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平成18年(ワ)第2709号意匠権に基づく差し止め請求権不存在確認請求事件
・平成19年(ワ)第376号同反訴請求事件
主文
1原告(反訴被告)の本訴請求及び被告(反訴原告)の反訴請求をいずれも棄
却する。
2訴訟費用は,本訴反訴を通じてこれを5分し,その1を原告(反訴被告)の
負担とし,その余は被告(反訴原告)の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1本訴請求
(1)被告(反訴原告。以下「被告」という。)は,原告(反訴被告。以下「原
告」という。)に対し,849万円及びこれに対する平成19年1月1日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被告は,別紙謝罪文を原告及び株式会社くろがね工作所あてに送付せよ。
2反訴請求
(1)原告は,別紙「原告製品図面」記載のいすを製造し,譲渡し,引き渡し,
貸し渡し,輸出し,輸入し,又は譲渡若しくは引渡しのために展示してはな
らない。
(2)原告は,別紙「原告製品図面」記載のいす及びその半製品(別紙「原告製
品図面」記載の構造を具備しているが製品として完成するに至らないもの)
並びに製造のための金型を廃棄せよ。
(3)原告は,被告に対し,6060万円及び平成19年1月1日から支払済み
まで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,①被告が,原告に対し,原告によるいすの製造販売行為が被告の有
する意匠権を侵害し,不正競争防止法2条1項1号ないし3号の不正競争行為
に当たるとして,同いすの製造,譲渡等の差止め,同いす(半製品を含む。)
及び製造のための金型の廃棄,並びに損害賠償(遅延損害金を含む。)を求め
(反訴請求),②原告が,被告に対し,被告が原告の取引先に対して原告が製
造販売するいすは被告の意匠権を侵害する旨警告したことが,不正競争防止法
2条1項14号の不正競争行為に当たるとして,損害賠償(遅延損害金を含
む。)及び信用回復措置を求めた(本訴請求)事案である。
1前提事実(証拠を摘示したもののほかは争いがない。)
(1)原告及び被告は,いずれもいす及び机等の製造販売等を業とする株式会社
である。
(2)被告は,次の意匠権を有している。
ア登録番号第1199425号
出願日平成14年12月4日
登録日平成16年1月23日
意匠に係る物品いす
登録意匠別紙意匠公報1記載のとおり
(「本件意匠権1」といい,同意匠権に係る登録意匠を「本件登録意匠
1」という。)
イ登録番号第1199085号
出願日平成14年12月4日
登録日平成16年1月23日
意匠に係る物品いす
登録意匠別紙意匠公報2記載のとおり
(「本件意匠権2」といい,同意匠権に係る登録意匠を「本件登録意匠
2」という。)
(3)被告は,平成15年10月から,本件登録意匠1・2に基づく別紙「被告
製品写真」記載のいす(商品名「LUSH」。以下「被告製品」という。)
を製造販売しており,被告製品は,2003年度グットデザイン賞を受賞し,
2003東京国際家具見本市で銀賞を得た(乙17号証の1,19号証,弁
論の全趣旨)。
(4)原告は,平成16年1月ころから,別紙「原告製品図面」記載のいす(そ
の外観は別紙「原告製品写真」のとおり。以下「原告製品」という。)を製
造し,株式会社くろがね工作所を含む複数の会社に販売している(甲23号
証,弁論の全趣旨)。
(5)被告は,くろがね工作所に対して,原告製品の販売は本件意匠権1・2な
どの意匠権を侵害するとして警告書面を送付するなどした。
2争点
(1)反訴請求について
ア原告が原告製品を製造販売する行為は,本件意匠権1・2を侵害するか
イ原告が原告製品を製造販売する行為は,不正競争防止法2条1項1号な
いし3号の不正競争行為に当たるか
ウ差止請求,廃棄請求及び損害賠償請求の可否
(2)本訴請求について
ア被告がくろがね工作所に対して原告製品が本件意匠権1・2等を侵害す
る旨の書面を送付したことが,民法709条の不法行為及び不正競争防止
法2条1項14号の不正競争行為に当たるか
イ損害賠償請求及び信用回復措置請求の可否
第3争点に関する当事者の主張
1反訴請求について
(1)争点(1)ア(意匠権侵害)について
(被告の主張)
ア本件登録意匠1・2及び原告製品の各構成は,別紙「本件登録意匠1・
2と原告製品との対比表(被告主張)」のとおりであり,原告製品は,本
件登録意匠1・2の構成と同一である。
イところで,原告製品には,脚フレームの露出部分,連結部の隙間の大き
さ,背もたれの両端・背面側,座の側面視等の差異がある。
しかし,これらの差異は,全体の面積から見れば,わずかな面積を占め
るにすぎない付加的構成で,需要者に与える印象の違いもわずかなものに
すぎない部分的なものである。
ウしかも,これらの差異には,以下のような形状の共通性が見受けられる
部分もある。
すなわち,脚フレームの露出部分については,本件登録意匠1・2の露
出していない部分の形状も,同じ丸パイプのような形状であり,露出部分
の形状が特に目立つようなものでもない。
次に,連結部の隙間の大きさについても,同じ凸レンズ断面形状であり,
凸レンズとした場合の厚みが異なるにすぎない。
また,座の側面視についても,端部が滑らかに下方に垂れている形状が
共通しており,座の側面視の差異は,座全体の形状の特徴である「周縁の
細幅な矩形状の枠部と,この枠内に張設されたメッシュ状シート部」とい
う共通点の中に埋没してしまう程度の差異にすぎない。
エこのように,本件登録意匠1・2と原告製品においては,需要者の注意
を惹く用途・機能が具体的に現され,しかも全体の面積に占める割合も大
きな支配的部分である前記構成の部分が共通し,さらに差異点においても,
形状の共通性が見受けられる以上,本件登録意匠1・2と原告製品が類似
することは明らかである。
(原告の主張)
ア本件登録意匠1・2及び原告製品の各構成は,別紙「本件登録意匠1・
2と原告製品との対比表(原告主張)」のとおりである。
イ本件登録意匠1・2と原告製品との対比
(ア)本件登録意匠1・2に係る物品と原告製品は,ともに「いす」であり
同一物品である。
(イ)共通点
a基本的な構成態様において,以下の点で一致している。
背もたれ,座及び左右一対の脚フレームを3構成要素とし,これら
の各構成要素が座の後方左右(背もたれ下端左右)を支点に連結され,
背もたれ,座及び連結部で囲まれた境界コーナーの間隙が現れるスタ
ッキング可能ないすである。
背もたれは,左右間で円弧状に湾曲し,かつ上下間で「く」の字状
に後方に反る正面視矩形状で小貫通孔が施された薄板状であり,座は,
平面視矩形状で細幅な略矩形状の枠部と,この枠内に張設されたメッ
シュ状シート部からなり,背もたれと座と連結部で囲まれた境界コー
ナーには,正面視左右間に隙間が形成され,左右の一対の脚フレーム
は,側面視略台形枠状の丸パイプからなり,左右脚下部間架橋はなく,
連結部は座の後方左右(背もたれ下端左右)を支点にして,背もたれ,
座及び脚フレームの3つの構成要素を連結し,下辺部(ベースフレー
