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平成一〇年(ネ)第二九八三号 著作権使用料等請求控訴事件(平成一一年九月二日
口頭弁論終結。原審・東京地方裁判所平成七年(ワ)第五二七三号)
         判    決
          控  訴  人     【A】
          訴訟代理人弁護士    黒   田   泰   行
                      村   越       進
          被 控 訴 人     株式会社朝日新聞社
          代表者代表取締役    【B】
          訴訟代理人弁護士    内   藤       篤
                      清   水   浩   幸
                      小   林   康   恵
         主    文
    本件控訴を棄却する。
    控訴人の予備的請求を棄却する。
    当審の訴訟費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 一 控訴人の求めた裁判
「 1 原判決を取り消す。
 (主位的に原審からの請求として)
  2 被控訴人は控訴人に対し、一〇六〇万円及びこれに対する平成七年三月二
九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 (当審における予備的請求として)
  3 被控訴人は控訴人に対し、四五〇万円及びこれに対する平成一〇年九月二
三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。」
との判決並びに仮執行宣言。
 二 基礎事実 
 当事者に争いのない客観的な事実関係は次のとおりである。
  1 控訴人は、ブックデザインを専業とする者である。被控訴人は、日本有数
の全国日刊紙の発行者であり、これ以外にも多種類の出版物を刊行する総合出版社
であって、平成元年から年度版用語辞典「知恵蔵」を刊行している。
  2 控訴人は、昭和六三年八月から九月にかけて、被控訴人から、刊行を企画
していた年度版用語辞典のブックデザインの依頼を受け(口頭による。本件業務委
託契約)、被控訴人から刊行された一九九〇年(平成二年)版から一九九三年(平
成五年)版の知恵蔵のブックデザインを担当した。
  3 控訴人が受託した業務の内容には、レイアウト・フォーマット用紙の作成
と、それに基づく本文基本デザイン、扉などの個別紙面や別冊付録等のデザインと
装丁とが含まれていた。決定、採用されたレイアウト・フォーマット用紙と、それ
に基づく本文基本デザインは、組版コンピューターにプログラミングされた。
  4 その後、被控訴人は、右のレイアウト・フォーマット用紙とは別のレイア
ウト・フォーマット用紙(控訴人は、控訴人が作成したレイアウト・フォーマット
用紙とほとんど同一のものと主張している。)を使用して割付けをした一九九四年
版及び一九九五年版知恵蔵を出版した。
 三 編集著作権に基づく控訴人の主位的請求原因(原審からの請求の原因)
  1 当事者
 原判決三頁八行目から四頁九行目までに示されているとおりである。
  2 知恵蔵の製作に関する控訴人の創作活動
  (一) ブックデザイナーは、本の装丁(書体の選定・大きさや装画の趣きと配
置によってカバー・表紙等の外形を整える)ばかりではなく、本文全体を対象に活
字の組みや図版と余白の配置、目次の姿等を統一的に構成し、更には用紙の選択、
印刷方式や製本の方式の提案等を行い、出版物の創作過程に編集者が保有していな
い独自の視角から編集作業と不可分かつ総合的に関わり、出版社と対等・独立した
職業となっているが、控訴人は、編集著作物たる知恵蔵の紙面、「かたち」を決定
している要素・素材につき、創作的な選択及び配列を行った。
  (二) 編集著作物たる知恵蔵の紙面、「かたち」を決定している要素・素材
は、次のとおりである。
   Ⅰ 記事
    ① 分野見出し
    ② 本文
     ⅰ 新語話題語
     ⅱ 用語
     ⅲ ニュートレンド
