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平成26年10月16日判決言渡
平成26年(行ケ)第10018号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成26年9月25日
判決
原告キングライトホールディングス
インコーポレイテッド
訴訟代理人弁理士杉村憲司
同塚中哲雄
同岡野大和
同齋藤恭一
被告特許庁長官
指定代理人田中秀人
同相崎裕恒
同堀内仁子
主文
1特許庁が不服2011-18580号事件について平成
25年9月3日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2前提となる事実
1特許庁における手続の概要
アメリカ合衆国の会社であるフィーニックステクノロジーズリミテッド(以
下「フィーニックス社」という。)は,平成12年(2000年)6月15日,発明
の名称を「システム・ファームウェアから記憶装置にアプリケーション・プログラ
ムを転送するための方法およびシステム」とする発明について特許出願(特願20
00-179442号,パリ条約による優先権主張:平成11年(1999年)6
月18日,優先権主張国:米国。以下「本願」という。)をした(甲4)。フィーニ
ックス社は,平成23年(2011年)5月18日付けで拒絶査定を受け,同年8
月29日,拒絶査定に対する不服の審判(不服2011-18580号)を請求す
るとともに,同日付けの手続補正書により,特許請求の範囲についての補正を行っ
た(以下「本件補正」という。甲10ないし12)。
原告は,フィーニックス社から,本願に係る特許を受ける権利の譲渡を受け,平
成24年(2012年)12月4日,特許庁長官に名義変更届を提出して,特許を
受ける権利を承継した(甲18,19)。
特許庁は,平成25年(2013年)9月3日,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決をし,その謄本を,同月17日,原告に送達した。
原告は,平成26年(2014年)1月15日,審決の取消しを求めて本件訴訟
を提起した。
2特許請求の範囲の記載(甲12)
本件補正後の本願の特許請求の範囲(請求項の数21)の請求項1の記載は,以
下のとおりである(以下,同請求項に記載された発明を「本願発明」という。また,
本願の明細書及び図面を併せて「本願明細書」という。)。
「プロセッサベースのシステム内の少なくとも1つの記憶素子にアクセスするた
めのシステムであって,
少なくとも1つの記憶素子を有し,命令シーケンスを記憶するメモリと,
前記メモリに結合され,前記記憶された命令シーケンスを実行するプロセッサと,
前記プロセッサに結合され,前記プロセッサおよび前記メモリと同じく前記システ
ム内に含まれる記憶装置と,を含み,
オペレーティング・システムをブートする前に,前記記憶された命令シーケンスに
よって前記プロセッサは,前記少なくとも1つの記憶素子のコンテント,即ち,該
記憶素子の任意のタイプのデータを前記記憶装置に書き込み,この書き込み動作は
ブート後のアプリケーションプログラムとは独立して実行され,
さらに,前記記憶装置はファイル・システムを含み,前記少なくとも1つの記憶素
子のコンテントを前記記憶装置に書き込む前記動作において,前記少なくとも1つ
の記憶素子はファイルを含み,前記書き込む動作は,前記ファイルを前記記憶装置
の前記ファイル・システムに転送することを含むことを特徴とするシステム。」
3審決の理由
審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,①本願発明
は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない,②特開平11-39
143号公報(甲1。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発
明」という。)並びに特開平6-309210号公報(甲2)に記載された発明の記
載事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであ
るから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というもの
である。
審決が認定した引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,
以下のとおりである。
(1)引用発明の内容
「オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムを格納した不揮
発性のプログラム格納手段と,
前記オペレーティングシステムの下で前記アプリケーションプログラムを実行す
る実行手段と,
該実行手段の動作時に,前記オペレーティングシステムおよびアプリケーション
プログラムを前記プログラム格納手段から読み出して一時的に記憶する揮発性の主
記憶装置と,を備えた演算装置において,
前記主記憶装置と接続された不揮発性記憶装置と,
前記不揮発性記憶装置に待避させておいたデータを,前記演算装置の再起動時に
前記主記憶装置に転送させる転送手段と,を備え,
前記演算装置の再起動時,前記実行手段が,前記不揮発性記憶装置から前記主記
憶装置に転送されたデータに基づいて,前回の電源オフ時のオペレーティングシス
テムおよびアプリケーションプログラムの実行状態を再現するものであり,
バスケーブルで互いに接続された,CPU,前記主記憶装置,RAM,入出力装
置,レジスタおよび前記不揮発性記憶装置を有する演算装置。」
(2)一致点
「プロセッサベースのシステム内の少なくとも1つの記憶素子にアクセスするた
めのシステムであって,
少なくとも1つの記憶素子を有するメモリと,
前記メモリに結合され,命令シーケンスを実行するプロセッサと,
前記プロセッサに結合され,前記プロセッサおよび前記メモリと同じく前記シス
テム内に含まれる記憶装置と,を含み,
オペレーティング・システムをブートする前に,命令シーケンスによって前記プ
ロセッサは,前記少なくとも1つの記憶素子のコンテント,即ち,該記憶素子の任
意のタイプのデータを前記記憶装置に書き込み,この書き込み動作はブート後のア
プリケーションプログラムとは独立して実行されることを特徴とするシステム。」で
ある点。
(3)相違点
ア<相違点1>
メモリに関し,
本願発明は,記憶素子を有するとともに,「命令シーケンスを記憶する」ものであ
るのに対し,
引用発明の「不揮発性記憶装置」は,データを記憶しそのための記憶素子は有す
ると解されるものの,「命令シーケンスを記憶する」かは言及されていない点。
イ<相違点2>
プロセッサに関し,
本願発明は,上記<相違点1>に係る「メモリ」に「記憶された命令シーケンス」
を「実行する」ものであるのに対し,
引用発明の「CPU」は,所定の命令シーケンスの実行は行っていると解される
ものの,当該命令シーケンスが「不揮発性記憶装置」に記憶されたものであるかは
言及されていない点。
ウ<相違点3>
オペレーティング・システムをブートする前の,データの記憶装置への書き込み
に関し,
本願発明は,上記<相違点1>に係る「メモリ」に「記憶された命令シーケンス」
によって,「プロセッサ」が実行するのに対し,
引用発明は,CPUが,所定の命令シーケンスによってデータの転送を実行して
いると解されるものの,当該命令シーケンスが「不揮発性記憶装置」に記憶された
ものであるかは言及されていない点。
エ<相違点4>
本願発明は,「前記記憶装置はファイル・システムを含み,前記少なくとも1つの
記憶素子のコンテントを前記記憶装置に書き込む前記動作において,前記少なくと
も1つの記憶素子はファイルを含み,前記書き込む動作は,前記ファイルを前記記
憶装置の前記ファイル・システムに転送する」ことを含むものであるのに対し,
引用発明では,「主記憶装置」及び「不揮発性記憶装置」に関し,そのような構成
になっていない点。
第3原告主張の取消事由
1記載不備についての判断の誤り(取消事由1)
(1)審決は,本願発明の課題を解決するためには,追加ドライバ,特別なソフト
ウェア,又は新たなハードウェアのためのソフトウェア等のプログラムが外部媒体
等によらずに取り込まれ,その後オペレーティング・システムがブートされ,上記
プログラムを利用可能とするための構成が必要であるにもかかわらず,本願の特許