ム部)に2個の連結ガイド材が配されている。
b具体的な構成態様において,以下の点で一致している。
背もたれは,①鋭角な4隅を備え,②正面視略矩形の薄板状におい
て,上下の両端辺が上下対称な円弧状に湾曲しており(本件登録意匠
1について,左右の両端辺は上下方向平行に配されており),③周辺
縁に余白を残して,貫通孔を配設する薄板状であって,④背面側の下
端辺縁に沿って凸条を設けている。
脚フレームは,前脚,後脚,前後脚架橋,左右脚架橋その他からな
り,座の前端の左右端から前脚が,後端の左右端から後脚がそれぞれ
垂下している。
(ウ)差異点
本件登録意匠1・2と原告製品は,具体的な構成態様において,以下
の点で差異を有する。
a背もたれについては,本件登録意匠1・2は,六角形状の小貫通孔
をまんべんなくメッシュ状に配設したのに対して,原告製品は,円形
の小貫通孔を適当な間隔を置き列状に配設し,その背面側には下辺縁
に沿った凸条のほかに脚フレーム収納用(スタッキング用)の縦長凸
部を設けてあり,左右間で円弧状に湾曲した態様において両端近傍が
わずかに屈曲拡開している。
また,本件登録意匠2は,左右の両端辺が左右対称にそれぞれ下方
から上方に向けて漸次内側へ湾曲傾斜するのに対し,原告製品は左右
の両端辺が上下方向に平行に配されている。また,本件登録意匠2は,
周縁部については,下端辺縁は中央部を微幅としかつ左右端に向けて
漸次拡幅する枠状で,上端辺縁と左右辺縁は一定の細幅な枠状余白を
設けるのに対し,原告製品は左右両側を広幅としつつ略全体に広く配
された枠状余白を設けている。さらに,本件登録意匠2は,周縁部に
ついては,上端辺縁と左右辺縁は一定の細幅な枠状余白を,下端辺縁
に中央部を微幅としかつ左右端に向けて漸次拡幅する枠状余白を残し
て六角形状の細かな貫通孔をまんべんなく密集配設して「メッシュ
部」を形成し,背面側に向けて漸次拡幅する凸条を配するのに対し,
原告製品は周辺縁に余白を設けている。
b座については,本件登録意匠1・2は,側面視において略「へ」の
字状に上方が湾曲し,前端部が前脚フレーム位置からわずかに斜め下
方前に突出し,後端部が,後脚フレーム及び架橋フレーム位置から後
方・左右外方にわずかに突出しているのに対し,原告製品は,平面状
(直線状)であり,前端部には前脚フレーム位置から下方に前垂れ部
を形成している。
c背もたれと座との連結部の境界コーナーにおいて,本件登録意匠1
・2は,脚フレームが露出して現れることはなく(座面から上方に脚
フレームが露出して現れない。),背もたれ,座及び連結部で囲まれ
た間隙は略凸レンズ状に現れるのに対し,原告製品は,連結部に後脚
フレーム上方延伸部が露出して現れ,背もたれ,座及び連結部で囲ま
れた間隙は後脚フレーム上方延伸部が露出して現れる分だけ厚い略凸
レンズ断面状に現れる。
d脚フレームについては,本件登録意匠1・2は,脚フレームは座面
より下方にのみ露出して現れるのに対し,原告製品は,後脚フレーム
座面より上にも露出して現れる。
ウ原告製品が本件登録意匠1・2及びこれに類似する意匠の範囲に属しな
い理由
(ア)先行周辺意匠
本件登録意匠1・2に関する先行周辺意匠には,次のものがある(こ
れらの各意匠につき別紙「公知意匠目録」参照)。
a公知意匠①「登録第1129591号意匠公報」(発行日:平成1
3年12月17日)記載のいすの意匠(甲8号証)
b公知意匠②「コクヨ総合カタログオフィスファニチャー編200
2」(コクヨ株式会社平成13年11月ころ発行)449頁中段所載
の商品番号「CK−865HQU2(ネット)」のいすの意匠(甲1
5号証)
なお,同いすの具体的形態は,「登録第1160001号意匠公
報」(発行日:平成14年12月9日。甲9号証)記載のとおりであ
る。
c公知意匠③「登録第1110010号意匠公報」(発行日:平成1
3年5月28日)記載のいすの意匠(甲10号証)
d公知意匠④「登録第1140263号意匠公報」(発行日:平成1
4年4月30日)記載のいすの意匠(甲11号証)
e公知意匠⑤「登録第1076513号意匠公報」(発行日:平成1
2年6月26日)記載のいすの意匠(甲12号証)
f公知意匠⑥「登録第1067615号意匠公報」(発行日:平成1
2年4月24日)記載のいすの意匠(甲14号証)
(イ)本件登録意匠1・2の要部
上記先行周辺意匠をもとに,本件登録意匠1・2の創作の要点を検討
すると,次のとおりである。
a基本的な構成態様について
本件登録意匠1・2は,本件登録意匠1・2に関係する関連意匠
(甲5号証)及び上記公知意匠①ないし⑥を参考にして検討すると,
脚フレームが座面より下方に露出して現れ,連結部に脚フレームが露
出して現れることがない点(座面から上方に脚が露出して現れな
い。)が他の要素と相侯って「洗練されたフォルム」の優れたデザイ
ンとなっている。また,背もたれ,座及び連結部で囲まれた間隙が略
凸レンズ断面状に現れる点にも主立った特色がある。
背もたれの具体的態様における正面視略矩形の薄板状において,上
下辺が上下対称な円弧状に湾曲し,左右の両端辺が,本件登録意匠1
では上下の平行に配し,本件登録意匠2では左右対称にそれぞれ下方
から上方に向けて漸次内側へ湾曲傾斜し,いずれも4隅は鋭角な点,
とりわけ,上下辺が上下対称な円弧状に湾曲した点が,従前の意匠に
は見られない特徴である。
しかし,その他の点については,以下のように,その各部形態及び
各部の組合せ態様のすべてが公知意匠①ないし⑥に表されており,こ
の種物品における周知又は公知の形態である。
背もたれが左右間で前側に円弧状である点は,公知意匠①ないし⑥
全部に,上下間で「く」の字状に後方に反り湾曲する薄板状である点
は,公知意匠①ないし⑤に記載されている。
座が周縁の細幅な略矩形状の枠部と,この枠部に張設されたメッシ
ュ状シート部とからなる点は,公知意匠②,⑤及び⑥に記載されてい
る。
背もたれと座との境界コーナー正面視左右間に隙間が形成される点
は,公知意匠③を除くすべてに,各脚フレームが側面視略台形枠状の
丸パイプからなりその下辺部(ベースフレーム部)に2個の連結ガイ
ド材が配される点は,すべての公知意匠①ないし⑥に記載されている。
したがって,当該基本的な構成態様はありふれた形態であり,本件
登録意匠1・2の要部となり得ない。
b具体的な構成態様について
次に本件登録意匠1・2の具体的な構成態様については,以下のよ
うに,多くの各部形態及びその組合せ態様が公知意匠①ないし⑥に表
されており,これらに記載された範囲においてこの種物品における周
知又は公知の形態である。
背もたれに関して,鋭角な4隅を備えるとともに上下端辺が対称な
円弧状である点は,完全同一の形態はないものの公知意匠④及び⑤に
おいて略共通する構成態様が記載されている。また,本件登録意匠1
の左右両端辺が上下方向平行に配されている点については,公知意匠
①に,本件登録意匠2の左右の両端辺が下方から上方内側へ漸次湾曲
している点については公知意匠②及び⑤に記載されている。さらに周
辺縁を残して配された貫通孔については公知意匠①,②及び④に,無
地部を除く貫通孔については公知意匠①ないし⑥に,背面側の下端辺
縁に沿った凸条は,公知意匠①,②及び⑤に記載されている。
