弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人田原勉の上告理由について
 一 本件は、第一審判決添付物件目録記載の土地建物(以下「本件土地建物」な
どという。)についての抵当権者である被上告人が、本件建物について賃貸借契約
を締結した上告人らに対し、右賃貸借は被上告人に損害を及ぼすと主張して、民法
三九五条ただし書によりその解除を求めるものであり、原審は、被上告人の請求を
認容すべきものとした。原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 被上告人は、昭和六二年一一月二八日、上告人株式会社A1通商に対し、二
億円を、翌月から同八七年一〇月まで毎月二七日に約定の元利金を分割弁済するこ
と及び約定の元利金の支払を一回でも遅滞したときは当然に期限の利益を失うこと
等を約して貸し付け、同上告人所有の本件土地建物について右貸金債権を被担保債
権とする抵当権の設定を受け、同六二年一一月三〇日に右抵当権の設定登記をした。
 2 同上告人は、平成四年四月二七日、約定の元利金の支払を遅滞したため期限
の利益を喪失し、被上告人に対する残元金一億八七四四万九六六八円及びこれに対
する同月二八日から支払済みまで約定の年一九・二パーセントの割合による遅延損
害金の支払債務につき履行遅滞に陥った。
 3 同上告人は、同年六月一二日、上告人株式会社A2地所に対して、本件建物
を、期間三年(同七年六月一一日まで)、賃料月額七二万円、保証金二〇〇〇万円
と定めて貸し渡した(以下「本件短期賃貸借」という。)。
 4 被上告人は、同四年一二月二四日、本件訴訟を提起した。また、被上告人は、
同五年一月、本件土地建物について抵当権の実行としての競売を申し立て、これに
基づいて競売開始決定がされ、本件土地建物について差押えの効力が生じた。
 5 被上告人は、その後、本件短期賃貸借の賃料債権について本件抵当権に基づ
く物上代位により差押命令の申立てをして、これにより差押命令が発せられたが、
三年分の賃料債権の全額(二五九二万円)が右差押え前に上告人A1通商からDに
譲渡されたと主張され、賃料の支払を受けることができなかった。
 6 本件短期賃貸借は、通常よりも、賃料が一箇月当たり約二五万円低額であり、
保証金が解約時の償却分も考慮すると約七〇〇万円高額である。本件短期賃貸借が
存在しないとした場合における原審口頭弁論終結時の本件土地建物の価額は、被上
告人の有する被担保債権の額を下回る一億五四〇〇万円にすぎないところ、本件短
期賃貸借が存在することにより本件建物の価値は更に低下する。
 二 原審は、右事実関係の下において、次のとおり判断した。
 1 民法三九五条ただし書による短期賃貸借の解除は、抵当権に基づく物上代位
による賃料債権の差押えが不能になるなどの理由によって抵当権者が直接的に損害
を被る場合、又は、当該短期賃貸借の内容(賃料の額又は前払の有無、敷金の有無、
その額等)が通常の短期賃貸借の内容と比較すると抵当不動産の買受人にとって不
利益なものであるため、抵当不動産の価額の減少を招き、これにより抵当権者が間
接的に損害を被る場合に認められるのであって、短期賃借権の設定それ自体により
抵当不動産の価額が低下することから直ちに抵当権者の賃貸借解除請求が許される
ものではない。
 2 被上告人は、本件抵当権に基づく物上代位により本件短期賃貸借の賃料債権
について差押命令の申立てをしたが、賃料の支払を受けることができなかったから、
本件短期賃貸借は、抵当権者に直接的に損害を及ぼす。
 3 本件短期賃貸借の内容は、通常よりも買受人に不利益であり、本件短期賃貸
借が存在しないとした場合の本件土地建物の価額は被上告人の有する被担保債権額
を下回る一億五四〇〇万円であって、本件短期賃貸借が存在することにより本件建
物の価値は更に低下するから、本件短期賃貸借は、抵当権者に間接的にも損害を及
ぼす。
 三 しかしながら、民法三九五条ただし書にいう抵当権者に損害を及ぼすときと
は、原則として、抵当権者からの解除請求訴訟の事実審口頭弁論終結時において、
抵当不動産の競売による売却価額が同条本文の短期賃貸借の存在により下落し、こ
れに伴い抵当権者が履行遅滞の状態にある被担保債権の弁済として受ける配当等の
額が減少するときをいうのであって、右賃貸借の内容が賃料低廉、賃料前払、敷金
高額等の事由により通常よりも買受人に不利益なものである場合又は抵当権者が物
上代位により賃料を被担保債権の弁済に充てることができない場合に限るものでは
ないというべきである。けだし、短期賃貸借の存在により抵当権者が被担保債権の
弁済として受ける配当等の額が減少する場合には、右賃貸借の内容が通常よりも買
受人に不利益であるか否かを問わず、原則としてこれを解除すべきものとするのが
民法三九五条の趣旨であると考えられ、また、短期賃貸借が存在しない場合には抵
当権者が物上代位により被担保債権の弁済に充てるべき賃料がもともと存在しない
のであるから、抵当権者は、短期賃貸借の賃料を被担保債権の弁済に充てることが
できないとしても、右賃貸借が存在しない場合よりも不利益な地位に置かれるもの
ではないからである。
 四 なお、解除請求の対象である短期賃貸借の期間が抵当権の実行としての競売
による差押えの効力が生じた後に満了したため、その更新を抵当権者に対抗するこ
とができなくなった場合であっても、短期賃貸借解除請求訴訟の事実審口頭弁論終
結時において右賃貸借の存在により抵当不動産の競売における売却価額が下落し、
これに伴い抵当権者が被担保債権の弁済として受ける配当等の額が減少するもので
ある限りは、抵当権設定者による抵当不動産の利用を合理的な限度においてのみ許
容するという民法三九五条の趣旨にかんがみ、裁判所は、右賃貸借の解除を命じる
べきである。そして、このことは、差押えの効力発生後の右賃貸借の期間満了が右
訴訟の事実審口頭弁論終結の前後いずれに生じたかを問わず、当てはまるものとい
うべきである。
 五 以上に基づき本件について検討するに、原審の適法に確定した事実関係によ
れば、原審口頭弁論終結時において本件短期賃貸借の存在により本件土地建物の競
売における売却価額が下落し、これに伴い抵当権者である被上告人が被担保債権の
弁済として受ける配当等の額が減少するということができるから、本件短期賃貸借
は、抵当権者に損害を及ぼすものというべきである。また、本件短期賃貸借は、本
件建物について差押えの効力が生じた後の平成七年六月一一日(本件上告の提起後
であり、原裁判所から当裁判所への事件送付前である。)に期間が満了したため、
その更新を抵当権者である被上告人に対抗することができなくなったものであるが、
右の事情は、本件解除請求を妨げる事由に当たらないものというべきである。
 六 以上によれば、被上告人の本件短期賃貸借解除請求を認容すべきものとした
原判決の結論は正当である。論旨は、原判決の結論に影響しない点をとらえてその
違法をいうか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用する
ことができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    福   田       博

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