    ③ F情報
   Ⅱ 図表、写真
   Ⅲ 柱、ノンブル、ツメ
  (三) 控訴人は、素材ないし素材の「かたち」を決定づける基礎的な要素であ
る「文字」「罫」「約物」を選択し決定した。その詳細は、原判決別紙Ⅰ「控訴人
の関与態様一覧」一項記載のとおりである。
  (四) 控訴人は右(三)で述べた各素材を、原判決別紙Ⅰ「控訴人の関与態様一
覧」二項記載のとおり創作的に配列し、編集著作物たる知恵蔵を作成した。
  (五) 素材の配列における控訴人の創造性の核心的な部分は、四段組み・一行
一八字のAパターン及び五段組み・一行一四字のBパターンの創作、決定とその配
列に存する。その詳細は、原判決九頁一行目から二〇頁一行目までに示されている
とおりである(そこで「本件知恵蔵」とあるのは、被控訴人刊行の知恵蔵のうち、
控訴人が関与した知恵蔵を意味する。)。
  3 控訴人の編集著作権の準共有
  (一) 著作権法一二条一項は、「編集物でその素材の選択又は配列によって創
作性を有するものは、著作物として保護する。」と規定する。知恵蔵のような用語
辞典の場合、書き方、見出し、レイアウト等、紙面上で利用者の読みやすさを獲得
するための技術が駆使され、そのためには素材を収集し、分類し、選別し、配列す
るという一連の知的創作行為が必要となる。著作権法は、素材については何も限定
を付しておらず、編集可能なものであれば編集著作物の対象となっていいはずであ
る。そして、前記2で述べた素材の選択及び配列は、すべて控訴人の知的創造活動
によるものであり、その結果として作成された知恵蔵(の各紙面)は、控訴人の創
作に係る編集著作物として保護されるべきである。
  (二) 本件レイアウト・フォーマット用紙(原判決九頁一〇行目並びに原判決
別紙「レイアウト・フォーマット用紙A」及び同「レイアウト・フォーマット用紙
B」参照)に基づく控訴人関与の知恵蔵の紙面の割付け方針は、控訴人の独占的な
編集著作物であり、仮に被控訴人も編集著作権を有するものとしても、控訴人と被
控訴人の共有に属するものである。そして、その持分割合は、創作過程における控
訴人の寄与の方が圧倒的に大きいが、仮に持分割合が特定できない場合には、双方
各二分の一の持分割合となる(民法二五〇条)。
  4 本件レイアウト・フォーマット用紙の著作権
  (一) 基本主張
 レイアウト・フォーマット用紙は、編集著作物たる知恵蔵の作成に不可欠であ
る。そして、控訴人関与の知恵蔵の作成が全面的に本件レイアウト・フォーマット
用紙に依拠し、本件レイアウト・フォーマット用紙自体が、控訴人の多年にわたる
ブックデザイン及びこれに付随する広範な業務から獲得した技術的知見を反映した
ものであること、控訴人のブックデザインに関する豊かな思想を知恵蔵に適合させ
るべく創造的に表現したものであることからすれば、本件レイアウト・フォーマッ
ト用紙は当然に学術的要素を有する。
 また、本件レイアウト・フォーマット用紙は、文字や図形をもって埋められるこ
とを予定する一定の大きさの四角形や直線によって区画されており、右の四角形の
大きさや数及び位置、直線の位置や到達点、余白の配置等の点で、これを作成した
控訴人の個性、学識、経験等の独創性が表出している。
 よって、本件レイアウト・フォーマット用紙は図形著作物に該当し、その著作権
は控訴人に帰属する。
  (二) 当審での主張補充
   (1) レイアウト、ブックデザインも精神活動による創作物であり、創作活動
を促進することを目的として著作物の創作的表現に保護を与え、文化の振興を図ろ
うとする著作権法の立法趣旨からして保護されるに値する著作物である。
 著作権法では編集著作物を著作物の例示から外し、二次的著作物の次の位置の条
文に規定している。すなわち、編集著作物は、既存物を集める(選択、配置、配
列)ことによってできる著作物であるところから、著作権法上も二次的著作物を含
み二次的著作物よりも広い概念である。
 著作権は本来著作物の表現を保護するものであるが、これは外面的な表現に限ら
れず内部的な組成方法についても、そこに独創怯があれば表現の形式として保護さ
れる。確かにアイデアそのものは著作権では保護されない。しかし、そのアイデア
