弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主    文
  1 被告が,労働者災害補償保険法に基づき,原告に対し平成8年12月26
日付けでした遺族補償給付をしない旨の処分及び平成9年1月6日付けでした葬祭
料を支給しない旨の処分を取り消す。
  2 訴訟費用のうち参加によって生じた部分は補助参加人の負担とし,その余
は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
   主文第1項同旨
第2 事案の概要
 本件は,段ボール製造販売会社に勤務していたAが,脳動脈瘤破裂によるくも膜
下出血を発症して死亡したことについて,同人の妻である原告が,被告に対し,労
働者災害補償保険法に基づいて遺族補償給付及び葬祭料の各支給を請求したが,被
告が,Aの死亡は業務に起因するものとは認められないとして各不支給処分をした
ため,原告が,その各取消しを求めた事案である。
 1 前提となる事実(証拠を摘示しない事実は,当事者間に争いがない。)
 (1) 当事者等
   ア Aは,昭和16年7月30日に出生し,昭和39年4月に補助参加人に
入社した。その後,Aは,昭和41年7月から昭和50年1月まで松山工場におい
て製造業務に従事し,昭和62年7月から昭和63年11月まで新潟事業所におい
て内勤業務(得意先係)に従事したほかは,外勤業務(販売業務)に従事してきた
が,平成6年4月に,北関東事業部小山工場に異動となって販売課内勤販売担当課
長となり,平成7年4月組織変更に伴って同工場販売課内勤課長となり,いずれも
内勤業務に従事していた(乙11,17,18)。
     原告は,A死亡時,Aの妻であった。
   イ 補助参加人は,段ボールの製造販売を主な目的とする株式会社である。
段ボールは,内容品に合わせて全てオーダーメイドであるため受注生産されてお
り,受注した製品については業務課で規格,数量をインプットし,そのデータに基
づき製造工場で製品化される。
     Aが平成6年4月から死亡するまで勤務していた小山工場は,平成7年
4月1日当時,販売部長兼工場長以下合計125名で構成され,Aの所属していた
販売第1課は,外勤係13名,得意先係6名,水戸営業所5名,矢板営業所3名で
構成されていた。
 (2) Aの業務内容
    Aは,小山工場において,販売第1課長・販売部長代理の販売管理事務の
補助(内勤業務)として,別紙業務内容一覧表記載の業務に従事していた。なお,
Aには小山工場着任当時部下は配置されていなかったが,補助参加人の平成7年4
月1日付け組織変更に伴い,部下が5名配置された(乙48)。
 (3) Aの労働時間,勤務状況等
    Aの所定労働時間は,午前8時15分から午後5時までであり,実労働時
間は,午後零時から午後1時までの休憩を除いた7時間45分であった。所定休日
は,土日祝日であり,12月30日から1月4日までの6日間の年末年始休暇,2
日間の夏期休暇があった。
    Aを含む担当課長以上は,勤務時間,業務進行の自己管理を定められてお
り,出退勤・残業時間等の記録はない。ただし,補助参加人が警備保障を委託して
いる警備会社作成の警備日誌(乙72)があり,その記載方法は,平日は,警備員
が事業場内を巡回して,午後8時以降1時間毎に残留者中の最上位役職者の氏名及
び残留者が複数の場合には「他何名」と記載し,最終退出者が退出した際に,退社
時刻,退出者中の最上位役職者の氏名及び退出者が複数の場合には「他何名」の記
載をする。したがって,Aの退社時刻は,Aが午後8時以降残留していた場合で,
Aが唯一の残留者である場合又は残留者中の最上位役職者でかつ最終退出者である
場合に限って一義的に特定できるが,それ以外の場合にはAの残留の有無または残
留した場合の退社時刻は,警備日誌からは確認できない(但し,警備日誌に在社時
刻の記載があれば少なくともその時刻までは在社したことが明らかとなる。)。休
日については,入・退門時間と休日出勤者全員の氏名が同日誌に記載される(証人
B)。
    なお,Aの通勤時間は,自宅から自家用車で20分程度を要する距離であ
った(原告本人)。
 (4) Aの発症と死亡
 Aは,平成7年4月13日(以下,月日のみの記載は平成7年を指す。)朝,出
勤直前に自宅で,前交通動脈に生じた脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血(以下
「本件疾病」という。)を発症(以下「本件発症」という。)して倒れ(甲16,
乙101,原告本人),同日午前8時11分救急車で小山市民病院に搬送された
が,5月1日死亡した。Aの死亡診断書(乙3)の「Ⅰ(ア)直接原因」欄には
「汎血管内凝固」と,「Ⅱ直接には死因に関係しないがⅠ欄の傷病経過に影響を及
ぼした傷病名等」欄には「くも膜下出血」と記載されている。
 (5) 労災申請の経過
    原告は,本件発症は業務に起因するものであるとして,労働者災害補償保
険法(以下「労災法」という。)に基づき,被告に対し,遺族補償給付及び葬祭料
の支給を請求したが,被告は,本件発症については業務による明らかな過重負荷を
発症前に受けたことが認められないとして平成8年12月26日付け及び平成9年
1月6日付けで各不支給処分をした(以下「本件処分」という。)。
    原告は,本件処分を不服として栃木労働者災害補償保険審査官に対して審
査請求をしたが,審査官は,平成10年3月19日審査請求を棄却した。
    原告は,上記棄却決定を不服として,平成10年5月1日労働保険審査会
に対して再審査請求をしたが,3か月を経過してもなお裁決がなされないとして,
本件処分の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
 (6) 認定基準(乙64,103ないし105)
    くも膜下出血を含む脳血管疾患及び虚血性心疾患等(以下「脳・心臓疾
患」という。)の発症が,労働基準法75条2項及び同法施行規則35条の規定に
基づいて定められた同規則別表第1の2第9号所定の「その他業務に起因すること
の明らかな疾病」に該当するとされる条件等については,厚生労働省労働基準局長
が行政通達で認定基準を定めており,平成7年2月1日付け基発第38号「脳血管
疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」
(以下「旧認定基準」という。)が策定されている。厚生労働省は,その後,長期
間にわたる疲労の蓄積の評価や業務の過重性の評価要因の具体化について医学面か
らの検討を行うため,「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」を設け,同
検討会での検討を踏まえて,平成13年12月12日付け基発第1063号「脳血
管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」
(以下「新認定基準」という。)を策定した。
    新認定基準は,脳・心臓疾患は,その発症の基礎となる動脈硬化等による
血管病変又は動脈瘤,心筋変性等の基礎的病態(以下「血管病変等」という。)
が,長い年月の生活の営みの中で形成され,徐々に進行し増悪するといった自然経
過をたどり発症に至る場合が多いが,業務による明らかな加重負荷が加わることに
より,血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し,脳・血管疾患が発症する
場合があることを認め,そのような場合は,その発症にあたり,業務が相対的に有
力な原因であると判断し,業務に起因することの明らかな疾病として取り扱うとす
る。そして,旧基準においても認められていた発症に近接した時期における負荷
(異常な出来事及び短期間の過重負荷)のほか,長期間にわたる疲労の蓄積も業務
による明らかな過重負荷として考慮することを認めた。すなわち,恒常的な長時間
労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には,「疲労の蓄積」が生じ,これ
が血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ,その結果,脳・心臓疾患を
発症させることがあるとする。
    そして,長期間にわたる過重負荷を具体的に評価するに際しては,発症前
概ね6か月間の就労実態を視野に入れ,労働時間は,疲労の蓄積をもたらす最も重
要な要因と考えられるとして,発症前1か月ないし6か月にわたって,1か月当た
り概ね45時間を超える時間外労働が認められない場合は,業務と発症との関連性
が弱いが,概ね45時間を超えて時間外労働が長くなるほど,業務と発症との関連
性が徐々に強まると評価でき,発症前1か月間に概ね100時間又は発症前2か月
間ないし6か月間にわたって1か月当たり概ね80時間を超える時間外労働が認め
られる場合は,業務と発症との関連性が強いと評価できるとする。また,労働時間
のほか,不規則な勤務,拘束時間の長い勤務,出張の多い業務,交代制勤務・深夜
勤務,作業環境,精神的緊張を伴う業務の負荷要因についても十分検討することと
し,休日のない連続勤務が長く続くほど業務と発症との関連性は強まり,逆に,休
日が十分確保されている場合は,疲労は回復ないし回復傾向を示すという判断基準
を定めている。
 2 争点及び争点に関する当事者双方の主張
   本件の主要な争点は,本件発症がAの業務に起因するものかという点にあ
り,この点に関する当事者双方の主張は次のとおりである。
 (原告の主張)
 (1) 業務起因性の判断基準
    労災補償制度は,優越的地位に立つ使用者に対して従属的地位に立つ弱者
である労働者が使用者の支配領域で傷病に遭った際,労働者とその家族が簡易迅速
に一定の部分的救済を得ることにより,労働者とその家族の生存権を保障するため
の制度であるから,基礎疾患と業務とが共働原因になったと認められれば相当因果
関係を肯定すべきである。
    したがって,過労死事案の業務起因性の判断枠組は,次のようになる。
   ①過重業務の考慮期間については,発症直前の1週間,1か月間に拘泥する
ことなく,積年の疲労の蓄積を評価する。
   ②日常業務が過重となっている場合には,あくまで所定内業務との対比によ
って過重性を評価する。
   ③時間外労働時間の適正化指針(平成元年労働省告示6号では上限目安年間
450時間。平成4年労働省告示70号では上限目安年間360時間。)の上限を
超える業務が実施されていれば,業務起因性を推認する。
   ④蓄積疲労がある場合には,私生活において発病を促進した特段の事情のな
い限り,業務起因性を推認する。
   ⑤物理的環境を考慮する。
   ⑥精神的負担の有無・程度を考慮する。
   ⑦過重性判断の比較対象は,当該職員にとって過重かどうかで判断する。
    新認定基準も長時間労働による疲労の蓄積と脳・血管疾患との間に業務起
因性を認めているのであり,上記①ないし⑦による判断枠組は正当なものである。
 (2) Aの在社時間
    原告作成の報告書(甲9)によれば,Aの年間総労働時間は3789時間
(平成6年5月から平成7年4月まで。なお,平成7年4月分については12日間
の実働分を1月換算したもの。)ないし3718時間(平成6年4月から平成7年
3月まで)と推定される。
    また,Aの総在社時間3461時間49分を前提としても,Aの業務は過
重であると認められる。
 (3) Aの業務の過重性
   ア Aの業務内容,勤務状況等
   (ア) Aは,上記1(2)のとおり,常に多くの業務を抱えており,その勤務状
況は多忙を極めていた。平成6年4月に小山工場に着任して以降,平日に午後7時
までに帰宅したのは2回しかなく,帰宅時間は早くても午後9時,平均して午後1
