弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第
一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨
の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述は左に記載するほか、原判決事実摘示のとおりである
から、これを引用する。
 控訴代理人の主張
 一、 かりに控訴人が、被控訴人主張の連帯保証をなした事実があるとしても、
被控訴人は昭和三四年一二月一四日と同月一六日の両日にわたり、主債務者である
訴外大和棉花株式会社に対し本件七通の手形によつて二四八万円もの多額の融資を
なしたのであるが、その際、被控訴人は、右訴外会社の経営が被控訴人主張の連帯
保証の契約時の事情とは異なり全く破綻していたことを知りながら、敢えて右多額
の融資をしたものである。かりに、被控訴人は、右融資の際訴外会社の破綻の事実
を知らなかつたとしても、重大な過失により右の事実を知らずして右融資をしたも
のである。すなわち、
 (1) 主債務者たる前記訴外会社がその取引銀行である大和銀行a支店におい
て預金残高不足により手形の支払いを拒絶せられた最初の日は昭和三四年一二月一
八日である。
 本件七通の手形による融資がなされたのはそれより僅か数日前の同月一四日と一
六日であるから、右融資がなされた際は右訴外会社の経営内容が極度に悪化してい
たことは明らかであり、しかも、右の如き事情下で僅か数日中に本件七通もの多数
手形の割引きをなすことは異例というべきである。
 (2) 右割引きがなされた頃、訴外会社の経営者Aは金策のため岡山方面に行
き、阪神地方には不在であり、同会社においてはいわゆる取立て騒ぎが起きてい
た。一般債権者はAの行方を知らず、Aの家族はAの行方をかくして一切口外しな
かつた。
 (3) 本件七通の手形割引融資はすべて被控訴金庫の当時のb支店長Bの手に
よつて取り扱われており、同人の実父Cは訴外会社の出入りの棉花ブローカーであ
つた。
 本件手形割引がなされた当時、以上のような事情にあつて、しかも、訴外会社の
実情を知らず、これにつき一片の顧慮をも払うことなく、その経営者Aの不在中
に、店員の依頼に基づきたやすく融資したとすれば、被控訴人は訴外会社の破綻を
知らなかつたことにつき重大な過失があつたといわねばならない。
 二、 一般に、債権者が悪意で債務者となれ合いの上保証人を害する目的で放恣
な貸出しをなした場合、保証人が保証責任を免れることは勿論のことであるが、債
権者が主債務者の資産状態が悪化していることを重大な過失により知らず、放恣な
貸出しをした場合においても同様に解すべきである。民法第五〇四条は、法定代位
者ある場合において債権者が故意または懈怠によつてその担保を喪失または減少し
たときは法定代位者はその喪失または減少によつて償還を受けることができなくな
つた限度においてその責を免れる旨規定している。右法条の規定の趣旨に徴すると
きは、債権者が主債務者に融資をなすにあたり、その資産状態が悪化し、保証人の
求償請求が不能もしくは甚だしく困難であることを債権者の解怠により、すなわ
ち、過失によつて知らなかつた場合は故意の場合と同様保証人に融資による責任を
免れしめると解すべきである。これを反対に解し、債権者は主債務者の資産状態の
悪化の事実を知らない限り、たとい知らないことにつき重大な過失があつても債権
者のなした放恣な貸出しにつき保証人に保証責任を追及しうるとするならば不当に
債権者を保護することとなる反面その注意義務を不当に軽減し、一方保証人の責任
を不当に加重することとなり、信義衡平の原則に背致し、甚だしく不合理である。
 被控訴代理人の主張
 被控訴人が訴外会社から本件手形の裏書譲渡を受けた際、訴外会社の破綻の事実
を知らなかつたことにつき重過失があつたとの控訴人の主張事実は否認する。重大
な過失により法律効果を異にする場合は民法第九五条但書をはじめ、民法は必ず明
文をもつて規定している。控訴人の法律上の主張は法解釈の範囲を逸脱したもので
ある。
 証拠関係
 証拠の提出、援用、認否は控訴代理人において当裁判所の株式会社大和銀行a支
店に対する調査嘱託の結果を利益に援用したほか、原判決事実摘示のとおりである
から、これを引用する。
         理    由
 一、 当裁判所は、原判決摘示理由一、ないし三と同一理由によつて、訴外大和
棉花株式会社が同Aと共同で被控訴人あて、同人主張の請求原因一、(1)の約束
手形(甲第一号証)を振り出した事実、訴外合資会社林田製綿所は同大和棉花株式
会社あて被控訴人主張の請求原因一、(2)(イ)ないし(ニ)の四通(甲第二な
いし五号証)の約束手形を振り出し、被控訴人は右大和棉花株式会社から拒絶証書
作成義務免除のうえ、右約束手形四通の裏書譲渡を受けた事実、訴外大和棉花株式