請求の範囲の請求項1には,単にオペレーティング・システムをブートする前に記
憶素子の任意のタイプのデータを前記記憶装置に書き込むことを記載しているに止
まり,書き込む対象について「任意のタイプのデータ」,書き込む先について「記憶
装置」としか記載しておらず,上記構成が記載されていないと判断した。
しかし,本願の発明の詳細な説明の記載によれば,本願発明の課題は,①「追加
ドライバ,特別なソフトウェア,又は新たなハードウェアのためのソフトウェアの
追加を,当該追加のための媒体の用意やその紛失の危険無く行うという問題を克服
すること」(課題1),②「システムおよび/またはディレクトリ・サービスの必要
性および利用可能性なしにシステム・ファームウェアから記憶装置にアプリケーシ
ョンを配信するためのシステムおよび方法」を提供すること(課題2)と把握でき
るところ,以下のとおり,本願の特許請求の範囲には各課題が解決できることを当
業者が認識できるように記載されているから,審決の判断は誤りである。
ア課題1について
本願発明は,新たなハードウェア等のためのソフトウェアの追加をフロッピー・
ディスク等の外部媒体を用いない代わりに,「少なくとも1つの記憶素子を有し,命
令シーケンスを記憶するメモリ」を備え,当該メモリには,従来,外部媒体に記憶
していたコンテント,すなわち任意のタイプのデータを「少なくとも1つの記憶素
子」に記憶し,「前記プロセッサは,前記少なくとも1つの記憶素子のコンテント,
即ち,該記憶素子の任意のタイプのデータを前記記憶装置に書き込」むものである。
したがって,本願発明は,上記構成を採用することにより,従来必要であったフ
ロッピー・ディスク等の媒体を一切用いずに,「記憶装置」に含まれているオペレー
ティング・システムの機能を拡張することができるものであって,フロッピー・デ
ィスク等が失われたり盗難に遭ったりするリスクを低減することができるものであ
る。
イ課題2について
また,本願発明は,オペレーティング・システムをブートする前に,メモリに記
憶された命令シーケンスを実行して,少なくとも1つの記憶素子に記憶していたコ
ンテントを記憶装置に書き込むことを特徴とするものである。
したがって,本願発明は,オペレーティング・システムの必要性及び利用可能性
なしに,命令シーケンスを記憶するメモリ,すなわちシステム・ファームウェアか
ら本願の請求項1の「記憶装置」にアプリケーションを配信するシステムを提供す
ることができるものである。
(2)被告の主張について
ア「任意のタイプのデータ」の限定について
被告は,本願の特許請求の範囲の請求項1の「任意のタイプのデータ」は,文字
どおりデータが任意のタイプであることを意味するから,データがアプリケーショ
ン等の「特定のタイプのデータ」であることを否定していると主張する。
しかし,本願の特許請求の範囲の請求項1の記載によれば,本願発明の「任意の
タイプのデータ」は,(ア)オペレーティング・システムをブートする前に本願の特許
請求の範囲の請求項1の「記憶装置」に書き込まれるものであり,書き込み動作は
ブート後のアプリケーション・プログラムとは独立して実行されるものであり,(イ)
「記憶装置」のファイル・システムに転送されるファイルであるから,文字どおり
データが任意のタイプであるわけではない。
イメモリのシステムへの固定的な組込み
被告は,本願の特許請求の範囲の請求項1の「少なくとも1つの記憶素子を有し,
命令シーケンスを記憶するメモリ」が,システムに対して固定的に組み込まれてい
る旨の記載がないと主張する。
しかし,特許請求の範囲の請求項1には,「少なくとも1つの記憶素子を有し,命
令シーケンスを記憶するメモリ」は,プロセッサーベースシステム内のものであり,
また,プロセッサに結合されたものであると記載されている。そして,これらの記
載によれば,当業者であれば,当然,当該メモリがシステムに対して固定的に組み
込まれていると理解するものである。
ウ「記憶装置」の限定について
被告は,本願発明の「記憶装置」は,不揮発性の大容量記憶手段に限らず,主記
憶装置等のあらゆる記憶装置を含むと主張する。
しかし,一般にコンピュータに電源を投入すると,記憶装置に記憶されているフ
ァイル・システムを読み取り,オペレーティング・システムに係る特定のファイル
のセットを読み込むことでオペレーティング・システムが起動するため,オペレー
ティング・システムを含むファイル・システムを記憶しておく記憶装置は,電源を
供給していない間にも情報を保持し続けるハード・ディスク等の不揮発性の大容量
記憶手段により構成する。そして,本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「記憶装置」は,「前記記憶装置はファイル・システムを含み・・・」と記載されて
いるとおり,「ファイル・システムを含」むものである。
また,本願発明の「発明の詳細な説明」の【0025】ないし【0027】及び
図2Aをみれば,引用発明の「主記憶装置」に対応する構成は,本願発明の「シス
テム・メモリ124」として記載されている一方で,特許請求の範囲の請求項1の
「記憶装置」は「大容量記憶手段152」に相当するのであるから,特許請求の範
囲の請求項1の「記憶装置」と主記憶装置である「システム・メモリ124」が,
異なる概念として使用されていることは当業者にとって明らかである。すなわち,
本願発明の「システム・メモリ124」は,SDRAM(synchronousd
ynamicrandomaccessmemory)を含み,追加又は代替の
高速メモリ装置またはメモリ回路を含むこともできるなどと記載されているところ,
引用発明の「主記憶装置」は,オペレーティングシステム等を一時的に記憶する揮
発性の主記憶装置で,これにはSDRAMがよく用いられることなどからすれば,
上記「システム・メモリ124」に相当する。一方,「大容量記憶手段152」につ
いては,ハード・ディスク等全て不揮発性の記憶装置が例示されており,本願の特
許請求の範囲の請求項1の「記憶装置」は,不揮発性の「大容量記憶手段152」
に対応する。そして,「コンピュータ・システム100はさらに,オペレーティング・
システム(OS),および少なくとも1つのアプリケーション・プログラムを含み,
一実施形態では,これらは,大容量記憶手段152からシステム・メモリ124に
ロードされ,POST後に起動される。」(【0027】)などの記載からすれば,「シ
ステム・メモリ124」と「大容量記憶手段152」が重複しない別の概念として
記載されていることは明らかである。
以上によれば,本願発明の「記憶装置」が不揮発性の大容量記憶手段であること
は,当業者にとって明らかである。
2一致点及び相違点の認定誤り(取消事由2)
(1)記憶装置に関する相違点の看過について
審決は,本願発明の「記憶装置」は,その記憶するデータ内容や記憶構造を限定
しない「記憶装置」と捉えることができることから,引用発明の「主記憶装置」に
相当するとして一致点を認定した。
しかし,引用発明の「主記憶装置」はアプリケーション・プログラムを前記プロ
グラム格納手段から読み出して一時的に記憶する揮発性の記憶手段であり,本願の
特許請求の範囲の請求項1の「記憶装置」である不揮発性の大容量記憶手段とは異
なる。
そして,引用発明が,「プログラム起動時,起動時間を短縮できる演算装置および
演算装置を利用した電子回路装置を提供することを目的」としていることに鑑みれ
ば,引用発明の揮発性の主記憶装置を,不揮発性の大容量記憶手段に置き換えるこ
とには阻害要因があり,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
したがって,審決は,揮発性の主記憶装置と不揮発性の大容量記憶手段という相
違点を看過したものであり,この相違点の看過は,容易想到性の判断の結論を左右
するものである。
(2)書き込まれるデータに関する相違点の看過について
審決は,書き込まれるデータに関して,記憶素子の任意のタイプのデータである
点で一致する旨認定した。
しかし,引用発明は,「通常のOS161の記憶装置102からRAM103への
ロードをバイパスして,不揮発性メモリ106のデータをRAM103に転送する
ので,OS161のみならず,前回実行していたアプリケーション・プログラムの
実行状態を再現する」(【0051】)ものであるため,引用発明で「データ」が転送
