弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「被控訴人Aは控訴人に対し、金八万六千八百三円及びこれに対す
る昭和二十八年五月二十九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払
え。被控訴人Bは控訴人に対し、金六万七千四百三十五円及びこれに対する昭和二
十八年五月二十九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費
用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め。
 被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において本件競売開始決定のあつたの
は昭和二十七年十二月五日で翌六日にその旨の登記手続が為されたと述べ、被控訴
代理人は右主張事実はこれを認めると述べた外は原判決事実摘示と同一であるから
ここにこれを引用する。
 証拠として、
 控訴代理人は甲第一号乃至第五号証、第六号証の一、二第七号乃至第九号証を提
出し、原審証人C、D、当審証人E、原審並びに当審証人Fの各証言及び原審並び
に当審での控訴本人尋問の結果を援用し、乙第一、二号証の成立はこれを認めると
述べ。
 被控訴代理人は乙第一、二号証を提出し、原審並びに当審での証人Gの各証言及
び被控訴人両名尋問の各結果を援用し、甲第五号証中官署作成の部分は成立を認め
るがその余の部分と同第七、八号証はいずれも不知その他の同号各証は成立を認め
ると述べた。
         理    由
 原判決別紙第一目録記載の土地建物がもと訴外Dの所有であつたが、同人の債権
者で右不動産に対する第二順位の抵当権者である訴外Iが抵当権実行のための競売
の申立をし、高知地方裁判所昭和二七年(ケ)第一七〇号土地建物競売事件として
昭和二十七年十二月五日右不動産に対し競売開始決定があつて翌六日その旨の登記
手続が為され、次で競売が行われ一度は控訴人がこれを競落し、その旨の競落許可
決定もあつたのであるがその手続に違法な点があつたというので取り消され、その
後再度の競売が行われ訴外辻久株式会社が金九十万円の代価で競落し、昭和二十八
年三月二十六日その旨の競落許可決定があつて、その所有者となつたものであるこ
と、そしてその後同年四月八日の配当期日において右訴外会社の支払つた代金につ
き原判決別紙第二目録記載のような配当表に基き配当金の支払、交付が行われ前記
債務者たるDに対する無担保の一般債権者である被控訴人等が、配当要求によつて
それぞれ同目録記載の金額の配当を受けたものであること及び控訴人が右Dに対す
る金三十七万九千八十円の貸金債権に基き同人を相手として、高知地方裁判所に仮
差押命令を申請し、(同庁昭和二十八年(ヨ)第四九号事件)昭和二十八年三月九
日不動産仮差押命令を得て前記会社に対する競落許可決定のなされる以前の同年三
月十日前記土地建物に対しその命令の執行、即ち仮差押命令の登記簿えの記入を了
したことは当事者間に争がない。
 (一) よつて先ず控訴人の主たる請求である不当利得の返還請求について検討
する。
 従来の判例によると、
 「競売法による競売は、優先辨済を受くる権利を有する者の為に認められたるも
のにして一般債権者の配当要求は原則として之を許さず。民事訴訟法第六四七条第
二項其の他執行力ある正本に因らざる配当要求に関する規定は之に準用なきものと
解するを可とす。」(昭和八年十一月二十一日大審院判決)とし、更に「不動産に
対する仮差押の執行を為したる債権者は後日該不動産に対し競売法に依る競売手続
が開始せられたる場合に於て配当に与る債権者と為るものとす。」(昭和十年四月
二十三日大審院判決)と判示し、結局競売法による不動産競売手続においては執行
力ある正本によらない無担保債権者の配当要求(記録添付によると単純なる配当要
求たるとを問わない。)は原則として許されないが競売開始決定前に仮差押を為し
た債権者のみは民事訴訟法第六九七条第六三〇条第三項が準用せられて配当加入の
効力が認められるとするのが判例の態度と思考される。
 ところで本件においては訴外Hが抵当権の実行として本件不動産につき競売開始
決定を得たのは昭和二十七年十二月五日であつて翌六日にその旨の登記手続が為さ
れた。然るに控訴人がその主張の仮差押命令を得て本件不動産にその執行を為し、
これが登記簿えの記入が為されたのは昭和二十八年三月十日であることは前記争の
ない事実である。
 控訴人は競売開始決定後といえども、競落許可決定(前記昭和二十八年三月二十
