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平成19年4月25日判決言渡
平成18年(ネ)第10088号損害賠償等請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成18年(ワ)第7605号)
口頭弁論終結日平成19年3月14日
判決
控訴人マルチ計測器株式会社
訴訟代理人弁護士高橋譲二
同川崎修一
被控訴人横河メータ&インスツルメンツ株式会社
訴訟代理人弁護士鈴木修
同大西千尋
訴訟代理人弁理士村瀬賢司
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,原判決別紙物件目録記載の製品を製造し,販売し,販売の申
出をしてはならない。
3被控訴人は,原判決別紙物件目録記載の製品,半製品,仕掛品を廃棄せ
よ。
4被控訴人は,控訴人に対し,7200万円及びこれに対する平成18年4
月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,分割型漏れ電流測定器に係る特許権(特許第2802993号)
を有する控訴人が,被控訴人による原判決別紙物件目録記載の製品(以下「
被告製品」という。)の製造販売が上記特許権を侵害すると主張して,被控
訴人に対し,被告製品の製造販売等の差止めと被告製品,その半製品及び仕
掛品の廃棄を求めるとともに,特許法102条2項に基づき損害賠償を求め
た事案である。
原審は,被告製品は控訴人の特許発明の構成要件を充足せず,その技術的
範囲に属しないとして,控訴人の請求を棄却した。控訴人は,これを不服と
して本件控訴を提起した。
2前提となる事実等,争点及びこれに関する当事者の主張
以下のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2の1,2
及び第3(原判決2頁9行目から9頁14行目まで)に記載のとおりである
から,これを引用する。
なお,以下においては,原判決の略語表示は,当審においてもそのまま用
いる。
(1)控訴人の補足主張
被告製品は,以下のとおり,本件特許発明の技術的範囲に属する。
ア構成要件Cの充足
(ア)本件特許発明の特許請求の範囲には「前記一対のコアの端面を対
向させて円環状とした場合の二つの分割面を挟んで対向する二組のコ
イルを,各誘起電圧が加算される極性にそれぞれ直列に接続し,」(
構成要件C)と記載されている。
これに対して,被告製品におけるコイル2a,コイル2d,抵抗4a,可
変抵抗3a(=Ra+Rb),3b(Rd+Rc)の接続は,以下のとおりであ
る。すなわち,①抵抗4a側は,コイル2aの+を通り抵抗4a,接地(GN
D)を経て,コイル2aに分割箇所を対置したコイル2dの−,2dの+,可
変抵抗3bのRd,可変抵抗3aのRa,コイル2aの−を経て,コイル2aの+
に戻る直列回路が形成されている(原判決別紙誘起電流図記載①参
照)。この直列回路を形成する回路に流れる電流をIaとすると,Iaは
単一の電流路である。②一方,抵抗4b側も,コイル2bの+を通り接
地(GND),抵抗4bを経て,コイル2cの−,2cの+,可変抵抗3bのRc,
可変抵抗3aのRb,コイル2bの−を経て,コイル2bの+に戻る直列回路
が形成されている(原判決別紙誘起電流図記載②参照)。この直列回
路を形成する回路に流れる電流をIbとすると,Ibは単一の電流路であ
る。
したがって,被告製品において,分割面を挟んで向かい合うコイル
同士の組(2aと2d,2bと2c)が直列に接続されている。
また,被告製品の回路は,コイル2aと2dに誘起された電圧を加算し
た電圧に対して負担を小さくすることにより位相とレベルを調整し,
もう一方側のコイルの負担に流れる位相に合わせているから,この意
味からも,コイル2aと2dが直列に接続されているといえる。
(イ)以上のとおり,被告製品における「抵抗4aと抵抗4bから出力を取
り出し,それぞれの出力を加算させる回路」は,「コアの・・・二つ