1時よりかなり遅かった。また,ほとんどの土曜日は休日出勤していた。Aの年間
労働時間は,上記のとおり長時間に及び,Aの疲労は蓄積されていった。
   (イ) 平成7年3月以降,Aは,膨大な通常の業務に加えて,2つの大きな
臨時業務を課せられ,それまで以上の著しい長時間勤務となった。すなわち,A
は,平成6年末に平成7年3月17,18日に開催される販売研修会議で使用する
大量の資料の作成を命じられ,また,同年3月下旬には「1次・2次合計修正値上
計画表」(以下「修正値上計画表」という。)の作成という膨大な作業を指示さ
れ,休日出勤,時間外労働を余儀なくされたほか,自宅に持ち帰って家族の手を借
りて作業するまでとなった。
      そのこともあって,Aは,平成7年3月に所定労働日数22日,休日
出勤日数5日,総拘束労働時間推計385時間20分という常軌を逸した長時間労
働を強いられ,4月には,発症前日である12日に至るまで休日なく稼働し,結局
3月20日から4月12日まで24日間連続して休日なしで勤務したほか,自宅に
おいて,3月4日土曜日午前9時から同日午後1時まで,同月5日日曜日午前8時
30分から同日午後2時まで,3月中旬ころ,4月8日土曜日午前9時から同日午
前11時30分まで,及び同月9日日曜日午前8時から同日午後1時30分まで,
原告や長男に手伝わせるなどしながら持ち帰った業務に従事した。
   (ウ) また,平成7年2月ころから,工場の機械に故障等のトラブルが多発
しており,Aは,納期調整事務にも追われることとなった。機械の故障頻度は,2
月は,回復に1時間以上要したものが65回,2時間を超えるものが9回であり,
回復までに要した時間で最長のものが4時間40分であった。3月は,1時間以上
が59回,2時間を超えるものが18回であり,回復までに要した時間で最長のも
のが4時間30分であった。4月は12日までで,1時間以上が31回,2時間を
超えるものが6回であり,回復までに要した時間で最長のものが4時間43分であ
った。
   イ Aの前任者との比較
 前任者のCは,管理職としての裁量的業務,会議出席業務が全くなかった上,臨
時業務のうち,販売研修会議の資料作成は行っていたが,修正値上計画表の作成作
業は行ったことがなく,電話の応対,接客等その他の業務もCが特に負担するとい
うことはなかったにもかかわらず,時間外労働をしていたのであり,Aの常軌を逸
した長時間労働は,管理職としての裁量的業務,会議出席業務が付加された結果で
あり,通常人でも耐えられない過重なものであった。
   ウ Aの後任者との比較
 Dは,6月1日,補助参加人小山工場勤務となり,Aの担当業務を引き継いだ
が,同人は40年間にわたりほとんど内勤業務に従事してきたものであるのに,そ
の労働時間は1か月当たりの法定労働時間を大幅に上回っており,1日当たりでみ
てもほとんどの日が12時間ないし14時間の労働時間となっており,15時間を
超える日も珍しくない状況にあるから,小山工場に配属されるまでもっぱら外勤業
務に従事して内勤業務の経験に乏しかったAにとっては,業務の過重性は明らかで
ある。
 (4) 本件発症の原因疾患
    脳動脈瘤の主因としては,脳動脈における中膜筋層部分の欠損及び内弾性
板の退行的変化が挙げられるが,いずれも高血圧や血流の異常に起因した血行力学
的因子が大きく作用する。また,脳動脈瘤の破裂も血圧上昇が重要な因子である。
そして,急激あるいは持続的な肉体的・精神的ストレスが血圧の上昇を引き起こす
ことは通常知られており,結局,本件発症は,過重な業務の遂行によって生じる精
神的・肉体的ストレスから生じたことは明らかである。
 (5) 業務起因性
   ア Aは,学生時代からテニス等の好きなスポーツマンで,結婚以来死亡す
るまで特に病気をしたこともなく,平成3年から平成6年までの定期健康診断にお
いても特に異常は認められなかった。被告は,γ-GTPの数値を指して,Aの肝
機能の問題を指摘するが,一定の飲酒をしている者については,γ-GTPの数値
のみで肝機能障害をいうことはできず,他の肝機能検査と総合して判断する必要が
あるところ,Aについては,他に肝機能障害を裏付けるデータはない。
     Aは,性格温厚で,仕事に対する責任感が強く,几帳面,かつ,忍耐強
く,職場や家庭において仕事の愚痴をこぼすことは全くなかった。平成7年4月当
時,同居していた長男の就職が決まるなど,原告とAの家庭には,不安やストレス
の原因となるような問題はなかった。
   イ 平成6年4月以降の配置転換に伴う職務内容の変更等による不慣れな環
境の中で,Aは,上記(3)ア(ア)のとおり,膨大な作業量に忙殺され,休日出勤,深
夜に及ぶ残業,休日の自宅への持ち帰り業務を続け,長時間労働により,特に平成
7年3月以降,肉体的・精神的に疲労が蓄積した結果,体調を悪化させ,ついにく
も膜下出血を発症して死亡したもので,業務に起因する過労死である。また,被告
はAの健康診断における血圧測定の結果を根拠に業務起因性を否定するが,血圧測
定の結果は平成6年9月までのものしかなく,それ以降から発症までの持続的な肉
体的,精神的ストレスにより血圧の上昇がもたらされた可能性を看過しており,失
当である。
   ウ 新認定基準の具体的運用方法等について示した「脳血管疾患及び虚血性
心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の運用上の留意点等につい
て」(平成13年12月12日基労補発第31号。以下「運用通達」という。)に
よれば,1か月当たり概ね100時間を超える時間外労働が認められる最少の期間
をもって業務の過重性が評価できる場合は,その期間だけで業務の過重性を評価し
て差し支えないとしているところ,甲第9号証により認定できる訴外Aの直前1か
月の労働時間はもとより,被告が算出した最小値を前提とし,これに証拠によって
認められるAの時間外労働時間を加算すると,本件発症の直前1か月の時間外労働
時間は,1か月当たり100時間の基準を超過し,125時間35分に及んでい
る。
(なお,Aの時間外労働時間を算出する際には,①3月17日の販売研修会議の終
了後,午後9時ころまで業務として懇親会が持たれていたから,同日については勤
務時間を午後9時までとすべきである。②4月3日は,午後9時30分まで本社の
営業担当常務との会食があり,これは費用を補助参加人が負担し,小山工場から工
場長,営業関係の管理職全員が出席しており,業務とみるべきであり,その後,2
次会も行われているが,2次会も接待業務の延長であるから,これまた業務と考え
るべきであり,同日の勤務時間は帰宅時間の30分前の午後11時25分までとす
べきである。③同月11日の花見会は,雨天のため補助参加人の管理する独身寮の
食堂で開催されたこと,参加者は販売1課,総務課,製造課の17名という多数に
及んでいること,Aも出席しなければならないと考えてやむを得ず出席しているこ
とから,業務と考えるべきであり,同日の勤務時間は帰宅時間の30分前である午
前零時とすべきである。)
エ 被告は,①Aの業務内容は過重性を認めることのできるものではない,②労働
時間の最小値によれば新認定基準にいう長期間の過重負荷には当たらないと主張す
る。
 しかし,①については,具体的な裏付けを持たない主張であるし,業務終了後の
Aが退社せずに職場にいたという極めて不合理な主張である。好きこのんで深夜ま
で残業したり休日出勤することは,およそ想定し得ないから,Aは,その在社時間
中業務を遂行していたことが推認されるのであり,被告において,在社中業務以外
に時間を使っていたことを明確に立証すべきであるが,この点についての被告の立
証は全くなされていない。
 また,②については,最小値はAの退社時間が警備日誌等により判明しない日は
定時の午後5時に帰宅したと仮定するというおよそ補助参加人の労働実態を無視し
た計算結果である。そもそも,Aの労働時間を推計せざるを得ないのは,労働時間
を把握する義務を怠った補助参加人の責任であり,労働者の権利を保護する職責を
持つ被告が,補助参加人の義務違反の結果を労働者の遺族である原告との関係で有
利に用いようとすることは許されない。
     なお,Aが行っていた業務には不規則なものや精神的な緊張を伴うもの
があった。すなわち,納期調整事務については,業務課等の担当者との間で折衝が
必要であり,その難易や成否は折衝の相手の都合や意向に左右されるという意味で
規則的な勤務とはいえない。また,会議出席も,会議の準備と決定事項の実行の業
務を伴うものであり,会議に関して特段の業務が必要であるからAの出席が必要だ
ったのであり,会議に関して必要となった事務はAの計画で決められるものではな
く,会議出席のたびにA自身の作業計画は変更を余儀なくされていた。また,デー
タの転記作業については細かく膨大な数値の中から必要なデータを取り出すという
もので,計算間違いが許されないなど神経を使い忍耐力を有するものであった。更
に,販売研修会議用の資料作成や修正値上計画表の作成については,前述のとおり
Aの業務には納期調整業務や会議出席に関連する業務など,Aが計画的に消化でき
ない性質のものが多く,Aはかかる不規則な業務により自らの作業計画の変更を余
儀なくされていたのであり,時間的に余裕をもって作成の指示をされていたからと
いって不規則な業務であることが否定されるものではない。
   オ 被告は,飲酒や喫煙が脳動脈瘤の形成及び破裂の危険因子であるとの一
般論を主張し,Aの飲酒及び喫煙の習慣が脳動脈瘤の憎悪に寄与したと主張する
が,Aは,喫煙は1日たばこ20本程度,飲酒は350m?の缶ビール1本と日本酒
コップ7分目又は同缶ビール2本という程度である。業務の過重性が認められ,そ
の業務と発症との間に相当因果関係が認定されれば業務起因性が認められるとして
いる裁判例の傾向(東京高等裁判所平成元年10月26日判決,大阪高等裁判所平
成7年7月27日判決等)からすれば,Aに上記のような喫煙・飲酒歴があったと
しても,結論に影響を及ぼすものではない。
   カ したがって,本件発症については業務起因性が認められるのであるか
ら,これを否定した本件処分は違法であり,取り消されるべきである。
 (被告の主張)
 (1) 業務起因性の判断基準
    労災補償制度は,労働者が従属的労働契約に基づいて使用者の支配監督下
にある以上,業務に内在する危険が現実化して傷病が引き起こされた場合には,そ
の傷病の発症について使用者に過失がなくても,その危険を負担して労働者の損失
の填補に当たるべきであるとする危険責任の考え方に基づくものであるから,業務
起因性が認められるためには,条件関係ないし事実的因果関係があるのみでは足り
ず,当該傷病と業務との間に相当因果関係があることが必要である。
    そして,相当因果関係の有無は,上記危険責任の考え方からすれば,当該
傷病が業務に内在する危険の現実化として発生したと認められるかどうかによって
判断されるべきであり,業務による精神的・身体的負荷と業務外の要因とが競合し
て当該疾病を発症したような場合には,業務による精神的・身体的負荷が相対的に
有力な原因である場合に限り,上記疾病の発症が業務に内在する危険の現実化した
ものとされるに過ぎない。
    くも膜下出血のような脳・心臓疾患は,血管病変等が,加齢や日常生活等
における種々の要因によって,長い年月の間に極めて徐々に進行・増悪して発症に
至るのがほとんどであり,業務に特有の疾病ではないから,当該労働者が従事して
いた業務が日常業務である限りは,脳・心臓疾患の発症は自然経過によるものとい
え,業務と発症の間にはそもそも条件関係自体が認められない。他方,当該労働者
が日常業務より過重な業務に従事した場合には,業務による精神的・肉体的負荷が
日常生活で一般的に起こり得る以上の血圧変動や血管収縮をもたらし,血管病変等