が詳しく記述され表現された場合にはアイデアを表現した文章、ノート、図面など
について著作権の保護が認められる。換言すれば保護が受けられるのは表現の形式
であり、アイデアそのものではないとされる。
   (2) ところで、文学作品や芸術作品においては、著作物が創製されるに至る
過程におけるアイデア、表現の形式及び最終的表現という三つの要素はいずれも著
者を起源とする。一方、アイデアは万人の利用に供するために敢えて公有にゆだね
られている。他方、文学、芸術作品と異なり、事実の収集及びその言語・画像によ
る表現を目的とする作品群が存在する。例えば地図、ニュース、歴史的記述、名簿
などがこれに当たるが、これらの作品における著作者固有の貢献はこれらの事実を
収集し、言語又は視覚的イメージによって表現し、他人に了解可能とするところに
ある。
 知恵蔵はその後者、すなわち事実に密接に関連する用語を収集するところの年度
版用語辞典であり、その内容が他人に了解可能であることこそが最大の重要要素で
ある。
 年度版用語辞典といった種類の出版物では、用語の取捨選択の点では類書と大差
は生じにくいものと考えられ、辞典として検索の便や利用度の高い用語の記事に注
目を集めやすい構成や配置・配列に工夫することが類書との差別化をもたらし、利
用者の便益に資する上で相対的に高い価値を持つ。
 もちろん、これらの工夫は、取捨選択された用語やこれについての解説である記
事を真に有用ならしめるための手段として働くから、言ってみれば主役は記事であ
ってレイアウトやブックデザインは従たる地位にある。しかし、著作物や創作物を
構成する要素に主従の比重の差はあったとしても、それがゆえに、法の保護する対
象が主役である記事のみに限られ従者であるレイアウトやブックデザインに保護は
与えられないということにはならない。
   (3) 出版物の中でも、ブックデザインとかレイアウトというものが広く権利
として保護されたのでは、侵害、抵触が起きやすくなりかえって文化の発展を阻害
するという考慮も働く。確かに写真集のレイアウトなどは例えば被写体である風景
の内容を度外視した場合、限られた数の種類しか存在し得なくてその工夫は出尽く
しやすく、これらを権利として保護したのでは、出版に制約が多すぎるとも考えら
れる。また、文庫本のレイアウトなどは判型が小型で紙面に余地が乏しく創造性を
認めがたいとも考えられる。だが、これらに比較すると、用語辞典では素材として
の記事を順に羅列しただけでは紙面に魅力が乏しく、利用者を引きつけないからレ
イアウトによる視覚効果が重要な意味を持ち、創作物としての価値を認めやすいと
いえる。控訴人が保護を求めているものは、年度版用語辞典としてのブックデザイ
ンである。
   (4) アイデアは保護せず、表現されたときに表現された物を保護するといわ
れるが、アイデアには価値がないからではなく、アイデアを保護するのでは、例え
ば「時事用語集」というアイデアを保護すると類書はすべて侵害となる弊害が生ず
るからである。そして表現を保護するとはいうものの表現されたアイデアを保護す
るのであるから、事の実質はアイデアを保護しているといえる。だから、「アイデ
ア」の語をマジックワードとして、レイアウトやブックデザインはアイデアだから
保護法益たり得ないとするのは誤っている。
 コンピューターにレイアウトについての方針や情報を与え指示するものがレイア
ウト・フォーマットである。原稿や写真・図版等が存在する前に既にレイアウトの
方針が決定されており、これがコンピューターと連動し、原稿等は後からその器の
中にその容量に合わせて流し込まれるということになる。レイアウトフォーマット
という見えない容器の形をコンピューターに記憶させ、そこにテキストを流し込
み、写真・図版等の枠を配置し、頁を発生させるものであり、これが控訴人の創作
した「先割り」である。レイアウト・フォーマットは、さまざまな階層の器が重な
り、かつ、それらの器の関係をルール化したものであり、最終的紙面に直結する表
現の形式である。各頁の条件(タイトル、図版や写真の有無、その点数、注の文章
量、新語と基本語が切り替わる頁なのかどうかなど)を集約しつつ、各項目の優先
