弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 1 一審被告チボリ・ジャパン株式会社の控訴に基づき、原判決主文第一項を
次のとおり変更する。
(一) 一審被告チボリ・ジャパン株式会社は岡山県に対し、一億七八九二万二六
六二円及びこれに対する平成七年一一月二九日から支払済みまで年五分の割合によ
る金員を支払え。
(二) 一審原告らのその余の請求を棄却する。
2 一審被告チボリ・ジャパン株式会社のその余の控訴を棄却する。
二 一審原告らが当審において追加した請求部分について
1 一審被告チボリ・ジャパン株式会社は岡山県に対し、右一で支払を命ぜられた
金員のほか、八四六〇万三七八八円及びこれに対する平成一一年四月一七日から支
払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 一審原告らのその余の請求を棄却する。
三 一審原告らのその余の控訴を棄却する。
四 一審原告らと一審被告チボリ・ジャパン株式会社との間に生じた訴訟費用は第
一、二審を通じてこれを七分し、その一を一審原告らの、その余を一審被告チボ
リ・ジャパン株式会社の各負担とし、一審原告らの一審被告岡山県知事a及び一審
被告bに対する控訴費用は一審原告らの負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 平成八年(行コ)第一号事件
1 一審被告チボリ・ジャパン株式会社(以下「一審被告会社」という)の控訴の
趣旨
(一) 原判決中、一審被告会社に関する部分を次のとおり変更する。
(二) (主位的)
 一審原告らの一審被告会社に対する訴えのうち、岡山県に対して金七五三七万一
八七〇円及びこれに対する平成七年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合によ
る金員の支払を求める部分を却下し、その余の請求を棄却する。
(予備的)
一審原告らの一審被告会社に対する請求を棄却する。
(三) 訴訟費用は第一、二審とも一審原告らの負担とする。
2 控訴の趣旨に対する一審原告らの答弁
(一) 本件控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は一審被告会社の負担とする。
二 平成八年(行コ)第二号事件
1 一審原告らの控訴の趣旨
(一) 原判決中、一審被告岡山県知事a(以下「一審被告知事」という)に関す
る部分を取り消し、同部分を岡山地方裁判所に差し戻す。
(二) 原判決中、一審被告会社に関する部分を次のとおり変更する。
 「一審被告会社は、岡山県に対し、金二億一七六八万一六四〇円及びこれに対す
る平成七年一〇月一日から支払済みま
で年五分の割合による金員を支払え。」
(三) 一審被告会社は、岡山県に対し、金八四六〇万三七八八円及びこれに対す
る平成九年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。(当審に
おいて請求を追加)
(四) 原判決中、一審被告bに関する部分を取り消す。
(五) 一審被告bは、岡山県に対し、金二億一七六八万一六四〇円及びこれに対
する平成七年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(六) 訴訟費用は第一、二審とも一審被告らの負担とする。
(七) 一審被告会社及び一審被告bに対する金銭請求部分につき仮執行宣言
2 控訴の趣旨に対する一審被告らの答弁
(一) 本件控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は一審原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
 次の一のとおり訂正し、二のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであ
るから、これを引用する。
一 原判決の訂正
1 原判決四枚目表一〇行目を「一審被告bは、平成二年二月以前から平成八年一
一月一一日まで岡山県知事の地位にあった。」に改める。
2 同四枚目裏九行目の「別表の『派遣期間』欄のとおり」から五枚目表五行目末
尾までを次のとおり改める。
「別表の『派遣期間』欄のとおり平成二年二月二〇日から平成九年三月三一日まで
一審被告会社に派遣して専らその業務に従事させ、岡山県の職務に従事させなかっ
たのに、右職員に対する給与等の支給として、岡山県の公金から総額三億〇二八八
万五四二八円を支出した。
 一審被告知事は、平成九年四月一日以降も一審被告会社に対する職員派遣を継続
しており、同日以降は派遣職員に対して給与等は支給していないが、今後給与支給
を再開する可能性は高い。」
3 同七枚目表五行目から七行目までを次のとおり改める。
「岡山県は、前記のとおり、平成二年二月二〇日から平成九年三月三一日までの間
に一審被告会社への派遣職員に対する給与等として岡山県の公金から総額三億〇二
八八万五四二八円を支出したため、同額の損害又は損失を被った。」
4 同八枚目表八行目から九行目にかけての「平成二年二月二〇日から現在まで」
を「平成二年二月二〇日以降」に改める。
5 同九枚目表末行の「被告b及び被告会社」から九枚目裏三行目末尾までを次の
とおり改める。
「一審被告bに対し、不法行為に基づく損害賠償金二億一七六八万一六四〇円(平
成七年九月三〇日までの支出金に相当する額)及びこれに
対する平成七年一〇月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害
金を岡山県に支払うことを求め、一審被告会社に対し、不法行為に基づく損害賠償
金(選択的に不当利得返還金)として、①金二億一七六八万一六四〇円(平成七年
九月三〇日までの支出金に相当する額)及びこれに対する平成七年一〇月一日から
支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、②金八四六〇万三七八八円
(平成七年一〇月一日から平成九年三月三一日までの支出金に相当する額)及びこ
