弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
被告が、原告を再審査申立人とし補助参加人を再審査被申立人とする中労委昭和四
九年(不再)第二〇号事件について発した昭和五〇年一一月五日付命令は、これを
取消す。
訴訟費用中、補助参加によつて生じた部分は補助参加人の負担とし、その余は被告
の負担とする。
       事   実
第一 当事者の申立
一 原告
1 主文第一項同旨
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告及び補助参加人
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 原告
1 補助参加人は、大阪府地方労働委員会に対し、原告を被申立人として不当労働
行為救済の申立てをし、同委員会は、昭和四九年四月一三日付で別紙二の命令書記
載のとおりの命令(以下「初審命令」という。)を発した。原告は、初審命令を不
服として被告に対し再審査の申立てをしたところ、被告は、昭和五〇年一一月五日
付で別紙一の命令書記載のとおりの命令(以下「本件命令」という。)を発し、右
命令書は、同年一二月二一日原告に交付された。
2 本件命令は、原告が団体交渉拒否及び支配介入の不当労働行為を行つたと判断
しているが、右判断は、以下に述べるとおり、補助参加人が労働組合法(以下「労
組法」という。)第五条第一項により労組法所定の救済適格を有する労働組合であ
るとしている点及び原告が労組法第七条の使用者であるとしている点に誤りがある
ので、本件命令は取消されるべきである。
(一) 労組法第五条第一項による救済適格の欠缺
 補助参加人は、下記のとおり、労組法第五条第二項第三、四号の規定に適合しな
いうえ、同法第二条但書第一号に牴触する組合であり、加入者である阪神在住の芸
能人の待遇を含む福利共済に当る一種の社会団体にすぎないものであつて、補助参
加人に対する団体交渉の拒否が不当労働行為を構成することはありえない。
(1) 労組法第五条第二項第三号は、組合規約の必要的規定事項として組合員が
その労働組合のすべての問題に参与する権利及び均等の取扱を受ける権利を有する
ことを定めているが、補助参加人は使用者を異にする約四〇〇名の楽士らによつて
組織されているものであつて、特定の組合員の労働条件の維持改善等の問題は使用
者を異にする他の組合員にとつて直接利害関係がないから、個々の組合員をすべて
の問題に参与させ、かつ均等に取扱うことは不可能である。しかも補助参加人は所
属組合員の勤務先、住所、収入等を明確に把握していないからなおさらである。従
つて、補助参加人は右同号に適合する労働組合ではない。
(2) 労組法第五条第二項第四号は、組合規約の必要的規定事項として「何人
も、いかなる場合においても、人種、宗教、性別、門地又は身分によつて組合員た
る資格を奪われないこと。」と定めているが、職種によつて組合員資格を制限する
ことも同号に違反するものと解すべきところ、補助参加人は阪神地区の楽士によつ
て組織された楽士組合であつて、職種により加入資格を制限する労働組合であるか
ら、右同号に適合する労働組合ではない。
(3) A及びBは補助参加人の組合員であるが、右両名はそれぞれAバンド及び
Bバンドのバンドマスターであり、それぞれ各楽団の編成、楽器の割振り、楽団員
の採用、解雇、欠員補充、出演料の配分、出退勤管理、演奏技能の教育訓練等楽団
の維持管理に関する業務をすべて担当処理しているものであるから、仮に原告と右
両名の間に雇用関係があるとしても、右両名は、人事労務管理の執行責任を負う労
働者であつて、労組法第二条但書第一号所定の「雇入解雇昇進又は異動に関して直
接の権限を持つ監督的地位にある労働者」に該当する。従つて、補助参加人は、右
同号に牴触する労働組合である。
(二) 原告と楽団員との使用従属関係の不存在
 被告は、本件命令において、原告を労組法第七条の「使用者」であると判断して
いるが、原告における各楽団の出演等の実態は、次のとおりである。
(1) Bバンド及びAバンドと原告が契約を締結した際、右各バンドはバンドが
一体として演奏してテストを受け、これの演奏力が評価されたものであつて、右各
バンドの個々の楽団員の技能、経歴、人物等が評価されたものではない。
(2) 右各バンドは、過去数年間に所属の楽団員の入れ替えを相当数行つている
が、その入れ替えは各バンドのバンドマスターの責任において行つている。また、
右各バンド所属の楽団員の欠勤の際に短期間補充するエキストラの採用も各バンド
のバンドマスターが行つているのであつて、原告はこれに関与したことがないか
ら、各バンドの構成員を具体的に知らない。なお楽団員の他社出演も自由であり、
欠勤についても制裁はない。
(3) 原告は、各楽団員に賃金を支給するのではなく、右各バンドの演奏料とし
てバンドマスターに一定額を支給し、これを受領したバンドマスターは自己の分も
含めて所属する個々の楽団員の演奏報酬を決定し分配している。
(4) 原告の従業員については、就業規則の適用があるのをはじめ出勤簿又はタ
イムレコーダーによる遅刻早退等の時間管理、賃金管理等の労務管理がされている
が、楽団員については右規則の適用はなく、右のような管理もされていない。
(5) 原告は、右各バンドの個々の楽団員に対し演奏ないし演奏技術等について
直接指示ないし注意を与えたことはない。
(6) 原告は、楽団員控室に、飲酒演奏の禁止、ホステスとの雑談禁止、とばく
の禁止、たばこの後始末等を記載した「バンドマンの心得」を店主名で貼付したこ
とがあるが、これは労務管理の目的で貼付したものではなく、原告の施設所有権に
基づく利用者の禁止事項を定めたものである。
 以上のとおり、原告は、Bバンド及びAバンドの各バンドマスターであるB及び
Aと右各バンドの演奏請負契約を締結したものであり、原告と各バンドの個々の楽
団員との間には何らの契約関係がないうえ、個々の楽団員の出欠勤、代演又は個々
の楽団員が他社で出演することも自由であるから、原告が各バンドのバンドマスタ
ーを含む個々の楽団員の労働力を排他的に支配しているということはできない。
 従つて、原告と各バンドのバンドマスターを含む個々の楽団員とは使用従属の関
係がなく、原告は労組法第七条の使用者に該当しないから、本件命令はこの点にお
いて判断を誤つている。
二 被告及び補助参加人
1 請求原因1の事実は認める。
 本件命令の理由は別紙一の命令書記載のとおりであつて、被告が認定した事実及
び判断には誤りがなく、本件命令は正当である。
2(一) 同2(一)の主張は争う。
(二) 同2(二)の主張は争う。
 原告と楽団員との関係は、楽団員らが一定時間原告の経営するキヤバレー「ナナ
エ」において楽団演奏という内容の労務を提供するものであつたから、楽団員の労
働力は一定時間原告において排他的に支配掌握されていた。しかも、原告は、B及
びA両バンドマスターを介して楽団員の人事管理をし、また、業務遂行上の指揮命
令も右両名に一任していたのであつて、楽団員を直接支配していなかつたからとい
つて、原告と楽団員との間に使用従属の関係がないということはできない。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 原告主張1の事実は当事者間に争いがない。
二 本件命令の違法事由について検討する。
1 原告は、本件命令は、原告を労組法第七条の「使用者」と判断しているが、原
告とAバンド及びBバンドの各バンドマスターであるA及びB並びにその各楽団員
らとの間には使用従属の関係がなく、原告は、同条の「使用者」に該当しないか
ら、被告の右判断は誤つている旨主張する。
 同条にいう「使用者」とは、不当労働行為の救済を求める労働者との間で使用従
属を内容とする直接の契約関係に立つ者をいうものと解されるところ、本件におい
ては、原告とA及びBとの間に一定の契約関係が存することは、原告の認めるとこ
ろであるが、原告と右両名を除く各バンドの楽団員との間で右のような内容の契約
が明示的に締結されたことを認めるべき証拠はない。そこで、原告と右両名との間
の契約関係が右のような内容のものであるか否か、及び原告と右両名を除く各バン
ドの楽団員との間で、右のような内容の契約が黙示的に締結されたか否かを以下検
討する。
(一) 成立に争いのない乙第二九、三〇号証、第三三号証、第三七号証、第三九
号証、第四一号証、第四三、四四号証、第五三号証、第五五号証、第六五ないし第
六八号証、第七五ないし第七七号証、第八〇、八一号証、証人Cの証言により真正
に成立したものと認められる甲第四号証の一、二(但し乙第三七号証、第四一号
証、第八〇号証のうちいずれも後記措信しない部分を除く。)及び証人C、同Aの
