとブリッジ・リンク3aとをピボ
ット軸10a及び10bの周面を中心として2節機構的に相対回動可能に
構成してあり(別紙被告物件目録添付図面第6図参照,ピボット軸10)
a・10bを中心に左右のアイカップ2a・2bの回動が必要なときには
持出ブラケット8a・8bの後面側とブリッジ・リンク3aの股部31・
31の前面側とは離間した状態でブリッジ・リンク3a前面に形成した滑
りリブ32a・32bにブラケット8a・8bの後面が微擦して適度の摩
擦抵抗で相対回動が可能となる。
2争点1−2(構成要件E及び同Fの充足性)について
【原告の主張】
(1)構成要件Eの「棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜す
る係止突部」の意味について
「突起中心軸線に対して鋭角に傾斜」とは,突起中心軸線を縦方向とする
と,下記図2に現れているように,棒状突起(係止突部も含めた形状)が上
下反転した略「レ」字状のようになることを意味する。
係止突部は,その名のとおり係止のために突出した部分であって,鼻ベル
トに対する抜け止めとして機能するものであるところ,突起中心軸線に対し
て鋭角に傾斜する構成を採ることによって,係止突部は抜け止めとしての機
能を有しつつ,鋭角に傾斜していない場合と比較して,鼻ベルトの突起係合
孔に挿通する際に,係止突部が大きな抵抗にならずに棒状突起を前記突起係
合孔にスムーズに挿通させることができ「アイカップと鼻ベルトの連結が,
使用中に外れることがなく,連結・分離が容易である」という本件各特許発
()。明の効果に寄与するようにしているのである別紙図1と別紙図2の比較
(2)構成要件E,及び同Fに該当する形状
,,本件特許公報の図5における係止突部11には別紙図3に示したように
(a)部分と(b)部分があるが本件特許発明1における係止突部としては(a),,
部分が存在すれば十分である。(b)部分は,抜け止めとしての機能を維持し
ながら,その表面のカーブにより,アイカップと鼻ベルトを分離する際に棒
状突起を抜きやすくするものである。
また,本件特許公報の図11のように,係止突部を棒状突起の端部全周に
わたって設けた場合においては,係止突部に,突起中心軸線に対して鈍角に
傾斜する部分も存在するが,鋭角に傾斜する部分が存在して本件各特許発明
の効果に寄与するようになっている以上は,構成要件Eを充足する。なお,
本件特許公報の図11及び図12は「突起中心軸線に対して鋭角に傾斜」,
という事項の説明のためのものではなく,係止突部の形態のバリエーション
を示したものであって,本件特許発明1を不明確にするものではない。
(3)構成要件E及び同Fの「係止突部」に該当しない形状
実公昭44−14173号公報(乙12。以下「引用例4」という)の。
第2図及び第3図に図示されるフック形の傾斜面2における鉤鍔形状部分
や,実願平2−112597号(実開平4−70059号)マイクロフィル
ム(乙14。以下「引用例6」という)の第1図及び第4図中の接続部材。
5の両端部に立設された爪は,孔にスムーズに挿通させられる形状ではある
が,これらは,断面略円形ではなく断面略長方形の回動不能な部分に設けら
れたものである点で,本件各特許発明とは異なる。
実願昭54−64029号(実開昭55−164061号)マイクロフィ
ルム(乙13。以下「引用例5」という)の第3図の突条体12に設けら。
れたテーパー状の「隆起部13」については,抜け止めとして機能するもの
,。か否か不明であり突条体12が断面略円形で回動可能か否かも不明である
さらに,引用例4に開示された技術的事項はスイミングゴーグル(以下,
単に「ゴーグル」ともいう)のアイカップと鼻ベルトとの連結とは無関係。
,,,,なものでありまた本件各特許発明ではアイカップ側に棒状突起を設け
鼻ベルト側に棒状突起が入る突起係合孔を設けているのに対し,引用例5や
引用例6は,鼻ベルト側に前記突条体12や爪を設け,アイカップ側にこれ
らが入る孔を設けたものであり,全く異なる構成である。
したがって,引用例4の鉤鍔形状部分,引用例5の隆起部13及び引用例
6の接続部材5の両端部に立設された爪は,いずれも本件各特許発明におけ
る係止突部に相当する部分ではない。
(4)被告の主張に対する反論
被告は,構成要件E及び同Fの「係止突部」の形状は別紙図4のように表
すことができると主張するが,被告が「突起中心軸線に対する角度」という
「θ」は,図中「係止突部」として表された逆三角形の左右の斜辺のなす角
度であり,突起中心軸線とは全く関係がない。被告は,このような突起中心
軸線に対する角度についての誤った前提の下に「係止突部」は円錐キノコ,
形のような構成に限られると断定しているものである。
(5)構成要件E及び同Fと被告製品との対比
被告製品のfの「フック部11a・11b」は棒状突起10a・10bの
突端部において突出する部分である。そして,同フック部の構成は,構成要
件E及び同Fを充足する。
【被告の主張】
(1)構成要件Eの「棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜す
る係止突部を設ける」の意義
原告が構成要件Eにおいて特定する「棒状突起の先端部に突起中心軸線に
対して鋭角に傾斜する係止突部を設ける」という文言の技術的意義を文理ど
おりに忠実に解釈するならば「棒状突起」というのは細く突き出た出っ張,
りを意味し「係止突部(判決注,なお,被告は一部「係合突部」なる用,」
語を用いて主張しているが,本件各特許の請求項の記載と適合しないため,
すべて「係止突部」に関する主張として扱う)というのは繋ぎ止めるため。
に突出した突起部分を意味する。
また,棒状突起は断面略円形(構成要件B)の円柱体であって「鼻ベル,
ト取付台部の後面に,顔面に向かって突出するように」設けられる(構成要
件C)ものであるから,棒状突起先端部の係止突部は,幾何学的に別紙図4
に示す形状に一義的に定まる。すなわち,本件特許発明1の構成要件Eで特
定される係止突部は,別紙図4のように,突起中心軸線Cに対して角度θが
90°以下の円錐キノコ形の異形突起を成しているのである。
それにもかかわらず,原告は,前記「係止突部」の説明として本件特許公
報の図5,図11及び図12の図示例を掲げ,また本件明細書の【発明の実
施の形態】の段落【0009】には「棒状)突起10の後端面10Aは,(
図5に示しているように,前記取付台部後面8Aと略平行とすべく突起10
の中心軸線に対して傾斜されている。前記棒状突起10の後端部には,対向
内側に係止突部11が設けられている」とか,また,段落【0016】の。
後段部分には「上記実施形態において,棒状突起10の係止突部11は,図
11に示すように,突起10の端部全周にわたって設けることができる。ま
た棒状突起10の係止突部11は,図12に示すように,アイカップ2の周
壁部7側に突出状に設けることができる」などと「棒状突起の先端部に突。
起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部」の字義から幾何学的に特定さ
れる概念から逸脱した形状を係止突部の概念に取り込もうとして,結果的に
本件明細書全体としての「係止突部」の意義を不明瞭なものとしている。構
成要件Eに関し「係止突部」の意義を不明瞭にしたことによる不利益は原告
が負担すべきであって,善意の社会公衆並びに被告に不利益が転嫁されるべ
きいわれはない。
原告は,独自に作図した別紙図3を引用し「本件特許公報の図5におけ,
る係止突部11には別紙図3に示したように(a)部分と(b)部分とがあるが,
本件特許発明1における係止突部としては,(a)部分が存在すれば十分であ
る」とも主張する。。
しかしながら,構成要件E及び同Fの係止突部は「棒状突起の先端部に,
突起中心軸線に対して鋭角に傾斜」して設けられる部分である。
別紙図3における(a)部分が,断面略円形(円柱形)の棒状突起の中心軸
線に対して鋭角を成していないことは一目瞭然であって,本件特許発明1に
いう「係止突部」に該当しないことは明らかである。
本件特許発明1及び同2において,構成要件Eのように「棒状突起の先,
端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を設け」という表現を
採用したのは,そうすることによって,棒状突起を鼻ベルトの係合孔に嵌合
させるに際し,円錐キノコ形の先端部が棒状突起の差込み摩擦抵抗を少なく
して係止させやすくするという効果を狙ったものなのである。
(2)構成要件Eと被告製品の対比
被告製品にあっては,別紙被告物件目録添付図面(ピボット軸は,図中,
符号10a・10bにて指示)に示すとおり,原告が「棒状突起」と称して
いるピボット軸の突端部は,中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を構
成していない。よって,被告製品は構成要件Eを充足しない。
(3)構成要件Fと被告製品の対比
また,構成要件Fは「鼻ベルト両端部の後面に前記係止突部を係止させる
。」,「」ようにしたことを特徴とするゴーグルであるが被告製品は係止突部
を備えないので,同構成要件も充足しない。
(4)被告製品の本件特許発明2の技術的範囲への属否
加えて,本件特許発明2は,本件特許発明2に構成要件Gとして,鼻ベル
トの形状と棒状突起における係止突部との連結構造を限定条件として付加し
ただけの構成であるから,被告製品は,前記(1)及び(2)と同様の理由により
本件特許発明2の技術的範囲に属さない。
3争点1−3(構成要件Nの充足性)について
【原告の主張】
被告は,棒状突起は周壁部の反対側でも取付台部の後面に対して鋭角である
と主張するが,別紙被告物件目録添付図面第5図を見ても明らかなように,周
壁部の反対側では鈍角であるから,被告製品が構成要件Nを備えていることは
明らかである。
被告は,棒状突起(被告の表現では「ピボット軸)の先端部の形状につい」
て主張しているが,棒状突起と取付台部の後面に対する角度とは関係がない。
さらに,被告は「鋭角というだけでは機能上有害な角度をも含み不明確であ
る」と主張するが「機能上有害な角度」の意義は不明であり,仮に「機能。,
上有害な角度」を含んでいたとして,なぜそれによって発明が不明確となるの
かは不明である。
構成要件Nは,アイカップと鼻ベルトの連結が使用中に外れることを防止す
るためのものである。すなわち,棒状突起が取付台部の後面に対して前記周壁
,,部側において鋭角をなしていなければアイカップが外方に引っ張られたとき
棒状突起が鼻ベルトの突起係合孔から抜けるおそれがあるが,鋭角をなしてい
れば,鼻ベルトの突起係合孔の各外端側が取付台部と棒状突起の間に押し込め
られるので,棒状突起が抜けにくく,アイカップと鼻ベルトの連結が外れるこ
とを防止することができる(本件明細書段落【0015。】)
このように,構成要件Nの技術的意義は明確に理解できるものであり,本件
特許発明4が不明確であるなどということはあり得ない。
【被告の主張】
被告製品は「棒状突起は,取付台部の後面に対して,前記周壁部側におい,
て鋭角をなしている」という構成要件Nを備えていない。
構成要件Nの意義は不明確である。鋭角とは,2つの線分が0°から直角9
0°の範囲内で交差する際の当該線分相互の角度関係をいうところ,構成要件
Nの文言を字義どおりに解釈すると,棒状突起は,取付台部の後面に対し0°
から90°の範囲内で周壁部側で任意の角度に定め得ることになるから,鋭角
というだけでは機能上有害な角度(棒状突起が取付台部に対してあまり鋭角に
倒れ過ぎていると鼻ベルトとの相対回動が阻害される)をも含み不明確であ。
る。そこまでに至らなくても,機能的に無意味な角度までも含む概念であるだ
けに,その技術的範囲は著しく不明瞭である。
原告は,本件特許公報の図5及び後記11の【原告の主張】に記載の別紙図
5に基づいて棒状突起の延びる方向(突起中心軸線の方向)と,取付台部の後
面とのなす角度が,鼻ベルト側ではなく,周壁側において鋭角となっているこ
とを意味すると主張するが,棒状突起は,周壁部側だけでなく,その反対側で
も突起中心軸の方向と平行をなして左側へ斜傾し取付台部の後面に対して“\
”状に傾斜して鋭角をなしていることによれば,やはり,構成要件Nの意義は
不明確である。
これに対し,被告製品は,ピボット軸10a・10bの突端部を片流れ形状
の丸頭ヘッドhに形成し,かつ,法尻に設けた∠形フック部11a・11bの
反対側に位置する軸端形状を角丸の法肩形状に成形してあるから,ブリッジ・
リンク3a両端の貫通孔31a・31bへの差込みが極めて滑らかに行えるの
であって,本件特許発明4が必須としている意義不明な構成要件N「棒状突起
は,取付台部の後面に対して,前記周壁部側において鋭角をなしている」とい
う文言から特定される構成とは形状が全く異なり,かつ,その作用効果も異な
るので,本件特許発明4の技術的範囲に属しないことは明らかである。
4争点1−4(構成要件Rの充足性)について
【原告の主張】
被告製品の股部31・31の前面側の滑りリブ32a・32bは「鼻ベル,
トの両端部の前面」の一部であり,取付台部(8a・8a)の後面に面接触す
るから構成要件Rを充足する。さらに,股部31・31の外端部は,別紙被告
物件目録添付図面第5図等では,取付台部(8a・8a)の後面との間隔が誇
張して描かれているが,装着時には面接触するものである。
被告は「点接触」するにすぎないと主張するが,別紙被告物件目録添付図,
面第5図において,滑りリブ32aは一定幅の「面」を有する形状として描か
れており,しかも別紙被告物件目録の「3.被告物件における技術的構成の説
明」⑧には,滑りリブ32a・32bにブラケット8a・8aの「後面」が微
擦するとの記載があり,被告自らも,互いの面同士が接触することを明確に認
めている。また,別紙被告物件目録添付図面第5図は,顔面に装着していない
状態で描かれているが,顔面に装着した場合には,ゴムバンド4aの引っ張り
により,滑りリブ32a・32bが持出ブラケット8a・8aの後面により強
く面接触するとともに,股部31・31の外端部寄りの面も,持出ブラケット
8a・8aの後面に面接触することとなる。
本件特許発明5は,構成要件Rにより,鼻ベルトと取付台部との間に摩擦を
生じさせ,アイカップのフィッティングの際に微妙な調整を可能とするもので
あるところ,面としての接触がなければ同摩擦が生じず,同微調整もなし得な
い。被告製品についても,上記摩擦により上記微調整を可能にするという同一
の作用効果を有しており,鼻ベルトと取付台部との間に面としての接触が存在
していることを前提としている。
【被告の主張】
被告製品のブリッジ・リンクの前面側の股部に突成された滑りリブは,表面
がカマボコ形を成しており,このカマボコ形を成した滑りリブの頂点に持出ブ
ラケットの後面が当接しているのである。それゆえ,被告製品における左右の
アイカップが相対回動するときには,持出ブラケットの後面は滑りリブのカマ
ボコ面の頂点に点接触しながら当該カマボコ面の頂点に沿って線状に相対移動
することになる。
原告は,別紙被告物件目録添付図面第5図に図示される滑りリブ32aの頂
点がたまたま平坦状に見えるのに事寄せて,当該滑りリブ32a・32bは
「面』を有する形状」だと決め付けているが,事実に反していることは被告『
製品の現品を見れば明らかである。また,原告は,別紙被告物件目録の「3.
被告物件における技術的構成の説明」⑧に「持出ブラケット8a・8bの後面
側とブリッジ・リンク3aの股部31・31の前面側とは離間した状態でブリ
ッジ・リンク3a前面に形成した滑りリブ32a・32bにブラケット8a・
8bの後面が微擦することになるので,適度な摩擦抵抗での相対回動を可能と
なる」とある記載中の「滑りリブ32a・32bにブラケット8a・8bの。
後面が微擦する」という部分だけを摘出して,互いの面同士が接触することを
被告が自認していると主張するが,事実に反する。
原告は「鼻ベルトの両端部の前面が,前記取付台部の後面に面接触」して,
いることが当初から記載してあったかのように主張するが,本件親出願に係る
特許公報である甲第20号証特開2003−153636号公報記載の請()【
求項7】は,平成14年12月24日提出の手続補正書によって新規に付加さ
れた事項である。
5争点1−5(構成要件Oの充足性)について
【原告の主張】
構成要件Oの「前記後面」は,その直前の「取付台部」の後面を意味するこ
。,「」とが明らかであるまた棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になる
とは,係止突部の突出する方向が取付台部の後面に沿う方向とおよそ一致する
ことを意味する。この構成により,係止突部の突出する方向は鼻バンドの両端
部の前後面に沿う方向ともおよそ一致し,係止突部の抜け止めとしての機能が
効果的に発揮されるようになっている。
【被告の主張】
構成要件Oの「棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になる係止突部が
設け」のうち「前記後面」の意味が全く不明である「係止突部」と称する,。
ものに関しては,棒状突起の先端部外周に前記後面と平行になるように設ける
とあるが,棒状突起がどのような形状になるのか,本件特許発明5にいうとこ
ろの「後面」なる用語の意味も,その「後面と略平行になる係止突部」の意義
も全く理解することができない。
してみれば,この点においても,原告において特許を受けようとする発明構
成を明確に特定するために必要であったのに,これを怠って記載しなかった結
果,本件特許発明5の技術的範囲が明確にならなくなったことの不利益は原告
自身が負うべきことはいうまでもない。
よって,被告製品は,本件特許発明5の構成要件Oを具備していないので,
本件特許発明5の技術的範囲に属しないものというべきである。
6争点1−6(本件分割出願は,分割出願の要件に違反するか)について
【被告の主張】
(1)本件各特許発明は,平成7年12月25日に特許出願(本件親出願)さ
,(,れ平成18年1月6日に設定登録された特許権特許第3755546号
特願平7−337520号)に係る請求項1ないし3に記載された特許発明
と実質上同一というべきである。
したがって,本件分割出願は,本件親出願から分割されたものとは認めら
れず,特許法44条1項の規定に違反しているので,同条2項に定める出願
日遡及の利益を受けることができず,実際の出願日である平成14年8月3
0日まで出願日が繰り下がる。
そうすると,本件親出願の内容は,平成9年7月8日に出願公開されてい
るのであるから,その公開公報である特開平9−173378号公報(乙1
9)が頒布された時点において,本件各特許発明は,既に新規性及び進歩性
を喪失していたことになり(特許法29条1項3号,同条2項,特許法1)
23条1項2号に規定する無効理由があることとなる。
(2)しかも本件分割出願に係る本件特許発明2及び同5にはいずれも該,,「
鼻ベルトの両端部の前面が前記取付台部の後面に面接触し」という構成要件
が記載されているのであるが,この記載は本件各特許発明の作用効果に重大
な影響を及ぼす本質的な構成部分に該当しそして本件親出願当初明細書乙,(
19)のどこにも記載されていなかったのであるから,当該事項の分割明細
書への挿入と本件親出願当初明細書への補充補正は新規事項の追加に該当す
る。
したがって,これら分割出願に係る特許も親特許も,特許法17条の2第
3項に違反することになり,特許法44条1項の分割出願の適法要件を欠い
ていることになる。よって,本件分割出願に係る特許及び親特許のいずれに
ついても特許法123条1項1号の無効理由に該当する。
【原告の主張】
(1)被告は,本件各特許発明は本件親出願の特許請求の範囲に記載された発
明と実質上同一である,具体的には,本件特許発明1及び同4は本件親出願
の請求項1に係る発明と実質上同一であると主張する。
しかし「棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止,
突部(構成要件E)という構成は,本件親出願の請求項1に記載がない。」
また,本件特許発明1には,本件親出願の請求項1における「棒状突起と
,」。前記後面とは前記周壁部側において鋭角をなしておりという限定がない
なお,本件特許発明1における棒状突起と取付台部の後面との角度を勝手に
実施例記載のものに限定して,本件親出願の請求項1の特許発明と同一であ
るとする被告の見解は,最高裁判所平成3年3月8日第二小法廷判決(民集
45巻3号123頁・リパーゼ事件最高裁判決)の趣旨に反する。
したがって,本件特許発明1は,本件親出願の請求項1の特許発明と同一
ではないことが明らかであるから,本件分割出願は,分割適法要件を満たし
ている。
(2)取付台部の構成に関し,本件特許発明4では「取付台部は,レンズ部の
前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられ(構成要件M)」
ているのに対し,本件親出願の請求項1の特許発明では「前記取付台部は,
前記周壁部の左右対向内側より前記レンズ部の前面側に向かう傾斜面に形成
された後面を有し」たものとなっている。
,,,つまり本件特許発明4は本件親出願の請求項1の特許発明とは異なり
取付台部がレンズ部の前面よりも前方に突出する構成に限定したものとなっ
ており,これによって,着用者の鼻と鼻ベルトとの間隔に余裕が生じるとと
もに,取付台部の傾斜をきつくして,棒状突起と取付台部の後面とのなす角
度をより鋭角なものとし,鼻ベルトの突起係合孔からの棒状突起の抜け出し
を効果的に防止することができるようになっている。したがって,本件特許
発明4と,本件親出願の請求項1の特許発明とは下位概念と上位概念の関係
にあるとも評価し得る。そして,特許庁の審査実務でも,同日出願の2つの
発明が上位概念と下位概念の関係に立つような場合には,同一の発明には該
当しないものとして扱うことが確立している。この点で,被告の主張は失当
である。
なお,本件親出願の請求項1の特許発明における前記取付台部の構成を勝
手に実施例記載のものに限定して,本件特許発明4と同一であるとする被告
の見解は,上記最高裁判決の趣旨に反する。
したがって,本件特許発明4も,本件親出願の請求項1の特許発明と同一
でないことが明らかであって,分割適法要件を満たしている。
(3)被告は,本件特許発明5及び本件親出願の請求項2の「鼻ベルトの両端
部の前面が,前記取付台部の後面に面接触し」という事項は,本件親出願の
,,本件親出願当初明細書に記載されていおらず新規事項の追加に当たるから
本件分割出願は分割適法要件を満たしていない旨主張する。
しかし,本件分割出願が本件親出願との関係で新規事項を追加したとして
不適法になるのは,本件親出願当初明細書等に記載されていない事項を追加
した場合に限られるところ,当該事項は,本件親出願当初明細書等の図3及
び図5に記載されている(乙19)から,本件分割出願が分割適法要件を満
たしていることは明らかである。
7争点1−7(構成要件E,同F及び同Gの「係止突部」の意義は不明確であ
り,特許請求の範囲が不明確である無効理由があるか)について
【被告の主張】
構成要件Eにおける「棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜
する係止突部を設け」るというところの前記係止突部(突起中心軸線に対して
鋭角に傾斜する係止突部)なる用語の意義は不明であるから,構成要件Gもま
た,その技術的意義が明確であるとはいえない。また,本件特許発明2は,本
件特許発明1に係る請求項を引用する従属項である。したがって,本件特許発
明2は,特許法36条6項2号に規定される記載要件に違反して特許されたも
のに該当する。
【原告の主張】
,。係止突部の意義は前記2において主張したとおりであって不明確ではない
8争点1−8(本件特許1は実施可能要件違反の無効理由があるか)について
【被告の主張】
本件特許発明1の係止突部は「棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して,
鋭角に傾斜して」設けられるものと限定された構成から成るものであって,そ
のように棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜した尖った形状
の係止突部が鼻ベルトの両端部の後面にいかなる状態に係止されることになる
のか全く理解することができず,当業者が本件特許発明1を実施することがで
きる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。よって,本件特許1
には,特許法36条4項に規定される明細書記載要件を満たすことなく特許さ
れた違法があるので,同法123条1項4号に規定する無効理由がある。
【原告の主張】
,。係止突部の意義は前記2において主張したとおりであって不明確ではない
9争点1−9(本件特許1には進歩性欠如の無効理由があるか)について
【被告の主張】
(1)本件特許発明1は,別紙審決(無効2006−80089号)の5頁以
下に記載されているとおり,実公平7−24126号公報(乙9。以下「引
用例1」という)に記載された引用発明1(別紙審決6頁27行ないし3。
6行のとおり)と,実願平1−10194号(実開平2−102265号)
マイクロフィルム(乙10。以下「引用例2」という)に記載の発明並び。
に乙第26号証の4の公開実用新案公報及び乙第26号証の5の実用新案公
報にそれぞれ記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明すること
ができたものであって,本件特許1は,特許法29条2項の規定に違反して
なされたものである。
(2)構成要件Aの構成は,引用例1の図1や引用例6の第1図にも記載され
ているように,アイカップ連結式の水中ゴーグルの基本的構成として周知で
ある。
構成要件Bは,アイカップと鼻ベルトとの連結を,断面略円形の棒状突起
と,該突起が相対回動可能に嵌合される係合孔とにより行うようにした連結
構造を特定したものであるが,かかる連結構造は,引用例1の段落【001
8】並びに図6及び図7に記載され,引用例5の第3図にも開示されている
周知技術である。
構成要件Cは,アイカップの鼻ベルト取付台部の後面に,顔面に向かって
突出する棒状突起を設けるようにした差込プラグの一態様であるが,かかる
構成は,引用例2の第7図及び第8図,実用新案登録請求の範囲の請求項1
の「ブラケット(15)の背面(15b)に,上方からみて略L形の連結帯
係合片(20)を,端部(20a)がレンズ部(13)側に位置するように
,()()()突設すると共に該係合片20の対向端面20b又は端部20a
前面に係止突起(23)又は(22)を設け」との記載によれば周知技術で
ある。
構成要件D(鼻ベルトの両端部に突起係合孔を設け)の構成は,引用「」
例2の実用新案登録請求の範囲の請求項(4)並びに第1図,第10図,第1
1図,第18図及び第19図に記載されているとおり,周知技術であった。
なお,同各図面に図示された係合孔は角孔形状に表してあるが,この係合孔
を丸孔形状にして係合片(すなわち,断面円形の棒状突起)に対し軸回りで
きるように変更することは当業者が必要に応じて選択できる設計事項であ
る。
「」,構成要件Eの突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突起を設けは
本件特許発明1の本質的部分に該当する技術要素であるのに,その技術的意
。,「」義が明確でないその点は措くとしても引用例5の第3図に隆起部13
として図示された突条体12のテーパー状の節部分のような形状を意味する
ならば,かかる構成に変更することは,当業者が設計上の必要に応じて適宜
取捨選択可能な設計事項である。また,同図の「隆起部13」は,突起中心
軸線に対して鋭角に傾斜する係止突起に該当する。このテーパー状の節部分
を中心軸線に対して鋭角に傾斜させるといった形状設定は,引用例4の第2
図及び第3図に図示されるフック形の傾斜面2における鉤顎形状部分の構成
からみて,当業者が必要に応じて取捨選択可能な設計事項である。
構成要件Fの構成は,引用例2の第1図,第7図,第8図,第14図,第
15図及び引用例5の第4図に図示されている連結構造と実質的に変わりが
ない。
以上のとおり,本件特許発明1は,その出願前に頒布された引用例1に記
載されたゴーグルを基本的構成とし,これに本件特許出願前に周知慣用であ
った引用例2,特開平7−67983号公報(乙11。以下「引用例3」と
いう,引用例4ないし6に記載された当業者が自由に選択可能な常套的。)
手段を付加しているにすぎないものであるから,本件特許1が無効であるこ
とは明らかである。
(3)本件特許発明1と,引用例2に示されたゴーグルとは,構成要件A,同
Cないし同Fについては一致する。他方,本件特許発明1における棒状突起
は断面円形であって係合孔に相対回動可能に嵌合されるのに対し,引用例2
に示された公知ゴーグルにあっては対応する連結帯係合片20が角軸状を成
して相対回動できない点で相違する(構成要件B。)
しかし,引用例2の係合片20を横断面円形の丸軸状と成し,係合孔29
の形状を丸孔に変更することは,本件特許出願当時の当業者にとっては技術
常識でありこれを引用例2のゴーグルに適用すれば本件特許発明1のア,,「
イカップと鼻ベルトとの連結を,断面略円形の棒状突起と,該突起が相対回
動可能に嵌合される係合孔により行うようにしたものであるから,アイカッ
プの上下方向の動きに融通性が生まれ,ゴーグル装着者の顔面に対する位置
調整が容易で,フィッティング自由度を向上させることができる」という特
有の作用効果を奏することができる。
本件特許発明1と引用例2記載のゴーグルとの間の相違点(構成要件B)
は,上記の技術常識を適用することによって当業者が容易に想到することが
できるから,本件特許発明1に進歩性を認めることはできない。
したがって,本件特許1は,特許法29条2項の規定に違反してされたも
のであるので,特許無効審判により無効にされるべきものに該当する(特許
法123条1項2号。)
【原告の主張】
以下の原告の主張は,本件各特許発明すべてについての進歩性に関する主張
である。
(1)本件各特許発明の作用効果
被告は,被告製品の構成を複数の技術要素に分解し,それぞれに対応する
公知の技術要素を引用例1ないし6から拾い出して,被告製品は進歩性を欠
く技術に関するものであるから,本件各特許発明の技術的範囲に属しないか
のように主張している。しかし,被告は単に被告製品が公知技術の組合せで
あると述べているだけで,公知技術に基づいて当業者が容易に想到できたこ
との論理付けはしていない。したがって,被告の主張はそもそも主張自体失
当である。
もっとも,本件各特許発明は,前述のように審査段階において進歩性が認
められ,登録されている。本件各特許発明が進歩性を有することは,本件特
許公報の「発明の効果」欄に記載の次の①ないし③の効果を奏することから
も明らかである。
①アイカップと鼻ベルトの連結を,断面略円形の棒状突起と,該突起が相
対回動可能に嵌合される係合孔により行うようにしたものであるから(請
求項1ないし5,アイカップの上下方向の動きに融通性が生まれ,ゴー)
グル装着者の顔面に対する位置調整が容易で,フィッティング自由度を向
上させることができる。
②前記アイカップの鼻ベルト取付台部に棒状突起を設け,鼻ベルトの両端
に突起係合孔を設けたので(請求項1ないし5,成形性が良く,連結強)
度を確保できる。
③前記棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部
を設け(請求項1ないし3,前記鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ,)
該鼻ベルト両端傾斜面に前記突部と係止させるようにしたので(請求項2
及び3,アイカップと鼻ベルトの連結が使用中に外れることがなく,連)
結・分離が容易である。
上記②について補足すると,棒状突起は,フィッティングの際に軸になる
部分であるから,適正なフィッティングの妨げとなるねじれや変形の防止の
ために,さらには,アイカップと鼻ベルトの連結・分離の際の突起係合孔へ
の挿通性をよくするためにも,突起係合孔を設けた鼻ベルトよりも硬質であ
ることが望ましいが,アイカップの材質も硬質であることから,棒状突起と
アイカップとを硬質材料で一体に成形できるので成形性が良い。また,装着
時に硬質な棒状突起の係止突部を軟質な鼻ベルトにしっかりと係止させられ
るので連結強度を確保できる。
また,本件特許発明4及び同5も上記③の効果を奏する。すなわち「棒,
状突起は,取付台部の後面に対して,前記周壁部側において鋭角をなしてい
る(構成要件N)ことにより,鼻ベルトの突起係合孔の各外端側が取付台」
部と棒状突起の間に押し込められるので,前記係合孔から棒状突起が抜け出
して,アイカップと鼻ベルトの連結が使用中に外れることが防止される(段
落【0015。さらに,硬質プラスチック製のアイカップ側にある棒状】)
