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H16.3.17平成10年(ワ)第14844号 損害賠償請求事件
主         文
1 被告東京都は,原告甲1に対し,200万円及びこれに対する平成7年11月1日か
ら完済まで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告東京都は,原告甲2に対し,100万円及びこれに対する平成7年11月1日か
ら完済まで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らの被告東京都に対するその余の請求及び被告国に対する請求をいずれも
棄却する。
4 訴訟費用は,原告甲1と被告東京都との間においては,原告甲1に生じた費用と
被告東京都に生じた費用を通算して,これを8分し,その3を原告甲1の負担とし,
その1を被告東京都の負担とし,原告甲2と被告東京都との間においては,原告甲
2に生じた費用と被告東京都に生じた費用を通算して,これを16分し,その7を原
告甲2の負担とし,その1を被告東京都の負担とし,原告甲1に生じたその余の費
用と被告国に生じた費用の2分の1を原告甲1の負担とし,原告甲2に生じたその
余の費用と被告国に生じたその余の費用を原告甲2の負担とする。
5 この判決は,主文1,2項に限り,仮に執行することができる。ただし,被告都が,
原告甲1につき140万円,原告甲2につき70万円の担保をそれぞれ供するとき
は,その仮執行を免れることができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告らは,各自,原告甲1に対し750万円及びこれに対する平成7年11月1日か
ら完済まで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,各自,原告甲2に対し750万円及びこれに対する平成7年11月1日か
ら完済まで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
原告甲1は,昭和56年1月13日から平成7年7月14日まで,いわゆる内ゲバ殺
人事件の被疑者として逮捕状が発付され,全国指名手配されていた者であり,原告
甲2は,原告甲1の実母である。前記殺人等被疑事件の公訴時効期間は,平成7年1
0月30日の経過により完成している。
本件は,原告らが,被告らに対し,原告甲1にはアリバイがあり,刑事訴訟法(以下
「法」という。)179条1項による証拠保全により,嫌疑がないことが明らかになった以
降も,警視庁の司法警察員が逮捕状の発付を請求し,全国指名手配を行い,東京簡
易裁判所の裁判官が前記請求に基づき逮捕状を発付したのが,違法であるとして,
国家賠償法1条1項に基づき,原告ら各自につきそれぞれ慰謝料750万円及びこれ
に対する不法行為の後である平成7年11月1日から完済まで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金の支払を求める(被告ら相互間は不真正連帯債務)事件であ
る。
1 前提となる事実(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) 殺人等事件の発生
昭和55年10月30日午前10時40分ころ,東京都大田区ア丁目イ番先路上に
おいて,通行中のEら5名が,作業服を着用した10数名の男に鉄パイプやハン
マー等で,殴打され,殺害されるという事件が発生した(以下「本件事件」とい
う。)。(弁論の全趣旨)
(2) 逮捕状の請求及びその発付
警視庁公安部又は警視庁東調布警察署(現田園調布警察署,以下「東調布
署」という。)の司法警察員(以下「警視庁司法警察員」という。)は,昭和56年1
月13日,原告甲1に対する殺人,兇器準備集合の罪で逮捕状(以下「本件逮捕
状」という。)を請求し,その逮捕状の発付を得た上,東調布署長は,同月14
日,全国の警察署長に対し,第1種手配(犯罪捜査規範32条1項に基づく逮
捕。身柄の護送を求める場合の手配。以下「本件指名手配」という。)を行い,そ
の旨報道機関に発表した。
原告甲1にかかる本件事件の被疑事実の要旨は,逮捕状請求書が証拠とし
て提出されていないため,それ自体としては明らかではないが,証拠保全手続
における差押状の被疑事実によれば,原告甲1は,多数の者と共謀の上,昭和
55年10月30日午前10時45分ころ,東京都大田区ア丁目イ番ウ号先路上にお
いて,所携のハンマー等で,Eらに襲いかかり,同人らの頭部等を殴打するなど
して,同人らを殺害したというものであった(以下「本件被疑事実」という。)。(甲
3の7,甲3の46,丙1,丙2,弁論の全趣旨)
(3) 証拠保全手続の請求について
原告甲2は,本件指名手配を知った原告甲1からの本件事件に関与しておら
ず,アリバイがあるとの文書による連絡を受けて,F弁護人らを原告甲1の弁護
人として選任し,原告甲1の無罪を証するいわゆるアリバイに関する証拠の散逸
を防ぐため本件被疑事実について証拠保全手続を委任した。F弁護人らは,昭
和56年3月6日,浦和地方裁判所(現さいたま地方裁判所。以下同じ。)に対
し,下記のアリバイ(以下「本件アリバイ」という。)について法179条1項による
証拠保全手続の申立てを行い,浦和地方裁判所は,昭和56年3月12日及び
同年4月24日,証拠保全決定をした(同庁昭和56年(よ)第1号。以下,これらの
証拠保全決定に基づく手続を「本件証拠保全手続」という。)

原告甲1は,当時,埼玉県G市所在の新聞拡張団であるH会にIの偽名で
新聞購読の新聞拡張員としてアルバイトで勤務しており,本件事件当日であ
る昭和55年10月30日出勤していた。原告甲1は,同日午前11時ころ,本件
事件現場から直線距離で約31キロメートル離れたH会事務所に出勤し,朝礼
に出席した。原告甲1は,その後,他の新聞拡張員とともに埼玉県K市所在の
J販売所に赴いた後,埼玉県G市内の担当区域の新聞購読の拡張をして,K
新聞の購読契約を3件締結した。原告甲1は,同日午後8時ころ,J販売所に
立ち寄り,その日に締結したK新聞購読契約書(以下「契約カード」という。)を
提出して仕事を終えた。
浦和地方裁判所は,次のアからエまでのとおり,本件事件の発生した昭和55
年10月30日前後のH会における原告甲1の勤務状況について本件証拠保全
手続を行った。(甲3の1から147まで)
ア 昭和56年3月19日
浦和地方裁判所は,埼玉県K市所在のJ販売所において,契約カード19
枚,表紙に「昭55年度」と記入され,各ページ上部に「M」と記入された冊子
(以下「本件契約カード日計票」という。)1綴,「昭和・55・10 カード受付簿
J」とある冊子(以下「本件カード受付簿」という。)1冊及びK新聞購読申込書
1枚の合計22点を押収した。
浦和地方裁判所は,H会事務所において,H会における日々の新聞購読
の拡張業務が記載された日報5点を押収した。
イ 同年3月25日
浦和地方裁判所は,F弁護人ら及び米澤慶治検察官立会いの上,H会の
会長であるM,H会の同僚であるN,同じくOの各証人尋問を行い,その証言
を保全した。
浦和地方裁判所は,H会事務所において,新聞拡張員各個人の営業成績
が記載された大学ノート(以下「本件大学ノート」という。)1冊,I名義の履歴書
1枚及びI名義の給料明細書1枚の合計3点を押収した。
ウ 同年4月16日
浦和地方裁判所は,F弁護人ら及び米澤慶治検察官立会いの上,H会の
新聞拡張員の総班長であるPの証人尋問を行い,その証言を保全した。
エ 同年4月30日
浦和地方裁判所は,埼玉県浦和市(現さいたま市。以下同じ。)所在の埼
玉弁護士会事務所において,契約カード4枚の合計4点を押収した。
(4) 逮捕状の更新請求・発付
警視庁司法警察員は,東京簡易裁判所裁判官に対し,昭和56年1月13日
以降平成7年7月14日まで,有効期間の満了する当初は1か月その後は3か月
ごとに本件逮捕状の更新請求を行い,東京簡易裁判所裁判官は,これに基づ
き,本件逮捕状の発付を行った。警視庁司法警察員が,本件証拠保全手続後に
おいて本件逮捕状請求の際の疎明資料として添付したのは,別紙1の疎明資料
目録のとおりであり,本件証拠保全手続によって得られた資料はこれに含まれ
ていなかった。(弁論の全趣旨)
(5) 公訴時効の完成
原告甲1は本件逮捕状の執行を受けることはなく,本件事件の公訴時効期間
は,平成7年10月30日の経過により完成した。
(6) 本件の審理経過
原告らは,平成11年10月6日の当審第6回口頭弁論期日において,本件逮
捕状の請求手続の違法性については,本件証拠保全手続により原告甲1のアリ
バイが明らかとなり,ひいては原告甲1に対する逮捕状の請求を理由あらしめる
嫌疑がないことが明らかとなったその時点以降についての違法に限定すること
を言明した。被告東京都(以下「被告都」という。)は,これに先立ち,平成11年7
月28日の当審第5回口頭弁論期日において,原告らが前記のように主張を限
定するのであれば,その限度で主張立証を行うとしていた。
当裁判所は,本件逮捕状の請求手続の適法性の判断については,証拠保全
手続前後にかかわらず,一連の本件逮捕状の請求手続における疎明資料をす
べて踏まえて総合的に判断することを告げるとともに,被告都に対し,本件逮捕
状の請求手続の適法性に関するすべて証拠の提出を促した。しかしながら,被
告都は,平成16年1月20日の当審第20回口頭弁論期日において,本件で
は,本件証拠保全手続前の逮捕状請求手続の適法性に関する証拠については
逮捕状請求書をはじめその全部を提出せず,本件証拠保全手続後についても
その一部を提出するのみであり,上級審においても追加して提出することはない
と言明した。(弁論の全趣旨)
2 争点 
(1) 被告都について
本件証拠保全手続後の本件逮捕状の請求は,違法か。
ア 警視庁司法警察員が本件証拠保全手続後に本件逮捕状を請求した際,原
告甲1に対する本件被疑事実について,同人がこれを犯したことを疑うに足り
る相当な理由があったと判断したことについて合理性,相当性があったか。
(争点①)
イ 警視庁司法警察員が,本件逮捕状の請求を行う際に,裁判所に対し,疎明