を自然経過を超えて増悪させ,脳・心臓疾患を発症させることがありえ,このよう
な場合に始めて業務と発症との間に因果関係が肯定される。
    そして,脳・心臓疾患の発症には複数の原因が競合し,その複数の原因が
結果発生に対して絡み合っているのが通常であるから,業務と発症との間に相当因
果関係が認められるためには,①当該業務が過重であることが認められることが必
要であり,②当該脳・心臓疾患が当該業務に内在する危険の現実化として発症した
と認められることが必要である。
    業務の過重性については,当該業務の内容や性質に基づいて客観的に判断
されるべき事柄であり,本人の基礎疾患は判断対象である「業務」に内包されない
業務外の要因であるから,かかる業務外の事情により業務の危険性が左右されるの
は不合理である。したがって,業務の過重性の判断は,あくまで当該労働者と同程
度の年齢・経験等を有し,通常業務を支障なく遂行できる程度の健康状態にある労
働者を基準として,当該業務による負荷が,医学的経験に照らし,血管病変等をそ
の自然経過を超えて著しく増悪させ得ると客観的に認められるか否かによって決す
べきである。
    危険の現実化については,仮に脳・心臓疾患の発症への業務の寄与が認め
られる場合であっても,業務外の要因(基礎疾患等)が,より有力な原因となって
脳・心臓疾患の発症をもたらした場合には,当該疾病は,業務に内在する危険の現
実化として発症したものでなく,業務外に存在した危険の現実化として発症したも
のであるから,相当因果関係を認めることは妥当でない。
    したがって,当該発症に対し,業務による危険性がその他の業務外の要因
に比して相対的に有力な原因となったと認められることが必要である。この点,原
告は,相当因果関係を認めるためには,単に業務が発症の共働原因となったことが
認められれば足りるとするが,このような考え方を前提とすると,重篤な基礎疾患
を有する労働者が業務に従事したことにより,業務が当該発症の単なる一原因とな
ったに過ぎない場合にまで相当因果関係を認めることになり,業務外の危険が現実
化した場合にも相当因果関係を認めることとなるから相当ではない。
    そして,新認定基準は旧認定基準制定後の医学的知見等を踏まえて制定さ
れており,合理的な基準である。
 (2) Aの労働時間,在社時間
    警備日誌(乙72)によれば,平成6年4月1日から平成7年4月12日
までのAの総在社時間から休憩時間を除外したものは,次のように算出されるべき
である。
    警備日誌の記録から退出時刻の判明しない部分については,①最終退出者
としてAの下位者の氏名の記録があり,定時巡回時(X時)の在席者としてAの氏
名の記載がある場合は,X時の直後に退出した可能性がある一方,その後の定時巡
回時(Y時。それ以前に最終退出者が退出している場合には同退出時刻<Z時>)
の直前まで在席した可能性もあることから,最大在社時間についてはY時又はZ時
まで,最小在社時間についてはX時までと仮定し,②警備日誌にAの氏名の記録が
ない場合で,最終退出者としてAの上位者又は同位者(以下,「上位者等」とい
う。)の氏名の記録がある場合は,Aも同時刻に退社した可能性がある一方,定時
である17時に退社した可能性もあることから,最大在社時間については上位者等
の退社時刻までと仮定し,最小在社時間については17時までと仮定し,③警備日
誌にAの氏名の記録がない場合で,最終退出者としてAの下位者の氏名の記録があ
り,定時巡回時(X時)の在席者として上位者等の氏名の記録がある場合は,その
後の定時巡回時(Y時。それ以前に最終退出者が退出している場合には同退出時刻
<Z時>)の直前まで在社した可能性がある一方,定時である17時に退社した可
能性もあることから,最大在社時間についてはY時又はZ時まで,最小在社時間に
ついては17時までとそれぞれ仮定し,④警備日誌にAの氏名の記録がない場合
で,最終退出者として上位者等の氏名の記録がない場合は,Aは警備日誌記載対象
である20時直前まで在社した可能性がある一方,定時である17時に退社した可
能性もあることから,最大在社時間については20時までと仮定し,最小在社時間
については17時までと仮定し,それぞれ算出した結果,最大で3738時間26
分,最小で2538時間49分と推定される。
    原告の主張する年間総労働時間は,原告の記憶に基づいて算出されたもの
で客観性・正確性に疑問があること,休憩時間が考慮されていないこと,退社後,
同僚と飲酒したり麻雀をしたりして直ちに帰宅しないことがあったこと,通勤時間
が必ずしも考慮されていないことなどに照らし,失当である。
 (3) Aの業務の過重性
   ア Aの業務内容,勤務状況等
   (ア) Aは,発症前日の4月12日,発症前10日間の同月3日から11日
まで,通常行っていた業務を行っていたに過ぎない。
      3月1日から4月2日までの勤務状況は,総日数33日のうち,休日
出勤は7日であるが,4月2日は在社時間は10分間であって勤務したとは認めが
たい上,所定休日に4日休んでいるほか,午前中休暇日1日,終日休暇日1日とな
っており,休暇も取得可能な状態にあった。
      また,原告は,3月20日から4月12日まで24日間休日なしの勤
務についた旨主張するが,3月18,19日の両日は休日であり,3月28日の午
前中休暇を取得していることなどを考え併せると,必ずしも業務のスケジュールが
過密だったとは言い難い。なお,Aの平成6年4月から平成7年4月12日までの
休日の取得率は62.9%,午後9時以降に退社した日数は20.6%である。
      平成7年4月1日の組織変更によって,Aの業務量が増加したことも
ない。
   (イ) Aの別紙業務内容一覧表記載の業務内容のうち,「東京本社営業部へ
の報告業務」,「社内(小山工場内)で使用する資料の作成業務」は,主にコンピ
ュータよりアウトプットされた数値の転記作業を中心とするもので,伝送・ファッ
クス業務等も,A自身が自ら検討作成するものでない単純作業が主である。そのう
ち,東京本社営業部への報告業務に必要な時間は毎月12時間余り,社内で使用す
る資料作成等の業務に必要な時間は毎月約3時間30分であった。
      「会議への出席業務」については,各会議の所要時間は,いずれも約
40ないし45分(TQC委員会会議,シート品質プロジェクトミーティング,ケ
ース品質プロジェクトミーティング)か,もしくは,長いもので約2,3時間(班
長会議,販売会議)であった。そして,これらの会議のうちAが資料の作成を要す
るのは,班長会議における販売計画表を出力し配付する業務と販売会議における前
月の売上実績表及び当月の販売計画表を出力して配付する業務のほか,販売研修会
議の資料作成であり,他の会議については,資料の作成配付はない。また,販売会
議については,Aはオブザーバー参加していたに過ぎない。
      「納期調整事務」は,工場で機械故障等のトラブルが発生し長時間機
械が止まったような場合,業務課とAが打ち合わせの上生産計画の順序変更を行う
ものであるが,得意先との納期調整を要するような長時間の機械の停止は,1月か
ら3月までで2,3回と極めてまれであり,Aが担当していたのは補助参加人内部
での業務課との窓口折衝程度にすぎず,このような事務によってAの業務内容が特
に過重になったとはいえない。また,原告の指摘する機械の停止時間には非作業時
間等機械の故障とは無関係の停止時間も含まれており,全てが機械の故障によるも
のではない。
   (ウ) Aの2つの臨時業務のうち,販売研修会議用の資料の作成について
は,発症の約1か月前である3月17日までには完成していた。また,作業内容
は,各販売担当者の提出及び作成済みリストの転記,集計に過ぎない上,平成6年
12月初旬に十分な時間的余裕をもって作成の指示を受けていたにもかかわらず,
Aの進捗状況ははかばかしくなく,一部他の職員の援助を受けている。また,修正
値上計画表の作成は,3月22日に4月7日までに完了するよう指示を受けている
ところ,作業内容は,他の販売員が作成した資料から転記して集計するなど単純な
ものであったにもかかわらず進捗せず,他の職員の援助により4月9日午後5時こ
ろ提出に至ったものであって,Aは全体の約3分の2を行ったに過ぎない。
      そして,以上の作業内容は,単なる文字の転記,集計等の作業であっ
て通常行っている業務に比し大差はないこと,例年同時期に行われる業務であるこ
とにも照らすと,このことをもってAの業務が過重であったということはできな
い。
   イ 前任者との比較
 Cは,納期調整業務,会議出席業務を除いては基本的にAと同じ業務を行ってお
り,かえって電話応対,来客時の接遇などの庶務的業務も行っていたところ,業務
が繁忙となる月末から月初めにかけては時間外勤務を行っていたものの,それも遅
くとも午後8時ころまでであり,休日出勤をすることもなかった。また,C自身,
「仕事のほとんどは,報告書の場合数字の転記がほとんどであり,全く難しさはな
い」と負荷のないことを述べている。
 Aは,Cと異なり,各種会議への出席はしていたが,そのための資料の作成はほ
とんど行っておらず,オブザーバー的に参加していたに過ぎないのであるから,こ
れをもってCより負荷が大きかったとはいえない。
   ウ 後任者との比較
 Dは,Aの担当業務のほとんどを引き継いだほか,これに加えて得意先担当業務
(1日当たり40分),安全委員会への出席及び同会議用の資料作成業務,部下管
理に関するミーティングなどの業務等も担当するようになっており,AよりDの方
が明らかに業務量が多かったにもかかわらず,Dは,休日出勤は皆無に近く,残業
も繁忙時でもほとんど午後8時までであり,残業が常態化していたわけではなかっ
た。原告の主張する勤務時間は,Dの在社時間にすぎず,その労働時間を算出する
には,在社時間から,出社時刻から始業時刻までの時間と昼の休憩時間を除外する
必要がある。その結果は,最小で1月201時間35分(平成8年1月)であり,
最大でも245時間45分(同年7月)である。
 Dは,内勤経験者とはいえAの業務については十分な経験はなかったし,外勤か
ら内勤へ配置転換があったとしても数か月で新業務に慣れるのが通常であり,また
慣れるべきであるところ,Aは,平成6年4月の小山工場着任に伴い外勤から内勤
業務に配置換えとなってから1年余を経過していたのであるから,Aの内勤業務の
経験不足は業務の過重性の理由にならない。
 (4) 本件発症の原因疾患
    本件発症の原因疾患は,前交通動脈瘤の破裂によるくも膜下出血であり,
明らかに中膜欠損や内弾性板の崩壊した分岐部に生じており,解剖学的にみると先
天的要因が極めて影響しているものと推定される。すなわち,「脳動脈瘤の家族内
発生はまれではない」,「脳動脈瘤のり患と最も強く関連している要因はくも膜下
出血の家族歴であり」,あるいは,「一親等にくも膜下出血患者がある場合,破裂
脳動脈瘤によるくも膜下出血のリスクは4倍である」などの報告が多数なされてい
る。また,脳動脈瘤の増悪には,高血圧,加齢のほか,喫煙・飲酒等の生活習慣が
危険因子とされている。そして,この点についても,「発症前24時間以内に40
g,一週間以内に150gを超える飲酒をしていた者にリスクが高く」,あるいは
「くも膜下出血には過量のアルコール(4.3倍),高血圧(13倍)や喫煙(6
倍)が加わると著しく危険度が増加する」などの報告や,これらの危険因子が「家
族性」と合わさった場合,更に危険度が高くなるとの報告がなされている。したが
って,脳動脈瘤は,先天的な内弾性板や中膜筋層の欠損を原因として発生し,高血
圧等の後天的な要因も加わり,長年の間に徐々に成長・増大し,その結果,脳動脈
瘤壁が脆弱化して臨界に達すると,日常生活の中で生じる一過性の血圧上昇を来す