の分割面を挟んで対向する二組のコイルを,各誘起電圧が加算される
極性にそれぞれ直列に接続」しているのであるから,構成要件Cを充
足する。
イ構成要件Dの充足
(ア)本件特許発明の「前記直列接続によって加算された誘起電圧をそ
れぞれ入力されて増幅し,かつ,利得調整手段を備える一対のアン
プ」(構成要件D)の意義は,上記機能を有する器具であれば足りる
のであって,「信号の周波数や波形の特徴は変えずに,その振幅だけ
を増大させるアンプ」と限定的に解する理由はない。
他方,被告製品においては,「二組のコイルから出力された電流を
半固定抵抗と可変抵抗を用いてバランス調整している」のであるか
ら,被告製品における「半固定抵抗及び可変抵抗」は,構成要件D所
定の「アンプ」に該当する。
また,可変抵抗を用いて調整するということは,可変抵抗の中心付
近の抵抗値を基準として可変抵抗値の調整範囲を最小抵抗値から最大
抵抗値まで変化させるということを意味する。そして,CTの2次回
路において,可変抵抗値の中心値のときに流れる2次電流に対して可
変抵抗値を小さくすると,その結果2次電流は大きくなり,一次電流
との位相差はこれに伴い小さくなる。一方,可変抵抗値を中心値より
も大きくすると2次電流は小さくなり,1次電流との位相差は大きく
なる。このように可変抵抗によって2次電流を増減させることができ
る。同じ効果は,2次側の回路に固定抵抗を入れてオペアンプを使用
しても得ることができる。そうすると,被告製品は,可変抵抗や半固
定抵抗を入れて2次側に流れる電流の大きさを「増幅」あるいは「利
得調整」しているといえる。
(イ)したがって,被告製品の「半固定抵抗及び可変抵抗」は,増幅あ
るいは利得調整の機能を有するのであるから,本件特許発明の構成要
件D所定の「アンプ」に該当する。したがって,被告製品は,構成要
件Dを充足する。
ウ構成要件Eの充足
(ア)本件特許発明の「前記一対のアンプの出力をそれぞれ入力されて
位相を遅進させ,かつ,位相調整手段を備える一対の位相調整器」(
構成要件E)の意義は,構成要件D所定のアンプにより,コイルの巻
線に生じた誘起電流により発生した誘起電圧が一対のアンプに入力さ
れて利得調整されると同時に,その出力に応じて,可変抵抗と分割面
付近のコイルに生じるインピーダンスとの働きで位相が調整される作
用を有する器具であれば足りると解すべきである。すなわち,「誘起
電流の発生→誘起電圧の発生→アンプへの入力・増幅→位相調整」の
流れは同時に(瞬時に)起こり,しかも連続して起こるものであるか
ら,同構成要件の「位相調整器」を「アンプの出力を位相調整に入力
する」という不可逆的な場合に限定する理由はない。
他方,被告製品においては,CTの2次回路で可変抵抗(半固定抵
抗)3a,3bを調整し,Ra,Rdともに抵抗値を小さくしたり,大きくし
たりして,抵抗4aに表れる位相とレベルを変化させている。3a,3bを
調整すると,位相とレベルが同時に変化するために,位相のみを一方
側に合わせた後に,4bと並列に接続されている可変抵抗4cでレベルを
調整することができる。このように被告製品でも,可変抵抗等によっ
て位相調整が行われている。
したがって,被告製品の「位相調整の機能を有する可変抵抗」は,
構成要件E所定の「位相調整器」に該当するから,被告製品は構成要
件Eを充足する。
(イ)なお,被控訴人は,本件特許発明と被告製品は,その解決手段の
技術的思想が基本的に異なる旨主張する。しかし,本件特許発明も被
告製品も,分割面の磁気抵抗の相違を分割面に対置するコイルを利用
し,二つの出力電圧として取り出し,この二つの出力電圧の位相及び
レベルの違いについて,可変抵抗を使用して一方側に合わせ,あたか
も分割箇所の磁気抵抗が改善されたときと同等の効果を実現する点
で,その技術課題のみならず解決手段も同一であるから,上記主張は
失当である。
エ構成要件F,G及びHの充足
前記アないしウに述べたとおり,被告製品は,半固定抵抗及び可変抵
抗を入れることによって,増幅あるいは利得調整及び位相調整をしてい
るのであるから,「前記一対の位相調整器の両出力を加算する加算