資料として本件証拠保全手続によって得られた証拠を添付すべき義務を負う
か。(争点②)
(2) 被告国について
ア 東京簡易裁判所の裁判官が,本件証拠保全手続後も本件逮捕状を発付し
たことは,違法か。(争点③)
イ 平成7年7月14日の本件逮捕状の発付を除き,それ以前の本件逮捕状の
発付を理由とする原告らの被告国に対する損害賠償請求権は,時効により消
滅しているか。(争点④)
(3) 原告らの各損害額はいくらか。(争点⑤)
3 当事者の主張
(1) 争点①(本件被疑事実を肯定した判断の合理性,相当性)について
(被告都の主張)
ア 警視庁が本件逮捕状の請求にあたって行った捜査経過は,次のとおりであ
る。
(ア) 本件逮捕状請求に至る捜査経過
a 警視庁では,本件事件の発生を認知すると同時に,東調布署に特別捜
査本部(以下「捜査本部」)を設置した。
捜査本部は,いわゆる中核派革命軍を名乗る男が,本件事件当日午
後1時ころ,株式会社朝日新聞本社など都内の報道機関に対し,「わが
革命軍は東京工業大学における反革命策動に向かう革マルJAKの集
団を捕捉し革命的攻撃を加え,壊滅的な打撃を与えた。」などと本件事
件の犯行を認める電話を入れており,中核派が,昭和55年11月3日付
け機関紙「前進」において「3.14下手人反革命JAK5名の革命的処刑
を敢行,全党全人民に10.30戦闘の偉大な勝利を告げる。」などと犯行
声明を出したことから,本件事件は,中核派活動家がその敵対する勢力
であるいわゆる革マル派活動家のEら5名を襲撃し,殺害したいわゆる
内ゲバ殺人事件であると認めた。
捜査本部は,本件事件の際に使用された車両や鉄パイプ等遺留品に
関する捜査を行ったほか,本件事件現場付近の検索,聞き込み捜査を
行い,本件事件の犯行状況等を目撃した者を確保し,協力を得ることと
なった。
b 東調布署派遣警視庁公安部外事第1課Q警部補らは,昭和55年11月
上旬から同56年1月上旬にかけて,本件事件の目撃者らに対し,中核
派の非公然活動家として把握されていた者の写真を含む約100枚の顔
写真を示し,本件事件の犯人を特定するための写真面割捜査(原告甲1
を含む者らの顔写真を本件目撃者らに示した上で,本件目撃者らの供
述を録取する捜査のこと。以下同じ。)を行ったところ,3名の目撃者ら
が,本件事件前日あるいは当日に,本件事件現場付近で目撃した人物
として,原告甲1の顔写真を抽出した(以下,原告甲1の写真を抽出した
目撃者3名については,被告都において,証拠提出の際,その供述調書
の写しの氏名,住所がいずれも黒塗りで消されており,特定されていな
いので,当裁判所において便宜上,それぞれ,「本件目撃者A」,「本件
目撃者B」「本件目撃者C」と呼称する。)。
c Q警部補らは,本件目撃者らから,概ね次のような供述を得た。
(a) 本件目撃者A,Bの供述
本件事件前日である昭和55年10月29日午後3時ころ,原告甲1
と思われる男(以下,同様に写真面割捜査により特定された人物を「
原告甲1と思われる男」という。)と若い男が,本件事件現場に近い洗
足池公園内にあるジャングルジム脇のベンチに座り,何事か話してい
た。約2メートルの距離に近づいていくと,前記2名は,急に話を止め
て,急ぎ足で公園から立ち去った。原告甲1と思われる男は,年齢2
6,7歳,身長が約160センチメートル,髪が長く,黒縁メガネをかけて
おり,顎が細く,青色の上衣,コールテン様の白っぽいズボンを着用
し,もう一名の若い男は,年齢約25歳,身長約170センチメートルで
髪を七,三に分けていた。
(b) 本件目撃者Cの供述
本件事件当日である昭和55年10月30日午前10時30分ころ,原
告甲1と思われる男と3名の若い男が,本件事件現場に近い洗足保
育園に隣接する駐車場内にいた。その際,原告甲1と思われる男は,
駐車場の奥にある木戸付近の切り株の上に立っており,3名の若い男
は,しゃがみこむような格好をして,木戸の下から駐車場の外周道路
を覗いていた。本件目撃者Cが不審に思い声をかけると,原告甲1と
思われる男は,車をぶつけられたなどと答えた。原告甲1と思われる
男は,年齢26,7歳で,黒縁メガネをかけ,顔がややこけた感じで,カ
ーキ色作業服上下,カーキ色作業帽を着用し,右腕に黄色地に黒で
「整理区」と記入された腕章をしており,身長は,切り株の上に乗って
いたため約170センチメートルに見えた。原告甲1と思われる男と3名
の若い男は,バタバタという足音が聞こえた途端,「来たぞ」と声を掛
け合い,木戸をバリバリとまくりあげて壊し,駐車場の外周道路に飛び
出した。壊れた木戸から道路を覗くと,3名の若い男は,路上に倒れて
いる男を黒茶色の棒で何回も殴っていた。
d 東調布署警備課長R警部らは,前記の捜査結果から,本件目撃者A,B
及びCが多数の写真の中から原告甲1の顔写真を抽出したこと,本件目
撃者Cは,本件事件が発生する直前に原告甲1と思われる男と話してお
り,同人による写真面割捜査の結果や目撃供述は極めて信用性が高い
と認め,原告甲1と思われる男は,原告甲1であり,原告甲1には本件事
件を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると判断した。
R警部らは,昭和56年1月13日,東京簡易裁判所裁判官に対し,本
件被疑事実で,原告甲1に対する逮捕状(有効期間を1か月とするもの)
を請求し,同日その発付を受けた。また,捜査本部では,原告甲1を指名
手配することとし,東調布署長は,本件指名手配を行った。捜査本部で
は,Sら4名の中核派非公然活動家についても,目撃者らによる写真面
割捜査により本件事件の被疑者と認め,同様に逮捕状の発付を得て全
国に指名手配した。
(イ) 本件証拠保全手続後の捜査経過について
a 捜査本部は,昭和56年2月13日,原告甲1に対する逮捕状(有効期間
を3か月とするもの)の更新発付を得るとともに,本件事件の全容を解明
すべく捜査していたところ,同年3月6日,原告甲2が,F弁護人らを選任
し,原告甲1には本件アリバイがあるとして,浦和地方裁判所に対し,本
件証拠保全手続の申立てを行った。また,F弁護人らは,同年6月16
日,逮捕状の取消しを求める旨の「逮捕状請求却下申請書」と題する書
面を東京簡易裁判所に提出したことが判明した。
b 捜査本部は,昭和56年4月ころから同年7月ころまで,本件アリバイの
主張を受けて再捜査を行い,その結果,原告甲1とIは,同一人物であ
り,同人は,昭和55年10月6日から同年11月13日までの間,H会に学
生アルバイトとして勤務していた事実を認めた。
他方で,捜査本部は,以下の(a)から(e)までのとおりの捜査結果を得
た。
(a) 東調布警察署派遣公安一課T警部補らが,本件証拠保全手続にお
ける証人尋問で本件アリバイにそう証言をしたN及びOを取り調べたと
ころ,両名は,いずれも,前記証人尋問における証言を後退させ,原
告甲1のアリバイについては,確信が持てないなどと供述した。
(b) T警部補らは,原告甲1が行ったとする新聞購読契約につき捜査を
行った。これによると,H会では新聞購読契約が成立した場合,2枚な
いし3枚綴りのノーカーボン複写式の契約カードに契約年月日,購読
月数,新聞拡張員名等を記載した上,1枚を購読者に交付し,他の1
枚を新聞販売所に提出することになっているところ,浦和地方裁判所
で押収した契約カード(原告甲1がJ販売所に提出したもの)には,昭
和55年10月30日などと契約年月日が記載されているのに,購読者
から任意提出を受けた契約カードには,1枚を除き,契約年月日が記
載されていなかったことが判明した。また,原告甲1は,10月29日及
び30日にそれぞれ新聞購読契約が成立したと述べていたが,前記両
日に締結されたとされる6件の新聞購読契約について調査しても,契
約日を特定することができなかった。
(c) T警部補らは,昭和56年4月8日及び同月24日,本件目撃者A,B
及びCに対し,昭和56年2月ころに撮影したという本件証拠保全手続
の記録中の原告甲1の顔写真(以下「原告甲1の保全写真」という。)
を示したところ,本件目撃者A,B及びCは,いずれも本件事件が発生
した前日及び当日に目撃した人物に間違いない旨を改めて供述した。
(d) T警部補らは,昭和56年7月22日,本件事件の発生当日に大田区
立第六中学校の敷地内から目撃した者(以下「本件目撃者D」とい
う。)に対し,原告甲1の保全写真を示したところ,同人は,本件事件
の犯人の中にいた人物にそっくりであるなどと供述した。
(e) 原告甲1は,昭和55年11月13日,親が病気であると称して,突
然,H会のアルバイトを辞め,その後所在不明になっている。
イ 本件証拠保全手続後においても原告甲1に対する本件被疑事実について,
同人がこれを犯したことを疑うに足りる相当な理由があったと判断したことに
合理性,相当性があったことについて
(ア) 逮捕手続の違法性を判断するにあたっては,それがなされた時点までに
存在した捜査資料に基づき客観的,合理的に判断して,罪を犯したことを
疑うに足りる相当な理由があり,かつ逮捕の必要性が認められたか否かを
判断すれば足りる(職務行為基準説)。
本件では,本件逮捕状の請求時において,原告甲1は逃亡し,所在不明
となっており,逮捕の必要性があったことは明らかである。
(イ) 捜査本部は,前記アのとおり,初期捜査及び本件証拠保全手続後にお
いても適正に捜査を行い,それによって得られた捜査資料をもとに,総合的
に考慮し,次のとおり判断した。
a 本件目撃者A,B及びCに対し,本件証拠保全手続後に再度の写真面
割捜査を行ったところ,本件事件前日又は本件事件当日に原告甲1を目
撃したとの証言に変更はなく,明確であった。したがって,同人らの供述
は,信用性が高い。また,本件目撃者Dも本件事件に参加した者は原告
甲1にそっくりであると供述している。
b 本件アリバイは,本件事件当日午前11時ころ,原告甲1がH会の朝礼
に出席したことを内容としているが,これを裏付けるN及びOの供述は,
あいまいな記憶に基づいており,信用性が低い。
c 本件事件前日及び本件事件当日に原告甲1が新聞購読の拡張に従事
したことを証するとされる契約カード等は信用性が低く,他に客観的証拠
がない。
d 原告甲1のアリバイが成立するためには,本件事件の発生時刻である