各証言(但しいずれも後記措信しない部分を除く。)によれば、次の事実が認めら
れる。
(1) 原告は飲食店営業(キヤバレー)を目的とする会社であり、肩書地におい
てキヤバレー「ナナエ」を営業している。「ナナエ」においてはかねて二ないし三
の楽団が交替でシヨーの伴奏をしたり、ダンス音楽等を演奏していたが、昭和四四
年六月ころシヨーの伴奏を担当していたDバンドが解散した。そこで原告はDバン
ドの一員であつたBにバンドを編成して「ナナエ」で演奏することを依頼し、同人
は八人編成によりBバンドを結成して、「ナナエ」においてダンス音楽を演奏する
ようになつた。
 一方、Dバンドの後をついでシヨーの伴奏を担当していたEバンドが臨時のもの
であり、シヨーの伴奏を担当する楽団(以下「シヨーバンド」という。)が必要で
あつたため、原告は芸能関係のあつせんをしていたFにシヨーバンドの紹介を依頼
し、Fは、これをBに依頼した。Bは、同年六月ころ、知人のAに対し「ナナエ」
におけるシヨーバンドの演奏料が一人当り平均六万五〇〇〇円で九人編成の楽団だ
と五八万五〇〇〇円となること及び楽団の演奏時間、「ナナエ」の休業日等につい
て説明をし、シヨーバンドの結成を勧めたため、Aはこれに応じ、以前同じ楽団で
共に仕事をしたことのある者等を集めて九人編成のAバンドを結成し、同年六月末
ころ、「ナナエ」において原告のテストを受けた。右テストに立会していた原告の
G専務取締役は、知人のHやFらの意見を徴したうえ、Aバンドの起用を決めた。
FとBは、G専務にAバンドが実際に「ナナエ」において演奏する際には、必ずし
もテストを受けた際のメンバー全員がそろうとは限らない旨告知したが、G専務
は、テスト時の演奏技術が維持されていればかまわないとして、右テスト終了後A
にF及びBを通じて八月一日から出演するよう伝えさせ、さらにBをしてAらに
「ナナエ」での楽団の演奏時間は午後六時三〇分から同一一時三〇分までであり、
演奏料は一〇日分宛を毎月二日、一二日、二二日に支給される旨説明させた。な
お、採用を決定したG専務は、契約後も楽団の構成員については特に関心を示さ
ず、Aを除くその余の楽団員の氏名、住所、担当楽器、報酬分配方法及び各人の受
取額等についてはこれをAに確認しようとせず、同人からの申出もなかつた。
(2) 原告においては従業員を採用する場合には、いわゆるボーイのそれを除
き、すべて履歴書を提出させたうえ面接試験(技術テストを含む。)を行つてこれ
が採否を決め、採用者からは身元保証書を徴し、またボーイ希望者にはこれまでの
履歴を略記した略歴書を提出させ、面接を行つて採否を決めている。しかし、前記
楽団員の起用に際しては、書面による契約を取交していないのは勿論、右のような
採用のための手続もとらなかつた。Aバンド及びBバンドにおいては、現在に至る
までほとんど毎年数名の楽団員が交代しているが、楽団員の入団はA及びBが独自
にその採用を決め、退団も同人らに通知しただけで行われ、楽団員の入退団につい
ては原告は全く関与せず、自ら又はA及びBを介して前記のような採用手続はとつ
ていなかつたのみか、A及びBからは楽団員交代の通知もなく、僅かに原告は後記
(二)(3)の所得税の申告手続をとる過程において「ナナエ」において音楽演奏
に従事している楽団員の氏名を知り得たのみである。
(3) Bバンド及びAバンドは前記(1)記載の時間内は原告の拘束を受けた
が、その余の時間帯は全く拘束を受けず、他社出演も自由であつた。
(4) 前記のとおり、Bバンドは八人編成であり、Aバンドは九人編成である
が、Bバンドの昭和四四年六月当時の構成員は、昭和四六年に一名、昭和四八年に
一名、昭和四九年に四名が入替り、昭和五〇年現在残つているのは、バンドマスタ
ーのBとIのみであり、Aバンドの昭和四四年八月当時の構成員で昭和四八年三月
当時残つていたのは、バンドマスターのAとJ、K、Lの四名のみであり、更に現
在は右KもAバンドから退団している。
(5) 右各楽団の演奏の対価は、昭和四四年八月当時、Bバンドが月額四八万
円、Aバンドが月額五八万五〇〇〇円であつて、原告は、右金額を三回に分割して
(毎月一日から一〇日までの分として一二日に、一一日から二〇日までの分として
二二日に、二一日から月末までの分として翌月二日に支払われている。)、右各楽
団のバンドマスターであるB及びAに演奏料名下に支払い、同人らが同人ら名義で
これを受領していた。個々の楽団員の演奏報酬は、B及びAが各楽団員の演奏能力
等を考慮して全く独自に決定し、原告の了解を得たこともまたこれを報告したこと
もなく、従つて原告は、個々の楽団員の演奏報酬額の決定について関与していなか
つた。なお、Bバンドでは原告から支給される演奏料で楽団を維持できない場合に
は構成員をへらしてやりくりをしていた。また、その後演奏料が増額されている
が、いずれも各楽団員個人を対象にその技能等を基準にしてその報酬を決定しこれ
を合算して新演奏料を定めているわけではなく、楽団を単位にし物価上昇率等を考
慮してこれを定めていた。欠勤した楽団員の代役としていわゆるエキストラが出演
しても、右エキストラに対する報酬を前記演奏料とは別に原告において支払い又は
負担したことはなく、エキストラに出演を依頼したA又はBバンドにおいてこれを
支払つていた。右各バンドがエキストラも起用せず、バンドの編成人数を著しく欠
いて出演した場合にも、原告は各バンドの演奏料を減額することはなかつた。
(6) 原告においては楽団員以外の従業員に対しては出勤簿又はタイムレコーダ
ーを備えつけ、始業に際しては業務遂行上の指示をし、かつ、日常の勤務態度につ
いても勤務評定を行うなどかなり厳格な労務管理を行つているが、楽団員について
は右のような時間管理がないのは勿論直接又はバンドマスターを介して勤務評定を
行つたこともなく、労務管理は一切行つていなかつた。従つて、各バンドが構成員
を欠きあるいは欠勤者の代役としてエキストラを起用して演奏した際にも、楽団員
の欠勤、遅刻、早退については注意や制裁を行わず、他方楽団員からも欠勤等の届
出は原告に対しては事前事後を問わず一切なされていなかつた。
(7) 各楽団の演奏については原告が「ナナエ」において特別の催しを企画する
際には、その雰囲気に合つた音楽の演奏を依頼することがあつたが、それ以上に具
体的に演奏形式、演奏曲目を指示することはなく、各バンドのバンドマスターであ
るB及びAが曲目の選定、演奏の指揮をし、Aバンドがシヨーの伴奏をする際に
は、シヨーに出演するタレント等関係者との間でシヨーの進行と伴奏及び効果につ
いて打ち合せたうえで行つていた。
 以上の事実が認められ、前記乙第三七号証、第四一号証及び第八〇号証、証人C
及び同Aの各証言並びに参加人代表者尋問の結果中右認定に反する部分は措信しえ
ず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
 以上の事実、殊にAバンド起用の際の経緯、各楽団員の採用及び退団の際の実態
及び手続、楽団員交代の告知の有無、各楽団に対する演奏料の計算方法及び支払態
様、各楽団員への演奏報酬の支払方法及び支払額の決定方法、原告がA及びBを含
む各楽団員につき直接、間接を問わず労務管理と目すべきものを行つておらず、A
あるいはBが自己のバンドの内部の管理一切を行つている事実に徴すると、Aバン
ドはAが、BバンドはBがそれぞれ自己の名義と計算において経営している楽団と
いうべきであつて、右両名を除く楽団員らは、各人が原告に対し直接出演ないし演
奏する義務を負つている関係にはないものといわなければならない。この点につい
て、A及びBが楽団員の採用及び退職、各人の受領すべき報酬額の決定等について
原告から一切の権限を委ねられていたものと解して、右両名以外の楽団員も原告と
直接の契約関係に立つ者であつたとすることは、音楽演奏業務の特殊性を考慮に入
れても、使用者が自己の社員たるべき者に対して行使する権限を余りに広汎に右両
名に委ねたこととなり、通常の契約当事者の合理的意思に反し、相当でないものと
考えられる。それ故、Aバンド及びBバンドが「ナナエ」において演奏しているの
は、原告と右各バンドを率いるA及びBとの間の音楽演奏請負契約に基づくものと
認めるのが相当である。
 なお、成立に争いのない乙第七二、七三号証、丙第三、四号証、第八号証にはA
及びBを含む各楽団員らは各自原告から賃金を受領していたかのごとき記載がある
が、右各書証の記載に徴すると、右はA及びBらが原告に対し演奏料の値上等を要
求するに際し、各自の配分額を賃金という名称で表示したものにすぎないものと認
めるのが相当であるから、なお右判断を妨げる資料とはなし難いものである。
 また、成立に争いのない乙第一七ないし第二一号証、丙第六号証の一、二には、
原告の専務取締役Gらが「解雇」、「従業員バンド」等の、各楽団員らが原告と直