突起を,軟質な弾性材料により成形された鼻ベルトの突起係合孔に挿通させ
るようにしているため,抜き差ししやすく,アイカップと鼻ベルトの連結・
分離が容易である。
(2)被告が引用する文献(引用例1ないし6)との相違点
アフィッティング
引用例1ないし6に記載のものは,いずれも,連結状態のアイカップと
鼻ベルトにおける棒状突起と突起係合孔との相対回動を可能とした構成
(本件各特許発明の構成要件B及び同K)を有するものではなく,上記①
ないし③のすべての効果を兼ね備えたものはもちろん,単に①の効果を奏
するものすら記載も示唆もされていない。
引用例1に記載のものは,ジョイントの取替え時における部品の破損を
防止すること,アイカップとジョイントの連結を確実にすること及びジョ
イントの取替えを容易とすることを技術的課題とするもので(段落【00
06,本件各特許発明のように,アイカップと鼻ベルトの上下方向の】)
相対的な動きによってゴーグルを顔面にフィッティングさせることを技術
的課題とするものではない。
すなわち,引用例1においては「アイカップとジョイントの相対的な,
回転(引用例1の考案の効果欄)といっても「アイカップとジョイント」
とを着脱自在に連結する(同考案の効果欄)場面で,ジョイントの先端」
の連結軸を中心として回転するにすぎず,ゴーグル装着時に顔面への微妙
なフィッティングのためにアイカップと鼻ベルトが相対的に回動するのと
は技術的思想が全く異なる。また,引用例1の段落【0018】にジョイ
ント10の連結軸11を丸軸としてもよいとの記載があるといっても,単
に連結軸11の形状が角軸に限定されないことを示したものにすぎず,丸
軸にしても結合状態のアイカップとジョイントが相対回動不能であること
に変わりはないのであり,フィッティングに関しては全く考慮されていな
い。引用例1に記載のものにおいて,アイカップとジョイントは着脱操作
のときに回転するだけで「相対回動可能(構成要件B)なのではない。,」
そして,引用例1の図6及び図7にも,ゴーグル装着時に顔面への微妙
なフィッティングのためにアイカップと鼻ベルトが相対的に回動する技術
的思想は全く表れていない。
また,引用例5に記載のものは,本件各特許発明における鼻ベルトに対
応する連結バンド本体11に複数の突条体12を設け,適当な突条体12
を選択し不要な突条体12を除去することにより,自分に合致した長さの
連結バンドが得られるようにしたもので,突条体12が挿通するバンド通
し孔が形成された突起部14はアイカップ側に設けられている。突条体1
2の断面形状やバンド通し孔の形状は不明であり,引用例5は突条体12
とバンド通し孔を回動可能とすることについて示唆するものではない。
イ成形性・連結強度の確保
引用例1ないし6に記載のものは,いずれも,アイカップ側の取付台部
に棒状突起を設け,鼻ベルトに突起係合孔を設けた構成(本件各特許発明
の構成要件C,同D,同J及び同K)を有するものではなく,引用例1な
いし6には,断面略円形の棒状突起と突起係合孔とによるアイカップと鼻
ベルトの連結構造に関し,成形性を良くすること及び連結強度を確保する
ことについて,記載も示唆もされていない。
引用例2に記載のものは,ゴーグル本体のブラケット15への連結帯1
6(鼻ベルト)の着脱が容易でかつ外れにくい上,外観が良好でしかも着
用がしやすいゴーグルを提供することを課題とするもので(考案が解決し
ようとする課題欄,ブラケット15は,略L字状の連結帯係合片20が)
突設されたものとなっており,本件各特許発明における断面略円形の「棒
状突起」とは形状が全く異なる。また,連結帯16に設けられた係合孔2
9は四角形であるため,連結状態のブラケット15と係合孔29は相対回
動不能でもある。このように,引用例2に記載のものは,ブラケット15
や係合孔29の構成が本件各特許発明における棒状突起や突起係合孔とは
全く異なっており,棒状突起と突起係合孔とによるアイカップと鼻ベルト
の連結構造に関し,成形性を良くすること及び連結強度を確保することに
ついて示唆するものではない。
ウアイカップと鼻ベルトの連結・分離
引用例1ないし6に記載のものは,いずれも,断面略円形の棒状突起と
突起係合孔とによるアイカップと鼻ベルトの連結構造に関し,連結・分離
を適切に行えるようにする構成(本件各特許発明の構成要件E,同F,同
G,同M,同N,同O,同P,同Q,同R及び同S)を有するものではな
く,アイカップと鼻ベルトの連結が使用中に外れることがなく,しかも連
結・分離を容易にすることについて,記載も示唆もされていない。
引用例1に記載のものは,そもそも本件各特許発明の連結構造とは全く
異なるが,作用効果の面でも,アイカップとジョイントを結合させると,
段落【0019】に記載の方法で連結解除しなければ分離できないように
なっており,分離が容易ではない。
引用例2に記載のものは,前述のとおり棒状突起と突起係合孔とによる
アイカップと鼻ベルトの連結に関するものではなく,また,ブラケット1
5と連結帯16の連結・分離に際して連結帯16の回転等の作業を要する
構成であるから(引用例2第14図及び第15図,形状自体が本件各特)
許発明とは全く異なる上,作用効果の面でも,本件各特許発明のような連
結・分離の容易性を全く備えていない。
引用例3に記載のものは,ジョイントの長さ調節を軽い力で行い得るよ
うにした水中メガネに関するものであり(要約の目的欄,棒状突起と突)
起係合孔とによるアイカップと鼻ベルトの連結に関するものではなく,本
件各特許発明のアイカップと鼻ベルトの連結・分離の仕方とは全く異なる
ものである。
引用例4に記載のものは,ともに可撓性材質の鉤体イと受体ロからなる
締結具に関するもので,アイカップと鼻ベルトの連結構造に関するもので
はなく,また,ゴーグルに関するものでもなく,本件各特許発明のアイカ
ップと鼻ベルトの連結・分離の仕方とは全く異なるものである。
引用例5に記載のものは,本件各特許発明における鼻ベルトに対応する
連結バンド本体11に複数の突条体12を設け,適当な突条体12を選択
し不要な突条体12を除去することにより,着用者に合致した長さの連結
バンドが得られるようにしたもので,取付台部や棒状突起の位置や傾斜の
つけ方などの工夫で連結・分離を容易にした本件各特許発明の技術的思想
は全く表れていない。また,突条体12が軟質材料で形成されたものであ
るのに対し,アイカップ側にあるバンド通し孔の周囲は硬質材料で形成さ
れたものであり,ねじれや変形の生じやすい軟質な突条体12を周囲が硬
質なバンド通し孔に挿入することは困難であり,アイカップと鼻ベルトの
連結が容易ではなく,挿入後においても,しっかりと係止させることは無
理であるから,アイカップと鼻ベルトとの連結が使用中に外れやすいもの
となる。
引用例6に記載のものは,非着用時にも着用時と同様の形態を保ち得る
装飾性の高い水中眼鏡とすることを目的とするもので(考案が解決しよう
とする課題欄,取付台部や棒状突起の位置や傾斜のつけ方などの工夫で)
連結・分離を容易にした本件各特許発明の技術的思想は全く表れていな
い。また,爪52が軟質材料で形成されたものであるのに対し,アイカッ
プ側にある係合孔31の周囲は硬質材料で形成されたものであり,ねじれ
や変形の生じやすい軟質な爪52を,周囲が硬質な係合孔31に挿入する
ことは困難であり,アイカップと鼻ベルトの連結が容易ではなく,挿入後
においても,しっかりと係止させることは無理であるから,アイカップと
鼻ベルトとの連結が使用中に外れやすいものとなる。
以上のとおり,引用例1ないし6は,いずれも,棒状突起と係合孔とに
よるアイカップと鼻ベルトの連結構造に関し,本件各特許発明のように,
連結が使用中に外れることがなく,しかもアイカップと鼻ベルトの連結・
分離を容易とすることについて,記載も示唆もないものである。
このように,本件各特許発明は,各構成要件の機能的又は作用的関連に
より従来にはない優れた効果を奏するものであり,単なる公知技術の寄せ
集めではないから,公知技術に基づいて当業者が容易に想到できたことの
論理付けのできないものであり,進歩性を有している。
なお,本件特許公報の段落【0017】の「棒状突起10はベルト取付
台部8の前面側に突設することができる。また鼻ベルト3に棒状突起を設
け,アイカップ2のベルト取付台部8に突起係合孔を設けることができ
る」という事項は,構成要件にかかる限定が付されていなかった時点に。
おける本件親出願当初明細書の記載(乙19段落【0026)が残って】
いるものにすぎない。
10争点1−10(本件特許2には進歩性欠如の無効理由があるか)について
【被告の主張】
(1)本件特許発明2は,本件特許発明1に従属する発明であり,本件特許発
明1に,構成要件Gとして「鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ,後方に,
傾斜した鼻ベルト両端部の後面に前記係止突部を係止させる」という技術要
素を付加したものである。しかし,ゴーグルにおいては,鼻ベルトの中央部
が着用者の鼻梁を負傷させないように取付台部をレンズ部の前面よりも前方
へ持ち出し,持ち出された取付台部の後面に設けた棒状突起と鼻ベルト両端
の係合孔とを嵌合させねばならないのであるから,鼻ベルトの両端部を後方
に傾斜させることは自明の常識であり,引用例2記載の公知ゴーグルにあっ
ても,連結帯16の両端部は後方に傾斜されている。ちなみに,引用例2の
「連結帯16は,第10図及び第11図に示すように可撓性を有しかつ伸縮
不能な合成樹脂材により一体的に成形され,中央部が前方に突出されて両端
の連結耳部16aに係合孔29が設けられる(9頁10ないし13行)と」
の記載も,連結帯16の両端部の連結耳部16aがブラケット(取付台部)
15の後面方向へ傾斜していることを前提としたものである。
したがって,本件特許発明2も,特許法29条2項に違反して特許された
ものである。
,,,(2)なお本件特許発明2は別紙審決の5頁以下に記載されているとおり
前記9の【被告の主張】(1)に記載の理由に加えて,乙第21号証の公開実
用新案公報(実開昭53−153700号)に記載されている周知技術を引
用発明1に適用することによって,当業者が容易に発明することができたも
のである。よって,本件特許発明2についての特許は,特許法29条2項に
違反してなされたものである。
(3)引用例5には,第3図において,左右のレンズ部に斜めに突設された突
起部14が表されており,この突起部14に貫設した連結バンド通し孔(符
号なし)に対して,柔軟性の連結バンド本体11の両端に設けた突条体12
を嵌合させて左右のレンズ部1同士を連結して構成した水泳用メガネが,従
来例として記載されており,そして,その第4図には左右のレンズ部15に
おける対向面側に突起部14を斜めに庇状に持ち出し,この突起部14に設
けた通し孔に,連結バンド本体11両端の突条体12をテーパー状の隆起部
13で引っ掛け連結して成る水泳用メガネが図示してある。引用例5におけ
る連結バンド11は本件特許発明2の鼻ベルトに該当し,この連結バンド1
1における突条体12は本件特許発明2における鼻ベルト両端の後方に傾斜
した両端部に該当し(第4図参照,また連結バンド11の突条体12の隆)
起部13が突起部14の通し孔に係合した構造は本件特許発明2における鼻
ベルト取付台部の係合孔に棒状突起の係止突部を係止させた状態に対応す
る。引用例5の連結方式と本件特許発明2における鼻ベルトの連結方式は,
ちょうど逆関係ではあるが,かかる結合方式の変更は当業者が設計上の要請
に応じて適宜採択できる常識的置換である。
そうすると,本件特許2は,特許法29条2項の進歩性の特許要件を欠如
していることは明らかであるから,当該特許は無効である。
したがって,請求項2に係る本件特許権は,無効審判により無効にされる
べきものに該当し,同特許権を被告に対して行使することは許されない(特
許法104条の3第1項。)
【原告の主張】
前記9における原告の主張と同旨である。
11争点1−11(構成要件Nの「鋭角」の意義は不明確であり,特許請求の
範囲が不明確である無効理由があるか)について
【被告の主張】
構成要件Nの「棒状突起は,取付台部の後面に対して,前記周壁部側におい
て鋭角をなしている」という文言は,著しく不明確である。先にも述べたとお
り「鋭角」とは,0°<θ≦90°の範囲内でθが取り得るすべての角度を,
意味するから,取付台部の後面に対して,そのように不特定な角度関係に棒状
突起を配設すると,機能上有害(棒状突起が取付台部に対してあまり鋭角に倒
れ過ぎていると鼻ベルトとの相対回動が阻害される)な角度までも含むこと。
となるし,必ず得られる作用効果がいかなるものであるのかも不明である。よ
って,構成要件Nの技術的意義は著しく不明瞭であり,本件特許発明4は特許
法36条6項2号の規定に違反して登録されたものであって,技術的範囲の解
釈も不能であると同時に,特許無効理由(特許法123条1項4号)を内在し
ている。
【原告の主張】
構成要件Nの「棒状突起は,取付台部の後面に対して,前記周壁部側におい
て鋭角をなしているとは別紙図5に示すように棒状突起の延びる方向突」,,(
),,,起中心軸線の方向と取付台部の後面とのなす角度が鼻ベルト側ではなく
周壁部側において鋭角となっていることを意味する。つまり,別紙図5におけ
る太線のなす角度が鋭角となっていることである。
なお,被告は,構成要件Nを「棒状突起の先端部を斜切形状に成形して,,
鋭角側を周壁部側に配置するという意味」としているが,構成要件Nは,取付
台部の後面側に設けられた棒状突起の延びる方向についての記載であり,棒状
突起の先端部の形状に関するものではない。
さらに,被告は,構成要件Nの「鋭角」という用語について,機能上有害な
いし無意味な角度を含むため,そのような角度関係に特定配置する棒状突起に
いかなる技術的意義があるのか不明瞭であると主張するが,特許請求の範囲に
おいては,特許を受けようとする発明に関する基本的事項を明確に記載すれば
足りるのであって,当該発明の目的,作用効果の達成を困難とするようなすべ
ての具体的構成を排除するように記載しなければならないわけではない。
12争点1−12(構成要件O,同Q及び同Rのの意義は不明確であり,本件
特許5には,特許請求の範囲が不明確である無効理由があるか)について
【被告の主張】
(1)構成要件Oは「棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になる係止,
突部を設け」るということであるが「棒状突起の先端部外周に前記後面と,
略平行に」という意味が不明である。
「前記後面」とは何の後面を意味するのか不明であり,また「係止突部」
と称するものに関しては「棒状突起の先端部外周に前記後面と平行になるよ
うに設け」るとあるが,棒状突起がどのような形状になるのか,請求項5に
いうところの「後面」なる用語の意味も,その「後面と略平行になる係止突
部」の意義も全く理解することができない。
それゆえ,本件特許5は,特許法36条6項2号に違反して特許されたも
のであり,同法123条1項4号の無効理由が存在する。
(2)構成要件Qは,鼻ベルトの係合孔は当該鼻ベルトの両端部の前後面に対
し傾斜して設ける構成であるが,棒状突起の突出方向に沿って開設しなけれ
ばならないはずであり,傾斜して設けたからといって,必ずしも棒状突起の
軸回りに鼻ベルトと取付台部とが円滑に相対回動可能になるというものでは
ない。その意味において本件特許5は,構成要件Qに関しても,特許法36
条6項2号に違反して特許されたものというべきであり,同法123条1項
4号の無効理由を有する。
(3)構成要件Rは,鼻ベルトの両端部の前面を前記取付台部の後面に面接触
させるというものであるが,鼻ベルト両端の前面を取付台部に面接触させる
ためには,鼻ベルト両端の厚みと前記取付台部の後面とそこに突設された棒
状突起先端部外周に形成した係止突部までの内法を合致させておく必要があ
り,とすると,棒状突起の先端は,構成要件Nに特定されるようにアイカッ
プの周壁側において鋭角を成しているはずであるから,構成要件Pにおける
「鼻ベルトの両端部の前後面は,前記取付台部の後面と略平行な傾斜面に形
成」するという要請と矛盾することになる。この場合,係合孔を該鼻ベルト
の両端部の前後面に対して傾斜して設けるという構成要件Qは,その矛盾の
解決手段とはなり得ない。鼻ベルトの端部が棒状突起を中心に相対回動する
際には,棒状突起は静止したままであって,棒状突起先端の係止突部及び鋭
角部と鼻ベルトの係合孔周縁との位置関係が変化してしまうからである。
【原告の主張】
前記5において主張したとおり,構成要件Oの意義は不明確ではない。その
余の被告の主張は争う。
13争点1−13(本件特許4は進歩性欠如の無効理由があるか)について
【被告の主張】
(1)別紙審決の5頁以下に記載されているとおり,引用例1に記載された引
用発明2(別紙審決6頁37行ないし7頁11行のとおり)に,引用例2や
乙第26号証の5,11ないし14,乙第75号証及び乙第76号証の各公
開実用新案公報記載の周知技術を適用すれば,当業者であれば,本件特許発
明4を容易に発明することができる。
,,。よって本件特許4は特許法29条2項に違反してなされたものである
(2)さらに,本件特許発明4は,引用例1に記載されたスイミングゴーグル
や,引用例6に記載された水中眼鏡を基本的構成(構成要件H及び同I)と
して,これらに周知慣用であった引用例2ないし6に記載の常套的手段を付
,,加したものにすぎず本件特許発明4の出願時における当業者にしてみれば
容易に推考できる程度のものである。
,,ア構成要件H及び同Iは左右一対の硬質プラスチック製のアイカップと
両アイカップを連結する鼻ベルトと,両アイカップの対向外端部相互を接
続する弾性バンドとから成り,前記両アイカップの左右対向内側には前記
鼻ベルトの取付台部が突設され,該取付台部に前記鼻ベルト両端部が取り
付けられているゴーグルであるところ,かかる構成は,引用例1の図1と
引用例6の第1図にも記載されているように,アイカップ連結式の水中ゴ
ーグルの基本的構成として周知である。また,水中ゴーグルにおいてアイ
カップを硬質プラスチックで作製することは当業者の間では常識技術に属
する。
イ構成要件J及び同Kは,アイカップと鼻ベルトとの連結を,断面略円形
の棒状突起と,該突起が相対回動可能に嵌合される係合孔とにより行うよ
うにしたアイカップと鼻ベルトとの連結構造を特定したものであるが,か
かる連結構造は,引用例1の段落【0018】並びに図6及び図7に記載
され,引用例5の第3図にも図示に開示されているところからも明らかな
とおり,周知技術である。
ウ構成要件Lは,アイカップを前面のレンズ部と該レンズ部の周縁から後
方に突出する周壁部とで構成を特定したものであるが,引用例6の第1図
の眼鏡体1と同一の構成である。当該眼鏡体1は,プラスチック製の円形
のレンズ及び防水用の枠部12とを一体成形して作製されたものであっ
て,本件特許発明4におけるレンズ部の周縁から後方に突出する周壁部と
で構成された硬質プラスチック製アイカップと同一であるから,構成要件
Lは,本件特許発明4特有の構成ではない。
エ構成要件Mは,アイカップの取付台部をレンズ部の前面よりも前方に向
かって斜めに突出するように設けた構成であるが,このような構成は,引
用例1の図1,図2及び図4に図示されており,加えて,引用例6の8頁
18行ないし9頁2行目に「本実施例では略箱状に突出させたブラケット
3について説明したが,ブラケットの形状はこれに限るものではなく,例
えば眼鏡体1の枠部12から舌状に突出させて先端部に係合孔を穿設した
ものであってもよい」と補足説明されているとおり「アイカップの取。,
付台部をレンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設け
た構成」は,本件特許の出願前に既に当業者間に知られていたのである。
また,引用例1に記載されたアイカップ1・1の対向内側のそれぞれに出
っ張った連結片2・2は,ジョイント10(本件各特許発明における鼻ベ
ルト)の裏面がゴーグルの着用時に着用者の鼻梁に当たらないようにする
ための自明の構成であり,当業者が必要に応じて自由に選択可能な設計事
項である。
オ構成要件Nは,棒状突起を取付台部の後面に対し周壁部側において鋭角
をなすという構成であるが,文理的には意味不明である。もし,本件明細
書に附帯する図面の図3及び図5の記載に徴し,棒状突起の先端部を斜切
り形状に成形して,鋭角側を周壁部側に配置するという意味ならば,なぜ
そのような構成が必要なのか技術的意味が不明であり,本件特許は特許法
36条6項2号に違反して特許されたものといわざるを得ず,不明瞭に記
載したことによる不利益は,原告が負担すべきである。
しかし,棒状突起の先端部を斜切りの形状に成形することは,係合孔に
嵌まりやすくするための自明の構成であって,引用例4にも開示されてい
,,るとおり古くから当業者に悉知されている当業者の常識技術であるから
構成要件Nの採用に進歩性は認められない。
カ以上のとおり,本件特許発明4は,その出願前に頒布された引用例1に
記載されたスイミングゴーグルを基本的構成とし,これに本件特許出願前
に周知慣用であった前示各引用例記載の公知ないし周知の技術を当業者が
適宜適用することによって構成することが可能であるから,特許法29条
2項の進歩性の特許要件を欠如していることは明らかであり,本件特許4
は無効である。
したがって,本件特許4は,無効審判により無効にされるべきものに該
当し,同特許に係る特許権を被告に対し行使することは許されない(特許
法104条の3第1項。)
(3)本件特許発明4と引用例2に開示されたゴーグルとは,本件特許発明4
における棒状突起は断面円形であって係合孔に相対回動可能であるのに対
し,引用例2記載の公知ゴーグルにあっては対応する連結帯係合片20が角
軸状を成して相対回動できない点で相違する(構成要件J及び同Kにおける
相違。)
しかし,係合片29を横断面円形の丸軸状と成し係合孔29の形状を丸孔
に形状変更することは,本件特許の出願当時の当業者にとっては技術常識で
,,。あり引用例1にもその旨明記されていることは既に述べたとおりである
してみれば,本件特許発明4と引用例2記載のゴーグルとの相違点は,常
識技術の適用によって当業者が容易に克服することが可能であって,本件特
許発明4には進歩性を認めることができない。
したがって,本件特許4は,特許法29条2項の規定に違反してされたも
のであるので,特許無効審判により無効にされるべきものに該当する(特許
法123条1項2号。)
【原告の主張】
前記10における原告の主張と同旨である。
14争点1−14(本件特許5には進歩性欠如の無効理由があるか)について
【被告の主張】
(1)本件特許発明5は,別紙審決5頁以下に記載のとおり,前記13【被告
の主張】に加えて,周知技術を引用発明2に適用すれば,容易に発明するこ
とができるものである。よって,本件特許5は,特許法29条2項に違反し
て特許されたものであって,特許無効審判により無効とされるべきものであ
る。
(2)構成要件Oは,棒状突起の先端部外周に前記後面に略平行に,という意
味が不明である。すなわち「前記後面」が何の後面を意味するのかが不明,
であるし,棒状突起がどのような形状になるのかも不明であって「後面と略
平行になる係止突部」の意義も理解することができない。
構成要件Pは,鼻ベルトの両端部の前後面は,取付台部の後面と略平行な
傾斜面に形成するというものであるが,鼻ベルトの係合孔に取付台部の棒状
突起を嵌合させ相対回動可能にするためには,鼻ベルトの両端部前後面が取
付台部の後面と平行になっていなければ,円滑に回らないことは自明のこと
であるから,鼻ベルト両端の前後面を取付台部の傾斜に合わせることは設計
事項であって,この点に進歩性は認められない。
構成要件Sは,鼻ベルト両端部の後面が係止突部に係止されているという
構造であるが,かかる構成もまた不明瞭である。鼻ベルト両端の係合孔から
の抜け止めだけの目的で棒状突起の先端部に係止突部を設け,この係止突部
を鼻ベルトの係合孔周縁に引っ掛けただけだとすると,引用例5に記載の水
泳用メガネにおける連結バンド本体の突条体12の隆起部13をレンズ部1
5における突起部15のバンド通し孔に引っ掛ける構造と同じであって周知
であるから,そこに進歩性を認めるべき理由はない。また,そのような構成
は,引用例1における段落【0002】ないし段落【0004】にも従来例
として図6を引用して例示されている。それゆえ,このような構成要件Sを
採用した点にも進歩性を認めるべき理由は見当たらない。
以上のとおり,本件特許発明5のゴーグルは,その出願前に頒布された引
用例1に記載されたスイミングゴーグルを基本的構成とし,これに本件特許
出願前に周知慣用であった前示各引用例記載の公知ないし周知の技術を当業
者が適宜適用することによって構成することが可能であるから,特許法29
条2項の進歩性の特許要件を欠如していることは明らかであり,本件特許5
は無効である。
,,,したがって本件特許5は無効審判により無効にされるべきものであり
本件特許権を被告に対して行使できない(特許法104条の3第1項。)
(3)本件特許の請求項5には,構成要件Oとして「棒状突起の先端部外周,
に前記後面と略平行になる係止突部が設けられ」という技術事項が付加して
あるが,引用例2記載の公知ゴーグルにあっても「ブラケット(15)の,
連結帯係合片(20)の端部(20a)前面及び対向端面(20b)に係止
突起(22(23」が設けられる(引用例2の請求項(3)及び第7図の符))
号22・23の引出線部分。)
そしてさらに,構成要件Pとして「鼻ベルトの両端部の前後面は,前記取
付台部の後面と略平行な傾斜面に形成され」という技術事項及び構成要件Q
として「係合孔は該鼻ベルトの両端部の前後面に対して傾斜して設けられ」
という技術事項も付加しているが,これらも前述の構成要件Gと同様に自明
な常識技術の付加に該当する。鼻ベルトの両端部が取付台部の後面と平行な
傾斜面を成しているのであるから,取付台部の後面から突出する棒状突起が
当該係合孔に円滑に嵌入するためには当該孔の開設方向も棒状突起に適合し
ていなければならない。構成要件Rとして「鼻ベルトの両端部の前面が,前
記取付台部の後面に面接触し」という技術事項も付加されているが,かかる
構成は本件親出願当初明細書に記載がなかった事項であり,そのこと自体が
本件特許の無効理由を構成する(特許法123条1項1号。さらに,構成)
要件Sとして「鼻ベルト両端部の後面が前記係止突部に係止されている」と
いう構成を限定条件として付加しているが,引用例2に「連結帯係合片20
には,第8図に拡大図示しているように端部20aの前面先端に係止突起2
2が突設されると共に,対向端面20b後方に係止突起23が突設され,連
結帯16が自然に外れないようにせられており(8頁8ないし12行目)」
と記載されていることからも明らかなとおり,構成要件Sに該当する技術手
段は,引用例2にも既に開示されていたのである。
したがって,本件特許発明5も,特許法29条2項に違反して特許された
ものであり,特許無効審判により無効にされるべきものに該当する。
【原告の主張】
本件特許発明5は,手続補正書(平成14年12月24日提出。甲20)に
よる補正直後の旧請求項7の記載事項に基づくものである拒絶理由通知書甲。(
22)において,旧請求項7は,鼻ベルト前後面の記載が不明瞭である点で拒
絶理由(特許法36条6項1号)があるとされたが,これは,本件特許発明5
の構成要件Pに対応する「前記鼻ベルトの両端部の前後面は,前記後面…」と
いう記載の「前記後面」が,直前の鼻ベルトの両端部の後面のこととして受け
取られるおそれがあったためである。当該拒絶理由は,手続補正書(甲25)
により「前記後面」が取付台部の後面であることを明記したため解消した。,
構成要件Oに関する被告の主張に対する反論は,前記12における原告の主
張のとおりである。
15争点1−15(出願経過禁反言の法理の適用の有無)
【被告の主張】
(1)原告は,平成14年12月24日提出の手続補正書(乙18の3)にお
いて,請求項4ないし7が引用例1及び引用例2に記載された公知技術に基
づいて当業者が容易に推考できるものであることを明確に自認した上で,特
許請求の範囲から請求項4ないし7を削除し,請求項1,請求項2及び請求
項3についてだけ,出願を維持し特許を受けた経緯がある。
してみれば,本件親出願から分割された本件各特許発明についても,本件
親出願の特許請求の範囲の上記請求項4ないし7に記載されていた技術事項
は,原告自身が進歩性を欠いたものとして当該技術的範囲から意識的に除外
したものといえる。
(2)分割出願に係る特許である本件特許の請求項1ないし5に記載された本
件各特許発明の技術的範囲から除外された技術事項は以下のとおりであり,
原告は,本件各特許発明の技術的範囲から,これらの技術事項を除外したの
である。
ア【請求項4】前面のレンズ部を備えた左右一対のアイカップと,該両
アイカップを連結する所定厚みの板状の鼻ベルトと,前記両アイカップの
対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成るゴーグルにおいて,前記
両アイカップの左右対向内側には前記鼻ベルトの取付台部が,前記レンズ
部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するよう設けられ,該取付台部
の後面である顔面側傾斜面に,顔面側に向かって突出する棒状突起が設け
られ,前記鼻ベルトの左右両端部に,前記棒状突起が相対回動可能に嵌合
される係合孔が設けられ,前記鼻ベルトの両端部の前面側に,前記取付台
部に取り付けるための凹み段差が設けられていることを特徴とするゴーグ
ル。
イ【請求項5】前面のレンズ部と,該レンズ部の周縁から後方に突出す
る周壁部とを備えた左右一対のアイカップと,該両アイカップを連結する
鼻ベルトと,前記両アイカップの対向外端部相互を接続する弾性バンドと
から成り,前記両アイカップの左右対向内側には前記鼻ベルトの取付台部
が突設されたゴーグルにおいて,前記鼻ベルトの左右両端部を後方に傾斜
させ,該両端部の傾斜面には係合孔が前後方向に貫通して設けられ,前記
取付台部は,前記レンズ部の前面よりも前方に斜めに突出するよう設けら
れ,前記取付台部の後面に,前記係合孔に嵌合する棒状突起が顔面側に向
かって突設され,該棒状突起の先端には係止突部を設け,ゴーグルを装着
して使用しているときの前記弾性バンドの張力により前記係合孔の各外端
側が前記取付台部と棒状突起の間に押し込められるようにアイカップと鼻
ベルトが連結されていることを特徴とするゴーグル
ウ【請求項6】前記棒状突起の先端部外周に係止突部を設け,前記鼻ベ
ルト両端部の後面には,前記係止突部が係止する切欠部が設けられている
ことを特徴とする請求項5記載のゴーグル。
【】,エ請求項7前面のレンズ部の周縁から後方に突出する周壁部を備え
該周壁部の左右一端側に鼻ベルトの取付台部が突設され,同他端側に弾性
バンドを接続するバンド接続部を備えたゴーグル用アイカップにおいて,
前記取付台部は,前記周壁部より前記レンズ部の前面よりも前方に向かっ
て斜めに突出するよう設けられ,該取付台部の後面には前記鼻ベルトに設
けられた係止孔に挿通される棒状突起が顔面に向かって突設され,該棒状
突起の先端部には前記鼻ベルト抜け止め用の係止突部が設けられているこ
とを特徴とするゴーグル用アイカップ。
【原告の主張】
原告は,意見書(乙18の9)において,拒絶理由通知(乙18の8)の対
象となった請求項4ないし7を削除することにより,本件親出願の拒絶理由が
解消するという当たり前のことを述べただけであり,特定の構成要件の解釈を
述べたわけでもなければ,本件訴訟において審査段階で述べた意見と異なった
主張を行っているわけでもない。むしろ,原告は,本件親出願についても,本
件分割出願についても,本件各特許発明の進歩性を積極的に主張することによ
って特許査定を受けたものである。また,本件親出願の請求項4ないし7は本
件各特許発明とは内容が異なるものでもあり,当該請求項の削除は本件各特許
発明の技術的範囲の解釈とは全く無関係である。
16争点1−16(公知技術の抗弁)について
【被告の主張】
(1)被告製品における技術的構成①(別紙被告物件目録参照。以下同じ)。
は「左右一対のアイカップ2a・2bと,この左右のアイカップ2aと2,
bとを互いに連接するブリッジ・リンク3aと,前記左右アイカップ2a・
2bの左右両端同士を鉢巻き状に連結し,かつ,バックル部4b・4cにお
いて長さ調節可能なゴムバンド4aとから構成されている(別紙被告物件目
録添付図面第1図参照」ものであるところ,かかる構成は,引用例1の図)
1及び引用例6の第1図にも開示されているようにアイカップ連結式の水中
ゴーグルの基本的構成として周知である。
(2)被告製品における技術的構成②は,引用例2に「ゴーグル本体12は,
第2図∼第9図に示しているように,レンズ部13が略だ円形で,この周縁
から後方に延びるスカート部14の開口周縁14aが着用者の眼部周囲の顔