されるのは,必然的にオペレーティング・システムの実行状態を再現することが前
提となっており,オペレーティング・システムの「ブートの後」でなければならな
い。
そうすると,引用発明において主記憶装置に書き込まれる「前回コンピュータ1
10を終了時退避されたオペレーティング・システムおよびアプリケーション・プ
ログラムの実行状態を再現するためのデータ」は,オペレーティング・システムを
ブートする前に書き込まれるものではない。
また,引用発明では,当該データを主記憶装置に書き込むものであるため,当該
「データ」は,ファイル・システムを含む記憶装置に転送されるファイルではない。
以上によれば,本願発明と引用発明とは,書き込まれるデータに関し,本願発明
は,前記1(2)アのとおりの「任意のタイプのデータ」であるのに対し,引用発明は,
「前回コンピュータ110を終了時退避されたオペレーティングシステムおよびア
プリケーションプログラムの実行状態を再現するためのデータ」である点において
相違し,審決は,これを看過したものであり,この相違点の看過は,容易想到性の
判断の結論を左右するものである。
3相違点の容易想到性判断の誤り(取消事由3)
(1)相違点1ないし3についての判断の誤り
審決は,コンピュータ装置のプロセッサが命令を実行する際に,命令データを何
らかの記憶手段から読み込んで実行することは,情報処理技術の分野における技術
常識であるところ,コンピュータ装置により処理される命令データの記憶先として,
当該命令データにより処理される対象データの格納先と同じ記憶手段とすることは,
特開平9-231069(甲3)のように周知の構成であると判断した。
しかし,甲3には,「ROM(ReadOnlyMemory)内のファーム
ウエアプログラムをRAM(RandomAccessMemory)へ展開
し,起動する」(【0013】)と記載されていることによれば,甲3の技術も,揮発
性の記憶媒体であるRAMにデータを転送することを前提としたもので,引用発明
に当該構成を適用したとしても,データを不揮発性の大容量記憶手段である「記憶
装置」に書き込むという構成を想到し得ない。
したがって,引用発明の演算装置内のCPUによって実行される命令データの記
憶手段として上記周知の構成を適用し,「少なくとも1つの記憶素子を有し,命令シ
ーケンスを記憶するメモリ」を備え,「プロセッサ」は当該「記憶された命令シーケ
ンス」によって,オペレーティング・システムをブートする前の,データの記憶装
置への書き込みを行うようにすること,すなわち相違点1ないし相違点3に係る構
成とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるとした審決の判断は誤りで
ある。
(2)相違点4についての判断の誤り
審決は,情報処理装置の起動時に,ファイルデータを,ファイル・システムを有
する記憶装置に転送することは,甲2に記載され,甲2は,情報処理装置における
データ転送技術である点において,引用発明と同様の技術分野に属するものである
から,引用発明における記憶装置へのデータ転送において,甲2の記載事項を適用
することで,「記憶装置はファイル・システムを含み,前記少なくとも1つの記憶素
子のコンテントを前記記憶装置に書き込む前記動作において,前記少なくとも1つ
の記憶素子はファイルを含み,前記書き込む動作は,前記ファイルを前記記憶装置
の前記ファイル・システムに転送することを含むものとすること」(相違点4)は,
当業者が容易に想到し得たことであると判断した。
しかし,甲2には,「ファイルシステム情報を,外部記憶装置としての磁気ディス
ク5の所定のファイルシステム情報の保存アドレスに,CPU6を介さずに直接書
き込む」(【0015】)と記載されており,甲2の技術は,CPU6を介さずにファ
イルシステム情報を直接書き込む技術であるので,プロセッサを用いてファイルの
書き込みをする本願発明とは相違する。
また,甲2のデータの転送先である磁気ディスク5は不揮発性の記憶媒体である
ところ,引用発明は,立ち上げ時間を短縮化するために不揮発性の記憶装置102
を用いずに「揮発性の主記憶装置」にデータを転送することを特徴としていること
からすれば,引用発明に不揮発性の記憶媒体を転送先とする甲2の技術を適用する
ことには阻害要因がある。
したがって,引用発明における記憶装置へのデータ転送において,甲2の記載事
項を適用することで,相違点4に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得
たことであるとした審決の判断は誤りである。
第4被告の反論
1記載不備についての判断の誤り(取消事由1)に対して
本願の発明の詳細な説明によれば,従来の技術に関して,「追加ドライバ,特別な
ソフトウェア,又は,新たなハードウェアのためのソフトウェアの追加には,当該
追加のための媒体の移送,及び,その紛失又は盗難の危険が伴う」(【0001】な
いし【0005】)という問題があり,前記問題を克服するための,「システムおよ
び/またはデイレクトリ・サービスの必要性および利用可能性なしにシステム・フ
ァームウェアから記憶装置にアプリケーションを配信するためのシステムおよび方
法が必要とされている」(【0006】)という課題があることを把握できるが,以下
のとおり,本願の特許請求の範囲の請求項1には,発明の課題を解決するための手
段が反映されていない。
(1)任意のタイプのデータの特定
プロセッサベースのシステムにおいては,取り扱うデータの技術的意味に応じて,
システムにおける処理内容が大きく異なるから,本願の特許請求の範囲の請求項1
には,データの種類に関する構成要件を記載する必要がある。
しかし,本願の特許請求の範囲の請求項1には,読み込まれる「任意のタイプの
データ」が,アプリケーション,すなわち,追加ドライバ,特別なソフトウェア,
又は,新たなハードウェアのためのソフトウェア等の「特定のタイプのデータ」で
あるとの記載はなく,文字どおりデータが任意のタイプであることを意味している。
したがって,本願の特許請求の範囲の請求項1には,「任意のタイプのデータ」が
アプリケーション等の「特定のタイプのデータ」であることの構成要件が不足して
いる。
(2)メモリのシステムへの固定的な組込み
前記のとおり,本願発明は,媒体の移送等によらずに,システム・ファームウェ
アから記憶装置にアプリケーションを配信するためのシステム及び方法を提供する
ことが課題であるところ,本願の特許請求の範囲の請求項1には,「少なくとも1つ
の記憶素子を有し,命令シーケンスを記憶するメモリ」とのみ規定され,メモリを
システム・ファームウェアのようにシステムに固定的に組み込むことにより課題を
解決することについて,何ら規定されていない。そして,「少なくとも1つの記憶素
子を有し,命令シーケンスを記憶するメモリ」には,システムに対し着脱可能な,
可搬形記憶媒体(例:メモリカード,USBメモリ)も含まれるところ,追加ドラ
イバ又は特別なソフトウェアを,可搬形の記憶媒体によりユーザに供給する発明は,
従来技術(乙1ないし5)にすぎないから,前記問題を解決しない。
したがって,本願の特許請求の範囲の請求項1には,「少なくとも1つの記憶素子
を有し,命令シーケンスを記憶するメモリ」が,システムに対して固定的に組み込
まれていることに関する構成要件が不足している。
(3)記憶装置の限定
本願の特許請求の範囲の請求項1には,「任意のタイプのデータ」を書き込む対象
である「記憶装置」に関して,それが不揮発性記憶装置であるとの限定はないため,
RAMディスクなどの揮発性の主記憶装置も含まれる。
しかし,オペレーティング・システムの実行前に主記憶装置のRAMディスクに
プログラムを転送しても,前記問題を何ら解決するものではない。また,そもそも,
プロセッサベースのシステムにおいては,記憶装置が揮発性であるか不揮発性であ
るか,及び,データが格納される場所に応じて,データの種類及びデータに対する
処理内容が大きく異なるものである。
したがって,本願の特許請求の範囲の請求項1には,「記憶装置」が不揮発性の記
憶装置であることの構成要件が不足している。
2一致点及び相違点の認定誤り(取消事由2)に対して
(1)記憶装置に関する相違点の看過に対して
原告は,本願発明と引用発明の相違点について,記憶装置に関して,揮発性の主
記憶装置と不揮発性の大容量記憶手段という相違点を看過したと主張する。