接雇用契約を締結していることを前提とするような発言をした旨の記載があるが、
右各書証並びに前掲乙第四一号証及び第四四号証によれば、右各発言は、補助参加
人組合が各楽団員の労働条件について原告に交渉を申し入れた後になされたもので
あつて、文字どおり「解雇」ということばが使われたのではなく、そのような楽団
はやめてもらうとの趣旨が述べられたものであり、その他の発言は、組合本部の人
を除いて「ナナエ」に出演している楽団員との間でのみ交渉したいとの趣旨のもの
であつたことが認められるので、右各書証の記載も右判断を妨げる資料とはならな
い。
 よつて、A及びBを除く楽団員と原告との間では黙示的にも前記のような内容の
契約が締結されたものと解することはできないから、原告は右楽団員との間におい
て労組法第七条の「使用者」の立場に立つものではないというべきである。
 また前記のとおりAおよびBにおいて独自に楽団員の採否を決め、各楽団員を管
理し、かつ、指揮監督している反面、原告からは労務管理ないし指揮監督を受けて
いない事実に徴すると、原告とA及びBとの間には使用従属の関係があるとは認め
られず、原告は、右両名との関係でも労組法第七条の「使用者」ということはでき
ない。
(二) 尤も前掲甲第四号証の一、二、乙第三三号証、第三七号証、第三九号証、
第四一号証、第四三、四四号証、第六五ないし第六八号証、第七五ないし第七七号
証、証人C及び同Aの各証言によれば、次の事実が認められる。
(1) Bバンドは昭和四四年六月から、Aバンドは同年八月一日から「ナナエ」
において音楽演奏をしているが、演奏時間は一つの楽団が午後六時三〇分から午後
一〇時三〇分までの間に約三〇分間宛四回、他の楽団が午後七時から午後一一時ま
での間に約三〇分間宛四回であり、両楽団共概ね約四時間拘束を受けている。
(2) 原告は楽団員らに対し給与所得税の源泉徴収を行つている。
(3) 楽団員が交代した場合、B及びAにおいてその都度原告に報告することは
なかつたが、翌年一月、各楽団員の記載した「給与所得者の扶養控除等申告書」を
提出することによつて右交代の事実は、原告に知り得るものとなつていた。
(4) 原告は「ナナエ」において特別の催しを企画した際には各楽団に対し、そ
の催しの雰囲気に合つた音楽の演奏を依頼したことがあつたほか、営業部長におい
て各バンドの演奏の良否等につき日報に記入し、拙劣な演奏に対してはバンドマス
ターに注意を与えていた。また、かつて楽団員の中に明らかに演奏技術が著しく劣
る者がいたため、原告の営業部長がバンドマスターにその旨指摘したことがあり、
その翌日から右楽団員は出演しなくなつたことがあつたし、楽団員が客席に背を向
けて演奏していたことがあつたため、これをバンドマスターに注意したこともあ
り、更に客席の状況に応じ楽団の音量の調整をバンドマスターに指示したこともあ
つた。
(5) 昭和四四年八月当時楽団員らの控室には店主名をもつて、飲酒演奏の禁
止、ホステスとの雑談禁止、とばくの禁止並びにたばこの後始末の注意等を内容と
する「バンドマンの心得」が貼付され、楽団員がくわえたばこで「ナナエ」のホー
ルを歩いたときや楽団員らが客席に呼ばれて飲酒したときには営業部長から注意が
なされた。
(6) 原告には営業部長を会長とし、慰安旅行、慶弔活動等を目的とする従業員
の親睦団体「ナナエ会」があるが、A及びBらを含む楽団員らは全員これに加入
し、各人月額二〇〇円の会費を納入していた。なお積立金額が慰安旅行の費用を充
たない場合は原告において不足額を負担していた。
 しかし、前記(1)のように、Bバンド及びAバンドが一定時間原告から拘束を
受けるのはその請負つた仕事の性質上当然のことであり、このことから原告と右各
バンド構成員との間で使用従属を内容とする契約が締結されていたものということ
はできない。
 前記(2)の原告がバンドマスターを含む楽団員に対し所得税の源泉徴収を行つ
ていたとの点は、前掲乙第三七号証、第三九号証、第四一号証、第六五ないし第六
八号証、第七七号証、証人Cの証言によつて認められる事実、すなわち前記のとお
り原告において個々の楽団員の報酬額の決定に関与せず、その額を把握していなか
つたので、Bバンドの楽団員の分については、同バンドの楽団員が毎年一月Bを通
じて原告に提出している「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の右上角の欄
外に記入された報酬額に基づいて所得税を計算しており、Aバンドの楽団員の分に
ついては、同バンドの楽団員がAを通じて原告に右申告書を提出する際にAが別の
用紙に記載した楽団員の報酬額に基づいて所得税を計算していること、そして右申
告書等に記載された各バンドの楽団員の報酬額は、申告されている楽団員の人数が
実際の人数よりも多いために、実際に個々の楽団員が受取る報酬額よりも少ない額
になつていたこと等の事実に徴すると、原告が行つていた源泉徴収は原告が所得税
法上の徴収義務者としてこれを行つていたものではなく、原告が楽団員の税金対策
のため便宜をはかり、その実質収入を少しでも多く確保すると共に、原告が納付す
べき源泉徴収税額を少なくするためにしていたにすぎないことが明らかである。
 前記(3)の原告に対する楽団員交代の報告は、前掲乙第三七号証、第四一号
証、第七七号証によれば、前記(2)の所得税の源泉徴収を行うためになされたも
のであり、しかも原告に報告された氏名は必ずしも本名ではなく、また前記のとお
り楽団員の数も実際のそれとは異ることが明らかであり、原告に楽団員の管理を行
わしめるためになされたものとはいえない。
 前記(4)のように、原告が各バンドに対し催しにあつた音楽の演奏を依頼した
り、拙劣な演奏や客に対する失礼な態度があつた場合注意を与えあるいはバンドマ
スターに対しこれを指摘することは、音楽演奏を依頼するものとして当然のことで
あり、また、前記(4)の事実によれば原告が演奏技術の著しく劣つた者を解雇し
たものとはいい難い。原告がバンドマンの心得として各楽団員に対し前記(5)の
ような事項を禁止しあるいは前記(5)のような注意を与えたとしても、それは自
己の管理する施設内で接客業務を営むものが同施設内で音楽演奏を行う者に対し施
設を管理し社内秩序を維持するためにする注文として当然のことである。
 前記(6)の「ナナエ会」は右に認定したように同一の職場に働く者の親睦を深
めるための団体であり、前記乙第三七号証、証人Cの証言によれば、Aらも現に
「ナナエ」において演奏活動をしていたため、右会への加入を認められたものにす
ぎないことが明らかである。
 従つて前記(1)ないし(6)の事実はいずれも原告とA及びB並びに各楽団員
との間に使用従属を内容とする契約関係が成立していると解すべき根拠にはならな
いものであり、前記(一)の判断を妨げうるものではない。
三 そうだとすると、原告がA及びB並びにその各楽団員との関係で労組法第七条
の「使用者」に該当することを前提として、補助参加人の救済申立を認容して発し
た初審命令を維持し、原告の再審査申立を棄却した本件命令は、その余の点につい
て判断するまでもなく、違法な行政処分として取消すべきである。
四 よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用
の負担について民事訴訟法第八九条、第九四条を適用して、主文のとおり判決す
る。
(裁判官 桜井文夫 福井厚士 仲宗根一郎)
(別紙一)
命令書(再審)
中労委昭和四九年(不再)第二〇号
昭和五〇年一一月五日命令
再審査申立人 有限会社阪神観光
再審査被申立人 大阪芸能労働組合
       主   文
1 初審命令主文を次のとおり変更する。
 初審命令主文第三項を主文第四項とし、主文第二項中記の(3)を削り、同項を
主文第三項とし、主文第一項の次に次の一項を加える。
「2 被申立人は、昭和四七年一一月一七日付内容証明郵便をもつて申立人組合員
Aに対してなした請負契約解除予告通知を撤回しなければならない。」
2 その余の本件再審査申立てを棄却する。
       理   由
第一 当委員会の認定した事実
1 当事者
(1) 再審査申立人有限会社阪神観光(以下「会社」という。)は、肩書地にお
いてキヤバレー「ナナエ」および料理飲食店「富裕」を営む会社で、その従業員は
約二〇〇名である。
(2) 再審査被申立人大阪芸能労働組合(以下「組合」という。)は、風俗営業
を営む企業において音楽演奏業務に従事する者約三〇〇名で組織するいわゆる合同
労組である。
 会社における組合員(以下「分会員」という。)は、本件審問終結当時八名で、
ナナエ分会(以下「分会」という。)を組織している。分会員八名のうち、A、
B、J、L、Kの五名は昭和四四年八月一日以降、Mは昭和四五年五月一日以降い
ずれも継続して「ナナエ」の楽団演奏の業務に従事しており、他の二名については