座に関して,前端部が前脚フレーム位置からわずかに斜め下前方に
突出する点は,公知意匠④及び⑤に記載されている。
背もたれと座との境界コーナーに関して,左右間の隙間が大略凸レ
ンズ断面状である点は,公知意匠②,④及び⑤に記載されている。
c上記を整理すると,次の形態及び各部の組合せ態様は,公知意匠①
ないし⑥に表されておらず,その限りにおいて本件登録意匠1・2が
独自に備える特有の特徴である。
すなわち,「座」に関して,前後間においてわずかな高低差幅にて
略「へ」の字状に湾曲する形態,及びその後端部が左右外方へ突出す
る形態,「背もたれと座との境界コーナー」に関して,背もたれの左
右下端部と座の後端の左右外方突出部とが直結し,脚フレームその他
の部材が露出しない形態,「脚フレーム」に関して,そのすべてが座
部の下面より下方にのみ現れる(露出する)形態に特有の特徴を有す
る。
(ウ)原告製品の要部
原告製品の主立った特徴としては,背もたれの具体的な態様において,
正面視略矩形の薄板状において,上下辺が上下対称な円弧状に湾曲した
点を備えていることが認められるが,その他全体及び各部の構成態様は
上記公知意匠を踏襲したものであって,各別新規性はない。
エ本件登録意匠1・2及び原告製品が非類似である理由
左右一対の脚フレームにつき,本件登録意匠1・2は,脚フレームは座
面より下方にのみ露出して現れるのに対し,原告製品は,後脚フレーム上
方延伸部が露出して現れる点,連結部につき,本件登録意匠1・2は略凸
レンズ断面状であるのに対し,原告製品は,連結部に後脚フレーム上方延
伸部が露出して現れ,背もたれ,座及び連結部で囲まれた隙間は後脚フレ
ーム上方延伸部が露出して現れる分だけ厚い略凸レンズ断面状に現れる点
を対比すると,本件登録意匠1・2は,原告製品に比して「座,背のジョ
イント部は一体感のあるデザインにすることを配慮した」「洗練されたフ
ォルム」であるといえる。
そして,本件登録意匠1・2が,背もたれに関し六角形状の小貫通孔を
まんべんなくメッシュ状に配設したのに対して,原告製品は円形の小貫通
孔を適当な間隔を置き列状に配設し,その背面側には下辺縁に沿った凸条
のほかに脚フレーム収納用(スタッキング用)の縦長凸部を設け,左右間
で前側に円弧状に湾曲した態様において両端近傍がわずかに拡開している
点や,本件登録意匠1・2が,座の側面視において略「へ」の字状に上方
に湾曲し,前端部が前脚フレーム位置からわずかに斜め下方前に突出し,
後端部が,後脚フレーム及び架橋フレーム位置から後方・左右外方にわず
かに突出しているのに対し,原告製品は平面状(直線状)であり,前端部
には前脚フレーム位置から下方に前垂れ部を形成していることなどの差異
点がある。
また,本件登録意匠2については,周縁部は上端辺縁と左右辺縁は一定
の細幅な枠状余白を,下端辺縁に中央部を微幅としかつ左右端に向けて漸
次拡幅する枠状余白を残して六角形状の細かな貫通孔をまんべんなく密集
配設して「メッシュ部」を形成し,背面側の下端辺縁には,表面側の下端
辺縁と略同形の中央部を微幅としかつ左右端に向けて漸次拡幅する凸条を
配するのに対し,原告製品は周辺縁に余白を設けている。
これらの差異点を比較すると,本件登録意匠1・2と原告製品は別異の
意匠であって非類似である。
(2)争点(1)イ(不正競争防止法2条1項1号ないし3号の不正競争行為)に
ついて
(被告の主張)
ア被告及び原告は,いずれも,いす及び机等の製造販売等を業とする会社
である。
イ被告は,平成15年10月以降,本件登録意匠1・2に基づく被告製品
を,被告自ら及びその販売代理店等を通じ,日本国内のみならず欧米にて,
広く製造販売している。
ウ被告製品の意匠上の特徴は,別紙「本件登録意匠1・2と原告製品との
対比表(被告主張)」の「本件登録意匠1・2」欄に記載のとおりである。
エ被告製品の商品性の特徴は,以下のとおりである。
(ア)被告製品の背もたれは,六角形のパンチングが施されて人体の姿勢に
合わせてしなやかに形状が変化し,これにより,高い身体のホールド感
が得られるよう工夫されている。
(イ)被告製品は,身体疲労を軽減し,目的に集中するための最良の正しい
着座姿勢を保持することができるよう工夫されている。
(ウ)座枠とメッシュシートとが一体成形されているため,経年変化による
シートのたるみや変形等がなく,また,座枠は人間工学に基づいた三次
元カーブで構成されているため,大腿部への負担が軽減される。
(エ)ステンレス製のトーションバーが取り付けられていることにより,ト
ーションバーの機構と背もたれのしなり効果で,滑らかなべンディング
効果が実現されており,かつ被告製品に座った者の動きに従ってトーシ
ョンバーがねじれることにより,背もたれが取り付けられている後部足
パイプとトーションバーの溶接部分に応力の集中が働かないため,当該
溶接箇所が破壊されにくい。
(オ)複数の被告製品を積み重ねる(スタックする)際,それぞれの被告製
品の背もたれ同士が接触することによって摩擦傷が付くおそれがあるた
め,当該背もたれの摩擦傷を防止するスタック樹脂が付けられている。
(カ)脚フレームの下部に取り付けられた連結フックにより,多数の被告製
品を整然と配列することができる。
(キ)座のメッシュ素材シートは,心地良い弾力性を持ち,機能性,美しさ
と同時に軽量化を実現している。
オ被告製品の周知性・著名性について
(ア)被告製品は,前項記載のような特徴を有することから,平成15年1
0月,2003年度グッドデザイン賞を受賞し,同年11月,2003
東京国際家具見本市において銀賞を得た。
(イ)被告製品は,株式会社近代家具出版発行の「月刊近代家具」(発行部
数約2万部)の平成15年夏発行の第512号の表紙(乙22号証),
工作社発行の「室内」(発行部数約5万部)の平成17年1月発行の第
601号112頁(乙23号証),平成15年9月1日以降の被告のホ
ームページ(乙24号証,25号証),雑誌近代家具の平成16年夏季
号の表紙(乙26号証),東京国際家具見本市の主催者たる社団法人国
際家具産業振興会の会報(平成16年1月号)の裏表紙(乙27号証)
において,被告製品の広告や,被告製品が2003東京国際家具見本市
において銀賞を得た事実が掲載されている。
(ウ)被告製品は,平成18年9月ころ,米国カリフォルニア州のランチョ
ミラージュ市の公共図書館に355脚納品され,平成17年5月ころ,
シンガポールの教会に1100脚納品されており,このことは,被告の
ホームページで掲載されている。
(エ)以上のように,被告製品が不正競争防止法2条1項1号及び2号に定
める周知性及び著名性を有することは明らかである。
カ原告の不正競争行為について
(ア)原告は,遅くとも平成16年1月ころから,くろがね工作所にいわゆ
るOEM(OriginalEquipmentManufacturing,他社ブランド製品の製
造)供給をするべく,原告製品を製造販売した。また現在においても,
自ら原告製品の製造販売を継続している。
(イ)原告製品の製造販売は,被告製品が有する著名性・周知性を利用し,
かつこれにただ乗りする手段により,市場において不正な利益を得よう