順位とスペースの配分の約束事の複雑な選択肢を経て、バラバラに存在した各頁の
条件は、頁の姿となって現出することになる。
   (5) 著作物創製に係るアイデア、表現の形式及び最終的表現という三要素を
被控訴人が独占しているものではない。編集著作物にあっても、素材の選択、配
置、配列の創作法が外部に表現されていること、第三者が認識、感知できることが
編集著作物として成立するには必要であり、編集方針が決定されても編集者の頭の
中にとどまっている段階では、編集著作物ではない。知恵蔵の年度版用語辞典とし
ての表現の形式(これは最終的表現に直結する)の重要な側面であるレイアウト・
フォーマットは被控訴人から独立したブックデザイナー固有の知的創作物である。
被控訴人は、自らが「後割り」で構想していた出版物を控訴人が提案した「先割
り」で創刊一号を現実化し、続けて創刊二号、同三号、同四号と連続して「先割
り」で行ってきた。控訴人が関与しなくなった創刊五号以後今日まで実に六年もの
間、控訴人の創作した「先割り」を控訴人の承諾もなければ対価の支払も行わずに
使い続けている。
 被控訴人が創刊五号以後も、六年間にわたって同一のブックデザインの知恵蔵を
出版し続けることができるのも、控訴人の創作したレイアウトフォーマットが存在
するからなのである。
  5 被控訴人の行為
  (一) 被控訴人は、その持分割合に応じてしか、あるいは控訴人との協議に基
づいてしか、この編集著作物を使用収益(利用)することができないにもかかわら
ず、控訴人にブックデザインを依頼することがなくなった一九九四年(平成六年)
版及び一九九五年(平成七年)版の知恵蔵において、本件レイアウト・フォーマッ
ト用紙とほとんど同一のレイアウト・フォーマット用紙を使用してこれを出版し
た。
  (二) 控訴人関与の知恵蔵と控訴人が関与しなくなった知恵蔵との同一ないし
共通部分は、原判決別紙Ⅱ「共通部分対比表」の控訴人の主張欄のとおりである。
これにより、被控訴人は、控訴人による素材の選択・配列の創作性を再製している
ことが明らかである。
  (三) また、被控訴人が用いたレイアウト・フォーマット用紙は、本件レイア
ウト・フォーマット用紙を複製したものである。
  6 利得償還請求
 控訴人は、被控訴人から、控訴人関与の知恵蔵のブックデザインによって四年間
で合計一一二〇万円を受領した。したがって、控訴人は、一九九三年版と一九九四
年版の知恵蔵の出版につき、少なくとも年間二八〇万円、二年分で合計五六〇万円
の利得償還請求債権を有する。
  7 損害賠償請求
 被控訴人は、本件レイアウト・フォーマット用紙とこれに基づく方針を控訴人の
承認なく改ざん・変更して一九九四年版及び一九九五年版の知恵蔵に使用収益(利
用)した。これにより、控訴人が構想した思想は、原判決二五頁二行目から三〇頁
三行目までに示されているとおり分断された。控訴人は著しい精神的苦痛を蒙った
から、控訴人は被控訴人に対し、少なくとも五〇〇万円の損害賠償請求権を有す
る。
 四 当審で追加された控訴人の予備的請求の原因
  1 本件業務委託契約の存続期間
 本件業務委託契約の期間は、①被控訴人の知恵蔵創刊当時の担当者であった
【C】編集長が「一〇年かけて『知恵蔵』を育てるのでよろしく頼む」旨控訴人に
述べたこと、②継続性が要求される年度版用語辞典である知恵蔵の性格、③被控訴
人は、長期間の継続使用に耐え得るレイアウト・フォーマット用紙を依頼したこ
と、④本件レイアウト・フォーマット用紙とそれに基づく本文基本デザインが組版
コンピューターにプログラミングされたこと、などから当然長期にわたるものとし
て合意されていた。したがって、本件業務委託契約は、知恵蔵の一九九一年版以降
についても当然のこととして継続したものである。
 本件業務委託契約においては、本件レイアウト・フォーマット用紙を買切りとは
せず、被控訴人がこれを使用する限り、対価を支払うものと合意された。その後、
平成二年から四年までの間、毎年二月に各年度の知恵蔵の業務委託契約が締結さ
れ、控訴人は、各年度ごとに装丁や扉、本文などの個別紙面や別冊付録のブックデ
ザイン作業を行った。
  2 対価額
 本件業務委託契約は有償契約であるが、控訴人は被控訴人から、その対価とし