六日)前に仮差押が為されたならば、かかる仮差押債権者は配当要求ができる。従
つてその配当金は供託さるべきものであると主張する。
 もしこの主張が許されるとするならば競売不動産が債務者の唯一の財産であると
きは執行力ある正本を有しない一般債権者は競売開始決定後はすべて仮差押命令を
得ること(この場合仮差押執行が可能かどうかは問題であるが。)により配当加入
が為されたこととなり、結局判示判例の競売法による競売手続においては執行力あ
る正本を有しない一般債権者は配当要求は許されないとする原則を免れることとな
る。
 そこで問題は結局競売法による競売手続においても強制執行における配当手続を
全面的に準用することが妥当かどうかということになる。
 前示判例が任意競売については、民事訴訟法第六四七条第二項の執行力ある正本
によらない配当要求に関する規定を準用しないと解し、その理由は要する債務名義
をもたない一般債権者もすべて配当要求を許すとすれば、そのなかには債務者の否
認を受ける者も相当多いであろうし、また競売申立人自身の権利も債務名義による
ものではないから申立人の権利自体が債権者によつて争われる場合もある。又債務
者と共謀した仮装債権者があらわれて競売手続を妨害することもあるであろうか
ら、かかる場合にことごとくこれらの争を解決していたのでは競売手続が遅延し、
実際上甚だしい不都合が生ずるというにある。
 これに対しては種々の批判があり、寧ろ配当手続を全面的に準用して例えば不当
配当をけた抵当権者より正当な配当を受け得べき者が後日不当利得返還の訴を起し
たり、又配当要求を許されなかつた一般債務者からは残余の競落代金に対し仮差押
をしなければならないような煩瑣な手続を省略する意味からでも配当手続において
一挙に解決する方が訴訟経済に適するという見解もあり得る。
 <要旨>然しながら当裁判所は競売法による競売は元来優先辨済を受くる権利者の
権利の実行をできるだけ迅速に達成せしむることを目的とし、この目的を逸
脱しない範囲においてのみ優先辨済をした残額について債務者に引渡すことなく配
当を為すべきであるとの前示判例の見解を維持すべきものと思考する。
 従つて任意競売の開始決定があつた以後は、執行力ある正本によらなければ一般
債権者の配当要求は仮差押による場合でも許されないものと解する。
 此の見解によると競売開始決定以前の仮差押債権者及び執行力ある正本を有する
債権者は然らざる一般債権者に比し、一種の優先権が得られ我が民事訴訟法の平等
弁辨主義に反するの観があるが、右の場合は前示二つの判決に詳細説示されている
とおり配当要求を認めないと極めて不合理の結果となるからである。而してこのよ
うな場合には配当要求を認めても、そのために競売手続の終結が遅延することは比
較的少いものと思われる
から右の例外は任意競売の場合でもやむを得ないものと解する外はない。
 果して然らば控訴人の本件仮差押には配当要求の効力はないものと認めざるを得
ない。
 而して被控訴人等が執行力ある正本に基いて本件競売手続に配当加入の申立を為
したことは成立に争のない乙第一、二号証原審での被控訴人両名の供述により明ら
かである。
 然らば控訴人の本訴不当利得返還の請求は、その余の判断を為すまでもなく失当
たるを免れない。
 (二) 次に控訴人の予備的請求原因について判断する。
 控訴人は被控訴人等との間に本件競売代金から優先辨済権を有する債権者に支払
を為したる残額については平等に分配する契約が成立した旨主張し、原審証人C、
D、原審並びに当審証人F、当審証人Eの各証言及び原審並びに当審での控訴本人
の各供述中右主張に副う部分は後記証拠に照し措信できない。
 却つて原審並びに当審証人G、当審証人F(一部)E(一部)の各証言に原審並
びに当審での被控訴人両名の各供述を綜合すると、控訴人、被控訴人A及び被控訴
人Bの代理人と称せられるG等は債務者側のI(Dの夫)等とともに再度の競売に
おいては出来るだけ高額にて競落されるように奔走したこと及び被控訴人等が本件
配当金を受領後控訴人から右配当金の中一部でもいいから交付してもらいたいとの
請求を受けた事実があつたのみで、右再競売前に控訴人主張のような配分契約は何
もなかつたことが認められる。
 然らば控訴人の予備的請求も理由がないものといわねばならない。
 以上のとおり控訴人の本訴請求はいずれも失当として棄却すべくこれと同趣旨の
原判決は相当だから本件控訴は理由がないものとして棄却する。
 よつて民事訴訟法第三百八十四条第八十九条第九十五条に従つて主文のとおり判
決する。
 (裁判長判事 石丸友二郎 判事 呉屋愛永 判事 松永恒雄)

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