会社は被控訴人主張請求原因一、(3)(イ)および(ロ)の二通(甲第六、七号
証)の為替手形を振り出し、支払人合資会社林田製綿所の引受を得、かつ拒絶証書
作成義務免除のうえ、右為替手形二通を被控訴人に裏書譲渡をなした事実、被控訴
人は以上の手形をいずれもその各支払期日に支払場所に呈示したが、その支払いを
拒絶せられた事実ならびに、控訴人は被控訴人に対し昭和三一年一〇月二三日甲第
八号証の約定書を差し入れて訴外大和棉花株式会社が現在および将来被控訴人に対
して負担すべき手形上の債務その他の債務につき連帯保証をした事実を認め、控訴
人が昭和三二年二月頃右連帯保証契約を解約したとの抗弁は失当であると認めるか
ら、原審の右判決理由をここに引用する。 二、 控訴人は、「かりに連帯保証を
したとしても、被控訴人は主たる債務者である訴外大和棉花株式会社が昭和三四年
一二月一四日頃その経営が破綻していたことを知りながら、連帯保証人たる控訴人
には何の連絡もなく、同月一四日と同月一六日の両日に、甲第一ないし七号証の手
形により二四八万円もの巨額の融資をなした。このような融資については、被控訴
人は控訴人に連帯保証人としての責任を追及することはできない」旨抗弁するので
考察する。
 <要旨第一>思うに、継続的金融取引きによつて生ずる現在ならびに将来の債務に
ついて、その限度額および期限を定めずに連帯保証をした場合における
連帯保証人の責任は、取引慣行や信義則に照らして衡平の観点からこれを判定すべ
く、殊に契約締結当時における当事者の諒解を重視し、これを基礎として考えなけ
ればならない。連帯保証人は、一般に保証当時における主債務者の資産信用関係と
相互の信頼関係を眼中に置いて保証するのであり、与信をなす債権者は保証人の右
意向を諒解しているものと認めるべきである。そこで、継続的金融取引きにつき相
当期間を経過した中途において主債務者の資産信用状態が相互の信頼信用を破る程
度に極度に悪化し、危殆に瀕した場合に臨んでさらになす融資について考えてみ
る。この場合与信をなす債権者が与信を義務づけられているのであれば格別、与信
するかどうかの自由を有しているのにかかわらず、保証人にさらに多額の負担を蒙
らせる結果となるべき融資をなすにはあらかじめ保証人の意向を打診する一応の措
置をとるべき信義則上の義務があるというべく、これを怠り、敢えて主債務者に対
してした巨額の融資については、保証人の責任を追及することができないと解する
のが相当である。なんとなれば、このような場合保証人は保証契約についての解約
告知権を取得すると解すべきではあるが、保証人に解約の告知権が発生しているの
に右解約権の行使がないのは、必ずしもこれを知りながらその保証の責に任じよう
との寛容と受忍によるとはかぎらないのであつて、むしろ右解約権発生の事実を知
らないからと考えるのが相当であるところ、その行使のないのを奇貨として故意に
保証人の了解を求めずして主債務者に巨額の融資をすることは保証人に不測の損害
を蒙らせ保証人の義務を不当に著しく過重ならしめるものであつて、信義に反する
ことが明らかであるからである。
 本件についてみるに、原審での証人Dの証言ならびに同証言によつて成立を認め
うる乙第二号証、原審での証人E、同F、同Dの各証言、原審での控訴本人の供
述、原裁判所の社団法人大阪銀行協会大阪手形交換所に対する調査嘱託の結果、当
裁判所の株式会社大和銀行a支店に対する調査嘱託の結果を総合すると次の事実を
認めることができる。
 被控訴人は控訴人が訴外大和棉花株式会社のため連帯保証をした昭和三一年一〇
月から約三年余経過した昭和三四年一二月一四日と同月一六日に右訴外会社から甲
第一ないし七号証の本件手形七通を受け取つて手形貸付けあるいは手形割引きの方
法により合計約二四八万円の融資をしたのであるが、右融資をなした頃右訴外会社
の経営内容は極度に悪化し、右会社設立の当初から同会社の経営一切を実際担当し
ていたAは金策のため岡山方面に赴き、一時姿をかくしていたため、多数の債権者
が同会社に押しかけて商品を持ち去る等のことがあつて、その経営は全く行き詰り
の状態にあり、同年一二月一八日には訴外会社の取引銀行である大和銀行a支店に
おいて預金不足を理由に手形の支払いの拒絶をなし、同月二五日には大阪手形交換
所から同交換所の加盟銀行に対し、右訴外会社につき手形取引警告報告が発せら
れ、次いで同月二八日取引停止処分が発せられたこと、したがつて、同月一四日頃
においては訴外会社の資産状態は著しく悪化し危殆に瀕していた。
 以上の事実が認められる。しかしながら、昭和三四年一二月一四日被控訴人が右
訴外会社に対し融資をする直前、訴外会社が右の如く危殆に瀕していたことを知つ
ていたという控訴人の主張事実については、これを確認するべき証拠はない。すな
わち、原審での証人Bの証言によると、本件七通の手形による融資はすべて被控訴
金庫の当時のb支店長Bの手によつて取り扱われて居り、同人の実父Cは棉花ブロ
