弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人Aを懲役一〇月及び罰金五万五千円に処する。
     本裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
     右罰金を納めることができないときは金二百円を一日の割合で換算した
期間被告人を労役場に留置する。
         理    由
 弁護人山中傳上告趣意第二点について。
 所論犯意の点については、原審は被告人の司法警察官に対する供述調書(昭和二
二年一〇月一〇日附)における「私はラスメントは公定価格はあるだろうと思つて
おり判つきりした値は知らないけれど値段は当然闇相場であると思つていた」旨の
記載によつてこれを認定しているのである。そしてこの事実認定には経験則に反す
る違法は認められない。従つて所論は事実審たる原審がその裁量権の範囲で適法に
なした事実の認定を非難するものであり上告適法の理由とならない。
 同第一点について。
 原判決は被告人が法定の除外事由がないのに営利の目的で浅野ラスメントを所定
の統制額を超過して判示のとおり販売したことを物価統制令違反であると判示して
いるのであつて、所論のように「本来ラスメントには公定価格の定めはないが代用
セメントであるからセメントの公定価格によるべきである」として被告人を処罰し
たものではない。、原判決が法条摘示に引用している昭和二二年三月一八日高知県
告示一九七号には、判示浅野ラスメントそのものにつき物価統制令四条による統制
額の指定がなされているのである。しかしながら右告示は同年八月一五日同県告示
四五九号を以て廃止され、爾後は新たにミヤメント及び高知プラスターについての
み統制額の指定があり、浅野ラスメントは統制から除外されるに至つたのである。
されば原審が判示第六を除く被告人の所為を物価統制令違反罪に問擬したのはもと
よう当然であり原判決に所論のような違法は存在しない。しかし被告人が昭和二二
年八月一八日頃浅野ラスメントを販売したと認定されている判示第六の所為は前示
高知県告示四五九号を以て同告示一九七号の廃止された後の行為であり統制額超過
販売の罪を構成するいわれなきものといわざるを得ない。原審が右の所為を他の判
示被告人の所為と共に統制令違反の連続一罪として処断したのは違法でありこの点
において原判決は全部破棄を免れ得ない。されば本論旨は結局理由あるに帰する。
 よつて旧刑訴四四七条により原判決を破棄し、且つ、本件では事実の確定に影響
を及ぼすべき法令の違反ある場合ではなく、従つて原審の確定した事案に法令を適
用して当裁判所自ら量刑所断すべき場合と認められるから量刑に関する論旨第三点
に対する判断を省略し、同四四八条により本件につき更に判決すべきものと認める。
 そこで原審の確定した事実(判示第六の事案を除く)に法律を適用すると被告人
の所為は物価統制令三条四条昭和二二年三月一八日高知県告示一九七号同年八月一
五日同県告示四五九号に違反し同令三三条に該当するところ(罰金の寡額について
は罰金等臨時措置法四条により刑の変更があつたが刑法六条一〇条により軽き旧法
に依る)犯意継続に係るから同年法律一二四号附則四項刑法五五条により一罪とし、
同令三六条に従い懲役及び罰金を併科し同令三三条所定の刑期並びに同条但書所定
の金額の範囲内で被告人を懲役一〇月及び罰金五万五千円に処し、且つ刑法二五条
に則り主文三項掲記の期間右懲役刑の執行を猶予し同法一八条に則り主文四項掲記
のとおり右罰金不完納の場合における労役場留置の期間を定め、主文の通り判決す
る。なお原判決判示第六の事実は統制額超過販売罪を構成しないこと前説示のとお
りであるが、他の判示事実と連続犯の関係にあるものとして起訴されたものである
から、主文において特に無罪の言渡をしない。
 この判決は本件犯罪事実(判示第六は犯罪を構成せず)については、すでに統制
額指定は廃止されたのであるから免訴さるベきであるとの眞野裁判官の少数意見(
判例集四巻一〇号一九八三頁参照)を除き裁判官全員一致の意見である。
 検察官 三堀博関与
  昭和二六年四月二六日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    眞   野       毅
            裁判官    齋   藤   悠   輔

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