午前10時40分から,本件事件現場から原告甲1が新聞購読の拡張を
していたとする現場に到着することが可能な時間を加えた,おおむね午
後1時40分までの間において,埼玉県G市内において新聞購読の拡張
に従事したことが必要である。したがって,原告甲1が本件事件当日に
新聞購読の拡張に従事していたことや,その夜,販売店に戻って契約カ
ードを提出したことなどはアリバイにはならない。
捜査本部がこれを捜査した結果,原告甲1は本件事件に参加したのち
でも,K市福岡所在のK市立第三中学校(以下「K第三中学」という。)で
行われた陸上競技大会を目撃すること及び当日新聞購読契約を締結し
た吉田正秀宅に到着することも時間的に可能であることが判明した。こ
れらの事実と前記aのとおり,本件事件現場において原告甲1が目撃さ
れていることなどを考慮すると,原告甲1にアリバイは成立しない。
(ウ) 捜査本部は,前記aからdまでの判断に基づき,原告甲1の本件被疑事
実についてこれを犯したことを疑うに足りる相当な理由があると結論付けた
のであって,この判断には合理性,相当性があることは明らかである。
したがって,警視庁司法警察員が本件被疑事実の公訴時効が完成する
まで本件逮捕状の請求を繰り返し行い,指名手配を継続した判断には合理
性,相当性があり,違法性はない。
ウ 原告らの主張に対する反論
(ア) 捜査手法及び判断方法の批判に対する反論
原告らは,a 捜査本部は,原告甲1犯人説の立場に固執し,偏向した捜
査を行っていること,b 捜査本部は,本件証拠保全手続後に,同手続によ
って得られた証拠の信用性を一方的に弾劾する捜査を行っていること,c 
捜査本部は,原告甲1の嫌疑を判断するに際し,本件目撃者らの供述の信
用性が高いことを前提として,前記のように偏向した捜査によって得られた
証拠をもとに本件アリバイを弾劾的に判断しているとして,捜査本部による
本件逮捕状の請求の判断には合理性がないと主張する。
しかし,原告らの批判については,次のとおりいずれも理由がない。
(a) (前記aに対し)原告らの批判は,日本の警察,とりわけ公安警察が,
原告甲1を一旦犯人と断定し指名手配までした以上は,本件証拠保全手
続以降に白紙に戻って,捜査をすることはおよそあり得ないことを前提と
している。しかし,これは証拠がないだけでなく,偏見の域を出ていない。
(b) (前記bに対し)本件アリバイは,本件証拠保全手続によって得られた
証拠に基づいていることは確かである。しかし,証拠保全手続自体は,
将来公判において使用すべき証拠をあらかじめ収集し,滅失等を防止
し,保全するための手続であるから,たとえ初期段階や捜査資料の収集
段階で,ある証拠が証拠保全手続の法廷での弾劾を経たからといって,
直ちにそれがアリバイとして完全に立証されたことにはならない。捜査機
関は,アリバイ供述の内容について迅速に再捜査し,当該被疑者に対す
る逮捕状請求や指名手配を継続しうるか否かの選択をするまでの義務
が課せられている。したがって,どの捜査段階でいかなる資料に基づき,
いかなる犯罪の嫌疑を抱くかは,捜査機関にその権限が委ねられている
から,本件証拠保全手続後に再捜査を行うことには必要性,合理性があ
る。
次に,一般論として,被疑者側からアリバイ主張がなされた場合,捜
査機関が被疑者に対する指名手配を継続するためには,もはや被疑者
が当該被疑事実を犯したことを積極的に是認することができる資料があ
るだけでは足りず,主張されたアリバイのような反対資料についても検証
をする必要がある。したがって,捜査機関がそのアリバイの真偽及び被
疑事実の成否に与える影響力の観点から,アリバイの関係証拠につい
てその信用性を弾劾的に再捜査するのは当然である。
(c) (前記cに対し)原告らの主張は,本件アリバイについて独立にその信
用性を評価すべきであり,これに関する補充捜査も,アリバイ固有の裏
付け捜査に限られるべきであることを前提としている。しかし,アリバイ主
張がなされたからといって,直ちに捜査機関がなすべきことが具体的に
決定され,かつ,当然に強制されたり,制約されたりするものではなく,そ
の前提自体に根拠がない。
(イ) 原告らが被告都の主張・立証の制限を求めていることについて
 原告らは,被告都が原告甲1に対する本件被疑事実についてこれを犯し
たことを疑うに足りる相当な理由があると判断したことの合理性,相当性を
主張,立証するにあたって,原告甲1の嫌疑に関する一部の主張及びその
立証について,審理対象あるいは証拠価値の観点から,本件においては
関連性がないとして主張制限あるいは証拠申出の却下を求めている。
しかし,被告都は,本件逮捕状請求の要件である原告甲1の嫌疑につい
て主張立証責任を負う以上,これについて攻撃防御を尽くすのは当然であ
り,証拠の関連性については,裁判所の自由心証に委ねられるべきである
から,原告らの主張には,いずれも理由がない。
(原告らの主張)
ア 本件証拠保全手続によって得られた証拠により,本件アリバイは証明されて
おり,原告甲1に対する本件被疑事実については,同人がこれを犯したことを
疑うに足りる相当な理由がないことについて
(ア) 本件証拠保全手続によって得られた証拠により,本件アリバイは,次の
とおり,証明された。
a 原告甲1は,本件事件当日の昭和55年10月30日午前11時ころ,H会
事務所に出勤し,朝礼に出た。その後,Nら他の新聞拡張員らとともに,
J販売所にいったん赴いた後,J販売所の担当地域をまわり,3件のK新
聞の購読契約を締結した。原告甲1は,新聞購読の拡張をした後,同日
午後8時ころ,J販売所に立ち寄り,契約カードを販売店主に提出し,業
務を終えたと供述している。
b N及びOは,本件証拠保全手続において,原告甲1が,本件事件当日午
前11時ころ,H会事務所に出勤した上で,Nら他の新聞拡張員らととも
に,J販売所にいったん赴いた後,新聞購読の拡張を行ったと供述して
いる。
c 原告甲1は,前記新聞購読の拡張を始めてまもなく,K第三中学におい
て陸上競技大会が開催されているのを目撃したと供述しているが,当日
確かに前記陸上競技大会が開催されており,この供述には客観的な裏
付けがある。
d 原告甲1が,本件事件当日に,新聞購読の拡張に従事し,3件のK新聞
の購読契約を締結したことは,その旨の契約カードがあること,本件カー
ド受付簿にもその旨の記載があること,P作成の本件大学ノートにもその
旨の記載があること,Pが,本件証拠保全手続において「原告甲1が同
日午後8時ころ,J販売所に立ち寄り,契約者カードを手渡した」と供述し
ていることなどから,明らかである。
e 新聞購読の拡張は,以下(a)から(d)までのとおり組織的かつ定型的な形
態で行われており,原告甲1が同業務を途中で抜け出し,本件事件に関
与することは不可能である。
(a) 原告甲1は,勤務した日には,午前11時ころ,H会に出勤し,拡張
材料(新聞購読を勧誘する際,契約者に渡す物品のこと,以下同じ。)
として,ボウル,下着入れ等を受け取った後,他の新聞拡張員らととも
に,当日,指定された新聞販売店にまで車等で行き,同販売店では,
同販売店で用意した洗剤,しょうゆ等の拡張材料を受け取って,他の
新聞拡張員らとともに,K新聞の新聞購読の拡張に従事した。
(b) 原告甲1が新聞購読の拡張を行い,購読契約者を獲得した際には,
原告甲1と購読契約者は,次のような方法で契約カードを交わした。す
なわち,契約カードの用紙は「K新聞購読契約書」という標題の2枚綴
りないし3枚綴りのノーカーボンの複写のできる用紙であり,原告甲1
は,購読契約者の住所,氏名,契約年月日,契約期間等を契約カード
に記入し,契約カードの右すみの契約者欄に「I」とサインした。
(c) 原告甲1は,通常,新聞購読の拡張を行うと,午後8時ころには,前
記販売店に戻り,契約することのできた契約カードを販売店主に手渡
したうえ,営業の結果を報告,確認し,仕事を終えていた。
(d) 原告甲1は,H会に勤務していた期間中に出勤した日は,昭和55年
10月は,7日,8日,13日,15日,16日,18日,22日,23日,25
日,29日,30日,31日,同11月は,1日,2日,3日,4日,5日,6
日,11日,13日であり,勤務日には,前記のとおりの態様で業務に
従事し,ほぼ同じような時間,業務内容で勤務した。
(イ) 逮捕手続の違法性を判断するにあたっては,逮捕状請求がなされた時
点までに存在した捜査資料に基づき客観的・合理的に判断して,罪を犯し
たことを疑うに足りる相当な理由があり,かつ逮捕の必要性が認められた
か否かにより判断される。
本件において,本件逮捕状の請求がなされた当時すでに収集されてい
た捜査資料を前提にして,原告甲1に対する本件被疑事実について同人が
これを犯したことを疑うに足りる相当な理由があるかどうかを判断すると,
前記(ア)のとおり,本件証拠保全手続により,本件アリバイが真実であるこ
とが明らかになっていた。原告甲1には,本件証拠保全手続後において
は,本件被疑事実についてこれを犯したことを疑うに足りる相当な理由があ
るとはいえず,これがあるとした警視庁司法警察員の判断に合理性,相当
性があるとはいえない。
したがって,警視庁司法警察員による本件証拠保全手続後の本件逮捕
状の請求は,違法である。
イ 被告都の主張に対する反論
被告都の主張によると,捜査本部は,原告甲1が本件事件発生時,本件事
件現場にいたという証拠と,原告甲1が本件事件発生時,埼玉県内に現在し
ていたという本件アリバイに関する証拠を総合的に判断し,本件アリバイに関
する証拠より原告甲1が本件事件現場にいたという証拠の方が信用できると
判断した結果,原告甲1に対する本件被疑事実について同人がこれを犯した
ことを疑うに足りる相当な理由があると判断して,本件証拠保全手続後も本件
逮捕状請求を継続したとするものである。
しかし,この被告都の前記判断方法は,次の(ア)から(エ)までのとおり,原
告甲1犯人説に固執した捜査を行い,それによって得られた捜査結果をもと
に,原告甲1が本件事件現場にいたという証拠の信用性があることを前提に
した上で,本件アリバイに関する証拠の信用性を弾劾したに過ぎず,その捜
査手法に違法性があるだけでなく,その判断方法も誤っている。
したがって,被告都の上記判断には,合理性,相当性を認めることはできな