とする目的に出た行為であり,不正競争防止法2条1項1号及び2号の
不正競争行為に当たる。このことは,前述のように,原告製品が被告製
品の基となった本件登録意匠1・2と類似するものであり,かつ原告製
品の販売開始時が,被告製品がグッドデザイン賞及び2003東京国際
家具見本市の銀賞を得た直後の平成16年1月である事実に照らして明
らかである。
(ウ)また,被告製品の背もたれや座,座枠などは,上記エに記載のとおり,
人体の姿勢に合わせたり,正しい着座姿勢を保持することを容易にすべ
く,人間工学に基づいた三次元カーブで構成したものであり,その意匠
及び製作方法に多大な創意・工夫をこらしているものであるが,原告製
品は,以下のとおり,簡単に模倣できる箇所はそのまま被告製品を模倣
し,製作が難しい箇所はこれを容易・安価な製作方法,デザイン,構造
に変更して製作したもの(隷属的模倣,スラヴィッシュイミテーショ
ン)であって,被告製品のメッシュの座,メッシュに似せた背もたれ,
座のフレーム等の特徴的な部分を模倣したものといわざるを得ない。
a背もたれ
原告においては,被告製品のように,強度を保持しつつ開口率を大
きくする技術がないため,あるいは製造コストを下げるために,原告
製品の開口率を減らし,数を減らして小貫通孔を施している。
b最良の着座姿勢,三次元カーブ
原告製品は,高度な技術が要求される「へ」の字の三次元カーブを
採用せず,平面的な座に仕上げている。
cトーションバー機構
原告製品は,ベンディング効果を求めず,安易に強度を確保できる
構造で溶接されている。
dスタック樹脂
原告製品は,積み重ね時に傷が付く問題に対処するスタック樹脂な
どを設けず,安易にコストダウンの手法をとっている。
eメッシュシート素材
原告製品のメッシュ自体は,黒一色で,既製品の布をかぶせること
でカラー展開し,メッシュの質感を無視した安易な方法をとっている。
f背と座の連結
原告製品においては,座の後ろ部分と背の取付けのために7か所も
のねじで組み立てている。これは,美感を犠牲にして,たくさんのね
じで取り付ければ良いという安易な方法であり,金型加工費用と精度
を抑えた手法をとったものである。
(エ)また,前記意匠権侵害の事実によって明らかなように,原告製品の製
造販売が不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為にも当たることは
疑いの余地がない。
(原告の主張)
ア被告製品の意匠上の特徴に関する被告の主張は,別紙「本件登録意匠1
・2と原告製品との対比表(原告主張)」記載の本件登録意匠1・2に関
する形態と一致する範囲で認め,商品性の特徴に関する被告の主張は知ら
ない。
イ被告製品の周知性・著名性に関する被告の主張は,被告製品がグッドデ
ザイン賞等を受賞したことは認めるが,そのほかは知らない。
ウ原告製品の製造販売が不正競争防止法2条1項1号ないし3号の不正競
争行為に当たるとの被告の主張は否認ないし争う。
被告製品の意匠(本件登録意匠1・2参照)と原告意匠は非類似である
から,混同を惹起するおそれはなく,また,商品の出所表示も問題になら
ないし,商品形態についても模倣の問題になり得ない。
エ被告は,原告製品は,被告製品の隷属的模倣(スラヴィッシュイミテー
ション)である旨主張するが,原告製品は被告が主張するような隷属的模
倣の意図で製作されたものではないし,既に述べたとおり,原告製品と被
告製品は類似せず,その形態が実質的に同一であるとはいえない以上,不
正競争行為には当たらない。
(3)差止請求,廃棄請求及び損害賠償請求
(被告の主張)
ア差止請求及び廃棄請求
被告は,原告に対し,意匠法37条1項,2項,不正競争防止法3条1
項,2項に基づき,原告製品を製造し,譲渡し,引き渡し,貸し渡し,輸
出し,輸入し,又は譲渡若しくは引渡しのために展示することの差止め,
及び原告製品及びその半製品(別紙「原告製品図面」記載の構造を具備し
ているが製品として完成するに至らないもの)並びに製造のための金型を
廃棄することを求める。
イ損害賠償請求
(ア)被告製品の売上額から原材料費その他変動費を控除した利益(限界利
益)は,1台当たり約4800円である。
原告は,平成16年1月から平成18年12月までの間に,原告製品
を少なくとも合計1万2000台(同販売台数は,被告が製造販売可能
であった被告製品の個数を超えるものではない。)販売したから,被告
が原告の同販売行為によって被った損害は5760万円(4800円×
1万2000台)となる(意匠法39条1項,不正競争防止法5条1
項)。
(イ)被告は本件訴訟の追行を弁護士及び弁理士に依頼したが,原告の意匠
権侵害行為ないし不正競争行為と相当因果関係が認められる弁護士及び
弁理士費用の相当額は300万円を下らない。
(ウ)よって,被告は,原告に対し,意匠法39条1項,不正競争防止法2
条1項1号ないし3号,4条に基づく損害賠償として,6060万円
(5760万円+300万円)及びこれに対する不法行為の後の日であ
る平成19年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払を求める。
(原告の主張)
被告の主張は否認しないしは争う。
2本訴請求について
(1)争点(2)ア(民法709条の不法行為及び不正競争防止法2条1項14号
の不正競争行為)について
(原告の主張)
ア被告は,くろがね工作所に対し,次のとおり2度にわたって,警告行為
を行った。
(ア)被告は,平成16年2月26日,原告の取引先であるくろがね工作所
に対し,原告製品は本件登録意匠1・2及びこれらの意匠と同日に出願
された8件の登録意匠に係る意匠権を侵害する旨の警告書(甲1号証の
1。本件書面1)を送付した。
(イ)本件書面1を受け取ったくろがね工作所は,同年2月27日,原告に
対し,上記警告に対して責任をもって対処するよう通知した。
(ウ)弁理士廣江武典は原告の代理人として,被告代理人弁理士足立勉に対
し,同年3月5日付けの回答書により,調査検討のため期間が必要であ
る旨,原告製品の意匠権の問題は今後は原告の責任として対応する旨を
通知した(甲1号証の2)。
原告は,同年4月16日,足立弁理士に対し,検討した結果,原告製
品は,被告の本件意匠権1・2等を侵害していない旨を理由を付して通
知した(甲1号証の3)。
(エ)廣江弁理士は,同年5月31日,被告を訪問して,非侵害である旨を
口頭で説明した。
(オ)被告は,同年6月9日,くろがね工作所に対し,「貴社商品『MS2
2シリーズ』の件」と題する書面に「拝啓貴社時下ますますご清栄の
こととお喜び申し上げます。さて頭書の件に関し,平成16年3月9日
付けの貴回答書確かに拝受いたしました。先日藤沢工業および同社顧問
弁理士より直接説明を受け,その後検討しましたが,当方としましてな
お納得できない状況です。この旨貴社に連絡します。」と記載して送付
した(甲1号証の6。本件書面2)。
イ被告のくろがね工作所に対する本件書面1・2による警告行為は,次の
とおり,民法709条の不法行為及び不正競争防止法2条1項14号の不
正競争行為に当たる。
(ア)本件書面1においては,被告は10件の登録意匠の構成等に何ら言及
することなく,原告製品が上記登録意匠と同一であり若しくは類似して