しかし,前記1(3)のとおり,本願の特許請求の範囲の請求項1には,本願発明の
記憶装置が「不揮発性の大容量記憶手段」であるとは記載されておらず,「不揮発性
の大容量記憶手段」に限定解釈すべき理由はない。むしろ,請求項1を引用する請
求項5には,本願発明の記憶装置に,揮発性か不揮発性か限定されていない「固形
メモリ装置」(SolidStateMemory),すなわち,RAMのよう
に揮発性だが高速な固形メモリ装置,及び,メモリカードのように不揮発性だが低
速の固形メモリ装置の双方が含まれることが記載されている上,「低容量取外し可能
媒体装置」が含まれることも記載されている。
また,本願の発明の詳細な説明の【0023】には,【0025】ないし【002
7】及び図2Aの記載は例示である旨の記載がされている上,【0013】には,「コ
ンピュータ・システム」は,データを処理することのできる回路を含む製品と定義
され,例示として,汎用コンピュータ・システム,パーソナル・コンピュータ,ハ
ード・コピー機器(例えばプリンタ,ファクス機など),銀行業務機器(例えば現金
自動預払機)なども挙げられていることからみても,本願発明の「記憶装置」を,
「大容量記憶装置152」に限定的に解釈することは妥当でない。
したがって,本願発明のデータの書き込み先は,主記憶装置を含むものであって,
審決に誤りはない。
(2)書き込まれるデータに関する相違点の看過に対して
原告は,本願発明と引用発明の相違点について,書き込まれるデータに関し,本
願発明は,「(ア)オペレーティング・システムをブートする前に請求項1の「記憶装
置」に書き込まれるものであり,書き込み動作はブート後のアプリケーション・プ
ログラムとは独立して実行されるものであり,(イ)請求項1の「記憶装置」のファイ
ル・システムに転送されるファイル」(任意のデータ)であるのに対して,引用発明
の「データ」は,「前回コンピュータ110を終了時退避されたオペレーティングシ
ステムおよびアプリケーションプログラムの実行状態を再現するためのデータ」で
ある点を看過したと主張する。
しかし,刊行物1の記載によれば,引用発明では,コンピュータの起動後,記憶
装置102からのオペレーティング・システムのロードがバイパスされるとしても,
オペレーティング・システム及びアプリケーション・プログラムを起動させるため
には,その前に,不揮発性メモリ106からアプリケーション・プログラムだけで
なくオペレーティング・システムの再現データの転送が必要である。
したがって,オペレーティング・システムの起動は,データの転送後であり,デ
ータの転送中において,オペレーティング・システムのファイルは,まだ実行開始
されていない(乙12)から,「オペレーティング・システムをブートする前に」と
の本願の特許請求の範囲の請求項1の記載の限りにおいて,上記(ア)は,相違点では
ない。
そして,上記(イ)の,引用発明の「データ」が記憶装置のファイル・システムに転
送されるファイルである点については,審決は相違点4としているから,審決に相
違点の看過はない。
3相違点の容易想到性判断の誤り(取消事由3)に対して
(1)相違点1ないし3の判断の誤りに対して
審決は,甲3を,命令シーケンスの記憶場所を不揮発性の記憶装置とする技術を
示すために用いたのであり,データの書込み先を記憶装置とする技術を示すために
用いたのではない。そもそも,本願の特許請求の範囲の請求項1には,本願発明の
記憶装置が不揮発性の大容量記憶手段であるとは記載されていない。
したがって,原告の主張は理由がない。
(2)相違点4についての判断の誤りに対して
ア原告は,甲2の技術は,CPU6を介さずにファイル・システム情報を直接
書き込む技術であるので,プロセッサを用いてファイルの書き込みをする本願発明
とは相違すると主張する。
しかし,引用発明は,CPU,不揮発性メモリ,RAM(主記憶装置)等がバス
ケーブルで接続された,典型的なコンピュータを前提とするから,引用発明に甲2
の技術を組み合わせる場合は,CPUが命令シーケンスを実行して書き込むものと
するのが自然である。また,RAM(主記憶装置)への転送を,①CPU以外の手
段で行うこと(乙6ないし8),②CPUの命令により行うこと(乙9及び10)は,
いずれも周知の技術であって,CPUを介するか否かは容易想到性の判断を左右し
ない。
したがって,原告の主張は理由がない。
イまた,原告は,引用発明に甲2の技術を適用するには阻害要因があると主張
するが,審決は,甲2を,情報処理装置の起動時に,ファイルデータを,ファイル・
システムを有する記憶装置に転送する技術を示すために用いたものであって,たと
え記憶装置が揮発性であるとしても,不揮発性記憶装置の場合と同様にファイル転
送が行われることは技術常識である(乙6ないし10)。
したがって,原告の主張は理由がない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(記載不備についての判断の誤り)について
(1)本願明細書の記載内容について
本願明細書の「発明の詳細な説明」には,以下の記載がある(甲4。図について
は,別紙本願明細書図面目録参照。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は一般に,プロセッサベースまたはマイクロコ
ントローラベースのシステムにおけるメモリに関し,より詳細には,オペレーティ
ング・システムおよび/またはディレクトリ・サービスを必要とせずにシステム・
ファームウェアから記憶装置にアプリケーション・プログラムを転送するシステム
および方法に関する。
【0002】
【従来の技術】コンピュータなどプロセッサベースのシステムでは,オペレーテ
ィング・システムを最初にインストールしなければならず,その後,その他のアプ
リケーション・ソフトウェアをそれに続けてインストールおよび実行することがで
きる。オペレーティング・システム・ソフトウェアは通常,コンパクト・ディスク
またはディスケットからインストールされる。ある種の場合には,オペレーティン
グ・システムは,マザーボード製造業者またはシステム製造業者によって必要とさ
れる性能レベルまでシステムを高めるために,装置ドライバまたは何らかの他のソ
フトウェア・コンポーネントを介して拡張されなければならない。これは,これら
の装置ドライバの移送を含むいくつかの問題を生む。」
「【0004】各製造ステージは,固有の必要物,技術向上を有する場合もあり,
異なる検査および故障解決を必要とする場合もある。様々な製造ステージが異なる
物理位置および異なる企業で起こり得るため,標的のオペレーティング・システム
に加えられる装置ドライバまたは特別なソフトウェアは,システムに追加コストを
加える。この追加コストをこうむるのは,追加ドライバまたは特別なソフトウェア
をフロッピー・ディスク,コンパクト・ディスク,または他の各システムに対する
媒体で移送しなければならないためである。さらに,フロッピー・ディスクやコン
パクト・ディスクなどの追加アイテムは,失われたり盗難に遭ったりしやすい。
【0005】さらに,技術が進歩するにつれて,システム・ハードウェアは,現
在のオペレーティング・システムに使用できない機能を備える可能性がある。今日,
システム・ファームウェアまたはBIOSが新しいハードウェアを制御する能力を
伝えることのできる,あるいは拡張されたシステム機能を提供することのできる信
頼性のある方法はない。例えば,システムが今,リアルタイム・ビデオ表示を組み
込んでいるとする。この機能を実行するハードウェアは存在するが,オペレーティ
ング・システムはリアルタイム・ビデオを表示することができない。先に考察した
ように,システム製造業者は,リアルタイム・ビデオの表示に必要なソフトウェア
を収録したディスケットまたはコンパクト・ディスク(CD)をユーザに供給する
場合がある。これに伴う問題は,マザーボードが,システムに組み込まれてエンド・
ユーザに販売される前に何人かの中間の人間を通過する可能性があることであり,
それにより,ディスケットまたはCDは,失われたり盗難に遭ったりしやすい。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】したがって,前述の問題を克服するためのシス
テムおよび方法が,技術において必要とされている。特に,システムおよび/また
はディレクトリ・サービスの必要性および利用可能性なしにシステム・ファームウ
