弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金一万五千円に処する。
     右罰金を完納することができないときは、金三百円を一日に換算した期
間被告人を労役場に留置する。
     収税官吏の差押にかかる焼酎一斗入樽一個(証第一〇、一一号)同五升
五合入一斗罐一個(証第一五、一六号)同一斗入一斗壺一個(証第一七、一八号)
同二升入樽一個(証第一九、二〇号)四斗桶一個(証第一二号)ふるい一個(証第
一三号)柄杓一個(証第一四号)濾過桶一個(証第二二号)漏斗一個(証第二三号)
コツプ一個(証第二四号)琥珀三五〇瓦(証第二五号)着色剤五〇瓦(証第二六号)
はこれを没収する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人中村登音夫の上告趣意について。
 所論第一点摘示の判例は窃盗の事案に関するものであつて、本件酒税法違反の所
為については必ずしも適切なものとはいい難い。
 しかし原審の確定した判示第一乃至第三の事実は挙示の証拠に照すと、被告人は
政府の免許なく、焼酎を造る目的で、まず昭和二六年二月一日頃被告人居宅で醪一
石一斗一升を造り同月一五日頃前記居宅裏手小屋において二回に亘り右醪のうち八
斗二升を蒸餾して焼酎計五斗八升を製造したが、残りの醪を蒸餾する前に同月一七
日頃発覚したという事実であつて、まさに包括して一個の旧酒税法六〇条一項の罪
と認めるべきものである。蓋し被告人の判示所為は政府の免許を受けないで、焼酎
製造の単一の意思をもつて、その過程として判示醪を造りその一部を同一日時場所
において継続して二回に亘り蒸餾し焼酎の密造を遂げたが残部は蒸餾する前に発覚
したというのであるから、その各個の蒸鑑行為及び残存醪の未蒸餾の状態をそれぞ
れ独立した処罰の対象となる所為と認めるべきではないのである。
 しかるに原審は右二回に亘る焼酎密造の所為及び焼酎密造前に発覚した事実を捉
えて各個独立の焼酎密造の既遂及び焼酎密造未遂の罪が成立し併合罪の関係にある
ものとして法令の適用をしたのであつて、右判断は法令の適用を誤つた違法がある
ものというべく右違法は原判決に影響を及ぼすべきこと明らかであり原判決を破棄
しなければ著しく正義に反するものと認められる。それ故論旨はこの点において理
由があり原判決は破棄を免れない。
 よつて刑訴四一一条一号四一三条但書に則り原判決を破棄し当裁判所は更に次の
とおり判決することとする。
 原判決の確定した事実に法令を適用すると、被告人の判示所為は旧酒税法(昭和
二八年法律第六号附則一四項により改正前のもの)第六〇条第一項罰金等臨時措置
法第二条に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、その金額範囲内で被告人を罰
金一万五千円に処し、右罰金を完納することができないときは刑法第一八条に従い
金三百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべく、収税官吏の差押にか
かる主文第四項掲記の物件はいずれも本件犯罪にかかる酒類、原料、器具、容器等
であるから旧酒税法第六〇条第四項に則りこれを没収すべく、訴訟費用の負担につ
き刑訴一八一条を適用し主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 福原忠男出席
  昭和二八年一〇月二三日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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