れに対する平成九年四月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損
害金を岡山県に支払うこと(②は当審において請求を追加)を求める。」
6 同一一枚目表につき、六行目から七行目にかけての「七五三七万一八七〇円」
から八行目の「求める部分」までを「金員の支払を求める部分」に改め、一〇行目
の「認める。」の次に「ただし、2について一審被告知事が今後、給与支給を再開
する可能性が高いことは争う。」を加える。
7 原判決添付別表を本判決添付別表に改める。
二 当事者の主張
1 一審原告ら
(一) チボリ公園事業について
(1) 倉敷チボリ公園は単なる大型遊園地あるいはレジャーランドに過ぎず、公
共性は全く存しない。
 一審被告らは、チボリ公園事業は岡山県の事業であり、倉敷チボリ公園が教養文
化施設であり、憩いの場として倉敷市民を含む岡山県民に広く親しまれる公園であ
り、デンマークとの国際親善の場としての機能を有しているなどと主張するが、岡
山県の事業であるという主張自体極めて抽象的であり、岡山県が職員派遣を含む公
的援助を正当化するだけの根拠とはなり得ない。
 およそ、大型施設にあっては、どのような施設であろうと、教養文化に資する
面、憩いの場としての面を有し、外国の文化を紹介するものであれば国際親善的な
側面を有するものである。問題は、岡山県という行政機関が職員派遣等の公的援助
を行うだけの公共性を有するか否かである。
(2) 一審被告会社は、岡山県が担うべき公益目的実現のための諸活動とは全く
無関係な純然たる営利企業であり、同社の行うチボリ公園事業は岡山県民の福祉増
進とは全く無関係な事業である。
(二) 本件派遣職員の職務内容について
 一審被告らは、「本件派遣職員は岡山県における経験を生かして一審被告会社の
具体的職務を遂行することにより、まさに岡山県の事業であるチボリ公園
事業を推進していた。」と主張するが、前記のとおり、チボリ公園事業は一審被告
会社の事業であって、岡山県の事業ではない。
 本件派遣職員が一審被告会社で従事した具体的職務内容は、一審被告会社の固有
業務である。
(三) 本件公金支出の違法性について
 以上のとおり、本件職員派遣は、派遣先の業務及び派遣職員の担当業務のいずれ
についても公務と同質の高度の公共性が認められず、派遣のための行政目的が欠如
しており、岡山県の行政目的と一審被告会社の業務及び派遣職員の職務との間に具
体的関連性を欠くから、地方公務員法三〇条、三五条、職専免条例二条三号、職専
免規則二条二号に違反し、違法である。
 現行法は、職員の給与支給についてその職務と責任に応じることを求め(地方公
務員法二四条一項)、他の地方公共団体に派遣された職員については給与等を派遣
先の地方公共団体から受けることを当然の前提にしている(地方自治法二五二条の
一七第三項)。
 かかる現行法の趣旨からすれば、本件派遣職員のように、営利目的の一民間私企
業に過ぎない一審被告会社の業務に従事し、その間、派遣元である岡山県の業務に
は従事せず、岡山県の具体的指揮監督に服さないものについて、給与を支給するこ
とが許されないことは当然である。
 よって、岡山県が給与条例一四条に基づいて本件派遣職員の給与等を支給するこ
とは地方自治法二〇四条の二に違反する。
(四) 一審被告bの不法行為責任について
 本件派遣職員に対する給与支出は、地方公務員の服務や給与の根本基準といった
地方公務員法の根幹にかかわる重大なものである上、岡山県とは全く別個の営利企
業である一審被告会社に勤務する者に給与を支払うという点で一般常識に反する不
自然なものであるから、通常人でもその違法性を容易に理解できるものである。
 岡山県知事として岡山県の支出に責任を負うべき一審被告bとしては、当然に本
件給与支出の違法性を認識すべきであったというべきであり、少なくとも右違法な
支出をするに当たり過失があったというべきである。
(五) 一審被告会社の不当利得返還義務について
 地方公務員法三〇条、三五条は、公務優先の原則を規定したものであり、公共の
利益に関わる強行法規であるから、同条に違反する職員派遣が公序良俗に違反し無
効であることは当然である。
 また、地方自治法二〇四条の二に違反する給与等の支出は法律上無効である(同
法二
条一六、一七項)。
 したがって、一審被告会社は派遣職員の給与等を支払うべきであるのにその支払
を免れたものであるから、その限度で不当利得返還義務を負う。
2 一審被告ら
(一) チボリ公園事業について
(1) チボリ公園事業は岡山県が岡山県の事業として遂行してきた事業である。
 チボリ公園事業の行政目的は、岡山県の今後五か年の施策を展開していく上での
基本指針にあたる第四次総合福祉計画(平成三年度から平成七年度)では①「中四
国の広域交流」を行う上での「交流施設の整備」、②「魅力ある地域文化の創造」
を行うための「文化交流拠点の形成」、③「観光・リゾートの振興」を行うための
「観光・リゾート拠点の整備」、第五次総合福祉計画(平成八年度から平成一二年
度)では①「魅力ある都市の創造」を行う上での「市街地整備」、②「リゾートの
振興」を行うための「リゾート拠点の整備」、③「魅力ある地域文化の創造」を行
うための「文化交流拠点の形成」、④「観光の振興」を行うための「広域観光への
対応」、⑤「国際交流・協力」を行う上での「学術、教育・文化、スポーツ等の交
流促進」や「交流基盤の整備」として位置づけられているが、右のいずれも行政目
的としての妥当性が認められるものである。
(2) そして、チボリ公園事業において右行政目的は十二分に達成されており、
同事業は地方公共団体自ら行うにふさわしい事業である。
 すなわち、倉敷チボリ公園内では数多くのクラシック音楽やポピュラー音楽等の
コンサートが随時開かれ、住民参加型の音楽や絵画等の発表会が行われ、「文化交
流拠点の形成」という目的を果たしている。
 「観光・リゾート拠点の整備」という目的については、年間入場者が二〇〇万人
を超え、他府県からも多数の来園者を迎えていること、また、岡山県全体に大きな
