弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件訴えを却下する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
大阪府池田警察署長が原告に対し平成19年8月30日付けでした中止命令
を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,平成19年8月30日付けで,大阪府池田警察署長から暴
力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴対法」という。)1
2条2項に基づく中止命令を受けたことから,その取消しを求めた事案である。
1前提となる事実等(当事者間に争いがないか,掲記の書証等によって容易に
認定することができる。)
(1)当事者等
ア原告は,主として土木工事業,建築工事業を業務とする訴外A株式会社
(本店所在地は大阪府豊中市α×番46号,支店所在地は原告肩書き住所
地。以下「A」という。)の代表取締役である。
訴外Bは,指定暴力団(暴対法3条の規定により指定された暴力団をい
う。同法2条3号)であるCの構成員である。
イ被告は,大阪府池田警察署長の帰属主体である。
(2)法令の規定
ア暴対法9条3号は,指定暴力団等の暴力団員(指定暴力団員)は,その
者の所属する指定暴力団等又はその系列上位暴力団等の威力を示して,請
負,委任又は委託の契約に係る役務の提供の業務の発注者又は受注者に対
し,その者が拒絶しているにもかかわらず,当該業務の全部若しくは一部
の受注又は当該業務に関連する資材その他の物品の納入若しくは役務の提
供の受入れを要求する行為をしてはならない旨規定する。
イ暴対法10条2項は,何人も,指定暴力団員が暴力的要求行為(同法9
条の規定に違反する行為をいう。同法2条7号)をしている現場に立ち会
い,当該暴力的要求行為をすることを助けてはならない旨規定する。
ウ暴対法12条2項は,公安委員会(都道府県公安委員会をいう。同法3
条)は,同法10条2項の規定に違反する行為が行われており,当該違反
する行為に係る暴力的要求行為の相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平
穏が害されていると認める場合には,当該違反する行為をしている者に対
し,当該違反する行為を中止することを命じ,又は当該違反する行為が中
止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる旨定め,
同法47条1号は,同法12条の規定による命令に違反した者は,1年以
下の懲役又は50万円以下の罰金に処する旨規定する。
エ暴対法42条3項は,公安委員会は,同法12条2項の規定による命令
を警察署長に行わせることができる旨定める。
(3)本件の経緯
ア原告は,平成19年8月24日,大阪府池田市β×番12号γビル×階
所在の喫茶「D」において,知人のBと共に株式会社E(以下「E」とい
う。)の担当者2名と会い,AF支店兼原告自宅の近くである同市δ×番
9号先でE等が同年9月4日から同年12月20日までの予定で計画して
いたマンション解体工事(以下「本件工事」という。)について協議した。
【甲1,3,19,乙1】
イ大阪府池田警察署長は,平成19年8月30日,原告に対し,暴対法1
2条2項に基づく中止命令(以下「本件命令」という。)を発するととも
に,同日付けの中止命令書を交付した。上記中止命令の内容は,「指定暴
力団C(指定番号××××−×)の暴力団員であるBが,『株式会社E』
(本店所在地東京都千代田区)又はその役員若しくは使用人その他の従
業者に対し,前記会社が着工する『ε解体工事』の全部又は一部の下請け
受注を要求している現場に立ち会い,当該暴力的要求行為を助けてはなら
ない。」というものである。また,上記中止命令書には,本件命令をする
理由として,概要,①Eは,Bから下請け工事受注の要求を受けながら
これを断っている,②原告は,同月24日,Bと同席し,同人が「Aに
仕事を回したってくれ。孫請けでもええから,Aを使ってやれ。」「地元
の業者使わな工事出来へんぞ。」等と告げたのに続いて,自らAの会社概
要を示し,「アスベストに関しては,うちは大丈夫やから,まかせてくれ
たらええ。」「さっきからBが言うとるように,うちに仕事をさせてく
れ。」等と告げて,Bによる暴力的要求行為を助ける行為をした,との理
由が記載されていた。
【甲1】
ウ本件工事は,遅くとも本訴の口頭弁論が終結した平成20年6月2日の
時点において,既に終了していた。
エAは,平成20年2月8日から26日にかけて,大阪府警察本部から暴
力団関係企業である旨の通報等を受けたことを理由に,大阪府及び兵庫県
内の各地方公共団体等から期限付き又は無期限で,公共工事の指名を停止
する措置を受けた。【甲4ないし15】
2当事者の主張
本件命令の適法性についての当事者の主張は概要以下のとおりである。
(被告)
原告は,本件工事をEが行うことを知り,Eに対して下請けをさせてもらう
よう働きかけたが同社がこれに応じようとしなかったので,暴力団員であるこ
とを知りながら,Bと共に同社の担当者と話合いをすることにし,平成19年
8月24日,喫茶店「D」において,B及びBの配下の暴力団員2名を同席さ
せ,Bにおいて執拗にAを下請けにするよう求め,原告も,「うちの会社は,
公共工事の指名資格も持っているし,アスベスト工事に関しても大丈夫やから,
うちに仕事をさせてくれ。」と述べた。Eの担当者がこれを断ったところ,B
は「それやったら,本社でもG支社でも行って話しをさせて貰うがな。」とい
って暴力団の威力を示して下請け参入の受入れを要求し,Eの業務の遂行を妨
害した。Bらの上記行為は,指定暴力団員が指定暴力団の威力を示して,Eに
