弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人森田重次郎の上告趣意第一点について。
 麻薬取締法三条一項但書には「但しこの法律の規定により麻薬を麻薬施用者から
施用のため交付を受け又は麻薬小売業者若しくは家庭麻薬小売業者から譲り受け若
しくは譲り受けた者がその麻薬を所持することはこの限りではない」と規定してあ
るから、この但書の適用のある場合は麻薬取締法の規定によつて麻薬の交付を受け、
又は譲り受けた者がこれを所持する場合に限られることは明かである。それゆえ麻
薬取締法施行数年前にその子女の病気に施用するため入手した麻薬であつても、同
法施行後の所持については右但書の規定はその適用がないものと解すべきである。
然らば被告人が所論麻薬を入手し所持する事実関係が仮りに所論のとおりであると
しても、右但書の規定を適用すべき場合に該当しないから、原判決には所論のよう
な違法なく、論旨は理由がない。
 同第二点について。
 原判決の認定した麻薬所持の事実は麻薬取締法施行後の事実であるから、その違
法であるか否かは同法の規定に照してこれを判断すべきであること勿論である。而
して同法の規定は同法施行前の合法的麻薬所持であつても同法施行後の所持につい
ては同法所定の許容規定に当らない限りこれを違法とする趣旨と解すべきであるか
ら、原判決には所論のような擬律錯誤の違法はない。又原判決は前記の如く麻薬取
締法施行前の所持を処罰しているものではなく、同法施行後の所持を同法違反とし
て処断しているのであるから、行為当時の適法行為を処罰しているものではない。
従つて憲法三九条の規定に違反するとの主張は、原判決が同法施行前の所持を処罰
しいるものとの誤解に出発した論旨であつて、採るに足りないものである。
 同第三点について。
 原判決は判示事実認定の証拠として被告人の原審公判廷における判示同旨の供述
を引用しているのであつて、その供述によれば判示物件が麻薬であることは被告人
の自白しているところである。而して被告人は判示肩書に示す如く薬剤師の資格を
有するものであるから、その供述から麻薬の認定をしたことは不当ではない。又判
示麻薬が麻薬取締法第一条の何号に属する麻薬であるかについて特にその判示をし
なくてもこれを違法とするこはできない。従つて原判決には所論のような違法なく
論旨は理由がない。
 よつて刑訴施行法二条旧刑訴四四六条により主文のとおり判決する。
 右は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 竹原精太郎関与
  昭和二六年七月二〇日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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