ェアから記憶装置にアプリケーションを配信するためのシステムおよび方法が必要
とされている。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の一態様は,プロセッサベースのシステム
内の少なくとも1つの記憶素子にアクセスするための方法およびシステムである。
システムは,命令シーケンスを記憶するためのメモリを含み,その命令シーケンス
によってプロセッサベースのシステムが処理される。メモリは,少なくとも1つの
記憶素子を含む。プロセッサがメモリに結合され,記憶装置がプロセッサに結合さ
れる。プロセッサベースのシステム上でオペレーティング・システムをブートする
前に,記憶された命令シーケンスは,少なくとも1つの記憶素子のコンテントを記
憶装置に書き込むようプロセッサに命令する。」
「【0009】
【発明の実施の形態】本発明は,オペレーティング・システムまたはディレクト
リ・サービスを必要とせずにアプリケーションを提供するためのシステムおよび方
法に関する。一実施形態では,最初にペイロードまたはファイルがプロセッサ・シ
ステムの不揮発性記憶装置に記憶される。ペイロード配信プログラムは,ファイル
またはペイロードのインストール前に,ファイルまたはペイロードをシステムの初
期化ディレクトリまたはスタートアップ・ディレクトリに転送する。続いて,ファ
イルまたはペイロードは,オペレーティング・システムが完全にブートされた後で
インストールされる。
【0010】本発明によれば,マザーボード・ベンダーは,オペレーティング・
システムが更新または変更されるときに自動的にインストールできる拡張機能を提
供することにより,自分の製品を差別化することができる。この拡張機能は,新し
いかまたは「異なる」システム・ハードウェアを操作することもでき,あるいは,
有名商標のインターネット・ブラウザなどソフトウェア・ベースの能力とすること
もできる。いくつかのオペレーティング・システムは,プログラムが特定のディレ
クトリ内に配置されればオペレーティング・システムのブート中に自動的にそのプ
ログラムを稼動させるように構成することもできる。」
「【0013】定義
・・・コンテントとは,アプリケーション・プログラム,ドライバ・プログラム,
ユーティリティ・プログラム,ファイル,ペイロードなど,およびそれらの組合せ,
ならびに,グラフィックス,情報材料(記事,株式相場,他)などのうちの1つま
たはいずれかの組合せについて言う。「ペイロード」とは,グラフィックスまたは情
報材料(記事,株式相場,他)を伴うメッセージについて言い,ファイルまたはア
プリケーションを含めることができる。一実施形態では,これは所定時にシステム
の大容量記憶媒体に転送される。・・・
【0014】さらに,オペレーティング・システム(「OS」)のロードとは,オ
ペレーティング・システム・ブートストラップ・ローダの最初の設置について言う。
一実施形態では,OSロード中に,通常,情報のセクタがハード・ディスクからシ
ステム・メモリにロードされる。あるいは,ブートストラップ・ローダがネットワ
ークからシステム・メモリにロードされる。OS「ブート」とは,ブートストラッ
プ・ローダの実行について言う。これは,OSをシステムの制御下に置く。OSブ
ート中に行われるいくつかの動作には,システム構成,装置検出,ドライバのロー
ドおよびユーザ・ログインが含まれる。・・・パワー・オン・セルフ・テスト(Power
OnSelfTest:「POST」)とは,OSのロード前にシステム・ハードウェアを構
成および検査するために実行される命令である。
【0015】システムの概観
本発明の実施形態を組み入れる例示的なシステムの記述を以下に述べる。」
「【0017】一実施形態では,本発明の様々な実施形態を実施するために2つの
ソフトウェア・モジュールが使用される。一方がユーザのシステム上に常駐し,所
定のウェブ・サイトにアクセスするのに使用される。例えば一実施形態では,オペ
レーティング・システムおよび基本入出力システム(BIOS)がコンピュータ・
システムに事前にインストールされ,続いてコンピュータ・システムが最初に電源
を入れられるとき,考察の目的で第1のソフトウェア・モジュールと呼ぶアプリケ
ーションが(一実施形態では第1のソフトウェア・モジュールは初期スタートアッ
プ・アプリケーション(ISUA)であり,後続の章で述べる),プリブート環境で
1つまたは複数の実行可能プログラムの起動を可能にする。一実施形態では,第1
のソフトウェア・モジュールは,OSのロード,ブート,実行,および/または稼
動の前に1つまたは複数の実行可能プログラムを起動するのを助ける。一実施形態
では,ユーザは,このようなプログラムの使用(すなわち第1のソフトウェア・モ
ジュールの使用)を選択するよう奨励され,代替実施形態では,プログラムは自動
的に起動される。第1のソフトウェア・モジュール中に含まれるプログラムは,ツ
ールおよびユーティリティが適時に,かつ正しいユーザ許可によって稼動するよう
にし,また,ユーザがインターネット接続を通してドライバ,アプリケーション,
および追加ファイルまたはペイロードを含む第2のソフトウェア・モジュールをP
C上にダウンロードできるようにする。・・・」
「【0019】一実施形態では,システムはまた,読出し専用メモリBIOS(R
OMBIOS)中に記憶される初期ペイロードも含むことができる。一実施形態で
は,初期ペイロードは,第1のソフトウェア・モジュール(例えばISUA)の一
部である。・・・一実施形態では,初期ペイロードはROMBIOSから起動され,
パワー・オン・セルフ・テスト(POST)後に,ただしOSのブート,ロード,
および/または実行の前に,画面上に表示される。これは,所定時,例えばシステ
ムが製造,組立て,および検査されているときや,エンド・ユーザが最初にシステ
ムをアクティブにするときなどに行われる場合がある。・・・」
「【0023】図2Aに,本発明の実施形態を実施できる例示的なコンピュータ・
システム100を示す。・・・
【0024】図2Aを参照すると,コンピュータ・システム100は,プロセッ
サすなわち中央処理装置(CPU)104を含む。・・・
【0025】CPU104は,CPUバス108によってバス・コントローラ1
12に結合される。・・・メモリ・コントローラ116は,CPU104または他の
装置からメモリ・バス120を介してシステム・メモリ124にアクセスするため
のインタフェースである。一実施形態では,システム・メモリ124は,SDRA
M(synchronousdynamicrandomaccessmem
ory)を含む。システム・メモリ124は任意選択で,いずれかの追加または代
替の高速メモリ装置またはメモリ回路を含むこともできる。・・・システム・バス1
28には,グラフィックス・コントローラ,グラフィックス・エンジン,またはビ
デオ・コントローラ132と,大容量記憶手段152と,通信インタフェース装置
156と,1つまたは複数の入出力装置(I/O)1681~168Nと,拡張バス・
コントローラ172とが結合される。・・・
【0026】大容量記憶手段152には,(これらに限定されないが,)ハード・
ディスク,フロッピー・ディスク,CD-ROM,DVD-ROM,テープ,高密
度フロッピー,大容量取外し可能媒体,低容量取外し可能媒体,固体メモリ装置な
ど,およびこれらの組合せが含まれる。大容量記憶手段152には,他のどんな大
容量記憶媒体を含めることもできる。・・・・拡張バス・コントローラ172は不揮
発性メモリ175に結合され,この不揮発性メモリ175はシステム・ファームウ
ェア176を含む。システム・ファームウェア176はシステムBIOS82を含
み,このシステムBIOS82は,とりわけコンピュータ・システム100内のハ
ードウェア・装置を制御するためのものである。システム・ファームウェア176
はまた,ROM180およびフラッシュ(またはEEPROM)184も含む。・・・
【0027】当業者によく知られているように,コンピュータ・システム100
はさらに,オペレーティング・システム(OS),および少なくとも1つのアプリケ
ーション・プログラムを含み,一実施形態では,これらは,大容量記憶手段152
からシステム・メモリ124にロードされ,POST後に起動される。OSには,
これらに限定または制約されないが,DOS,WindowsTM
(例えばWind
ows95TM