面に沿う弯曲形状に,透明又は半透明のポリカーボネート又はセルローズプ
ロピオネート等の硬質合成樹脂により一体成形されている(7頁10ない」
し16行)と記載されているように,本件特許出願前から周知であり,同様
の構成は引用例6(5頁18行ないし6頁2行)にも開示されている。
(3)また,被告製品における技術的構成③は,引用例6に「本実施例では略
箱状に突出させたブラケット3について説明したが,ブラケットの形状はこ
れに限るものではなく,例えば眼鏡体1の枠部12から舌状に突出させて先
端部に係合孔を穿設したものであってもよい(8頁18行ないし9頁2。」
行目)と説明されているところからも明らかなとおり,本件特許出願前,ア
イカップのレンズ部6aと6bとが隣向して対向する縁角部のそれぞれに舌
状の持出ブラケット8a・8bを斜め前方へ差し延べるそれぞれ一体成形に
よって設ける構成は当業者間では周知技術であったのである。また,被告製
品における技術的構成④は「アイカップの周壁部7a・7bの接眼側端縁の
フランジFには,柔らかで弾力的な軟質樹脂製の濃色不透明なジャバラ形の
吸盤ベローズ7c・7dが嵌合接着」されるというものであるが,かかる構
成に関連した公知技術は,引用例2の第29図に図示され,かつ,その3頁
10ないし13行に「スカート部3の周縁には,ウレタンフォーム等の柔軟
弾性材料からなるパッド10が,接着剤等により固着されている」との記。
載に示されている。
被告製品における前記吸盤ベローズ7c・7dは,引用例2記載の前記パ
ッド10とは作用は異なるが,いずれも着用者の眼窩周縁に対する当たり感
触をソフトにしようとする点において共通する。
(4)被告製品ににおける技術的構成⑤に係る構成は,引用例5第3図の「隆
起部13」に図示されている。さらに引用例4第2図及び第3図の傾斜面2
に設けられた鉤顎形状のフック体は,被告製品におけるピボット軸10a・
10bの突端部に設けられた∠形のフック部11a・11bに対応する。被
告製品におけるピボット軸10a・10bの突端部の形状的工夫は,引用例
4及び引用例5に開示された周知技術とは必ずしも同じではないが,被告製
品におけるピボット軸10a・10bの前提技術ともいえるので,念のため
引用しておく。
(5)また,被告製品の技術的構成⑥に係る構成のうち,被告製品におけるブ
リッジ・リンク3aは引用例5における連結バンド11に該当する。この連
結バンド11の左右両端は内窄まりの内股形状に成形されている(引用例5
第4図参照。しかして,引用例5の連結バンド11は,必ずしも被告製品)
におけるブリッジ・リンク3aとは同じ構成ではなく滑りリブ32a・32
bのような改善工夫が見られるが,被告製品に対し前提技術であるので,念
のために引用しておく。
(6)さらに,被告製品における技術的構成⑦に係る構成は,引用例1の図1
や,引用例2の第1図及び引用例6の第6図ないし第9図に図示されている
ように周知慣用の技術事項である。
(7)以上のように,被告製品は,技術的構成①を基本的骨組みとして,これ
に上記引用例1ないし6に開示された当業者に常識の公知技術と製造元が特
許出願することなく公知にした技術的工夫とを加味して製作されたものであ
る。
また,既述のとおり,本件各特許発明は,いずれも引用例1や引用例6の
ような古い実用新案の部分的改変にすぎず,本件特許出願当時の技術水準か
らみて進歩性を欠如しているので,このように公知技術と同視すべき技術領
域に属する被告製品は本件各特許発明の技術的範囲から除外されているとい
うべきである。
よって,原告による特許権侵害の主張には,理由がない。
【原告の主張】
被告は,被告製品が公知技術の組合せであると述べているだけで,公知技術
に基づいて当業者が容易に想到できたことの論理付けはしていない。したがっ
て,被告の主張はそもそも主張自体失当である。
17争点2−1(被告意匠は本件登録意匠と類似するか)について
【原告の主張】
(1)本件登録意匠の構成
ア基本的構成態様
①左右一対のアイカップと,両アイカップを連結する鼻ベルトと,両ア
イカップの対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成る。
②各アイカップは,レンズ部とその周縁から後方に突出する周壁部を備
えている。
③各アイカップの左右対向内側において,鼻ベルトの取付台部がレンズ
部よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられている。
④両アイカップの鼻ベルトの取付台部間に鼻ベルトが取り付けられてい
る。
イ具体的構成態様
⑤アイカップのレンズ部は横長の略楕円形状である。
⑥アイカップの周壁部のレンズ部に接する角度は,対向外端部は鈍角,
対向外端部を除く部分は略直角である。
⑦アイカップの周壁部の対向外端部は,略V字状の輪郭を有するように
外方に向かって細くなった,なだらかな曲面となっている。
⑧アイカップの周壁部の後部にはフランジが形成されている。
⑨鼻ベルトの取付台部は,略舌片形の板状であり,レンズ部の外縁から
斜め前方に突設されている。
⑩各アイカップの周壁部の対向外端部には上下方向のバンド挿通孔が設
けられている。
⑪鼻ベルトは,正面視において,上下方向の幅が長手方向両端部より中
央部が狭くなるように,上下縁が緩やかにカーブしている。
⑫鼻ベルトは,中間部の前面が比較的平坦で,長手方向両端部が,後方
に向かって傾斜状に延びて前記取付台部の後側に位置するようになって
いる。
⑬弾性バンドは中央部と両端部が帯状で,他の中間部がひも状であり,
両端部はそれぞれ両端が丸みを帯びた横長の留具に通され,中間部は前
記バンド挿通孔に通されている。
(2)本件登録意匠の要部
本件登録意匠の出願前の公知意匠としては,意匠登録第738340号公
報(甲14)に記載の「水中めがね」に係るものがある。この公知意匠は,
左右一対のアイカップと,両アイカップを連結する鼻ベルトと,両アイカッ
プの対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成り,各アイカップは,レ
ンズ部とその周縁から後方に突出する周壁部を備えており,各アイカップの
周壁部の対向外端部は,弾性バンドの挿通孔が設けられた外端縁が四角形状
,,,に切欠した形状の輪郭を有しそしてアイカップの左右対向内側において
レンズ部よりも前方に向かって斜めにやや反り返るように突出し,上下にア
イカップの周壁部とほぼ同じ幅で連続する面を有する形状の鼻ベルトの取付
部が設けられ,この取付部に鼻ベルトが前方に湾曲した状態で突出するよう
に設けられた態様となっている。
この公知意匠に対し,本件登録意匠は,アイカップの周壁部,鼻ベルトの
取付台部及び鼻ベルトの態様に関し,前記(1)の⑦,⑨,⑪及び⑫のように
した点及びこれらと他の要素との組合せにおいて新規である。
また,これと併せて,本件登録意匠の本件各類似意匠が,アイカップ・鼻
ベルトの細部形状,アイカップの周壁部のフランジに取り付けられるパッド
の有無,弾性バンドの構成について,本件登録意匠と差異があるにもかかわ
らず,類似意匠登録されていることを考慮すると,本件登録意匠の要部は,
本件各類似意匠との共通点,すなわち,左右一対のアイカップと,両アイカ
ップを連結する鼻ベルトと,両アイカップの対向外端部相互を接続する弾性
バンドとから成り,各アイカップは,レンズ部とその周縁から後方に突出す
る周壁部を備えた水中眼鏡において,周壁部の対向外端部が外方に向かって
細くなっており,さらに,左右対向内側においてレンズ部よりも前方に向か
って斜めに突出するようにした鼻ベルトの取付台部が設けられており,鼻ベ
ルトは,長手方向両端部が後方に向かって傾斜状に延びて前記取付台部の後
側に位置するようになっている点にある。
すなわち,従来意匠との関係で本件登録意匠が特徴的なのは,各アイカッ
プの外方に向かって細くなった周壁部の対向外端部と,略舌片状の鼻ベルト
の取付台部とが呼応するとともに,鼻ベルトが前方に大きく湾曲して突出す
ることなく,その長手方向両端部が前記取付台部の後側に位置することによ
って呈する,左右のアイカップと鼻ベルトとの一体性あるスマートな美感に
ある。このように,本件登録意匠は,主に正面視におけるスマートな美感が
特徴的である。
(3)被告意匠の構成
被告意匠の構成は,別紙被告物件目録添付図面第1図,第3図ないし第1
3図,第16図ないし第19図のとおりである。同目録添付図面第2図及び
第14図は,被告意匠を正確に表現しておらず,第2図は削除し,第14図
の代わりに別紙イ号物件目録添付図面図10によるのが相当である。
ア基本的構成態様
①左右一対のアイカップと,両アイカップを連結する鼻ベルトと,両ア
イカップの対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成る。
②各アイカップは,レンズ部とその周縁から後方に突出する周壁部を備
えている。
③各アイカップの左右対向内側において,鼻ベルトの取付台部がレンズ
部よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられている。
④両アイカップの鼻ベルトの取付台部間に鼻ベルトが取り付けられてい
る。
イ具体的構成態様
⑤アイカップのレンズ部は横長の略楕円形状である。
⑥アイカップの周壁部のレンズ部に接する角度は,対向外端部は鈍角,
対向外端部を除く部分は略直角である。
⑦アイカップの周壁部の対向外端部は,略V字状の輪郭を有するように
外方に向かって細くなった,なだらかな曲面となっている。
⑧アイカップの周壁部の後部にはフランジが形成されており,フランジ
にはくびれのある軟質なパッドが着脱可能に設けられている。
⑨鼻ベルトの取付台部は,略舌片形の板状であり,レンズ部の外縁から
斜め前方に突設されている。
⑩各アイカップの周壁部の対向外端部には,斜め前後方向のバンド挿通
孔が設けられている。
⑪鼻ベルトは,正面視において,上下方向の幅が長手方向両端部より中
央部が狭くなるように,上下縁が緩やかにカーブしている。
⑫鼻ベルトは,中間部の前面が比較的平坦で,長手方向両端部が後方に
向かって傾斜状に延びて前記取付台部の後側に位置するようになってい
る。
⑬弾性バンドは全体が帯状で,両端部がそれぞれバンド挿通孔と縦長の
留具に通されている。
(4)被告意匠と本件登録意匠との類否
ア本件登録意匠と被告意匠とは,基本的構成態様①,②,③及び④並びに
具体的構成態様⑤,⑥,⑦,⑨,⑪及び⑫において共通するが,具体的構
成態様⑧,⑩及び⑬については差異がある。
しかし,具体的構成態様⑧,⑩及び⑬は,本件登録意匠と本件各類似意
匠との関係からも分かるように,細部に関するものにすぎず,被告意匠は
本件登録意匠とその要部において相違するものではない。
被告意匠が呈する美感は,前記のとおり,本件登録意匠の,各アイカッ
プの外方に向かって細くなった周壁部の対向外端部と,鼻ベルトの取付台
部とが呼応するとともに,鼻ベルトが前方に大きく湾曲して突出すること
なく,その長手方向両端部が前記取付台部の後側に位置することによって
呈する,左右のアイカップと鼻ベルトとの一体性あるスマートな美感と共
。,,通しているそしてかかる正面視は需要者が実際に目にする形状であり
。,,商品選択において極めて重要な役割を担うとりわけ被告製品のように
弾性バンドが折りたたまれた状態でケースに収納されている場合や,イン
ターネットで商品選択を行う場合には(甲35,需要者としては正面視)
を拠り所に商品選択を行うほかない。したがって,正面視の美感は極めて
重要であり,被告意匠の美感も,上記のような正面視にこそ存在する。被
告自身も,正面視を重視しているからこそ,あえて自ら正面視によって被
告製品の販促活動を行っているのである。
イ被告は,被告意匠は,Aアイカップの周壁部のフランジに取り付けられ
るパッド(被告のいう「吸盤ベローズ)と,B両アイカップ間の弾性バ」
ンド(被告のいう「ゴムバンド)の呈する美感により,本件登録意匠と」
は非類似である旨主張する。
しかし,被告意匠が呈する美感は,前記のとおり,各アイカップの外方
に向かって細くなった周壁部の対向外端部と,鼻ベルトの取付台部とが呼
応するとともに,鼻ベルトが前方に大きく湾曲して突出することなく,そ
の長手方向両端部が前記取付台部の後側に位置することによって呈する,
左右のアイカップと鼻ベルトとの一体性あるスマートな美感であり,被告
,。,意匠の上記A及びBの点はこの美感を凌駕するものではないすなわち
被告意匠のパッドは,正面視においてさほど注目される部材ではなく,本
件登録意匠や本件各類似意匠におけるアイカップの周壁部のフランジやパ
ッドと比較して,特段特徴的な形態を有していない。意匠登録第7333
(),(),80号公報甲28実公昭62−145658号公報甲29には
被告意匠のパッドと同様な形状のものが記載されており,それ自体新規な
ものでもない。また,被告意匠の1本締め様とした弾性バンドの形態は,
本件類似意匠1の弾性バンドの形態とさほど違わず,原告が旧社名「山本
防塵眼鏡株式会社」時代である昭和55年8月以前(甲30)に発行した
カタログ「SwimmingGoggles(甲31)や,米国特許」
公報第3944345号甲32の第1図で挙げられている公知意匠p()(
riorart)には,被告意匠の弾性バンドと同様の形状のものが記
載されており,それ自体新規なものでもない。さらに,パッドが顔面に吸
着するような形状で,かつ弾性バンドを1本締め様としたものは,実開昭
52−158500号公報(甲33)や,米国意匠特許公報第35049
6号(甲34)に見られるように,従来から存在しており,被告製品の上
記A及びBの点により呈する美感は特徴的なものではない。
このように,被告意匠は,本件登録意匠のポイントとなる部分において
共通し,ポイントではない部分において微細な差異を備えているにすぎな
い。したがって,被告意匠は,明らかに本件登録意匠に類似する。
ウ被告は,被告意匠における「アイカップと吸盤ベローズとの一体形状を
強調するツートーン・カラーの形態美」については,甲第31号証及び甲
第32号証には記載がないと主張する。しかし,同各甲号証のゴーグルに
おいては,明らかに,アイカップが透明色で吸盤ベローズ(パッド)が不
,(,)透明色のツートーン・カラーをなしており本件類似意匠4甲817
や意匠登録第738340号公報(甲14)の意匠についても同様のこと
がいえる。さらに,黒色以外のパッドに限定したものとしても,原告発行
の1990年のカタログ「’90SWIMMINGGEARSCA
」(),(),,TALOG甲40には吸盤ベローズパッドをピンクブルー
イエロー等としたツートーン・カラーをなすゴーグルが記載されている。
このように,ツートーン・カラーはありふれたものであって,被告意匠に
おける本件登録意匠との共通の美感を凌駕するには至らない。そもそも,
アイカップは透明色にする必要があるのに対し,吸盤ベローズ(パッド)
は透明色にする必要がないのであるから,吸盤ベローズ(パッド)付きの
ゴーグルがツートーン・カラーをなすことは当たり前なのである。
エさらに,被告は,本件各類似意匠は,平成8年3月1日発行の雑誌「S
WIMMING&WATERPOLOMAGAZINE」3月号広告
『SWΛNS(SPORTS(乙17)により無効理由を有するとし)』
た上で,無効理由を有する類似意匠はその本意匠についての類否判断に当
たって拘束力を持つものではないことを示した大阪地方裁判所判決(平成
14年(ワ)第457号)を引用し,原告が本件各類似意匠の存在をもっ
て,被告意匠との類否を論ずることは許されない旨主張する。
しかし,同判決の趣旨は,旧意匠法10条1項が「意匠権者は,自己の
登録意匠にのみ類似する意匠について類似意匠の意匠登録を受けることが
できる」と規定していたところ「自己の登録意匠」の出願と類似意匠の,
出願との中間に「自己の登録意匠」以外の他人の公知意匠が介在し,こ,
れに当該類似意匠が類似する場合には,その類似意匠についての意匠登録
は意匠法3条1項の規定に違反してされたものとして無効理由を有するか
ら,本意匠の要部認定に当たり当該類似意匠を参酌するのは相当ではない
というものである。しかるところ,乙第17号証に記載されているのは本
件登録意匠の実施品であり「自己の登録意匠」であるから,これに類似,
する本件各類似意匠は,意匠法3条1項の規定に違反して登録されたもの
ではなく,同登録は無効理由を有しない。
,「」仮に自己が公知にした意匠は旧意匠法10条1項の自己の登録意匠
には当たらず,本件各類似意匠の意匠登録が無効理由を有するとしても,
乙第17号証の公知意匠に本件各類似意匠が類似するということは,当該
公知意匠と同一の本件登録意匠にも本件各類似意匠が類似することを意味
するのであり,よって,本件各類似意匠の意匠登録に無効理由があろうと
なかろうと,本件登録意匠の類似範囲が本件各類似意匠にまで及ぶことが
確認できることに違いはない。
,,()結局のところ本件の審理のためには本件登録意匠の実施品乙17
と本件各類似意匠(甲5ないし9,15ないし18)が真に類似している
ことを被告自身も認めていることが重要なのであり,このことを前提とす
れば,本件登録意匠の要部や被告意匠との類似に関する原告の分析が正し
いことが自然と導かれるのである。
オ以上のとおり,被告意匠は,本件登録意匠に類似する。
【被告の主張】
(1)本件登録意匠の構成
ア本件登録意匠の基本的構成態様
①左右一対のアイカップと,これら左右のアイカップとを互いに連接す
る鼻ベルトと,前記両アイカップの左右両端同士を繋ぐ鉢巻きループを
構成する弾性バンドとによって,前記一対のアイカップを着用者の眼部
にあてがって弾性バンドを後頭部に巻き付けることにより着装して潜水
遊泳可能なゴーグルを構成している。
イ本件登録意匠の具体的構成態様
②左右のアイカップは,正面のレンズ部と当該レンズ部から後方(着用
者に対し接眼側)へ突出する筒形の周壁部とを一体に有し,かつ,左右
のアイカップの対向部分はレンズ部を囲う周縁部分が斜め前方へ先細り
状に延び出して持出ブラケットを形成している(別紙本件意匠公報の斜
視図,正面図及び平面図参照。)
③左右アイカップにおける筒形周壁部の接眼側周縁は,着用者の眼窩周
縁に適合可能なように弯曲形状に成形されている(別紙本件意匠公報の
平面図参照。)
④左右アイカップが構成する当該水中眼鏡のフロント部の両外側には,
縦に長いバンド挿通孔が穿設されて,このバンド挿通孔の上口部分と下
口部分には弾性バンドが挿通されて上下2段に分岐して配設されている
(別紙本件意匠公報の正面図,背面図及び右側面図参照。)
⑤鼻ベルトは,左右に股開き状に分岐する股部,中間部は圧肉部に成形
された細幅の弯曲板材であり,左右のアイカップから持ち出された持出
ブラケットと鼻ベルト両端の股部とを何らかの連結手段で固定している
(別紙本件意匠公報の平面図参照。)
⑥上記フロント部の両外側に穿設されたバンド挿通孔に上下2段に分岐
して挿通された弾性バンドは,バンド挿通孔に挿通された近傍部分と着
用者の側頭部に沿う部分では丸紐状を成し,着用者の後頭部に当接する
部分では平らかな帯状を成しており,丸紐状部分はバンド挿通孔に引き
通されて当該挿通孔の上口と下口とから上下2段に分岐して2段ループ
を形成し(別紙本件意匠公報の正面図,背面図,平面図及び右側面図参
照,後頭部側に配設したバックルにおいて着用者の頭回りサイズに合)
わせて調節可能に構成してある。したがって,本件登録意匠に係る水中
眼鏡は,着用者の後頭部を上下2段に巻き締めて水泳時における水抵抗
によるアイカップの捲くれを安定させる機能を有することを予想せしめ
る。また,弾性バンドが上下2段に分岐して接続される左右アイカップ
両側部分は,先細鋭角状の斜状フィンが,径を接眼方向に拡大しながら
広がるアイカップ外側の接眼縁に架橋状に連設されて,そこに上下に貫
通する上下方向へ深く抜けた平面視が略ナス形のバンド挿通孔が形成さ
れている。
(2)被告意匠の構成
被告意匠の構成は,別紙被告物件目録添付図面第1図ないし第19図のと
おりである。
ア被告意匠の基本的構成態様
①左右一対のアイカップと,これら左右のアイカップとを互いに連接す
るブリッジ・リンクと,前記両アイカップの左右両端同士を繋ぐ鉢巻き
ループを構成するゴムバンドとによって,前記一対のアイカップを着用
者の眼部にあてがってゴムバンドを後頭部に巻き付けることにより着装
して潜水遊泳可能な構成を備える(別紙被告物件目録添付図面第13図
の斜視図参照。なお,被告意匠の意匠形態における別紙被告物件目録)
添付図面第13図ないし第19図に示す意匠各部の部分名称について
は,同図面第1図ないし第12図に示す図面の該当箇所の符号名称を参
照されたい。
イ被告意匠の具体的構成態様
②左右のアイカップは,淡色透明のポリスチレン樹脂を一体成形して成
る硬質シェル部と,弾力的に圧縮復元可能な吸盤ベローズとから構成さ
れており,前記硬質シェル部は,正面のレンズ部と当該レンズ部周縁か
ら後方(接眼側)へ突出する筒形の周壁部とを一体に有し,かつ,前記
アイカップにおけるレンズ部の対向縁角部のそれぞれには,舌状の持出
ブラケットが斜め前方へ差し延べるように一体成形してある(別紙被告
物件目録添付図面第13図の斜視図,第16図の平面図及び第17図の
底面図参照。)
③左右のアイカップを構成する吸盤ベローズは,柔らかで弾力的な濃色
不透明の軟質樹脂により中腹部が断面略U字状に弯曲するように溝形を
呈する環状ジャバラ形に成形されており,上記アイカップの接眼側端縁
に強固に接着されることよってアイカップの硬質シェル部と一体を成し
当該硬質シェル部との間に境界線の明確なツートーン・カラーの濃淡模
様を現出している(別紙被告物件目録添付図面第4図,第13図の斜視
図,第16図の平面図,第17図の底面図,第18図及び第19図の左
・右側面図参照。しかして,被告意匠のアイカップは,吸盤ベローズ)
の開口縁側を眼窩の周縁に圧接させると,前記U字形溝部分が緩やかに
弾性変形してたわむ一方,前記圧接力を解除すればカップの内部が減圧
状態となって,左右のアイカップが吸盤のように眼窩周縁に吸着するこ
とが一目瞭然である。
④左右のアイカップの対向角部に突成された上記舌状持出ブラケットの
接眼側には,ピボット軸が周壁部の対向面と略平行に突設されており,
これらピボット軸の突端部は,前記持出ブラケットの傾斜に沿うように
片流れ形状の丸頭ヘッドを形成し,周壁部側は角丸の法肩(のりかた)
を成し,その反対側は当該ブラケットの突端方向へ∠形に突出するフッ
ク部を形成している(別紙被告物件目録添付図面第3図,第5図,第7
図,第8図,第16図の平面図及び第17図の底面図参照。)
⑤ブリッジ・リンクは,左右に股開き状に分岐する股部,中間部は厚肉
部に成形された軟質樹脂製の細幅湾曲板状のリンク部材であって,当該
ブリッジ・リンクの左右両端近傍には,上記ピボット軸と略同径の貫通
孔が開設してあり,かつ,前記股部の厚肉部寄りの前面側には滑りリブ
(,,がそれぞれ形成されている別紙被告物件目録添付図面第5図第7図
第8図,第16図の平面図及び第17図底面図参照。)
⑥上記左右一対のアイカップは,アイカップの対向する内側部に突成さ
れた持出ブラケットの上記ピボット軸が,上記ブリッジ・リンクの両端
近傍の貫通孔のそれぞれに押込み貫入され,ピボット軸突端の丸頭ヘッ
ドのフック部を前記ブリッジ・リンクの貫通孔の孔縁に引っ掛け連結さ
れて,左右のアイカップとブリッジ・リンクとをピボット軸の周面を中
心に相対回動可能に連接されてゴーグルのフロント部分を構成してい
る。
⑦ゴムバンドは,左右両アイカップの両端に持出状に添設したフィンの
バンド通し孔に折返し状態で挿通されてバックル部において長さ調節可
能に1本締めの鉢巻きループを形成している(別紙被告物件目録添付図
面第13図の斜視図,第16図の平面図,第17図の底面図,第18図
及び第19図の左・右側面図参照。)
(3)被告意匠と本件登録意匠との類否
ア被告意匠が呈する美感
被告意匠が呈する美感は,次のとおりである。
(ア)被告意匠全体においてアイカップと吸盤ベローズ(パッド)との一
体形状との形状を強調するツートーン・カラーの形態美
被告意匠にあっては,左右アイカップの周壁部接眼側の端縁のフラン
ジに,柔らかで弾力的な濃色不透明の軟質樹脂により中腹部が断面略U
字状に弯曲するように溝形を呈する環状ジャバラ形の吸盤ベローズ(原
告のいう「パッド)が一体に嵌合接着され,前記アイカップのレンズ」
部及び円筒形周壁部とによって境界線の明確な鮮やかなツートーン・カ
ラーの濃淡模様を現出しているところから,アイカップの形状と環状ジ
ャバラ形の吸盤ベローズの形状との織りなすアイカップのフォームがツ
ートーン・カラーにより強調され看者の興味を惹く視覚的な注意喚起性
を発揮して需要者の購買意欲をそそり得る。
,,,これに対し原告はツートーン・カラーはありふれたものであって
本件登録意匠との共通する美感を凌駕するに至っていないと主張する。
世にツートーン・カラーというデザインの表現様式があまねく知られて
いるのは事実である。しかし,原告の引用する甲第40号証のパンフレ
ットが平成2年に日本国内に頒布されていた事実は被告の知るところで
はないが,仮に,それが国内に頒布されていたとしても,環状ジャバラ
形の吸盤ベローズの形状とアイカップのフォームとが織りなすツートー
ン・カラーによって強調されて需要者の興味を惹き視覚的に注意を喚起
する被告意匠が奏する意匠効果を発揮する事実までも否定されるもので
はない。したがって,被告意匠における環状ジャバラ形の吸盤ベローズ
の形状とアイカップのフォームとが織りなすツートーン・カラーがあり
ふれた形態であるとする原告の主張は意味不明である。
(イ)被告意匠全体において吸盤ベローズ部分が呈する機能美
被告意匠にあっては,左右のアイカップにおける周壁部の接眼側の端
縁のフランジに,柔らかで弾力的な軟質樹脂製の不透明なジャバラ形の
吸盤ベローズが嵌合接着されているので,需要者は,一見しただけで,
着用時に眼窩周縁に対する感触が良好なアイカップ吸着機能を感得して
そこに機能美を見出し,購入の際の選択のポイントとなる評価対象とし
て重視されるのである。
(ウ)被告意匠全体においてゴムバンド(原告のいう「弾性バンド)部」
分が呈する機能美
被告意匠にあっては,ゴムバンドは左右両アイカップの両端に持出状
に添設したフィンに開設されたバンド通し孔に折返しに挿通されてバッ
クル部において長さ調節可能な1本締めの鉢巻きループを形成している
ので,着用の際に着用者が頭部を1本締めでスマートにすっきりと巻締
め可能であることを一目で感得することができ,上記吸盤ベローズのア
イカップ吸着機能とも相まって,水泳時の水抵抗でアイカップが離脱す
るおそれもないと安心することができ,そこに機能美を見出して水泳を
安心して楽しめる格好良い水中ゴーグルとして購入時の選択ポイントに
なる。
ちなみに,本件登録意匠における弾性バンドは,左右アイカップの外
端における上下のバンド挿通孔(別紙本件意匠公報の右側面図参照)の
上口及び下口から上下2段に分岐して後頭部に回されるのに対し,本件
特許公報の図14にあっては同一支点から後頭部に回されている点に使
用上の差異があるだけであって,1本締めの鉢巻きループ方式を採用し
ている被告製品(別紙被告物件目録添付図面第18図及び第19図の左
・右側面図参照)とは使用時における着用者のボディー・イメージは顕
著に異なる。
バンド挿通孔の形状についても,本件登録意匠の審査を担当した特許
庁審査官は,審査段階で本件登録意匠における弾性バンド挿通孔周辺の
形状を重視して,拒絶理由通知書(乙24)を発し「本体のひも通し,
孔周辺の断面図」の提出を要求していた経緯があることからみて,上記
形状は本件登録意匠において重要なポイントに該当することを指摘して
おきたい。
イ被告意匠と本件登録意匠との類否について
被告意匠は,本件登録意匠とは基本的構成態様においては一致し共通性
が認められるが,具体的構成態様を成すところの外観形態において顕著に
相違している。
すなわち,被告意匠は,その具体的構成態様②③において説明したとお
り,左右のアイカップが淡色透明のポリスチレン樹脂から成る硬質シェル
(レンズ部及び筒形の周壁部の成形部分)と,濃色不透明の軟質樹脂から
成る吸盤ベローズとから構成されて,境界線の明瞭なツートーン・カラー
の濃淡模様を現出しているのに対し,本件登録意匠における左右のアイカ
ップは,濃色不透明の軟質樹脂製の吸盤ベローズを欠き,レンズ部とその
周縁より後方に突出する周壁部とで構成した単純な形態の左右のアイカッ
プからは被告意匠におけるようなツートーン・カラーの濃淡模様は決して
生じ得ない。
また,被告意匠における具体的構成態様⑦のゴムバンドは,左右両アイ
カップの両端に持出状に添設したフィンのバンド通し孔に折返し状態で挿
通されてバックル部において長さ調節可能に1本締めの鉢巻きループを形
成しているのに対し,本件登録意匠における弾性バンドは,左右アイカッ
プの外端に穿設された上下に長いバンド挿通孔に引き通されて当該挿通孔
の上口と下口とから上下2段に分岐し2段ループとなって着用者の後頭部
を上下2段に巻き締める形態になっているので,その使用時における使用
形態が全く違うことが両者の外観からただちに認識可能である。
したがって,被告意匠は,その外観の呈する上記ア(ア)のツートーン・
カラーで強調された形態美,及び同(イ)のアイカップ吸盤ベローズ部分が
発揮する意匠効果としての機能美,同(ウ)のゴムバンドの1本締め鉢巻き
ループ部分が発揮する意匠効果としての格好良い機能美を備える点に特徴
があり,当該外観から得られる美的印象は本件登録意匠とは顕著に相違す
る。さらに被告が強調しておきたいことは,本件登録意匠における弾性バ
ンド(ゴムバンド)は,別紙本件意匠公報の正面図,背面図及び右側面図
を見ても明らかなように上下2段に配設されており,この水中眼鏡を着装
するならば,着用者の後頭部を上下2段の2本締めの状態となるはずであ
って,被告製品とは装着状態において顕著な差異が生ずる。このような使
用状態における外観的差異は,ファッション性を重視するスイミング愛好
の着用者のスタイル及びボディー・イメージに大きく影響するのであっ
て,一般需要者にとって重大な関心事となり,購入選択時における意思決
定上の大切なポイントとなることに疑いはない。
ちなみに,本件登録意匠における弾性バンドは,左右アイカップの外端
における上下のバンド挿通孔(別紙本件意匠公報の右側面図参照)の上口
部分及び下口部分から上下2段に分岐して後頭部に回されるのに対し,本
件特許公報の図14にあっては同一支点から後頭部に回されている点に使
用上の差異があるだけで,1本締めの鉢巻きループ方式を採用している被
告製品のゴーグル(別紙被告物件目録添付図面第18図及び第19図の左
・右側面図参照)とは使用時における着用者のボディー・イメージが顕著
に異なるのである。
以上のとおり,被告意匠は,本件登録意匠とは具体的構成態様が顕著に
相違し,かつ,その相違から生ずる視覚的美感も全く異質であって,市場
において一般需要者が関心を持つ構成上の美的ポイントの所在も全く違う
ので,両意匠に係る物品を彼此混同するおそれはなく,明らかに両意匠は
非類似である。
ウ原告の主張に対する反論
(ア)本件各類似意匠について
原告は,本件登録意匠についての類似意匠(本件各類似意匠)の存在
を主張し,本件登録意匠の類似範囲がさも広いかのように主張する。
しかしながら,旧意匠法10条1項により類似意匠登録を受けること
ができる意匠は「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」であり,それ,
以外の意匠については類似意匠の登録を受けることができず(同法17
条1号,もし誤って登録された場合には,当該類似意匠登録は無効審)
判により無効とされる(同法48条1項1号。また,意匠権侵害訴訟)
において,訴訟物となるのは登録された本意匠だけであって,登録類似
意匠の存在は当該類似意匠出願の時点において特許庁が本意匠と当該類
似意匠とが類似していると判断した経緯を示すものであり,登録類似意
匠の存在は権利範囲を認定する一資料となるにすぎない(乙16。大阪
地方裁判所平成6年7月19日「脱臭器事件」判決。)
そこで,案ずるに,本件登録意匠に附帯する本件各類似意匠のそれぞ
れを具体的に観察すれば,本件登録意匠とは全く類似していないことが
一見して明らかである。もし,かように顕著な外観上の差異があるのに
類似と判断されたとすれば,引用例1の図1や,引用例2の第1図及び
引用例6の第6図ないし第9図に図示された公知意匠の存在を審査官が
看過して類似意匠登録したものといわざるを得ない。
さらに,本件各類似意匠については,その登録出願前に市場で販売さ
れていた水中ゴーグルに関する公知文献が多数存在しているのであるか
ら(例えば,乙17:平成8年3月1日発行の雑誌「SWIMMING
&WATERPOLOMAGAZINE」3月号広告『SWΛNS
(SPORTS』参照,その意味において公知意匠にも類似するも))
のであって,自己の登録意匠にのみ類似する意匠には該当せず,無効理
由を内在しているといわざるを得ない。