対し,その拒絶にもかかわらず本件工事の下請けへの参入の受入れを要求する
ものであって暴力的要求行為に該当し,原告はその現場に立ち会ってこれを助
ける行為をしたのであるから同法10条2項に該当するところ,それによって
Eの業務の遂行の平穏が害されていることから,同法12条2項,42条3項
に基づき,大阪府池田警察署長が本件命令を発したものである。
このように,本件命令はその要件に合致しており,何ら違法な処分ではない。
(原告)
Aの社員は,平成19年8月22日,本件工事の情報を得て株式会社EのG
支店で営業活動を行ったが,既に業者は決定しているとの説明を受けたため,
本件工事の下請けに入ることを断念した。
しかるところ,原告は,同じ池田市δ内に居住している関係で顔見知りであ
ったBより,本件工事について他の住民から相談を受けているためにEの関係
者に会うのでアスベスト工事について教えてもらいたいとの連絡を受け,町内
会副会長として近隣住民の不安解消に役立てるとの思いでBに同行した。原告
は,「D」において,アスベスト除去工事について問われるままに説明し,E
にもどのように安全に除去工事をするのか等を質問するなどしたが,Bが同社
に仕事を要求するとか,原告が解体工事の下請けに入ることを要求する等のこ
とはなく,会談は終始静かに行われ,約15分程度で終了した。
それにもかかわらず,原告は,同月30日に池田警察署に呼ばれ,本件命令
を受けることとなったため,同署の担当者に強く疑義を述べたが,「同席した
ら駄目だ」と言われたことに加え,本件命令の内容自体も,原告自身が本件工
事の現場に行かなければよいということだけで実害もなく,本件命令の受領書
に署名捺印しなければ自宅に帰してもらえないような雰囲気であったので,後
日それが公共工事の指名停止の理由となるとは全く考えることなく,自暴自棄
気味になってこれに署名捺印した。
このように,本件命令は事実誤認に基づく違法な処分である。
第3当裁判所の判断
1前提となる事実等(3)イに記載のとおり,本件命令の内容は,BがE又はその
役員若しくは使用人その他の従業者に対して,本件工事の全部又は一部の下請
け受注を要求している現場に立ち会い,その暴力的要求行為を助けてはならな
いとの内容であるところ,同ウにおいて摘示したとおり,本件工事は既に終了
している。そうであるとすれば,原告が本件命令に係る暴対法10条2項の規
定に違反する行為をする余地は現時点では存在しない上,本件全証拠によって
も,本件工事が終了する以前において原告が本件命令に違反して当該違反する
行為をした事実を認めるには足りないから,原告は,遅くとも本訴の口頭弁論
の終結時以降において,本件命令の取消しを受けることによって,法律上の利
益を回復する余地はないというべきである。
2これに対し,証拠(甲4ないし15,20)及び弁論の全趣旨によれば,本
件命令を契機として,原告の経営するAは,大阪府や兵庫県に所在する地方公
共団体等から公共工事に係る指名停止を受けていること,原告が本件命令の取
消しを求める主な目的も,これら指名停止の解除を得る点にあることが認めら
れる。しかしながら,暴対法等の規定を通覧しても,同法12条に基づく中止
命令が取り消されないまま存在していることが,当該中止命令の対象者ないし
その対象者が代表者を務める企業に対する各地方公共団体等による公共工事の
指名停止を解除するための法的な障害になることをうかがわせるような規定は
なく,かえって,証拠(甲4,7,8,9,11ないし15)及び弁論の全趣
旨によれば,各地方公共団体等がAに対して公共工事に係る指名停止を行った
のは,それぞれが独自に定める指名停止に係る運用基準ないし要綱に基づき,
Aがその業務に関し暴力団を使用したこと等を理由に指名から排除すべきとの
判断を行った結果であると認められる。そうであるとすれば,原告がたとい本
件命令の取消しを得たとしても,その結果として,上記各指名停止が当然に解
除されるわけではないことはもとより,解除に向けた法的な障害の全部又は一
部が取り除かれるともいえないことが明らかである(なお,暴対法は,「一の
指定暴力団等の暴力団員以外の者が当該指定暴力団等又はその第9条に規定す
る系列上位指定暴力団等の威力を示して同条各号に掲げる行為をすること」を
準暴力的要求行為と定義した上(2条8号),同法12条2項の規定による命
令を受けた者であって,当該命令を受けた日から起算して3年を経過しないも
のが,当該命令に係る暴力的要求行為をした指定暴力団員の所属する指定暴力
団等に係る準暴力的要求行為をすることを禁止し(12条の5第1項2号),
公安委員会に対し,上記規定に違反する準暴力的要求行為に対する中止命令等
をする権限を与えている(12条の6第1項)が,本件命令の対象となった暴
力的要求行為等の存在を否定している原告が,他方でその発令から3年以内に
中止命令を受けることなく準暴力的要求行為を行う自由を確保するために訴え
の利益の存在を主張するとすれば,訴訟上の信義則に反するということができ
るのみならず,そもそも,このような自由は,「市民生活の安全と平穏の確保
を図り,もって国民の自由と権利を保護することを目的とする」暴対法(1
条)の保護する利益であるとはおよそ解し得ないから,中止命令の取消訴訟に
おける訴えの利益を基礎付けるものとは解されない。)。
3したがって,本件訴えは,その訴えの利益を欠き,不適法というべきである。
第4結論
以上のとおりであるから,本件訴えは不適法であるので却下することとし,
訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文
のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官西川知一郎
裁判官岡田幸人
裁判官石川慧子

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