侵害であるとしている。なお,原告製品と上記登録意匠との関係につい
て「類似」は問題となり得ても,「同一」の問題はいかなる意味におい
ても生じ得ない。
(イ)本件書面2は,本件書面1の警告内容を維持したものと考えられるが,
原告の平成16年4月16日付けの回答書(甲1号証の3)における非
侵害の反論に対して,何ら具体的に応答することなく,かつ,原告製品
の意匠の問題については,原告において対応する旨通知しているにもか
かわらず,直接くろがね工作所に再度警告している。
(ウ)原告は,資本金3800万円の会社であるのに対し,被告は,資本金
2億0135万円で,原告の会社規模をはるかにしのぐ規模である。さ
らに,くろがね工作所は資本金29億9845万円の大会社である。
したがって,原告の会社規模をはるかにしのぐ被告が,大会社である
くろがね工作所に対して,本件書面1・2を送付すれば,その企業規模,
力関係から,くろがね工作所との原告製品の取引が停止になる可能性が
極めて高いことは容易に予測できた。
(エ)被告は,本件反訴状においても,本件登録意匠1・2,原告製品の構
成について,具体的な検討を加えることなく,類似であると主張してい
ることから,本件書面1・2の発送時においても,詳細な検討をしてい
なかったと考えられる。
(オ)被告は,本件反訴において,6000万円を超える損害があると主張
するにもかかわらず,平成16年6月9日付けの本件書面2を発送した
後,意匠権侵害に基づく訴訟等を積極的に提起せず,原告が平成18年
7月19日に本件の債務不存在確認の訴えを提起して半年余り経った平
成19年1月29日になって,本件反訴を提起している。また,被告は,
本件訴訟手続において,当初反訴請求と仮処分を申し立てる予定である
旨申し述べながら,仮処分の申立てを断念している。
したがって,被告は,原告製品の意匠と本件登録意匠1・2との類似
について確証がないまま,本件書面1・2を発送したものと強く推認で
きる。
(カ)既に述べたとおり,原告製品が本件登録意匠1・2と類似していない
ことは明らかであって,被告が類似判断を誤って2度にわたってくろが
ね工作所に対し警告書を送付したことについて過失があるから,被告は,
民法709条の不法行為責任を負う。
また,上記の事情に照らせば,被告が,くろがね工作所に意匠権侵害
を警告する旨の本件書面1・2を送付したことは,意匠権者としての正
当な権利行使とは認められず違法であり,またそのことについて過失が
認められるから,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に当た
る。
(被告の主張)
ア原告の主張アのうち,(ア),(ウ)ないし(オ)の各事実は認めるが,(イ)の事
実は知らない。なお,本件書面2はその文面からして明らかに警告書では
ない。
イ原告の主張イは否認しないしは争う。
被告がくろがね工作所に本件書面1・2を送付したことは,意匠権者と
しての正当な権利行使であり,何ら違法性はなく,民法709条の不法行
為ないし不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為には当たらない。
(2)争点(2)イ(損害賠償請求及び信用回復措置請求)について
(原告の主張)
ア損害賠償請求
(ア)逸失利益
原告は,本件書面1・2により,くろがね工作所との原告製品に関す
る取引は,平成16年をもって停止され,平成17年以降の取引は一切
なくなった。
原告の平成16年の販売実績によれば,原告製品の販売数のうち,く
ろがね工作所に対する販売数の割合は27%であった。
原告製品の売上高は,平成17年が1397万8596円,平成18
年が1835万0808円であったから,被告の上記不正競争行為がな
ければ,原告製品のくろがね工作所に対する平成17年及び平成18年
の売上高は,872万8939円((1397万8596円+1835
万0808円)×0.27)であったと予想できる。
原告製品の利益率は40%であるから,原告は,被告の上記不正競争
行為によって被った逸失利益は,約349万円(872万8939円×
0.4〔1万円未満切捨て〕)となる。
(イ)信用毀損による無形の損害
被告は,上記不正競争行為により,くろがね工作所に対する信用,す
なわち,原告が被告の本件意匠権1・2等を侵害する製品を製造販売し
たとの疑念を抱かせた。
また,意匠権侵害に関する本件紛争は,くろがね工作所と原告との間
では,原告が責任をもって対処するとの合意があり,それを被告に告知
したにもかかわらず,被告はあえて本件書面2をくろがね工作所に直接
発送したため,原告は,くろがね工作所からの信用を失い,その結果,
現在も原告製品の取引が停止させられている。
上記の信用毀損による損害は,200万円が相当である。
(ウ)弁護士・弁理士費用
原告は,本件訴訟の追行を弁護士及び弁理士に依頼したが,原告の意
匠権侵害ないし不正競争防止法違反の行為と相当因果関係が認められる
弁護士及び弁理士費用の相当額は300万円を下らない。
(エ)よって,原告は,被告に対し,民法709条,不正競争防止法2条1
項14号,4条に基づく損害賠償として,849万円(349万円+2
00万円+300万円)及びこれに対する不法行為の後の日である平成
19年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損
害金の支払を求める。
イ信用回復措置請求
原告は,被告の本件書面1・2による違法な警告行為によって,くろが
ね工作所との原告製品に関する取引を停止させられ現在も取引が回復して
いない。上記損害賠償だけでは,被告によって害された信用を回復するこ
とができないので,原告は,被告に対し,損害賠償と併せて,別紙謝罪文
を原告及びくろがね工作所に送付することを求める。
(被告の主張)
原告の主張は,不知ないしは争う。
第4争点に対する判断
1争点(1)ア(意匠権侵害)について
(1)本件登録意匠1・2及び原告製品の各構成は,別紙「本件登録意匠1・2
と原告製品との対比表(原告主張)」のとおりと認められる。
被告は,各製品の構成を別紙「本件登録意匠1・2と原告製品との対比表
(被告主張)」のように捉えるべきである旨主張するが,被告が主張する構
成は,いすの全体的な構成を捉えているものの,背もたれ,座及び脚フレー
ムの具体的な構成を捨象した内容となっているから,本件登録意匠1・2や
原告製品の各意匠の類比を判断するために必要な意匠上の特徴を表現できて
おらず,これを採用することはできない。
(2)本件登録意匠1・2の要部について
ア意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察することを
要するが,この場合,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには
公知意匠にない新規な創作部分の存否等も参酌して,需要者の注意を最も
惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,両意匠が要部において構成態
様を共通にするか否かを中心に観察して,両意匠が全体として美感を共通