すなわち,原告は,乙第17号証に記載されている「SWΛNS(S
PORTS」のゴーグルは,本件登録意匠の実施品であり「自己の),
登録意匠」であるから,これに類似する本件各類似意匠は,意匠法3条
1項の規定に違反して登録されたものではないと主張する。しかしなが
ら,乙第17号証に記載の「SWΛNS(SPORTS」のゴーグル)
は,左右アイカップにおける顔面に当接するフランジ部分が特に,同号
証に写る当該ゴーグルの右側アイカップ(向かって右)における「ひも
通し孔」の近傍の形状と別紙本件意匠公報の斜視図に図示される右側ア
イカップにおける「ひも通し孔」の近傍部位の形状とを対照してみても
明らかなとおり,目尻側において眼窩に当接するフランジ部分の張り出
し幅が前者のフランジのほうが格段に幅広に延成されていることに加え
て,持出ブラケットの形状及びアイカップの形状も顕著に異なっている
から,本件登録意匠の実施品であるとは到底いえない。
よって,原告は,本件各類似意匠の存在をもって,本意匠の類似範囲
を拡大解釈して被告に主張することは許されない。
(イ)原告は,本件登録意匠における左右のアイカップと鼻ベルトとの関
係で一体性のあるスマートな美感を生ずると主張し,その美感が被告意
匠の美感と共通しているから相互に類似すると主張するようであるが,
そのような形態の水中眼鏡は,乙第21号証(実開昭53−15370
0号公報)にも開示されているように,ごくありふれたものであって,
本件登録意匠の支配的要素,ないし美的ポイントと呼ぶに値しない物品
形態である。
また,原告は,左右アイカップの周壁部両端が外方に向かって細くな
っている点が本件登録意匠の特徴であると主張するが,本件登録意匠の
特徴は,弾性バンドが上下2段に分岐して接続される左右アイカップ両
側部分が,先細鋭角状の斜状フィンが,径を接眼方向に拡大しながら広
がるアイカップ外側の接眼縁に架橋状に連設されて,そこに上下に貫通
する上下方向へ深く抜けた平面視が略ナス形のバンド挿通孔が開設され
ている点にあるのであり,そのことは本件登録意匠の前記出願審査の経
緯からみても明らかである(乙24参照。)
(ウ)さらに,念のために,本件登録意匠の出願前に国内で知られていた
公知意匠としては,乙第21号証のほかに,次に掲げる文献記載のもの
が存する。
①実開昭56−95260号公報(乙31)の第1図に図示された水
中眼鏡
②実開昭62−145657号公報(乙32)の第1図及び第3図に
図示された水中眼鏡
③実開昭63−160818号公報(乙33)の第1図に図示された
ゴーグル
④特開昭63−260578号公報(乙34)の第1図に図示された
水中ゴーグル
⑤実開平2−37669号公報(乙35)の第4図に図示されたスイ
ミングゴーグル
⑥実開平6−29555号公報(乙36)の図1及び図9に図示され
たスイミングゴーグル
⑦実開平6−44563号公報(乙37)の図3に図示された水泳用
ゴーグル
⑧特開平4−144556号公報(乙38)の第4図に図示されたゴ
ーグル
⑨特開平6−190081号公報(乙39)の図1,図2及び図27
に図示された水泳用ゴーグル
上記①ないし⑨の公知意匠と本件登録意匠及びこれに附帯する本件各
類似類似意匠とを較べてみると,次のとおりである。なお,これら意匠
のうち,本件登録意匠(甲3)と本件類似意匠3(甲7)は弾性バンド
の形状に差異が認められるが,他の部分の形状はほとんど同一に近い。
本来,本件登録意匠について類似意匠登録が認められるべき意匠は,か
ような形状の意匠に限られるべきである。
a乙第31号証の第1図,乙第32号証の第1図,第2図,乙第33
号証の第1図,乙第34号証の第1図,乙第35号証の第4図,乙第
36号証の図1,図9,乙第38号証の第4図に図示された水中眼鏡
におけるアイカップは左右両側部分の形状を除いて本件登録意匠甲,(
3)及び本件類似意匠3(甲7)のアイカップと共通し,上下2段の
2本締めを可能にする弾性バンドの形状において差異が見られる。ま
た,本件類似意匠1,同2,同4及び同5の各意匠(甲5,6,8及
び9)とは,アイカップの形状,左右一対のアイカップ両側における
弾性バンドの接続形式及び弾性バンドの形状が共通しているので,全
体としての外観的印象は,前記各公知意匠と本件類似意匠1,同2,
同4及び同5の各意匠との間に大差は見られない。もっとも,本件類
似意匠1とは,同意匠のアイカップ両側には長さ調節用の板状バック
ルがそれぞれ配設されているのに対し,前記各公知意匠にあっては,
そのような付属部品を備えていない点において差異が認められる。
b乙第37号証の図1,図3及び乙第39号証の図2に図示された水
泳用ゴーグルの意匠は,左右両側部分の形状を除き本件登録意匠のア
イカップ1・1の形状,中間部がツヅミ形に細くなった鼻ベルト5と
前記アイカップから差し向かうように斜めに前方へ持ち出された取付
台部の形状が呈する連続的な連結形状が,本件登録意匠及び本件各類
似意匠と共通し,これらにおける弾性バンドの形態にも共通性が見ら
れる。
すなわち,本件登録意匠及び本件各類似意匠の水中眼鏡の意匠分野
においては,上記①ないし⑧の公知文献に記載された公知意匠が知ら
れていたのであって,これら公知の水中眼鏡の意匠は本件登録意匠に
類似しているだけでなく,これに附帯する本件各類似意匠にも類似し
ている。それゆえ,本件各類似意匠は,本意匠である本件登録意匠に
類似するだけでなく,乙第31号証ないし同39号証に記載された公
知意匠とも類似しており,本意匠にのみ類似する意匠には該当しない
から,その意匠登録は類似意匠登録の要件(旧意匠法10条1項)も
欠如し,無効審判により無効にされるべきものに該当する。
()18争点2−2本件登録意匠は登録無効審判により無効とされるべきものか
について
【被告の主張】
本件登録意匠の登録は,その出願前に頒布された実開昭53−153700
号公報(乙21)の第1図に記載された「水中眼鏡」の意匠と類似し,かつ,
乙第21号証に記載された公知の水中眼鏡に基づいて意匠当業者が容易に創作
できたもの(意匠法48条1項1号)に該当するので,無効にされるべきもの
である。
乙第21号証には,第1図に次の「水中眼鏡(以下「公知ゴーグル」とい」
う)が図示されている。。
(1)乙第21号証記載の公知ゴーグルの基本的構成態様
イ左右一対のアイカップと,これら左右のアイカップとを互いに連接する
鼻ベルトと,前記両アイカップの左右両端同士を繋ぐ鉢巻きループを構成
する伸縮ベルトとによって,前記一対のアイカップを着用者の眼部にあて
がって伸縮ベルトを後頭部に巻き付けることにより着装して潜水遊泳可能
な水中眼鏡を構成している。
(2)乙第21記載の公知ゴーグルの具体的構成態様
ロ左右のアイカップは,正面のレンズ部と当該レンズ部から後方(着用者
に対し接眼側)へ突出する筒形の周壁部とを一体に有し,かつ,左右のア
イカップの対向部分からは斜め前方へ差込口を有する箱形のブラケットが
突設されている。
ハ鼻ベルトは,着用者の鼻梁前方へ∩形に弯曲した形状の細幅の弯曲板材
であって,その左右両端は左右のアイカップから突出した箱型ブラケット
の差込口に差し込まれて左右のアイカップを互いに連結している。
ニ伸縮ベルトは,帯状を成し,左右のアイカップの各外端部に形成された
縦スリット状のベルト挿通孔に2重ループを形成した状態に挿通し,調節
輪杆(=バックル)において着用者の頭回りサイズに合わせて調節自在に
配設してある。したがって,本件登録意匠に係る水中眼鏡は,着用者の後
頭部を上下2段に巻き締めて水泳時における水抵抗によるアイカップの捲
くれを安定させる機能を有することを予想せしめる。ちなみに,本件特許
公報の図14に従来例として引用図示された水中ゴーグルは,乙第21号
証の第2図記載の公知ゴーグルの使用状態図を転載した図面である。
(3)本件登録意匠と公知ゴーグルとの外観比較
本件登録意匠と公知ゴーグルの意匠とは,その基本的構成態様において一
致し,具体的構成態様「b・c対ロ「d対ニ,及び「e対ハ」との比較」,」
においては,舌状の持出ブラケットと箱形ブラケット,股開き状をなす弯曲
板状の鼻ベルトと∩形の弯曲板状の鼻ベルト,上口部分・下口部分を有する
縦長のバンド挿通孔とスリット状のバンド挿通孔,及び丸紐状部分を有する
弾性バンドと帯状の伸縮ベルトの挿通形態において若干の差異が見られる。
しかしながら,本件登録意匠と公知ゴーグルとの比較における「b・c対
ロ「d対ニ,及び「e対ハ」との差異は,意匠全体としての美感にさほ」,」
どの変化をもたらす形態要素ではなく,最も需要者の注目を惹くところの着
用者の後頭部を上下2段に巻き締めることが可能な使用状態が共通している
ので,両意匠は相互に類似関係にあるというべきである。
ちなみに「b対ロ」における舌状の持出ブラケットと箱形ブラケットと,
の差異「c対ハ」における股開き状をなす弯曲板状の鼻ベルトと∩形の弯,
曲板状の鼻ベルトとの差異は,一般需要者が購入取引時に重視する形状部分
ではないので,意匠上の微差というべきであり,類否判断に影響しない事項
である。
(4)容易創作性(意匠法3条2項)
仮に,本件登録意匠が公知ゴーグルの意匠に類似しないとしても,上記の
ような部分的な形状上の差異は,当該意匠分野の意匠デザイナーが必要に応
じて適宜マイナーチェンジできる範囲内の変形であるので,意匠法3条2項
の規定により意匠登録を受けることができない意匠に該当する。特に,本件
登録意匠における水中眼鏡のフロント部両外側のバンド挿通孔に上下2段に
分岐して挿通した弾性バンドに関する具体的構成態様dは,眼帯抑え板やマ
スクの紐通しに一般的に用いられている紐通し機構であるので,意匠進歩性
に欠ける部分的変更に該当する。
したがって,本件登録意匠は,公知ゴーグルの意匠に類似するから,本件
登録意匠に係る意匠登録は意匠法48条1項1号に該当するので,同法41
条で準用する特許法104条の3第1項の規定により被告に対し本件意匠権
を行使することができない。
【原告の主張】
被告が本件登録意匠の無効原因として引用する公知ゴーグル(乙21)は,
【】,前記美感の基礎となる具体的構成態様である前記17原告の主張(1)の⑦
⑨及び⑫を全く備えていない。すなわち,公知ゴーグルは,アイカップの周壁
部の対向外端部の輪郭が略V字上のなだらかな曲面になっておらず,鼻ベルト
取付台部が略舌片形でもなければ板状でもなく,鼻ベルトの中間部が盛り上が
っている上に両端部が取付台部(これこそ「ブラケット」と表現するのが望ま
。)。,しいかもしれないの中に挿入されてしまっている公知ゴーグルの意匠は
本件登録意匠が備える正面視におけるスマートな美感は全く備えておらず,本
件登録意匠とは完全に非類似である。したがって,公知ゴーグルの存在が本件
登録意匠の意匠登録を無効にすることなどあり得ず,公知ゴーグルから本件登
録意匠を創作することも容易ではない。
ところで,本件登録意匠が備える前記美感が乙第21号証等の公知意匠には
ない斬新なものであり,本件登録意匠の意匠登録に無効理由が存在しないこと
は,本件登録意匠の実施品が財団法人日本産業デザイン振興会より1996年
(。)度のグッドデザイン賞を受賞していること受賞番号96A0048甲36
からも裏付けられる。
19争点3(原告の損害額)について
【原告の主張】
(1)特許法102条1項に基づく請求
ア被告製品の販売数量
被告は,平成16年7月ころより被告製品を合計26万1792個輸入
していることを自認しており,このうち7万4665個を返品し,6万3
518個を廃棄したと主張するが,廃棄数量を示す資料はなく,返品数量
については主張が変遷しており信用できない。よって,被告製品の販売個
数は26万1792個である。
イ侵害行為がなければ権利者が販売することができた物及び原告の製造販
売する製品の単位数量当たりの利益の額
(ア)「侵害の行為がなければ販売することができた物」について
「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは,侵害された
特許権に係る特許発明の実施品であって,侵害品と市場において排他的
な関係に立つ製品を意味し,実施品が複数種類ある場合には,その構成
が最も類似するものとすべきである。少なくとも侵害品と同等の機能を
有する製品でなければならないはずである。本件各特許発明の実施品で
ある原告の製造販売する製品は,原告の平成17年のカタログに5種類
掲載されているが,この中でも「FO−2(以下「本件原告製品」と」
いう。なお,原告が製造販売するゴーグル一般を「原告製品」というこ
とがある)は,パッドや弾性バンドの形態まで被告製品と共通してい。
るのであるから,本件原告製品は損害額の算定基準とするのに最もふさ
わしいものである。
被告は,侵害行為がなければ販売することができた物は,原告の子供
用ゴーグルとすべきであると主張するが,子供用ゴーグル(ジュニア用
ゴーグル)は「スクール」市場を意識して,一人の指導者に対して多,
数の子供がいる場合を想定し,安全性等から子供が勝手にアイカップと
鼻ベルトとを分解することができない構造となっており,本件各特許発
明の実施品ではない。
また,被告は,スイミングゴーグルは3つの市場を形成しており,本
件原告製品がフィットネス用であるのに対し被告製品はこれらのいずれ
でもない玩具としてのゴーグルであると主張するが,フィットネスは,
ゴーグル市場全体からレーシング及びスクールを除いた部分であるか
ら,被告製品もフィットネスの市場に分類される。
さらに,被告は,被告製品は100円ショップ「ダイソー」で販売さ
れるものであって,標準小売価格が2000円である本件原告製品とは
市場競合関係はないと主張する。しかし「ダイソー」と本件原告製品,
を取り扱うスポーツ用品店とは販売店舗において競合しており,本件原
告製品の販売機会が奪われたことは明らかである。さらに,本件原告製
品と被告製品は,使用対象者・使用目的・機能が共通しており,特に子
供の場合は,商品を価格帯で区別して使い分けるようなことはない。ま
た,被告製品の譲渡数量は,原告の実施能力の範囲内であるから,被告
製品の購入者は原告の潜在的顧客であり,原告が被告製品の譲渡数量分
の販売機会を喪失したことは明らかである。
なお,原告は,念のため,原告の製造販売するゴーグルの中で標準小
売価格が最も低い商品番号「SW−40」の商品(以下,単に「SW−
40」という)についても単位数量当たりの利益の額を後記(4)のと。
おり明らかにする。
(イ)小売業者との共同不法行為
被告は,100円ショップ「ダイソー」を経営する株式会社大創産業
(以下「大創」という)との間に密接な関係を有し,大創による被告。
製品の販売に積極的に関与していたことは被告の自認するとおりであ
る。よって両者の間には,共同不法行為が成立するだけの主観的及び客
観的関連共同性がある。よって,被告は大創の侵害行為についても連帯
して責任を負う。
大創は,被告製品を一般消費者向けに販売しており,本件原告製品と
の間で市場において競合するのであるから,被告の大創に対する営業活
動は,被告の原告に対する損害賠償責任を軽減する理由にはならない。
(ウ)本件原告製品の限界利益
本件原告製品の1個当たりの出荷額は800円であり,1個当たりの
追加的製造販売のための費用は296円である。よって,本件原告製品
1個当たりの利益の額は504円である。
(エ)「SW−40」の限界利益
原告は「SW−40」を1個当たり600円で販売していた。そし,
て「SW−40」の1個当たりの追加的製造販売のための費用は20,
1円である。よって「SW−40」1個当たりの利益の額は,少なく,
とも399円である。
ウ原告の実施能力
原告のスイミングゴーグルの年間国内出荷額は,少なくとも6億500
0万円程度であり,本件原告製品の1個当たりの出荷額800円を基準に
年間出荷数量を算定すると81万2500個であるから,被告製品の販売
数量程度の増産であれば,既存の人員・設備のままで対応できる。
エ特許法102条1項ただし書に該当する事情
特許法102条1項は,同条2項のように損害額を「推定」するもので
はない。特許法102条1項は,侵害品の販売による損害を権利者の市場
機会の喪失ととらえ,侵害品の譲渡数量に権利者製品の利益額を乗じた金
額を権利者の実施能力限度内において逸失利益として認め,損害額とする
ことを定めたものである。
仮に,部分的にでも「販売することができないとする事情」が認められ
るとすれば,それは,原告の市場機会の喪失の原因が被告製品の販売によ
るものではないこと,すなわち,①被告が低価格化等の営業努力により本
件原告製品の市場とは別の独自の市場を開拓したこと,あるいは,②本件
原告製品と同等以上の機能を実現する新技術を利用した代替品の登場によ
り,本件各特許発明が陳腐化・本件特許権の市場形成力が低下して本件原
告製品の市場が縮小していたこと,を被告が立証できた場合のみである。
上記①の,被告の営業努力により独自の市場が開拓されたか否かについ
て検討する。本件においては,本件原告製品と被告製品とは,使用対象者
・使用目的・機能が共通し,ともに一般の消費者が普通に購入できる場所
で販売されたものであるから,市場が共通している。さらに,原告のゴー
グルの国内年間出荷数量は控えめに見ても81万2500個であることか
らすれば,原告の実施能力の範囲内の規模であって,被告の営業努力によ
って本件原告製品の市場とは別の独自の市場が開拓されたとは到底いえな
。,,い状況であるこのようにもともと本件原告製品に大きな市場が存在し
被告製品の譲渡数量が原告の実施能力を超えるものでもなかったのである
から,被告製品が低価格であったことは「販売することができないとす,
る事情」として考慮されるべきではない。
次に,上記②の本件原告製品の代替品による権利内容の陳腐化・本件原
告製品の競争力の低下について検討すると,本件各特許発明に取って代わ
るような新技術は未だ登場しておらず,本件原告製品の代替品と呼べるも
のは存在しない状況にあり,権利内容の陳腐化・本件原告製品の競争力の
低下は全く認められない。
被告は,原告の水中ゴーグル製品全体に対する市場占有率が17.6%
とされていることより,代替品の存在によって認められる「販売すること
ができないとする事情」の割合を82.4%と主張しているが,これでは
市場に存在する他社のゴーグル製品がすべて本件原告製品の代替品という
ことになり,本件原告製品が新規性・進歩性を認められた本件各特許発明
の実施品であることが全く無視されている。
本件各特許発明は,その出願前公知のゴーグルでは代替し得ない構成・
効果を有することが認められたからこそ特許されたのであり,他社のゴー
グル製品がすべて本件原告製品の代替品であるなどということはあり得な
い。しかも,被告は,本件各特許発明と技術的特徴において差異がないと
主張する引用例1等のゴーグルについて,いつごろ実際に販売されていた
のか,その市場占有率がどの程度であったのかを明らかにしていない。
オ寄与度
被告は,本件特許発明1及び同4の棒状突起等からなるアイカップと鼻
ベルトとの連結部分の構成は,購入動機とはならないと主張している。
しかし,引用例1には,フィッティング自由度の向上に関する事項は全
く記載されていないし,本件各特許発明は,フィッティング自由度の向上
に加えてアイカップと鼻ベルトとの連結強度が優れている点等でも従来の
ゴーグルとは差異がある。そして,本件各特許発明の実施品である本件原
告製品は,原告の主要商品であり,本件各特許発明の技術をアピールする
パンフレットを配布し,雑誌において本件各特許発明の技術を積極的に宣
伝していること等によれば,前記連結部分が購入の動機付けとなっている
ことは明らかである。
被告は,被告製品の市場競争力を高めるために本件各特許発明を実施す
る構成を外すことができなかったのであり,これは,被告が本件各特許発
()。,明の販売促進力市場形成力を認めていたことにほかならないしかも
被告製品は,本件原告製品とは外観のみならず,取扱説明書の文面にまで
酷似した部分があり(甲46,47,たまたま結果的に侵害態様となっ)
たというのではなく,初めから意図的に本件各特許発明を実施した商品を
出すことにより,原告が築いた市場に割り込んで本件原告製品の顧客を奪
おうとしたことが明らかである。
カ小括
原告は,被告製品が流通していた平成17年当時において,本件原告製
品1個当たり,少なくとも504円の利益を得ていた。
これに,被告製品の実施個数を乗じると1億3194万3169円とな
る。
(2)特許法102条3項に基づく請求(予備的主張)
被告製品の販売数量のうち原告において販売することができないとする事
情が認められる部分があるとしても,当該部分に関しては,特許法102条
3項の相当な対価額の賠償請求が認められる。
本件各特許発明を第三者に実施許諾する場合の実施料率は,本件原告製品
が1個当たりの追加的製造販売のための費用296円に対し標準小売価格2
000円と極めて高い利益率を確保することが可能であり,かつ,本件各特
許発明に係るフィッティング機能等を実現する構成は他に類を見ないもので
あり,競合品がなく,高い価値が認められるので,30%を下らない。
なお,上記(1)イ(イ)のとおり,被告と大創の行為は,本件特許権の侵害
に関し共同不法行為を構成することが明らかであり,被告は大創の侵害行為
についても連帯して責任を負う。
よって,特許法102条3項の実施料相当額の損害賠償額の算定において
も,大創による小売価格100円が基準となる。
,,,本件において上記予備的主張が検討されるのは被告が主張するように
被告の営業努力により独自の市場が開拓されたことが認められ,それが「販
売することができないとする事情」として考慮された場合であるが,そのよ
うな場合には,当該市場での被告製品の販売数量分については,原告の販売
機会の喪失による損害はないとしても,当該市場の形成に本件各特許発明の
技術が寄与したことが認められる以上は,特許権者である原告は,被告に実
施料相当額を請求できるはずである。
(3)弁護士費用
原告は,被告の不法行為のため,本件訴訟提起を余儀なくされたが,その
ための弁護士費用は,少なくとも1319万4316円となる。
(4)まとめ
よって,原告は,被告に対し,上記(2)及び(3)の合計額である1億451
3万7484円のうちの一部請求として,3000万円及びこれに対する訴
状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害
金の支払を求める。
なお「SW−40」を基準とした場合の損害額は,少なくとも1億04,
45万5008円(399円×26万1792個)と同金額の1割の弁護士
費用相当額を加えた1億1490万0508円となる。
【被告の主張】
(1)特許法102条1項に基づく請求
ア被告製品の販売数量
被告は,平成16年4月から同年7月にかけて合計16万8768個を
大創に対して売り渡したものの,原告が大創宛てに本件特許権を侵害する
との警告書を発したため,同月以降,納品を停止するとともに,ただちに
大創に対して販売中止と回収を依頼し,同年11月に大創の在庫品4万4
519個をすべて回収したことにより,差引合計12万4249個を売り
渡したものである。
原告の主張は,特許法102条1項の損害額の計算において,被告製品
の返品・廃棄を一切考慮していない点で不当である。
イ侵害行為がなければ権利者が販売することができた物及び本件原告製品
の単位数量当たりの利益の額
本件においては,損害賠償額の算定の基礎となる「侵害の行為がなけれ
ば販売することができた物」がそもそも存在しないから特許法102条1
項は適用されないと解すべきであり,また,万歩譲っても,本件における
「侵害の行為がなければ販売することができた物」は,子供用ゴーグル市
場で販売される原告製の安価な子供用ゴーグルであると解すべきであるか
,。ら原告主張の本件特許実施品の限界利益額を採用する合理的理由はない
すなわち,被告製品は,以下の事情により本件原告製品はもとより,子
供用ゴーグル商品との間でも,競合関係が存在しない。
(ア)ゴーグル市場は3区分されていること
スイミングゴーグル市場では,競技種目としての「レーシング,健」
康目的の「フィットネス,学校体育としての「スクール(子供用)」」
の3つの市場が形成されており,それぞれの市場に合わせた商品が開発
されている。
(イ)本件特許実施品は,特殊高級素材による成人用のレーシング用若し
くはフィットネス用高級商品であること
原告主張の本件原告製品をはじめとする本件各特許発明の実施品は,
別表「原告商品FO−2との比較」のとおり,シリコーン樹脂などの特
殊高級素材を使った成人用のレーシング用ないしフィットネス用の高級
商品である。
(ウ)原告の子供用商品も高級商品であること
原告製の子供用ゴーグルも学校やスイミングスクールで使用する高級
な商品であるが,子供用ゴーグルが,ゴーグル業界において「スクール
用」と呼ばれてきたのは,学校のプール学習や,スイミングスクールに
通う際に,学校ないしスイミングスクールから特別に指導,指定されて
購入し,あるいは学校指定の製品を購入するのが常態となっていること
の反映である。
(エ)原告の製造販売するゴーグルの販売ルート
原告は,本件原告製品を含む原告の製造販売するゴーグルを,スポー
ツ専門店,スポーツ量販店,百貨店,大型総合スーパー等に販売してい
る。
(オ)被告製品は市場,流通ルート,品質及び用途が本件原告製品とは異
なる商品であること
aこれに対し,被告製品は,卸売単価58円,限界利益単価11.2
4円で,大創だけに対して販売され,その経営する100円ショップ
「ダイソー」各店の玩具売場だけで販売されてきた超安価な子供用の
玩具ゴーグルである。被告製品は,原告の販売先やこれに類する業者
に販売されてきた事実はなく,かかる販売ルートに乗せること自体が
およそ考えられない商品である。原告は商品売場が同一建物内にある
ことを根拠に被告製品によって本件原告製品の販売機会が奪われたと
,,。主張するが需要者層が異なるため小売市場としての競合性はない
b被告製品の包装に「ザスポ−ツこども「こども用水中ゴーグル」,
(ケース付「頭のサイズ約34㎝∼49㎝」と表記されているこ)」,
と,ベルトサイズが49㎝と成人用ゴーグルのベルトサイズ61㎝よ
りも10㎝以上も短いこと,100円ショップ「ダイソー」店舗の玩
具売場で販売されてきたこと等を総合すれば,被告製品が成人用の競
泳用ないしフィットネス用のゴーグルとしての実用には耐えないこと
も明らかである。さらに「フィットネス」とは,成人が健康目的で,
行うトレーニングを指す概念であり,子供の遊びを含まないから,被
告製品は,フィットネス市場の製品ということはできない。原告は,
被告製品を成人が使用した場合も相当数あると考えられると主張する
が,被告製品はシュリンク包装がされているため,消費者はケースを
開けることができず,商品を手に取ってみることができない。包装も
子供向けのイラストを用いていた。ベルトの長さも成人用ゴーグルよ
り10㎝以上も短く,成人が被告製品を装着した場合に極めて窮屈な
状態に陥り,実用に支障を来す場合もあることは想像に難くない。品
質面でも,成人用の競泳用ないしフィットネス用のゴーグルとしての
実用に耐えないことは明らかである。
c子供用の玩具である被告製品については,原告の本件特許実施品の
ような高価なシリコーン樹脂を使う必要はなく,そのような要望もあ
り得ない。
本件明細書の段落【0008】には「周壁部7の後端部7Aは,,
顔面にフィットするように滑らかな曲面とされ,パッドが不要となっ
ている」と言明し,さらに,その【0020】には,本件各特許発。
「,,明の特有の効果として本発明によればクッションパッドが不要で
軽量化及びコスト低下を図ることができ,水泳競技用として最適であ
る」と記載されているにもかかわらず,本件原告製品は,高価なシ。
リコーンパッドを用い,その分高価で,単位数量当たりの利益が高く
なっていることも明らかである。
d以上のとおり,玩具用ゴーグル(被告製品)とプロ用,競泳用,な
(),,いし成人用ゴーグル本件原告製品の市場とが競合しておりかつ
価格面から見ても相互に代替可能という状況にないことは明らかであ
る。
それどころか,被告製品は,従来は駄菓子購入に向かうしかなかっ
た子供たちのわずかな小遣銭を資金源として「玩具としてのゴーグ,
ル」に対する新たな有効需要を創出し,第4番目の市場区分ともいう
べき独自のゴーグル市場を開拓した商品であり,学校やスイミングス
クールから,プール指導において使用することを求められ,時には製
品指定まで受けることのある中級以上の「スクールゴーグル」である
原告の子供用製品とも,品質水準において次元の異なる,玩具に等し
い超安価商品であり,市場競合関係は全くないといえる。
(カ)「侵害の行為がなければ販売することができた物」の不存在により
特許法102条1項はそもそも適用されないこと
以上の検討によれば,特許法102条1項に基づく損害計算における
単位数量当たりの利益としては「特許権者が販売し,侵害商品と競合,
」,関係に立つ代替可能品の単位数量当たりの利益を問題とすべきであり
そこでは,特許権者の商品が,侵害商品との間で「競合し,受注競争,
する」関係にあるか否かが判断基準とされるべきであるところ,本件特
許実施品である原告の成人の競泳用ないしフィットネス用の高級商品は
もちろん,原告の子供用の中高級商品も,被告製品とは市場,流通ルー
ト,品質及び用途が異なる商品であり,両商品間には「競合し,受注,
競争する」関係が成立しないから,本件においては,損害賠償額の算定
の基礎となる「侵害の行為がなければ販売することができた物(特許」
法102条1項本文)が存在せず,特許法102条1項はそもそも適用
されないと解すべきである。
(キ)「侵害の行為がなければ販売することができた物」が存在するとさ
れた場合について
仮に「侵害の行為がなければ販売することができた物」が存在する,
とされた場合には,原告製の安価な子供用ゴーグルの限界利益が適用さ
れるべきである。
(ク)「SW−40」について
「SW−40」も成人用のゴーグルであり,子供用玩具ゴーグルであ
る被告製品と市場競合関係を生じない。よって「SW−40」も「侵,
害の行為がなければ販売することができた物」の選定として不適切であ
る。
ウ特許法102条1項ただし書に該当する事情
(ア)被告製品の特徴と本件原告製品との異質性について(推定覆滅事由
その1)
被告製品は,100円ショップの玩具売場で販売することを目的とし
た小売単価が100円,被告の卸売価格が58円という極安価の子供専
用ゴーグルである。
平成17年時点におけるスイミングゴーグル市場は37億円である。
,「」スイミングゴーグル市場の顧客特性は競技種目としてのレーシング
層,健康目的の「フィットネス,学校体育としての「スクール(子」」
供用)に分かれている。
原告が販売するゴーグルは百貨店等に供給される高級ないし中級の製
品であり,子供用ゴーグルは,小売単価1050円ないし1365円の
高級ないし中級の製品である。その他,一般成人用で1050円ないし
2100円,競技用で1470円ないし2730円と価格幅が大きい。
子供用ゴーグルは,学校ないしスイミングスクールの指導,指定によ
って購入するものであり,子供がそれらの指導なしに必需品でないゴー
グルを1000円以上出して購入することは皆無に近い。
被告製品の小売価格1個100円であるとことは「玩具としてのゴ,
ーグル」に対する新たな有効需要を創出し,第4番目の市場区分ともい
うべき独自のゴーグル市場を開拓したことを意味する。
すなわち,被告製品は,包装の表示や,玩具売場で販売されている事
実からも明らかなとおり,学校の指定を受けるような中級以上の「スク
ールゴーグル」である本件原告製品とは異なる玩具に等しい安価商品で
あって,本件原告製品との市場競合関係は全くない。また,このように
安価商品であるからこそ,合計12万3609個という大量の販売が可
能となったのである。
さらに,卸先が,巨大な販売力を誇る業界最大手の100円ショップ
「ダイソー」を展開する大創であることが上記販売数量を達成し得た原
因であって,被告製品が仮に本件各特許発明の技術的範囲に属するとし
ても,本件各特許発明の作用効果を需要者(子供)が重視した結果によ
るものでは断じてない。すなわち,被告製品の販売数量と,本件各特許
発明の作用効果との間には全く因果関係はないのである。
むしろ,被告は,大創との取引を実現するために卸売単価58円を実
現し,新たな市場を開発する努力などで,被告製品の売上げを達成した
ものである。よって,仮に,被告製品が本件各特許発明の技術的範囲に
属すると仮定しても,これらの事情によって,大幅な推定の覆滅が認め
られるべきである。
(イ)競合製品の存在と市場占有率に応じた推定の覆滅(推定覆滅事由そ
の2)
本件で問題となる子供用水中ゴーグル市場における本件原告製品の市
場占有率がどの程度のものかは被告には不明である。
ただし,ゴーグル製品全体については統計資料があり,本件が問題と
なった平成17年における原告の市場占有率は17.6%であり,他に
市場占有率31.2%の株式会社タバタをはじめとして,有力企業がひ
,,。しめき合っており他方被告の市場占有率はゼロに等しい状態である