い。
(ア) 捜査本部は,当初得られた原告甲1が本件事件現場にいたという証拠
に基づいて,原告甲1犯人説に固執した立場から捜査を継続していた。捜
査本部は,本件アリバイに関する証拠の評価にあたっても,原告甲1犯人
説の立場から,同証拠の弱点を詳細に検討し,その信用性弾劾のために
執拗な再捜査を行って,これにより原告甲1の嫌疑を裏付ける証拠だけを
獲得しており,偏向している。
(イ) 検察官は,本件証拠保全手続時に,N,O及びPの証人尋問には立ち会
っており,本件アリバイに関する供述の信用性の弾劾は,その時点ででき
たはずである。しかし,捜査本部は,本件証拠保全手続後に,同手続時の
証言を翻すために,証人らを密室において取り調べるなどして,不当な捜
査を強行し,これによって得られた証拠により判断している。
(ウ) 原告甲1が本件事件現場にいたという証拠及び本件アリバイに関する証
拠は,原告甲1が本件事件現場にいたかどうかに関するものであって,い
ずれか一方の証拠が採用されると,他方の証拠が完全に排斥されるという
関係に立つ。したがって,本来は,原告甲1が本件事件現場にいたという証
拠と本件アリバイに関する証拠の各信用性は,それぞれ独立に検討すべ
きであって,あたかもこれが次元を同じくしており,互いに減殺しうるかのよ
うに捉えて,総合評価することはできない。被告都の主張は,原告甲1が本
件事件現場にいたという証拠を所与の前提にして,これを本件アリバイに
関する証拠の信用性の弾劾に供しているに過ぎず,誤っている。
(エ) 捜査本部は,本件アリバイに関する証拠の信用性を判断する際に,本
件事件現場にいたという証拠に関連した本件目撃者らに再度,写真面割捜
査をしている。写真面割捜査により,本件目撃者らが原告甲1に間違いな
いと確認が得られたところで,原告甲1が本件事件現場にいたという証拠を
確認したに過ぎず,本件アリバイに関する証拠の信用性を何ら減殺したこ
とにならない。したがって,このような写真面割捜査によって得られた証拠
を前提とした判断には根拠がない。
ウ 被告都の主張,立証は制限されるべきである。
原告らは,本件証拠保全手続後の本件逮捕状の請求及び本件逮捕状
の発布の違法性のみを請求原因事実としており,本件証拠保全手続以前
の本件逮捕状の請求及び本件逮捕状の発布の違法性を争点にしていな
い。すなわち,本件の争点は,捜査本部が原告甲1を本件事件の犯人であ
ると判断したことに合理性,相当性があるか否かではなく,捜査本部が本
件アリバイが成立しないとして,原告甲1が本件被疑事実を犯したと疑うに
足りる相当な理由があると判断したことに合理性,相当性があるか否かに
尽き,本件の審理対象は,本件アリバイの成否のみである。したがって,被
告都においては,本件証拠保全手続以前の原告甲1と本件事件との結び
付きに関する主張及び立証は関連性がなく,許されない。
また,本件目撃者らの供述調書は,前記のとおり,審理対象の観点から
関連性がないといえるだけでなく,いずれも供述者の署名・押印がなく,証
拠価値もない。N,O及びPに対する再度の取調べによって得られた証拠に
ついても,不当な捜査によって得られたものであり,同様に供述者の署名・
押印がなく,証拠としての適格を欠いている。
(2) 争点②(本件アリバイに関する証拠の添付義務)について
(原告らの主張)
法は,実体的真実の発見を定め,警察法は,「個人の権利と自由を保護」
することを目的とし(1条),また,「責務の遂行に当っては,不偏不党且つ公
平中正」であることを要求している(2条2項)ことからすると,捜査機関は,適
正な職務を遂行する客観義務を負っている。逮捕状発付の裁判においては,
不服申立ての手段がなく,被疑者側の手続参加がないことに鑑みると,上記
客観義務が一層強く要求される。
捜査機関が上記客観義務を負うことからすると,かりに捜査機関が自己の
判断で,逮捕の要件を充たすと判断したとしても,裁判官がより客観的な立場
から公正な令状裁判手続を進めることについて積極的に保障する義務を負う
のであって,逮捕状の請求にあたっては,嫌疑を阻却する性質の疎明資料も
添付すべきである。しかも,本件では,本件証拠保全手続が取られており,こ
れにより得られた証拠の信用性は高い。
したがって,捜査本部は,本件アリバイを裏付ける本件証拠保全手続によ
って得られた証拠を逮捕状を請求する際の疎明資料として添付すべき義務が
ある。
捜査本部は,原告甲1犯人説に固執し,本件逮捕状の請求の際,本件証
拠保全手続にかかる証拠関係について,故意にこれを添付しないで,本件逮
捕状の請求手続を行っており,前記客観義務に違反し違法である。
(被告都の主張)
原告らの主張は,すべて争う。
(3) 争点③(裁判官の違法性)について
(原告らの主張)
ア 前記(1)のとおり,本件逮捕状の請求手続は,逮捕の要件を欠き,違法であ
った。東京簡易裁判所の裁判官は,違法な逮捕状請求に基づいて,漫然と本
件逮捕状の発付を行っており,その裁判も違法である。
イ(ア) 裁判官は,自己の裁判官としての良心に基づいて,憲法をはじめとする
法規の厳正な解釈運用にあたるべき憲法上の責務を負っている(憲法99
条,同法76条3項)。とりわけ,人身の自由等の基本的人権に対し権力に
よる直接の侵害を例外的に許容する憲法31条以下の規定及びこれらに由
来する刑事手続規定に関する解釈運用は,厳正でなければならない。
こうした職責上の義務を負った裁判官は,もちろん法の解釈運用につい
ては,同法が冒頭で宣明する個人の基本的人権の保障を全うすることに最
大限の配慮をしつつ,これにあたる義務を負っている。
以上の点からすると,次の理由から,裁判官は,一定の場合に職権証拠
調義務を負うと解すべきである。
a 法199条1項にいう「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」とは,通
常人の良識ある合理的判断に従い,被疑者が当該犯罪を犯したことを
相当程度高度に是認しうる場合に限られる。したがって,被疑者が当該
犯罪を行ったことを積極的に是認しうる資料が存するばかりでなく,もし
被疑者が当該犯罪を行ったものでないと窺われる資料(例えばアリバイ
の存在)が存する場合には,他に同資料の証拠価値を覆すに足りる有
力な資料が存することにより否定的証拠を排斥しえない限りは,被疑者
が当該犯罪を行ったことを肯定する資料が存在することのみでは,相当
な理由があるとはいえない。この見地からすると,本件証拠保全手続に
よって得られた証拠は,逮捕の要件の判断に際しては不可欠な資料で
ある。
b 法43条3項によれば,逮捕状の請求を審理する令状裁判官は,逮捕状
の発布によれば,事実の取調が可能であり,その内容は,同規則33条
3項に基づき,証人尋問や鑑定ができるとされている。また,同規則143
条が,「逮捕状を請求するには,逮捕の理由(中略)及び逮捕の必要が
あることを認めるべき資料を提供しなければならない」と規定し,同規則
143条の2が「逮捕状の請求を受けた裁判官は,必要と認めるときは,
逮捕状の請求をした者の出頭を求めてその陳述を聴き,又はその者に
対し書類その他の物の提示を求めることができる。」としている。これらの
規定からすると,知り得た重要事実については,これを必ず検討し,相当
の証拠価値を有すると合理的に考えられ,入手可能な資料については,
これを資料として取り調べる義務があったことは明らかである。
c 法199条1項に基づく令状発付の裁判をなすに際し,所定の「罪を犯し
たことを疑うに足りる相当な理由」があるか否かについては,独立した不
服申立て手段がないことから明らかなとおり,実質的な当事者対等主義
の観点から裁判所において被疑者の後見的役割を果たすことが必要で
ある。
(イ) 本件においては,昭和56年6月16日,F弁護人らから「逮捕状請求却
下申請書」が提出され,本件逮捕状の請求の際の疎明資料には,本件証
拠保全手続がされたことが記載されていたから,東京簡易裁判所の裁判官
は,本件アリバイに関する証拠が浦和地方裁判所において証拠保全され
ていることを明確に認識していた。したがって,東京簡易裁判所の裁判官
は,本件においては,前記(ア)の職権証拠調義務に基づいて,警視庁司法
警察員に対し,本件証拠保全手続によって得られた証拠について釈明し,
これを取り調べなければならなかった。しかし,東京簡易裁判所の裁判官
は,本件証拠保全手続の記録の提出を求めるなどの釈明を行わず,本件
証拠保全手続の記録を検討することはしなかった。
以上からすると,東京簡易裁判所の裁判官は,職権証拠調義務を負っ
ているにも関わらず,その法的義務を果たさなかった義務違反があり,本
件逮捕状の発付手続は違法である。
ウ 被告国の主張に対する反論
被告国は,裁判官の職務行為について,国家賠償法1条1項にいう違法な
職務行為があったものとして,被告国の損害賠償責任が肯定されるために
は,当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど,裁判官がそ
の付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるよう
な特別な事情があるときに限られると主張する。
しかし,被告国の前記主張は,その裁判に不服がある者はその手続内で
是正を求めるべきであり,そのような手続を経て確定した判決は,終局的なも
のとして不可争性を帯びるという裁判制度の本質に由来する制約がある争訟
の裁判には妥当するものの,本件のような逮捕状発付の裁判は,その手続内
で是正を求めることがそもそもできないのであるから(逮捕令状の発付に対し
ては準抗告の制度はない),妥当しない。
(被告国の主張)
ア 東京簡易裁判所の裁判官のした本件逮捕状の発布の裁判に,上訴等の訴
訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵はない。
イ(ア) 裁判官の職務行為に,結果として法規範に違反する瑕疵が存在したとし
ても,そのことによって直ちに国家賠償法上の違法となるものではなく,裁
判官の職務行為が同法上の違法となるためには,当該裁判官が違法又は
不当な目的をもって裁判をしたなど,裁判官がその付与された権限の趣旨