日常動作によっても破裂し,くも膜下出血を発症するのである。
    原告は,精神的・肉体的ストレスを本件発症の原因としてあげているが,
くも膜下出血とストレスとの因果関係は医学的には明らかにされておらず,ストレ
スが直接原因となってくも膜下出血を起こすことを支持する信頼すべき文献は見出
すことができず,慢性疲労もしくはストレスは,慢性の高血圧症,動脈硬化の原因
となり得ても,くも膜下出血の直接原因とはいえないと明確に否定されている。
 (5) 業務起因性
   ア Aの父親は,昭和47年ころ,Aとほぼ同じ年齢で脳・血管疾患により
死亡している。そして,Aは,「酒は日本酒が好きで,かなり強く,飲むと深酒を
していた。」,「たばこはヘビースモーカーで,ショートホープを1日に3~5箱
程度吸っていた。」という飲酒及び喫煙状況であり,Aが大量の飲酒癖を有し,喫
煙の習慣が過度であったことは明らかである。そして,くも膜下出血を発症する前
々日の花見会においては,午後11時ころまで日本酒等を二日酔いになるほど深酒
していたのであり,この時の大量の飲酒が本件発症に重大な影響を及ぼした可能性
は否定できない。また,Aは,平成5年7月26日実施の定期健康診断において,
中性脂肪が正常値の2倍超となり,肝機能についても,平成4年9月11日,平成
5年9月27日及び平成6年7月26日実施の各定期健康診断において,γ-GT
P等が正常値に比して2~3倍以上の高値を示しており,健康状態が良好だったと
は言い難い。
     したがって,本件発症に関し,医学的意見を述べている医師がいずれも
指摘するように,Aの疾病は,先天的,遺伝的に発症していた脳動脈瘤が,飲酒,
喫煙等の危険度の高い生活習慣の結果増悪して臨界状態に達し,日常生活の中で生
じる血圧変動でも発症し得るほどに進行した状態になっており,起床後の出勤準備
中という家庭内の日常動作中に発症したものと認められるから,業務と発症との間
の事実的因果関係自体認められない。
   イ Aの健康診断における血圧測定の結果をみれば,Aの血圧は概ね正常域
にあり,原告が過重な職務に就いていたと主張する平成6年9月27日の段階にお
いても,特に異常な数値は認められず,Aが,小山工場に転勤してきてから基本的
に同一の業務に従事していたことからして,健康診断の半年後である本件発症時に
おいて,少なくとも業務を原因として慢性の高血圧症を発症することは想定できな
い。したがって,Aが脳動脈瘤の最大の危険因子である慢性高血圧症を発症してい
たとは認められず,本件発症の業務起因性は否定される。また,新認定基準は,発
症直前から前日までの間において,異常な出来事に遭遇したこと,発症に近接した
時期において,短期間の過重業務に就労したことにより,明らかな過重負荷を受け
たことにより発症した脳・心臓疾患を「その他業務に起因することの明らかな疾
病」に該当するとするが,本件において,かかる突発的又は予測困難な異常な事態
等が存在しないことは明らかであり,結局,この点からも業務起因性は認められな
い。
     この点,原告は,販売研修会議資料の作成及び修正値上計画表の作成と
いう臨時業務があったことを主張するが,このような臨時業務に対するAの取組み
は,上記(3)ア(ウ)記載のとおりなのであり,到底膨大な臨時業務などと評価すべき
ものではない。
   ウ 本件では,形式的にみると,Aの在社時間が長時間に及んでいたことが
認められる。警備日誌の記録に基づき算出されたAの推定在社時間が全て業務の遂
行に当てられていたと仮定した上で,新認定基準に当てはめて発症前1か月から6
か月の時間外労働時間数を運用通達に留意しつつ算出すれば,別紙時間外労働時間
数一覧表記載のとおりとなるが,推定される時間外労働時間数には大きな差があ
り,業務との関連性の度合いがかなり異なること,そもそも,業務とは無関係の時
間を含む在社時間の全てを労働時間とみていることなどからすれば,本件について
在社時間を中心に業務起因性を判断することは不適当といわなければならない。ま
た,新認定基準も,疲労の蓄積が血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪さ
せることを前提として,長期間にわたる過重業務による発症に業務起因性が認めら
れるとしているのであるから,労働の内容が過重であることが重視されなければな
らず,労働時間数については労働の内容が過重と認定された後に始めて問題となる
に過ぎない。
     したがって,労働の内容について,その過重性を判断すると,次のとお
り,Aの業務は特に過重なものであったとは認められず,結局,労働時間について
判断するまでもなく,Aの業務は通常の業務の範囲内というべきであり,本件発症
には業務起因性は認められない。
     すなわち,Aの担当業務は,主としてコンピュータから出力された数値
の転記作業や会議へのオブザーバーとしての出席業務であり,いずれも基本的には
定型的な勤務であって,特段不規則勤務といえるようなものではなく,かつ,精神
的緊張を伴う業務に就いていたとはいえない。また,拘束時間の長い業務に該当す
るとは言い難く,その業務は事務作業であり,出張の多い業務には当たらず,内勤
であるから温度環境,騒音について考慮すべきものは認められない。その勤務も交
代制ではなく,在社時間が深夜に及んでいたと思われる日もあるが,むしろ全体の
約8割は午後9時以前に退社しているから,深夜勤務が常態であったということは
できない。更に,業務の内容・進捗状況に照らして,業務遂行のために在社してい
たとすれば何の業務に従事していたのか説明できない上,Aは,在社中,テレビを
見たり,ゴルフの練習をしたり,医務室で寝ていたり,ボーっとしていたりするな
ど,業務の遂行とは無関係の行為に時間を費やしていたのであり,労働密度が低か
ったものである。
     なお,Aは,工場で機械故障等のトラブルが発生した際に納期調整事務
を行うという突発的な事態への対応も業務内容となっていたが,このようなトラブ
ルの発生は平成7年1月から同年3月の間に2ないし3回あっただけであり,具体
的な業務内容も直接ユーザーと折衝するものではなかったのであるから,この点が
過重性の判断に影響を与えることはない。また,販売研修会議用の資料作成及び修
正値上計画表の作成については,臨時的な業務であり,納期どおり行う必要があっ
たが,例年同時期に行われる業務であること,時間的な余裕を持って作成を指示さ
れたものであること,Aの家族にも可能な軽易な転記作業であったことからすれ
ば,特段精神的緊張を伴う業務であったとはいえない。
     本件では,仮にAが持ち帰り仕事をしていたとしても,上司の個別具体
的な特命がない上,本来通常業務時間内で処理できるはずであるのに,能力不足及
び労働密度の低さというAの主観的特殊事情が原因となって通常時間内に処理しき
れなかったため,持ち帰ったに過ぎないから,合理的な必要性のない持ち帰り仕事
と認められ,業務起因性の判断にあたって考慮することは相当でない。
     以上,Aの業務については,そもそも在社時間が一定の幅でしか推計で
きないところ,推定の最小在社時間をとれば,それ自体新認定基準が認める長期間
の過重負荷には当たらないこと,労働の内容も過重性を認め得るようなものとはい
えないことが明らかであるから,Aの業務の過重性及び本件発症の業務起因性を認
めることはできない。
エ 業務の危険性は,当該労働者と同程度の年齢,経験等を有し,通常の業務を支
障なく遂行することができる程度の健康状態にある者を基準として,当該業務によ
る負荷が,医学的経験則に照らし,脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等を
その自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷をいう。
Aが従事していた業務の業務量,業務内容は,Aと同程度の年齢,経験等を有し,
日常業務を支障なく遂行することができる健康状態にある労働者であれば,ほぼ所
定労働時間の範囲内で行うことができるものであった。Aの業務は,C及びDの業
務や,他工場の販売内勤者の業務と比較しても,特に過重な業務であったとはいえ
ない。
   オ 原告は,業務に起因する肉体的・精神的ストレスが本件発症の原因とな
っている旨主張するが,本件においてAの業務がAに対していかなる性質及び強度
のストレスを及ぼしたかについて何ら主張されていない上,Aは高血圧症にり患し
ていた事実自体が存在しないのであるから,ストレスとAの発症との間の因果関係
は否定されざるを得ないのであり,原告の主張は失当である。
   カ よって,本件発症につき業務起因性を否定した本件処分は適法であり,
本訴請求は棄却されるべきである。
第3 争点に対する判断
1 Aの業務内容,勤務状況等
(1) Aの業務内容
 上記前提となる事実(2)のとおり,Aの通常業務は別紙業務内容一覧表記載のとお
りであるが,証拠(乙27,48,56,証人D)によれば,その具体的内容は,
次のとおりであることが認められる。
    ①は,コンピュータの「工場販売計画リスト」を画面を見ながら必要コー
ドに数字を入力し,伝送ボタンを押し(伝送に要するキーボードのタッチ数は23
回),東京本社営業部(以下「営業部」という。)に伝送する。
    ②も,コンピュータの「工場製品別分類販売計画表」を,①同様の方法で
営業部に伝送する。通常,45枚程度であり,伝送に要するキーボードのタッチ数
は15回である。加えて,同計画表をコピーして販売員に配付する。コピーは,4
5枚に販売担当者数を乗じた約810枚程度になる。当月の生産量と損益見込を,
いわゆるデータベースであるOACALC画面に入力して営業部に伝送する。
    ③は,各販売担当者に「月度新規売上状況」を記入させ,管下の水戸営業
所,矢板営業所からFAXされた場合にはこれを転記した上,営業部へFAXす
る。
    ④は,各販売担当者が報告したものを「印版・木型新規回収表」にまと
め,営業部にFAXする。なお,報告事案少数の場合は,担当者に直接記入させる
こともあり,各販売担当者から提出されるのは月平均2,3件であり,転記字数は
約50字である。
    ⑤は,コンピュータの「責任部署別実績リスト(総覧・売上高)」(1
枚)「分類別売上明細表」(12枚)の数値を転記して,「確定数値報告」を作成
し,営業部にFAXする。
    ⑥は,各販売担当者から報告を受け,コンピュータの「分類別売上明細
表」(12枚)の数値を転記して,「重点新規10社計画・実績表」を作成し,営
業部にFAXする。転記字数は約50字であり,重点新規10社は,約300社の
中から10社を選んで転記しているので,「重点新規10社計画・実績表」の得意
先名と「分類別売上明細表」の得意先名順序は一致しない。
    ⑦は,コンピュータの「工場班別担当別分類別採算実績表」(約300
枚)を営業部に伝送し(伝送に要するキーボードのタッチ数は約190回),更に
出力して保管しておく。
    ⑧は,各販売担当者から提出された得意先毎の需要量及び販売量を「シェ
アアップ計画ユーザー実績表」にまとめ,前年比及びシェアを計算し,営業部にF
AXする。対象とする得意先は8社で固定しており,転記数字は約200字であ
る。
    ⑨は,各販売担当者から提出された得意先毎の需要量及び販売量を「シー
ト販売量拡販実績表」に転記し,前年比,シェア及び合計等を計算して,特記事項
については,各販売担当者の情報から記入し,営業部にFAXする。対象とする得
意先は7社で固定しており,転記数字は約210字である。
    ⑩は,各担当者が作成した取引先毎の「債権残推移表」をコピーして営業
部に郵送する(月平均9部)。
    ⑪は,各担当者が作成した取引先毎の「得意先取引条件明細表」(月平均
5件)をコンピュータにより営業部に伝送する(伝送に要するキーボードタッチ数