したがって,被告の子供用水中ゴーグルの販売行為がなくとも,原告
以外の他の企業が市場占有率82.4%に沿った販売をなし,その分,
原告は本件原告製品を販売することができなかった事情が存在するとい
うべきであるから,この要因のみによっても,競合他企業の市場占有率
82.4%については推定の覆滅が認められるべきである。また,本件
原告製品は,原告の販売する製品全体のうちの1種類にすぎず,しかも
売れ筋でないことが明らかであって,我が国の競泳用,成人フィットネ
ス用及びスクール用のゴーグル製品全体に占める市場占有率は無視して
よいほど微々たる数値となることが明らかである。
エ寄与度
本件特許発明1及び同4に係るゴーグルは,棒状突起が相対回動可能に
係合孔に嵌合されることにより「アイカップの上下方向の動きに融通性が
生まれ,ゴーグル装着者の顔面に対する位置調整が容易で,フィッティン
」,グ自由度を向上させるという作用効果を発揮するという点においてのみ
従来品であるゴーグル(引用例2)と差異があるにすぎない。しかし,こ
のような可変品質部分の差異は,ゴーグルの分野において需要者にとって
購入動機となるほどの重要な品質ではない。そのような構成の変更は,本
件特許出願当時の技術常識だったからである。
さらに,本件原告製品やパッケージの包装,取扱説明書にも,本件各特
許発明の作用効果の説明はなく,これが需要動向を左右する要因になり得
ないことは明らかである。
だからこそ,原告は,本件原告製品について,さらにクッションパッド
やツインバンドの素材に高価なシリコーンゴムを使用したり,片眼ずつ度
付レンズを交換できることを謳って競合商品との差別化を図ってセールス
・ポイントにしているのである。
しかも,平成18年度の原告製品カタログにおいては,本件原告製品は
全く掲載されていない。これは,本件原告製品の売れ行きが悪かったため
と考えられることによれば,原告製品の中でも本件原告製品が主要商品で
あったとは考えられず,本件各特許発明が消費者の商品購入の動機付けに
なったとはいえない。
よって,本件原告製品が創出した利潤のうち,本件各特許発明を採用し
たことによる寄与の度合いは全くないといってよい。
(2)特許法102条3項に基づく請求について
特許法102条1項は,特許権侵害によって,特許権者に生じた損害額を
計算する方法の一つを示すものであり,そこでは,特許権侵害者の譲渡数量
の全量を対象とし,特許権者は侵害行為により,その全量を販売する機会を
喪失したものと推定した上で,そこから「特許権者が販売することができ,
ないとする事情」があると認定された部分を控除する方法で,特許権者に生
じた全損害額を計算する方法なのであるから,そこにおいて,特許権侵害者
の譲渡数量の中から控除された部分は,そもそも特許権侵害との間の因果関
係が否定され,権利者にはその部分の損害は生じなかったと判断されたこと
を意味する。
したがって,侵害行為との間の因果関係が否定された当該部分について,
同法102条1項とは別異の損害額計算手法である同条3項を根拠に実施料
相当額の損害賠償請求をすることは二重請求となるので許されない。
特許権者が同条1項に基づく損害賠償を請求する場合は,侵害者の譲渡数
量全量の販売によって生じた全損害を同条1項に基づく権利者の損害計算の
対象としている以上,そこで因果関係が認められないとして填補賠償の対象
外とされた部分について,同条3項の損害額の上乗せを認めたのでは,填補
賠償を超えることになるからである。
以上のとおり,特許法102条1項ただし書の「販売することができない
事情」があるとして減額された部分に,同条3項の適用を認めることは許さ
れるべきではない。
第4当裁判所の判断
1本件特許権侵害の成否についての判断の大要
当裁判所は,本件各特許のうち,本件特許1,同2及び同4には進歩性欠如
の無効理由があり(特許法29条2項,123条1項2号,特許無効審判に)
より無効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項により,本
件特許権に基づく権利行使はできないものと判断する。また,本件特許5には
特許無効審判により無効とされるべき事由を認めることができず,かつ,被告
製品は,同特許に係る本件特許発明5の技術的範囲に属し,本件特許権を侵害
すると認められるから,本件特許権に基づく差止請求(被告製品の製造の差止
めを求める部分を除く)は理由があるが,金型の除去請求は被告が被告製品。
を製造しておらず,かつ今後製造するおそれも認められないため,被告製品の
廃棄請求はその対象物を欠くため,それぞれ理由がないものと判断する。
そこで,以下においては,まず,本件各特許の無効理由の存否(争点1−7
ないし1−14)について判断し(その中で,分割出願要件違反の有無(争点
1−6)についても併せて判断する,次いで,被告製品が本件特許発明5。)
の技術的範囲に属するか否かに関する争点(争点1−1ないし1−5)につい
て順次判断していくこととする。
2争点1−7(構成要件E,同F及び同Gの「係止突部」の意義は不明確であ
り,特許請求の範囲が不明確である無効理由があるか)について
(1)本件特許発明1及び同2の構成要件Eは「前記棒状突起の先端部に突,
起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を設け」ることである。
同構成要件のうち「係止」は「係わり合って止まること(平成18年,。」
8月31日日刊工業新聞社発行「特許技術用語集第3版)を意味する。そ」
,「」,。。。。して対するとは①向かい合う②対比するくらべる③対になる
④対象とする。⑤こたえる。応ずる。⑥応対する,という意味である(広辞
苑第5版)ところ,このうち構成要件Eの「対する」は,上記④の意味で用
いられていると解するのが相当である。よって,構成要件Eの「係止突部」
は,係わり合って止めるために設けられた突出した部分であって,棒状突起
の先端部に設けられており,その成形角度は,突起中心軸線を基準として,
棒状突起側に鋭角に傾斜したものをいうが,そのような構成を有するもので
あれば,その形状には特段の限定がされていないと解釈することができる。
「係止突部」とは,上記意義を有するものとして明確であり,特許法36条
6項2号の記載要件を満たすものというべきである。
なお,上記解釈によれば,様々な形状の係止突部がその技術的範囲に属す
ることとなるところ,以下のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載
も,上記のように様々な形状の係止突部がその技術的範囲に属すると解する
ことと矛盾する記載はないというべきであるし,他に「係止突部」の意義を
曖昧にしたり,不明確にしたりするような記載があると認めることはできな
い。
(2)本件明細書(甲1)の発明の詳細な説明には,係止突部に関して次の記
載がある。
ア「本発明は,前記棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜
する係止突部を設け,前記鼻ベルト両端部の後面に前記係止突部を係止さ
せるようにしたので,アイカップと鼻ベルトの連結・分離が容易であり,
ゴーグルを装着して使用しているとき,弾性バンドによる引張力が,前記
棒状突起を鼻ベルトの係合孔に挿入方向に作用する。したがって,ゴーグ
ル使用時に,アイカップと鼻ベルトが外れない。
この場合,前記鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ,後方に傾斜した鼻ベ
。」ルト両端部の後面に前記係止突部を係止させるようにするのが好ましい
(課題を解決するための手段】段落【0006)【】
イ「前記棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になる係止突部が設け
られ,前記鼻ベルトの両端部の前後面は,前記取付台部の後面と略平行な
傾斜面に形成され,前記係合孔は該鼻ベルトの両端部の前後面に対して傾
斜して設けられ,該鼻ベルトの両端部の前面が,前記取付台部の後面に面
接触し,該鼻ベルト両端部の後面が前記係止突部に係止されているのが好
ましい(同上段落【0007)。」】
ウ「前記棒状突起10の後端部には,対向内側に係止突部11が設けられ
ている。前記アイカップ2は,各周壁部7の左右方向外端側(前記取付台
座8の反対側)が,後方に傾斜状に延出されて前記バンド接続部9とされ
ている。このバンド接続部9は,厚肉とされ,バンド挿通孔12が上下方
向(レンズ部6の中心軸線)と直交する方向に設けられている(発明。」【
の実施の形態】段落【0009)】
エ「さらに,ゴーグル1を装着して使用しているとき,アイカップ2と鼻
ベルト3には,図5に示すように,弾性バンド4の張力Fが矢印で示す方
向に作用し,そのために,鼻ベルト3の両端部3Aには,図3(判決注,
図5の誤記と認める)に矢印FAで示す方向に力が作用する。即ち,突。
起係合孔13の各外端側が,アイカップ2の取付台部8と棒状突起10の
間に押し込められる。また,棒状突起10の係止突部11が,鼻ベルト3
の突起係合孔13後方の切欠部14に係止されている。したがって,ゴー
グル1の使用中は,前記係合孔13から棒状突起10が抜け出して,アイ
カップ2と鼻ベルト3が分離することはない(同上【0015)。」】
オ「そして,弾性バンド4は,アイカップ2のバンド挿通孔12に上下方
向に挿通されているので,アイカップ2をねじることがなく,フィット性
が良好である。また,弾性バンド4は,その帯状部分4A,4Cが後頭部
に接するので,安定性がよく,断面略円形の中間部4Bが顔の側部に位置
しているので,スイミング用ゴーグルの場合水の抵抗が減少し,競技用と
して最適である。
上記実施形態において,棒状突起10の係止突部11は,図11に示すよ
うに,突起10の端部全周にわたって設けることができる。また棒状突起
10の係止突部11は,図12に示すように,アイカップ2の周壁部7側
に突出状に設けることができる。さらに,鼻ベルト3は,図13に示すよ
うに,帯板状とすることができる(同上【0016)。」】
(3)上記アの各記載によっても,構成要件E,同F及び同Gの「係止突部」
の形状を限定しているものとは認められず,前記(1)において認定した構成
を含むものであれば,すべて本件特許発明1にいう「係止突部」に該当する
ものと解すべきであり,その意味で明確性を欠くものではない。
(4)被告は「係止突部」とは,繋ぎ止めのために突出した突起部分を意味,
,,するから円錐キノコ形に形成された異形突起部分に限られる旨主張するが
「係止」とは,前記のとおり,係わり合わせて止めることをいうにすぎない
から,本件特許発明1でいうと,鼻ベルトを係わり合わせて止めることがで
,,「」きる構成を備えるものであれば足りるというべきでありそれゆえ突部
も,鼻ベルトが引っ張る方向とは逆の方向に向けて突出していれば足りると
解されるから,被告がいうような円錐キノコ形の形状に限定されると解すべ
き根拠はない。
よって,被告の主張は採用できない。
3争点1−8(本件特許1は実施可能要件違反の無効理由があるか)について
被告は,構成要件E及び同Fの「係止突部」の意義は不明確であるから,本
件特許1は,実施可能要件を欠如する無効理由があると主張する。
しかし,構成要件E及び同Fの「係止突部」の意義が不明確であるというこ
とができないことは,前記2で判示したとおりである。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件特許発
明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということ
ができ,本件特許1には,特許法36条4項に規定される明細書記載要件を満
たすことなく特許された違法があるとの被告の主張は採用できない。
4争点1−6(本件分割出願は,分割要件に違反するか)について
(1)被告は,本件特許の請求項5の「該鼻ベルトの両端部の前面が,前記取
付台部の後面に面接触し」という要件は本件親出願当初明細書には記載され
ていなかったから,新規事項の追加に当たると主張する。
分割出願が行われた場合,新たな特許出願(分割出願)は本件親出願の時
にしたものとみなされる(特許法44条2項)ところ,このように出願日の
遡及が認められるためには,分割出願に係る発明がその本件親出願の願書に
最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか,同
明細書等に記載した事項から自明な事項であることを要するというべきであ
()。,。る同法44条1項原告の主張はかかる趣旨をいうものと理解できる
(2)本件親出願当初明細書には,以下の記載があることが認められる(乙1
9。)
ア「また,前記両端部3Aの前面には,鼻ベルト3の前端面に対して,前
記取付台部8の前後方向厚さと略同じ寸法の段差Hが設けられている(図
5参照。この段差Hは,アイカップ2の前記取付台部8前面と,鼻ベル)
ト3前面を,面一(フラッシュサーフェース)にするのに役立つ(段。」
落【0016)】
イ「さらに,ゴーグル1を装着して使用しているとき,アイカップ2と鼻
ベルト3には,図5に示すように,弾性バンド4の張力Fが矢印で示す方
向に作用し,そのために,鼻ベルト3の両端部3Aには,図3に矢印FA
で示す方向に力が作用する。即ち,突起係合孔13の各外端側が,アイカ
ップ2の取付台部8と棒状突起10の間に押し込められる(段落【0。」
023)】
(3)上記(2)アのように,常にフラッシュサーフェースにするためには,鼻ベ
ルトの両端部の前面が取付台部の後面に面接触していなければならず,そう
していなければ,鼻ベルトが棒状突起上を移動してしまい,常にフラッシュ
サーフェースにすることができなくなってしまうことによれば,本件親出願
当初明細書の上記(2)アの記載は,鼻ベルトの両端部の前面が前記取付台部
の後面に面接触することを示唆するものということができる。さらに,上記
(2)イの記載にあるように,本件明細書には,ゴーグルを装着したとき,弾
性バンドによって取付台部の後方と鼻ベルトの内側に向かって力が作用する
こと,それによって鼻ベルトの突起係合孔の外側の部分が棒状突起の方向に
押し込められることが記載されているということができる。また,本件親出
願当初明細書等の図3及び図5には,鼻ベルトの両端部の前面が取付台部の
後面に面接触している構成が開示されている。
また,本件分割出願の当初明細書(甲20)にも,上記(2)ア,イと同様
の記載がある(同明細書段落【0011【0015。】,】)
したがって,本件特許の請求項5の「該鼻ベルトの両端部の前面が前記取
付台部の後面に面接触し」との事項は,本件親出願当初明細書及び図面に記
載した事項の範囲内であるから,本件分割出願が分割要件に違反してされた
ものであるとの被告の主張は採用できない。よって,本件分割出願の出願日
は,本件親出願の出願日である平成7年12月25日に遡るものと認められ
る。
(4)なお,被告は,本件分割出願に係る本件特許発明1及び同4が,本件親
出願に係る発明と同一であることをもって,分割出願の要件違反であるとの
主張をする。しかし,本件分割出願に係る発明が本件親出願に係る発明と同
一であれば,本件分割出願は,分割出願の要件の具備を論ずるまでもなく,
特許法39条の適用上,本件親出願を先願とする後願に当たることになるの
で,本件特許1及び同4は同法123条1項2号の無効理由を有することに
なる。したがって,被告の上記主張をかかる趣旨と解して判断することとす
る。
同日に出願された2つの出願のそれぞれの請求項に係る発明同士が同一か
否かは,いずれの発明を先願としても両発明が同一とされる場合には,両者
は同一の発明であると解されるのに対し,いずれかの発明を先願とした場合
に同一とされない場合には,両発明は同一の発明には該当しないと解するの
が相当である。
そこで,本件親出願の請求項1に係る特許発明と,本件特許発明1とを対
比すると,証拠(甲1,乙20)によれば,本件特許発明1は「前記棒状,
突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を設け」とい
(),,う構成構成要件Eを備えているのに対して本件親出願の請求項1には
かかる構成に関する記載はないことが認められる。よって,本件親出願の請
求項1に係る特許発明と本件特許発明1とは同一とはいえない。
次に,本件親出願の請求項1に係る特許発明と本件特許発明4とを対比す
ると,証拠(甲1,乙20)によれば,本件親出願の請求項1に係る特許発
明は「前記取付台部は,前記周壁部の左右対向内側より前記レンズ部の前,
面側に向かう傾斜面に形成された後面を有し」との構成を備えているのに対
して,本件請求項4に係る特許発明は「前記アイカップの取付台部は,レ,
ンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられ(構成」
要件M)た点,及び本件親出願の請求項1に係る特許発明は「前記鼻ベル,
トの左右両端部の前面は,前記取付台部の後面に沿うように後方に向かって
傾斜状に延び」ているとされているのに対して,本件特許発明4は,この点
。,について何ら記載されていない点で相違していることが認められるよって
本件親出願の請求項1に係る特許発明と本件特許発明4とは同一とはいえな
い。
したがって,本件特許1及び同4は,特許法39条の規定に違反して特許
されたものではなく,同法123条1項2号の無効理由を有しない。
5争点1−9(本件特許1は進歩性欠如の無効理由があるか)について
(1)ア本件特許出願前に頒布された刊行物である引用例1には「スイミン,
グゴーグルのアイカップ連結装置」に関する考案の従来技術を用いたゴー
グルについて,次のとおりの記載がある。
(ア)「従来の技術】一般に,スイミングゴーグルにおいては,左右一【
対のアイカップの間隔を調整できるようにしている。そのようなスイミ
ングゴーグルとして,図6および図7に示したものが従来から知られて
いる。
上記スイミングゴーグルは,左右一対のアイカップ30,30の内端
部に連結片31を設け,この連結片31をジョイント32によって着脱
自在に連結し,長さの異なるジョイント32の取り替えによって左右の
アイカップ30の間隔を調整している。
そして,ジョイント32と連結片31とを着脱自在に連結するため,
連結片31に前後に貫通する孔33を形成し,一方ジョイント32には
軸方向の割り溝34を有する連結軸35を設け,この連結軸35を上記
孔33に挿入し,連結軸35の先端部外周に形成した係合突条36を連
結片31の背面側に係合させるようにしている(段落【0002,。」】
【0003【0004)】,】
(イ)「考案が解決しようとする課題】ところで,上記アイカップの連【
結装置においては,ジョイント32の取外しに際し,連結片31の背面
側に突出する連結軸35の先端部を内方に変形させて周方向に分割され
た一対の係合突条36を連結片31に対して同時に係合解除する必要が
あり,上記連結軸35の変形によって,その連結軸35が破損し易く,
連結軸35を無理に抜くと,連結片31が破損する不都合がある(段。」
落【0005)】
イ上記アの記載及び引用例1の図6及び図7によれば引用例1には左,,「
右一対のアイカップ30,30と,両アイカップ30,30を着脱自在に
連結するジョイント32と,両アイカップ30,30の対向外端部相互を
接続する弾性バンドとから成るゴーグルにおいて,前記アイカップ30,
30とジョイント32との連結を,軸方向に割り溝34,34を有する丸
軸の連結軸35,35と,該連結軸35,35が相対回動可能に嵌合され
る孔33,33とにより行うようにし,前記アイカップ30,30の内端
部に連結片31,31を設け,この連結片31,31に前後に貫通する孔
33,33を設け,ジョイント32の両端部に顔面に向かって突出する連
,,,,結軸3535を設け前記連結軸3535の先端部外周に連結軸35
35の中心軸線に対して鋭角に傾斜する係合突条36,36を設け,前記
係合突条36,36を孔33,33の背面に係止させたスイミングゴーグ
ル(以下「引用発明3」という)が記載されていると認められる。。」。
よって,引用発明3を本件特許発明1の構成と対応させると以下のよう
な構成を有することとなる。
a左右一対のアイカップ30,30と,両アイカップ30,30を着脱
自在に連結するジョイント32と,両アイカップ30,30の対向外端
相互を接続する弾性バンドとから成るゴーグルにおいて,
b前記アイカップ30,30とジョイント32との連結を,軸方向に割
り溝34,34を有する丸軸の連結軸35,35と,該連結軸35,3
5が相対回動可能に嵌合される孔33,33とにより行うようにし,
c前記左右アイカップ30,30の内端部に連結片31,31を設け,
この連結片31,31に前後に貫通する孔33,33を設け,
dジョイント32の両端部に顔面に向かって突出する連結軸35,35
を設け,
e前記連結軸35,35の先端部外周に連結軸35,35の中心軸線に
対して鋭角に傾斜する係合突条36,36を設け,
,,。f前記係合突条3636を孔3333の背面に係止させたゴーグル
ウ本件特許発明1と引用発明3とを対比すると,その作用及び構造から見
て,引用発明3における「アイカップ「ジョイント「弾性バンド,」,」,」
「丸軸「連結軸「孔「連結片「係合突条」は,それぞれ本件特」,」,」,」,
許発明1の「アイカップ「鼻ベルト「弾性バンド「断面略円形,」,」,」,」
「棒状突起「係合孔「取付台部「係止突部」に相当すると認めら」,」,」,
れる。
そうすると,本件特許発明1と引用発明3とは,以下の点で一致する。
(ア)左右一対のアイカップと,両アイカップを連結する鼻ベルトと,両
アイカップの対向外端部相互を連結する弾性バンドとから成るゴーグル
において,
(イ)前記アイカップと鼻ベルトとの連結を,断面略円形の棒状突起と,
該突起が相対回動可能に嵌合される係合孔とにより行うようにし,
(ウ)棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部
を設けた点
他方,以下の点で相違する。
①本件特許発明1は,アイカップの鼻ベルト取付台部の後面に,顔面に
向かって突出する棒状突起を設け,鼻ベルトの両端部に突起係合孔を設
けているのに対し,引用発明3は,鼻ベルトの両端部に顔面に向かって
突出する棒状突起を設け,アイカップの内端部に取付台部を設け,この
取付台部に係合孔を設けている点(以下「相違点1」という)。
②本件特許発明1は,鼻ベルト両端部の後面に係止突部を係止させるよ
うにしたのに対し,引用発明3は,取付台部の後面に係止突部を係止さ
せるようにした点(以下「相違点2」という)。
③本件特許発明1の棒状突起には割り溝が入っていないのに対し,引用
(「」発明3の棒状突起には軸方向に割り溝が入っている点以下相違点3
という)。
(2)そこで,上記(1)ウ記載の各相違点について順次検討する。
ア引用例2の記載内容
本件特許出願前に頒布された刊行物である引用例2には,次の記載があ
る(乙10。)
(ア)「実用新案登録請求の範囲」
「(1)左右一対のゴーグル本体(12)が,レンズ部(13)と,該
レンズ部(13)の周縁から後方に延びるスカート部(14)とを
備えスカート部14の左右対向内側に突設したブラケット1,()(
5)に連結帯(16)が係合されると共にスカート部(14)のブ
ラケット(15)と反対の外側に着用ベルト(17)が装着され,
スカート部(14)の周縁に着用者の眼部周囲の顔面に密着するパ
ッド(18)が設けられているゴーグル(11)において,
前記ブラケット(15)の背面(15b)に,上方からみて略L
形の連結帯係合片(20)を,端部(20a)がレンズ部(13)
側に位置するように突設すると共に,該係合片(20)の対向端面
()()()()20b又は端部20a前面に係止突起23又は22
を設けたことを特徴とするゴーグル。
(2)前記ブラケット(15)に前面(15a)から背面(15b)
に貫通する連結帯装着用孔(21)を設けた請求項1記載のゴーグ
ル。
(3)前記ブラケット(15)の連結帯結合片(20)の端部(20
a)前面及び対向端面(20b)に係止突起(22(23)を設)
けた請求項1又は2記載のゴーグル。
(4)前記連結帯(16)の両端部には,前記係合片(20)が嵌入
係合する係合孔(29)を備えている請求項1,2又は3記載のゴ
ーグル(明細書1頁4行から2頁9行)。」
(イ)「スカート部14の左右対向内側に突設したブラケット15は,前
面15aがレンズ部13前面よりも前方に突出せられた水平断面略くの
字形を呈し,上下に後方に延びる補強板19が設けられると共に,対向
端部背面15bには,水平断面が略L形を呈しかつ端部20aがレンズ
部13側に位置するようにブラケット前面15a上下幅よりも幅の狭い
連結帯係合片20が突設されている(明細書7頁16行から8頁3。」
行)
(ウ)「連結帯係合片20には,第8図に拡大図示しているように端部2
0aの前面先端に係止突起22が突設されると共に,対向端面20b後
方に係止突起23が突設され,連結帯16が自然に外れないようにせら
れており,各角部は連結帯16の着脱がし易いように,面取りRがなさ
れている(明細書8頁8行から13行)。」
イ上記アの記載及び引用例2の第1図,第7図及び第8図によれば,引用
,「(),()例2には左右一対のゴーグル本体12と両ゴーグル本体12
を連結する連結帯(16)と,両ゴーグル本体の対向外端部相互を接続す
る着用ベルトとから成るゴーグルにおいて,前記ゴーグル本体(12)と
連結帯(16)との連結を,係合片(20)と,該係合片が嵌合される係
(),()()合孔29とにより行うようにしブラケット15の背面15b
に,上方からみて略L形の連結帯係合片(20)を,端部(20a)がレ
ンズ部(13)側に位置するように突設すると共に,該係合片(20)の
対向端面(20b)又は端部(20a)前面に係止突起(23)又は(2
2)を設け,前記連結帯(16)の両端部の後面に連結帯係合片(20)
に形成された端部(20a)及び係止突起(22,23)を係止させ,連
結帯16の両端部の後面に連結帯係合片20に形成された端部2()()(
0a)及び係止突起(23)を係止させたゴーグル(以下「引用発明。」
4」という)が記載されていることが認められる。。)
ウそして,本件特許発明1と引用発明4とを対比すると,その作用及び構
造から見て引用発明4におけるスカート部14ブラケット1,「()」,「(
5「連結帯(16「係合片(20「対向端部背面(15b,)」,)」,)」,)」
「端部(20a,係合突起(22,23」は,それぞれ本件特許発明)」)
「」,「」,「」「」,「」1の周壁部取付台部鼻ベルト棒状突起取付台部の後面
及び「係合突部」に相当する。
以上によれば,引用発明4には,スカート部(14)の左右対向内側に
突設したブラケット(15)の背面(15b)に,上方から見て略L形の
連結係合片(20)を,端部(20a)がレンズ部(13)側に位置する
ように突設する構成及び連結帯16の両端部の後面に連結帯係合片2()(
0)に形成された端部(20a)及び係止突起(22,23)を係止させ
る構成が開示されているということができる。
エ本件特許発明1の容易想到性について
(ア)相違点1について
相違点1に係る本件特許発明1の構成は,アイカップの鼻ベルト取付
台部の後面に,顔面に向かって突出する棒状突起を設け,鼻ベルトの両
端部に突起係合孔を設けているものであるが,上記のとおり,引用発明
4にはスカート部周壁部の左右対向内側に突設したブラケット取,()(
付台部)の背面に上方から見て略L形の連結帯係合片(棒状突起)を備
えるという同様の構成を開示している。
(イ)相違点2に係る本件特許発明1の構成は,鼻ベルト両端部の後面に
係止突部を係止させるようにしたものであるところ,上記のとおり,引
用発明4にも,連結帯(鼻ベルト)の両端部の後面に連結帯係合片(棒
状突起)に形成された端部及び係止突起を係止させる構成が開示されて
いる。
(ウ)相違点3については,引用発明3において,連結軸(取付台部)に
,()()割り溝が入っているのは連結軸取付台部のジョイント鼻ベルト
からの着脱を容易にするためであることは,引用例1の図面の記載から
明らかであるが,連結軸(取付台部)のジョイント(鼻ベルト)からの
着脱をどの程度の力で行うようにするのかは,ゴーグルの使用者の使用
態様を考慮して,当業者が適宜容易に為し得る程度の設計事項であるか
ら,相違点3は,当業者が容易に想到し得る程度のものである。
(エ)そして,引用発明4は,引用発明3と同じゴーグルに関する発明で
あって技術分野も共通しており,引用発明4に開示された技術を引用発
明3のゴーグルに適用することを阻害する要因もなく,かつ,適用する
ことによって得られた構成が,アイカップと鼻ベルトの上下方向の相対
的な動きに融通性があり,微調整が容易で,顔面へのフィッティング自
由度があるとの作用効果を奏することは,引用発明3及び同4から当業
者が予測し得る範囲のものであり,格別のものということはできない。
オ原告の主張について
,,,(ア)原告は引用例1ないし6には①アイカップと鼻ベルトの連結を
断面略円形の棒状突起と,該突起が相対回動可能に嵌合される係合孔に
より行うようにしたものであるから,アイカップの上下方向の動きに融
通性が生まれ,ゴーグル装着者の顔面に対する位置調整が容易で,フィ
ッティング自由度を向上させることができるという効果も,②前記アイ
カップの鼻ベルト取付台部に棒状突起を設け,鼻ベルトの両端に突起係
,,,合孔を設けたので成形性が良く連結強度を確保できるという効果も
③前記棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突
部を設け(請求項1∼3,前記鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ,)
該鼻ベルト両端傾斜面に前記突部と係止させるようにしたので(請求項
2,3,アイカップと鼻ベルトの連結が使用中に外れることがなく,)
連結・分離が容易であるとの効果についての記載も示唆もなく,これら
によって本件各特許発明の進歩性を否定することはできないと主張す
る。
(イ)しかしながら,まず,上記①の効果については,本件特許発明1に
おけるフィッティング自由度の向上という効果は断面略円形の棒状突起
と,相対回動可能に嵌合される係合孔によって行うことによってもたら
されるのであるから(本件明細書段落【0019,引用発明3にお】)
いても,丸軸の連結軸35(取付台部)と,該連結軸35が相対回動可
能に嵌合される孔33(係合孔)の形状において,本件特許発明1と同
様の効果を生じさせることができることは自明のことであり,本件特許
発明1に格別の作用効果ではないのであるから,単にかかる効果が引用
例1に記載されていないことをもって容易想到性を認定する根拠とする
ことが否定されるものではない。
(ウ)上記②の効果については,原告は,補足説明として棒状突起及び鼻
ベルトの材質について主張するが,そもそも本件特許発明1において材
質の特定はされていない。また,原告は,引用発明4のブラケット15
や係合孔29の構成と,本件特許発明1における棒状突起や突起係合孔
とが相違するから,引用発明4は,上記②の効果を示唆するものではな
いと主張するが,本件明細書には,上記②の効果について「また,本発
明によれば,前記アイカップの鼻ベルト取付台部に棒状突起を設け,鼻
ベルトの両端に突起係合孔を設けたので」成形性が良く,連結強度を確
保できる旨記載されている(段落【0019)にすぎず,引用発明4】
,()の係合片は本件特許発明1の棒状突起に相当するものである前記ウ
ところ,該係合片が,本件特許発明1の取付台部に相当するブラケット
と同一素材で一体成形されていることは,引用例2の7頁10ないし1
6行及び第7図から明らかであり,また,鼻ベルトに相当する連結帯1
6の両端に係合孔29が設けられている点でも本件特許発明1と共通す
るから,上記②の効果を奏することは優に認めることができ,原告が指
摘する構成の相違点があることによって,上記認定は左右されない。
(エ)上記③の効果は,本件特許発明1の特許請求の範囲の記載と対応す
る構成である「棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜す
る係止突部を設けたことによってもたらされるとされているところ本」(
件明細書段落【0019,引用発明3にも,かかる構成が記載され】)
ていることは既に認定したとおりであるから,引用発明3において,係
合突条36によってジョイント32と連結片31が係止し,アイカップ
30とジョイント32との連結が使用中に外れない点も,連結・分離が
容易である点も,本件特許発明1と同じである。
(オ)以上によれば,原告の主張は採用することができない。
(3)小括
以上によれば,本件特許発明1は,引用発明3に引用発明4を組み合わせ
ることにより,当業者が容易に発明をすることができたものというべきであ
るから,本件特許1には進歩性欠如の無効理由がある(特許法29条2項,