に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別な事情があると
きに限られる。この考え方の根拠は,a 裁判の独立,b 不当な裁判の是
正のための上訴制度及び再審制度などによる自己完結性,c 裁判におけ
る事実認定の純粋思惟作用性,d 法令解釈適用の正当性の相対的性格
などに求められる。これらの根拠は,権利又は法律関係の存否について,
関係当事者間に争いがある場合に,当事者の一方の申立てに基づいて,
裁判所又は裁判官が双方当事者を手続に関与させたうえで,公権力をもっ
てその争いを裁断する作用ないし手続である争訟の裁判に限られず,本件
のような裁判官のする逮捕状の発付の裁判にも等しく妥当する。
(イ) 逮捕状の発付の裁判の違法性の有無についても,本件において違法性
の主張をするのであれば,当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁
判をしたなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれ
を行使したものと認めうるような特別な事情が必要である。
原告らは,本件逮捕状の発付を行った東京簡易裁判所の裁判官が違法
又は不当な目的をもって裁判をしたなど,同裁判官が付与された権限の趣
旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情を主
張しておらず,主張自体失当である。
原告らの職権証拠調義務に関する主張は,かりに,裁判官が本件証拠
保全手続によって得られた記録を検討していれば,原告甲1に対する本件
被疑事実について同人がこれを犯したことを疑うに足りる相当の理由があ
るとはいえなかったと認定判断することを前提にしており,結局,裁判官の
判断の適否をいうに過ぎない。
(4) 争点④(時効消滅)について
(被告国の主張)
ア 本件逮捕状の発付は,昭和56年1月13日から平成7年7月14日まで当初1
ヶ月間,その後3ヶ月間の有効期間が満了するごとに行われた。原告らの主張
によれば,本件逮捕状の発付は,それぞれ別個の不法行為を構成することに
なる。原告ら主張の損害賠償請求権のうち,平成7年7月14日の本件逮捕状
の発付を除き,それ以前の本件逮捕状の発付を理由とするものについては,
原告らがその発付を知ったときから,本件訴訟提起までにすでに3年経過して
いる。
イ 被告国は,原告らに対し,平成10年9月22日の当審第1回口頭弁論期日に
おいて,上記時効を援用するとの意思表示をした。
(原告らの主張)
被告国の主張は争う。
被告国の主張は,時効の起算点を本件逮捕状の各発付(更新)時としている
点で誤りがある。本件逮捕状の発付は,本件被疑事実について同じ疎明資料
を用いて継続的に行われており,昭和56年1月13日から平成7年7月14日ま
での本件逮捕状の発付は,不可分一体のものとして捉えるべきである。原告ら
は,殺人事件の公訴時効の完成する平成7年10月30日が経過するまで,本
訴で主張する損害賠償請求権を行使することは事実上できなかった。
また,原告らには提訴の事実上の困難さがあったのに対し,被告国は本件
逮捕状を殺人事件の公訴時効の完成する15年間の長期にわたって発付し続
けており,その違法性の重大さに照らせば,本件において,被告国が原告らの
請求に対して消滅時効を援用することは信義則に反し権利濫用として許されな
い。
(5) 争点⑤(損害額)について
(原告らの主張)
ア 原告甲1について
原告甲1は,無実であるにもかかわらず,殺人犯として逮捕状の発付を受
け,全国指名手配という人権侵害を受けた。このため,原告甲1は,殺人犯と
名指しされるという名誉毀損を受けたばかりか,逮捕の恐怖に脅かされること
により,多大な精神的苦痛を受けた。原告甲1は,不当逮捕によってさらに大
きな被害を受けることを避けるため,15年間の逃亡生活を余儀なくされた。以
上のとおり,原告甲1の受けた精神的苦痛及び経済的困窮は計り知れない。
この損害を金銭に見積もると,750万円は下らない。
イ 原告甲2について
原告甲2は,実子である原告甲1が殺人犯として指名手配され,大きな衝
撃を受けただけでなく,その後長期間にわたって逮捕状請求が継続されたこ
とにより,精神的苦痛を味わった。原告甲2は,原告甲1の無実を立証するた
めに,F弁護人らを選任するなどして証拠収集に多大な努力を払い,現実にこ
れを得ることができた。しかし,本件逮捕状の請求・発付が継続されたことに
より,原告甲2は,警視庁への抗議,裁判所への上申等計160回以上も足を
運び,我が子の無実を訴え,本件アリバイに関する証拠の正当な取扱いと適
正な逮捕令状の裁判を訴え続けることを余儀なくされるという精神的苦痛も受
けた。さらに,原告甲2は,本件に関連して,自宅の家宅捜索を受けるなどし
ており,理由なくして,住居の平穏,プライバシーの侵害を受けている。
この損害を金銭に見積もると,750万円は下らない。
(被告らの主張)
原告らの主張は,すべて争う。
第3 争点に対する判断
1 争点①(本件被疑事実を肯定した判断の合理性,相当性)について
(1) 逮捕状請求手続の違法性について
ア 本件逮捕状の請求手続の違法性について
本件においては,(ア) 原告甲1が逃亡するおそれがなく,かつ罪証を隠滅
するおそれがないなど明らかに逮捕の必要がないと認められないこと,(イ) 
適式な逮捕状請求手続を履践していること(法定の逮捕状請求書の記載,疎
明資料の添付)(法199条,同規則143条,同規則143条の3)は,弁論の
全趣旨により,これを認めることができる。
そうすると,本件逮捕状の請求手続の適法性については,原告甲1に対す
る本件被疑事実につき,同人がこれを犯したことを疑うに足りる相当な理由が
あったどうかに帰することになる。
捜査機関がある被疑事実について被疑者を逮捕した場合,仮にその後に
同人の嫌疑が不十分であるとして起訴猶予処分となるか,あるいは公判手続
において同人の無罪判決が確定したとしても,直ちに前記逮捕が違法とされ
るわけではない。一方,被疑者の逮捕は,被疑者の身柄拘束など被疑者に重
大な不利益を及ぼす処分であり,前記逮捕が法に定める手続を適法に経て
いるからといって,直ちに捜査機関がすべての点において免責されることには
ならない。捜査機関は,法定の強制処分を行使する以上,法の許容する限界
を越えてはならないという職務上の義務を負っており,逮捕状の請求にあたっ
ては,捜査機関の主観的判断では足りず,その行為には,客観的妥当性,合
理的な理由が要求されることはいうまでもない。
以上からすると,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求において逮捕
状の違法性の判断をするに際し,法199条1項にいう「罪を犯したことを疑う
に足りる相当な理由」とは,事後的に審査した結果,捜査機関による逮捕状
の請求のなされた当時すでに収集されていた捜査資料に基づき,合理的な判
断過程により,被疑者が当該犯罪を犯したことを相当程度高度に是認し得る
嫌疑があると認められることであると解される。
イ なお,被疑者の逮捕は,犯罪捜査の段階においてなされるのであるから,逮
捕の理由に裁判所が有罪判決をする場合に求められるような犯罪事実の存
在を確信するに足りる証拠の存在を要しないことはいうまでもなく,公訴を提
起するに足りる程度の嫌疑までも必要になるわけではない。
ウ 前記ア及びイの見解を本件にあてめると,本件証拠保全手続以降,原告甲
1に対する本件被疑事実について,同人がこれを犯したことを疑うに足りる相
当な理由があったか否かについての判断は,具体的には次のとおり行われる
べきであると解される。
(ア) 判断資料について
a 捜査本部による本件逮捕状請求がなされた当時すでに収集されていた
捜査資料すべてを判断資料とする。なお,捜査本部は,逮捕権行使をす
るに当って,その段階において手持ちの資料すべての資料に基づいて
判断をするのであるから,この適否を判断するについても,逮捕状請求
において添付した疎明資料に限定する必要はない。
b 捜査段階においては,伝聞法則の適用がないことから,伝聞供述も判
断資料になる。
(イ) 嫌疑の程度について
原告甲1に対する本件被疑事実について,同人がこれを犯したことを疑
うに足りる相当な理由については,捜査本部の主観的判断では足らず,合
理的な判断に従い,被疑者が当該犯罪を犯したことを相当程度高度に是
認し得ることを要する。しかし,犯罪事実の存在を確信するに足りる証拠の
存在を必要としないだけでなく,公訴を提起するに足りる程度の嫌疑までは
不要である。
エ ところで,原告らは,(ア) 本件証拠保全手続後の本件逮捕状の請求手続
(及び同発布手続)の違法性のみを請求原因事実としており,本件証拠保全
手続以前の本件逮捕状の請求の適否は,争点となっていないこと,(イ)  上
記(ア)のように争点を捉えると,本件では,捜査機関において本件アリバイが
成立せず,本件被疑事実について原告甲1がこれを犯したと疑うに足りる相
当な理由があると判断したことについて合理性,相当性があったか否かを判
断すれば足りることになり,審理対象は,本件アリバイの成否のみになるこ
と,(ウ) 上記(イ)からすると,原告甲1と本件事件との結び付きに関する主
張,立証は,関連性が認められないこと,(エ) 本件目撃者らの供述証拠は,
署名・押印を欠くなどそもそも成立自体に疑問があるし,本件証拠保全手続
後の再捜査によって得られた証拠も不当な捜査によるものであるなどを理由
とし,被告都による原告甲1の嫌疑に関する主張,立証が制限されるべきであ
るとする。
しかしながら,原告らの上記主張は,以下の理由により採用できない。なぜ
なら,
a 本件証拠保全手続後の本件逮捕状の請求手続は,それ以前の逮捕状請
求によって得られた捜査資料を前提としてなされており(前記第2の1前提
となる事実(4)で認定),本件において審理すべき対象は,本件証拠保全手
続が取られる前の本件逮捕状の請求手続の事実関係にも及ぶことは当然
である。
b 民事訴訟手続においては,事実と証拠の収集を当事者の権能と責任に委
ねる弁論主義が取られていることから,当事者の判断で必要な攻撃防御方