経済的効果をもたらしていることからして十二分に達成している。
 同公園内にはデンマークのコペンハーゲンを紹介する施設が整備され、海外の著
名な芸術家を招いた催し等を開催するなどし、又、デンマーク王室関係者も来園す
るなど、「国際交流」という目的のために数多くの行事が行われている。
 また、同公園は、来園者に真に憩いの場を提供するため、豊かな緑と四季折々の
花々、噴水、多数のベンチなどを配しており、いわゆるライド類を利用しなくても
十分に楽しみ、くつろぐことができる公園であり、岡山県民の憩いの場であ
る。
(二) 一審被告会社について
(1) 一審被告会社は、行政による各種サービス・活動分野への進出、民間活力
の活用、地方の行財政改革と財源の有効活用の目的のもとに官による設備の整備と
民間の管理運営という図式での双方協力という三つの背景を受けて、チボリ公園事
業の推進のためにいわゆる第三セクターとして設立された。
(2) 平成六年以降、一審被告会社における岡山県及び倉敷市(いわゆる公的セ
クター)の出資比率の合計は二〇パーセントを超えており、岡山県は一審被告会社
の代表取締役に元副知事を送り込むだけでなく、岡山県職員から常務取締役二名を
派遣し、一審被告会社の経営に影響力を行使し得るよう配慮している。
 また、岡山県は、平成九年三月二五日、一審被告会社との間で、一審被告会社が
管理運営する倉敷チボリ公園の公益性を担保するために「倉敷チボリ公園の管理及
び運営に関する基本協定書」を締結したが、同協定書では、倉敷チボリ公園の事業
計画等について一審被告会社が岡山県の意見を最大限尊重すること、同公園の管理
運営に関して岡山県の意向を反映させるための常設機関として岡山県等により構成
される倉敷チボリ公園運営協議会の設置等が定められている。
 右基本協定書や倉敷チボリ公園運営協議会の存在により、一審被告会社は岡山県
や倉敷市に対し、倉敷チボリ公園の管理運営について同公園が地方公共団体が行う
事業にふさわしい公益性を持つように管理運営し、現実の管理運営にも岡山県や倉
敷市の意向をできる限り尊重することを約束しており、岡山県は、倉敷チボリ公園
について岡山県の事業として推進してきた公園にふさわしい「公益性」を活かした
管理運営を行うようコントロールできる枠組みを構築している。
(三) 本件職員派遣の適法性について
(1) 前記のとおり、チボリ公園事業の内容は岡山県の行政目的を達成するため
のものであり、岡山県の行政目的と密接な関連性がある。そして、一審被告会社は
チボリ公園事業という岡山県の事業を実現するために倉敷チボリ公園の管理運営の
主体として設立された会社である。
 したがって、一審被告会社の業務内容と岡山県の行政目的との間に密接かつ強固
な関連性が存するのは当然である。
(2) そして、一審被告会社はチボリ公園事業という岡山県の事業を行うために
設立された会社であるから、本件派遣職員は、一審被告会社でいかなる職務に従事
していた
かにかかわらず、岡山県の事業であるチボリ公園事業実現のための職務に従事して
いたといえる。
 そして、本件派遣職員は岡山県における経験を生かして一審被告会社の具体的職
務を遂行することにより、まさに岡山県の事業であるチボリ公園事業を推進してい
たのである。
 したがって、本件派遣職員の一審被告会社における職務内容と岡山県の行政目的
との間にも密接な具体的関連性がある。
(3) 本件職員派遣には次のような必要性があった。
 すなわち、岡山県は、県の事業としてチボリ公園事業を積極的に推進しているの
であり、一審被告会社において岡山県の意思をより浸透させ、積極的に実現させる
には、事業計画の策定、計画の具体的実行たる建築、土木といった中枢の職務(特
に管理職)について、岡山県がチボリ公園事業により達成しようとしている行政目
的を真に理解している岡山県の職員にあたらせることが望ましいし、一審被告会社
は未だ十分な経営基盤がない状況にあり、十分な人材も確保されていないことか
ら、事業が軌道に乗るまでの当面の措置として、専門知識と経験に富む人材を岡山
県が提供する必要があった。
(4) 以上によれば、本件職員派遣が適法であることは明白である。
(四) 一審被告bの不法行為責任について
 多様化した行政事務について第三セクターを積極的に活用することによって民間
の協力を得て実施することを政府自体が積極的に推進しようとしていた時代背景の
下で、岡山県においても本件職員派遣を行い、岡山県が派遣職員の給与を負担して
いた。ただし、第三セクターを積極的に活用するといっても、第三セクターが設立
当初より十分な人材を獲得することは困難であったこと、また、地方公共団体の意
向を第三セクターの中で最大限実現していくためには地方公共団体の意向を十分に
理解している当該地方公共団体職員が第三セクター内部にいることが不可欠である
こと等の理由により、どの地方公共団体においても第三セクターに対して職員を派
遣していたのである。しかも、設立したばかりの第三セクターは財政的なゆとりが
あるわけはなく、そのためにも派遣元が派遣職員の給与を負担する以外に当該職員
派遣を実現することは困難な状況にあったのであり、このような事情は本件職員派
遣においても同様であった。
 右の状況のほか、職務専念義務を免除して派遣した職員につき派遣元である地方
公共団体が給与を負担することは本
件職員派遣以外にも多々行われており、その法的当否についても未だ司法の確定的
な判断もなかったのであるから、一審被告bの本件派遣職員の給与支出について過
失があるとはいえない。
 一審被告会社は、岡山県の重要施策であるチボリ公園事業を行うために倉敷チボ
リ公園の管理運営の主体として設立された会社であるから、岡山県はまさに岡山県
の事業を実施している本件派遣職員の給与を負担していたのであり、本件派遣職員
の給与を岡山県が負担することが一般常識に反する不自然なものであるといえない
ことは明らかである。
(五) 一審被告会社に対する不当利得返還請求について
 仮に、本件派遣職員について職務専念義務の免除等が違法であったとしても、違
法であることが明らかとはいえない状況にあり、本件職員派遣を受けた一審被告会