,Windows98TM
,WindowsNTTM
),Unix(登録商標),
Linux,OS/2,OS/9,Xenixなどを含めた,どんなタイプのOS
も含めることができる。オペレーティング・システムは,コンピュータ・システム
の動作および資源の分配を制御する1つまたは複数のプログラムのセットである。
アプリケーション・プログラムは,ユーザに望まれるタスクを実行する1つまたは
複数のプログラムである。」
「【0032】図3に,コンピュータ・システム100の論理図を示す。図2Aお
よび3を参照すると,システム・ファームウェア176はソフトウェア・モジュー
ルおよびデータを含み,これらは,POST中にシステム・メモリ124にロード
され,続いてプロセッサ104によって実行される。一実施形態では,システム・
ファームウェア176は,システムBIOSハンドラやハードウェア・ルーチンな
どを有するシステムBIOSモジュール82,ROMアプリケーション・プログラ
ム・インタフェース(RAPI)モジュール84,初期スタートアップ・アプリケ
ーション(ISUA)モジュール86,初期ペイロード88a,暗号鍵90,暗号
エンジン92,および表示エンジン94を含む。RAPI84は,ROMアプリケ
ーション・プログラムとシステムBIOS82との間に安全なインタフェースを提
供する。前述のシステム・ファームウェア176のモジュールおよび各部は,RO
M180および/またはフラッシュ184中に含めることができる。あるいは,前
述のシステム・ファームウェア176のモジュールおよび各部は,ROM190お
よび/またはフラッシュ194中に含めることもできる。RAPI84,ISUA
86,および初期ペイロード88aはそれぞれ,コンピュータ・システム100を
最初に使用する前に,別々に開発してシステム・ファームウェア176に記憶する
ことができる。・・・
【0033】一実施形態では,図3・・・に示すように,新しいコンピュータ・
システム100に最初に電源が入れられた後,システムは,POSTプロシージャ
から開始する。初期POSTの間,A1によって示すようにISUA86が大容量
記憶手段152に転送される。一実施形態では,このような転送は,製造および/
または組立ての過程の間に,オペレーティング・システムをインストールした後で
(ただしオペレーティング・システムをブート,ロード,および稼動させる前に)
システム100に最初に電源が入れられるときに行われる。代替実施形態では,こ
のような転送は,製造および/または組立ての過程の後で,ユーザがシステム10
0を受け取って電源を入れるときに行われるようにすることもできる。他の代替実
施形態では,ISUA86の転送中に,追加のプログラム,アプリケーション,ド
ライブ,データ,グラフィックス,および他の情報を(例えばROMから)大容量
記憶手段152に転送することもできる。・・・」
「【0035】POSTが完了すると,OSがロード,実行,および初期化される。
次いで,標準OSドライバおよびサービスがロードされる。・・・」
「【0042】配信プロセス
図5Aは,本発明のファイルまたはペイロード配信プロセス200Aの一実施形
態の流れ図である。一実施形態では,ファイルまたはペイロードは,少なくとも1
つのアプリケーション・プログラムを含む。・・・ファイルまたはペイロード配信プ
ロセス200Aは,不揮発性記憶装置から所定の装置にペイロードを転送するアプ
リケーションである・・・。一実施形態では,所定の装置は,ハード・ディスクな
どの大容量記憶手段152である。代替実施形態では,装置は,これらに限定され
ないが,CDROM,zipディスク,フロッピー・ディスク,およびフラッシュ・
メモリを含めたどんな記憶装置でもよい。」
(2)上記(1)認定の事実によれば,本願明細書において,本願発明の課題は,従
来技術では,追加ドライバまたは特別なソフトウェアをユーザに供給する際,フロ
ッピー・ディスク等の媒体で移送していたところ,この方法では媒体が失われたり
盗難に遭ったりしやすいというリスクがあるため(【0004】【0005】),シス
テム・ファームウェアから記憶装置にアプリケーションを配信するためのシステム
及び方法を提供することである(【0006】)と認められる。
そして,上記課題の課題解決手段として,本願の特許請求の範囲の請求項1には,
構成として,「少なくとも1つの記憶素子を有し,命令シーケンスを記憶するメモリ
と,前記メモリに結合され,前記記憶された命令シーケンスを実行するプロセッサ
と,前記プロセッサに結合され,前記プロセッサおよび前記メモリと同じく前記シ
ステム内に含まれる記憶装置」を含み,「前記少なくとも1つの記憶素子はファイル
を」,「前記記憶装置はファイル・システム」を含むものであって,その動作として,
「オペレーティング・システムをブートする前に,前記記憶された命令シーケンス
によって前記プロセッサは,前記少なくとも1つの記憶素子のコンテント,即ち,
該記憶素子の任意のタイプのデータを前記記憶装置に書き込み,この書き込み動作
はブート後のアプリケーションプログラムとは独立して実行され,」「さらに,前記
少なくとも1つの記憶素子のコンテントを前記記憶装置に書き込む前記動作におい
て」,「前記ファイルを前記記憶装置の前記ファイル・システムに転送することを含
む」システムが記載されている。
しかし,請求項1の上記構成のうち「ファイル・システムを含」んでいる「記憶
装置」については,上記記載しかなく,この記載自体からは,その技術的意義が一
義的に明確であるとはいえない。
そこで,本願明細書の発明の詳細な説明についてみると,まず,システムの概観
として,①オペレーティング・システム(OS)及び基本入出力システム(BIO
S)は,コンピュータ・システムに事前にインストールされており,コンピュータ・
システムが最初に電源を入れられるとき,第1のソフトウェア・モジュールと呼ぶ
アプリケーション(一実施形態としては初期スタートアップ・アプリケーション(I
SUA))が,OSのロード,ブート,実行,稼動の前に実行可能プログラムを起動
するのを助ける,②コンピュータ・システムは,読出し専用メモリBIOS(RO
MBIOS)中に記憶される初期ペイロードを含むことができ,初期ペイロードは,
第1のソフトウェア・モジュール(ISUA)の一部である,③初期ペイロードは,
ROMBIOSから起動され,POST(パワー・オン・セルフ・テスト)後,O
Sのブート,ロード,実行の前に,所定の位置(コンピュータ・システムのハード・
ディスク等)にコピーされるという構成が記載されている(【0017】【0019】)。
そして,その例として,図2A,図3のコンピュータ・システム100が記載され
ており,ハードウェアの構成として,不揮発性メモリ175(システム・ファーム
ウェア176を含む。)及びプロセッサである中央処理装置(CPU104)並びに
ハード・ディスク,フロッピー・ディスク,CD-ROM,DVD-ROM,テー
プ,高密度フロッピー,大容量取外し可能媒体,低容量取外し可能媒体,固体メモ
リ装置など,及びこれらの組合せなどを含む大容量記憶手段152を備え(【002
3】ないし【0026】),ソフトウェアの構成として,オペレーション・システム
(OS)及び少なくとも一つのアプリケーション・プログラムを含み(【0027】),
一実施形態として,システム・ファームウェア176に,命令シーケンスであるシ
ステムBIOSハンドラやハードウェア/ルーチンなどを有するシステムBIOS
モジュール82,ROMアプリケーション・プログラム・インタフェース(RAP
I)モジュール84,初期スタートアップ・アプリケーション(ISUA)モジュ
ール86,初期ペイロード88a(ファイル又はアプリケーションを含む。)などが
含まれる構成が示されている(【0032】【0042】)。また,その動作として,
システム100に最初に電源が入れられた後,システムは,POSTプロシージャ
から開始し,初期POSTの間,追加のプログラム,アプリケーション,初期ペイ
ロード88aなどを大容量記憶手段152に転送することができ,POSTが完了
するとOSがロード,実行及び初期化されることなどが記載されている(【0027】
【0033】【0042】)。
これらの記載からすれば,本願の特許請求の範囲の請求項1に記載されたシステ
ムの構成である「命令シーケンスを記憶するメモリ」「プロセッサ」「記憶装置」は,