にするか否かを判断すべきである。
イそこで,本件登録意匠1・2の要部を検討すると,当該意匠に係る物品
は,スタッキング可能な汎用のいすであって,背もたれ,座及び左右一対
の脚フレームの3要素から成り立ち,これらの3要素が座の後方左右(背
もたれ下端左右)を支点に連結された基本的構造を有するものであるから,
需要者が最も注目するのは,座った際に人体に直接触れる部分,すなわち
背もたれ及び座の形状であり,また,背もたれ,座及び脚フレームの連結
部位もいす全体の美感を左右する重要な要素と考えられる。
本件登録意匠1・2は,背もたれが正面から見て略矩形の薄板状であっ
て,上下辺が上下対称な円弧状に湾曲し,左右の両端辺が,本件登録意匠
1では上下の平行に配し,本件登録意匠2では左右対称にそれぞれ下方か
ら上方に向けて漸次内側へ湾曲傾斜し,いずれも4隅は鋭角な点,とりわ
け,上下辺が上下対称な円弧状に湾曲した点(背もたれの外周形状)は,
需要者の注意を惹く部分であり,従前の意匠には見られない特徴的な要素
と認められる(なお,公知意匠④では,背もたれの上下辺が上下対称な円
弧状であるが,左右の両端辺に屈曲部位がある特異な形状であるし,公知
意匠⑤では,背もたれの下辺は円弧状であるものの,上辺はやや弧を描い
ているがその円弧形状は顕著ではない。)。
また,背もたれ,座及び脚フレームの連結部において,連結フレームが
座面より下方に露出して現れ,座面から上方においては,フレーム部材は
座及び背もたれの構成部材によって覆われ,脚フレームが露出して現れる
ことがないこと(脚フレームの露出範囲)についても,座面と背もたれの
一体感が表現され,シンプルで洗練されたデザインとなる点であって,需
要者の注意を惹く部分であり,従前の意匠には見られない特徴的な要素と
認められる。
そして,背もたれの上下辺が上下対称な円弧状であることや,背もたれ
及び座をフレームを露出させることなく連結したことに伴って,背もたれ
と座の間隙が略凸レンズ断面状に現れる点(背もたれと座の間隙)も,い
すの意匠上の特色であって,需要者の注意を惹く部分と認められる。
したがって,上記の背もたれの外周形状,脚フレームの露出範囲,背も
たれと座の間隙が,本件登録意匠1・2の要部と認めることができ,他の
構成要素は,公知意匠①ないし⑥に見られるところであり,あるいは需要
者の注意を惹かない微細な点であって,意匠上の特徴的な部分とは認めら
れない。
(3)本件登録意匠1・2と原告製品の類否について
ア原告製品は,本件登録意匠1・2の要部のうち,背もたれの外周形状に
ついては,上下辺が上下対称な円弧状に湾曲するという同要部に該当する
外周形状を備えているが,脚フレームの露出範囲については,後脚フレー
ムの上方延伸部が座面から露出して現れ,連結部に後脚フレーム上方延伸
部が露出して現れるから,同要部に該当する形状を備えておらず,また,
背もたれと座の間隙については,後脚フレーム上方延伸部が露出して現れ
る分だけ厚い凸レンズ断面状になっており,本件登録意匠1・2のスマー
トな印象を与える凸レンズ断面状とは異なる形状となっている。
イこれらの要部についての一致不一致のほか,本件登録意匠1・2と原告
製品の各構成は,別紙「本件登録意匠1・2と原告製品との対比表(原告
主張)」記載のとおり,それぞれ下線を付した部分が相違し,それ以外の
部分は共通する。
本件登録意匠1・2と原告製品の各構成を対比すると,背もたれ,座,
背もたれと座の境界コーナー,左右一対の脚フレームに関する基本的構成
態様はすべて共通しており,また,脚フレームの具体的構成態様のうち,
左右一対の脚フレームが,前脚,後脚,前後脚架橋,左右脚架橋その他か
らなり,前端の左右端から前脚が,後端の左右端から後脚がそれぞれ垂下
するという点が共通している。これらの共通点は,両意匠の全体的かつ基
本的な構成を決定するものといえるものの,公知意匠①ないし⑥に照らせ
ば,これらの点はスタッキング可能ないすが通常備える構成にすぎないも
のであるから,需要者から見たいすの美感を特徴付ける部分とはいえない。
ウ一方,本件登録意匠1・2と原告製品とは,上記の脚フレームの露出範
囲や,背もたれと座の間隙が相違するほか,次の相違点がある。
(ア)背もたれ(本件登録意匠1・2と原告製品との相違点)
本件登録意匠1・2は,背もたれに関し六角形状の小貫通孔をまんべ
んなくメッシュ状に配設したのに対して,原告製品は,円形の小貫通孔
を適当な間隔を置き列状に配設し,その背面側には下辺縁に沿った凸条
のほかに脚フレーム収納用(スタッキング用)の縦長凸部を設け,左右
間で前側に円弧状に湾曲した態様において両端近傍がわずかに拡開して
いる。
(イ)座(本件登録意匠1・2と原告製品との相違点)
本件登録意匠1・2は,座の側面視において略「へ」の字状に上方に
湾曲し,前端部が前脚フレーム位置からわずかに斜め下方前に突出し,
後端部が,後脚フレーム及び架橋フレーム位置から後方・左右外方にわ
ずかに突出しているのに対し,原告製品は,平面状(直線状)であり,
前端部には前脚フレーム位置から下方に前垂れ部を形成している。
(ウ)背もたれの周縁部(本件登録意匠2と原告製品との相違点)
本件登録意匠2は,周縁部は上端辺縁と左右辺縁は一定の枠状余白を,
下端辺縁に中央部を微幅としかつ左右端に向けて漸次拡幅する枠状余白
を残して六角形状の細かな貫通孔をまんべんなく密集配設して「メッシ
ュ部」を形成し,背面側の下端辺縁には,表面側の下端辺縁と略同形の
中央部を微幅としかつ左右端に向けて漸次拡幅する凸条を配するのに対
し,原告製品は,周辺縁に余白を設けている。
エこれらの相違点のうち,背もたれの小貫通孔の配設状況の違いは,本件
登録意匠1・2のように,まんべんなくメッシュ状に配設されていること
で,通気性を備えることによる清涼感や,重量が減ることによる軽量感を
与えるとともに,透視性を備えることでいすを並べた際にも開放感を与え
るものであり,原告製品のように適当な間隔を置き列状に配設されている
ものと比較して,いす全体の美感を大きく左右する。
また,脚フレームの露出範囲や背もたれと座の間隙の違いは,本件登録
意匠1・2のように,座面から上方においてフレーム部材が座及び背もた
れの構成部材によって覆われて露出することがなく,また,背もたれと座
との間隙が凸レンズ断面状であることで,上記(2)イで述べたとおり,原
告製品との比較において,座面と背もたれの一体感が表現され,シンプル
で洗練されたイメージを与えるものであり,この点もいす全体の美感を大
きく左右する。
さらに,座を側面から見た際の形状の違いは,本件登録意匠1・2のよ
うに略「へ」の字状に上方に湾曲していることで,座り心地を良くすると
ともに,視覚的にも柔らかなイメージを与えるものであり,原告製品のよ
うに座面が平面状(直線状)で前方に前垂れ部が設けられているものと比
較して,いす全体の美感を大きく左右する。
オ以上のとおり,本件登録意匠1・2と原告製品の差異点がいす全体に与
える美感の違いは,背もたれの上下辺が上下対称な円弧状に湾曲している
等の両意匠の共通点が美感に与える効果を優に超えるものであり,意匠全
体として需要者に別異の美感を与えるものと認められるから,原告製品は,