社がその違法性を認識できたとは到底いえない。
 しかも、一審被告会社としては、本件職員派遣がなされること自体も岡山県のチ
ボリ公園事業推進施策の中で当然の前提として受け入れてきたものである。
 このような状況の中で当然に本件職員派遣協定が公序良俗に反すると判断される
のは不意打ちであり、信義則に反し、私法秩序の根底にある公平の観念にも反する
ものである。
 以上によれば、本件職員派遣協定は公序良俗に反するとまではいえず、有効と言
うべきである。
 また、一審被告会社に対して岡山県が本件派遣職員の給与相当額を不当利得とし
て返還請求を行うことはクリーンハンドの原則に反し、法秩序全体からも是認され
ない。
       理   由
第一 訴えの適法性について
一 一審被告知事に対する本件公金支出の差止めの訴えについて
 右訴えは、地方自治法二四二条の二第一項一号に基づくものであるが、同号に基
づく差止めの訴えを提起するためには、当該行為がなされることが相当の確実さを
もって予測される場合であることが必要である。
 一審被告知事が平成二年二月二〇日から平成九年三月三一日まで一審被告会社に
岡山県職員を派遣し、右派遣職員に対する給与等を岡山県の公金から支給したこと
は当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、一審被告知事は平成九年四月一
日以降も一審被告会社に対する職員派遣を継続していることが認められる。
 しかし、右同日以降、一審被告知事が右派遣職員に対して給与等を支給していな
いことは一審原告らの自認するところである
 一審原告らは、一審被
告知事が派遣職員に対する給与支給を再開する可能性は高いと主張するが、平成一
二年に「公益法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律」(平成一二年
法律第五〇号)が制定され(施行は平成一四年四月一日)、地方公務員の派遣につ
いての法制度が整備されたことは公知の事実であり、右法律の内容に照らすと、同
法が施行される平成一四年四月一日以降一審被告知事が一審被告会社に岡山県職員
を派遣するとは考えられず、本件の経過に照らすと、それ以前においても、一審被
告知事が一審被告会社に派遣した岡山県職員に対して給与等を支給することが相当
の確実さをもって予測されるということはできない。
 したがって、一審原告らの一審被告知事に対する本件公金支出の差止めの訴えは
不適法である。
二 監査請求の期間途過、期間途過についての正当理由、変更後の訴えの監査請求
前置について
 この点についての当裁判所の認定判断は、次のとおり訂正するほか、原判決一四
枚目表七行目から一七枚目裏六行目までのとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一五枚目表一〇行目の「第四号証」の次に「、第三一、第三二号証の各
1、第三三号証」を加える。
2 同一五枚目裏三行目の「平成三年六月二四日」を「平成三年六月二三日」に改
める。
3 同一六枚目表五行目から九行目までを次のとおり改める。
「一審原告らによる本件監査請求の後の本訴提起後も、一審被告知事は別紙のとお
り職員派遣及び公金支出を継続し、派遣職員を追加変更するなどしたことは当事者
間に争いがなく、一審原告らの本件訴状による請求及びその後の訴えの追加的変更
の経過が次のとおりであることは記録上明らかである。
(一)訴状では、一審被告知事に対して、岡山県と一審被告会社との間の職員派遣
協定に基づいて一審被告知事が一審被告会社に派遣した職員に対する供与等の支払
の差止めを、一審被告会社及び一審被告bに対して、派遣職員に対して平成二年二
月から平成四年八月までに給与として七〇三〇万円を支給したとして右金員相当の
金員の岡山県への支払を求めた。
(二) 平成七年一一月二〇日付け訴えの変更申立書で、前記派遣職員に対して平
成二年二月二〇日から平成七年九月三〇日までに給与として二億一七六八万一六四
〇円を支給した(その明細は別紙の該当欄のとおり)として、一審被告会社及び一
審被告bに対する訴えを右金員相当額の支払を求める旨変更した
(訴えの追加的変更)。
(三) 平成一一年四月一五日付け訴えの変更申立書で、前記派遣職員に対して平
成七年一〇月一日から平成九年三月三一日までに給与として八四六〇万三七八八円
を支給した(その明細は別紙の該当欄のとおり)として、一審被告会社に対する訴
えを右金員相当額の支払を追加的に求める旨変更した(訴えの追加的変更)。」
4 同一六枚目裏につき、二行目の「同一の契約」の前に「実質的には」を、三行
目の「監査請求後の行為」の前に「社会経済的な行為又は事実としては同一という
べきであるから、」を、六行目の「被告側は」の前に「住民側は個別の行為毎に実
質的には同一内容の監査請求を繰り返すことを要し、」を、八行目の「第四号証」
の次に「、乙第三一、第三二号証の各1、第三三号証、第三四ないし第三七号証の
各1、第三八ないし第四〇号証、第四一、第四二号証の各1」を各加える。
5 同一七枚目表につき、三行目の「被告会社への職員派遣」を「平成二年二月二
〇日から平成九年三月三一日までの一審被告会社への本件職員派遣」に、七行目の
「予定されている」を「予定されていた」に各改める。
6 同一七枚目表末行から一七枚目裏一行目にかけての「当初の監査請求の対象と
同一の契約の継続更新による共通性乃至一貫性を有する事態であり」を「当初の監
査請求の対象と実質的には同一の契約に基づいて繰り返され、相互に共通性乃至一
貫性を有する行為であり」に改める。
第二 本案について
 前記により、不適法な訴えと判断された部分を除いたその余の請求について判断
する。
一 請求原因1の事実及び同2のうち前段の事実は当事者間に争いがない。
二 認定した事実
 証拠(甲一、二、五ないし七、八三、八四、九一、九四、一二八、乙一ないし
四、一二、一五ないし一七、三〇、三一及び三二の各1、三三、三六及び三七の各
1、三八ないし四〇、四一及び四二の各1、四八ないし五一、五二の1、2、六二