は約20回)。
    ⑫は,コンピュータの「製品別分類別得意先別実績表」(約45枚)「製
品別分類別得意先別計画表」(約45枚)の数値を「分類別主要ユーザーの動向」
に転記(約2200字)し,集計して,営業部にFAXする。
    ⑬は,コンピュータの「工場予算リスト」(約40枚)「工場販売計画リ
スト」(1枚)の数字を転記して,集計し,各種会議等で得た情報をもとに,ユー
ザー,同業者,価格動向,当月の売上内容,翌月への方針,目標等につき記載した
「営業月報」を営業部に郵送する。
    ⑭は,「確定数値報告」「売単価修正原票」(約80枚)「値引原票」
(約70枚)の数値を転記して,計算し,分析結果を記述した後,上司の承認をも
らい,営業部にFAXする。表面P/Cは確定数値報告から転記し,当月外修正額
は売単価修正原票及び値引原票を集計する。実質P/Cは,確定数値報告の売上高
に当月外修正額を加減し,原価で除して算出する。
    ⑮は,各販売担当者が作成した「値上げ決定報告書」(週約10枚)を集
計し,「値上進捗状況表」に転記し,営業部にFAXする。
    ⑯は,出力した「得意先別売上明細」をそのまま各販売担当者に配付する
のでコピーはしないが,その枚数は250枚ほどになる。
    ⑰は,各販売担当者からの回付の都度,押印して業務課に回付する。週平
均約350枚ほどとなる。
    ⑲は,上司,本社営業企画課,本社営業管理課からの指示事項を記載し,
小山工場総務課が出す行事日程を転記し,本社営業企画課及び本社営業管理課から
の指示事項に基づき,Aから各販売担当者への提出書類の指示を記載する。
    ⑳は,交通費等の費用を負担した販売担当者から依頼された際に,小払現
金請求伝票を発行するだけであり,伝票が総務課に回付され,総務課が各販売担当
者に直接現金を支払う。
    ・は,贈答リスト枚数は約15枚であり,得意先の選定及び贈答品の選定
は,各販売担当者が行うが,販売第1課長の承認が必要である。
    ・は,月約20件ほどある。
    ・は,1社変更に伴い平均15回のキーボードのタッチ数が必要であり,
30社あるので,総タッチ数は約450回となる。
    ・は,品質向上のための会議であり,小山工場全体で行っていた。そこで
は,顧客からの色々な問題提起や工場の中でのクレーム,手配間違い等を議題とし
ていた。Aは委員として出席していたが,資料作成は必要とされなかった。
    ・は,段ボールシートに関するクレームの分析並びにその対策の確認と顧
客に関する情報伝達のための会議であった。Aは,正式な参加要員であったが,資
料作成は必要とされなかった。
    ・は,段ボールケースに関する・と同様の会議である。
    ・は,当月の受注見込のより詳細な確認を行うことが主な内容で,販売外
勤活動に関する事項が中心となる。Aは,当月の販売計画表をコンピュータから出
力し,コピーをして出席者に配付する。ただし,Aはオブザーバーとしての参加で
あった。
    ・は,補助参加人及び小山工場における販売方針の指示,徹底,顧客毎の
前月の実績分析と当月の受注見込みの確認が主な内容で,販売外勤活動に関する事
項が中心であった。Aは,前月の売上実績表,当月の販売計画表をコンピュータか
ら出力し,コピーをして出席者に配付する。ただし,Aはオブザーバーとしての参
加であった。
    ・は,小山工場で機械故障等で長時間機械が止まるような場合,納期に間
に合わないおそれがあるため,急ぐものを先に生産し,納期に余裕のあるものを後
に回すという生産計画の順序変更を,Aと業務課で打ち合わせの上行っていた。A
と業務課との間で調整がつかない時は,変更対象となる顧客の担当販売外勤係に連
絡し,同係が顧客との間で納期を調整することになる。ただし,こうした長時間機
械が止まるトラブルの発生頻度は極めてまれであった。
(2) Aの勤務状況
ア 平成6年4月から12月について
 証拠(乙10,11,17,18,24,27,30,72,証人F)によれ
ば,次の事実が認められる。
(ア) Aは,従来の勤務場所では主に外勤を担当していたので,E小山工場長及びF
販売第1課課長(以下「F課長」という。)らは,当初の1年半位を準備期間と考
え,その間同課長の補佐的事務処理と納期調整事務を担当させることとし,販売管
理上の判断を必要とする事務は,Aが販売第1課の顧客の内容を十分把握してから
担当させることとした。Aは,そのため,従来,Cが販売第1課課長の補助として
行っていた業務をそのまま引き継いだ。また,総務課長は,AがOA機器に不慣れ
と聞いてAに指示し,同年5月及び6月,2回にわたり,Aは,業務課のコンピュ
ータ担当の者から,OACALCの操作方法を教えてもらった。
(イ) Aは,同年4月は休日(祝日を含む。以下同じ。)出勤せず,同年5月は2日
に休日出勤し,同年6月は4日,11日,18日,25日,26日に休日出勤し,
同年7月は2日,9日,16日に休日出勤し,同年8月は6日,13日,16日,
28日に休日出勤し,同年9月は4日,10日,11日,17日,23日に休日出
勤し,同年10月は1日,10日に休日出勤し,同年11月は3日,19日,27
日に休日出勤し,同年12月は3日,10日,24日に休日出勤した。
(ウ) 販売第1課では,来期の販売予算達成に向けての方針の指示,徹底のため,販
売研修会議を毎年3月に開催していたが,Aの直属の上司であったF課長は,平成
6年12月初旬ころ,平成7年度上期の営業活動に向けて,販売研修会議のスケジ
ュール(同年2月14日に班長研修会議を開催して販売数量を決め,同年3月1
7,18日に販売研修会議を開催して販売課全員に周知徹底を図る。)を決めると
ともに,Aに対し,販売研修会議用の資料の書式を渡し,同年2月14日に行う予
定の班長研修会議までに,平成3年度から平成6年度の各上期の実績数値を転記し
ておくよう指示した。
イ 平成7年1月から2月について
 証拠(乙10,11,17,27,30,72,証人F)によれば,次の事実が
認められる。
(ア) Aは,同年1月は7日,8日,14日,16日,21日,28日に休日出勤
し,同年2月は4日,11日,18日,19日,25日に休日出勤した。
(イ) F課長は,同年1月下旬,Aに販売研修会議用の資料作成の進捗状況を確認し
たところ,進捗状況が芳しくなかったので,同課長は,他の者に手助けを求めるよ
う指示し,実際に,同課長及び他の同僚が転記作業を手助けした。
(ウ) 同年2月14日,班長研修会議が開催され,平成7年度上期合計の販売数量が
決定されたので,F課長は,Aを除く班長に対し,決定された合計の販売数量を同
年3月3日までに月別に分解した上,コンピュータに入力するように指示するとと
もに,Aに対し,入力された月別の数値を同年3月16日までに各月の予算欄に転
記するよう指示した。
ウ 同年3月から4月について
 証拠(乙10,11,17,19,21,22,27,30,72,証人F,同
D,同G,原告本人)によれば,次の事実が認められる。
(ア) Aは,3月4日(土),休日出勤した。
(イ) Aは,3月11日(土),休日出勤した後,最終便で郷里の松山に行き,同月
12日(日)の実父の33回忌の法事に出席した。Aは,同月13日(月)は有給
休暇を取っていたものの,同日に販売会議が予定されていたことから,朝一番の便
で戻り,同日午後2時ころ同会議に出席した。
(ウ) 同月17日(金)及び18日(土)に1泊2日の販売研修会議の開催が予定さ
れていたが,同月17日未明に,原告が会社に電話したところ,Aは,販売研修会
議の資料ができていないので残業している旨返答した。Aは,同日午前4時50分
ころ帰宅し,短時間睡眠をとった後,同日午前7時ころ出勤のため家を出た。
(エ) 同月17日及び18日の両日,販売研修会議が開催され,Aも,出席した。
 同会議で使用されたA作成の販売研修会議の資料(乙19)は,「95/上期分
析(担当者別)」「95/上期予算」「95/上期分析」「95/上期予算(販売
数量)(一般シート)」「95/上期予算(販売数量)(ナショナル)」「95/
上期予算(販売数量)(広域)」「95/上期予算(販売数量)(地場)」「95
/上期予算(販売数量)(青果物)」であり,合計52枚であった。いずれの資料
も,平成3年度から平成6年度の各上期の各月毎の実績及び平成7年度上期の予算
の数字が記入され,前年比及び91年比が記入されていた。「95/上期分析(担
当者別)」の「94/上期」欄及び「予算」欄は,各販売担当者から提出された数
値を転記し,「95/上期予算」の「91/上期」から「93/上期」欄は,前年
同期に作成した「94/上期予算」から実績数値を転記し,「94/上期実績」欄
は,「責任部署別実績リスト」から転記し,「予算」欄は各販売担当者が入力した
「95年度上期工場予算リスト」から転記することになっており,記入文字数は,
合計3万9277字であり,Aはうち3万7279字(約95%)を記入した(A
の後任者であった証人Dは,販売研修会議の資料作成も行っているが,担当業務の
中では,一番大変であったと証言する。)。
(オ) Aは,3月21日(火),休日出勤した。
(カ) F課長は,営業企画本部から3月20日付け文書で修正値上計画表の作成の指
示があったので,同月22日,スケジュール(同月27日に販売第1課の値上会議
を開催し,資料の作成について説明を行い,4月3日に各販売外勤係から1次・2
次合計修正値上計画表を提出させ,同月7日までに同計画表を仕上げ,同月10日
までに本社に送付する。)を決めるとともに,Aに対し,3月27日に販売外勤係
全員に配付する予定の修正値上計画表の書式を予め渡して,4月7日までに修正値
上計画表を仕上げること,得意先名,95/上期予算月平均(売上高・数量)等事
前に記入できる項目については,同月3日までに仕上げておくこと,同日には,販
売外勤係から同値上計画表が提出されるので,それを転記するよう指示した。
(キ) Aは,3月25日(土),26日(日),休日出勤した。
(ク) 3月27日,販売第1課の値上会議が開催され,F課長は,販売外勤係全員に
修正値上計画表の書式を配付した。F課長は,同月29日,Aに転記作業の進捗状
況を確認したが,余り芳しくなかったので,同日,同課長が転記作業を手助けし
た。
(ケ) 4月1日(土),棚卸しが行われ,Aは,これに立ち会うため,午前9時45
分に出社し,午後8時26分に退社した。また,同日,組織変更が行われ,Aには
得意先係5名の部下が配置されたが,同日付けで,Aの業務量に変更はなかった。
Aは,4月2日(日)も休日出勤した。
(コ) 4月3日,TQC委員会,値上会議が開催され,Aも出席した。午後6時30
分から午後9時30分まで,同会議に参加するために小山工場を訪れた役員を囲ん
で会社外で会食が行われ,Aもこれに出席した。
(サ) Aは,4月5日,翌日午前2時15分ころに退社した。
(シ) F課長は,4月6日にもAに修正値上計画表作成の進捗状況を確認したが,芳
しくなかったので,課内の他の者に1日外勤活動を行わずに数値の転記作業を手助
けするよう指示をし,同月7日,その者が数値の転記作業を手助けした。
(ス) Aは,4月8日(土),午前10時に出社し,午後7時10分ころ退社した
が,段ボール箱に資料を入れたものを持ち帰り,帰宅後,原告のほか,週末で帰宅
していた長男に修正値上計画表の作成を手伝って貰った。Aは,4月9日(日)午
前中も原告及び長男に修正値上計画表の作成を手伝って貰った後,午後3時30分
ころ出社し,同日午後5時ころ,同課長の設定した締切日から2日遅れでF課長に
これを手渡した。Aは,同日午後8時5分ころ退社した。Aが作成した修正値上計
画表(乙21)は,合計57枚に及び,各顧客毎に,平成7年度上期予算の月平均
について,売上高,数量を記載し,値上前の価格を記載し,値上計画について値上