123条1項2号。)
6争点1−10(本件特許2には進歩性欠如の無効理由があるか)について
(1)本件特許発明2と引用発明3とを対比すると,本件特許発明1と引用発
明3とが一致する点で一致するとともに,相違点1ないし3で相違すること
に加えて,本件特許発明2は「鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ,後方に
傾斜した鼻ベルト両端部の後面に前記係止突部を係止させるようにした」の
,(「」に対して引用発明3はこのような構成を備えていない点以下相違点4
という)で相違する。。
(2)そこで,上記相違点4について検討する。
ア本件特許出願前に頒布された刊行物である引用例3には,次の記載があ
る(乙11。)
(ア)「請求項1】左右のメガネ本体(2L,2R)と,該左右のメガ【
ネ本体(2L,2R)の左右間隔を調整するための該左右のメガネ本体
(2L,2R)の内端を互いに係脱自在として連結する可撓性を有する
ジョイント(4)と,前記左右のメガネ本体(2L,2R)の各外端部
に係脱自在に装着してループとなる弾性バンド(6)と,を備えている
水中メガネ(1)において,前記左右のメガネ本体(2L,2R)の各
,(),()内端部には内方に延伸した支持部7を一体に備え該支持部7
のそれぞれは方形状に枠組みされてジョイント(4)の挿通窓(7A)
を形成しており,該挿通窓(7A)に挿入されているジョイント(4)
に形成した複数の係合部(10)のひとつを係脱する被係合部(8)を
一体に備え,
該被係合部(8)にジョイント(4)のひとつの係合部(10)が係合
した状態を維持してその離脱を防止し,かつ,被係合部(8)に対して
ジョイント(4)の他の係合部(10)を移し替えるとき左右外側方に
弾性変形可能な押え片(9)が,左右のメガネ本体(2L,2R)の各
内端部から前記挿通窓(7A)に向かってジョイント挿通間隔(S)を
有して前方に突出されていることを特徴とする水中メガネ」。
(イ)「0014【実施例】以下,本発明の実施例を図を参照して説【】
明する。図1∼図5は本発明の一実施例を示し,水中メガネ1は,左右
のメガネ本体2L,2Rと,該左右のメガネ本体2L,2Rの左右間隔
を調整するため該メガネ本体2L,2Rの内端を互いに係脱自在として
連結する可撓性を有するジョイント4と,両端に掛け具5を備え,該掛
け具5のそれぞれを前記左右のメガネ本体2L,2Rの各外端部に係脱
自在に装着してループを形成する弾性バンド6とからなっている」。
(ウ)「0015】メガネ本体2L,2Rの顔面当てがい用の端縁部に【
は,顔面に密着しかつ顔面に強い衝撃を与えないために柔軟な弾力を有
する環状パッド3が着脱自在に装着されている。メガネ本体2L,2R
は,透明又は半透明の硬質合成樹脂製であって少なくともそのレンズ面
は防曇処理が施されている。そして,メガネ本体2L,2Rの左右方向
内端部には,レンズ面2L1,2R1より前方に突設しかつ内方に延伸
した支持部7を一体に備え,該支持部7のそれぞれは方形状に枠組みさ
れてジョイント4の挿通窓7Aを形成しており,支持部7の先端が被係
合部8とされている」。
(エ)「0017】前記ジョイント4は,合成樹脂若しくはゴムからな【
り可撓性を有し,両端部には長さ方向に所定間隔でそれぞれ3つの係合
部10が突設されている。この係合部10を含むジョイントの肉厚は,
被係合部8と押え片9との間隙Sよりも厚くされており,したがって,
ジョイント4の両端部が左右メガネ本体2L,2Rの被係合部8と押え
片9との間隙Sに挿通されているとき,係合部10の一つが被係合部8
に係合して,ジョイント4の間隙Sから抜けることを抑止する」。
イ上記ア並びに引用例3の図1及び図2によれば,引用例3には「ジョ,
イント4の両端部を後方に傾斜させ,後方に傾斜させたジョイント4両端
部の後面に形成された係合部10に左右メガネ本体2L,2Rに形成され
た被係合部8を係止させるようにしたゴーグル(以下「引用発明5」。」
という)が記載されていることが認められる。。
そして,上記ジョイント4は,本件特許発明2の鼻ベルトに,上記被係
合部8は本件特許発明2の係止突部に,上記左右メガネ本体2L,2Rは
本件特許発明2の左右一対のアイカップに,上記係合部10は,本件特許
発明2の鼻ベルト両端部の後面にそれぞれ相当する。
ウそうすると,相違点4のうち,鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ,後
方に傾斜した鼻ベルト両端部の後面にアイカップを係止させるようにした
点は,上記イのとおり,引用発明5に備えられている。
また,鼻ベルト両端部の後面に係止突部を係止させるようにした点は,
前記4(2)イにあるように引用発明4に備えられている。
(3)本件特許発明2の容易想到性について
上記(2)イ,ウによれば,相違点4の構成は,引用発明4及び同5に開示
されていることが明らかである。そして,引用発明4及び同5は,引用発明
3と同じゴーグルに関する発明であるから,技術分野も共通し,引用発明3
に引用発明4及び同5を組み合わせることに何らの阻害要因も認められな
い。
しかも,その作用効果も引用発明3ないし5から予測し得る範囲のもので
ある。
以上によれば,本件特許発明2は,引用発明3に引用発明4及び同5を組
み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものという
べきであり,本件特許2には進歩性欠如の無効理由がある(特許法29条2
項,123条1項2号。)
(4)原告の主張について
原告は,構成要件Gの構成により,アイカップと鼻ベルトの連結が使用中
に外れることがなく,連結・分離が容易であるという効果を奏するところ,
前記各引用例にはそのことを示唆する記載もないと主張する。
しかし,引用例2にも「前記ブラケット15の背面15bに,上方からみ
て略L形の連結帯係合片20を,端部20aがレンズ部13側に位置するよ
うに突設すると共に,該係合片20の対向端面20b又は端部20a前面に
係止突起23又は22を設けたことを特徴とするものであるから,連結帯1
6のブラケット15への着脱が容易で,強制的に外ずさない限り簡単にかつ
自然に外れることがなく,連結状態を確実に保持することができ(同公報」
16頁10行ないし18行)との記載があり,引用例3にも「本発明は,左
右のメガネ本体と,これを互いに連結するジョイントと,弾性バンドとの各
パーツに分解組立可能で,組付けたときはその連結が確実かつ強固でありな
がら,意識的に分解するのは容易な水中メガネを提供することが目的であ
る(段落【0006「作用】左右のメガネ本体2L,2Rを当てが。」】),【
うとともに弾性バンド6を頭部に装着すると,弾性バンド6の反作用でジョ
イント4には左右方向の引張力が作用する。ジョイント4の係合部10が支
持部7の被係合部8に係合しており,支持部7は方形状に枠組みされている
ことから,被係合部8が屈曲することはなく不意にジョイント4が外れるこ
とはない(段落【0011「ジョイント4を引き抜くには,ジョイン。」】),
ト4を押え片9側へ押しつけることにより該押え片9を左右外側方に変形さ
せ,押え片9と被係合部8との間隔Sを拡げれば,係合部10と被係合部8
との係合が解除され,この状態で引き抜くことができる(段落【001。」
9「この水中メガネ1の使用状態,すなわち頭部に装着されているとき】),
には,左右メガネ本体2L,2Rは相互に離隔しようとし,ジョイント4に
は引張力が作用するが,この状態では,ジョイント4の係合部10は,メガ
ネ本体2L,2Rの被係合部8に,より深く係合するとともに押え片9でそ
の離脱を防止する。また,被係合部8はメガネ本体2L,2Rに固定的であ
るとから,強度的にも優れ,使用中に不意にジョイント4が外れたり,被係
合部8が破損するなどということが少ない(段落【0020)との記載。」】
があるように,ゴーグルにおいて使用中にジョイントが外れないこと及びジ
ョイントの連結・分離が容易であることといった課題は,およそ一般的な課
題であることは明らかである。そして,本件特許発明2と,引用発明3ない
し5の構成が相違しているとしても,引用発明5には上記のとおり,ジョイ
ント4の着脱方法も記載されているから,本件特許発明2と同様の連結・分
離の容易性を備えているということができる。
そして,構成要件Gの「鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ」という構,
成を備えた場合に,使用中にジョイントが外れないという上記の一般的な課
題の解決のために,当業者があらゆる従来技術の中から,引用発明4のよう
に鼻ベルト両端部の後面に係止突部を係止させることを想到することは,容
易であるというべきである。
よって,原告の上記主張は採用できない。
(5)本件特許1及び同2に係る特許権に基づく差止請求等に関する小括
以上のとおり本件特許1及び同2には進歩性欠如の無効理由があり特,,(
許法123条1項2号,29条2項,特許無効審判において無効にされる)
べきものであると認められるから,特許法104条の3第1項によって,原
告は,同各特許に係る特許権に基づく権利行使をすることができない。
よって,その余の点について検討するまでもなく,同特許権に基づく原告
の請求は,理由がない。
7争点1−11(構成要件Nの「鋭角」の意義は不明確であり,特許請求の範
囲が不明確である無効理由があるか)について
(1)構成要件Nは「前記棒状突起は,取付台部の後面に対して,前記周壁,
部側において鋭角をなしていることを特徴とするゴーグル」である。。
「鋭角」とは「直角より小さい角(広辞苑第5版)であり,0°<θ,」
<90°の範囲内でθが取り得るすべての角度を意味するものである「対。
しての意味は前記2(1)のとおりであるから請求項4の上記記載の棒」,,「
状突起」の形状の意味は,アイカップ取付台部の後面に,顔面に向かって斜
めに突出するように設けられており,当該取付台部の後面を基準として,ア
イカップの周壁部側の角度が鋭角に傾斜したものを意味すると解釈すること
ができる。
本件明細書にも「アイカップ2の取付台部8は,レンズ部6の前面より,
も前方に向かって斜めに突出するように設けられている。該取付台部8の後
面(顔面側傾斜面)8Aに,顔面に向かって突出する断面略円形の棒状突起
10が設けられている。この突起10は,前記後面8Aに対して,周壁部7
側が鋭角となっている。また,突起10の後端面10Aは,図5に示してい
るように,前記取付台部後面8Aと略平行とすべく突起10の中心軸線に対
して傾斜されている(段落【0009)と記載されており,上記解釈に。」】
沿う図3及び図5が記載されている。
以上によれば,請求項4の「前記アイカップの取付台部は,レンズ部の前
面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられ,前記棒状突起は,
取付台部の後面に対して,前記周壁部側において鋭角をなしていることを特
徴とするゴーグル」の意義は明確であって,特許法36条6項2号に違反。
するということはできない。
(2)被告は「鋭角」は機能上有害(棒状突起が取付台部に対してあまり鋭,
角に倒れ過ぎていると鼻ベルトとの相対回動が阻害される)な角度や,機。
能的に無意味な角度までも含む概念であってその技術的意義は著しく不明瞭
であると主張するが,特許法36条6項2号の趣旨は,特許請求の範囲は対
世的な絶対権たる特許請求の効力範囲を明確にするためのもので,その記載
は正確なものでなければならないことから,特許を受けようとする発明が明
確でなければならないとしたものであって,その技術的意義の有無を問う規
定ではない。よって,被告の主張は理由がない。
(,,,,8争点1−12構成要件OQRの意義は不明確であり本件特許5には
特許請求の範囲が不明確である無効理由があるか)について
(1)本件特許発明5は「前記棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行に,
なる係止突部が設けられ,前記鼻ベルトの両端部の前後面は,前記取付台部
の後面と略平行な傾斜面に形成され,前記係合孔は該鼻ベルトの両端部の前
後面に対して傾斜して設けられ,該鼻ベルトの両端部の前面が,前記取付台
部の後面に面接触し,該鼻ベルト両端部の後面が前記係止突部に係止されて
いることを特徴とする請求項4記載のゴーグル」というものである。。
(2)被告は「棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行に」の「前記後面」,
が何の後面を意味するのかが不明であると主張するが,請求項5は,請求項
4の従属項であるから,請求項4に記載されている「後面」が「取付台部の
後面」であることによれば「前記後面」とは「取付台部の後面」を意味,,
することが明らかである。
また,被告は「棒状突起「棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行,」,
になる係止突部」の意義も不明確であると主張するが「棒状突起」とは,,
突起が棒状のものをいうことは明らかであってその形状は明確である前,。「
記後面と略平行になる係止突部」は「前記後面」が「取付台部の後面」を,
意味することは上記のとおりであり「係止「突部」の意味は,前記2の,」
とおりであるから,棒状突起の外周部に,取付台部の後面と平行な角度で,
鼻ベルトと係わり合って止めるために突出した部分をいうことは十分理解可
能である。さらに,本件特許公報の図5の図面の記載も,上記認定と矛盾す
るものではない(このように,請求項5の構成要件Oは,構成要件Eが「係
止突部」の形状を限定してなかったのに対し,上記のとおり「係止突部」の
形状を「前記棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になる」形状に限定
したものといえる。したがって,上記各用語の意義に不明確な点はない。。)
(3)さらに,被告は,請求項5の構成要件Qの「前記係合孔は該鼻ベルトの
両端部の前後面に対して傾斜して設けられ」の記載について,鼻ベルトの係
合孔は当該鼻ベルトの両端部の前後面に対し傾斜して設ける構成であるが,
傾斜して設けたからといって,必ずしも棒状突起の軸回りに鼻ベルトと取付
台部とが円滑に相対回動可能になるというものではないと主張する。
しかし,既に判示したとおり,特許法36条6項2号は,その技術的意義
の有無を問う規定ではなく,その記載から技術的事項を明確に把握すること
ができることを要求する規定であるから,被告の上記主張は失当である。
なお,付言すると,本件明細書には,実施例の説明として「前記鼻ベルト
3は,図1,図3,図5,図9に示されているように,平面視略弯曲状で,
()。,軟質又は半硬質プラスチック等の弾性材料により成形されているまた
鼻ベルト3は,長手方向(左右方向)両端部3Aが,後方に向かって傾斜状
(ハ字状)に延び,該両端部3Aに前後方向に貫通する突起係合孔13,1
3が設けられている。この係合孔13は,前記両端部3Aの前後面に対して
傾斜している(段落【0010)と記載されており,さらに「また,前。」】
記両端部3Aの前面には,鼻ベルト3の前端面に対して,前記取付台部8の
前後方向厚さと略同じ寸法の段差Hが設けられている(図5参照。この段)
差Hはアイカップ2の前記取付台部8前面と鼻ベルト3前面を面一フ,,,(
ラッシュサーフェース)にするのに役立つ。これは,スイミングゴーグルに
採用することにより,水の抵抗をなくするのに効果がある(段落【00。」
11)と記載されているように,鼻ベルトの係合孔が鼻ベルトの両端部の】
前後面に対して傾斜して設けられるとの構成は,水の抵抗をなくすという効
果のために採用されているものと認められる。そして,構成要件Qの「前記
係合孔は該鼻ベルトの両端部の前後面に対して傾斜して設けられ」の技術的
意義は,請求項5の「棒状突起」が,請求項4における「前記棒状突起は,
取付台部の後面に対して,前記周壁部側において鋭角をなしている」との記
載を受けて,鼻ベルトの両端部の係合孔が棒状突起が差し込まれる際に,鼻
ベルトの両端部の前面が取付台部の後面に面接触する(構成要件R参照)こ
とができるようにするために,係合孔を鼻ベルト両端部の前後面に対して傾
斜して設けることを意味することは明らかである。
よって,被告の上記主張は,技術的観点に照らしても採用できない。
(4)さらに,被告は,構成要件Rと,構成要件N,構成要件Pの要請が矛盾
する旨主張している。しかし,本件特許公報の図3には,対向内側に突出し
ている係止突部が描かれており,さらに本件明細書には,実施例の説明とし
て「さらに,ゴーグル1を装着して使用しているとき,アイカップ2と鼻ベ
ルト3には,図5に示すように,弾性バンド4の張力Fが矢印で示す方向に
作用し,そのために,鼻ベルト3の両端部3Aには,図3に矢印FAで示す
方向に力が作用する。即ち,突起係合孔13の各外端側が,アイカップ2の
取付台部8と棒状突起10の間に押し込められる。また,棒状突起10の係
止突部11が,鼻ベルト3の突起係合孔13後方の切欠部14に係止されて
いる。したがって,ゴーグル1の使用中は,前記係合孔13から棒状突起1
0が抜け出して,アイカップ2と鼻ベルト3が分離することはない(段。」
落【0015)と記載されているように,鼻ベルトには,係止突部と係合】
する切欠部を設けるとの構成が開示されている。したがって,当業者であれ
ば,これらの記載を基に鼻ベルトに切欠部を設けるなどすることによって,
相互の構成要件の構成を矛盾なく構成することが可能であると認められる。
よって,被告の上記主張は採用できない。
9争点1−13(本件特許4には進歩性欠如の無効理由があるか)について
(1)本件特許出願前に頒布された刊行物である引用例1には,前記5(1)のと
おり引用発明3が記載されている。
引用発明3を本件特許発明4の構成と対応させると以下のようになる。
h左右一対のアイカップ30,30と,両アイカップ30,30を着脱自
在に連結するジョイント32と,両アイカップ30,30の対向外端部相
互を接続する弾性バンドとから成り,
i前記アイカップ30,30の各内端部には前記ジョイント32の連結片
31,31が突出して設けられ,該連結片31,31に前記ジョイント3
2両端が取り付けられているスイミングゴーグルにおいて,
,,j前記ジョイント32の背面両端部に丸軸の連結軸3535が設けられ
k前記連結片31,31に,前記連結軸35,35が挿入された状態でア
,,イカップ3030とジョイント32が相対回動可能に嵌合される孔33
33が設けられ,
l前記アイカップ30,30は,前面のレンズ部と,該レンズ部の周縁か
ら後方に突出する周壁部とを備え,
m前記アイカップ30,30の連結片31,31は,レンズ部の前面より
も前方に向かって斜めに突出するように設けられ,
n前記連結軸35,35は,ジョイント32の背面に対して垂直に設けら
れたスイミングゴーグル。
本件特許発明4と引用発明3を対比すると,その作用及び構造から見て引
用発明3の「ジョイント32」が本件特許発明4の「鼻ベルト」に,以下,
同じく「着脱自在に連結する」が「連結する」に「弾性バンド」が「弾性,
バンド」に「各内端部」が「左右対向内側」に「連結片31,31」が,,
「取付台部」に「突出して設けられ」が「突設され」に「スイミングゴ,,
ーグル」が「ゴーグル」に「丸軸の連結軸35,35」が「断面略円形の,
棒状突起」に「連結軸35,35が挿入された状態でアイカップ30,3,
0とジョイント32が相対的に回転する孔33,33」が「棒状突起が相対
回動可能に嵌合される係合孔」に,それぞれ相当する。
そうすると,本件特許発明4と引用発明3は,後記アの点で一致し,後記
イの点で相違する。
ア一致点
左右一対のアイカップと,該両アイカップを連結する鼻ベルトと,前記
両アイカップの対向外端部相互を接続する弾性バンドから成り,前記両ア
イカップの左右対向内側には前記鼻ベルトの取付台部が突設され,該取付
台部に前記鼻ベルト両端部が取り付けられているゴーグルにおいて,断面
略円形の棒状突起が設けられ,棒状突起が相対回動可能に嵌合される係合
孔が設けられ,前記アイカップは,前面のレンズ部と,該レンズ部の周縁
から後方に突出する周壁部とを備え,前記アイカップの取付台部は,レン
ズ部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられたゴーグ
ルである点
イ相違点
(ア)本件特許発明4ではアイカップは硬質プラスチック製であり,鼻ベ
ルトは弾性材料により形成されているのに対し,引用発明3では,アイ
カップと鼻ベルトの素材が不明である点(以下「相違点5」という)。
(イ)本件特許発明4では,取付台部の後面側に棒状突起が設けられ,鼻
ベルトの左右両端部に係合孔が設けられており,棒状突起は,取付台部
の後面に対して,周壁部側において鋭角をなしているのに対し,引用発
明3では,取付台部に係合孔が設けられ,鼻ベルトの左右両端部に棒状
突起が設けられており,棒状突起は棒状突起が設けられた鼻ベルトの背
面に対して垂直に設けられている点(以下「相違点6」という)。
(3)そこで,以下,上記相違点5及び同6について検討する。
ア相違点5について
相違点5については,引用例2に「連結帯6は,弾性可撓性のプラスチ
ックにより帯状に一体形成され(同公報4頁13,14行「ゴーグル」),
本体12は,…透明又は半透明のポリカーボネート又はセルロースプロピ
オネート等の硬質合成樹脂により一体成形されている(同8頁10な。」
いし16行)とあり,かつ,引用例2が公開されたのは平成2年8月14
日であること(乙10,さらに,その他の本件特許出願前の刊行物であ)
()「,る実開昭62−145657号公報乙32に繊維素系プラスチック
ポリカーボネート樹脂,アクリル樹脂又は透明なポリオレフィン系樹脂に
て成形された水中眼鏡において(実用新案登録請求の範囲)と記載され」
ているほか,特開平6−190081号公報(乙39)にも「前記アイ,
カップは,硬質プラスチック製の本体と(特許請求の範囲【請求項1」【】
0)と記載されていることによれば,相違点5に係る構成は周知技術で】
あったと認めることができる。したがって,引用発明2に上記構成を適用
して,相違点5を備えることは,当業者であれば容易に想到し得る設計事
項であるというべきである。
イ相違点6について
(ア)相違点6のうち,引用発明2では,取付台部に係合孔が設けられ,
鼻ベルトの左右両端部に棒状突起が設けられているのに対して,本件特
許発明4では取付台部の後面側に棒状突起が設けられ,鼻ベルトの左右
両端部に係合孔が設けられている点については,前記のとおり,引用発
明4に備えられている。
これに対し,本件特許発明4の「前記棒状突起は,取付台部の後面に
対して,前記周壁部側において鋭角をなしている」については,まず本
件特許発明4の「取付台部の後面」がどのような面であるのかが特許請
求の範囲の記載からは必ずしも明らかではないので,本件明細書の発明
の詳細な説明を参酌する。
(イ)本件明細書(甲1)には以下の記載がある。
・「また他の本発明の特徴とするところは,…前記取付台部は,前記
周壁部の左右対向内側より前記レンズ部の前面側に向かう傾斜面に形
成された後面を有し,該後面と前記棒状突起とは,前記周壁部側にお
いて鋭角をなしている点にある(段落【0007)。」】
・【発明の実施の形態「前記アイカップ2の取付台部8は,レンズ】
部6の前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられてい
る。該取付台部8の後面(顔面側傾斜面)8A(段落【0009)」】
以上の各記載に加えて,請求項4を引用する請求項5に「前記鼻ベル
トの両端部の前後面は,前記取付台部の後面と略平行な傾斜面に形成さ
れ」と記載されていることによれば,本件特許発明4の取付台部の後面
は,傾斜面であると認められる。また,その傾斜の方向は,引用発明2
その他のゴーグルの周知の形態によれば,アイカップの対向内側である
ことが明らかである。
(ウ)ところで,取付台部が斜め前方に向かって突出する構成(構成要件
M)は,引用発明3にも見られる従来からある構成であるが,証拠(乙
),(),9によれば本件特許出願当時平成7年12月25日の技術では
取付台部を斜め前方に突出させても,鼻ベルトとの連結部においては連
結台部も上面視で水平となる構成が比較的多く採用されていたことが認
められる(引用発明3。これに対して,本件特許発明4は,取付台部)
の突出方向と同様に傾斜している取付台部の後面に棒状突起を設けるこ
ととし,それに際して鼻ベルトが容易に抜けないように取付台部の後面
に対して棒状突起が周壁部側において鋭角をなすようにした点に特徴が
あるということができる。
しかし,このように取付台部の後面を取付台部の突出方向と同様の傾
斜とする構成は,以下の刊行物の記載によれば本件特許出願当時に周知
の技術であったというべきである。
a本件特許出願前に頒布された刊行物である実開平3−54629号
公報(乙75)には,以下の記載がある。
・「従来の技術)従来,例えばスイミング用ゴーグルとしては,(
従来例Ⅰとして第12図に示すようなものがある(米国特許第44
68819号明細書。これは,左右一対のゴーグル本体60,6)
0間に,可撓性を有する平面視U字状の連結部材61が配置され,
前記各ゴーグル本体60の対向側端部に,連結部材61を取付ける
取付部62が設けられている。そして,この取付部62には挿通孔
63が形成され,取付部62の両側には複数個の突部64が設けら
れ,この突部64を選択的に挿通孔63に係止させることにより,
ゴーグル本体60間の間隔を調整するものである(同公報3頁。」
11行ないし4頁2行)
・さらに,上記実施例の図面には,取付部62がゴーグル本体から
対向内側に斜め前方に突出しており,かつその挿通孔63が形成さ
れている取付部が上面視で傾斜しており,挿通孔は顔面に向かって
垂直になるために,取付部62に対しては垂直ではなく傾斜して貫
通している構成が記載されている。また,取付部62の後面は,取
付部の突出方向と同様の傾斜面となっている。
b本件特許出願前に頒布された刊行物である実開平2−131468
号公報(乙76)には,以下の記載がある。
・「ブリッジ5は第3図に示すように,眼鏡基板2より突設された
橋桁51を有しており,前記橋桁51の先端部に弾性体のブリッジ
5が取付けられた構造になっている(同公報5頁11ないし1。」
4行)
・第3図には,本件特許発明4における取付台部に相当する「橋桁
51」が記載されており,本件特許発明4における鼻ベルトに相当
する「ブリッジ5」の取付部分は,傾斜している構成が記載されて
いる。また,橋桁51の後面は,橋桁51の突出方向と同様の傾斜
面となっている。
したがって,引用発明2に上記周知技術を適用して,その取付台部
の後面を取付台部の突出方向と同様の傾斜面とすることは,当業者が
適宜なし得る設計事項ということができる。
(エ)そうすると,傾斜した取付台部に設ける棒状突起の角度をどのよう
に設定するかが問題となるが,鼻ベルトによってアイカップには対向内
側に引っ張る力が作用することは自明であり,取付台部に垂直に設けた
のでは,鼻ベルトが抜けやすくなることも自明である。
そこで,使用中に鼻ベルトがアイカップから外れることを防止すると
いう課題が発生するが(なお,かかる課題がゴーグル一般に共通する普
遍的な課題であることは,既に判示したとおりである,係止部を抜。)
けにくくするための方法として,係止部を,係止部にかかる引張力と反
,。対側に向けて鋭角に構成することは古くから見られる周知技術である
すなわち,実開昭50−112331号公報(乙78)には,考案の名
「」,称をバツクルとする考案に関するバックルの図面が記載されており
その第2図及び第3図には,バックルの裏面の側縁中央に突起を設け,
その突起をベルト穴が引っ張られる方向と反対側に傾斜させて設ける構
成が記載されている。その他,バックルに関する技術事項として同様の
内容の考案が,複数出願され公開されている(実開昭55−32186
号公報〔乙79,実開昭55−179510号公報〔乙80。これ〕〕)
,,らの公開時期及び技術内容によればバックルに関する上記技術事項は
本件特許出願時には周知技術であったと認めるのが相当である。
そして,張力が働く関係にあるゴーグルの鼻ベルトとアイカップの連
結部材と,ベルトのバックルとは,技術分野として同一とまでいうこと
はできないものの,その技術内容は本件特許出願当時においても普遍的
な常識に近いものであり,その適用される技術分野の範囲を広く認めて
差し支えのないものというべきである。そして,ゴーグルに関する当業
者であれば,傾斜する取付台部に棒状突起を設けた場合,取付台部に垂
直に棒状突起を設けたのでは,鼻ベルトの対向内側に働く引張力によっ
て,鼻ベルトが容易に抜ける事態が生じてしまうことや,これを防ぐた
,,めに引張力が作用する方向とは反対側に棒状突起を傾斜させすなわち
棒状突起の中心軸線を取付台部の後面に対してアイカップの周壁部側に
おいて鋭角をなす構成を採用することは,容易に想到することができる
ものというべきである。
ウまた,本件特許発明4に上記構成を採用することによって得られる効果
も,上記各引用発明に上記周知技術を組み合わせた場合に想定される効果
の範囲内である。原告は,上記各引用発明には,本件特許発明4に係る効
果を示唆する記載がないと主張するが,使用中にアイカップと鼻ベルトが
抜けないようにするとの課題は,ゴーグル一般に共通する普遍的課題であ
るから,かかる課題を解決するために,従来技術に存在する構成を組み合
わせることは当業者であれば通常行うことであって,それによって,予想
できなかったような効果を奏する場合であればともかく,かかる顕著な効
果があるとは認められない本件特許発明4について,進歩性が欠如してい
ることは前記認定のとおりであって,原告の主張は採用できない。
エ以上によれば,本件特許発明4は,当業者であれば,引用発明2に引用
,(,,,,,,発明4さらに上記各周知技術乙103239757678
80)を適用することにより,容易に想到することができたものである。
また,本件特許発明4の作用効果は,引用発明3に引用発明4及び上記各
周知技術を適用することによって予想される範囲のものである。
よって,本件特許発明4は,進歩性に欠け,特許法29条2項により特
許を受けることができないものというべきである。
(4)以上によれば,本件特許4は特許無効審判により無効とされるべきもの
と認められるから,原告は,同特許に係る特許権に基づいて権利行使をする
ことができない(特許法104条の3。)
10争点1−14(本件特許5には進歩性欠如の無効理由があるか)について
(1)本件特許発明5と引用発明3を対比すると,本件特許発明4と引用発明
3の一致点及び相違点のほかに,本件特許発明5が「前記棒状突起の先端部
外周に前記後面と略平行になる係止突部が設けられ(構成要件O「前,」),
記鼻ベルトの両端部の前後面は,前記取付台部の後面と略平行な傾斜面に形
成され(構成要件P)及び「前記係合孔は該鼻ベルトの両端部の前後面,」
,」(),「,に対して傾斜して設けられ構成要件Q該鼻ベルト両端部の前面が
前記取付台部の後面に面接触し(構成要件R「該鼻ベルト両端部の後,」),
面が前記係止突部に係止されていることを特徴とする請求項4記載のゴーグ
ル(構成要件S)との構成を備えるのに対し,引用発明3はそのような。」
構成を備えない点で相違する(以下「相違点7」という。,。)
(2)相違点5及び同6については,既に前記9において判示したとおり当業
者が容易に想到し得たものであるから,以下,相違点7について検討する。
ア構成要件Oについて
(ア)本件特許発明5の構成要件Oの「係止突部」は「前記後面と略平,
行になる」ものであるところ,前記8のとおり「前記後面」とは「取付
台部の後面」を意味し,係止突部は棒状突起の先端部外周に取付台部の
後面と平行な角度で,鼻ベルトと係わり合って止めるために突出した部
分をいうものである。
そして,構成要件Oにおける「棒状突起」の意義は,取付台部の後面
に,顔面に向かって斜めに突出するように設けられており,当該取付台
部の後面を基準として,アイカップの周壁部側の角度が鋭角に傾斜した
ものを意味すると解することができることは,前記8のとおりである。
構成要件Sは「該鼻ベルトの両端部の後面が前記係止突部に係止され
ている」というものであるから,構成要件Oの「係止突部」は,鼻ベル
トが係止するために設けられた突部であるということができる。
そして,取付台部は「レンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに,
突出するように設けられ」ているため(構成要件M,その後面も,傾)
斜しているものであるところ,上記のとおり棒状突起が当該取付台部の
後面を基準として,アイカップの周壁部側の角度が鋭角に傾斜している
ものであることによれば,係止突部も,棒状突起の先端部に突起中心軸
線に対して鋭角に傾斜したもの,すなわち,本件特許発明1の構成要件