器」(構成要件F),「前記加算器の出力を表示する表示器」(構成要
件G)及び「前記各調整手段の調整によって残留電流を調整する」(構
成要件H)との作用を有する。したがって,被告製品は,構成要件F,
G及びHを充足する。
オまとめ
以上のとおり,被告製品は,本件特許発明の構成要件をすべて充足す
るから(構成要件A,B及びIを充足することは当事者間に争いがな
い。),本件特許発明の技術的範囲に属する。
(2)被控訴人の反論
ア構成要件Cの非充足
構成要件Cにおける「直列」とは,「二つ以上の回路素子の端と端を
順につなぐ配列。単一の電流路を形成する。」(乙7)を意味し,「単
一の電流路」とは,「流れる電流が同じもの,すなわち,当該接続部分
の範囲では他の回路に電流が漏出せず,他の回路から電流が流入もしな
いこと」を意味すると解するのが相当である。
しかるに,被告製品における二組のコイル(2a,2b,2c,2d)のそれ
ぞれの接続をみると,2dで誘起される電流の一部は2aに流れるものの,
大部分はコイル2bの側に流れ,2dに流れる電流のすべてが2aに流れるこ
とはない。
したがって,2aと2dとは「直列」結合ではなく,「単一の電流路」を
形成しておらず,この点は,2bと2cについても同様である。以上のとお
り,被告製品は,本件特許発明の構成要件Cを充足しない。
イ構成要件Dの非充足
(ア)構成要件Dには,「前記直列接続によって加算された誘起電圧を
それぞれ入力されて増幅し,かつ,利得調整手段を備える一対のアン
プ」と記載されている。同構成要件の記載のとおり,「アンプ」が増
幅する対象は「誘起電圧」であって,「計測対象の電線に流れる電
流」ではない。
これに対して,被告製品は,CTの2次回路に半固定抵抗や可変抵
抗を入れることにより増幅あるいは利得調整を行っている対象は,「
計測対象の電線に流れる電流」であって「誘起電圧」ではない。ま
た,被告製品における半固定抵抗と可変抵抗は,2次側に流れる電流
の大きさを減少させるだけで,出力を増幅したり,利得調整できるも
のではない。したがって,被告製品の「半固定抵抗と可変抵抗」は,
構成要件Dの「アンプ」に該当せず,被告製品は構成要件Dを充足し
ない。
(イ)本件特許発明は,「計測対象の交流電線をクランプする分割型コ
ア」,「コアに生じる磁束により誘起電流(及び電圧)を発生させる
少なくとも4個のコイル」,「コイルに生じた電圧を増幅調整する利
得調整手段を備える一対のアンプ」,「アンプの出力についての位相
を調整する位相調整手段を備える一対の位相調整器」,「位相調整器
の一対の出力を加算する加算器」,「表示器」から構成されてい
る。「アンプ」は,直列に接続した二組のコイルに対応して,利得調
整を行うことができるものとされているため,一対存在することが必
須である。本件特許発明は,このような構成を採用することによっ
て,利得調整をそれぞれ独立した別個のパラメーターとして調整する
ことができる点で利点がある。
これに対して,被告製品は,①被測定用交流電線をクランプする分
割型コア,②コアに生じる磁束により誘起電流(及び電圧)を発生さ
せる4個のコイル,③コアの磁気回路の非対称性を補正するための抵
抗を用いた回路,④加算器,⑤表示器から構成されており,③の回路
では固定抵抗,半固定抵抗,可変抵抗しか使用されず,また,可変部
分はわずかに3箇所であり,電流(電圧)と位相をそれぞれ独立した
別個のパラメーターとして調整することはない。
したがって,被告製品は,構成要件Dを充足しない。
ウ構成要件Eの非充足
(ア)構成要件Eの「前記一対のアンプの出力をそれぞれ入力されて位
相を遅進させ,かつ,位相調整手段を備える一対の位相調整器」にお
ける「位相の調整」は,コイルに生じた電圧の位相と加算器に入力さ
れる電圧の位相とを「コイルより後方の回路」部分で変化させること
を意味する。
これに対して,被告製品は,計測対象の電線に流れる電流について
の電圧の位相とコイルに生じる電圧の位相の間の差(変化)とを調整
するものであって,コイルより後方の回路部分で変化させるものでは