期日,値上げ幅及び増収額を記載し,月別の増収計画を記載するというものであっ
た。記入文字数は,合計2万5864字に及び,Aはうち1万7137字(約66
%)を担当し,転記を手伝った同じ課の者は5921字(約23%)を担当した
(本社から作成を指示された書類の提出が遅れることは許されず,提出が遅れると
問題視されることになるものであった。平成7年に行われた値上げ運動は,5,6
年に一度の大掛かりなものであり,Dは,翌年以降値上計画表の作成を行わなかっ
た。)。
(セ)Aは,同月10日,午後11時に退社した。
(ソ) 同月11日,午後6時まで値上会議が開催され,Aも出席した。終業後の午後
7時30分から午後11時まで,独身寮の食堂で花見会が開かれ,同会を呼びかけ
たAもこれに出席した。Aは,日本酒を飲み,最後まで同会に残った。
(タ) Aは,同月12日,午前中に行われた会社創立式典に出席した後通常勤務に就
き,翌日午前0時45分に退社した。Aは,勤務時間中周囲の者に,頭が痛いなど
と漏らしていた。
エ Aの本件発症前1か月間の時間外労働時間
(ア) Aの本件発症前1か月間の時間外労働時間について,以下検討する。
a 上記前提となる事実(3)のとおり,Aを含む担当課長以上は,勤務時間,業務進
行の自己管理を定められており,出退勤・残業時間等の記録はないものの,補助参
加人が警備保障を委託している警備会社作成の警備日誌により,休祝日について
は,Aの正確な在社時間が明らかになるところ,上記(2)ウに認定のとおり,Aは,
3月21日,25日,26日,4月1日,2日,8日,9日に休日出勤しており,
証拠(乙72)によれば,警備日誌に記載されたAの出退社時刻の記載から,その
在社時間は,別紙A出退社時刻記載の該当日の出社時刻から退社時刻までと認めら
れる(なお,原告は,4月2日について,警備日誌では,休日出勤者が昼食に出
て,小山工場に戻ってからの時間が記入されない可能性があり,「10:00-
7:30」と記載された原告作成の手帳(甲20)の記載を信用すべきであると主
張するが,証拠(乙23,45,証人B)によれば,警備員は,休日出勤者全てに
ついて出社時刻及び退社時刻を正確に記載していること,食事のため外出する場合
には,食事に行ってきますと大体の者が言っていたので,退社時刻には書き入れて
いないこと,警備員は,警備室にいれば出勤してきた者を把握でき,加えて,警備
室から事務室に入ると事務室内の様子がよく見えたことが認められ,以上の事実か
らすれば,休日出勤者が昼食に外出したことに気付かず,警備員においてこれを退
社時刻として記載したとしても,当該社員の戻ってきた時や,在社中に,警備員は
容易にこれに気付くことができたと推認できるのであり,加えて,Aの休祝日の出
勤状況に関する警備日誌の他の記載について,その信用性を疑わせる事情が特に見
受けられないことも併せ考えれば,4月2日についても,警備日誌の記載を信用す
ることができる。)。
 次に,上記ウに認定のとおり,Aは,3月17日,18日の販売研修会議にいず
れも出席しているところ,証拠(乙48,証人F)によれば,同月18日の販売研
修会議は,午前8時ころから午後3時まで行われたことが認められる。
 そして,在社等が昼を挟む場合には,昼食等に1時間程度の休憩をとることが通
常であるから,これを在社時間から控除すべきであり,その結果,3月中旬以降の
休祝日のAの労働時間は49時間35分となる。
b 上記前提となる事実(3)のとおり,平日についても,Aが最終の退出者である場
合には,警備日誌からAの正確な退社時刻が明らかになるほか,警備日誌に在社時
刻の記載があれば少なくともその時刻までは在社したことが明らかになるところ,
証拠(乙72)によれば,3月16日,4月5日,12日の警備日誌には,いずれ
もAが最終退出者として,その退社時刻が記載されているから,Aの退社時刻は,
別紙A出退社時刻記載の該当日の退社時刻のとおりと認められ,また,4月6日,
10日には,いずれも午後11時にAが在社していたと記載されているから,少な
くともその時刻までは在社していたから,Aの退社時刻は,別紙A出退社時刻記載
の該当日の退社時刻のとおりと認められる。更に,証拠(乙48,証人F)によれ
ば,3月17日の販売研修会議の終了時間は,午後6時から午後7時であることが
認められるから,Aは,少なくとも,同日午後6時まで勤務したことが認められ
る。また,証拠(乙28)によれば,4月3日は,午後6時30分から本社の営業
担当常務との会食があったが,Aは,これに出席しており,午後6時には退社して
いるから,同時間まで勤務していたこと,同月11日は,午後7時30分から独身
寮で花見会が開かれているが,Aはこれに出席しており,その関係で午後7時まで
在社していることが認められる。
 したがって,平日につき,退社時刻は,別紙A出退社時刻記載の該当日の退社時
刻のとおりであり,午後5時までが正規の労働時間であるから,Aの時間外労働時
間を合計すれば,45時間となる。
 なお,原告は,①3月17日の販売研修会議の終了後,午後9時ころまで業務と
して懇親会が持たれていたから,同日については勤務時間を午後9時までとすべき
である,②4月3日は,午後9時30分まで本社の営業担当常務との会食があり,
これは費用を補助参加人が負担し,小山工場から工場長,営業関係の管理職全員が
出席しており,業務とみるべきであり,その後,2次会も行われているが,2次会
も接待業務の延長であるから,これまた業務と考えるべきであり,同日の勤務時間
は帰宅時間の30分前の午後11時25分までとすべきである,③同月11日の花
見会は,雨天のため補助参加人の管理する独身寮の食堂で開催されたこと,参加者
は販売1課,総務課,製造課の17名という多数に及んでいること,Aも出席しな
ければならないと考えてやむを得ず出席していることから,業務と考えるべきであ
り,同日の勤務時間は帰宅時間の30分前である午前零時とすべきであると主張す
る。
 労働時間とは,「労働者が使用者の指揮監督のもとにある時間」であると解すべ
きところ,上記①ないし③は,いずれも酒食を伴う懇親会に過ぎないから,これら
の際,Aが使用者の指揮監督の下にあると直ちにいうことはできず,他に原告の上
記主張事実を認めるに足りる証拠はない。したがって,この点に関する原告の上記
主張は,いずれも採用することができない。
c 上記前提となる事実(3)のとおり,Aの勤務時間は,午前8時15分からである
ところ,証拠(乙48〔末尾253頁〕)によれば,Aは,3月14日,シート品
質プロジェクトミーティングに午前7時50分から参加したこと,同月24日,ケ
ース品質プロジェクトミーティングに午前7時40分から参加したこと,4月3
日,TQC委員会に午前7時30分から参加したこと,同月4日,シート品質プロ
ジェクトミーティングに午前7時50分から参加したこと,同月7日,ケース品質
プロジェクトミーティングに午前7時40分から参加したこと,同月11日,シー
ト品質プロジェクトミーティングに午前7時50分から参加したことが認められ
る。したがって,Aの参加が確認された各種会議の出席により,Aには,3月14
日以降,3時間10分の時間外労働が認められる。
d 証拠(乙28,証人D,証人B)によれば,Aの後任者のDの退社時刻は,概
ね午後8時前後であり,午後6時台に退社するのは1月に1回ほどであったこと
(証人Dも,午後8時を目途に退社していたと証言する。),警備員は,後任のD
の退社時刻は,Aより早いとの印象を有していたことが認められる。
e 上記aないしcに認定の時間外労働時間数を合計すると97時間45分にもな
っているほか,上記dに認定の事実によれば,Aは,警備日誌から判明しない日で
も,3月14日以降全く時間外労働をしていない日はほとんどないと推認すること
ができることを総合考慮すると,3月14日以降の時間外労働時間数は,出社時刻
から始業時刻までの時間及び終業時刻から退社時刻までの時間を控除すべきことを
考慮しても,優に合計100時間を超え,しかも,Aは,その間の休祝日のほとん
どに出勤していたということができる。
(イ) 被告は,Aは在社中,テレビを見たり,ゴルフの練習をしたり,医務室で寝て
いたり,ボーっとしていたりするなど業務の遂行と無関係の行為に時間を費やして
いたと主張する。
 確かに,小山工場の警備員であった証人Bは,Aが休日に出勤してきた際に,ゴ
ルフの練習をやっているのを見たことがある旨証言するほか,乙第48号証(報告
書)中の添付資料には,補助参加人の聴き取り調査に対し,同じ課の者が,Aは残
業時に30分から1時間位席にいないことが結構あった,夜,食堂に来てテレビを
見ながらたばこを吸っていたと述べたなどの記載部分がある。
 しかしながら,上記証人Bの証言については,いつの時期に見たのか明確でな
く,上記乙第48号証の記載についても,補助参加人が行った聴き取り調査に対す
る断片的な回答であるに過ぎないほか,上記(ア)の期間中,Aは,上記ウに認定のと
おり,主に修正値上計画表の作成に追われていたことを併せ考慮すると,上記各証
拠をもって,上記(ア)に認定の時間外労働時間中のAの労働密度が低かったと認める
ことはできない。
オ 前任者及び後任者との比較
 Aの前任者及び後任者の各業務内容,勤務状況とAのそれらとを比較すると,次
のとおりである。
(ア) 証拠(甲6,乙18,28,78)によれば,C(旧姓H。短大卒。平成5年
6月退社当時25歳)は,ⅰ 主に転記作業を中心とする販売管理資料の作成事務
とその伝送事務等,ⅱ 販売研修会議用資料作成補助事務及び値上資料作成補助事
務,ⅲ 営業月報,P/C分析等の報告書作成事務とその伝送事務を行っていた
が,そのうち,ⅰについては,平成5年5月1日以降他課から転属した女性社員が
担当し,ⅱ,ⅲについては,Cの退職以降,販売外勤担当の課長が行い,そのうち
ⅱはF課長が同年7月10日東京本社から着任した以降担当することとなったこ
と,Cは,販売第1課課長の補助的な立場であったので,自分で仕事の管理をして
いたのではなく,同課長から具体的に指示を受けて仕事をしていたこと,Cは,作
成したものを課長に提出するだけであり,課長がそれに書き込みを行ったり訂正を
したりしていたこと,Cが分析や評価を行うことはなかったこと,Cは,少なくと
も別紙業務内容一覧表記載の⑬,⑭のうち分析部分は行っておらず,その外,⑰,
⑲,各種会議への出席業務及び納期調整業務も行っていなかったことが認められ
る。
(イ) 証拠(乙18,28,78,証人D)及び弁論の全趣旨によれば,Aの後任者
であったD(高卒。異動当時56歳)は,それまで専ら内勤を担当してきた者であ
ったが,Dは,Aの業務中,シート品質プロジェクトミーティング,ケース品質プ
ロジェクトミーティングには出席しなくてよいとされたこと(Dが,小山工場に異
動してきた平成7年には,Aらにより修正値上計画表が既に作成されており,Dが
翌年以降値上計画表の作成を行わなかったことは,上記ウに認定のとおりであ
る。),他方,Dは,Aが参加していなかった月1回約30分程度の安全委員会に
参加しており,その他,月1回約1時間程度のミーティングを部下との間で行って
いること,Dは出社時刻及び退社時刻を記録していたが,概ね早ければ午後8時こ
ろ帰れるが,遅い場合には,午後9時,10時になっていたこと,Dは,一部得意
先業務(得意先5,6社。業務量1日40分ないし50分)も行うようになった
が,それは小山工場赴任後1年弱くらい経過してからであること,平成8年5月末
日までのDの時間外労働時間数は,被告の平成13年9月27日付け準備書面別表
1‐①によれば,Dの実労働時間が2567時間05分,所定労働時間が1759
時間15分であるから,時間外労働時間は807時間50分となり,これを所定勤
務日数227日で除すれば1日当たり約3時間33分となっていることが認められ
る。