ーカーであり訴外会社の代表者と昵懇であり、同会社の取引きに関与したことがあ
る事実が認められるが、右事実をもつて直ちに右控訴人の主張を肯認する証左とな
すことができない。かえつて、右証人の証言によると、被控訴人が前記融資をする
際、訴外会社は神戸大丸に対する債権が入る旨申していたので本件七通の手形はこ
れにて決済できるものと考えて右融資の申出でに応じたもので、前記の如く会社の
経営内容が悪化していたことは知らず、これを知つたのは同月二一日頃であること
が認められるのである。
 そうすると、控訴人主張の前記抗弁は、被控訴人の故意の事実が認められないか
ら、これを採用するに由なきものといわなければならない。
 三、 控訴人は更に、「かりに被控訴人が右融資の際訴外会社の破綻の事実を知
らなかつたとしても、これを知らなかつたことについては重大なる過失がある。こ
のような場合においては故意の場合と同様、保証人の責任を免れしめるべきもので
ある」と主張する。
 <要旨第二>しかしながら、上述のごとく、債権者に故意の存する場合に保証責任
の追及を許さないのは信義則と衡平の観念に照らしてのことである。債
権者に過失があつたに止まるときは、それが重大な過失にあたる場合でも、故意と
は異なり、保証責任の追及を許さないとする理はないと解するのが相当である。け
だし、知らなかつたことが重大なる過失に因るとはいえ、知らなかつた善意の債権
者に知つたと同様な措置行動を期待することは信義の上からは無理を強いるものと
いうべく、他方保証人自身もこの場合解約告知権を有し、債権者の意に反してその
責を免れうるものであるにかかわらず、その権利を行使していない事情からすれ
ば、債権者側の重過失のみを責めるのは衡平の原則に背致するものと認めるべきで
あるからである。
 控訴人は民法第五〇四条を右控訴人の主張の法的根拠として有利に援用する。同
法条は、保証人その他法定代位者ある場合において、債権者が故意又は懈怠によつ
て担保を喪失又は減少したときには、代位をなすべきものはその喪失又は減少に因
り償還を受けることができないようになつた限度においてその責を免れる旨規定し
ている。右法条にいう解怠とは過失を意味し、この場合過失を故意と同列に置いて
いることは所論のとおりである。しかし、これは次の理由にもとづくのである。一
般に抵当権その他の物的担保権を有する債権者は弁済期に弁済を受けえられないか
らとて直ちに担保権を実行すべき責任はなく、それはもとより債権者の自由に委ね
られているわけであり、その間自己の故意又は過失により担保の喪失又は減少があ
つたとしてもその不利益は自己に帰せしめられるにすぎないのであるけれども、法
定代位者がある場合においては事情を異にする。法定代位者は弁済により求債権の
行使につき当然債権者に代位する(民法第五〇〇条)から、担保権者が有する担保
は、自己のための担保であると同時に法定代位者のための担保でもあるのである。
それゆえ、債権者がその有する担保を喪失又は減少させることは、単に自己の不利
益であるに止まらず、法定代位者の主たる債務者に対する求債権の担保を侵害する
結果を来たすから、その不利益を法定代位者に及ぼすことにもなる。そこで、民法
第五〇四条は、この場合に、債権者に対し、法定代位者のため、信義則上から担保
の保存あるいは適当な権利行使の義務を課し、債権者がその義務に違背したとき
は、たとえ過失による場合であつても、信義則に違反することにおいて故意の場合
と別異ね取り扱うべき理由はないから、等しくその効果として、これによつて法定
代位者に生じた不利益を自己において甘受すべきものとしたのである。したがつ
て、右法条の存在ならびに趣旨をもつて、単に債権者と保証人の関係があるだけ
で、なんら担保の保存義務違背などの存する余地のない本件のごとき場合を律せん
とする考えは全くあたらないものといわなければならない。それゆえ、右法条をも
つて控訴人の前記抗弁を肯認すべき法的根拠とすることはできない。
 よつて、右抗弁は主張自体採用することができない。
 四、 結論
 以上によれば、控訴人は訴外会社が被控訴人に対し本件七通の手形について負担
する手形金債務につき連帯保証の責に任ずべきであるから、被控訴人に対し右手形
金合計二、四八一、二八〇円およびこれに対する本件訴状送達の翌日であること記
録上明らかな昭和三五年四月一七日以降右支払いずみに至るまで商法所定の年六分
の割合いによる遅延損害金を支払うべき義務がある。
 したがつて、その支払いを求める被控訴人の本訴請求は理由ありとして認容すべ
く、結局これと同旨の原判決は相当である。
 よつて、民事訴訟法第三八四条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 平峯隆 判事 大江健次郎 判事 古崎慶長)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