ないので,構成要件Eを充足しない。
(イ)上記イ(イ)で述べたのと同様の理由により,本件特許発明では,
一対の位相調整器の存在が必須である。本件特許発明は,このような
構成を採用することによって,位相をそれぞれ独立した別個のパラメ
ーターとして調整することができる点で利点がある。
これに対して,被告製品では,固定抵抗,半固定抵抗,可変抵抗し
か使用されず,また,可変部分はわずかに3箇所であり,電流(電
圧)と位相をそれぞれ独立した別個のパラメーターとして調整するこ
とはない。
したがって,被告製品は,構成要件Eを充足しない。
第3当裁判所の判断
1構成要件DないしHの充足性について
当裁判所も,被告製品は,本件特許発明の構成要件DないしHを充足しな
いものと判断する。その理由は,原判決の「第4当裁判所の判断」1(2)な
いし(4)(原判決10頁24行目から12頁14行目まで)記載のとおりであ
るから,これを引用する。
さらに,控訴人の控訴審での主張に対して,以下のとおりの理由を付加す
る。
(1)本件特許発明の特徴
ア本件特許発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載,本件明細書(甲
1)の「発明の詳細な説明」欄の記載(段落【0001】,【0003
】,【0004】,【0013】ないし【0015】,【0018】
等)及び図1を総合すれば,①従来,分割型漏れ電流測定器において測
定時の残留電流を小さくして測定精度を向上させる(残留特性を良好な
ものとする)ための調整は,コアの分割面を鏡面仕上げや重ね合わせ嵌
合方式として分割面の磁気的結合を良好としたり,コアを曲げるなどし
て二つの分割面のバランスをとって行っていたが,このような調整手段
では,調整に多くの時間や熟練を必要とし,測定器の完成後は残留電流
の調整を容易に行えないなどの問題があったこと,②本件特許発明は,
上記の問題を解決するため,円環状のコアを2分割した半円環状の一対
のコアと,前記一対のコアのそれぞれの両端部寄りにそれぞれ巻回した
少なくとも各コア毎に2個のコイルと,前記一対のコアの端面を対向さ
せて円環状とした場合の二つの分割面を挟んで対向する二組のコイルの
構成を有する分割型漏れ電流測定器において,二組のコイルを,各誘起
電圧が加算される極性にそれぞれ直列に接続させ,前記直列接続によっ
て加算された誘起電圧をそれぞれ入力されて増幅し,かつ,利得調整手
段を備える一対のアンプと,前記一対のアンプの出力をそれぞれ入力さ
れて位相を遅進させ,かつ,位相調整手段を備える一対の位相調整器
と,前記一対の位相調整器の両出力を加算する加算器と,前記加算器の
出力を表示する表示器とを備え,前記各調整手段の調整によって残留電
流の調整を行うものであることが認められる。
イ以上のとおり,本件特許発明は,「二組のコイル」の一方の組から生
じた誘起電圧を「一対のアンプ」(構成要件D)の一方に入力し,当該
アンプからの出力を「一対の位相調整器」(構成要件E)の一方に入力
するとともに,「二組のコイル」の他の一方の組から生じた誘起電圧を
上記「一対のアンプ」の他の一方に入力し,当該アンプからの出力を上
記「一対の位相調整器」の他の一方に入力した上で,上記「一対の位相
調整器」のそれぞれからの出力(両出力)を「加算器」(構成要件F)
で加算し,上記「加算器」からの出力を「表示器」(構成要件G)で表
示するものであり,本件特許発明では,「二組のコイル」のそれぞれの
組から生じた誘起電圧について「一対のアンプ」(構成要件D)のいず
れか,及び「一対の位相調整器」(構成要件E)のいずれかによって,
それぞれの組ごとに各調整を行うことによって,残留電流を小さくする
ものである。
(2)被告製品の構成及び本件特許発明の構成要件との対比
ア被告製品の構成
乙1及び被告製品の回路構成(原判決別紙被告製品回路図(修正))
によれば,①被告製品においては,円環状のコアを2分割した半円環状
の一対のコア1a,1bのそれぞれに二組のコイル(2a,2b,2c,2d)を巻