明らかでない。
2 楽団の編成経過
(1) 昭和四四年六月ごろ、それまで約三年間にわたり「ナナエ」でシヨーの伴
奏を担当していた楽団が解散し、その楽団の一員であつたBがバンドマスターとし
てBら楽団員八名で構成される楽団(以下「Bバンド」という。)を編成した。B
バンドはナナエでダンス音楽やムード音楽の演奏を担当することになつたため、シ
ヨーの伴奏を主として担当する楽団(以下「シヨーバンド」という。)が必要とな
つた。
 そこで会社は、「ナナエ」のシヨーに出演する歌手や踊子をあつせんしていたF
プロダクシヨンのFに、適当なシヨーバンドがいないかと相談し、FはBにシヨー
バンドを編成できる人を探してほしいと依頼した。
(2) 同年六月中ごろ、Bは、知人であつて大阪市<以下略>の喫茶店「慕情」
の楽団員であつたAに対して、バンドマスターとしてシヨーバンドを編成し「ナナ
エ」で楽団演奏をするよう勧誘した。その際Bが挙げた条件等は次のとおりであ
る。
① 楽団の人員は九名とし、その編成はAに一任する。
② 楽団の一カ月の演奏料は、楽団員一人当り手取り六万五千円として九名分の合
計金五八万五千円とする。
③ 契約期間は一年とし、その間問題がなければ期間を自動延長する。
④ 「ナナエ」の営業時間は午後五時三〇分から同一一時三〇分までで、楽団の演
奏時間は午後六時三〇分から同一一時二〇分までである。
⑤ 休日は毎月第二日曜日、第三日曜日および年末年始の一二月三一日から一月二
日までの間である。
⑥ 楽団員に対して給与所得税の源泉徴収を会社が行う。
⑦ その他細部については、会社の規則や指示に従う。
(3) AはBの勧誘に応じて、過去に同じ楽団で仕事をしたことのある者等を集
めてAをバンドマスターとして、Aら九名で構成される楽団(以下「Aバンド」と
いう。)を編成し、六月末ごろ「ナナエ」のステージで会社のテストを受けた。
 このテストには、会社専務取締役G、F、B、H等が立ち会つた。テストは五曲
ほど演奏して終り、Aら九名は会社の指示に従つて近くの喫茶店で待機している
と、F、Bが来てテストに合格したことを告げ、概ね次の諸条件を示し、Aらはこ
れに合意した。
 ①昭和四四年八月一日から「ナナエ」で仕事をしてもらうこと、②演奏時間は午
後六時三〇分から同一一時二〇分までの間で、実際の出演時間は営業部長またはF
の指示に従うこと、③演奏料は毎月二日、一二日、二二日に三分の一ずつ一括して
Aに交付し、分配はAに一任すること。
 しかし、これらの諸条件は、契約書として取り交わされていない。
 なお、テストに立ち会つたHは、その当時は宝塚歌劇団音楽部にピアノ奏者とし
て勤務しており、同歌劇団音楽家労働組合の執行委員であつたが、昭和三八年ごろ
には「ナナエ」で楽団員あるいはバンドマスターとして働いていたこともあり、G
専務の長年の知己であつて会社の顧問あるいは音楽部長のような立場にあつて音楽
に関する助言をしていた者である。
3 会社における楽団員の出演等の実態
 AバンドおよびBバンドは、昭和四四年八月ごろから「ナナエ」で演奏業務に従
事していたが、その出演等の実態は次のとおりであつた。
(1) 楽団演奏業務の対価は、昭和四四年八月からAバンドが月額五八万五千
円、Bバンドが月額四八万円であつたが、昭和四八年一二月からはAバンドが月額
七三万八千円、Bバンドが月額五三万一千円に増額された。そして、各バンドマス
ターは、毎月三回にわけ演奏料名儀でこれを受領し、その中から自らの取り分を差
し引いて残額をその所属楽団員に分配していた。
(2) 会社は、Aバンドの採用の際、楽団員の各自について住所、氏名、年令、
配分額、扶養家族等の報告を受けたが、その後の楽団員の退団または入団について
は楽団全体としての演奏水準が著しく低下しない限りAに一任していた。
 しかし、Bバンドについては、昭和四六年一二月ごろ会社は、楽団員一名を技量
が劣悪であることを理由としてBに指示して退団させたことがあつた。
(3) 楽団員の欠勤を短期的に補充するエキストラ(臨時雇)および退団に伴う
後任者の募集については、楽団員全員が協力してこれにあたり、後任者の配分額は
概ね前任者と同額であつた。
 なお、後任者の氏名についてBバンド、Aバンドは、その都度会社に通知するこ
となく、毎年一月「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を会社に提出してい
た。
(4) 楽団員以外の従業員については、出勤簿またはタイム・レコーダーが備え
付けられているが、楽団員についてはこれがなかつた。
 しかし、支配人は毎日、楽団員の人員の不足、音の良否等を点検し、日報に記入
して会社に報告していた。
(5) 会社は、楽団に対して歌謡調、ジヤズ、ハワイアンといつた包括的な旋律
の流れやその場の雰囲気をもりあげるといつた指示、あるいは客のリクエスト曲の
演奏をバンドマスターに指示することがあつたが、そのほかの番組作成、演奏曲目
の特定、演奏指揮などについては、会社にその能力を欠いていたためバンドマスタ
ーに任せていた。
 しかし、楽団の演奏に対し演奏技術、音質については、Fまたは営業部長がバン
ドマスターに「音がおかしいじやないか。」「あれを何とかしてくれへんか。」等
と指摘し、音量についても客席の状況にあわせて調節するよう指示することがあ
り、楽団員の人員の不足については営業部長がバンドマスターに注意することがあ
つた。
(6) 演奏時間は、午後六時三〇分から同一一時二〇分までの間である。
(7) 楽団員の控室はホステスの更衣室の一部があてられており、同控室には昭
和四四年八月当時、店主名をもつて「バンドマンの心得」が貼付されていた。同心
得には飲酒演奏の禁止、ホステスとの雑談禁止、とばくの禁止、たばこの後始末の
注意等が記載されており、楽団員が「ナナエ」のホール内をくわえたばこで歩いた
ときや楽団員が客席に呼ばれて飲酒をしたときには、営業部長に呼ばれて注意を受
けることがあつた。
(8) 会社は、昭和四五年一月以降、毎月の休業日を廃止し、年間の休日を年末
年始の休業日である三日間のみとした。そのため楽団員の毎月二日間の休日もなく
なつたが、昭和四七年五月以降は後記事情により、Aバンドは毎週日曜日、Bバン
ドは毎週月曜日あるいは火曜日を休日として演奏業務を行わなくなつた。しかし、
Aバンドが休む日曜日にはBバンドがシヨーの伴奏も行う等、両バンド間で演奏に
支障のないようにしている。
(9) 会社には営業部長を会長とする「ナナエ会」と称する親睦会があり、楽団
員もこれに加入している。会費は役付従業員、ホステスおよび楽団員は月額二〇〇
円、その他の従業員は月額一〇〇円であり、楽団員の会費の徴収は、演奏料から会
社が控除していた。ナナエ会の活動は、慰安旅行ならびに慶弔時の祝金および見舞
金の支給等であり、慰安旅行に要する経費が会費の積立金額を超過するときは会社
が超過分を負担していた。
4 組合と会社の関係
(1) Aら楽団員は、昭和四五年一月ごろからFを通じて、再三にわたり演奏料
の引上げを要求した。しかし、会社がこれに応じず、また、毎月の休日も前記のと
おり昭和四五年一月以降廃止されたこと等から、これに不満を抱いた楽団員の間で
昭和四六年一二月ごろから労働組合結成の気運が起つた。そして翌四七年二月四
日、Aバンドの全員(当時八名)およびBは組合に加入し、即日分会を結成した。
(2) 二月七日組合は、会社代表取締役Nに対して、①二月分の賃金より分会員
一名につき月額一万円の増額 ②労働基準法の遵守、特に休日の実施および賃金支
払形態の改善 ③労働協約の締結等を内容とする要求書を提出するとともに、同月
一二日までに体交渉を開催するよう申し入れた。
(3) しかし、会社が指定期限を過ぎても団体交渉に応じなかつたため、組合は
二月一六日、兵庫県地方労働委員会(以下「兵庫地労委」という。)に団体交渉促
進のあつせんを申請した。これに基づき同地労委事務局職員が事情聴取を行つたと
ころ、会社は団体交渉に応じる意向を示したので、組合はあつせん申請を取り下げ
た。
(4) 二月二七日第一回団体交渉が行われ、組合側は委員長O、分会委員長J、
分会書記長K外一名が、会社側はG専務がそれぞれ出席した。この団体交渉でO委
員長は、年次有給休暇等について同種業者である「ミス大阪」の労働協約等を説明
して、四週間を通じて四日間の休日だけでも実現するよう主張した。これに対して
G専務は、「ここの会社は従業員と幹部の間が家族的に和気あいあいとしてやつて
きたから、そういう形ですべて解決したい。」などと述べ、交渉は進展することな
く、次回の団体交渉を三月一五日までに行うことを約して終つた。
(5) 三月七日午後一一時ごろJ分会委員長およびK分会書記長は、「富裕」の
一階カウンターでG専務に第二回団体交渉の開催日をたずねたところ、G専務は