法を取ることができるのが原則である。この原則からすると,被告都が必要
と判断して行う主張立証について,関連性・必要性の点から制限を受ける
ことを除いてこれを許さないということはできない。
c 一般的に証拠能力に制限がなく,自由心証主義を取る民事訴訟手続にお
いては,どのような証拠を認定に供するか,証明力の有無,程度は,すべ
て裁判官の自由な判断に委ねられている。したがって,当該証拠について
予め排除したり,認定に供したりしないとすることはこれに反しており,採用
できない。
d 本件目撃者らの供述証拠について,供述者の署名・押印を欠くなどの点や
不当な捜査によって得られた証拠である点は,前記のような民事訴訟手続
の性質に照らして特段の事情のない限り,証拠の証明力の問題に止まり,
証拠としての適否の問題ではないと解され,本件においては,かかる特段
の事情が認められない。
(2) 本件証拠保全手続後において,原告甲1が本件被疑事実を犯したことを疑う
に足りる相当な理由があったか否かについて
ア 前記第2の1前提となる事実,後記認定に供した証拠及び弁論の全趣旨に
よると,次の事実が認められる。
(ア) 本件事件の発生
昭和55年10月30日午前10時40分ころ,東京都大田区ア丁目イ番先
路上において,Eら5名が,作業服を着用した10数名の男に鉄パイプやハ
ンマー等で,殴打され,殺害されるという事件が発生した。(前記第2の1前
提となる事実(1)で認定)
(イ) 本件証拠保全手続までの捜査機関による捜査
a 警視庁では,本件事件の発生を認知すると同時に,東調布署に捜査本
部を設置した。捜査本部は,中核派革命軍を名乗る男が,本件事件当
日午後1時ころ,朝日新聞本社など都内の報道機関に対し,「わが革命
軍は東京工業大学における反革命策動に向かう革マルJAKの集団を捕
捉し革命的攻撃を加え,壊滅的な打撃を与えた。」などと本件事件の犯
行を認める電話を入れており,中核派が,同年11月3日付け機関紙「前
進」において「3・14下手人反革命JAK5名の革命的処刑を敢行,全党
全人民に10・30戦闘の偉大な勝利を告げる。」などと犯行声明を出した
ことから,本件事件を中核派活動家がその敵対する勢力である革マル
派活動家のEら5名を襲撃し,殺害したいわゆる内ゲバ殺人事件と認め
た。
捜査本部は,本件事件の際に使用された車両や鉄パイプ等遺留品に
関する捜査を行ったほか,本件事件現場付近の検索,聞き込み捜査を
行い,本件事件の犯行状況等を目撃した者を確保し,協力を得ることと
なった。
捜査本部は,原告甲1が中核派の非公然活動家の一員であり,革マ
ル派との内ゲバ事件において逮捕された前歴を有していること,本件事
件後に所在が明らかでないことから,容疑者の一人として捜査を進め
た。(甲3の6,7,丙1,丙2,弁論の全趣旨)
b 捜査本部は,昭和55年11月上旬から同56年1月上旬にかけて,本件
事件の目撃者らに対し,中核派の非公然活動家として把握されていた者
の写真を含む約100枚の顔写真を示し,本件事件の犯人を特定するた
めの写真面割捜査を行うとともに,本件目撃者らから次の(a)及び(b)の
ような供述を得たとして,これをもって,若い男らとともに犯行に加わって
いた原告甲1と思われる男は,原告甲1であり,原告甲1には本件被疑
事実を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると判断して,昭和56
年1月13日,東京簡易裁判所裁判官に対し,本件逮捕状を請求し,同
日その発付を受けた。また,捜査本部では,本件指名手配を行った。(前
記第2の1前提となる事実(2)の認定,甲3の7,丙1,丙2,丙8から丙1
0まで,弁論の全趣旨)
(a) 本件目撃者A,Bの供述
本件事件が発生した前日の10月29日午後3時ころ,2人の若い男
が,洗足池公園内にあるジャングルジム脇のベンチに座り,何事か話
していた。約2メートルの距離に近づいていくと,前記2名は,急に話を
止めて,急ぎ足で公園から立ち去った。そのうち1人は,年齢26,7
歳,身長が約160センチメートル,髪が長く,黒縁メガネをかけてお
り,顎が細く,青色の上衣,コールテン様の白っぽいズボンを着用し,
若い男は,年齢約25歳,身長約170センチメートルで髪を七,三に分
けていた。このうち背の低い方の男は,写真面割捜査によれば,原告
甲1である。
(b) 本件目撃者Cの供述
本件事件当日の午前10時40分ころ,洗心保育園内大田区立第六
中学校側木戸口にいた4人連れが,突然木戸をまくりあげて道路に出
て殺人集団に加わったのを目撃した。この4人が木戸をまくりあげる前
に,カムフラージュ用と認められる整理区の腕章をつけた男に対して
約1.6メートルに近接してから,「君達は何をしているんだ」と誰何した
ところ,「車をぶつけられた」と返事をしている。つづいてこの4人連れ
は,殺人集団に加わったので,整理区の腕章を付けた男のことはよく
覚えている。この整理区の腕章を付けた男は,写真面割捜査によれ
ば,原告甲1である。
c 原告甲1は,昭和55年11月13日,親が病気であると称して,突然,H
会のアルバイトを辞め,その後所在不明になっている。(丙1,丙2,弁論
の全趣旨)
d しかしながら,被告都は,前記b(a)及び(b)の供述が記されているはずの
別紙2の本件目撃者らの供述調書目録1記載の各供述調書について
は,本件で証拠として提出していない。被告都は,前記本件目撃者らの
供述調書以外の本件証拠保全請求手続以前に得た捜査資料について
も,そのすべてを証拠として提出していない。被告都は,平成16年1月2
0日の当審第20回口頭弁論期日において,本件証拠保全手続以前の
捜査資料については,上級審においても提出する意思がない旨言明し
た。(前記第2の1前提となる事実(6)の認定,丙1,丙2,弁論の全趣旨)
(ウ) 本件証拠保全手続
a 原告甲1は,昭和56年2月18日ころ,原告甲2に対し,文書で自分に
は,本件アリバイがあり,本件事件には全く関与しておらず,無実である
ことを伝えた。原告甲2は,これを受けてF弁護人らを原告甲1の弁護人
として選任し,本件証拠保全手続を委任した。F弁護人らは,昭和56年3
月,浦和地方裁判所に対し,本件被疑事実について証拠保全手続の申
立てを行い,F弁護人らは本件証拠保全手続を行った。(前記第2の1前
提となる事実(3)の認定,甲3の8から12,甲97,甲98,原告甲1本人,
原告甲2本人)
b 本件証拠保全手続によって別紙3の本件証拠保全手続関係証拠目録
記載のとおりの各証拠(以下「本件証拠保全手続関係証拠」という。な
お,本件証拠保全請求手続の際に添付された疎明資料も含む。主要な
ものに記載を限定した。)が得られた。
c 本件証拠保全手続関係証拠は,次のとおりの内容であった。(甲3の1
8,甲3の22の添付写真No.2から18まで,甲3の82から84まで,甲3
の113,甲4の12から52まで,甲4の56から83まで,甲4の90から9
7まで,甲4の150から160まで,甲4の165から174まで)
(a) Nの尋問調書(甲3の82)
原告甲1は,本件事件当日午前11時ころ,H会事務所にいた。原
告甲1は,その後,J販売店に向かう車の中の後部座席にいた。原告
甲1は,真面目に仕事をしていた。
(b) Oの尋問調書(甲3の83)
原告甲1は,本件事件当日午前11時ころ,H会事務所にいた。上
原は,本件事件当日,原告甲1とともに,J販売所の担当区域におい
て,新聞購読の拡張を行った。Oは,本件事件当日の夜,原告甲1の
班の班長であるため,原告甲1から提出された契約カードに,日付入
りスタンプを押した。契約カード④⑤⑥は,契約日欄の記載が10月3
0日となっているのに対し,日付入りスタンプが10月29日となってい
るのは,日付入りスタンプの日付を10月30日に合わせるのをたまた
ま失念していたためであり,実際には10月30日に押されたものに間
違いない。原告甲1は,10月31日にも出勤した。
(c) Mの尋問調書(甲3の84)
原告甲1は,昭和55年10月初めころから同年11月中旬までの1
か月間,H会において,Iの偽名を用いて新聞購読の拡張のアルバイ
トに従事していた。原告甲1は,真面目に仕事をしていた。原告甲1が
10月末ころに遅刻したことはない。
(d) Pの尋問調書(甲3の113)
Pは,日報に基づいて新聞購読契約の獲得の個人別成績が記載さ
れる本件大学ノートを作成していた。本件大学ノートの記載に基づく
と,原告甲1が本件事件当日の昭和55年10月30日に新聞購読の拡
張に従事していたといえる。H会の朝礼は,午前11時に行われるの
で,本件事件当日の11時に原告甲1は,H会事務所にいたと思う。
(e) 本件大学ノート(甲3の23添付写真No2から4まで,甲4の90から
97まで)
本件大学ノートには,原告甲1は,昭和55年10月は,7日,8日,1
3日,15日,16日,18日,22日,23日,25日,29日,30日,31日
に出勤している旨の記載がある。
(f) 契約カード9枚(甲3の22添付写真No.2から10まで,甲4の56か
ら72まで,甲4の150から160まで)
原告甲1が昭和55年10月29日から同月31日までの間に9件の
新聞購読契約を締結した際に作成されたものである。
(g) 本件カード受付簿(甲3の22添付写真No.15から18まで,甲4の
80から83まで,甲4の165から174まで)
原告甲1がH会に対し,契約カードを提出し,集計した旨を記載した
ものである。
(h) 本件契約カード日計票(甲3の22添付写真No.11から14まで,甲
4の73から79まで)
原告甲1の獲得した契約の購読開始月を記録したものである。
(i)葉山岳夫弁護士作成の昭和56年3月2日付け報告(甲3の18,甲4
の12から52まで)
本件事件当日,K第三中学校の陸上競技大会が開催されているこ
とを当日のパンフレットを添付した報告しているものである。
(エ) 本件証拠保全手続後の捜査本部による捜査
a 捜査本部は,本件証拠保全手続によって得られた証拠を受けて,概ね,
次のとおり,再捜査を行い,別紙4の再捜査による証拠目録記載のとお
りの各証拠(なお,主要なものに記載を限定した。)を得た。(丙1,2)
(a) 原告甲1が中核派の非公然活動家であることの再捜査。
