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平成26年2月12日判決言渡
平成25年(行コ)第345号譲渡所得非課税承認申請に係る不承認処分取消請求
控訴事件
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2国税庁長官が平成23年3月11日付けで控訴人に対してした,控訴人の平
成22年11月19日にした租税特別措置法(平成20年法律第23号による
改正前のもの。以下「措置法」という。)40条の規定による承認申請(以下
「本件申請」という。)を不承認とする処分(以下「本件処分」という。)を取
り消す。
第2事案の概要
1本件は,控訴人が,財団法人A(以下「本件財団」という。)に対してした
株式会社B(以下「B」という。)発行に係る株式の寄附(以下「本件寄附」
という。)は,公益を目的とする事業を行う法人に対する財産の贈与に当たる
として,措置法40条1項後段の規定による譲渡所得の非課税の承認申請(本
件申請)をしたところ,国税庁長官が本件申請を不承認とする処分(本件処分)
をしたため,これを不服として,本件処分の取消しを求めている事案である。
原審は,控訴人の請求を棄却したので,控訴人はこれを不服として本件控訴
を提起した。
2前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張の要旨は,後記3のとおり当
審における控訴人の補充主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中
「第2事案の概要」の2~4に記載のとおりであるから,これを引用する。
3当審における控訴人の補充主張
(1)本件寄附株式は,本件寄附の時点において本件寄附があった日以後2年を
経過する日までの期間内に公益事業の用に供される見込みがあったこと
本件寄附の時点で,本件財団においては,本件寄附株式の1年当たりの配
当金として見込まれる1900万円を超える金額を助成金として支給する具
体的な計画が存在したから,本件寄附は,譲渡所得非課税承認の要件として
措置法施行令25条の17第2項2号が定める「贈与に係る財産が贈与があ
った日以後2年を経過する日までの期間内に公益事業の用に供される見込み
であること」の要件に当たるということができる。そして,仮に本件寄附株
式が本件寄附後2年以内に公益事業の用に供されなかったとしても,措置法
施行令25条の17第2項2号は「贈与の時点において贈与があった日以後
2年を経過する日までの期間内に公益事業の用に供される見込みであるこ
と」を譲渡所得非課税承認の要件としていること,措置法40条2項は,贈
与に係る財産が公益事業の用に供されないこととなったときに,譲渡所得非
課税承認を取り消すことができると規定しているだけで,必ず取り消さなけ
ればならないと規定しているわけではないことなどからすると,本件寄附が
譲渡所得非課税承認の要件に当たらないとはいえない。
(2)本件寄附があった日以後2年を経過する日までの期間内に本件寄附株式
を公益事業の用に供していないことについて「やむを得ない事情」が存在し
たこと
控訴人は,譲渡所得非課税承認を受けるためには,贈与に係る財産を贈与
があった日以後2年を経過する日までの期間内に公益事業の用に供する必要
があることを知らなかったが,本件寄附は,公益活動の促進という措置法4
0条の譲渡所得非課税承認の制度趣旨に合致する贈与であること,本件寄附
株式は,本件寄附があった日から2年経過後において実際に公益事業の用に
供され,又は供される予定が具体的かつ合理的に認められることからすると,
控訴人が譲渡所得非課税承認のために上記のような要件を充足する必要があ
ることを知らなかったことは,措置法施行令25条の17第2項2号括弧書
の「やむを得ない事情」に当たるというべきである。
(3)本件処分の手続的違法性について
本件処分についての国税当局の担当者は,遅くとも平成22年12月中旬
頃には,本件寄附について譲渡所得非課税承認を受けられないことを知って
いたにもかかわらず,控訴人や本件申請に関する事務を担当したC株式会社
総務部長D(以下「D」という。)に対し,国税当局の行政指導に従えば,
本件申請が承認されることを示唆して,控訴人やDにその旨信じさせた。そ
の後,国税当局は,控訴人及びDの誤信状態を利用して,本件寄附株式の価
額に関する資料を控訴人の平成19年度の所得税の更正処分の期限である平
成23年3月15日に合わせて短期間で準備,提出させ,同月11日付けで
本件処分を行うとともに,本件寄附株式の価額に関する情報に基づいて控訴
人の平成19年度の所得税の更正処分を行った。
このように,国税当局は,控訴人やDに対し国税当局の行政指導に従えば
本件申請が承認されることを示唆して,控訴人やDを誤信させ,これを利用
して控訴人の所得税の更正処分に必要な資料を提出させたから,本件処分に
は国税庁長官としての権限を濫用し,その裁量権を逸脱した手続的違法があ