「お前らだけで来い。Oとは会わん。」、「組合を通じて要求を出すというやり方
をするんだつたら全員やめてもらう。」などと述べた。
(6) 三月九日Aバンドの演奏中にN社長は、営業部長Pを通じてAを会社事務
所に呼び出し、「どうしてこんな風になつたのや。組合運動なんかせんでもいいや
ないか。月給上げてくれと言うてきたらしてあげるのに。」、「会社としては、組
合としての要求には一切応じられない。」、「組合抜きで直接おだやかに話し合え
るよう考えてほしい。」などと述べた。これに対してAは、「よく考えてみま
す。」と答えて、演奏に戻つた。
(7) 同日の約一時間後にN社長とG専務は、AとBを「富裕」の一階のロビー
に呼び、「組合を抜きにして話をしようやないか。」、「組合本部を通じた要求に
は一切応じられない。」、「会社としてはナナエの従業員バンドと話し合いた
い。」などと述べた。また、同席したHは、「私は宝塚で労働運動をやつているか
ら組合のことに詳しい。Oは大芸労((注)組合の略称)を名乗つているが事務所
はないし、やつていることは結局事件師だ。だから大芸労をやめて会社に対する交
渉なんか私に一任してくれないか。」などと述べた。
 なお、Hがこの席に出たのは、G専務から「ナナエのバンド自体の単組が、Aを
筆頭として会社に給料を上げてくれと言うてくるなら話に乗れるが、全然関係ない
人に横から口出しされたのでは、話になるものもならんから、そのことをAとBに
言うてくれないか。」などと依頼されたからである。
(8) 三月一〇日P営業部長は、AとBを「ナナエ」一階事務所に呼び出して
「社長がこんなガチヤガチヤするバンドはもういらんと言うている。」、「組合運
動は考えなおしたらどうや、これは個人として話すんだ。」などと述べた。翌一一
日Pは、バンドマン控室でAに対して、昨日の話は撤回する旨を伝えた。
(9) 組合は、会社のこのような態度に対抗するため、三月一二日、分会員のス
トライキ権批准投票によつて、分会のストライキ権を確立した。
(10) 組合は、第一回団体交渉で約束した三月一五日に至つても会社が団体交
渉に応じなかつたため、三月一六日、再度兵庫地労委に団体交渉促進のあつせんを
申請した。あつせんは四月三日、兵庫地労委で行われ、あつせん員は会社に自主的
団体交渉を勧告し、会社がこれを受諾したので、組合はあつせん申請を取り下げ
た。
(11) 団体交渉は四月一一日、二〇日と行われたが、会社は、会社と楽団員の
関係は請負契約によるものであると主張しながら、主として休日について組合と交
渉を行つたが、その交渉は進展しなかつた。
(12) 五月四日の団体交渉で組合は、Aバンドは毎週日曜日を、Bバンドおよ
びそのころ別に編成されていたQバンドは交代で毎週月曜日および火曜日をそれぞ
れ休日とするよう提案し、会社は五月中旬まで回答の延期を求めた。しかし、組合
は、会社が団体交渉を引き延ばし組合の要求解決に不誠意であるとするとともに、
休日に関する上記組合提案の実施により、会社の業務運営に支障が生じた場合は協
議する旨会社に申し入れた。そして同月七日の日曜日から各バンドは、組合提案の
内容で休日を実施した。
(13) 五月四日以降団体交渉は中断していたが、九月二六日組合は、あらため
て会社に対し、①分会員の賃金を月額一万五千円増額 ②労働協約の締結等に関す
る要求書を提出するとともに、一四日以内に団体交渉を開催するよう申し入れた。
(14) しかし、会社が上記要求書に対して何らの回答も行わないため、組合
は、一一月一日付通知書で、「一〇月三〇日ストライキ権行使に関する手続を完了
し……貴社の独善的態度の反省を要求するため、ストライキ権に伴う各種団体行動
と……あらゆる方法によつて、争う」ことを会社に通告した。
(15) 組合は、一一月一五日付通知書で、「本月一日通告したストライキ権に
基づく第一次行動として本日より、貴社の団交拒否に抗議する意思表示の手段とし
て、腕章を着用」する旨通告した。
 Aバンドの分会員は、一一月一五日から同月一八日まで毎日、午後五時三〇分ご
ろ「ナナエ」のステージで組合の腕章を着用して、労働歌を一曲演奏した。この演
奏がなされたのは、営業開始直後で客の来店前の時刻であつた。
(16) 一一月一六日P営業部長は、J分会委員長外一名の組合員に対し、労働
歌の演奏等について「誰の指示でやつているのか。」、「君らは店に使われとるの
か、Oに使われとるのか。」、「店から金をもらつて店に使われとるんやから、店
の言うことも聞いたらどうや。」、「労働歌を演奏して店のムードをこわすような
バンドはいらん。」などと述べて、労働歌の演奏の中止を求めた。
(17)一一月一七日組合は、兵庫地労委に団体交渉促進についてあつせんを申請
したが、会社は、理由を示すことなくこれに応じなかつた。
(18) 会社は、一一月一八日付内容証明郵便でAあてに「請負契約解除予告通
知書」を送付し、Aは翌一九日にこれを受取つた。この通知書には「貴殿等は、当
社の制止にも拘らず、ホール内で組合の腕章を着用し、労働歌の演奏を強行されて
います。右のような行為は……即刻中止方を要望します。……右の行為を継続され
る場合には、当方も止むを得ず右貴殿との右請負契約を解除し、当社ホール内への
出入を禁ずることとなります……。尚右請負契約による報酬の増額についての話合
については当社はいつにてもこれに応じる用意があります。」等の内容が記載され
ていた。
(19) 組合は、一一月一九日以降腕章の着用と労働歌の演奏を中止した。
(20) 前記3の(1)のとおり、会社は、昭和四八年一二月にAバンド、Bバ
ンドの楽団演奏料を増額している。しかし、この増額に際して会社は、組合と話し
合いをしていない。
(21) 昭和四九年五月一七日組合は、①労働基準法等労働関係諸法規の完全遵
守 ②分会員の賃金を月額三万円増額等の要求書を会社に提出するとともに、五月
二二日または五月二三日に団体交渉を開催するよう申し入れた。
 また、同年一〇月一〇日組合は、分会員の賃金を月額四万円増額すること等の要
求書を会社に提出し、団体交渉を開催するよう申し入れた。
 これらの要求に対して会社は、団体交渉に応じていない。
以上の事実が認められる。
第二 当委員会の判断
1 会社と楽団員の関係について
 会社は、会社と楽団員との関係は使用従属関係にあるとした初審判断を争い、会
社は、バンドマスターであるA、Bの両名と楽団演奏の請負契約をしているもの
で、楽団員とは直接雇用関係はない、従つて、楽団員は、労働組合法第七条第二号
に規定する「使用者が雇用する労働者」に該当しないと主張する。
(1) しかしながら、当委員会は下記の理由により会社の主張はこれを採用しな
い。
 すなわち、前記第一の2および3認定のとおり、会社は、楽団員の人員の過不
足、演奏技術や音質についての注意、演奏上の包括的指示、その他日常の楽団員の
行為に対する注意を与えているのであるから、楽団員の勤務の実態は毎日特定の場
所で、特定の時間帯に、会社の指示監督の下に演奏業務に従事してその対価を得て
いるものと言うことができる。
 このような事情の下においては、会社と楽団員との契約関係の形式にかかわりな
く、労働組合法の趣旨、目的からみて、本件楽団員は労働組合法第七条第二号に規
定する雇用する労働者と認めることに支障はない。
(2)会社は、会社と楽団員との間に支配従属関係がない理由として、①楽団員の
欠員補充等は行なつていないこと、②演奏料はA、Bに一括支払つていることを挙
げている。
① なるほど、演奏番組の作成、曲目の特定、演奏指揮などはバンドマスターであ
るA、Bにまかされており、また、楽団員の欠員補充、アルバイトの採用などもA
とBによつて行われてはいる。しかし、これらは、会社には楽団員の技能を評価す
る能力がないことから生じたことであつて、このことをもつて、楽団員と会社との
間には「雇用関係」がないとすることはできない。むしろ、芸能関係における特殊
性に鑑み、会社において音楽の演奏に当る労働者に関する上記の事項は、あげてA
およびBに一任していたとみられるのである。
② また、AおよびBは会社から一定額の演奏料を受取り、それを使用楽器の種
類、演奏技術等により、それぞれのバンド所属の楽団員に自らをも含めて分配して
いるのであるが、給与所得の源泉徴収は、個人毎に会社が行なつていること、ま
た、AおよびB自身が組合の組合員であることについては何人もこれを疑つていな
いし、同人らが楽団員との団体交渉についてその相手方となりうるような実態を具
えていないことなどに徴すれば、AやBは会社に対する関係においては自らをも含
めた楽団員の代表者にすぎないものと認められるのである。
2 本件団体交渉拒否と不当労働行為の成否について
(1) 会社は、楽団員は労働組合法第七条第二号に規定する「使用者が雇用する
労働者」に該当しないことを主張し、これを理由に組合との団体交渉を拒否してい