Eの構成を備え,かつ取付台部の後面と略平行になるものと認められる
(つまり,本件特許発明1の「係止突部」とは異なり,本件特許発明5
の「係止突部」は,被告が主張する別紙図4の形状を含まないこととな
る。。)
そして,構成要件Oにおける係止突部は,上記構成を備えることによ
って,アイカップと鼻ベルトが使用中に外れることなく,かつ,その連
結・分離が容易となるものである(本件明細書段落【0006。す】)
なわち,棒状突起の中心軸線に対して鋭角に,かつ取付台部の後面と略
平行に傾斜する係止突部を設けるとの構成を備えることによって,本件
特許発明5に係るゴーグルは,ゴーグル装着時は引張力の作用によって
抜けにくいにもかかわらず,非装着時においては鼻ベルトの脱着が容易
であるとの効果を奏するものである。
そして,本件各証拠によっても,上記のように構成された係止突部を
備える発明は,本件特許出願当時には見当たらない。
イ構成要件Pについて
構成要件Pに係る構成が採用された理由は,本件明細書の記載によって
も,必ずしも明らかではない。
もっとも,本件各特許発明における鼻ベルトのように,接する面に対し
て略平行に形成する構成は,既に引用発明4の連結帯に関する構成として
開示されている。すなわち,引用例2(乙10)には「ところで,従来,
の上記ゴーグル1は,連結帯6がその係合突起6bをブラケット4の係合
孔5に係止させているだけであるから,外れ易いうえ弯曲させた状態で着
用するので着用が面倒で,連結帯6の端部が背部に延びて外観を損なうな
どの問題がある(同公報4頁18行ないし5頁3行。判決注,なお,。」
引用例2における従来技術として記載されているゴーグルに係る第29図
と,本件特許公報の従来技術に関する図面として記載されている図15と
は,アイカップと鼻ベルトの連結構造に関してはほぼ同一の図面である。
ちなみに,引用例2に係る特許の出願人は原告である)と,本件各特許。
発明に関する課題の中でも鼻ベルトに関する課題と同一の課題が記載され
ている。その上で,上記課題を解決する構成とその作用に関して「本考,
案によれば,ゴーグル本体12のブラケット15に連結帯16を取付ける
場合,第14図Al∼liに示すように,連結帯16の係合孔29が,ブ
ラケット15の係合片20の先端部に嵌まるまで,連結帯16端部を指先
で押し込み,次いで,連結帯16の他端部を前方へ回し,連結帯16の背
面に係止突起23が係止するまで前方へ引張ることによって,連結帯16
,。,を係合片20の基部に嵌合させ容易に装着することができるこのとき
連結帯16はその前面がブラケット15の前面15aと略平行になると共
に,背面が係止突起22,23によって係止され(同公報6頁15行な」
いし7頁5行)と記載されており,かつ,連結帯16の形状については,
「前記連結帯16は,第10図及び第11図に示すように,可撓性を有し
かつ伸縮不能な合成樹脂材により一体的に成形され,中央部が前方に突出
されて両端の連結耳部16aに係合孔29が設けられると共に,該耳部1
6aの先端部は幅が狭くされ,装着時に指先で押動しうるようになってい
る。30は材料節減用の凹部である(同公報10頁10ないし16行)。」
と記載されている。
このように,可撓性はあるが伸縮不能な合成樹脂で製造されている連結
帯16の耳部の前後面が,装着時にはブラケット背面(15b)に略平行
に形成されていることは,引用例2の第8図より明らかであり,当業者で
あれば,引用例2の記載によって十分認識可能である。
さらに,証拠(乙76)によれば,実開平2−131468号公報の第
3図には,本件特許発明4における取付台部に相当する「橋桁51」が記
,「」載されており本件特許発明4における鼻ベルトに相当するブリッジ5
の取付部分は,傾斜している構成が記載され,橋桁51の後面は,橋桁5
,,,1の突出方向と同様の傾斜面となっておりかつブリッジ5の前後面は
橋桁51の傾斜面後面に対して略平行な傾斜面に形成されている構成が記
載されていることが認められる。
よって,上記従来技術によれば,本件各特許発明における「鼻ベルト」
の両端部の前後面を,その体裁を良くするために,その接する面(本件特
許発明5における「取付台部)と略平行に形成することは,従来からあ」
る周知の技術ないし設計事項であるということが可能であり,さらに鼻ベ
ルトの両端部の前後面を傾斜面に形成することは,上記乙第76号証に記
載されている。
したがって,本件特許発明5における,レンズ部の前面よりも前方に向
かって斜めに突出するように設けられている「取付台部の後面」に,アイ
カップと連結するために設ける鼻ベルトを係止させる場合に,その端部の
前後面を「取付台部の後面」と略平行な傾斜面に形成することは,当業者
であれば,容易に想到し得る設計事項であるというべきである。
ウ構成要件Qについて
構成要件Qの「鼻ベルト」は,構成要件Pの「鼻ベルトの両端部の前後
面は,前記取付台部の後面と略平行な傾斜面に形成され」との構成を備え
る鼻ベルトである。そして,本件特許出願前の刊行物である実開平3−5
4629号公報に記載された実施例の図面には,取付部62がゴーグル本
体から対向内側に斜め前方に突出しており,かつその挿通孔63が形成さ
れている取付部が上面視で傾斜しており,挿通孔63は取付部62に対し
て垂直ではなく顔面に向かって垂直になるように傾斜して貫通している構
成が開示されている(乙75。)
このように,取付部が斜め前方に突出しているときに,連結部材を取付
部に対して垂直以外の方向に挿通するに際して,その挿通孔を連結部材が
挿通される方向に一致させれば,挿通孔が取付部の前後面に対して傾斜し
て設けられるのは,自明のことである。
よって,構成要件Qについては,当業者であれば適宜選択し得る設計事
項であるといわざるを得ない。
エ構成要件Rについて
構成要件Rのように,鼻ベルトの両端部の前面が,取付台部の後面に面
接触するとの構成は,前記5(2)のように,引用発明3と引用発明4を組
み合わせれば,取付台部の後面に引用発明3における連結軸35,35が
設置されることになるから,当然,アイカップ30,30の裏面が,ジョ
イント32の前面と面接触することになるということはできる。
しかし,本件特許発明5における取付台部とは,取付台部がレンズ前面
よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられ(構成要件M,そ)
の取付台部の後面に対して棒状突起は周壁部側において鋭角をなし構,,(
)。,,成要件Nているものであるまた本件特許発明5における鼻ベルトは
その両端部の前後面は,取付台部の後面と略平行な傾斜面に形成され(構
成要件P,さらに鼻ベルトに設けられた係合孔は,鼻ベルトの両端部の)
前後面に対して傾斜して設けられる(構成要件Q)ものである。そして,
「該鼻ベルトの両端部の前面が,前記取付台部の後面に面接触し」との,
構成(構成要件R)を採用することによって,鼻ベルト両端の厚みと前記
取付台部の後面とそこに突設された棒状突起先端部外周に形成した係止突
部までの内法が略一致することとなるものである。
このような取付台部8と鼻ベルト両端部3Aの構成を採用することによ
って,本件特許発明5は,ゴーグル使用時には,本件特許公報図5に示さ
れているように,アイカップ2と鼻ベルト3には,弾性バンド4の張力が
FAで示す方向に作用し,突起係合孔13の各外端側が,アイカップ2の
取付台部8と棒状突起10との間に押し込められ(つまり,鼻ベルトが,
ゴーグル前面の方向に押し込められることとなる,その結果,ゴーグ。)
ル1の使用中は,突起係合孔13から棒状突起10が抜け出して,アイカ
ップ2と鼻ベルト3が分離することはないという効果を奏するものである
(本件明細書段落【0015。】)
他方,引用発明3にも,引用発明4にも,鼻ベルトの両端部の前面を,
傾斜している取付台部の後面に面接触させるという構成について示唆する
ものはなく,したがって,弾性バンドの張力がアイカップと鼻ベルトに作
用する結果,鼻ベルトがゴーグルの斜め前方向に押し込められる効果を示
唆する記載はない。
また,他に,本件特許出願当時,鼻ベルトの両端部の前面が面接触し,
かつ鼻ベルトがゴーグルの斜め前方向に押し込められるとの効果が開示さ
れた先行技術が存在したと認めるに足りる証拠はない。
よって,構成要件Rについては,これを備える先行技術は見当たらず,
本件特許発明5は,構成要件Rに係る構成を備える点において,新規性が
あり,かつ進歩性があると認めることができる。
オ構成要件Sについて
構成要件Sの鼻ベルト両端部の後面が係止突部に係止されているとの構
成は,引用発明4に備えられている。
カ本件特許発明5の奏する作用効果について
上記アないしオによれば,本件特許発明5は,構成要件O及び同Rの構
成を備える点で新規であり,かつ,その効果においても,構成要件Oを備
えることによって,アイカップと鼻ベルトが使用中に外れることなく,か
つ,その連結・分離が容易になり,同Rを備えることによってフィッティ
ング自由度の向上を図るとの従来技術から予想することのできない効果を
奏するものである。
(3)以上によれば,本件特許発明5は,本件特許出願当時において,当業者
が容易に想到することができたということはできない。
よって,本件特許5は,特許無効審判により無効にされるべきものである
と認めることはできない。そこで,以下,被告製品が本件特許発明5の技術
的範囲に属するか否かについて検討を進めることとする。
11争点1−1(被告製品の技術的構成)について
(1)争いのない事実
被告製品が,別紙被告物件目録添付図面第2図及び第14図を除いた同目
録の図面の構成を備えることは,当事者間に争いがない。
(2)証拠(乙23,50)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は上記(1)の
各図面に加えて,被告製品の正面図として,別紙イ号物件目録添付図面図1
0の構成を備えるものと認めるのが相当である。
よって,本件特許発明5に対応する被告製品の構成は,以下のとおりと認
められる(なお,用語については,原則として原告主張の用語例に従うもの
とする。。)
h左右一対の硬質プラスチック製のアイカップ(2a,2b)と,該両ア
イカップを連結する弾性材料により成形された鼻ベルト(3a)と,前記
()。両アイカップの対向外端部相互を接続するゴムバンド4aとから成る
i前記両アイカップ(2a,2b)の左右対向内側には前記鼻ベルト(3
a)の取付台部(8a,8b)が突設され,鼻ベルト取付台部に前記鼻ベ
ルトの両端部が取り付けられている。
j前記鼻ベルト取付台部(8a,8b)の後面側(接眼側)に断面略円形
の棒状突起(10a,10b)が設けられている。
k前記鼻ベルト(3a)の両端部に,前記棒状突起(10a,10b)が
相対回動可能に嵌合される貫通孔(31a,31b)が設けられている。
l前記アイカップ(2a,2b)は,前面のレンズ部と,該レンズ部の周
縁から後方に突出する周壁部(7a,7b)とを備えている。
m前記アイカップ(2a,2b)の鼻ベルト取付台部(8a,8b)は,
レンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられてい
る。
n前記棒状突起(10a,10b)は,鼻ベルト取付台部(8a,8b)
の後面(接眼側)に対して,前記周壁部(7a,7b)側において鋭角を
なしている。
o前記棒状突起(10a,10b)の先端部外周に鼻ベルト取付台部(8
a,8b)の後面と略平行になるフック部(11a,11b)が設けられ
ている。
p前記鼻ベルト(3a)の両端部の前後面は,前記鼻ベルト取付台部(8
a,8b)の後面と略平行な傾斜面に形成されている。
q前記貫通孔(31a,31b)は該鼻ベルト(3a)の両端部の前後面
に対して傾斜して設けられている。
r該鼻ベルト(3a)の両端部の前面に滑りリブ(32a,32b)が形
成されており,同滑りリブが前記鼻ベルト取付台部(8a,8b)の後面
に面接触している。
s該鼻ベルト(3a)の両端部の後面が前記フック部(11a,11b)
に係止されている。
12争点1−3(構成要件Nの充足性)について
構成要件Nの意義は,前記7のとおり「アイカップ取付台部の後面に,顔,
面に向かって斜めに突出するように設けられており,当該取付台部の後面を基
準として,アイカップの周壁部側の角度が鋭角に傾斜したもの」を意味すると
解するのが相当である。
そして被告製品の構成nはその機能構造に照らせば前記棒状突起1,,,「(
0a,10b)は,鼻ベルト取付台部(8a,8b)の後面(接眼側)に対し
て,前記周壁部(7a,7b)側において鋭角をなしている」であり,被告。
製品の構成nの「棒状突起「鼻ベルト取付台部の後面「周壁部側」は,」,」,
それぞれ本件特許発明4の「棒状突起「取付台部の後面「周壁部側」に」,」,
相当する。
よって,被告製品は構成要件Nを充足する。
13争点1−4(構成要件Rの充足性)について
構成要件Rは「該鼻ベルトの両端部の前面が,前記取付台部の後面に面接,
触し」というものであるところ,証拠(甲48)によれば,被告製品におけ,
る鼻ベルトの取付台部の後面に位置する,鼻ベルト前面端部には,カマボコ形
の滑りリブが形成されていることが認められる(このことは被告も認めてい
る。さらに,被告製品の取付台部は硬質プラスチック製であり,鼻ベルト。)
は弾性材料により成形されていることは,当事者に争いがないところ,カマボ
コ形の滑りリブが弾性材料により成形されているため,鼻ベルト前面端部が取
付台部の後面に接触する際にも,厳密に点で接触しているというよりは,やや
幅のある面でもって接触しているものと認めるのが相当である。
被告は,被告製品の両端部の前面(別紙被告物件目録にいう滑りリブ32a
・32b)は,取付台部(8a・8a)の後面に点接触するにすぎないと主張
するが,上記説示に照らし採用できない。
よって,被告製品は構成要件Rを充足する。
14争点1−5(構成要件Oの充足性)について
構成要件Oの「前記後面」は,構成要件Jの「取付台部の後面」を意味する
ことは,前記10(2)ア(ア)のとおりである。
また「後面と略平行になる係止突部」の意義も,前記2において判示した,
とおり,係わり合って止めるために設けられた突出した部分であって,その形
状は,棒状突起の先端部に設けられており,その成形角度については,係止突
部の突出する方向が取付台部の後面に沿う方向とおよそ一致することを意味す
る。
そして,別紙被告物件目録添付図面第5図の符号11aのフック部は,上記
係止突部に該当する。そして,このフック部11aは,棒状突起10aの先端
部外周に設けられている。
よって,被告製品は,構成要件Oを充足する。
15争点1−16(公知技術の抗弁)について
被告は,被告製品は別紙被告物件目録記載の技術的構成①を基本的骨組みと
して,これに引用例1ないし6に開示された当業者に周知の公知技術と製造元
が特許出願することなく公知にした技術的工夫とを加味して製作されたもので
あるから,かかる公知技術を用いた被告製品は本件各特許発明の技術的範囲に
。,,属しないと主張する被告の同主張の趣旨は必ずしも明らかではないものの
被告製品は上記各引用例で開示された公知技術を用いたものであるから,いわ
ゆる公知技術の抗弁(自由技術の抗弁)を主張するものとも解される。
そして,そもそもかかる抗弁が許容されるか否かはともかくとして,本件特
許発明5が公知技術と対比して新規でかつ進歩性を有する発明であることは,
前記10で判示したとおりであり,被告製品がこのように新規でかつ進歩性を
有する本件特許発明5の構成要件をすべて具備する以上,同特許発明の技術的
範囲に属するものというべきである。
16争点1−15(出願経過禁反言の法理の適用の有無)について
なお,被告は,出願経過禁反言の法理により,削除された請求項に係る技術
事項は本件特許発明の技術的範囲から除外されたものであると主張する。
前記前提事実(7)のとおり,原告は,平成14年8月30日に本件分割出願
をした後,平成17年9月30日,本件親出願について拒絶理由通知を受け,
本件親出願の特許請求の範囲請求項4ないし7については特許法29条2項に
より特許を受けることができないと記載されていたため,同年11月9日提出
の手続補正書において同各請求項を削除し,平成18年1月6日に本件親出願
について特許権の設定登録を受けたものである。このように,上記補正は,本
件親出願に関するものであって,本件分割出願に係る本件各特許発明について
ではない。そして,本件親出願の特許請求の範囲請求項4ないし7が本件各特
許発明と同一であると認められないことは,前記のとおりであるから,原告が
本件親出願の特許請求の範囲請求項4ないし7を削除したことにより,原告が
本件各特許発明を意識的に除外したものとはいえないというべきである。
よって,この点に関する被告の主張は採用できない。
17本件意匠権に基づく差止請求等に関する判断の大要
当裁判所は,被告意匠は本件登録意匠に類似せず,被告製品の製造販売は原
告の有する本件意匠権を侵害するものではないと判断する。その理由の詳細は
下記のとおりである。
18争点2−1(被告意匠は本件登録意匠と類似するか)について
(1)本件登録意匠の構成
証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば,本件登録意匠は別紙本件意匠公
報記載のとおりであり,その構成は以下のとおりであると認められる。
ア本件登録意匠の基本的構成態様
,,①左右一対のアイカップと両アイカップを互いに連結する鼻ベルトと
両アイカップの目尻側の対向外端部に設けられたバンド挿通孔同士を互
いに接続する弾性バンドとから成る。
②左右一対のアイカップは,レンズ部とその周縁から後方(接眼側)に
突出する周壁部を備えている。
イ本件登録意匠の具体的構成態様
,,③左右一対のアイカップのレンズ部は正面視横長の略楕円形状であり
その縦横の長さの比率は,それぞれ約5対7である。
④同レンズ部の周縁から後方(接眼側)に周壁部が突出しており,周壁
部のレンズ部に接する角度は,対向外端部は鈍角,対向外端部を除く部
分は略直角である。同周壁部の後部端縁にはフランジが形成されている
ところ,同フランジは,着用者の顔面眼窩部分に直接密着するように対
向外端部に向けて後方(顔面側)に湾曲した形状をなしている。
⑤同周壁部は,鼻ベルト方向に向けて斜め前方へ先細り状に延び出し,
鼻ベルトの両端に係合する三角形舌状の取付台部(持出ブラケット)を
形成している。
⑥同周壁部の対向外端部は,略V字状の輪郭を有するように外方に向か
って細くなり,その先端部において鋭角的な曲面を形成しており,その
結果,側面視で1頂点が鋭角的な曲面である略二等辺三角形を呈してい
る。レンズ部と周壁部の対向外端部を合わせたアイカップ全体の正面視
縦横の長さの比率は,それぞれ約1対2である。
⑦同周壁部の対向外端部には,上下方向に弾性バンドが挿通する縦長の
バンド挿通孔が設けられている。
⑧鼻ベルトは,長手方向両端部にそれぞれ股開き状に分岐し,中間部は
厚肉部に形成された細幅の湾曲部材から成り,中間部の前面は比較的平
坦であり,長手方向両端部が後方に向かって傾斜状に延びて前記取付台
,。,,部の後側に位置しこれと連結して固定されているまた鼻ベルトは
正面視において上下方向の幅が長手方向両端部より中間部が狭くなるよ
うに,上下縁が緩やかにカーブを描いている。その結果,左右一対のア
イカップは,正面視で,取付台部及び鼻ベルトを介して一連の連続する
緩やかな曲線を描く横長のダンベル形状をなしている。
⑨弾性バンドは,着用時に後頭部に当接する中間部と両端部が平坦な帯
状であり,側頭部に当接する他の中間部が断面丸形ひも状であり,平坦
な帯状の両端部はそれぞれ両端が丸みを帯びた横長の留め具に通され,
断面丸形ひも状の中間部は前記弾性バンド挿通孔に通されている。上記
中間部は,バンド挿通孔に上下2段に分岐して2段ループを形成し,後
頭部に配設した留め具において着用者の頭回りのサイズに合わせて調節
可能にしている。
(2)被告意匠の構成(各部位に付された記号は,別紙被告物件目録添付図面
に表記されたものである)。
前記前提事実によれば,被告製品は,別紙被告物件目録添付図面第1図,
第3図ないし第13図,第15図ないし第19図記載のとおりであり,その
意匠(被告意匠)の構成は,以下のとおりと認められる(なお,用語につい
ては,原則として原告主張の用語例に従うものとする。また,本件登録意匠
と相違する部分には下線を施すこととする。。)
ア被告意匠の基本的構成態様
(,),(,)①左右一対のアイカップ2a2bと両アイカップ2a2b
を互いに連結する鼻ベルト(3a)と,両アイカップの対向外端部に設
けられたバンド挿通孔(2e,2f)同士を互いに接続する弾性バンド
(4a)とから成る。
②左右一対のアイカップ(2a,2b)は,レンズ部(6a,6b)と
その周縁から後方に突出する周壁部(7a,7b)を備えている。
イ被告意匠の具体的構成態様
③左右一対のアイカップ(2a,2b)のレンズ部(6a,6b)は,
正面視横長の略楕円形状であり,その縦横の長さの比率は,それぞれ約
5対7である。
(,)()(,④同レンズ部6a6bの周縁から後方接眼側に周壁部7a
),(,)(,)7bが突出しており周壁部7a7bのレンズ部6a6b
に接する角度は,対向外端部が鈍角,対向外端部を除く部分が略直角で
ある。同周壁部(7a,7b)の後部端縁にはフランジが形成されてお
り,同フランジには,対向外端部に向けて後方(顔面側)に湾曲した形
状をなしているとともに,着用者の顔面眼窩部分に密着するようにパッ
ド(7c,7d)が嵌着されている。同パッド(7c,7d)は,柔ら
かで弾力的な濃色不透明の軟質部材により中腹部が断面略U字状に湾曲
するように溝型を呈する環状ジャバラ形に成形されており,対向外端部
に向けて後方(顔面側)に湾曲した形状をなしている。パッド(7c,
7d)は,背面視のみならず正面視も肉厚の弾力性があることが見て取
れる。
⑤同周壁部(7a,7b)は,鼻ベルト(3a)方向に向けて斜め前方
へ先細り状に延び出し,鼻ベルト(3a)の両端に係合する三角形舌状
の取付台部(持出ブラケット,8a,8b)を形成している。
⑥同周壁部(7a,7b)の対向外端部は,外方に向かって細くなって
いるが,その先端部において鋭角的な曲面を形成しておらず,側面視で
,。略半円状を呈するようにその外端部が緩やかなアールを形成している
レンズ部と周壁部の対向外端部を合わせたアイカップ全体の正面視縦横
の長さの比率は,それぞれ約5対9である。
⑦同周壁部(7a,7b)の対向外端部には,斜め前後方向に弾性バン
ド(4a)が挿通する縦長のバンド挿通孔(2e,2f)が設けられて
いる。
⑧鼻ベルト(3a)は,長手方向両端部にそれぞれ股開き状に分岐し,
中間部は厚肉部に形成された細幅の湾曲部材から成り,中間部の前面は
比較的平坦であり,長手方向両端部が後方に向かって傾斜状に延びて前
記取付台部の後側に位置し,これと連結して固定されている。また,鼻
ベルト(3a)は,正面視において上下方向の幅が長手方向両端部より
,。,中間部が狭くなるように上下縁が緩やかにカーブを描いているなお
被告意匠は「左右一対のアイカップは,正面視で,取付台部及び鼻ベ,
ルトを介して一連の連続する緩やかな曲線を描く横長のダンベル形状を
なしている」との本件登録意匠の構成を備えていない。。
⑨弾性バンド(4a)は,全体が帯状であり,両端部がそれぞれ両端が
丸みを帯びた2個の縦長の留め具(4b,4c)に通されるとともに,
前記バンド挿通孔(2e,2f)に通され,1本締めの鉢巻きループを
形成し,側頭部付近に配設した留め具(4b,4c)において着用者の
頭回りのサイズに合わせて調節可能にしている。
ウ補足説明
本件登録意匠及び被告意匠の各構成に関する当事者の主張にかんがみ,
当裁判所の上記認定について補足説明をしておく。
(ア)原告
a原告は,被告意匠の周壁部の対向外端部は略V字状の輪郭を有する
と主張する。しかし,争いのない別紙被告物件目録添付図面第1図,
第18図及び第19図によれば,上記(2)⑥認定のとおり,被告意匠
の周壁部(7a,7b)の対向外端部は,外方に向かって細くなって
いるが,その先端部において鋭角的な曲面すなわち略V字状の輪郭を
形成しておらず,側面視で略半円状を呈するように,その外端部が緩
やかなアールを形成しているというべきであるから,原告の上記主張
は採用できない。
bまた,原告は,被告製品のパッドはアイカップから着脱可能と主張
する。しかし,証拠(乙23)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品
は,パッドが嵌着された状態で販売されていることが認められるとこ
ろ,被告製品がその通常の使用態様の下で,パッドをアイカップから
取り外して使用することを予定していると認めるに足りる証拠はな
い。かえって,後記認定の被告製品の販売態様,価格等や対象年齢を
考慮すれば,被告製品がパッドを取り外した状態で使用することを予
定した商品ではないと認められる。したがって,原告の上記主張は理
由がない。
(イ)被告
他方,被告は,被告提出の図面である別紙被告物件目録添付図面第2
図及び第14図においては,鼻ベルトは正面視においてその上下端がほ
,(,)ぼ平行であるように表示されているが証拠乙23の第2図第3図
によれば,被告製品の鼻ベルトは,上下方向の幅が長手方向両端部より
中央部が狭くなるように,上下端が緩やかにカーブしていることが認め
られる。したがって,鼻ベルトは,別紙イ号物件目録添付図面図8及び
図10に基づいて表示するのが相当である。
(2)本件登録意匠の要部
アところで,意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察
することを要するところ,この場合,意匠に係る物品の性質,用途,使用
態様,さらに公知意匠にはない新規な創作部分の存否その他の事情を参酌
して,取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把
握し,登録意匠と相手方意匠が,意匠の要部において構成態様を共通にし
ているか否かを観察することが必要である。
,,。イそこでまず本件登録意匠の要部がどこにあるのかについて検討する
(ア)証拠(甲31,35,40,49の1ないし3,50の1・2,5
1の1ないし3,52,乙17)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実が認められる。
,「」。a本件登録意匠は意匠に係る物品を水中眼鏡とするものである
水中眼鏡とは「水中で目をあけていられるように用いる眼鏡(広,」
辞苑第5版)を意味するが,通常は,プール等において水泳を行う際
に眼窩部分を覆うように顔面に装着して着用するものである。
b水中眼鏡は,その用途に応じて,競泳用のものから子供用のものま
で種々のものがある。これらは,いずれも主としてスポーツ用品店等
において,プラスチックケース等に収納された状態で,店頭に陳列し
て販売されることが多いが,低価格品についてはホームセンターや1
00円ショップ等において,プラスチックケースや,より簡易な透明
,。,の包装を施されて店頭に陳列されて販売されることもあるただし
ショッピングセンター内のスポーツ用品店は,100円ショップ等と
隣接していることも多い。この種の水中眼鏡は,いずれも店頭に陳列
して販売されることがほとんどであり,需要者(一般消費者)は,こ
れを陳列された状態で,又は商品を手にとってその形状等を観察して
商品の選択をする。
c水中眼鏡の宣伝広告の態様は,パンフレットのほか,雑誌・インタ
ーネットを媒体とするものであるが,そこに表示されている商品たる
水中眼鏡は,以下のとおり,正面又は左右斜めやや上方から撮影した
ものが掲載されることが多い。
(a)原告の水中眼鏡を紹介した商品パンフレット(甲31)には,
水中眼鏡を平面上に置き,これを向かって右斜めやや上方から撮影
した商品が掲載されている。
(b)被告の水中眼鏡を紹介したウェブサイト(甲35)には,水中
眼鏡を収納ケースとともに平面上に置き,これを正面又は正面やや
下側から撮影した商品が掲載されている。
(c)原告の水中眼鏡を紹介した商品パンフレット(甲40)には,
主として,水中眼鏡を向かって左斜めやや上方から撮影した商品が
掲載されている。
(d)原告の水中眼鏡を紹介した商品パンフレット(甲52)には,
水中眼鏡を平面上に置き,これを向かって右斜めやや上方から撮影
した商品が掲載されている。
(e)「SWIMMING&WATERPOLOMAGAZIN
E」1996年3月号(乙17)には,原告の水中眼鏡(本件登録
意匠の実施品であるかどうかは争いがある)には,水中眼鏡を平。
面上に置き,これを向かって右斜めやや上方から撮影した商品が掲
載されている。
(イ)以上の認定事実によれば,次のようにいうことができる。
a水中眼鏡は,通常,プール等において水泳を行う際に眼窩部分を覆
うように顔面に装着して着用するものであって,需要者は,これを着
用した際の見栄えの良さのほか,顔面とのフィット感など装着した際
の具合の良さ(装着感)を重視するものと考えられる。また,その販
売態様は,成人用であれ子供用であれ,いずれもスポーツ用品店等の
店頭に陳列されることがほとんどであり,需要者(一般消費者)は,
これを陳列された状態で,又は商品を手にとってその形状等を観察し
て商品の選択をするものといえる。その他,水中眼鏡の上記使用態様
及び機能や宣伝広告の態様等を考慮すると,需要者は,主として,そ
の正面又は左右やや斜め方向から見たアイカップの形状,あるいはア
イカップと鼻ベルト等を全体として見た場合の統一的形状を重視する
とともに,装着感の良否の観点からは,顔面に直接接することになる
各アイカップのフランジ部分ないしこれに嵌着されたパッド部分に着
目して商品の選択をするものというべきである。
bそして,本件登録意匠において,上記各部分がいかなる具体的構成
を有するかをみると,まず,アイカップについては,前記認定のとお
り,左右一対のアイカップのレンズ部は,正面視横長の略楕円形状で
あり,その縦横の長さの比率は,約5対7であり,同レンズ部の周縁
から後方(接眼側)に周壁部が突出しており,周壁部のレンズ部に接
する角度は,対向外端部は鈍角,対向外端部を除く部分は略直角であ
って,同周壁部の後部端縁にはフランジが形成されているところ,同
フランジは,着用者の顔面眼窩部分に直接密着するように対向外端部
に向けて後方(顔面側)に湾曲した形状をなしている。そして,同周
壁部は,鼻ベルト方向に向けて斜め前方へ先細り状に延び出し,鼻ベ
ルトの両端に係合する三角形舌状の取付台部(持出ブラケット)を形
成している,他方,鼻ベルトは,長手方向両端部にそれぞれ股開き状
に分岐し,中間部は厚肉部に形成された細幅の湾曲部材から成り,中
間部の前面は比較的平坦であり,長手方向両端部が後方に向かって傾
斜状に延びて前記取付台部の後側に位置し,これと連結して固定され
ている。また,鼻ベルトは,正面視において上下方向の幅が長手方向
両端部より中間部が狭くなるように,上下縁が緩やかにカーブを描い
ている。その結果,左右一対のアイカップは,正面視で,取付台部及
び鼻ベルトを介して一連の連続する緩やかな曲線を描く横長のダンベ
ル形状をなしている。同周壁部の対向外端部は,略V字状の輪郭を有
するように外方に向かって細くなり,その先端部において鋭角的な曲
面を形成しており,その結果,側面視で1頂点が鋭角的な曲面である
略二等辺三角形を呈している,レンズ部と周壁部の対向外端部を合わ
せたアイカップ全体の正面視縦横の長さの比率は,それぞれ約1対2
である。
本件登録意匠は,これらの具体的構成態様を備える結果,その正面
から見たアイカップの形状が鼻ベルトの形状と一体となって,全体と
して横長の流れるような流線形をなし,この流線形は途中で途切れる
ことなく,周壁部の対向外端部まで及び,その先端が略V字状の輪郭
を有するように外方に向かって細くなり,その先端部において鋭角的
な曲面を形成しているのであって,全体として,シャープでスポーテ
ィ感があり,かつ,スマートな美感をもたらしている。また,本件登
録意匠における各アイカップのフランジ部分は,正面視で,上記のと
おりアイカップと鼻ベルトの形状が一体となって全体として横長の流
れるような流線形状に対応し,その美感を損なわないスマートな美感
をもたらしている。なお,本件類似意匠2は,フランジ部分にパッド
が嵌着されているが,それにもかかわらず上記流線形状からもたらさ
れるスマートな美感を損なわない形状とされていることが認められ
る。
cそして,いずれも本件登録意匠の出願前公知意匠であると認められ
る甲第14号証意匠登録第738340号公報甲第28号証意(),(
匠登録第733380号公報,甲第29号証(実開昭62−145)
658号公報,甲第31号証(原告が旧社名「山本防塵眼鏡株式会)
社時代である昭和55年8月以前甲30に発行したカタログS」()「
wimmingGoggles,甲第32号証(米国特許第3」)
944345号公報)の第1図,甲第33号証(実開昭52−158
