弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人Aを懲役一年及び罰金拾万円に処する。
     被告人Bを懲役十月及び罰金五万円に処する。
     但し被告人Bに対しては本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶
予する。
     被告人等において右罰金を完納できないときは金千円を一日に換算した
期間当該被告人を労役場に留置する。
         理    由
 被告人Aの弁護人桃井・次及び被告人Bの弁護人有吉実の各上告趣意は末尾添付
の別紙書面に記載の通りである。
 被告人Aの弁護人桃井・次の上告趣意第一点について。
 物価統制令第四条に基き価格等の統制額を指定した告示が廃止され統制額が存在
しなくなつても「刑の廃止」にはあたらず右告示の有効当時に右告示指定の統制額
を超えて物価統制令第三条に違反する行為をしたときは、右告示が廃止され統制額
が存在しなくなつても物価統制令違反の罪として罰すべきものであることは当裁判
所の判例とするところである。従つて被告人の本件犯行後において所論告示が廃止
され統制額が存しなくなつたことは所論のとおりであるとしても被告人の本件行為
に所論告示を適用し之を物価統制令第三条違反の罪に問擬した原判決は正当であつ
て所論のような違法はない(昭和二三年第八〇〇号同二五年一〇月一一日大法廷判
決参照)。
 同第二点について。
 論旨は営利の観念は専ら事業経営において収益を挙げることを指称するもので一
般人が単に利益を図つてなす契約はこれと区別して解すべきであるから物価統制令
にいう「営利を目的として」された行為とならないと主張するが物価統制令に所謂
「営利を目的として契約を為す」とは利益を得る目的を以て為されたことを意味す
ると解せられ必ずしも事業経営として収益を図るため為す場合でなければならない
ということはできない。論旨は採用することはできない。
 同第三点及び被告人Bの弁護人有吉実の上告趣意第一点について。
 しかし原判決挙示の各証拠を綜合すれば原判決が認定した事実殊に被告人等が共
謀の上本件犯行を敢行した事実を認めることができる。なお共謀による共犯者の分
担した行為を一々明示することは必ずしも必要ではなく所論は要するに原審の採用
しない証拠を根拠として証拠の取捨選択を争い乃至は事実認定を非難するので論旨
はいずれも採用できない。
 被告人Bの弁護人有吉実の上告趣意第二点について。
 原判決はその認定した事実につき論旨指摘のような法令の適用を示している。し
かし原審の認定した事実は統制額超過売買契約による物価統制令違反の事実である
から、これに対して物価統制令三五条を適用しているのは法令の適用を誤つたもの
といわなければならない。従つて論旨はこの点に於て理由がある。そこで原判決中
被告人Bの部分は破棄を免れないが、右破棄の事由は上告をした共同被告人Aに共
通であるから旧刑事訴訟法四五一条に則り同被告人の為にも原判決を破棄し、同法
四四七条、四四八条により更に判決すべきものであるが、原判決の確定した事実に
法令を適用すると、被告人等の判示所為は各物価統制令四条、昭和二二年一〇月一
五日物価庁告示第八七二号、同令三条、三三条刑法六〇条に該るが情状により同令
三六条を適用して各被告人に対し懲役刑及び罰金刑を併科すべきところ、右罰金刑
については罰金等臨時措置法により本件犯行後に刑の変更があつたけれども刑法六
条、一〇条により軽い行為時法の刑に従い、その所定刑期、並に金額の範囲内で被
告人Aを懲役一年及び罰金拾万円に、被告人Bを懲役十月及び罰金五万円に処し、
なお被告人Bに対して情状により同法二五条を適用して本裁判確定の日から三年間
右懲役刑の執行を猶予することにし、被告人等において右罰金を完納できないとき
は同法一八条により金千円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置すべき
ものとする。
 この裁判は裁判官井上登の、弁護人桃井銈次の論旨第一点に関する少数意見を除
き裁判官全員一致の意見で、裁判官井上登の右少数意見は昭和二三年(れ)第八〇
〇号同二五年一〇月一一日大法廷判決記載の通りである。
 仍つて主文のように判決する。
 検察官 岡本梅次郎関与
  昭和二五年一二月五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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