本件登録意匠1・2と類似するものとはいえない。
したがって,被告の意匠権侵害に基づく請求は理由がない。
2争点(1)イ(不正競争防止法2条1項1号ないし3号の不正競争行為)につ
いて
(1)被告は,被告製品の形態が著名性・周知性を有するから,被告製品と類似
する原告製品の製造販売行為は,不正競争防止法2条1項1号,2号の不正
競争行為に当たる上,原告製品は被告製品を模倣したものであるから,同項
3号の不正競争行為にも当たる旨主張する。
(2)被告製品は,本件登録意匠1・2の実施品であり,本件登録意匠1・2で
その形状が異なっている背もたれについては,その外周と六角形状の細かな
貫通孔を密集配設した「メッシュ部」との間の枠状余白の領域が,下端辺縁
については,中央部を微幅としかつ左右端に向けて漸次拡幅する形状になっ
ている点は本件登録意匠2を採用したものであり,その左右の両端辺の形状
は,上下方向にほぼ平行に配されているものの,下方から上方に向けて漸次
内側へ若干湾曲傾斜しており,本件登録意匠1・2の中間的な形態と認めら
れるが,いずれにしても,被告製品の構成やその要部の捉え方については,
争点(1)アにおいて本件登録意匠1・2と対比検討したところがそのまま当
てはまる。
被告は,被告製品の著名性・周知性の根拠として,被告製品が,2003
年度グッドデザイン賞や2003東京国際家具見本市の銀賞を得たことのほ
か,多数の雑誌に掲載され,海外の図書館や教会のいすとして採用され,そ
のことが被告会社のホームページに掲載されているなどと主張しているとこ
ろ,仮に,これらの事情から被告製品が周知性を取得したとしても,被告製
品と原告製品の構成の比較,両製品の意匠の類否については,争点(1)アで
検討した本件登録意匠1・2と原告製品の意匠の類否についての判断がその
まま当てはまるから,被告製品の形態と原告製品の形態とは類似するもので
はないというべきである。
被告製品がグッドデザイン賞を得た際に,審査委員が「背面のメッシュ部
分の処理は良く工夫されており,接合部を隠しながら適切にデザインしてい
る。」との評価コメントを述べており(乙17号証の2),また,被告製品
のカタログにおいても,背もたれに6角形のパンチングが施されていること
や,座面が三次元カーブで構成されていることが特徴点としてアピールされ
ているが(乙16号証),こうした評価コメントやカタログ上では,背もた
れに小貫通孔がメッシュ状に配設されていること,接合部においてフレーム
部材が座及び背もたれの構成部材によって覆われて露出することがないこと,
座面が略「へ」の字状に上方に湾曲していることといった構成が被告製品の
特徴部分として指摘されているにもかかわらず,原告製品は,これらの特徴
部分をいずれも備えていないのであるから,こうした点においても,被告製
品と原告製品は,その形態において類似するものでないことは明らかである。
(3)なお,被告は,原告製品が,簡単に模倣できる箇所はそのまま被告製品を
模倣し,製作が難しい箇所はこれを容易・安価な製作方法,デザイン,構造
に変更して製作したもの(隷属的模倣,スラヴィッシュイミテーション)で
あって,被告製品のメッシュの座,メッシュに似せた背もたれ,座のフレー
ム等の特徴的な部分を模倣したものといわざるを得ない旨主張するが,既に
述べたとおり,原告製品と被告製品はその形態において類似するものでない
以上,被告製品に依拠して製作されたか否かなどの原告製品の製作過程のい
かんは,不正競争防止法2条1項1号ないし3号の不正競争行為に当たるか
否かの判断を左右するものとはいえない。
(4)以上によれば,原告製品は,被告製品と類似しているとはいえず,また,
被告製品を模倣したものともいえないから,その余の点について判断するま
でもなく,原告製品の製造販売行為が不正競争防止法2条1項1号ないし3
号の不正競争行為に当たるという原告の主張は理由がない。
3争点(2)ア(民法709条の不法行為及び不正競争防止法2条1項14号の
不正競争行為)について
(1)不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為について
ア不正競争防止法2条1項14号は,「競争関係にある他人の営業上の信
用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為」を不正競争行為の一
類型として規定しているが,この規定は,競争関係にある者が,虚偽の事
実を挙げて,競業者にとって重要な資産である営業上の信用を害すること
により,競業者を不利な立場に置き,自ら競争上有利な地位に立とうとす
る行為が,不公正な競争行為の典型というべきものであることから,これ
を不正競争行為と定めて禁止したものと解される。
したがって,競業者に意匠権等を侵害する行為があるとして,競業者の
取引先等の第三者に対して警告を発する行為は,その後に,裁判所により
競業者の行為が当該意匠権等を侵害しないと判断された場合には,不正競
争防止法2条1項14号所定の虚偽の事実を告知ないし流布する行為に当
たると認められる余地が高いということができる。
しかし,意匠権等を有する者が,意匠権等を侵害していると疑われる者
に対し,通常必要とされる事実調査及び法律的検討を経た上で,文書等に
より,意匠権等を侵害している旨の警告を発する行為は,紛争の解決に向
けていきなり訴訟を提起するのではなく,事前の警告等を行った上で話合
いによる解決の可能性を探るためのものでもあって,意匠権等の権利行使
の一環としてなされる正当な行為として許容されるものというべきである。
したがって,意匠権者等が競業者の取引先に対してする警告は,意匠権者
等が,事実的,法律的根拠を欠くことを知りながら,又は,意匠権者等と
して,意匠権侵害訴訟等を提起するために通常必要とされる事実調査及び
法律的検討をすれば,事実的,法律的根拠を欠くことを容易に知り得たと
いえるのに,あえて警告をなしたというような場合には,社会通念上許容
される限度を超えた警告として,競業者の営業上の信用を害する虚偽事実
の告知又は流布に当たる違法な行為に該当すると解すべきである。
そして,競業者の取引先に対する警告が,意匠権等の権利行使の一環と
してされたものか,それとも意匠権者等の権利行使の一環としての外形を
とりながらも,社会通念上許容される限度を超えた内容,態様となってい
るかどうかについては,当該意匠権等侵害の判断が容易であるか否かのほ
か,当該警告文書等の形式・文面,当該警告に至るまでの競業者との交渉
の経緯,警告文書等の配布時期・期間,配布先の数・範囲,警告文書等の
配布先である取引先の業種・事業内容,事業規模,競業者との関係・取引
態様,当該製品への関与の態様,意匠権侵害争訟等への対応能力,警告文
書等の配布への当該取引先の対応,その後の意匠権者等及び当該取引先の
行動等の,諸般の事情を総合して判断するのが相当である。
イ原告の取引先であるくろがね工作所に対して,被告が行った警告行為に
ついて,後掲各証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア)被告は,平成16年1月23日,本件登録意匠1・2の登録を得て,