),(),500号公報甲第34号証米国意匠特許第350496号公報
乙第21号証(実開昭53−153700号公報)中の第1図,第2
図,乙第31号証(実開昭56−95260号公報)中の第1図,乙
第32号証(実開昭62−145657号公報)中の第1図ないし第
,(),4図乙第33号証実開昭63−160818号公報中の第1図
乙第34号証(特開昭63−260578号公報)中の第1図,乙第
35号証(実開平2−37669号公報)中の第1図,第4図,乙第
36号証実開平6−29555号公報中の図1乙第37号証実(),(
開平6−44563号公報)中の図1,図2,乙第38号証(特開平
4−144556号公報)の第4図及び乙第39号証(特開平6−1
90081号公報)中の図2を検討しても,本件登録意匠のような構
成を一体として備え,その結果,正面から見たアイカップの形状が鼻
ベルトの形状と一体となって,全体として横長の流れるような流線形
をなし,この流線形は途中で途切れることなく,周壁部の対向外端部
まで及び,その先端が略V字状の輪郭を有するように外方に向かって
細くなり,その先端部において鋭角的な曲面を形成していて,全体と
して,シャープでスポーティ感があり,かつ,スマートな美感をもた
らしているものは見当たらないから,本件登録意匠の上記構成は,こ
れらの各公知意匠にない新規で斬新な形状であるというべきであっ
て,需要者の注意を強く惹くものと認められる。
これに対し,本件登録意匠の弾性バンドは,店頭での陳列状況や各
宣伝広告の態様にかんがみても,通常はアイカップの後方に隠れて折
りたたまれた状態で需要者の目に触れるものであり,被告のいう1本
締めか2本締めかを含め,必ずしもその形状が需要者の注意を惹くも
のとは認められないから,この点は,本件登録意匠の要部を構成しな
いというべきである。
dしたがって,本件登録意匠の上記(イ)bの各構成が需要者の注意を
最も惹く部分,すなわち本件登録意匠の要部であると認められる。
(ウ)aこれに対し,被告意匠の具体的構成は,前記のとおり,左右一対
のアイカップ(2a,2b)のレンズ部(6a,6b)は,正面視横
長の略楕円形状であり,その縦横の長さの比率は,それぞれ約5対7
であり,同レンズ部(6a,6b)の周縁から後方(接眼側)に周壁
部(7a,7b)が突出しており,周壁部(7a,7b)のレンズ部
(6a,6b)に接する角度は,対向外端部が鈍角,対向外端部を除
く部分が略直角である。同周壁部(7a,7b)の後部端縁にはフラ
ンジが形成されており同フランジには対向外端部に向けて後方顔,,(
面側)に湾曲した形状をなしているとともに,着用者の顔面眼窩部分
に密着するようにパッド(7c,7d)が嵌着されている,同パッド
(7c,7d)は,柔らかで弾力的な濃色不透明の軟質部材により中
腹部が断面略U字状に湾曲するように溝型を呈する環状ジャバラ形に
成形されており,対向外端部に向けて後方(顔面側)に湾曲した形状
をなしている,パッド(7c,7d)は,背面視のみならず正面視も
肉厚の弾力性があることが見て取れる,同周壁部(7a,7b)は,
鼻ベルト(3a)方向に向けて斜め前方へ先細り状に延び出し,鼻ベ
ルト(3a)の両端に係合する三角形舌状の取付台部(持出ブラケッ
ト,8a,8b)を形成している,他方,鼻ベルト(3a)は,長手
方向両端部にそれぞれ股開き状に分岐し,中間部は厚肉部に形成され
た細幅の湾曲部材から成り,中間部の前面は比較的平坦であり,長手
方向両端部が後方に向かって傾斜状に延びて前記取付台部の後側に位
置し,これと連結して固定されている。また,鼻ベルト(3a)は,
正面視において上下方向の幅が長手方向両端部より中間部が狭くなる
ように,上下縁が緩やかにカーブを描いている。同周壁部(7a,7
b)の対向外端部は,外方に向かって細くなっているが,その先端部
において鋭角的な曲面を形成しておらず,側面視で略半円状を呈する
ように,その外端部が緩やかなアールを形成している。レンズ部と周
壁部の対向外端部を合わせたアイカップ全体の正面視縦横の長さの比
率は,それぞれ約5対9である,というものである。
bこれを本件登録意匠の上記具体的構成態様と対比すると,まず,左
右一対のアイカップのレンズ部が正面視横長の略楕円形状であり,そ
の縦横の長さの比率がそれぞれ約5対7である点,同レンズ部の周縁
から後方(接眼側)に周壁部が突出しており,周壁部のレンズ部に接
する角度は,対向外端部が鈍角,対向外端部を除く部分が略直角であ
る。同周壁部の後部端縁にはフランジが形成されており,同フランジ
には,対向外端部に向けて後方(顔面側)に湾曲した形状をなしてい
る点,同周壁部は,鼻ベルト方向に向けて斜め前方へ先細り状に延び
出し,鼻ベルトの両端に係合する三角形舌状の取付台部(持出ブラケ
ット)を形成している点及び鼻ベルト(3a)は,長手方向両端部に
それぞれ股開き状に分岐し,中間部は厚肉部に形成された細幅の湾曲
部材から成り,中間部の前面は比較的平坦であり,長手方向両端部が
後方に向かって傾斜状に延びて前記取付台部の後側に位置し,これと
連結して固定されている。また,鼻ベルト(3a)は,正面視におい
て上下方向の幅が長手方向両端部より中間部が狭くなるように,上下
縁が緩やかにカーブを描いている点は,本件登録意匠と共通するもの
の,他面において,着用者の顔面眼窩部分に密着するようにパッドが
嵌着されており,同パッドは,柔らかで弾力的な濃色不透明の軟質部
材により中腹部が断面略U字状に湾曲するように溝型を呈する環状ジ
ャバラ形に成形されており,対向外端部に向けて後方(顔面側)に湾
曲した形状をなしている点,パッドは,背面視のみならず正面視も肉
厚の弾力性があることが見て取れる点,周壁部の対向外端部は,外方
に向かって細くなっているが,その先端部において鋭角的な曲面を形
成しておらず,側面視で略半円状を呈するように,その外端部が緩や
かなアールを形成している点,レンズ部と周壁部の対向外端部を合わ
せたアイカップ全体の正面視縦横の長さの比率は,それぞれ約5対9
である点で相違する。上記のような具体的構成における相違点がある
結果,被告意匠は,左右の各アイカップの縦横の比率は同じであるも
のの,とりわけ上記肉厚のパッドが存在し,それが正面視からも肉厚
の弾力性があることが見て取れることや,周壁部の対向外端部が外方
に向かって細くなっているとはいえその先端部において鋭角的な曲面
を形成しておらず側面視で略半円状を呈するようにその外端部が緩や
かなアールを形成していることから,正面視において,左右のアイカ
ップは,それぞれ全体としてより丸みを帯びた略円形に近い柔らかな
印象をもたらす形状を呈しており,その結果,左右のアイカップと鼻
ベルトが一体として流れるような流線形状を呈しておらず,前記各公
知意匠に見られるような単に左右の略円形のアイカップを鼻ベルト
(ただし,中央部分が狭くなっており,アイカップとの形状の連続性
に一定の配慮がされてはいるが)が連結しているだけであるという印
象をもたらしていて,本件登録意匠のように,正面から見たアイカッ
プの形状が鼻ベルトの形状と一体となって,全体として横長の流れる
ような流線形状をなし,シャープでスポーティ感があり,かつ,スマ
ートな美感をもたらしてはいないというべきである。
cもっとも,本件類似意匠2は,被告意匠と同様,アイカップ後方の
フランジ部分にパッドが嵌着されているものである。しかし,前記イ
(イ)bで認定説示したとおり,本件類似意匠2では,そのようにパッ
ドが嵌着されているにもかかわらず,上記流線形状からもたらされる
スマートな美感を損なわない形状とされているのに対し,被告意匠に
おいては,パッドは肉厚で弾力性があり,アイカップとは異なる濃色
不透明色とされていることとも相まってその存在が強調され,正面視
からも肉厚なパッドが見て取れ,その結果,左右のアイカップがそれ
ぞれ全体としてより丸みを帯びた略円形に近い柔らかな印象をもたら
す形状を呈していることが認められるのであって,その美感は本件類
似意匠2とも顕著に相違していると認められる。なお,被告製品にお
いてパッドを取り外して使用することが予定されていると認めるに足
りる証拠がないことは,前記のとおりである。
(エ)以上のとおり,被告意匠は,本件登録意匠とその要部において顕著
に異なるものというべきであり,その結果,本件登録意匠との一致点を
凌駕して,これと美感を異にするというべきであるから,本件登録意匠
とは非類似であるというべきである。
(3)そうすると,被告製品の製造販売は,本件意匠権を侵害するものではな
い。したがって,争点2−2(本件登録意匠は登録無効審判により無効とさ
れるべきか)について判断するまでもなく,原告の意匠権に基づく請求は,
いずれも理由がない。
19争点3(原告の損害額)について
上記のとおり,被告が被告製品を販売する行為は,請求項5に係る本件特許
権を侵害するものと認められるので,同特許権侵害に関する損害額について検
討する。
(1)特許法102条1項に基づく請求(主位的請求)について
ア被告製品の販売数量について
証拠(乙40の2ないし7,45ないし48,57,58,59の1,
,,,),,60646870ないし73及び弁論の全趣旨によれば被告は
自ら被告製品を製造したことはなく,平成16年7月及び平成17年6月
に,被告製品を合計26万1792個輸入し,このうち,平成17年4月
から同年7月にかけて,合計12万4249個を販売したが,同年10月
に被告製品4万3200個を廃棄し,同年11月には取引先である大創か
ら4万4519個返品され,さらに平成18年1月に7万4665個,輸
入元へ返品した後,平成18年4月に1万9678個廃棄したことが認め
られる。
なお,原告は,被告は廃棄数量を示す資料を提出せず,返品数量につい
ては主張が変遷しており信用できないとして,被告製品の販売個数を,輸
入数量全量である26万1792個であると主張する。しかし,証拠(乙
40の5の1ないし3)によれば,被告が輸入元に返品した水中ゴーグル
は7万4665個であることが認められる。また廃棄数量については,証
拠(乙40の6の1ないし3)によれば,平成17年10月17日及び同
月25日に廃棄されたゴーグルについては,同日付けの交付年月日が記入
されている「産業廃棄物管理票」の「産業廃棄物」欄では「廃プラスチッ
ク類」にチェックが付され「数量(及び単位」の欄にいずれも「8㎥」,)
と記載されていること,及び,平成18年4月28日に廃棄されたゴーグ
ルについては,同日付けの交付年月日が記入されている「産業廃棄物管理
表」の「産業廃棄物」欄には「廃プラスチック類「紙くず「木くず」,」」
にチェックがついており「数量(及び単位」の欄に「8㎥」と記載さ,)
れていることが認められ,これらによれば,同管理票の書式は,数量では
なく容量(体積)で書くことを許容する書式となっているが,これは廃棄
する数量を個別に数える必要性に乏しいことに基づくものであると推認さ
れるところであり,被告が,被告製品の廃棄数量を明確に立証できないこ
とはやむを得ない面があるというべきである。しかし,廃棄数量以外の数
量は,特定可能であり,他に,被告が廃棄数量についてあえて事実と異な
る報告をしたと認めるに足りる事情は見当たらないことによれば,廃棄数
量は上記のとおりであると認めるのが相当である。
イ侵害の行為がなければ販売することができた物について
(ア)「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは,侵害品と
市場において競合し,侵害品が販売されなければその需要が喚起された
であろう特許権者の商品を指す。
被告は,被告製品は本件原告製品とは市場において競合しないから,
特許法102条1項は適用されないと主張しているので,以下,本件原
告製品が「侵害の行為がなければ販売することができた物」に該当する
か否かについて検討する。
aスイミングゴーグル市場の状況
証拠(乙52)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ
る。
スイミング市場の顧客特性は,協議種目としての「レーシング」市
,「」,「」場健康目的のフィットネス市場学校体育としてのスクール
市場に分けられる。
平成16年におけるスイミングゴーグルの国内出荷額は,1位が株
.,.,式会社タバタで構成比296%2位が原告で構成比が175%
3位がミズノ株式会社で構成比が14.8%,4位が株式会社デサン
トで構成比が13.7%であり,その他に6社が競合している。
b本件原告製品について
証拠(甲36,46,乙74)及び弁論の全趣旨によれば,以下の
事実が認められる。
(a)平成17年の原告製品のカタログ(乙41)に掲載されている
本件特許発明5の実施品は6種類あり,このうち,アイカップにパ
ッドが付されており,かつ弾性バンドの形態が幅広のテープ状の1
本締めであるのは本件原告製品のみである。平成18年の原告製品
のカタログ(乙74)には,本件原告製品は掲載されていない。
(b)本件原告製品は,フィットネス用のゴーグルであり,かつシリ
コーンクッションとシリコーンベルトを採用しており,紫外線防止
加工,曇止め加工がなされている。販売価格は2000円(本体価
格)である。
(c)本件原告製品の材質は,アイカップ及びベルトアジャスターが
ポリカーボネート,クッション及びベルトがシリコーンゴム,鼻ベ
ルトがエラストマーである。アイカップは度付きレンズに交換可能
であり,そのため,アイカップに直接ベルトを連結できず,サイド
パーツが付属部品として付いている。
c被告製品について
証拠(甲47,48,乙50)及び弁論の全趣旨によれば,以下の
事実が認められる。
(a)被告製品は,アイカップ周辺にピンク色の大きめのパッドが付
いており,弾性バンドの色もピンク色であり,アイカップの色もピ
ンクがかった透明色である。ケースには「ザスポーツこども」と,
,「()書かれたシールとカエル型でこども用水中ゴーグルケース付
」。頭のサイズ約34㎝∼49㎝と書かれたシールが貼付されている
被告製品の周方向の長さは,約44㎝であり,被告が販売している
成人用ゴーグルのそれが約54㎝であるのと比較すると短い。
(b)被告製品は,大創が展開するいわゆる100円ショップである
「ダイソー」でのみ販売され,販売価格は100円(本体価格)で
あった。また「ダイソー」の大型店にはスポーツ用品売場のある,
店舗もあったが,スポーツ用品売場のない店舗もあり,そのような
店舗では玩具売場で売られていた。
また,被告製品はシュリンク包装がされているため,消費者は購
入前にケースを開けることができず,被告製品を手に取ってみるこ
とができなかった。
(c)被告製品の材質は,レンズがポリスチレン,レンズ裏が塩化ビ
ニル,ストラップがエラストマー,山パーツ(鼻ベルト)がポリブ
チレンサクシネートカーボネイトである。紫外線防止加工及び曇止
め加工はされていない。度付きレンズとの交換はできず,サイドパ
ーツも付いていない。
d上記認定事実によれば,被告製品は,1個100円という通常では
想定し難い価格を設定し,かつ,子供を対象とした商品であることを
購買者に対する最大のセールスポイントとしたスイミングゴーグルで
あったということができる。このことからすると,成人が自ら使用す
るために購入するというよりは,親が子供のために購入することの多
い製品であったものと認められる。
他方,本件原告製品は,フィットネス用の製品としての基本性能に
加えて,シリコーン素材を使用したり,度付きレンズと交換可能であ
るなどの付加的な機能も備えた中級品であることが認められる。
以上のとおり,被告製品は,これまで市場で流通していたスイミン
グゴーグルと比較して圧倒的な低価格を実現したものであったため,
その低価格ゆえに,本来,スイミングゴーグルを購入する意思のなか
った購買者層を新たに開拓した面があることも否定できない。
しかし,子供用のスイミングゴーグルの購買層の中には,被告製品
が存在しなければ,それに代わるものとして,これまで市場に流通し
ていたスイミングゴーグルを購入したであろう購買者層も存在したで
あろうことが推認される。そのような購買者は,従前スイミングゴー
グルが販売されていたスポーツ用品店等において本件原告製品を含む
従来商品を選択していたものと想定される。その場合,本件原告製品
の本体価格は,原告製品のうち最も安価な子供用ゴーグル(本体価格
1000円)の2倍程度であること,本件原告製品は鼻ベルトを3サ
イズから選択可能であり,ベルトの長さも調節可能であるから,子供
が使用することも可能であることを考慮すると,デザイン等の好みや
付加的機能により,本件原告製品を選択する者も存在するものと推認
される。
そうすると,被告製品が本件原告製品と市場において競合しないと
断定することはできない。
(イ)したがって,本件原告製品は,特許法102条1項の「侵害の行為
がなければ販売することができた物」に該当すると認めるのが相当であ
る。
ウ原告の実施能力
証拠(乙52)及び弁論の全趣旨によれば,原告のスイミングゴーグル
の年間国内出荷額は,およそ6億5000万円程度であることが認められ
る。そして,特許法102条1項の「実施の能力」は,潜在的な実施能力
であれば足りると解されるところ,後記エ(ア)aのとおり,本件原告製品
1個当たりの出荷額は800円であり,仮にこれを基準に年間出荷数量を
算定すると81万2500個となるから,本件原告製品は,被告製品の販
売数量である12万4249個程度であれば,追加設備投資などは要せず
に増産可能であると認められる。
エ単位数量当たりの利益額について
(ア)証拠(甲43,45)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認
められる。
a本件原告製品の出荷価格は,1個当たり800円である。
b原告は,本件原告製品の組立工程を外注しており,その後,自社で
曇止め加工を施すなどしている。原価は1個当たり合計386.18
円であるが,追加して製造することによって要したであろう追加的費
用は,原材料費と外注費であり,その他の経費である労務費,製造間
接費(工場の製造設備や建屋の償却費)は,増加することのない経費
であると認められる。そして,原材料費は263.80円,外注加工
費は31.60円であるから,製造原価は1個当たり295.40円
である。
(イ)以上によれば,本件原告製品の限界利益は,1個当たりの出荷額8
00円から追加的製造販売のための費用295.40円を控除して得る
ことができる。よって,本件原告製品1個当たりの利益の額は504円
である(1円未満切捨て。)
オ特許法102条1項ただし書に該当する事情について
(ア)特許法102条1項は,権利者の逸失利益の算定を容易にするため
に設けられた規定であり,同項本文は,侵害者の譲渡した製品の数量に
特許権者等がその侵害行為がなければ販売することができた製品の単位
数量当たりの利益額を乗じた額を,特許権者の実施能力の限度で損害額
と推定することを規定し,同項ただし書は,侵害者が同項本文による推
定を覆す事情を証明した場合には,その限度で損害額を減額することが
できることを規定したものと解するのが相当である。そして,同項ただ
「」,,し書の販売することができないとする事情としては侵害品の価格
侵害品の販売ルート,競合品の存在,侵害品の譲渡数量に占める当該特
許発明の寄与度等の事情を考慮することができると解するのが相当であ
。,,,るこの点に関する原告の主張すなわち特許法102条1項本文は
上記の方法により算出した額を損害額と擬制することを定めた規定であ
るとして,同項ただし書の「販売することができないとする事情」を限
定的にとらえるべきである旨の主張は,採用しない。
(イ)被告製品の譲渡数量の全部又は一部を原告が販売することができな
いとする事情として,証拠(甲52,乙17,41,49の1,55)
及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
a侵害品の価格について
本件原告製品は,本体価格2000円であり,原告製品は子供用ゴ
ーグルでも1050円ないし1365円であるのに対して,被告製品
は,本体価格が100円という極めて安価なものである。
被告製品が本件原告製品と市場において全く競合しないといえない
,,,ことは前記説示のとおりであるが上記のような価格差からすれば
被告製品は子供用の玩具といってもよいものであるから,両製品の市
場における競合の程度は極めて低いものと認められる。
b販売ルートの違いについて
被告製品は,いわゆる100円ショップ最大手の「ダイソー」で独
占的に販売されていた製品である。本件原告製品のように,スポーツ
専門店等で販売される場合であれば,購買者は,他のブランドのゴー
グルとの機能,性能,価格,デザインにおける差異に着目してこれを
購入するかどうかの意思決定をするのが通常であると考えられるが,
100円ショップにおいて販売される場合には,消費者は「通常では
わずか100円では購入できない物が購入できる」という意外性を期
待して買い物をする場合が少なくないため(乙55,56,スポー)
ツ専門店等のスポーツ用品売場における消費者(通常は,特定の用品
を購入することを志向して来店する消費者)の消費行動とは異なり,
上記のような意外性ゆえに購入する消費者も一定数存在するものと推
認されるし「ダイソー」の店舗数の多さによれば,機能以外の面に,
着目して被告製品を購入した消費者も相当数存在していたものと認め
られる。したがって,被告製品が「ダイソー」で販売されていたとい
う事情は,特許法102条1項ただし書において考慮すべき事情であ
るということができる(なお,原告は,大創も本件特許権を侵害した
共同不法行為者なのであるから,このような事情は考慮すべきではな
いと主張するが,特許発明を実施したことによる特徴的部分とは異な
る事情によって被告製品の販売数が増加したことを考慮してこそ,適
正な逸失利益の算定が可能となるのであるから,上記事情を特許法1
02条1項ただし書において考慮すべき事情から除外する根拠はな
く,原告の上記主張は採用できない。。)
c競合品の存在について
前記のとおり,平成17年当時のゴーグル市場における原告のシェ
アは17.6%であり,被告のシェアはほとんどゼロに近いものであ
ったところ,ゴーグル市場の中のフィットネス用ゴーグルあるいはス
クール用ゴーグルの市場において原告のシェアが特に高いといった事
情は見当たらないから,本件原告製品が属するフィットネス用ゴーグ
ル市場及びスクール用ゴーグル市場における原告のシェアも上記と同
程度と見るのが相当である(なお,本件特許発明5と競合する技術を
用いた他社ゴーグルにいかなるものがあり,そのシェアがそれぞれど
の程度であるのかは,証拠上必ずしも明らかではないが,鼻ベルトの
両端部の前面が,取付台部の後面に面接触しているとの構成等は,上
記のとおり消費者のゴーグル購買動機として有力なものとはいえない
から,厳密な意味での競合品を特定しなければならないほどの技術的
事項ではない。。)
そして,被告製品が市場に存在しなければ,実際に被告製品を購入
した者が,本件原告製品を購入するか,その競合品を購入するかにつ
いては,他に特段の事情の認められない本件においては,それぞれの
シェアに対応する割合でそれぞれの製品の購入に向かうと推認するの
が相当である。したがって,被告製品が販売されなかった場合,原告
は,実際に販売された被告製品の数量の17.6%について被告製品
と競合し得る原告製品のフィットネス用ゴーグルあるいはスクール用
ゴーグルを販売することができたと認められる一方(つまり,上記の
とおり,鼻ベルトの両端部の前面が,取付台部の後面に面接触してい
るとの構成等は,上記のとおり消費者のゴーグル購買動機として有力
なものとはいえないから,被告製品が販売されなかった場合に,本件
原告製品以外で本件特許発明5の実施品でないフィットネス用あるい
はスクール用の原告製品が購買される可能性が認められるということ
である,その余の82.4%は,本件原告製品を含む原告製品を。)
販売することができなかったものと認められる。
d特許発明の寄与度について
(a)本件特許のうち,有効であると判断されたのは本件特許5であ
る。また,同特許の構成のうち新規性・進歩性を有する構成は,構
成要件O(前記棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になる「
,」)(「,係止突部が設けられ及び同R該鼻ベルトの両端部の前面が
前記取付台部の後面に面接触し)である。もっとも,構成要件,」
P(前記鼻ベルトの両端部の前後面は,前記取付台部の後面と略平
行な傾斜面に形成され)及び構成要件Q(前記係合孔は該鼻ベ,」「
ルトの両端部の前後面に対して傾斜して設けられ)も,新規性,」
,,を有する部分ではあるのでこれらも構成要件O及び同Rとともに
本件特許発明5の本質的特徴を構成する。
上記各構成がもたらす効果については,前述のとおり,構成要件
Oが奏する効果は,鼻ベルトとアイカップの連結・分離を容易にす
る点にあり,構成要件Rが奏する効果は,鼻ベルトと取付台部との
間に摩擦を生じさせ,アイカップのフィッティングの微妙な調整を
可能にする点にある。構成要件Pが奏する効果については本件明細
書に明確な記載はなく,構成要件Qの奏する効果については,取付
台部を斜め前方に突出させたことに伴う設計変更事項であるから,
これについても,棒状突起を断面略円形にしたことによって相対回
動可能に嵌合される係合孔であること(本件明細書段落【001
9)を超える作用効果はない。また,同効果は,引用発明3にも】
ある従来技術も備える効果であるということができる。
上記各構成及び各効果が,本件特許発明5の本質的特徴となるの
であるから,特許法102条1項ただし書に該当する事情の有無に
ついての判断も,このような本件特許発明5の本質に則ってなされ
るべきである。
(b)本件特許発明5は,すべて取付台部の後面側に属する部品につ
いての技術的事項を内容とするものであって,ゴーグルの前面から
は確認することはできないものである。また,被告製品は,シュリ
ンク包装がされているため,消費者は購入するまで手に取ってこれ
を観察することができず,取付台部の裏側に着目して商品を購入す
ることを想定することは困難である。したがって,本件特許発明5
の本質的部分が被告製品の販売に寄与したと想定することはいささ
か困難なものである。
そして,鼻ベルトは,ゴーグル装着時に前面中央に位置し,比較
的注目される部材ではあるといえるが,さらにその裏面に注目する
かどうかという点については,ゴーグルの機能やデザインにつき高
い関心のある需要者であればともかく,被告製品が子供向けの小売
価格100円の低価格商品であり,かつ,基本的には購入前に手に
取って鼻ベルトの裏側の構成を観察してこれを購入することはでき
ない包装がなされていることからすれば,基本的には鼻ベルトの裏
側の構成に注目することはないと認めるのが相当であるし,仮に包
装を開封して被告製品を手に取る場合があったとしても,その低価
格さゆえに,消費者が注目するのは通常の使用に耐え得る構造であ
るかどうかや,デザインの好みといった点である場合が多いと考え
られ,あえて鼻ベルトの裏側の構成に注目して購入する消費者が多
いと想定することは困難である。
そうすると,本件特許発明5に係る鼻ベルトの裏側の構成が,消
費者にとっての購買動機となり得る場合は極めて少ないと認めるの
が相当である(原告も「SR−1」の販売開始当初は,鼻ベルト,
の機能・構成についてカタログや広告で触れていたものの,その後
は鼻ベルトの機能・構成についてカタログで触れることがなくなっ
ている。なお,本件特許発明5の実施品である「SR−1」が原告
の競技用ゴーグルの重要なブランドであって,軽量化やコンパクト
な形態がアピールされている製品である一方,本件原告製品は,フ
ィットネス用ゴーグルであり,そのような点はカタログには記され
ていない。また,カタログに掲載された本件原告製品の写真には,
特に鼻ベルトの裏側の構成が分かるようなものは掲載されていな
い。これらの点によれば,鼻ベルトの,特にその取付台部後面側の
構成が,本件原告製品を購入する際の動機となったことは極めて少
ないと認めるほかはなく,したがって,また,この構成が被告製品
を購入する際の動機となったことも極めて少ないと認められる。。)
eその他の事情について
本件原告製品は,平成18年の原告のカタログには掲載されておら
ず,かつ,明示的に本件原告製品の後継品であると称する製品も掲載
されていないことによれば,少なくとも平成17年当時にはさほど売
上高の高い製品ではなかったと推認されるから,平成17年4月以降
に被告製品の販売が開始されたことによって受けた影響は限定的なも
のであったと認めるのが相当である。
(ウ)以上の事情を総合考慮すれば,被告製品の譲渡数量に相当する数量
のうち,原告が販売することができなかったと認められる本件原告製品
,。の数量を控除した数量は上記譲渡数量の1%と認めるのが相当である
カ損害額
そうすると,被告製品の譲渡数量は,12万4249個であり,その1
%である1242個が,原告が販売し得た数量と認めるのが相当である。
これを単位数量当たりの利益の額504円に乗じると,62万5968円
となる。
(2)特許法102条3項に基づく請求について
原告は,仮に,特許法102条1項ただし書が適用された結果,原告によ
って販売できないと認定された分については,同条3項の実施料相当額とし
て,共同不法行為者である大創の店舗「ダイソー」における販売価格100
円の30%が損害として認められるべきであると主張する。
しかし,特許法102条1項は,特許権者が被った販売減少等による逸失
利益相当の損害の額に関する特則であり,逸失利益相当の損害額を算定する
という民法709条の原則を超えた保護を特許権者に付与するための特則で
はないと解すべきである。そして,特許法102条1項は,侵害品が販売さ
れなかったとすれば特許権者が得ることができた販売機会に応じて逸失利益
を算定することを認めた規定であり,そのただし書において,侵害行為と損
害との因果関係を否定すべき事情を考慮することとしているものである。こ
れに対し,同条3項は,当該特許発明の実施に対し受けるべき実施料相当額
を損害とするものであるところ,同条1項ただし書に基づいて損害と相当因
果関係がないと認められた侵害品の販売数量に基づいて実施料相当額を損害
として算定したのでは,権利者が被った逸失利益相当の損害を超える額の損
害の賠償を認めることとなるから相当ではない。
よって,原告の特許法102条3項に基づく請求は理由がない。
(3)弁護士費用
原告が被った損害の額のうち,弁護士費用相当分としては,本件事案の難
易,請求額,前記認容額,その他諸般の事情を勘案し,10万円をもって相
当と認める。
(4)合計
前記(1)及び(3)の損害額を合計すると,72万5968円となる。
20特許法100条2項に基づく請求について
なお,請求の趣旨第1項の被告製品の製造販売の差止請求に関しては,上記
19(1)アで認定したとおり,被告は,被告製品を輸入して販売していたのみ
であり,自ら製造したことはなく,かつ,今後被告製品を製造するおそれがあ
ると認めるに足りる証拠はないから,原告の差止請求のうち,被告製品の製造
の差止めを求める部分は理由がない。
,,また請求の趣旨第2項の被告製品の廃棄及び金型の除却請求等については
上記のとおり被告が自ら被告製品を製造せず,かつ,今後これを製造するおそ
れも認められない以上,その製造に供した設備であるとされる金型の除却を求
める原告の請求は理由がない。そして,被告製品は,そのすべてが廃棄又は返
品されおり,被告は被告製品を保有していないから,廃棄請求も理由がない。
第4結論
以上のとおり,原告の被告に対する特許権に基づく差止請求は,別紙被告物
件目録(ただし,同目録添付図面第2図及び第14図を除く)記載の物件の。
販売の差止めを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の差止請求
及び廃棄請求はいずれも理由がないからこれを棄却する。
原告の被告に対する特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は,72万
5968円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな
平成17年12月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延
損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し,その余は理
由がないからこれを棄却する。
原告の意匠権に基づく請求は,いずれも理由がないからこれを棄却する。
なお,特許権に基づく差止請求に関する仮執行宣言については,相当でない
からこれを付さないこととする。
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官田中俊次
裁判官西理香
裁判官西森みゆき

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