ないし八四、八五の1、2、八六、八七の1、2、八八ないし九三、九四の1、
2、一〇四ないし一一九、二八三、証人c、同d、同e)及び弁論の全趣旨によれ
ば、次のとおり認められる。
1 チボリ公園事業
(一) 岡山市は、昭和六二年ころ、市制百周年記念事業の一環としてデンマーク
のチボリ公園の岡山市への誘致を計画し、岡山県や岡山県財界の支援のもとに右計
画を推進していたが、平成三年七月、右計画から撤退した

(二) そこで、岡山県の要請により、倉敷市が右計画に参画することになり、岡
山県、倉敷市、岡山県財界が協力してJR山陽本線倉敷駅に隣接する倉敷市αの紡
績工場跡地約一二ヘクタールにデンマークのチボリ公園を模範とした公園を建設す
る計画をチボリ公園事業と称して推進した。
(三) 岡山県は、チボリ公園事業について、一五〇年の伝統を有するデンマー
ク・チボリ公園のデザインとノウハウを導入して花と緑と水辺をベースに野外劇
場、多目的シアター等の教養・文化施設、レストラン、ショッピング施設、アミュ
ーズメント施設等を配置し、子供からお年寄りまであらゆる世代が憩い楽しめる文
化性とアミューズメント性を兼ね備えた新しいスタイルの都市型公園として整備す
るものとした。
 そして、同県では、チボリ公園事業が、昨今の社会情勢の変化や住民の価値観の
多様化等の下において、岡山県の都市政策、余暇施策、高齢化施策及び文化施策の
一環として県民共通の利益となる事業であり、あわせて、投資による波及効果、雇
用の創出、滞留型観光資源の創造、豊かなライフスタイルの拠点の整備、国際交流
の振興、岡山県の活性化、イメージアップ、魅力ある地域づくりなどにも資する極
めて公共性の高い事業であると位置づけ、同事業は岡山県の第四次(平成三年度か
ら同七年度)及び第五次(平成八年度から同一二年度)総合福祉計画にも組み込ま
れた。
(四) 同事業は当初は民間(一審被告会社)が施設を設置して運営する構想であ
ったが、平成六年三月、公園の基盤部分(樹木、花壇、湖、噴水、散策路、ベン
チ、イルミネーション等)及び教養文化施設(野外劇場、多目的シアター、公園の
シンボルとなるタワー、アンデルセンシアター、子供劇場、ミュージックパビリオ
ン)を岡山県が整備し、レストラン、物品販売、遊具施設を一審被告会社が整備す
る旨変更し、以後、右枠組みに基づいて事業展開を図ることとなり、これに伴い、
岡山県の出先機関として倉敷地方振興局チボリ公園建設事務所が設けられ、同建設
事務所は岡山県が整備すべき上記事務の処理にあたった。
(五) 岡山県と一審被告会社は、平成九年三月二五日、「倉敷チボリ公園の管理
及び運営に関する基本協定書」(乙一一六)を取り交わしたが、同協定書には、倉
敷チボリ公園はデンマークの伝統ある都市型公園であるチボリ公園の基本概念に基
づいて整備された公園で、県民福祉の増進、岡
山県の経済、文化等の発展に寄与することを目的とし、公共性及び文化性を保持す
る公園とする(二条)、前条の目的及び性格を実現するため、岡山県が整備する施
設と一審被告会社が整備する施設からなる倉敷チボリ公園を民間の手法の活用の理
念のもとに一審被告会社が有機的かつ一体的に管理及び運営することを確認し、一
審被告会社は倉敷チボリ公園を本基本協定書の条件に従って管理及び運営を行う
(三条)、一審被告会社は、①県民福祉の増進及び岡山県の経済、文化等の発展を
目的とした管理運営を行う、②地域の伝統的文化と調和し、環境保全に十分配慮し
た管理運営を行う、③高齢者、身体障害者等が利用しやすい管理運営を行う、④倉
敷チボリ公園の年間の企画の中には、芸術及び文化の発展に寄与する企画、教育活
動に寄与する企画、幼児及び高齢者向けの企画、国際交流の促進に寄与する企画を
盛り込むものとする(四条)、一審被告会社は、営業年度毎にあらかじめ倉敷チボ
リ公園内で実施する企画等を含む事業計画案を岡山県に提出し、岡山県はこれにつ
いて意見を述べることができる、一審被告会社は岡山県の意見を最大限尊重しなけ
ればならない(五条)等の条項が記載されている。
(六) 倉敷チボリ公園は、平成九年七月一八日に開園した。
2 一審被告会社
(一) 原判決一九枚目表六行目から七行目にかけての「営利企業」を「株式会
社」に改めた上、原判決一九枚目表四行目から一九枚目裏五行目までの記載を引用
する。
(二) 一審被告会社の設立当初の資本金は四八億円であり、そのうち五億円を岡
山県が出資し、その他は岡山商工会議所、地元民間企業が出資した。
 その後、一審被告会社は数回にわたって増資した。平成六年七月の増資の際には
岡山県の出資の割合は約二四パーセントにのぼったが、その後はその出資の割合は
次第に低下していった。そして、一審被告会社の資本金は平成九年一月に一六〇億
九〇〇〇万円となって現在に至っているが、うち二〇億円(約一二・四三パーセン
ト)を岡山県、一五億円を倉敷市、その他を民間企業が出資しており、岡山県知
事、倉敷市長が一審被告会社の役員に就任している。
3 倉敷チボリ公園の概要等
(一) 前記のとおり、倉敷チボリ公園は平成九年七月に開園したが、開園当時の
同公園の施設の概要は次のとおりである。
(1) 教養文化施設 ブレーネンステージ(野外劇場)、カルケバレン劇場(多
目的シ
アター)、チボリタワー、アンデルセンホール、子供劇場、ミュージックパビリオ

(2) 修景施設 樹木、花壇、湖、噴水、イルミネーション等
(3) 飲食・物販施設 オールドコペンハーゲン、バックアレー、コロニーガー
デン、サンゲオ号等
(4) アミューズメント施設 いわゆるライドに属するもの九種類、コースター
一種類、その他シアター類、観覧車、遊覧船、ゲーム館等が九種類
(5) 管理施設管理棟、エントランス、メンテナンス棟等
(二) 同公園内には多数の彫刻が展示されており、合計一五の噴水があり、ま
た、約五万本の木々が植えられており、来園者が緑や噴水等の景観を楽しむことが
できるように多数のベンチが設置されている等の特色がある。
(三) 同公園の入園料は大人(一八歳から六四歳)が二〇〇〇円、中人(一二歳
から一七歳)が一七〇〇円、小人(六歳から一一歳)が一〇〇〇円であるが、高齢
者、障害者について、入園料を半額とする優遇制度を設けている。
