弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成21年(あ)第1903号住居侵入,殺人,死体遺棄,銃砲刀剣類所持等
取締法違反被告事件
平成24年7月12日第一小法廷判決
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人鈴木敏彦及び同中島健の上告趣意のうち,憲法36条違反をいう点は,死
刑制度が同条に違反しないことは当裁判所の判例(最高裁昭和22年(れ)第11
9号同23年3月12日大法廷判決・刑集2巻3号191頁)とするところである
から,理由がなく,その余は,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理
由に当たらない。
なお,所論に鑑み記録を調査しても,刑訴法411条を適用すべきものとは認め
られない。
付言すると,本件は,被告人が,未明に,義姉(被告人の妻の姉)の住居に侵入
した上,就寝中の同女(当時58歳)に対し,頚部を両手で絞め付けようとし,目
を覚まして抵抗した同女の前胸部等を所携の鋭利な包丁で多数回突き刺し,同女を
失血死させて殺害し,さらに,同女の横で眠っていた同女の孫である当時5歳と3
歳の姉妹が,目を覚まして立ち上がり,泣きながら被告人のそばに寄って来たのに
対し,それぞれの前胸部等を同包丁で多数回突き刺し,両名を失血死させて殺害
し,その後,3名の死体を運び出し,土中に埋めて遺棄したという事案である。
被告人は,義姉が被告人の妻への借金依頼を重ね,妻が被告人の預貯金を取り崩
し,借金までして義姉に金を貸したことで,自分たち夫婦が借金返済に苦労し,夫
婦仲も悪くなったとして義姉を恨んでいた中,妻が重病に罹患して死期が迫った頃
から,義姉がその両親に取り入って財産を継ごうとしていると思い込み,そのよう
なことは絶対に許せないとして,義姉殺害を考えるようになり,妻が死亡した後,
その決意を固めたものであって,その殺害にまで及んだ事情として酌むべきものが
あるとはいえない。幼い姉妹については,同児らの泣き声を聞いて,騒がれては近
所に気付かれると考え,ためらうことなく,義姉殺害の発覚を防ぐために同児らを
殺害して沈黙させようと決意したものであり,その動機に酌量の余地は全くない。
義姉の殺害は,用意した包丁の柄に滑り止めの加工を施したほか,衣服に返り血が
付かないようにするための雨合羽,死体を運び出す際に用いるブルーシート等も用
意するなど,周到かつ綿密な準備の上で,強固な殺意に基づき,執ようかつ残虐な
態様で行われたものであり,また,同児らの殺害は,義姉方に同児らが泊まってい
たことは被告人にとって想定外のことであり,偶発的な面があるにせよ,状況を理
解できず,抵抗の術も知らないいたいけな幼児らに対し,強い殺意に基づいて,残
虐な態様で行われたものであって,3名の死体を遺棄した点を含め,冷酷で非情な
犯行である。3名の殺害という結果は誠に重大で,遺族の多くは厳しい被害感情を
抱いている。また,本件犯行が社会に与えた影響も大きい。
以上の事情を踏まえると,被告人は,中学卒業後,長年真面目に働いてきたもの
で,前科,前歴はなく,その犯罪性向が高いとはいえないこと,被告人が義姉から
の借金依頼により妻が借金を背負うなどした問題にうまく対処できなかったことに
ついては,被告人の知能程度がやや低いことが影響したとも考えられること,被告
人が,反省の態度を示し,金額的には不十分ながら義姉の遺族に賠償金を支払った
ことなど,被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,その刑事責任は誠に重
大であり,原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は,当裁判所もこれを是認せ
ざるを得ない。
よって,刑訴法414条,396条,181条1項ただし書により,裁判官全員
一致の意見で,主文のとおり判決する。
検察官谷川恒太公判出席
(裁判長裁判官白木勇裁判官櫻井龍子裁判官金築誠志裁判官
横田尤孝裁判官山浦善樹)

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