る。しかし、前記第二の1判断のとおり楽団員は同条同号の「使用者が雇用する労
働者」と認められるのであるから、本件団体交渉拒否は正当な理由を欠くものと認
めざるをえず、これを不当労働行為とした初審判断は相当である。
(2) なお、会社は、組合が団体交渉において要求する事項については一応解決
済みであり、団体交渉を命ずる利益と必要性がない、また、会社としてはA、Bの
各楽団と直接交渉を求めているのであるから、組合との団体交渉を拒否する正当な
理由があると主張する。
 しかしながら、前記第一の3の(1)および第一の4の(20)認定のとおり、
なるほど、会社が昭和四八年一二月以降演奏業務の対価を一人当り約一七、〇〇〇
円増額し組合員を含む楽団員は増額分を受領していることは認められるが、これは
それまでに二回にわたる組合の一人当たり計二五、〇〇〇円増額要求につき要求ど
おりのものでもなく団体交渉が行われた結果にもとずくものでもなく、会社が一方
的に実施したものである。また、組合は労働協約の締結をも要求しているのである
から、組合との団体交渉を命ずる利益と必要性がないと認めることはできない。
 また、会社は、楽団との直接交渉を希望しているが、そのこと自体、組合を無視
する会社の一貫した態度を示すものであつて、組合との団体交渉を拒否する正当理
由とは認められない。
3 N社長の言動等の不当労働行為の成否について
 会社は、N社長らの言動は支配介入の不当労働行為に該当する、とした初審判断
は誤りであると主張する。
 前記第一の4の(5)ないし(8)認定のとおりのN社長ら会社職制およびHの
言動は、組合活動に対する支配介入行為に該当するものと認めざるをえない。次に
前記第一の4の(15)、(16)および(18)認定のとおり客が来店していな
かつたとしても、組合員が腕章を着用して営業時間中に労働歌を演奏したことは、
これを直ちに正当な労働組合活動と認めることにはちゆうちよせざるをえず、会社
がその中止を求めたこと自体責めることはできないが、本件の場合内容証明郵便で
請負契約解除の予告を通知していることは、如何にも行過ぎであつて、これは上記
判断の一連の支配介入の言動と同じく組合を無視し、組合活動をけん制する支配介
入行為と認めざるをえない。
 従つて、N社長ら職制およびHの言動等を不当労働行為であるとした初審判断は
結果において相当である。
 以上のとおり、本件再審査申立てには理由がない。ただ、前記請負契約解除の予
告通知に関する救済として初審命令では陳謝文の一項目として挙げているが、事案
の内容からみて主文のとおり命ずるのが相当であると考える。
 よつて、労働組合法第二五条、同第二七条および労働委員会規則第五五条を適用
して主文のとおり命令する。
(別紙二)
命令書(初審)
大阪地労委昭和四八年(不)第三号
昭和四九年四月一三日 命令
申立人 大阪芸能労働組合
被申立人 有限会社阪神観光
       主   文
1 被申立人は、申立人が被申立人に提出した昭和四七年九月二六日づけ要求書の
記載事項について、申立人とすみやかに団体交渉を行なわなければならない。
2 被申立人は、縦一メートル、横二メートルの白色木板に左記のとおり明瞭に墨
書して、被申立人が経営するキヤバレー「ナナエ」の正面玄関西側の楽団員の出入
りする通路の一階階段壁面の見やすい場所に一週間掲示しなければならない。

年月日
申立人組合代表者あて 被申立人会社代表者名
 当社は、左記の行為を行ないましたが、これらの行為は労働組合法第七条第二号
および第三号に該当する不当労働行為であることを認め、ここに陳謝するととも
に、今後このような行為を繰り返さないことを誓約いたします。

(1) 貴組合の昭和四七年九月二六日づけ要求書の記載事項について団体交渉を
拒否したこと
(2) 当社代表取締役N、同専務取締役Gらが貴組合員に対して、貴組合からの
脱退および組合運動の中止を慫慂したり組合を通じて要求すれば全員解雇するなど
の発言をしたこと
(3) 貴組合員らが、昭和四七年一一月一五日から同月一八日まで毎日午後五時
三〇分ごろ、当社が経営するキヤバレー「ナナエ」において、貴組合の腕章を着用
して労働歌を演奏したことに対し、昭和四七年一一月一八日づけ内容証明郵便をも
つて貴組合員A氏に対し請負契約解除予告の通知をしたこと
以上、大阪府地方労働委員会の命令によつて掲示します。
3 申立人のその他の申立ては棄却する。
       理   由
第一認定した事実
1 当事者
(1) 被申立人有限会社阪神観光(以下「会社」という)は、肩書地において従
業員約二〇〇名でキヤバレー「ナナエ」および料理飲食店「富裕」を営む会社であ
る。
(2) 申立人大阪芸能労働組合(以下「組合」という)は、風俗営業を営む企業
において演奏業務に従事する者約三〇〇名で組織する合同労組である。会社におけ
る組合員(以下「分会員」という)は、本件審問終結当時六名であり、ナナエ分会
(以下「分会」という)を組織している。
2 会社における楽団の編成経過について
(1) 昭和四四年六月ごろ、それまで約三年間にわたりキヤバレー「ナナエ」で
シヨーの伴奏を担当していた楽団が解散し、その楽団の一員であつたB(以下
「B」という)がバンドマスターとして新たに楽団(以下「Bバンド」という)を
編成したが、Bバンドはキヤバレー「ナナエ」で主としてダンス音楽やムード音楽
の演奏業務を担当することになつたので、シヨーの伴奏を主として担当する楽団
(以下「シヨーバンド」という)が必要となつた。
 そこで会社は、当時キヤバレー「ナナエ」の芸能部門を担当していたF(以下
「F」という)に適当なシヨーバンドを探すように指示し、Fはこのことについて
Bに依頼した。
(2) 同年六月中ごろBは、当時大阪市<以下略>の喫茶店「慕情」における楽
団の一員であり、かつ、同人の知人であつたA(以下「A」という)に、Aがバン
ドマスターとしてシヨーバンドを編成しキヤバレー「ナナエ」で楽団演奏を行なう
ように依頼した。その際Bが挙げた条件等は次のとおりであつた。
① 楽団の人員は九人とし、その編成はAに一任する。
② 楽団の一カ月の演奏料は、楽団員一人平均手取り六万五千円として九人分の合
計金五八万五千円の範囲内とする。
③ 契約期間は一年とし、その間問題がなければ期間を自動延長する。
④ キヤバレー「ナナエ」の営業時間は、午後五時三〇分から同一一時三〇分ま
で、楽団の演奏時間は、午後六時三〇分から同一一時二〇分までである。
⑤ 休日は会社の休業日にあたる毎月第二日曜日および第三日曜日ならびに一二月
三一日から一月二日までの間である。
⑥ 楽団員に対し、給与所得税の源泉徴収を行なう。
⑦ その他細部については、会社の規則や指示に従うこと。
(3) Aはこの依頼に応じて、同じ楽団でともに仕事をしたことのある者らを勧
誘して九人で構成される楽団(以下「Aバンド」という)を編成し、六月末ごろキ
ヤバレー「ナナエ」のステージでテストを受けた。
 テストには、会社の専務取締役G(以下「G専務」という)F、BおよびG専務
の友人H(以下「H」という)らが立ち会つた。テスト終了後、Aら九人が会社の
指示に従つて近くの喫茶店で待機していると、FとBがやつてきて概ね次のとおり
述べた。
 ①テストは合格したこと、②四四年八月一日からキヤバレー「ナナエ」で仕事を
してもらうこと、③演奏時間は午後六時三〇分から同一一時二〇分までの間で、実
際の出演時間については、営業部長またはFの指示に従うこと、④演奏料の分配に
ついてはAに一任すること、⑤演奏料は毎月二日、一二日および二二日に三分の一
ずつ一括してAに交付すること。
3 会社における楽団員の出演等の実態について
 AバンドおよびBバンドは、四四年八月ごろからキヤバレー「ナナエ」で演奏業
務に従事していたが、その出演等の実態は次のとおりであつた。
(1) 分会員六名のうち、五名は四四年八月一日以降、他の一名は四五年五月一
日以降、いずれも継続して楽団演奏の業務に従事していた。
(2) 楽団演奏に対する対価は、Aバンドについては月額五八万五千円、Bバン
ドについては月額五三万円で、いずれも各バンドマスターが演奏料名義でこれを受
領し、バンドマスターが各所属楽団員とともにこれを配分し、バンドマスターを含
む楽団員はこれを主たる収入源として生計をたてていた。
(3) 会社は、Aバンドの採用の際、楽団員の各自について住所・氏名・年令・
配分額・扶養家族等の報告を受けたが、その後の楽団員の退団または入団について
はバンド全体としての演奏水準が著しく低下しない限り、Aにこれらのことを一任
していた。
 しかし、Bバンドについては、会社が楽団員一名を技量劣悪を理由に、四六年一
二月ごろBに指示して退団させたことがあつた。
(4) 楽団員の欠勤を短期的に補充するエキストラ(臨時雇)および退団に伴う