(四) 同公園では次のような催しがされている。
(1) デンマークの古城を模したチボリ・タワーの内部でデンマークの自然文化
を紹介
(2) デンマークの演奏家を含む内外の演奏家の招聘及び演奏会の開催
(3) デンマークの物産の展示販売等
(4) 公園内の劇場でのアンデルセン童話の紹介
(5) 岡山県民参加の音楽発表会、小中学校の児童生徒参加の写生会、高校及び
一般の吹奏楽団参加の吹奏楽祭
4 本件職員派遣
 岡山県は、チボリ公園事業を、本来は岡山県が直接行政施策として行うべき事務
である地方自治法二条三項の「公園、緑地、劇場、音楽堂その他文化に関する施
設」等を融合した拠点の設置を目的とした公共性の高い事業であるとし、右事業の
推進にあたっては、チボリ公園の建設運営を目的として設立された一審被告会社に
対する公的支援を惜しまない方針であり、その一環として、岡山県が一審被告会社
と密接な連絡調整等を維持する必要があることや、一審被告会社が当時は設立後日
も浅く、事業収入もなく、十分な人材も確保できていないとして、一審被告会社へ
岡山県職員を派遣して専らその業務に従事させるとともに、派遣職員の給与等を岡
山県において負担することとし、一審被告会社との間において、平成二年二月二〇
日付けで右趣旨の職員派遣協定を締結し、以後、毎年同趣旨の協定を締結し、別表
のとおり平成二年二月二〇日から平成九年三月三一
日まで職員派遣及び給与等支給を継続してきた。
 前記のとおり、右職員派遣に際し、一審被告知事(平成八年一一月一一日までは
一審被告b、その後はa)は、職専免条例二条三号、職専免規則二条二号に基づ
き、派遣職員の職務専念義務を免除した(以下「本件職務専念義務免除」とい
う)。
 なお、職専免条例二条は「職員は、左の各号の一に該当する場合においては、あ
らかじめ任命権者又はその委任を受けた者の承認を得て、その職務に専念する義務
を免除されることができる。」とし、その三号は「前二号に規定する場合を除く
外、人事委員会が定める場合」としており、職事免規則二条は「職専免条例二条三
号の規定に基づき人事委員会が定める場合とは、左の各号に掲げる場合をいう」と
し、その二号は「県の行政の運営上、その地位を兼ねることが特に必要と認められ
る団体の役員、職員等の地位を兼ね、その事務を行う場合」としている。
 一方、岡山県職員給与条例(昭和二六年三月二〇日岡山県条例第一八号。以下
「本件給与条例」という)一四条は「職員が勤務しないときは、その勤務しないこ
とにつき特に承認のあった場合を除くほか、その勤務しない一時間につき、第一八
条に規定する勤務一時間当りの給与額を減額した給与を支給する」と規定している
が、一審被告知事は本件職務専念義務免除に併せて、黙示的に右給与条例一四条の
承認をした(以下「本件承認」という)。
5 派遣職員の職務内容
 本件派遣職員の一審被告会社での主な職務内容は次のとおりであった。
(一) 派遣職員A 岡山県との連絡調整業務
(二) 派遣職員B 一審被告会社の組織体制の確立や社員教育業務
(三) 派遣職員C 事業収支計画の検討、周辺インフラとの調整業務
(四) 派遣職員D マスタープラン、施設基本設計業務
(五) 派遣職員E 事業収支計画の総括責任者として公園建設事業全般の取り纏
め業務
(六) 派遣職員F 派遣職員Bの後を受け、一審被告会社の組織体制の確立及び
岡山県や倉敷市との連絡調整業務
(七) 派遣職員G 土木部門の実務担当責任者としてマスタープランや基本設計
業務
(八) 派遣職員H 事業収支計画の検討、岡山県事業分も含めた環境アセスメン
トの実施、公園予定地の現況及び地盤調査、周辺の基盤整備との調整など、施設整
備の技術部門の総括業務
(九) 派遣職員I 派遣職員Hのもとで事業収支計画の検討、建築関係の基本設
計及び
実施計画の策定、建築確認申請の事務や県、市の景観条例の届出手続等、岡山県や
倉敷市との連絡調整業務
(一〇) 派遣職員J 総務部門の総括担当として株主総会、取締役会、諸規程の
制定等の法務的業務、資金調達にかかる手続事務、社員教育、労務管理等の組織体
制の整備及び岡山県との連絡調整業務
(一一) 派遣職員K 総合企画部の総括や公園全体の総括担当、チボリ・インタ
ーナショナル社との協議調整、岡山県や倉敷市との協議調整業務
(一二) 派遣職員L チボリ・インターナショナル社との協議調整、各種団体等
への広報、資金調達、岡山県や倉敷市との行政連絡業務
(一三) 派遣職員M 施設建設の総括、経営全般の関与、岡山県との連絡調整業

三 以上の事実に基づいて判断する。
1 本件給与支出の違法性
(一) 本件派遣職員は、一審被告会社への派遣期間中、一審被告会社の業務に従
事しており、岡山県の事務には従事していなかった。
 一審被告らは、本件派遣職員は、派遣先である一審被告会社で岡山県の事業であ
るチボリ公園事業実現のための職務に従事していたと主張するところ、チボリ公園
事業の岡山県の施策としての位置付け、倉敷チボリ公園の概要、その運営状況等に
ついての前記認定事実に照らすと、同公園(チボリ公園事業)は岡山県の都市施
策、余暇施策、高齢化施策及び文化施策の一環を実施するという一面を有し、一定
の公益性を有することは認められるが、一審被告会社は法的には営利を目的とする
株式会社であり、岡山県の出資割合は約二四パーセントから約一二パーセントの間
で推移しているに過ぎないから、一審被告会社の業務を岡山県の事務と同一視する
ことができないことは明らかである。
(二) ところで、地方公務員は法律又は条例に特別の定めがある場合を除いて職
務に専念すべきであるとされており(地方公務員法三五条)、右にいう特別の定め
として岡山県では職専免条例が定められている。また、地方公務員の職員の給与は
条例で定めなければならないとされており(地方自治法二〇四条三項、地方公務員
法二四条六項)、これに基づいて、岡山県では本件給与条例が定められている。
 しかるところ、前記のとおり、本件派遣職員はその派遣期間中岡山県の事務に従
事していなかったのであるから、職専免条例に基づく適法な職務専念義務の免除が
