弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
         理    由
 本件抗告の趣意は別紙記載の通りである。
 抗告趣意第一点について。
 論旨は本少年が本件において長期間拘束を受けていたのは憲法の精神に反すると
共に公開の裁判によらないで不定期間少年の身体の自由を拘束することができるよ
うになつている少年法は憲法違反の疑があると謂うのである。仍て本件記録に徴す
るに、本少年は昭和二十九年二月二十二日強盗未遂被疑事件で逮捕され同月二十四
日勾留状の執行を受け勾留されていたが(同年三月十五日迄勾留期間延長)、同年
三月十五日検察官より高松家庭裁判所丸亀支部に送致され、同日同支部は少年を高
松少年鑑別所に送致する旨の観護措置決定をなし(更新一回あり)、同年四月七日
右観護措置は取消されたけれども、更に同日別件強盗被疑事件で逮捕され、同月九
日勾留状の執行を受け、同月十七日検察官より高松家庭裁判所丸亀支部に送致さ
れ、同日観護措置決定(少年鑑別所送致)がなされ(更新一回あり)、同年五月十
三日高松家庭裁判所において特別少年院送致決定がなされる迄引続き八十一日間身
柄を拘束されていたこと明かである。しかし右拘束は刑事訴訟法及び少年法の各規
定に従い適法に逮捕、勾留又は観護措置がなされたものであつて、何等違法の点は
認められないのみならず、本件事案の内容は犯罪個数多く且つ罪質も重い)、犯罪
発覚の経緯等より観れば、捜査又は調査の必要上勾留又は観護措置につき前記の如
き経過を辿り且つ前記の如き日数を要したことを以て、必ずしも不当であるとはい
えない。これを要するに本作において本少年が拘束を受けた期間は幾分長期間に亘
つた嫌いがあるとはいえ前記拘束が所論の如く憲法の精神に反した措置であるとは
認められない。また少年法は家庭裁判所が公開の裁判によらないで少年の身体の自
由を不定期間拘束する措置(少年院送致)を採り得るように規定していること所論
の通りであるけれども、家庭裁判所における所謂少年保護事件は訴訟事件に属しな
いから、審判を非公開としている少年法第二十二条第二項の規定が裁判の公開に関
する憲法第八十二条の規定に牴触するとは考えられず、他方法律の定める手続によ
り身体の自由を拘束することは憲法上も許されるところであるから(憲法第三十一
条参照)、家庭裁判所が公開の裁判によらないで少年院送致の如く少年の身体の自
由を不定期間拘束する措置をなし得ることを定めている少年法の規定が憲法に違反
しているとはいえない。従て論旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨は現時の少年院はその設備が非常に悪く且つ他の収容者の感化を受け易く却
て少年を悪化せしめる虞があり、また本件の如き事案であれば通常裁町所において
刑の執行猶予の恩典を与えられることが明かであるから、本件については寧ろ刑事
処分が相当であり、原裁判所が本少年を特別少年院に送致する旨の決定をしたのは
失当であつて、原決定を取消し本件を検察官に送致する旨の裁判を求めると謂うの
である。仍て考察するに、少年法第三十二条は「保護処分の決定に対しては、決定
に影響を及ぼす法令の違反、重大な事実の誤認又は処分の著しい不当を理由とする
ときに限り、少年、その法定代理人又は附添人から、二週間以内に、抗告をするこ
とができる(但書省略)」と規定し、保護処分決定に対しては少年の側のみよりの
不服申立の途を開い<要旨>ているところ、少年法が少年につき保護処分制度を設け
た趣旨より観れば、刑事処分は保護処分に比し少年にとつて不利益な措置で
あること多言を要しないところであるから、保護処分よりも刑事処分が相当である
との論旨は少年にとつて不利益なことを主張するものでありかかる抗告理由は右少
年法第三十二条所定の抗告理由のいずれにも該当せず不適法であると謂わなければ
ならない。尤も少年の刑事事件においては、しばしば刑の執行猶予が言渡される実
情にあるため、刑事処分を受ける方が少年院に相当期間収容されて身体の自由を拘
束されるよりも少年にとつて寧ろ事実上利益であるかの如く見られる場合が起り得
るけれども、刑事処分と保護処分の各本質を比較するならば、右の点を考慮に容れ
ても刑事処分が保護処分に比し少年にとつて利益な措置であるとは決していえない
(尚本件が若し刑事手続に付された場合果して所論の如く必ず刑執行猶予の言渡を
受け得られるや否やは遽に予測し難い)。従て論旨は適法な抗告理由に該らない。
 その他原決定を取消すべき事由が認められないから、少年法第三十三条第一項少
年審判規則第五十条により主文の通り決定する。
 (裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 浮田茂男)

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