(b) 写真面割捜査を含む本件目撃者らに対する再度の事情聴取及び
本件目撃者らの立会いによる本件事件現場周辺の実況見分。
(c) 原告甲1のH会における勤務状況等に関する捜査。
(d) 契約カードの記載についての裏付け捜査。
(e) N,O及びPに対する再度の事情聴取。
(f) 昭和55年10月29日の原告甲1の新聞購読の拡張の裏付け捜査。
(g) 昭和55年10月30日の原告甲1が新聞購読の拡張を行っていたこ
とを前提にした場合に,本件アリバイが成立するか否かについて捜
査。
(h) 昭和55年10月30日の原告甲1の新聞購読の拡張の裏付け捜
査。
(i) 昭和55年10月31日の原告甲1の新聞購読の拡張の裏付け捜査。
(j) 原告甲1が本件事件後に行方不明になっていることの捜査。
b 捜査本部は,本件証拠保全手続以前に得られた証拠及び再捜査関係
の証拠をもとに,次のとおりの内容の(a)及び(b)の総合捜査報告書(以
下,2通を併せて「本件総合捜査報告書」という。)を作成した。(丙1,2)
(a) 司法警察員ら作成の昭和56年5月13日付け証拠保全関係総合捜
査報告書(丙1。以下「本件総合捜査報告書①」という。)の内容は,次
のとおりである。
① 別紙4の再捜査による証拠目録1の(1)及び(2)を引用し
原告甲1は,4つの前歴を有し,本件事件当時,中核派の非公然
活動家であった。
② 別紙4の再捜査による証拠目録2の(1)から(4)までを引用し
本件目撃者A,Bに対し,再度,原告甲1の保全写真を見せて写
真面割捜査を行った結果,昭和55年10月29日,本件事件現場付
近にいた男は,原告甲1であることは間違いないとの供述を得た。
③ 別紙4の再捜査による証拠目録3の(1)から(5)までを引用し
H会に学生アルバイトとして勤務していたIは,原告甲1である。
④ 別紙4の再捜査による証拠目録4の(1)から(4)までを引用し
本件証拠保全手続により押収された9枚の契約カードには,日付
の記載があるが,相手方(購読者)から押収した契約カードには日
付の記載がない。本件証拠保全手続により押収された契約カード
は,本件アリバイの策出のためと考えられる。
⑤ 別紙4の再捜査による証拠目録5の(1)から(4)までを引用し
かりに,原告甲1が,昭和55年10月29日に,新聞購読の拡張
を行っていても,同日,本件目撃者A,Bが目撃した時間帯に本件
事件現場付近にいることは可能である。
⑥ 別紙4の再捜査による証拠目録6の(1)及び(2)を引用し
N及びOに対する再度の事情聴取により,同人らから,原告甲1
が,本件事件当日午前11時ころ,H会事務所にいたとの供述を後
退させ,記憶がないか,勘違いによるとの供述を得た。
⑦ 別紙4の再捜査による証拠目録7の(1)及び(2)を引用し
原告甲1が,本件事件当日,新聞購読の拡張を行っていたとして
も,本件事件に関与することは可能である。
(b) 司法警察員ら作成の昭和56年8月6日付け被疑者甲1の証拠保全
手続請求総合捜査報告書(丙2。以下「本件総合捜査報告書②」とい
う。)の内容は次のとおりである。
① 別紙4の再捜査による証拠目録1の(3)及び(4),同3の(6)から(11
)までを引用し
原告甲1は,Iの偽名で,虚偽の履歴等を用いて,H会にアルバイ
トとして勤務していた。原告甲1は,4つの前歴を有し,本件事件当
時,中核派の非公然活動家であった。原告甲1の親族も,中核派の
非公然活動家を匿うなどの協力をしている。
② 引用なし
H会に勤務していた原告甲1の同僚は,いずれも犯罪歴がある
かあるいは借金などにより妻子を捨てて身を隠しているなど,通常
の社会生活をしていない。
③ 別紙4の再捜査による証拠目録3の(12)から(25)までを引用し
H会の新聞拡張員は,拡張材料を自由に持ち出せる。新聞拡張
員は,新聞購読の拡張を一人で行っており,時間も融通が利き,自
由に休みも取れる。
④ 別紙4の再捜査による証拠目録4の(5)及び(6)を引用し
H会で保管されている契約カードについては,契約締結の日付が
すべて記入されている。しかし,購読者から押収した契約カードにつ
いては,原告甲1が締結した契約カードについてのみ1枚を除いて
日付の記入がない。
⑤ 別紙4の再捜査による証拠目録5の(5)から(11)までを引用し
原告甲1が,昭和55年10月29日に,新聞購読の拡張を行って
いても,同日,本件目撃者A,Bが目撃した時間帯に本件事件現場
付近にいることは可能である。また,同日の日付の契約カードは,
同日作成されたものと認めるには疑いがある。
⑥ 別紙4の再捜査による証拠目録6の(3)及び(4)を引用し
N及びOに対する再事情聴取により,原告甲1が,本件事件当日
午前11時ころ,H会事務所にいたとの供述を後退させ,記憶がな
いか,勘違いによるとの供述を得ており,これらの供述の信用性は
低い。
⑦ 別紙4の再捜査による証拠目録7の(3)及び(4)を引用し
原告は,本件事件を敢行した後,新聞購読の拡張に従事するこ
とは可能である。
⑧ 再捜査による証拠目録2の(5)から(7)までを引用し
本件目撃者Dに対し,再度,原告甲1の保全写真を見せて写真
面割捜査を行った結果,昭和55年10月30日,本件事件現場にい
た男は,原告甲1であることは間違いないとの供述を得た。
⑨ 再捜査による証拠目録8の(1)から(11)までを引用し
原告甲1は,昭和55年10月31日,H会の新聞購読の拡張に従
事したことはほぼ間違いがない。
⑩ 再捜査による証拠目録9の(1)及び(2)を引用し
中核派活動家らは,組織ぐるみで,本件指名手配を受けた者を
支援するため,本件事件現場付近の住民に対し,捜査の非協力を
訴えるなどしている。原告甲1は,昭和55年11月13日,親族が病
気のためとの理由でH会を辞め,それ以来,行方不明となってい
る。
c 被告都は,本件証拠保全手続後において本件逮捕状請求をする際,前
記aの再捜査に基づいて得られた証拠のうち,疎明資料として別紙1の
疎明資料目録のとおり添付した。しかしながら,被告都は,本件訴訟に
おいて,別紙1の疎明資料目録記載の疎明資料のうち,備考欄に丙号
証の記載のないものを提出せず,平成16年1月20日の当審第20回口
頭弁論期日においても上級審においても提出する意思がない旨言明し
た。(前記第2の1前提となる事実(4)の認定,弁論の全趣旨)
(オ) 捜査本部による本件逮捕状請求の継続
捜査本部は,前記(エ)aの再捜査に基づき,本件アリバイは,原告甲1に
よるアリバイ策出工作によるものであって真実ではなく,原告甲1には本件
被疑事実を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると判断して,有効期
間の満了する3か月ごとに,本件逮捕状の更新請求を平成7年7月14日ま
で継続した。(前記第2の1前提となる事実(4)の認定,丙1から17まで,弁
論の全趣旨)
イ 以上の認定事実に基づき,原告甲1に対する本件被疑事実について,本件
証拠保全手続後に,同人がこれを犯したことを疑うに足りる相当な理由があっ
たかについて判断する。
(ア) 原告甲1と本件事件との結び付きが認められるか。
原告甲1と本件事件との結び付きに関する証拠は,要するに,a 原告甲
1が本件事件を敢行したことを目撃したことを内容とする本件目撃者Cの供
述,b 上記aとほぼ同内容の本件目撃者Dの供述,c 本件事件前日に本
件事件現場付近で原告甲1を目撃者したとする本件目撃者A,Bの供述で
ある。以下,これらの各供述の信用性について検討する。
a 本件目撃者Cの供述について
本件総合捜査報告書(丙1,丙2)によれば,捜査本部は,昭和55年
10月30日及び11月27日ころに,本件目撃者Cに対し,写真面割捜査
等を行い,保全前の本件目撃者Cの供述調書①②③の3通並びに同人
の立会いの上で,昭和55年11月30日付け実況見分調書を作成してい
る。しかし,本件訴訟においては,前記供述調書3通は証拠として提出さ
れていない。
その記載内容は,本件総合捜査報告書①(丙1)の記載である「昭和5
5年10月30日午前10時40分ころ洗心保育園内大田区立第六中学校
側木戸口にいた四人連れが突然木戸をまくりあげて道路に出て殺人集
団に加わったのを目撃したが,この四人が木戸をまくり上げる前に無断
侵入のことも加味し,四人の内,整理区の腕章(カムフラージュ用と認め
られる)をつけた男に対して約1.6メートルに近接してから『君達は何を
しているんだ』と誰何したところ『車をぶつけられた』と返事をしている,の
言葉のやりとりまでしたことの経緯を辿ることゝつづいて起きた,四人連
れも加わった殺人事件の実行ということの強度の印象から整理区の腕
章をつけた男の人相等を覚えているが,この男は,昭和49年1月18
日,万世橋七(甲1)である云々」(丙1の11丁表から12丁表まで)から
推測するほかはない。しかし,これらの記載からでは,原告甲1と認識で
きた根拠,整理区の腕章の男がどのように犯行に加わったのか,暴行の
態様,所持していた凶器など犯行を目撃したのであれば,当然覚えてお
り,説明できるはずの点について全く触れられていないばかりか,また,
供述者がいかなる人物であるか,捜査本部に対しどのような経緯で目撃
状況を申し出たかなど一切判明しない。そうすると,原告甲1と本件事件
との結び付きに関する直接の目撃証人と思われる本件目撃者Cの部分
の供述の信用性について少なくとも本件訴訟においては立証されていな
い。被告都は,この供述を直接録取した供述調書についても,一切本件
訴訟において提出していない。
次に,本件総合捜査報告書②(丙2)に「整理区の腕章をしていたのは
この男ですよ,私が前に申し上げたように木戸のところの,木の切株の
上に立っていた男ですよ,云々」(丙2の41丁表裏)との記載があること
からすると,捜査本部は,本件証拠保全手続を受けて,本件目撃者Cに
対し,再度,写真面割捜査を行ったと推測される。しかし,本件目撃者C
の供述調書は引用されていない。そうすると,本件逮捕状の請求におい
て,本件目撃者Cの再度の写真面割捜査に基づく供述調書が疎明資料
として提出されていないのみならず,供述調書が作成されたかどうかも
本件証拠上からは不明である。
本件目撃者Cについて再度の写真面割捜査による捜査資料を疎明資
料としないことは,そもそも本件犯行の目撃証言であり,原告甲1と本件