て、一九八九年(平成元年)から一九九二年(平成四年)までの間、毎年合計三〇
〇万円あての支払を受けた。そのうち、各年の装丁料金四〇万円と扉などの個別紙
面や別冊付録のデザイン料金三五万円を差し引いた二二五万円が、控訴人作成の本
件レイアウト・フォーマット用紙と本文の基本デザインの年額使用料である。
 少なくとも、本件業務委託契約は商人間の契約なので、請負人である控訴人は、
商法五一二条に基づき相当額の報酬を受ける権利がある。
  3 一九九四年版及び一九九五年版知恵蔵の使用料
 被控訴人は、一九九四年版及び一九九五年版の知恵蔵においても、控訴人作成の
本件レイアウト・フォーマット用紙と本文基本デザインを使用したので、被控訴人
は控訴人に対し、この両年版についても、本件業務委託契約に基づき、使用料二二
五万円(各年)を支払う義務がある。
 五 控訴人の請求のまとめ
 よって、控訴人は、被控訴人に対し、次のとおりの給付を求める。
  1(主位的に)
 編集著作権の準共有持分権に基づく利得償還請求として五六〇万円及び不法行為
に基づく精神的損害賠償請求として五〇〇万円、並びにこれらに対する一九九五年
版知恵蔵が出版された平成六年一一月一日から後の日であり訴状送達の日の翌日で
ある平成七年三月二九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払。
  2(予備的に)
 本件業務委託契約に基づく使用料請求として四五〇万円及びこれに対する予備的
請求の準備書面を陳述した日の翌日である平成一〇年九月二三日から支払済みまで
年六分の割合による遅延損害金の支払。
 六 請求原因に対する被控訴人の認否、反論
  1 編集著作権に基づく控訴人の請求原因について
 被控訴人は、編集著作権に基づく請求原因に対して、骨子次のとおり付加して反
論したほか、原判決三〇頁末行から四三頁三行目までに示されているとおり認否、
反論した。
 フォーマット、紙面上のレイアウトなどにまで控訴人が主張するように著作権法
上の保護を及ぼすとするならば、他の創作行為の成立する範囲を不必要に狭いもの
とし、創作行為を行おうとする者の創作意欲を著しく減退させてしまう結果を招来
させる。著作権法は、具体的な表現を保護するにとどめ、アイデアの模倣を規制の
対象外とすることによって、権利者の保護を図りつつも、他者の自由な創作活動を
不当に制約することがないよう配慮して「文化の発展に寄与する」ことを目指して
いるのである(一条)。控訴人の主張は、権利者の保護を強調する余り、他者の表
現行為を過度に制限する結果を容認し、ひいては「文化の発展」を阻害するもので
あって、著作権法上到底認めることができない。
 要するに、レイアウト・フォーマット用紙に著作物性は認められないし、本件で
は、控訴人の編集著作権は成立しない。仮に控訴人が主張するように著作物性や編
集著作権が認められるとしても、被控訴人による著作権侵害の事実はないことも原
審から主張してきたとおりである。
  2 当審で追加された控訴人の請求原因について
  (一) 本件業務委託契約が、一九九四年版以降の知恵蔵に関しても存続してい
ることは否認する。
 一九九四年版、一九九五年版の知恵蔵において使用したレイアウト・フォーマッ
ト用紙は、被控訴人が別のデザイナーに依頼して、控訴人作成の本件レイアウト・
フォーマット用紙とは別個独立に新たに作成させたものである。したがって、これ
について被控訴人が控訴人に対して、使用の対価を支払わなければならない法的根
拠はない。
  (二) 被控訴人が控訴人に対し、控訴人主張の本件業務委託契約の対価を支払
った事実は認める。ただし、平成三年に支払ったのは三〇〇万円ではなく二二〇万
円である。
 ブックデザインを委託した被控訴人としては、デザイナー側の実際の作業量を計
るのは困難であり、知恵蔵の当該年度におけるブックデザインを推考したという結
果に対する報酬として金銭を支払ったものである。前年度のデザインとほぼ変える
ことなく、実際の作業量が著しく少ない場合も、様々な試行錯誤の末結果的に前年
度とほぼ同様のデザインとなったが作業量としては前年度と変わらない場合も、あ