後任者の募集については、楽団員全員が協力してこれにあたり、後任者の配分額は
概ね前任者のそれと同額であつた。
(5) 演奏曲目その他会社のバンドに対する指示は、営業部長またはFを通じて
なされていた。
(6) 演奏時間は、午後六時三〇分から同一一時二〇分までの間であつた。
(7) 会社は、四五年一月以降、毎月の休業日を廃止したため、年間の休日は年
末年始の休業日にあたる三日間のみとなつた。しかし、四七年五月以降は後記事情
により、AバンドとBバンドはそれぞれ毎週日曜日および月曜日は休日として演奏
業務を行なつていなかつた。
(8) 楽団員の控室にはホステスの更衣室の一部があてられていた。同控室に
は、四四年八月当時、店主名をもつて発せられた「バンドマンの心得」が貼付され
それには、①飲酒演奏の禁止、②ホステスとの雑談禁止、③とばくの禁止、④たば
この吸殻の後始末の注意が記載されていた。
(9) 楽団員の人数は毎日営業部で点検し、人員の不足、音の良否等について
は、支配人が日報に記入して会社に報告していた。
(10) 出勤簿またはタイム・レコーダーは、楽団員以外の従業員については備
え付けられているが、楽団員についてはこれがなかつた。
(11) 会社には、営業部長を会長とするナナエ会と称する親睦会があり、楽団
員もこれに加入していた。会費は、役付従業員、ホステスおよび楽団員については
月額二〇〇円、その他の従業員については月額一〇〇円であり、慰安旅行の経費な
らびに慶弔事の祝金および見舞金等に支出されていた。なお、慰安旅行に要する経
費が会費の積立金額を超過するときは、会社がその超過分を負担していた。また、
楽団員の会費の徴収については、演奏料から会社が控除していた。
4 組合と会社の関係について
(1) Aら楽団員は、四五年一月ごろからFを通じて再三にわたり、会社に対し
て演奏料の引き上げを要求してきた。しかし、会社がこれに一向に応じず、また、
毎月の休日も前記のとおり四五年一月以降廃止されたこと等からこれに不満を抱い
た楽団員らの間で四六年一二月ごろから労働組合結成の気運が起こり、四七年二月
四日、Aバンドの全員(当時八名)およびBは組合へ加入し、即日分会を結成し
た。
(2) 組合は、二月七日、会社代表取締役N(以下「N社長」という)に対し
て、①二月分の賃金から分会員一人につき一万円の増額、②労働基準法の遵守、特
に休日の実施および賃金支払形態の改善、③労働協約の締結等を内容とする要求書
を手交するともに、同月一二日までに団体交渉(以下「団交」という)を開催する
よう申し入れた。
(3) しかし、団交開催についての組合の指定期限が過ぎても会社が団交に応じ
ないため、組合は、二月一六日、兵庫県地方労働委員会(以下「兵庫地労委」とい
う)に団交促進のあつせんを申請した。これに基づき同地労委事務局職員が事情聴
取を行なつた結果、会社は団交に応じる意向を示したので、組合はその申請を取り
下げた。
(4) 二月二七日、第一回団交が行なわれ、組合側は組合委員長O(以下「O委
員長」という)、分会委員長J(以下「J」という)、分会書記長K(以下「K」
という)外一名が、会社側はG専務がそれぞれ出席した。席上、O委員長は年次有
給休暇等について、同種業者である「ミス大阪」の労働協約等を一つのモデルケー
スとして説明し、四週間を通じて四日間の休日だけでも実現するよう要求したが、
G専務は、「ここの会社は従業員と幹部の間が家族的に和気あいあいとしてやつて
きたから、そういう形ですべて解決したい」などと述べ、交渉は進展することなく
終り、次回の団交を三月一五日までに行なうことを約した。
(5) 三月七日、JおよびKが「富裕」の一階カウンターで、G専務に第二回団
交の開催日を尋ねたところ、同専務は、「お前らだけで来い。Oとは会わん」、組
合を通じて要求を出すというようなやり方をするんだつたら全員やめてもらう」な
どと述べた。
(6) 三月九日、Aバンドの演奏中にN社長は、営業部長P(以下「P部長」と
いう)を通じてAを会社事務所へ呼び出し、「どうしてこんな風になつたのや。組
合運動なんかせんでもええやないか。月給上げてくれと言うてきたらしてあげるの
に」、「会社としては、組合としての要求には一切応じられない」、「組合抜きで
直接おだやかに話し合えるよう考えてほしい」などと述べた。
(7) また、その約一時間後、N社長とG専務は、AとBを「富裕」の一階のロ
ビーに呼び、「組合を抜きにして話をしようやないか」、「組合本部を通じた要求
には一切応じられない」、「会社としてはナナエの従業員バンドと話し合いたい」
などと述べた。また同席したHは、「私は宝塚で労働運動をやつているから組合の
ことに詳しい。Oは大芸労(申立人を指す。以下同じ。)を名乗つているが事務所
はないし、やつていることは結局事件師だ。だから、大芸労をやめて会社に対する
交渉なんか私に一任してくれないか」などと述べた。
 なおHは、宝塚歌劇団音楽部に楽士として勤務しており、宝塚歌劇団音楽家労働
組合執行委員であるが、G専務とは長年の知己であり、音楽について同専務の顧問
をつとめていた者であり、またそのころ、G専務から「ナナエのバンド自体の単組
が、Aを筆頭として会社に給料を上げてくれと言うてくるなら話に乗れるが、全然
関係のない人に横から口出しされたのでは、話になるものもならんから、そのこと
をAとBに言うてくれないか」などと依頼されていたものである。
(8) 三月一〇日、P部長はAとBに対し、「社長が、こんなガチヤガチヤする
バンドはもういらんと言うている」と述べた。
(9) 会社のこのような態度にふんがいした分会員および組合員らは、三月一二
日ごろ組合大会を開きストライキを行なう旨決議した。
(10) 三月一六日、組合は再び兵庫地労委に団交促進のあつせんを申請したと
ころ、四月三日、同地労委あつせん員は会社に自主団交を勧告し、会社がこれを受
諾したので、組合はその申請を取り下げた。
(11) 四月一一日、団交が行なわれた。会社は、会社と楽団員の関係は請負契
約によるものである旨主張しつつも、主として休日について組合と交渉を行なつた
が、その交渉は進展しなかつた。
(12) 四月二〇日も団交が行なわれたが、前回の団交の繰り返しに終つた。
(13) 五月四日、団交が行なわれ、組合は、Aバンドは毎週日曜日を、Bバン
ドおよびそのころ別に編成されていたQバンドは交代で毎週月曜日および火曜日
を、それぞれ休日とするよう提案したが、会社は五月中旬まで回答の延期を求め
た。しかし組合は、会社が団交を引き延ばし組合の要求解決について不誠意である
と非難するとともに、休日に関する上記組合提案の実施により会社の業務運営に支
障が生じた場合は協議する旨会社に申し入れ、同月七日からこれを実施した。
(14) 五月四日以後、団交は中断したが、九月二六日、組合はあらためて会社
に対し、分会員の賃金の月額一万五千円の増額、労働協約の締結等に関する要求書
を提出するとともに、一四日以内に団交を開催するよう申し入れた。
(15) しかし、会社が上記要求書に対して何らの回答も行なわないため、組合
は一一月一日づけの通知書で、一〇月三〇日にストライキ実施に関する手続を完了
したこと、会社に反省を求めるため争議権に基づく各種の団体行動その他あらゆる
方法によつて争うことの旨会社に通告した。
(16) 組合は、一一月一五日づけ通告書で、同月一日づけの前記文書で通告し
たとおり同月一五日から、会社の団交拒否に抗議する意思表示の手段として争議権
に基づき腕章を着用する旨通告するとともに、同日から同月一八日まで毎日午後五
時三〇分ごろ組合の腕章を着用して労働歌を演奏した。
(17) 一一月一六日、P部長はJ外一名の組合員に対し、労働歌の演奏等につ
いて、「誰の指示でやつているのか」、「君らは店に使われとるのか、Oに使われ
とるのか」、「店から金をもらつて店に使われとるんやから、店の言うことも聞い
たらどうや」、「労働歌を演奏して店のムードをこわすようなバンドはいらん」な
どと述べて労働歌の演奏の中止を求めた。
(18) 一一月一七日、組合は兵庫地労委に対し、団交促進についてあつせんを
申請したが、会社は理由を示すことなくこれに応じなかつた。
(19) 会社は、一一月一八日づけ内容証明郵便でAあてに、組合の腕章の着用
と労働歌の演奏の中止方を要望するとともに、上記行為を継続する場合にはAとの
請負契約を解除し会社ホール内への出入りを禁ずることとなる旨記載した「請負契
約解除予告通知書」との標題の文書を送付し、組合は同月一九日これを受領した。
(20) 組合は、一一月一九日以降腕章の着用と労働歌の演奏を中止した。
第二 判断
1 会社と楽団員の関係について
(1) 組合は、会社と楽団員の間には労働契約関係が存在すると主張する。一方
会社は、①会社と各楽団員が労働契約を締結した事実はなく、AおよびBのそれぞ