必要であるが、岡山県が本件派遣職員に対して派遣期間中の給与を支給するた
めには、これに加えて、本件給与条例一四条に定める勤務しないことについての適
法な承認が必要であると解される。
(三) 本件派遣職員については、職専免条例二条三号の「前二号に規定する場合
を除く外、人事委員会が定める場合」との規定及びこれを受けた職専免規則二条二
号の「県の行政の運営上、その地位を兼ねることが特に必要と認められる団体の役
員、職員等の地位を兼ね、その事務を行う場合」との規定に基づき職務専念義務が
免除されているが、職専免規則二条二号の要件に該当するか否かについては、地方
公務員の服務の根本基準を定める地方公務員法三〇条や職務に専念すべき義務を定
める同法三五条の趣旨に照らして判断すべきであり、右趣旨に反する場合には職務
専念義務の免除は違法となり、また、本件給与条例一四条は勤務しないことについ
ての承認について明示の要件を定めていないが、処分権者がこれを全く自由に行う
ことができるものではなく、勤務しないことの承認が給与の根本基準を定める同法
二四条一項の趣旨に反する場合には、右承認は違法になると解される。
(四) これを本件についてみるに、前記のとおり、倉敷チボリ公園は岡山県の都
市施策、余暇施策、高齢化施策及び文化施策の一環を実施するという一面を有し、
一定の公益性を有しているから、倉敷チボリ公園の建設、管理運営のための会社で
ある一審被告会社は、岡山県の行政目的の一部を担っているということができる。
しかし、倉敷チボリ公園にはアミューズメント系の遊戯具も多数整備されており、
一審被告会社は、基本的には営利を目的とする株式会社である。一審被告会社にお
ける岡山県の出資割合は前記のとおりであるから、一審被告会社の業務方針が岡山
県の前記行政目的と必ずしも一致するとは限らない。岡山県と一審被告会社は平成
九年三月二五日付けで「倉敷チボリ公園の管理及び運営に関する基本協定書」を取
り交わしているが、その内容に照らすと、右協定書も将来にわたって倉敷チボリ公
園の運営と岡山県の行政目的とが齟齬しないことを確実に保証するものとはいえな
い。
 また、本件派遣職員は、一審被告会社において、一審被告会社の組織体制の確
立、施設設計、岡山県等との連絡調整等の業務に従事したのであり、本件派遣職員
によって岡山県の前記行政目的が直接達成されたとの具体的な事実を認めるに足り
る証拠はないから、本件派遣職員の職務は一審被告会社固
有の事務の処理にあったと認めるのが相当であり、結果として岡山県の行政目的に
資する面があったとしても、本件職員派遣をもって岡山県の前記行政目的の達成と
いう公益上の必要性があったともいいがたい。
 一審被告らは、一審被告会社が設立後日が浅く、経営収入もなく、十分な人材も
確保できないことを本件職員派遣の理由として挙げているが、このような事情は、
新たに会社を設立して事業を行う場合には常に直面する問題であり、これをもって
一審被告会社に職員を派遣すべき公益上の必要性があるとはいえない。
 以上のとおり、一審被告会社の業務と岡山県の行政目的との間には一部関連性が
あるものの、一審被告会社は営利を目的とする会社であり、その業務と岡山県の右
行政目的との間に将来にわたって齟齬が生じないとはいえないところ、右齟齬を回
避するための手当ては十分ではない。また、本件派遣職員は岡山県の前記行政目的
とは直接的には関連のない一審被告会社固有の業務に従事していたものであり、岡
山県の前記行政目的達成のために本件職員派遣をすることの公益上の必要性があっ
たとはいえない。
 もっとも、前記のとおり、一審被告会社は岡山県の行政目的の一部を担っている
ということができるから、平成二年二月二〇日から平成九年三月三一日までの本件
派遣職員についての本件職務専念義務免除のすべてが公益上の必要性を欠くもので
はなく、そのうち、具体的に特定はできないものの、一定の職員と期間につき職務
専念義務を免除して当該職員を一審被告会社に派遣する必要性が肯定できる部分も
あるように窺える。
 しかし、そのような部分についても、前認定のとおり、本件派遣職員の職務が一
審被告会社の固有の事務の処理にあったこと及び一審被告会社が株式会社であるこ
とに照らすと、本件派遣職員の給与すなわち一審被告会社にとってみればその人件
費は、一審被告会社の負担とその計算においてなされるべきことは当然である。そ
して、一審被告会社の事業内容や本件派遣職員の職務内容などに照らせば、本件承
認が具体的な公益上の必要性に基づくものであったとは認めることができない。
 したがって、少なくとも本件承認は岡山県の行政目的達成のためにする公益上の
必要性があったとはいえず、地方公務員法二四条一項、三〇条及び三五条の趣旨に
反する違法なものというべきである。
(五) 右のとおり、本件承認が違法である以上、本件派
遣職員は派遣期間中、岡山県の事務に従事しておらず、これにつき、任命権者であ
る岡山県知事の適法な承認を得ていたとはいえないから、本件給与支給は違法とい
うべきである。
2 不法行為について・(一) 一審原告らは、一審被告b及び一審被告会社は、本
件派遣職員に対する給与支給が違法であることを知りながら、共謀の上、あえて派
遣職員に対する給与支給のための公金支出をしたものであると主張するが、一審被
告b及び一審被告会社において右公金支出が違法であると知っていたことを認める
に足りる証拠はない。
(二) そこで、過失の有無について検討するに、
 前記のとおり、本件承認は地方公務員法、職専免条例、職専免規則、本件給与条
例に反するから、本件給与支出は違法というべきである。
 しかし、ある事項に関する法令解釈について異なる見解が存し、明確な判例学説
がなく、実務上の取り扱いも分かれており、そのいずれについても一応の論拠が認
められる場合、公務員がその一方の解釈に立脚して公務を執行したとき、後にこれ
が違法と判断されたからといって直ちに過失があったとするのは相当でない。
 これを本件についてみるに、証拠(乙一一)及び弁論の全趣旨によれば、地域住
民に対する行政サービスの効率的な提供あるいは地域の振興、活性化等という行政