るいは、デザインを一新して多大な作業量を要した場合も、当該年度のブックデザ
インという成果に対する対価としての支払がされたものである。定価一冊二〇六〇
円の知恵蔵に掛けられる制作経費中、ブックデザインに対して支払可能な金額にデ
ザイナー各人のおおよその相場感を勘案して呈示したのが、三〇〇万円という金額
であったにすぎず、控訴人作成の本件レイアウト・フォーマット用紙と本文基本デ
ザインの使用料として支払ったのではない。
 被控訴人が控訴人に委託したのは、知恵蔵本文のレイアウトについての基本的な
コンセプトないしルールの策定とでもいうべきものであり、個々の紙面における具
体的なレイアウト、デザインは被控訴人の側で行うものとされていた。控訴人は、
業務委託の内容を、レイアウト・フォーマット用紙の作成と、それに基づく本文基
本デザイン、扉などの個別紙面や別冊付録等のデザインと装丁とに分けるが、被控
訴人は、このように業務委託内容を分けて依頼していない。
         理    由
 一 前提事実の認定
 本件業務委託契約締結の際、控訴人が示された知恵蔵の骨格の内容及び一九九〇
年版から一九九三年版までの知恵蔵の紙面内容等は、原判決四三頁八行目から四七
頁四行目までに認定されているとおりである(ただし、四四頁七行目、四五頁五行
目、六行目の「爛」は「欄」の誤記)。
 二 編集著作権に基づく請求について
  1 著作権法にいう著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものである
が、控訴人が知恵蔵の素材であると主張する柱、ノンブル、ツメの態様、分野の見
出し、項目、解説本文等に使用された文字の大きさ、書体、使用された罫、約物の
形状などが配置される本件レイアウト・フォーマット用紙及び控訴人が知恵蔵の素
材であると主張する柱、ノンブル、ツメの態様、分野の見出し、項目、解説本文等
に使用された文字の大きさ、書体、使用された罫、約物の形状は、編集著作物であ
る知恵蔵の編集過程における紙面の割付け方針を示すものであって、それが知恵蔵
の編集過程を離れて独自の創作性を有し独自の表現をもたらすものと認めるべき特
段の事情のない限り、それ自体に独立して著作物性を認めることはできない。控訴
人の主位的請求原因が、一九九四年版と一九九五年版の知恵蔵に使用されたレイア
ウト・フォーマット用紙は控訴人が制作を担当した本件レイアウト・フォーマット
用紙の複製であることを前提とするものである以上、控訴人の主張も、本件レイア
ウト・フォーマット用紙が、そのまま知恵蔵以外の他の書籍、特に被控訴人以外の
出版社刊行の書籍に使用されるものであることを前提にしているものでないことは
明らかである。
(注)「柱」とは、版面の周辺の余白に印刷した見出しを意味する。
  「ノンブル」とは、頁数を示す数字を意味する。
  「ツメ」とは、検索の便宜のために辞書等の小口に印刷する一定の記号等を意
味する。
  「約物」とは、文字や数字以外の各種の記号活字の総称を意味する。
 控訴人は、本件レイアウト・フォーマット用紙は被控訴人から独立したブックデ
ザイナー固有の知的創作物である旨主張する。しかし、年度版用語辞典である知恵
蔵のような編集著作物の刊行までの間には、その前後は別として、企画、原稿作
成、割付けなどの作業が複合的に積み重ねられることは顕著な事実であるところ、
本件における前記一認定の前提事実に照らすと、本件レイアウト・フォーマット用
紙の作成も、控訴人の知的活動の結果であるということはいえても、それは、知恵
蔵の刊行までの間の編集過程において示された編集あるいは割付け作業のアイデア
が視覚化された段階のものにとどまり、そこに、選択され配列された分野別の「ニ
ュートレンド」、「新語話題語」、「用語」等の解説記事や図表・写真を中心とす
る編集著作物である知恵蔵とは別に、本件レイアウト・フォーマット用紙自体に著
作権法上保護されるべき独立の著作権が成立するものと認めることはできない。
  2 したがって、控訴人が本件レイアウト・フォーマット用紙の著作権を有す
ることを前提に、本件レイアウト・フォーマット用紙に基づく知恵蔵の紙面の割付