(ウ) 証拠(乙51,53,55,78,証人D)によれば,Aは,OA機器の操作
が不得手で,膨大な量に及ぶ集計の際の計算を全て手計算で行っていたものであ
り,これがAの長時間労働の大きな要因となっていたこと,これに対し,Dは,コ
ンピュータの操作がある程度できたが,同人が小山工場に異動となった後に,集計
の際の計算をコンピュータ処理するようより改善されたため,Dの労働時間がAの
それと比較して少なくて済む結果となったことが認められる。
2 本件疾病に関する医学上の知見
 証拠(乙68ないし70,96,101,103)によれば,次の事実が認めら
れる。
(1) 本件疾病の概要
 頭蓋内血管の破綻により,血液がくも膜下腔中に出血をきたすものをくも膜下出
血という。その原因としては,脳動脈瘤,脳動静脈奇形,脳出血,頭部外傷などが
あるが,くも膜下出血の原因の75%は,脳動脈瘤の破裂である。
(2) 脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血の病態
 脳動脈瘤には,中膜や内弾性板が欠損した動脈壁が嚢状に拡張し,脳主幹動脈の
分岐部に生じやすい嚢状脳動脈瘤と,椎骨動脈に生じやすい紡錘状脳動脈瘤とがあ
るが,90%が嚢状脳動脈瘤である。
(3) 症状
 脳動脈瘤破裂は,突然のきわめて激しい頭痛,吐き気,嘔吐で発病し,意識障害
を伴う。くも膜下出血発作に前駆する頭痛が,発作の4ないし20日前に約4分の
1の患者に認められる。
(4) 成因
 嚢状脳動脈瘤の成因については,先天的な中膜欠損を原因として発生するとする
先天性説,脳動脈の変性,動脈硬化などが原因であるとする後天性説,先天的な中
膜欠損とともに,脳動脈硬化,高血圧,血行力学的要因が重要であるとする両者併
存説があるが,現在では,嚢状脳動脈瘤の成因は,先天的な中膜欠損という異常,
素地のみならず,加齢,生活習慣,その他の病態(高血圧,糖尿病など)による後
天的な動脈壁の脆弱化がもたらされ,動脈血流の力学的要因が加わって形成される
ものと考えられるようになり,血管内圧と血行力学的因子によって,先天的及び後
天的要因による動脈瘤壁の脆弱性との均衡が崩れたときに破裂するといわれてい
る。ストレスと脳血管疾患との関係については,学問的に未だ明らかにされていな
い。
(5) 脳血管疾患の危険因子(リスクファクター)
 脳血管疾患の危険因子としては,性,年令,家族歴,高血圧,飲酒,喫煙,高脂
血症,肥満,糖尿病などが挙げられ,詳細は,次のとおりである。
ア 性
 男性の発症率が女性の2倍である。
イ 年令
 危険因子への暴露期間が長くなると,病変が発生,進展することとなるから,年
令が増すにつれて脳血管疾患の発症が多くなる。くも膜下出血の好発年令は,40
歳ないし60歳であり,その中でも脳動脈瘤破裂によるものは,40歳台に多い。
ウ 家族歴(遺伝)
 家族の中から続発しても,これだけでは遺伝性とはいえず,食塩の過剰摂取,脂
肪のとりすぎのような共通の生活習慣が原因となることがしばしばである。但し,
高血圧に遺伝的影響があることは明らかである。
エ 高血圧
 高血圧は,脳血管疾患の最大の危険因子である。血圧のレベルが高くなるほど,
脳出血の発症率が有意に上昇する。
オ 飲酒
 飲酒は,血圧を上げる効果があり,脳血管疾患の危険因子となる。飲酒と脳梗塞
及び脳出血の発症率との関係について,脳出血の発症率は,飲酒レベルの上昇とと
もに増加し,少量飲酒のレベルでも有意に高いとの調査結果がある(普通の量の飲
酒なら,あまり問題にはならず,多量の飲酒は,くも膜下出血の危険因子となり得
る,アルコール摂取により,血圧が上昇することが,脳動脈瘤破裂に関係すると考
えられているとの文献〔乙96〕もある。)。
カ 喫煙
 欧米では,喫煙は脳血管疾患の主な危険因子に掲げられているが,我が国では,
喫煙と脳血管疾患の間に有意な関係を認めた疫学調査はほとんどなかった(男性に
ついて,1日10本以下の少量喫煙者は,非喫煙者に比べて脳梗塞発症率が有意に
高かったものの,喫煙レベルの上昇とともに発症率が減少し,非喫煙者と差を認め
なかったとの調査結果がある。)。
キ 高脂血症
 過食する者,脂肪を多く摂る者は,高脂血症になりやすい。コレステロールの高
値は,動脈硬化の危険因子となる。
ク 肥満
 肥満は,様々な生活習慣病を引き起こす温床となり,脳血管疾患は,肥満が要因
となる。
ケ 糖尿病
 糖尿病患者には,血管系の合併症が多発する傾向がある。脳梗塞発症率は,糖尿
病群に高いとの調査結果がある。
3 Aの健康状態
 証拠(乙14,17,22,34,証人G,原告本人)によれば,次の事実が認
められる。
(1) Aの平成6年9月27日当時の身長は165.4㎝,体重は59.6㎏であっ
た。
(2) 平成6年9月27日補助参加人実施の定期健康診断では,Aは,特に異常なし
として,健康との総合判定を受けた。
(3) Aの血圧測定値は,次のとおりであり,平成5年7月26日実施の健康診断で
高血圧を示す数値が出たが,平成6年9月27日実施の健康診断では,正常値であ
った。
ア 平成4年9月11日 最大132 最小73
イ 平成5年7月26日 最大150 最小98
ウ 平成6年9月27日 最大126 最小78
(4) Aは,酒を好み,晩酌として缶ビール350m?1本と日本酒コップ7分目又
は同缶ビール2本を毎日飲んでいた。Aは,1日20本以上の喫煙をしていた。A
の父親は,脳溢血により52歳で死亡している。
4 本件疾病の業務起因性
(1) 労災法に基づく保険給付は,業務上の負傷,疾病,傷害又は死亡に関して行わ
れるものであり(同法7条),遺族補償給付及び葬祭料は,労働者が業務上死亡し
た場合に支給される(労災法12条の8第2項,労働基準法79条,80条)とこ
ろ,労働者が業務上死亡した場合とは,労働者が業務に起因して死亡した場合をい
い,業務起因性が肯定されるためには,業務と死亡との間に相当因果関係が認めら
れることが必要である。
 そして,労働者災害補償制度は,使用者が労働者を自己の支配下において労務を
提供させるという労働関係の特質を考慮して,業務に内在ないし随伴している危険
が現実化して労働者に傷病等を負わせた以上,使用者に無過失の補償責任を負担さ
せるのが相当であるとする危険責任の法理に基づくものである。
 したがって,業務と死亡との相当因果関係の有無は,経験則,科学的知識に照ら
し,その死亡が当該業務に内在又は随伴する危険の現実化したものであるか否かに
よってこれを決するのが相当であるところ,労働者が従事した業務が,脳動脈瘤を
含む血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ,くも膜下出血の発症に至
らせるほどの過重負荷になっていると認められる場合には,当該業務に内在又は随
伴する危険が,それ以外の発症の原因と比較して相対的に有力な原因となったもの
として,死亡との間の相当因果関係を認めることができるというべきである。
(2) ところで,業務の過重性を判断するにあたっては,発症に近接した時期におけ
る負荷(異常な出来事及び短期間の過重負荷)のほか,業務による長期間にわたる
疲労の蓄積が脳・心臓疾患に与える影響も考慮する必要があるというべきところ,
業務による長期の疲労の蓄積が脳・心臓疾患に与える影響について以下検討する。
ア 証拠(乙103ないし105)によれば,新認定基準の基礎となった脳・心臓
疾患の認定基準に関する専門検討会の報告書において,業務による長期の疲労の蓄
積が,脳・心臓疾患に与える影響は,次のとおりであることが医学的知見として確
認されたことが認められる。
(ア) 脳・心臓疾患は,血管病変等の形成,進行及び増悪によって発症するところ,
この血管病変等の形成,進行及び増悪には,主に加齢,食生活,生活環境等の日常
生活による諸要因や遺伝等の個人に内在する要因が密接に関連する。すなわち,
脳・心臓疾患は,以上の要因から生体が受ける通常の負荷により,長年の生活の営
みの中で,徐々に血管病変等が形成,進行及び増悪するといった自然経過をたどり
発症するものであり,労働者に限らず一般の人々にも数多く発症する疾患である。
 しかしながら,加齢や日常生活等における通常の負荷による血管病変等の形成,
進行及び増悪という自然経過の過程において,業務が血管病変等の形成にあたって
直接の要因とはならないものの,業務による過重な負荷が加わることにより,発症
の基礎となる血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し,脳・心臓疾患が発
症する場合があることは医学的に広く認知されている。
(イ) そして,最近では,脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす負荷として,長期間に
わたる業務による疲労の蓄積も認識されるようになってきた。そのため,発症に近
接した時期のみでなく,発症前の長期間にわたる業務の過重負荷に由来する疲労の
蓄積についても考慮すべきである。
(ウ) 業務には,どのような業務であれ,それを遂行することによって生体機能に一
定の変化を生じさせる負荷要因が存在する。この負荷要因によって引き起こされる
反応をストレス反応というが,ストレス反応は個々人によって異なり,血圧上昇,
心拍数の増加,不眠,疲労感などの生理的な反応,生活習慣,疾病休業,事故など
の行動面での反応など多様である。また,一般的な日常の業務等により生じるスト
レス反応は一時的なもので,休憩・休息,睡眠,その他の適切な対処により,生体
は元に復し得るものである。しかし,恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわた
って作用した場合には,ストレス反応は持続し,かつ,過大となり,ついには回復
し難いものとなる。これを疲労の蓄積といい,これにより,生体機能は低下し,血
管病変等が増悪することがあると考えられている。
 したがって,発症との関連において,業務の過重性の評価にあたっては,発症時
における疲労の蓄積がどの程度であったのかといった観点から判断することにな
る。
(エ) そして,就労態様による疲労の影響について,労働時間をみたとき,長時間労
働は,脳・心臓疾患への影響を及ぼすことが指摘されているが,その理由は,具体
的には,①睡眠時間が不足し疲労の蓄積が生じること,②生活時間の中での休憩・
休息や余暇活動の時間が制限されること,③長時間に及ぶ労働では,疲労し低下し
た心理・生理機能を鼓舞して職務上求められる一定のパフォーマンスを維持する必
要性が生じ,これが直接的なストレス負荷要因となること,④就労態様による負荷
要因(物理・化学的有害因子を含む。)に対する暴露時間が長くなることなどが考
えられる。
 このうちでも,疲労の蓄積をもたらす要因として睡眠不足が深く関わっていると
考えられ,脳・心臓疾患のり患率などとの関係では,睡眠時間が6時間未満では狭
心症や心筋梗塞の有病率が高い,睡眠時間が5時間以下では脳・心臓疾患の発症率
が高い,睡眠時間が4時間以下の人の冠状動脈性心疾患による死亡率は7ないし
7.9時間睡眠の人と比較すると2.08倍であるなど,長期間にわたる1日4な
いし6時間以下の睡眠不足状態では,睡眠不足が脳・心臓疾患の有病率や死亡率を
高めるとする報告がある。
(オ) 以上のことから,長期間にわたる長時間労働やそれによる睡眠不足に由来する
疲労の蓄積が血圧の上昇などを生じさせ,その結果,血管病変等をその自然経過を
超えて著しく増悪させる可能性のあることが分かるのであって,業務の過重性の評
価につき,長時間労働に着目してみた場合,現在までの研究によって示される1日
4ないし6時間程度の睡眠が確保できない状態が継続していたかどうかという視点
で検討することが妥当である。
 また,1日5時間以下の睡眠は,脳・心臓疾患の発症との関連において,全ての