り,取り消されるべきである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の請求は,理由がないものと判断する。その理由は,後
記2のとおり,当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは,
原判決の「事実及び理由」中「第3当裁判所の判断」に記載のとおりである
から,これを引用する。
2当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1)「贈与に係る財産が贈与の時点において贈与があった日以後2年を経過す
る日までの期間内に公益事業に供される見込みであること」という要件につ
いて
控訴人は,本件寄附株式が本件寄附の時点で本件寄附があった日以後2年
を経過する日までの期間内に公益事業の用に供される見込みであったから,
本件寄附は,譲渡所得非課税承認の要件を充足する旨主張する(前記第2の
3(1))。
しかし,引用に係る原判決の「第3当裁判所の判断」中の1(3)アに説示
のとおり,措置法40条2項及び措置法施行令25条の17第8項によれば,
国税庁長官は,仮に贈与の時点で当該贈与がされた日以後2年を経過する日
までの期間内に公益事業の用に直接供される見込みがあるとして措置法40
条1項の承認をした場合であっても,贈与のあった日以後2年を経過する日
までの期間内に,寄附財産が公益事業の用に供されなかった場合には,同項
の承認を取り消すことができるとされているのであるから,事業供用に関す
る要件について,同法に基づく申請がされた時点で既に贈与のあった日以後
2年を経過している場合には,原則として寄附財産が上記2年の期間内に実
際に当該法人の公益事業の用に供されたかどうかにより判断すれば足りるも
のというべきである。そして,本件期間内にされた本件寄附株式に係る配当
金が,本件期間内に全額助成金として支給されているということはできない
ため,本件寄附株式が,本件財団の公益事業の用に直接供されたということ
はできないから(引用に係る原判決の「第3当裁判所の判断」中の1(2)),
本件寄附は,譲渡所得非課税承認の要件を充足するとはいえない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
(2)本件寄附があった日以後2年を経過する日までの期間内に本件寄附株式
を公益事業の用に供していないことに関する「やむを得ない事情」について
控訴人は,譲渡所得非課税承認を受けるためには,贈与に係る財産を贈与
があった日以後2年を経過する日までの期間内に公益事業の用に供する必要
があることを知らなかったところ,このことは,措置法施行令25条の17
第2項2号括弧書の「やむを得ない事情」に当たる旨主張する(前記第2の
3(2))。
しかし,単に贈与者が事業供用に関する要件を知らなかったとの事情をも
って,措置法施行令25条の17第2項2号括弧書の「やむを得ない事情」
があるということができないことは,引用に係る原判決の「第3当裁判所
の判断」中の1(3)イに説示のとおりである。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
(3)本件処分の手続的違法について
控訴人は,本件処分に関する国税当局の担当者が,控訴人やDに対し国税
当局の行政指導に従えば本件申請が承認されることを示唆して,控訴人やD
を誤信させ,これを利用して更正処分に必要な本件寄附株式の価額に関する
資料を提出させ,その情報に基づいて控訴人に対する所得税の更正処分を行
ったから,本件処分には国税庁長官としての権限を濫用し,その裁量権を逸
脱した違法があり,取り消されるべきである旨主張する(前記第2の3(3))。
しかし,本件処分に関する国税当局の担当者が,控訴人やDに対し国税当
局の行政指導に従えば本件申請が承認されることを示唆して,控訴人やDを
誤信させ,これを利用して控訴人の所得税の更正処分に必要な本件寄附株式
の価額に関する資料を提出させたことを認めるに足りる証拠はない。そして,
仮に控訴人やDが本件申請について承認されるものと考えていたとしても,
控訴人やDがそのような認識を有するに至ったことについて,本件処分に係
る手続中に違法があるということができないことは,引用に係る原判決の「第
3当裁判所の判断」中の2に説示のとおりである。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
3結論
以上によれば,控訴人の請求は理由がないから棄却すべきであり,これと同
旨の原判決は相当である。
よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決
する。
東京高等裁判所第15民事部
裁判長裁判官井上繁規
裁判官宮永忠明
裁判官木太伸広

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