目的達成のための手段として地方公共団体が民間と共同していわゆる第三セクター
を設立運営するという手法は高度経済成長期に急増し、多くの地方公共団体で職員
が第三セクターに派遣されるようになったこと、ところが、当時、地方公務員の第
三セクターの派遣についての法制度は整備されておらず、確立したルールもなく、
職務命令による方式、職務専念義務免除による方式、休職ないし一旦退職する方式
等が取られており、職務命令、職務専念義務免除による場合は派遣元団体が派遣職
員の給与を支給する例が多かったこと、これらの方式についてはそれぞれ長所、短
所があり、前二者の方式についてはその適法性に異論も出されていたが、確定した
学説もなく、裁判倒においても、最高裁判所平成一〇年四月二四日判決(判例時報
一六四〇号一一五頁参照)によって一応の基準が出されるまではこの点を巡る下級
裁判所の判断も分かれていたこと、以上の事実が認められる。
 右のような状況に照らすと、一審被告bにおいて本件承認を適法と判断したこと
をもって直ちに過失があったということは
できず、他に、この点について一審被告bの過失を基礎付ける事実を認めるに足り
る証拠はない。
 以上に照らすと、一審被告会社の過失も認められないことが明らかである。
3 不当利得について
(一) 一審被告会社と岡山県との間の職員派遣協定は、違法な本件承認を前提と
して、岡山県において勤務しない本件派遣職員について岡山県が給与を支給すると
いうものであるから、違法なものである。
 そして、右違法事由は、地方公務員の服務や給与等についての基本的な義務を定
めた地方公務員法に反するという重大なものであるから、右職員派遣協定中、岡山
県が給与を支給する旨の部分は私法上も無効というべきである。
 一審被告会社は、「仮に、本件職員派遣協定が違法であるとしても、右協定に基
づいて職員派遣を受けた一審被告会社がその違法性を認識できたとは到底いえず、
一審被告会社としては、本件職員派遣がなされること自体も岡山県のチボリ公園事
業推進施策の中で当然の前提として受け入れてきたものである。このような状況の
中で当然に本件職員派遣協定が無効と判断されるのは不意打ちであり、信義則に反
し、私法秩序の根底にある公平の観念にも反するものであり、一審被告会社に対し
て岡山県が本件派遣職員の給与相当額を不当利得として返還請求を行うことはクリ
ーンハンドの原則に反し、法秩序全体からも是認されない。」と主張する。
 しかし、一審被告会社は、前記職員派遣協定により、一審被告会社の事務を無償
で本件派遣職員に行わせるという一方的利益を受けていたのであり、右協定中の岡
山県が給与を支給する旨の部分が無効とされ、本件派遣職員の給与相当額を不当利
得として返還することになっても、本来支払うべきであった本件派遣職員の給与を
支払うことになるにすぎず、不測の損害を受けるとはいえない。
 右の点に照らすと、一審被告会社の前記主張は採用できない。
(二) したがって、一審被告会社は、法律上の原因なくして、無償で本件派遣職
員の労務の提供を受け、その給与相当額(別表の平成三年六月二四日から平成九年
三月三一日までの合計金二億六三五二万六四五〇円)の利得を得、岡山県は同額の
損失を被ったものというべきである。
 なお、右不当利得につき一審被告会社が悪意であったと認めるに足りる証拠はな
いから、一審被告会社は右不当利得につき、内金一億七八九二万二六六二円(平成
三年六月二四日から平成七年九
月三〇日までの派遣職員に対する給与等支給額相当額)に対しては、その支払を請
求する一審原告らの平成七年一一月二〇日付け準備書面が陳述された日の翌日であ
ることが記録上明らかな同年一一月二九日から、内金八四六〇万三七八八円(平成
七年一〇月一日から平成九年三月三一日までの派遣職員に対する給与等支給額相当
額)に対しては、その支払を請求する一審原告らの平成一一年四月一五日付け訴え
変更申立書が一審被告会社に送達された日の翌日であることが記録上明らかな平成
一一年四月一七日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支
払義務がある。
第三 結論
 以上のとおりであり、一審原告らの訴えのうち、一審被告知事に対するもの並び
に一審被告b及び一審被告会社に対して三八七五万八九七八円(平成二年二月二〇
日から平成三年六月二三日までの派遣職員に対する給与等支給額相当額)及びこれ
に対する平成七年一〇月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損
害金の岡山県への支払を求める部分は不適法であるから却下し、原審における一審
被告会社に対するその余の請求は、岡山県に対して不当利得金一億七八九二万二六
六二円及びこれに対する平成七年一一月二九日から支払済みまで民法所定年五分の
割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は棄却
し、一審被告bに対するその余の請求は棄却すべきである。
 また、一審原告らが当審において追加した請求は、一審被告会社に対して不当利
得金八四六〇万三七八八円及びこれに対する平成一一年四月一七日から支払済みま
で民法所定年五分の割合による遅延損害金の岡山県への支払を求める限度で理由が
あり、その余は理由がない。
 よって、一審被告会社の控訴に基づき、原判決中主文第一項を変更し、一審被告
会社のその余の控訴を棄却し、一審原告らが当審において追加した請求に基づき、
一審被告会社に対し、八四六〇万三七八八円及びこれに対する平成一一年四月一七
日から支払済みまで年五分の割合による金員の岡山県への支払を命じ、一審原告ら
の一審被告会社に対する当審におけるその余の請求を棄却し、一審原告らのその余
の控訴を棄却し、なお、一審被告会社に対して岡山県への金銭支払を命じた部分に
ついて仮執行宣言は不必要と認められるからこれを付さないこととし、主文のとお
り判決する
広島高等裁判所岡山支部第二部
裁判長裁
判官 前川鉄郎
裁判官 辻川昭
裁判官 森一岳

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