け方針が控訴人の編集著作物ないし控訴人と被控訴人との共有著作物であるとする
控訴人の主張は理由がなく、これを前提とする主位的請求(利得償還請求及び損害
賠償請求)も理由がなく、これらの請求を棄却した原判決は相当である。
 三 予備的請求について
  1 予備的請求は、控訴人と被控訴人との間で本件業務委託契約が長期間にわ
たるものであると合意されていたことを前提にし、一九九四年版及び一九九五年版
知恵蔵についても控訴人制作担当の本件レイアウト・フォーマット用紙及び本文基
本デザインが使用されたので、両年版の知恵蔵出版の対価が控訴人に支払われるべ
きであるとするものである。
 しかしながら、本件業務委託が、控訴人主張のように期間が限定されないで長期
間にわたるものとして締結され、一九九四年版及び一九九五年版の知恵蔵の編集に
まで当然に及ぶものとして合意されたことを認めるべき契約書などの客観的な証拠
はなく、甲第四五号証(陳述書)及び当審における控訴人本人尋問の結果によって
も、これを認めるに足りない。
  2 控訴人は、①被控訴人の当時の担当者であった【C】編集長が「一〇年か
けて『知恵蔵』を育てるのでよろしく頼む」旨控訴人に述べたこと、②継続性が要
求されている知恵蔵の性格、③被控訴人は、長期間の継続使用に耐え得るレイアウ
ト・フォーマット用紙を依頼したこと、④本件レイアウト・フォーマット用紙とそ
れに基づく本文基本デザインが組版コンピューターにプログラミングされたことを
もって、本件業務委託契約は、一九九四年版及び一九九五年版のものにも当然に及
ぶと主張するが、次に説示するとおり、これら主張の各点によっても、本件業務委
託契約が期間が限定されないで長期間にわたるものとして締結されたものと認める
ことはできない。
 ①の点については、仮にこの趣旨の話しかけが当時の被控訴人の編集長から伝え
られたとしても、そこから知恵蔵にかける並々ならぬ決意を示すとともに控訴人に
対し協力方を要請して本件業務を委託したことが推認されるが、これをもって、被
控訴人から本件業務委託契約の存続期間が具体的に例えば一〇年間とする旨提示さ
れたものと認めることはできない。また、②ないし④の点も、年度版用語辞典であ
る知恵蔵について控訴人が制作担当した本件レイアウト・フォーマット用紙を使用
することが、ある程度の期間継続するものと暗黙のうちに当事者間の念頭に置かれ
ていたものと推測させる事情であるということはできるものの、そこで推測される
期間が具体的なものとして想定されていたということはできない。控訴人制作の本
件レイアウト・フォーマット用紙は、毎年の当事者間の話合いにより、結果的には
一九九〇年版から一九九三年版までの四年間にわたり使用されてきたものである
が、②ないし④の点は、この期間を超える範囲にまで本件業務委託契約が当然に存
続すべきものと認めるべき事情とすることはできない。
 なお、甲第一八ないし第二〇号証及び第二三号証によれば、被控訴人は、一九九
四年版の知恵蔵についても控訴人が制作担当した本件レイアウト・フォーマット用
紙を使用したいと考えていたことが認められるが、控訴人の意向によりこれは実現
しなかったものであり(甲第二一号証の一、二及び弁論の全趣旨)、この間の経緯
は、むしろ、各年度の知恵蔵の編集のたびに、レイアウト・フォーマット用紙の選
定について、控訴人と被控訴人との間で話合いが行われるべきものと了解されてい
たことを推測させるものである。
  3 他に、本件業務委託が、一九九四年版及び一九九五年版の知恵蔵の編集に
まで及ぶものとして合意されたことを認めるべき証拠はない。したがって、その余
の点について判断するまでもなく、予備的請求原因に基づく控訴人の請求も理由が
ない。
 四 結論
 よって、主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第一八民事部
         裁判長裁判官    永   井   紀   昭
            裁判官    塩   月   秀   平
            裁判官    市   川   正   巳

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