それぞれ発明の詳細な説明の「不揮発性メモリ175(システム・ファームウェア
176を含む。)」「CPU104」「大容量記憶手段152」に対応し,請求項1の
「ファイル・システムを含」んでいる「記憶装置」は,ハード・ディスク,フロッ
ピー・ディスク,CD-ROM,DVD-ROM,テープ,高密度フロッピー,大
容量取外し可能媒体,低容量取外し可能媒体,固体メモリ装置など,及びこれらの
組合せその他の不揮発性の大容量記憶装置であって(【0026】),少なくとも揮発
性のRAM(主記憶装置)はこれには含まれないと解される。
そして,上記のとおり,本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明も,
発明の詳細な説明に記載された発明も,同様のハードウェア及びソフトウェアの構
成を備え,OSのブート前に,追加のプログラム等などを大容量記憶装置に転送す
るという動作が開示されているから,本願の特許請求の範囲の請求項1に記載され
た発明は,発明の詳細な説明に記載された発明であって,当業者が「媒体が失われ
るなどのリスクを避けるために,システム・ファームウェアから記憶装置にアプリ
ケーションを配信するためのシステム及び方法を提供する。」という課題を解決でき
ると認識できる範囲のものであると認められる。
したがって,本願が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないとの
審決の判断は誤りである。
(3)被告の主張について
ア「任意のタイプのデータ」の限定について
被告は,本願発明の「任意のタイプのデータ」は,文字どおりデータが任意のタ
イプであることを意味するから,データがアプリケーション等の「特定のタイプの
データ」であることを否定していると主張する。
しかし,本願の特許請求の範囲の請求項1の「前記少なくとも1つの記憶素子の
コンテント,即ち,該記憶素子の任意のタイプのデータ」「前記少なくとも1つの記
憶素子のコンテントを前記記憶装置に書き込む前記動作において,前記少なくとも
1つの記憶素子はファイルを含み」との記載によれば,本願発明の「任意のタイプ
のデータ」は,記憶素子の「コンテント」であって「ファイル」を含むものと理解
される。
そして,本願明細書の発明の詳細な説明において,「コンテントとは,アプリケー
ション・プログラム,ドライバ・プログラム,ユーティリティ・プログラム,ファ
イル,ペイロードなど,およびそれらの組合せ,ならびに,グラフィックス,情報
材料(記事,株式相場,他)などのうちの1つまたはいずれかの組合せについて言
う。」(【0013】)と定義されていることを併せて考慮すれば,本願発明の「任意
のタイプのデータ」はアプリケーション・プログラム等のデータとして十分に特定
されているというべきである。
したがって,被告の主張は理由がない。
イメモリのシステムへの固定的な組込み
被告は,「少なくとも1つの記憶素子を有し,命令シーケンスを記憶するメモリ」
には,システムに対し着脱可能な,可搬形記憶媒体(例:メモリカード,USBメ
モリ)も含まれるため,同メモリが,システムに対して固定的に組み込まれている
か不明である旨主張する。
しかし,本願の特許請求の範囲の請求項1には,「少なくとも1つの記憶素子を有
し,命令シーケンスを記憶するメモリ」が,「プロセッサベースのシステム内」のも
ので,メモリには,「プロセッサが結合され」ていると記載されており,当業者であ
れば,当該メモリがシステムに対して固定的に組み込まれているものと理解するこ
とは明らかである。
したがって,被告の主張は理由がない。
ウ「記憶装置」の限定について
さらに,被告は,本願発明の「記憶装置」は,不揮発性の大容量記憶手段に限ら
ず,主記憶装置等のあらゆる記憶装置を含む旨主張する。
しかし,本願の特許請求の範囲の請求項1には,「前記プロセッサに結合され,前
記プロセッサおよび前記メモリと同じく前記システム内に含まれる記憶装置」であ
って,「前記記憶装置はファイル・システムを含み」と記載されており,特許請求の
範囲の請求項1の「記憶装置」は,システム内に含まれ,かつ,ファイル・システ
ムを含むものとして特定されており,その技術内容が一義的に明確とはいえないも
のの,本願明細書の発明の詳細な説明における前記(1)の記載によれば,本願発明の
「記憶装置」は,当業者であれば,ハード・ディスク等の不揮発性の大容量記憶装
置等と解し,少なくとも揮発性のRAM(主記憶装置)を含むものとは解さない。
したがって,被告の主張は理由がない。
(4)以上によれば,本願発明が特許法36条6項1号に規定する要件を満たして
いないとの審決の判断は誤りであって,取消事由1は理由がある。
2取消事由2(一致点及び相違点の認定誤り)について
(1)引用発明
ア刊行物1には,以下の記載がある(甲1。図については,別紙引用発明図面
目録参照)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムを格
納した不揮発性のプログラム格納手段と,
前記オペレーティングシステムの下で前記アプリケーションプログラムを実行する
実行手段と,
該実行手段の動作時に,前記オペレーティングシステムおよびアプリケーションプ
ログラムを前記プログラム格納手段から読み出して一時的に記憶する揮発性の主記
憶装置と,を備えた演算装置において,
前記主記憶装置と接続された不揮発性記憶装置と,
前記演算装置の電源オフに先立って,前記主記憶装置に記憶されているデータを前
記不揮発性記憶装置に待避させるデータ待避手段と,
前記不揮発性記憶装置に待避させておいたデータを,前記演算装置の再起動時に前
記主記憶装置に転送させる転送手段と,を備え,
前記演算装置の再起動時,前記実行手段が,前記不揮発性記憶装置から前記主記憶
装置に転送されたデータに基づいて,前回の電源オフ時のオペレーティングシステ
ムおよびアプリケーションプログラムの実行状態を再現することを特徴とする演算
装置。」
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,演算装置,該装置の制御方法,該制御プロ
グラムを記憶した記憶媒体,演算装置を利用した電子回路装置,該装置の制御方法,
該制御プログラムを記憶した記憶媒体に関し,特に,プログラム起動時の時間を短
縮できる装置に関する。」
「【0012】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,従来のコンピュータおよびコン
ピュータを利用した電子回路解析システムには下記のような問題点があった。コン
ピュータの場合,インストールされているアプリケーションプログラムの種類が多
数であっても,実際に日常的に使用されるアプリケーションプログラムの数は2,
3種類であり,通常は,前回使用したアプリケーションプログラムと同様のものを
使用する場合がほとんどである。それにも関わらず,レジューム機能を使用しない
場合,図7に示されるように,毎回,ステップP2でOSを記憶装置2からRAM
3にロードし,さらに,アプリケーションプログラムを選択する度に,ステップP
4で記憶装置2からRAM3にアプリケーションプログラムのロードを繰り返して
いた。
【0013】つまり,オペレータがコンピュータの電源をオンしてから,コンピ
ュータの起動時の設定,OSを記憶装置2からRAM3にロードするなどの準備が
終了するまでの間の数分間と,準備が終了した後,オペレータが所定のアプリケー
ションプログラムを選択してから,アプリケーションプログラムを記憶装置2から
RAM3にロードするなどの準備が終了するまでの間の数分間と,が必要となるの
で,実際にコンピュータを使用できる状態になるまで,かなりの時間がかかるとい
う問題点があった。
【0014】また,従来のレジューム機能においてはRAM3の内容を保持する
ためには電源供給が必要であり,さらに,RAM3にDRAMを使用した場合には,
一定期間ごとにリフレッシュを行う必要があり,それらの制御を行う手段も必要で
あった。・・・
【0015】本発明は,上記問題点に鑑みなされたものであり,プログラム起動
時,起動時間を短縮できる演算装置および演算装置を利用した電子回路装置を提供
することを目的とする。」
「【0036】
【発明の実施の形態】以下に図面に基づいて,本発明の好ましい実施の形態につ
いて説明する。図1~3は,本発明に係る演算装置の実施例を示す図で,典型的な