れとの間に、キヤバレー「ナナエ」において同人らから楽団演奏のサービスの提供
を受けることを容とする請負契約を締結したに過ぎないから、会社と各楽団員の間
について労使の対抗関係は存在せず、従つて本件について不当労働行為が成立する
余地はない旨主張し、さらに、②本件のように不当労働行為の成立の前提要件たる
労働契約の有無が争点となつている場合、その判断は裁判所に専属し労働委員会の
管轄外であるから、この点に関する裁判所の判断が確定して初めて労働委員会に救
済を求めることができる旨主張する。よつて、以下これらの点について判断する。
(2) まず、上記(1)の②記載の会社主張について考えると、労働委員会は、
使用者が労働組合法第七条の規定に違反した旨の申立てを受けたときは、調査およ
び審問を行ない、事実の認定をし、この認定に基づいて申立人の請求にかかる救済
を認容しまたは申立てを棄却する命令を発する権限と職責を有する(労働組合法第
二七条)。従つて、労働委員会は、その権限を行使し職責を果たすために、必要な
事項について必要かつ十分の範囲内において、事実を認定し判断する権能を有する
と解すべきである。もし、労働契約の有無が争点となつている場合にはこの点に関
する裁判所の判断が確定するまで不当労働行為の救済申立てが許されないとするな
らば、使用者が労働契約の存否を争うかぎり、裁判所の判断が確定するまで、常に
労働者または労働組合は労働委員会に対して救済申立てをすることを阻止されるこ
とになり、不当労働行為制度は没却されることになるであろう。よつて、この点に
関する会社の上記主張は採用することができない。
(3) 次に上記(1)の①記載の会社主張について考えると、不当労働行為が成
立するための前提としての分会員と会社の労使関係の存在の有無についての判断
は、両者の間の契約形式にとらわれることなく労務遂行過程の実態に即して使用従
属関係の有無に従つてなされるべきである。
 前記認定のとおり、①分会員は、キヤバレー「ナナエ」において三年ないし四年
にわたり継続して楽団演奏の業務に従事していること、②楽団員は、楽団演奏の対
価として会社から受取る金銭を主たる収入源として生計を立てていること、③毎日
の勤務時間は約五時間と定められ、会社の指揮命令の下に演奏業務に従事している
こと、その他前記認定のAバンド採用に至るまでの経緯ならびに楽団員の出演の実
態等に徴するとき、楽団員は会社に人的経済的に従属しているというべく会社と楽
団員とは使用従属関係にあるものと判断せざるを得ない。もつとも、楽団員の入退
団・演奏料の配分等はバンドマスターによつて行なわれていることが認められる
が、これは会社が楽団員の演奏に関する技能を評価する能力を有しないところか
ら、バンドマスターにこれらの権限を委任していることによるものと解せられ、ま
た楽団員は勤務時間、出勤時間、その他の点について他の従業員と異る取扱いを受
けている面もあるが、これらのことは前記判断の妨げとなるものではない。
2 組合の被救済資格について
 会社は、組合は合同労組であるが交渉権を中央本部で掌握し分会の交渉権を認め
ていないから、このような組合は労働組合法第五条に定める被救済資格を欠く旨主
張するが、労働組合が労働委員会に救済を申し立て、かつ、その救済が与えられる
ためには、労働組合法第二条および第五条第二項の諸要件を具備すれば足りるので
あつて、その労働組合の下部組織である分会に交渉権が認められていることを要件
としていないのであるから、会社の主張は理由がない。
3 団体交渉について
(1) 組合は、会社は四七年二月四日の分会結成直後の組合の団交申入れに対し
て容易にこれに応じず、九月二六日の団交申入れに対しては本件審問終結時に至る
も正当な理由なく団交に一切応じていないと主張し、会社はこれを争う。
 よつて、以下この点について判断する。
(2) 四七年二月四日、分会結成直後、組合が一万円の賃上げ、休日の実施等労
働基準法の遵守、労働協約の締結等を要求して団交は申し入れたのに対して、会社
は組合のあつせん申請に基づいて行なわれた兵庫地労委事務局職員の事情聴取後の
同月二七日に至つて初めてこれに応じたこと、組合と会社が約定した第二回の団交
開催期限の三月一五日までの間にN社長およびG専務は、J、K、AおよびBに対
して「組合本部を通じての団交に応じない」、「会社は組合との団交に応じない」
などと発言し、上記期限を過ぎても団交に応じず、組合申請による兵庫地労委のあ
つせんにより、ようやく四月一一日第二回の団交に応じたこと、同月二〇日および
五月四日に第三回および第四回の団交が行なわれたが交渉は全く進展せず五月四日
以降交渉が中断したこと、九月二六日、組合はあらためて一万五千円の賃上げ、労
働協約の締結等を要求して団交を申し入れたが、本件審問終結時に至るも会社はこ
の申入れに応じていないことは、前記認定のとおりである。これらの経過に徴すれ
ば会社は組合を嫌悪して、分会結成直後の団交申入れに対して組合体部を通じての
団交には応じないなどの発言を繰り返して容易にこれに応じず、兵庫地労委のあつ
せんによりようやく応じたものの、九月二六日以降は理由を示すことなく組合との
団交に全く応じていないことは明らかであるから、このような会社の行為は労働組
合法第七条第二号に該当する不当労働行為である。
4 会社の組合に対する言動について
 組合は、会社は分会の結成以来組合を嫌悪し、組合の運営に対し支配介入してい
る旨主張し、会社はこれを否認するので、以下、この点について判断する。
(1) N社長らの言動について
 四七年三月七日、G専務がJおよびKに「組合を通じて要求を出すというような
やり方をするんだつたら全員やめてもらう」などと述べたこと、三月九日、N社長
は楽団演奏中のAを会社事務所に呼び出し「組合運動なんかせんでもええやない
か。月給あげてくれと言うてきたらしてあげるのに」などと述べ、また、同席した
Hは、組合とOを非難し、「だから大芸労をやめて会社に対する交渉なんか私に一
任してくれないか」と述べたことは前記認定のとおりである。
 まず、三月七日のG専務の発言は、組合の要求に対して楽団員全員の解雇を示唆
してその抑止を意図し、また同月九日のN社長の発言は、待遇の改善を示唆して組
合活動の中止を慫慂し、さらに同席したHの発言は、組合からの脱退を慫慂するも
のであり、いずれも組合への干渉であつて許されない。
 なお、Hの発言は、前記認定のとおりG専務の依頼を受けてなされたものと推認
されるから、会社の行為とみなすべきである。
(2) 労働歌の演奏に対する会社の措置について
 四七年九月二六日、組合は、賃上げ一万五千円、労働協約の締結等を要求して団
交を申し入れたが会社が応じないため、一一月一日争議権に基づく団体行動を予告
し、同月一五日から同月一八日まで毎日午後五時三〇分ごろキヤバレー「ナナエ」
において、楽団員が組合の腕章を着用して労働歌を演奏したこと、これに対して同
月一六日、P部長がJ外一名の分会員に「店に使われとるんやから店の言うことも
聞いたらどうや」、「労働歌だけでもやめてほしい。そんな店のムードをこわすよ
うなバンドはいらん」などと述べてその中止を求め、また会社は、一一月一八日づ
け請負契約解除予告通知書なる標題の文書をAあてに送付し、組合の腕章の着用と
労働歌の演奏の中止方を要望するとともに、その行為を継続する場合にはAとの請
負契約を解除し、Aバンドの会社ホール内への出入りを禁ずることになる旨警告し
たことは前記認定のとおりである。
 ところで、楽団員が組合の腕章を着用して労働歌を演奏したことは、団交に応じ
ない会社への抗議の意思表示の手段として行なわれたものであり、また演奏時刻も
営業開始直後の客の来店前のことであり会社の業務に支障を与えたものでもないか
ら、組合の正当な行為の範囲に属するものと認められる。従つて、組合の腕章の着
用と労働歌の演奏の中止を求めたP部長の発言ならびに会社の前記請負契約解除予
告通知は組合活動に対する干渉であると言わざるを得ず、また、上記請負契約解除
予告通知は分会員に動揺を与え、会社内における組合活動の抑圧を意図するものと
断ぜざるを得ない。
(3) 以上の判断のとおり、上記N社長の発言、ならびに分会員らの腕章の着用
および労働歌の演奏に対する会社の措置は、いずれも組合の運営に対する支配介入
であり、労働組合法第七条第三号に該当する不当労働行為である。
5 なお、組合は、分会員を会社の従業員として取り扱い、雇用関係を否定するよ
うな行為を禁止するようにとの救済をも求めるが、主文によつて救済の実を果しう
ると考えるので、そのような救済を付加する必要を認めない。
 以上の事実認定および判断に基づき当委員会は、労働組合法第二七条および労働
委員会規則第四三条により主文のとおり命令する。

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