き回し,コア1a側のコイル2a,2bの端子の間に半固定抵抗3a,コア1b側
のコイル2c,2dの端子の間に半固定抵抗3bが接続され,半固定抵抗3aと3
bは導線で結ばれていること,②コイル2aと2cの半固定抵抗に接続されて
いない方の端子は,それぞれ固定抵抗5a,5bを経て加算器及び演算増幅
器7に接続されていること,コイル2a,2b,2c,2dから生じた誘起電
流(誘起電圧)は,固定抵抗4a,4bを流れること,③コイル2a,2b,2
c,2dから生じた誘起電流(誘起電圧)のアンバランスの調整は,半固定
抵抗3a,3b,可変抵抗4c(固定抵抗4bに並列接続されたもの)を適宜調
整することによって行われることが認められる。以上のとおり,被告製
品においては,コイル2a,2b,2c,2dから生じた誘起電圧について,半
固定抵抗3a,3b及び可変抵抗4cを適宜調整することによって,残留電流
を小さくさせている。
イ対比
そうすると,被告製品は,①それぞれの組(例えば,コイル2a及び2d
の組,2b及び2cの組)から生じた誘起電圧が入力される「一対のアン
プ」を備えていないので,構成要件Dを充足せず,②当該アンプからの
出力が入力される「一対の位相調整器」を備えていないので,構成要件
Eを充足せず,③構成要件FないしHは,構成要件D及びEの充足を前
提とするものであるから,構成要件FないしHも充足しない。
(3)控訴人の主張に対する判断
控訴人は,構成要件Dの「アンプ」は,二つの分割箇所に巻かれたコイ
ルの出力電圧を相対的に調整する作用を営む器具であれば足りると解すべ
きであるとし,被告製品の半固定抵抗及び可変抵抗は,2次側に流れる電
流の大きさを「増幅」あるいは「利得調整」しているから,被告製品は構
成要件Dを充足すると主張する。しかし,特許請求の範囲の記載は,明細
書に格別の定義等がない限り,通常の意味に理解すべきであるところ,「
アンプ」とは,信号の周波数や波形の特徴を変えずにその振幅だけを増大
する器具であることが明らかであるから,コイルで誘起される電流及び電
圧を調整するための半固定抵抗や可変抵抗を指すと解することはできな
い。のみならず,被告製品は,「一対の」アンプを具備していないことは
明らかであるであるから,構成要件Dを充足しない。
また,控訴人は,構成要件Eの「位相調整器」は,「アンプの出力を位
相調整に入力する」という不可逆的な場合のみに限定すべきではなく,位
相の調整という機能を奏するものであれば足りるものと解すべきであると
し,被告製品の可変抵抗等は,位相を調整しているから,被告製品は構成
要件Eを充足すると主張する。しかし,構成要件Dの「前記直列接続によ
って加算された誘起電圧をそれぞれ入力されて増幅し,かつ,利得調整手
段を備える一対のアンプ」及び構成要件Eの「前記一対のアンプの出力を
それぞれ入力されて位相を遅進させ,かつ,位相調整手段を備える一対の
位相調整器」を全体として理解するならば,構成要件Eの「位相調整器」
は,一対のアンプの出力から入力されたものを調整の対象とする「一対の
位相調整器」に限定されると解すべきことは明らかであるから,控訴人の
主張は,その前提において失当である。
(4)小括
以上のとおりであって,被告製品は,本件特許発明の構成要件Dないし
Hのいずれをも充足しないから,構成要件Cの充足性を検討するまでもな
く,本件特許発明の技術的範囲に属しないものというべきである。
したがって,被控訴人が被告製品を製造販売する行為は,控訴人の有す
る本件特許権を侵害するものではない。
第4結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の本訴請
求はいずれも理由がなく,控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却す
ることとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀

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