コンピュータ,例えば,パーソナルコンピュータ,ワークステーションなどの例を
示している。図1に本実施例の演算装置のシステム構成ブロック図を示す。
【0037】同図に示されるように,コンピュータ110はCPU101,記憶
装置102,RAM103,入出力装置104,レジスタ105,不揮発性メモリ
106およびバッテリ107を備えている。CPU101は,予め記憶装置102
にインストールされ保存されているOS161の制御下で,複数の所定のアプリケ
ーションプログラム160を実行するものである。・・・
【0038】記憶装置102は例えば,固定ディスク装置などの大容量の不揮発
性の記憶装置であり,OS161に加えて,任意のアプリケーションプログラム1
60が予めインストールされている。オペレータは複数のアプリケーションプログ
ラム160から実行したいプログラムを選択して実行する。RAM103はCPU
101がプログラムを実行するとき,必要なデータを一時的に記憶させる作業領域
として使用される揮発性の記憶装置であり,例えばDRAMからなる。」
「【0041】不揮発性メモリ106はフラッシュメモリなどからなり,RAM1
03より大きい容量を有する不揮発性の記憶装置である。フラッシュメモリは安価
で,かつ,記憶装置102からRAM103へのデータ転送より早い速度でRAM
103へのデータ転送を行うことができる。CPU101,記憶装置102,RA
M103,入出力装置104,レジスタ105および不揮発性メモリ106はバス
ケーブル109で互いに接続される。これにより,互いにデータの送受信および制
御が可能となる。」
「【0066】
【発明の効果】本発明によれば,演算装置の電源オフに先立って,主記憶装置に
記憶されているデータを不揮発性記憶装置に待避させるので,演算装置の再起動時
に,不揮発性記憶装置に待避させておいたデータを,主記憶装置に転送させて,転
送されたデータに基づいて,前回の電源オフ時のオペレーティングシステムおよび
アプリケーションプログラムの実行状態を実行手段が再現できる。」
【0067】通常のプログラムの実行は,オペレーティングシステムおよびアプ
リケーションプログラムをプログラム格納手段から主記憶装置に転送した後で,行
われるが,本発明によれば,この転送処理をバイパスすることが可能となる。また,
プログラム格納手段から主記憶装置への転送より不揮発性記憶装置から主記憶装置
への転送の方が早い速度で必要なデータを転送できるので,演算装置の起動からア
プリケーションプログラムの起動までの時間を短縮できる。」
イ上記記載によれば,引用発明は,演算装置に関し,特に,プログラム起動時
の時間を短縮できる装置に関するものである(【0001】)。そして,従来は,演算
装置を起動する場合,毎回,OSを記憶装置からRAMにロードし,さらに,アプ
リケーションプログラムを選択する度に,アプリケーション・プログラムを記憶装
置からRAMにロードすることを繰り返していたため,実際にコンピュータを使用
できる状態になるまで,かなりの時間がかかっていたことから(【0012】【00
13】),前回終了時における演算装置の電源オフに先立って,主記憶装置に記憶さ
れているデータを不揮発性記憶装置に待避させ,演算装置の再起動時に,当該デー
タを主記憶装置に転送することによって,前回の電源オフ時のオペレーティング・
システムおよびアプリケーション・プログラムの実行状態を再現し,アプリケーシ
ョン・プログラムの起動までの時間を短縮するなどの効果を有するものである(【0
066】【0067】)。
(2)記憶装置に関する相違点の看過について
審決は,本願発明の「記憶装置」は,その記憶するデータ内容や記憶構造を限定
しない「記憶装置」と捉えることができることから,引用発明の「主記憶装置」に
相当するとして一致点を認定した。
しかし,前記1(2)及び(3)ウで判示したとおり,本願発明の「記憶装置」は,シ
ステム内に含まれ,ファイル・システムを含む記憶装置であるところ(請求項1),
本願明細書の発明の詳細な説明に照らして,その技術的意義を理解すると,ハード・
ディスク等の不揮発性の大容量記憶手段であり,少なくとも揮発性のRAMはこれ
に含まれないものと解される。
これに対し,引用発明の「主記憶装置」は,「オペレーティングシステムおよびア
プリケーションプログラムをプログラム格納手段から読み出して一時的に記憶する
揮発性の主記憶装置」(【請求項1】)で,【発明の実施の形態】の図1の「RAM1
03」(【0037】)に相当するものであって,「RAM103はCPU101がプ
ログラムを実行するとき,必要なデータを一時的に記憶させる作業領域として使用
される揮発性の記憶装置であり,例えばDRAMからなる。」(【0038】)と記載
されており,ファイル・システムによって,プログラム等のファイルをフォルダや
ディレクトリを作成することにより管理したり,ファイルの移動や削除等の操作方
法を定めたりすることは記載されていない。
そうすると,本願発明の「記憶装置」と,引用発明の「主記憶装置」は相違する
ものであるから,両者を一致するとした審決の認定は誤りである。
そして,引用発明が,「プログラム起動時,起動時間を短縮できる演算装置および
演算装置を利用した電子回路装置を提供することを目的」(【0015】)とし,前回
終了時に,主記憶装置に記憶されているデータを不揮発性記憶装置に待避させ,演
算装置の再起動時に,当該データを主記憶装置に転送することによって,前回の電
源オフ時のオペレーティング・システム及びアプリケーション・プログラムの実行
状態を再現するものであることからすれば,引用発明における演算装置の再起動時
の不揮発性装置からのデータの転送先は,必ず主記憶装置でなければならず,引用
発明における揮発性の「主記憶装置」をファイル・システムを含む不揮発性の記憶
装置に置き換えることには阻害要因があるというべきである。
したがって,審決には,「記憶装置」に関して,本願発明は「ファイル・システム」
が含まれる不揮発性の記憶装置であるのに対し,引用発明は,揮発性の「主記憶装
置」であるという相違点を看過した誤りがあり,同相違点の看過は,容易想到性の
判断の結論を左右するものである。
(3)被告の主張について
被告は,請求項1を引用する請求項5には,揮発性か不揮発性か限定されていな
い「固形メモリ装置」(solidstatememory),すなわち,RAMのように揮発性だ
が高速な固形メモリ装置,及び,メモリカードのように不揮発性だが低速の固形メ
モリ装置の双方が含まれることが記載されているから,本願発明の「記憶装置」に
はあらゆる記憶装置が含まれる旨主張する。
しかし,そもそも本願明細書には,「固形メモリ装置」について,「RAMのよう
に揮発性だが高速な固形メモリ装置」が含まれるとの記載はないから,被告の主張
は理由がない。
また,被告は,同様に,同請求項5の「記憶装置」に,「低容量取り外し可能媒体
装置」が含まれているから,本願発明の「記憶装置」にはあらゆる記憶装置が含ま
れる旨主張するが,前記1(3)ウで判示したとおり,請求項1の「記憶装置」は,シ
ステム内に含まれ,ファイル・システムを含むものとして特定されているだけであ
って,そもそも,「低容量取り外し可能媒体装置」を排除するものではなく,同装置
が含まれるからといって,直ちに本願発明の「記憶装置」に揮発性の「主記憶装置」
が含まれることにはならないから,被告の主張は理由がない。
したがって,被告の主張には理由がない。
(4)以上のとおり,審決には,「記憶装置」に関して,本願発明は「ファイル・
システム」が含まれる不揮発性の「記憶装置」であるのに対し,引用発明は,揮発
性の「主記憶装置」であるという相違点を看過した誤りがあり,この相違点の看過
は,容易想到性の判断の結論を左右することは明らかであるから,その余の点につ
いて判断するまでもなく,取消事由2は理由がある。
第6結論
以上によれば,原告主張の取消事由1及び2は,いずれも理由があるから,その
余の点について判断するまでもなく,審決は取消しを免れない。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官設樂隆一
裁判官大寄麻代
裁判官平田晃史
(別紙)
本願明細書図面目録
【図2A】
【図3】
【図5A】
(別紙)
引用発明図面目録
【図1】
【図2】
【図3】
【図7】

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