同年2月26日,原告の取引先であるくろがね工作所に対し,くろがね
工作所が販売している「MC22シリーズ」のいすは,本件登録意匠1
・2及びこれらの意匠と同日に出願された8件の登録意匠と同一若しく
は類似し,くろがね工作所の行為は意匠権侵害に当たると思われること,
くろがね工作所に対し,同いすの販売中止,販売済みの同椅子の数量・
販売先・販売単価の通知,流通段階にある同椅子の数量の報告・実施料
の支払を求めること,2週間以内に回答が得られない場合には法的措置
を講ずることもあること,などを記載した本件書面1を送付した(甲1
号証の1)。
(イ)本件書面1を受け取ったくろがね工作所は,同年2月27日,原告に
対し,上記警告に対して責任をもって対処するよう通知した(甲1号証
の5)。
(ウ)廣江弁理士は原告の代理人として,被告代理人足立弁理士に対し,同
年3月5日付けの回答書により,くろがね工作所が販売する「MC22
シリーズ」のいすは,原告が製造した原告製品を納入したものであるか
ら,これに関する意匠権の問題は今後は原告の責任として対応すること,
本件意匠権1・2等の意匠公報がまだ発行されていないため,調査検討
のため期間が必要であることなどを通知した(甲1号証の2)。
同月8日,本件登録意匠1・2等に係る意匠公報が発行された(甲1
8号証の1ないし3,甲19号証の1ないし5)。
くろがね工作所は,同月9日,被告に対し,「MC22シリーズ」の
いすは,原告の製造に係る原告製品を品番を変えて販売しているだけで,
くろがね工作所向けの仕様変更をしておらず,また在庫も持っていない
こと,本件については,原告が責任を持って対応すると確約しているこ
となどを記載した書面を送付した(乙32号証)。
原告は,本件登録意匠1・2等に係る意匠公報を基に原告製品がこれ
らの登録意匠と類似するか否かを検討した上,同年4月16日,足立弁
理士に対し,原告製品は,被告の意匠権を侵害していない旨を,具体的
な理由を付して通知し(争いがない。),併せて,公知意匠に関する資
料や原告椅子の図面及び写真を送付した(甲1号証の4)。
(エ)廣江弁理士は,同年5月31日,被告を訪問して,非侵害である旨を
口頭で説明した(争いがない。)。
(オ)被告は,同年6月9日,くろがね工作所に対し,「貴社商品『MS2
2シリーズ』の件」と題する書面(本件書面2)に「拝啓貴社時下ま
すますご清栄のこととお喜び申し上げます。さて頭書の件に関し,平成
16年3月9日付けの貴回答書確かに拝受いたしました。先日藤沢工業
および同社顧問弁理士より直接説明を受け,その後検討しましたが,当
方としましてなお納得できない状況です。この旨貴社に連絡します。」
と記載して送付した(争いがない。)。
ウ原告は,被告がくろがね工作所に対して本件書面1・2を送付した行為
が不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に当たる旨主張しており,
本件書面1は,「MS22シリーズ」のいすが本件登録意匠1・2及びこ
れと同日出願の8件の登録意匠と同一若しくは類似するから,その販売行
為は本件意匠権1・2等を侵害する旨を警告するものであるところ,既に
検討したように,「MS22シリーズ」のいす(原告製品)が本件登録意
匠1・2と類似しているとは認められず,また同日出願の8件の登録意匠
(甲18号証の1ないし3,甲19号証の1ないし5)とも類似している
とは認められないというべきである。
しかし,くろがね工作所は,原告の製造に係る原告製品を「MS22シ
リーズ」という名称で自社製品として販売していたから(いわゆる「OE
M」),本件意匠権1・2等を有する被告が,くろがね工作所の自社製品
として販売されている「MS22シリーズ」のいすが同意匠権を侵害する
旨の警告書を発することは,くろがね工作所に対する権利行使の前提とし
て行う交渉行為として社会通念上許容されると解することができる。そし
て,その警告書の内容は,「MS22シリーズ」のいすの製造元が原告で
あることを意識したものではなく,原告の信用を毀損して被告が市場にお
いて優位に立つことを目的とするようなものではない。
また,本件書面2の送付行為についてみると,くろがね工作所からの平
成16年3月9日付けの回答書に対し,原告及びその顧問弁理士から説明
を受けて検討したが,原告から受けた説明には納得できない旨が記載され
ているにとどまるものであり,その内容も,被告と原告との交渉状況を伝
える程度のものであって,あえて原告との交渉を避けてくろがね工作所に
対し直接的な交渉を求めたり権利行使を行うものではなく,ことさらにく
ろがね工作所の原告製品の取引停止を企図したものとは認められない。
原告は,被告の意匠権侵害に関する調査ないし検討が不十分であったと
も主張するが,既に述べたとおり,本件登録意匠1・2と原告製品とは,
その要部の一つである背もたれの上下辺が上下対称な円弧状に湾曲してい
るという点が共通し,また,基本的構成態様もすべて共通しているから,
被告の意匠権侵害の主張に事実的又は法律的な根拠がないことが明らかで
あるとか,またその判断が容易であるとはいえない上,原告が特許庁に対
して判定請求を行い,平成16年12月21日付けで原告製品と本件登録
意匠1・2とは類似していないとの判定結果を得たのは(甲16号証の1
・2),被告が本件書面1・2を送付した後のことであるから,上記のと
おり,被告が原告製品と本件登録意匠1・2が類似しているとの認識を持
って警告書を送付したとしても,そのことから,通常必要とされる事実調
査及び法律的検討を怠ったものということはできない。
エそうすると,被告がくろがね工作所に対して本件書面1・2を送付した
ことは,社会通念上許容される限度を超える内容及び態様によるものでは
なく,違法性を帯びるほどのものとはいえないから,それが不正競争防止
法2条1項14号の不正競争行為に当たるとは認められない。
(2)民法709条の不法行為について
上記検討の結果に照らせば,被告がくろがね工作所に対し本件書面1・2
を送付したことは,社会通念上許容される限度を超える内容及び態様による
ものとは認められないから,民法709条の不法行為を構成するものとも認
められない。
第5以上のとおりであって,原告の本訴請求及び被告の反訴請求はいずれも理由
がないから棄却し,訴訟費用の負担につき,民訴法61条,64条本文を適用
して,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
前田郁勝裁判官
片山博仁裁判官
裁判長裁判官中村直文は,転補につき署名押印することができない。
前田郁勝裁判官
(別紙)謝罪文
弊社は,平成16年2月26日付,平成16年6月9日付の株式会社くろがね工
作所宛の書簡において,藤沢工業株式会社が製造・販売する椅子が弊社の登録意匠
を侵害する旨告知致しましたが,この告知は事実に反することが判明致しました。
ここに,弊社は,右告知を撤回し,右告知により,株式会社くろがね工作所,藤沢
工業株式会社にご迷惑をお掛け致しましたことを陳謝致します。

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