報告において有意性があるとされている。そこで,1日5時間程度の睡眠が確保で
きない状態は,労働者の場合,1日の労働時間8時間を超え,5時間程度の時間外
労働を行った場合に相当し,これが1か月継続した状態は,概ね100時間を超え
る時間外労働が想定される。
(カ) 業務の過重性の判断にあたっては,就労態様の諸要因も含めて総合的に評価さ
れるべきものではあるが,疲労の蓄積の最も重要な要因である労働時間にまず着目
し,発症時において長時間労働による疲労の蓄積がどのような状態にあったかどう
かについて検討することが合理的である。労働時間による過重性の評価の大まかな
目安として,発症前1か月間に特に著しいと認められる長時間労働に継続的に従事
した場合は,業務と発症との関連性は強いと判断され,具体的には発症前1か月間
に概ね100時間を超える時間外労働が認められる状態が想定される。
(キ) 休日労働時間は,時間外労働時間として評価することが妥当である。また,休
日労働は,その頻度が高ければ高いほど業務と発症との関連をより強めるものであ
り,逆に,休日が十分確保されている場合は,疲労は回復ないし回復傾向を示す。
(ク) 上記(カ)の要件に該当する事案については,危険因子等を検討した上,明らか
に業務以外の原因により発症したと認められる場合等の特段の事情がない限り,業
務起因性が認められる。
イ 以上アに認定の事実によれば,業務の過重性は,就労態様の諸要因も含めて総
合的に評価されるものではあるが,医学的には,休日労働時間を含め1か月100
時間を超える時間外労働を行った場合には,長時間労働による疲労の蓄積が,脳動
脈瘤を含む血管病変等を自然経過を超えて著しく増悪させ,その結果,脳・心臓疾
患を発症させることがあり,危険因子等を検討した上,明らかに業務以外の原因に
より発症したと認められる場合等の特段の事情がない限り,業務起因性が認められ
るということができる。
(3)ア これを本件についてみると,上記1(2)エ(ア)に説示のとおり,Aの本件発症
前1か月間の時間外労働時間数は100時間を超えているところ,Aが従事した業
務は,東京本社営業部への報告及びそれに伴う資料作成については,別紙業務内容
一覧表記載の⑬,⑭を除いて,いずれもコンピュータデータの伝送,FAX送信,
営業担当者からの報告数値の転記,集計等に過ぎないほか,社内(小山工場)で使
用する資料の作成業務についても,いずれもいわゆる庶務的なものに過ぎないこと
からすれば,その通常業務のみをもって,業務が過重であったと認めることはでき
ない。
 しかしながら,Aは,単に販売第1課課長の補助的立場にあった前任者のCと異
なり,担当課長として分析業務(上記⑬,⑭)も一部行い,各種会議にも出席して
いること,上記1(2)オ(イ)に認定のとおり,Aの後任者であるDの小山工場着任後
1年間の平均時間外労働時間は,被告の計算によっても1日当たり約3時間33分
になること(証拠(乙28)によれば,Dの1月当たりの時間外労働時間は,その
期間中ほぼ平均していることが認められ,業務に不慣れであったなどの他の要因
が,このような時間外労働の原因となっているわけではないと推認することができ
る。)からすれば,Aの通常業務は,一定の負荷を有するものであったというべき
ところ,Aは,それ以外に,いずれも臨時的に,①合計52枚,約4万字にも及ぶ
販売研修会議の資料作成を担当して,その9割以上を行い(後任者のDも,販売研
修会議の資料作成が一番大変であった旨証言していることは,上記1(2)ウのとおり
である。),引き続いて,②合計57枚,約2万6000字にも及ぶ修正値上計画
表の作成を担当して,その約3分の2を行ったものである(同じ課の者がうち約2
3%の記載を手伝っているが,それは1日通常業務を行わずに,そのような記載の
手伝いに専念した結果であるにもかかわらず,約23%しか記載できておらず,A
の記載量は,その者の約2.9倍である。)。このように,販売研修会議の資料作
成及び修正値上計画表の作成は,いずれも事務量が大きいほか,本社から作成を指
示された書類の提出が遅れることは許されない結果,Aは,休日労働までして,修
正値上計画表を作成し,本社への提出期限の前日である日曜日夕方にF課長に提出
していることからすれば,修正値上計画表の作成,提出は,Aにとって切迫してい
た業務であったものの,その事務量に比して作成期間が短いものであったというこ
とができる。
 したがって,一定の負荷を有していた通常業務に,3月中旬から4月上旬にかけ
て,事務量の多い販売研修会議の資料の作成及び事務量が多くそれに比して作成期
間が短い修正値上計画表の作成という臨時的な業務が加わり,しかも,その間休日
労働が連続したことにより,3月中旬以降Aが従事した業務は,その長時間労働に
よる疲労の蓄積が脳動脈瘤を自然経過を超えて著しく増悪させ,破綻させるほどの
過重なものとなったと解するのが相当である。
イ(ア) 被告は,Aが従事していた業務の業務量,業務内容は,Aと同程度の年齢,
経験等を有し,日常業務を支障なく遂行することができる健康状態にある労働者で
あれば,ほぼ所定労働時間の範囲内で行うことができるものであった旨主張する。
 確かに,乙第48号証(報告書)に記載されたAの通常業務の所要時間〔末尾2
54頁,255頁の資料に記載された所要時間〕を合計すれば月約20時間余りと
いう結果となる。しかしながら,証拠(乙53,証人F)によれば,Aは,各種デ
ータについて,これを単に転送等するだけでなく,その正確性を確認していたこと
が認められ,乙第48号証記載の所要時間は,このような確認作業等を考慮してい
るとは認められないし,上記アのとおり,Aとほぼ同じ通常業務を行っていたDも
1日当たり約3時間33分の時間外勤務に従事していたことに照らすと,乙第48
号証記載の上記所要時間がAが実際に行っていた通常業務にかかる時間と直ちに認
めることはできない。
 また,乙第11号証(調査結果をまとめた書面)には,小山工場には,同種労働
者はいないとした上で,他の工場の同種労働者は,Aの業務以外に,得意先を持っ
たり,販売計画の立案などの判断業務に従事しており,Aと比べ業務量が多いとの
記載がある。しかしながら,本件全証拠によっても,比較の対象とした他の工場の
同種労働者の内勤経験年数が明らかでないから,上記記載のみをもって,Aの業務
が他の工場の同種労働者のそれと比較して過重でないとは認め難い。
(イ) また,被告は,DはAの業務に加えて,得意先担当業務(1日当たり40
分),安全委員会への出席,部下管理に関するミーティングなどの業務も担当して
おり,AよりDの方が業務量が多かったとも主張する。しかしながら,上記1(2)オ
に認定のとおり,得意先担当業務をDが行うようになったのは,小山工場着任後1
年弱ほどを経過してからであること,安全委員会は月1回30分に過ぎず,ミーテ
ィングも月1回1時間程度であること,Dは,シート品質プロジェクトミーティン
グ,ケース品質プロジェクトミーティングには出席していないことからすれば,D
の業務量がAのそれと比較して多いと直ちに認めることはできないし,また,上記
1(2)オに認定のとおり,Dが専ら内勤を担当してきた者であることを考慮すると,
Aの業務がDのそれと比較して過重でないとは認め難い。
(ウ) 更に,被告は,Aは班長会議,販売会議にオブザーバーとして出席していたに
過ぎない旨主張するところ,Aが両会議にオブザーバーとして出席していたこと
は,上記1(1)に認定のとおりである。しかしながら,上記1(1)⑬のとおり,営業
月報を作成するには各種会議等で情報を得る必要があったこと,シート販売量拡販
実績表の特記事項欄には,各販売担当者からの情報も記入することとなっていたほ
か,証拠(証人F)によれば,Aはこれらの会議に小山工場の内容把握のために出
席しており,業務上の必要性があり出席していたことが認められることからすれ
ば,Aがオブザーバーとして出席していたことをもって業務の過重性を否定的に評
価することは相当でない。
 (4) 業務以外の危険因子について
 被告は,Aには飲酒,喫煙,年齢,家族歴といったくも膜下出血の発症に関する
危険因子があり,これらの危険因子により,先天的,遺伝的に発症していた脳動脈
瘤が増悪して臨界状態に達し,起床後の出勤準備中という日常動作中に発症したの
であるから,業務と発症との間には事実的因果関係自体認められない旨主張するの
で,以下検討する。
ア 上記3(4)に認定のとおり,Aの父親は,脳溢血により52歳で死亡している
が,上記2(5)ウに認定のとおり,くも膜下出血自体に遺伝性があるとは必ずしもい
えないのであって,遺伝が本件症状発症の要因となったとまでは認められない。
 また,上記2(5)ア及びイに認定のとおり,男性の発症率が女性の2倍であり,A
がくも膜下出血の好発年令に当たるが,Aの性別,年令が本件症状発症の要因とな
ったとまでは認められない。
 Aは,上記3(4)に認定のとおり,1日20本以上の喫煙をしていたものである
が,喫煙については,上記2(5)カに認定のとおり,我が国の調査では,喫煙と脳血
管疾患の間に有意な関係を認めたものがないことに鑑みると,喫煙が本件症状発症
の要因となったとは認められない。
 Aは,上記3(4)に認定のとおり,酒を好み,晩酌として缶ビール350m?1本
と日本酒コップ7分目又は同缶ビール2本を毎日飲んでいたものであるが,上記
2(5)オに認定の事実によれば,上記程度の晩酌がくも膜下出血の危険因子となり得
るような多量の飲酒に当たるとは認められない。また,本件全証拠によっても,4
月11日の花見会の際のAの正確な飲酒量が確定できない以上,花見会の際の飲酒
が本件疾病発症の要因となったとまでは直ちに認め難い(乙第48号証中の添付資
料には,補助参加人の聴き取り調査に対し,小山工場の者が,花見の時にAがかな
り飲んでいた,結構酔っていた,翌日二日酔いか分からないが,気持ち悪そうにし
ていたなどと述べたとの記載があるが,原告本人尋問の結果に照らしても,上記記
載をもって,花見会の際のAの飲酒が限度を超えるものであったとは認め難
い。)。
 以上のとおり,業務以外の危険因子について検討しても,本件疾病について,明
らかに業務以外の原因で発症したと認めるべき特段の事情は認められず,被告の上
記主張は,採用することができない。
イ なお,医師作成の意見書(乙13,87,88,101)中には,被告の上記
主張に沿う記載部分があるが,いずれも,その記載内容に照らすと,上記3に説示
のAの業務の過重性を十分検討せずに医学的意見を述べる(乙13,87)か,業
務の過重性の証明があれば別であるとの前提のもとに医学的意見を述べる(乙8
8)か,あるいは,Aの労働時間が確定できないとし,周囲の者の感想に基づいて
Aの労働密度が高くないとの前提で医学的意見を述べるに過ぎない(乙101)こ
とが認められるから,上記各記載部分をもって,上記(3)アの判断の妨げとなるもの
ではない。
(5) したがって,3月中旬以降Aが従事していた業務は,その長時間労働による疲
労の蓄積が脳動脈瘤を自然経過を超えて著しく増悪させ,破綻させるほどの過重な
ものであり,本件疾病は,このようなAの業務に内在する危険が発現したものと解
するのが相当であるから,本件発症とAの業務との間には相当因果関係があり,本
件疾病は業務に起因するというべきである。
第4 結論
 以上によれば,業務起因性を認めず,労災法に基づく遺族補償給付等を不支給と
した本件処分は違法であり,その取消しを求める本訴請求は,理由があるからこれ
を認容することとし,主文のとおり判決する。
宇都宮地方裁判所第1民事部
裁判長裁判官岩   田       眞
裁判官松   永   栄   治
裁判官宮   田   祥   次

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