事件との結び付きを立証する上では,最も重要なものであることからする
と,不可解というほかはない。
以上からすると,本件目撃者Cの供述については,その供述調書自体
が本件において証拠として提出されておらず,本件総合捜査報告書(丙
1,丙2)の記載のみでは,本件目撃者Cの原告甲1と本件事件との結び
付きに関する部分の供述部分は,捜査官において本件目撃者Cの供述
調書中,都合のいい要約をした疑いも否定できず,伝聞にすぎないこと
も併せ考えると,信用性に乏しいというべきである。
b 本件目撃者Dの供述について
本件総合捜査報告書(丙1,丙2)によれば,捜査本部は,昭和56年
7月22日ころ,原告甲1の保全写真により,本件目撃者Dに対し,写真
面割捜査を行い,保全後の本件目撃者Dの昭和56年7月22日付けの
供述調書(丙14)及び同人立会いの上,司法警察員作成の昭和56年8
月5日付け実況見分調書を作成している。
保全後の本件目撃者Dの供述調書(丙14)は,次のとおりの内容であ
る。
(a) 本件目撃者Dは,当時,本件事件現場付近の大田区立第六中学校
1年の生徒であり,3時限目の体操の授業中に本件事件を目撃した。
(b) 大田区立第六中学校と向かいの洗心保育園との間の道の木戸のと
ころに,一人の男が黒色の無線機を右手で持って,交信していた。
(c) 無線機を持った男は,身長は,大人にしては小さい方で,やせてお
り,髪は,ちぢれ毛で長く,耳がかくれておりボサボサした感じであっ
た。顔は,細面で特に顎が細目の感じのする30歳から35歳位の人で
あった。着ていたものは,ネズミ色の作業服上下で道路工事人のよう
な感じで,帽子はかぶっていなかった。
(d) 無線機を持った男が,眼鏡をかけていたかどうか,手袋や腕章をつ
けていたかどうか,イヤホーンをつけていたかどうかは思い出せない。
(e) 無線機を持った男を見た場所は,よく映画のロケが行われている所
であるため,何という俳優だろうかと思い,顔をよく見ていた。しかし,
本件事件後,刑事から写真をたくさん見せられた際には,その男を映
画俳優として見ていたので,写真を抽出することはできなかった。
(f) 原告甲1の保全写真を見ると,無線機を持った男に髪の部分がちぢ
れているところ,顔の細面な点や顎の部分等がそっくりである。
(g) 4,5人の男が走ってきて,そのうちの2,3人は,洗心保育園の木戸
の下の方を蹴ってこわし押し上げて,かがみながら,無線機を持って
いた人も一緒に,3,4人が中へ入り木戸を元のように戻した。
(h) それから,2,3分した後,2人の男が走ってきた。そのうちの一人は
黄色の鞄を持っていた。この2人が木戸のところを過ぎたとき,また一
人の男が走ってきた。この男は追われてきたらしく,後から5,6人の
人達が追いかけてきて,自分の目の前で捕まった。
(i) そのとき,木戸を壊して入っていた男達は,木戸をバリバリとめくりあ
げて木戸から出てきて,追いかけてきた男達と合流した。無線機を持
ち木戸に入った男がこの中にいたかどうかは覚えていない。
(j) 捕まった人は,一人の男に両肩を押さえられ,フェンスに押えつけら
れながら,「何んだ」「やめろよ」と言いながら,もがいていた。そのと
き,別の男の人が横の方から1メートルぐらいの太い棒で腰から下の
方を横殴りに殴った。殴られた男は,倒れてしまい,自分の所からは
見えなくなった。
(k) 木戸から出てきた男達と追いかけてきた男達は,一緒になって倒れ
た人を囲むようにして,何回も太い棒を振り下ろしており,振り下ろす
たびに「ゴボ,ゴボ」という音がしていた。このとき,今まで映画ロケと
思っていたが,喧嘩であると初めて気付いた。
(l) 殴っていた男達は,作業服みたいなものを着ていたが,色の違うもの
を着た人もいた。2,3人を除いて覆面をしていた。2,3人は最後まで
覆面をしていなかった。
(m) その後,「まだまだ,もっとやれ」などと命令しながら,無線機を持っ
た男がいるのが見えた。無線機を持った男は,さきに無線機を持って
木戸に入った男とは違う男であった。映画のロケと思っていたが,本当
の喧嘩であると気付いて気持ちが悪くなり,この男の顔はよく見ておら
ず,今では思い出せない。
(n) その後,「行くぞ」という声がして棒を振り下ろした男達は,やめて集
まりだしたが,少し遅れて2,3人の男達が合流し,2,3列になって駆
け足で逃げていった。逃げた犯人達は,全部で10人以上であった。
5,6分の間に行われた出来事であった。
しかしながら,保全後の本件目撃者Dの供述調書のうち,無線機を持
って木戸に入った男が原告甲1であるとの供述部分の信用性は,次の理
由により乏しい。すなわち,
① 本件目撃者Dは,本件事件後,複数枚による写真面割捜査にお
いては,無線機を持って木戸に入った男について,原告甲1である
とは認めておらず,本件証拠保全手続後において,原告甲1の保全
写真のみを見せられたときに,無線機を持ち木戸に入った男を原告
甲1であると供述している。かかる供述は,捜査本部が被疑者の一
人として原告甲1の写真を見せたことによるものであるから,写真面
割の方法自体に問題があり,信用性に乏しい。
② 本件目撃者Dは,従前,原告甲1と断定できず,今回,事件から約
9か月余りも経過してから,原告甲1の保全写真によって,人物の
特定をできた理由として,以前は,映画俳優の一人として写真を見
たので,目撃した男の写真を抽出できなかったが,今回はそうでな
いとしている。しかし,本件目撃者Dは,本件事件を目撃した時点
で,映画のロケでなく,本当の喧嘩であることは気付いており,従前
の面割捜査が行われた時点で,無線機を持って木戸に入った男が
映画俳優でないことは認識していたはずである。そうすると,本件目
撃者Dが,本件事件直後の写真面割捜査により人物の特定ができ
ず,本件事件後9か月余り経過した時点で,原告甲1の保全写真に
より,無線機を持ち木戸に入った男が原告甲1であると認めた理由
を何ら説明しておらず,捜査官からの誘導による疑いが払拭できな
い。
③ 本件目撃者Dは,無線機を持って木戸に入った男の身長,体格,
髪型,人相,衣服等について具体的な供述をしている。他方で,他
の男達の人相等については,記憶にないと供述している。その理由
として,無線機を持って木戸に入った男については,映画の俳優と
思い,特によく見ており,記憶にあるとしている。しかし,無線機を持
って木戸に入った男のみがなぜ映画俳優であると思ったのか疑問
であるし,当時,本件目撃者Dが中学生であったことや顔の特徴に
ついて「細面」という言葉遣いなどからすると,かかる供述は取調官
の誘導による疑いがある。
④ 本件目撃者Dは,無線機を持ち木戸に入った男,すなわち原告甲
1と認めた男が,その後本件事件を敢行したかについて全く述べて
いないし,凶器を持っていたことも認めていない。また,そのほかの
男達についても,その容姿について記憶がない。
以上からすると,保全後の本件目撃者Dの供述調書のうち,無線機を
持って木戸に入った男が原告甲1であるとの供述部分の信用性は乏し
く,保全後の本件目撃者Dの供述調書により,原告甲1と本件事件との
結び付きが立証されたとは到底いえない。
c 本件目撃者A,Bの供述について
本件総合捜査報告書①(丙1)によると,捜査本部は,本件目撃者Aに
対し,本件証拠保全手続前の昭和55年12月30日,本件目撃者Bに対
し,同じく昭和56年1月7日,それぞれ写真面割捜査を行い,保全前の
本件目撃者Aの供述調書及び保全前の本件目撃者Bの供述調書を作
成した。また,本件目撃者A,Bの立会いの上で,昭和56年3月23日付
け実況見分調書(丙10)を作成した。しかし,本件訴訟においては,前記
供述調書のうち,保全前に作成された2通の供述調書は証拠として提出
されていない。
保全前の本件目撃者Aの供述調書及び保全前の本件目撃者Bの供
述調書の記載内容は,本件総合捜査報告書①(丙1)の記載である「昭
和55年10月29日(水)午後3時05分ころ子供(男児2歳)をつれて,本
件事件現場との距離約30メートルの近地点 大田区南千束二丁目三番
大田区立洗足池公園内子供遊場に行ったところ,ジャングルジムと砂場
との間のベンチによりそうようにして二人の男が腰を掛けてひそひそ話を
していたのを目撃者した。その時『子供の遊場に大人がしかも時間(人の
働いている時間)的に不自然でありかつ不調和』と直感しこれを凝視しつ
ゝ,子供につれられてジャングルジムに向かったところ,二人連れとの距
離約2・65メートルに近づいたところで,二人連れはスーと立ち上りこれ
を避けるようにして何れかに立去ったので印象に残っていたところへ,翌
日同じ場所近くで5人殺しの内ゲバ事件があったことをテレビで知りやっ
ぱりあの二人は下見をしていた犯人だと思い,ますます印象を深め,人
相等が脳裡に刻み込まれたもので,二人連れの内一人は,万世橋七
(甲1)の男に間違いない。」(丙1の8表から9丁裏まで)から推測するほ
かはない。しかし,この供述は,本件事件から2か月以上も経た段階で,
本件事件前日に,本件事件現場付近の公園にいた男の人相等について
目撃した見知らぬ他人の顔,姿について明確な記憶を持つことを前提に
しており,そもそも疑わしいだけでなく,これらの記載からでは,二人連れ
のうちの一人の男がなぜ原告甲1であると特定できたのか,写真面割捜
査はいかなる方法でされたかなどの点は明らかにされておらず,ひいて
は,本件目撃者A,Bの本件事件前日に本件事件現場付近にいた男が
原告甲1であるとの供述の信用性は認められないというほかはない。
また,本件総合捜査報告書②(丙2)によれば,捜査本部は,昭和56
年4月24日,本件目撃者A,Bに対し,再度,写真面割捜査を行い,保
全後の本件目撃者Aの供述調書(丙8)及び同本件目撃者Bの供述調書
(丙9)を作成している。しかし,これらの供述調書2通は,重ねて原告甲
1の保全写真の男を目撃したことは間違いないと述べるだけで,その内
容自体について十分な裏付けを伴っておらず,保全前の本件目撃者A
の供述調書及び同本件目撃者Bの供述調書の信用性を補強するもので
もない。
したがって,本件目撃者A,Bの供述調書4通から,本件事件前日に,
本件事件現場付近にいた男が原告甲1であると到底断定できない上,そ
もそも各供述内容それ自体も本件事件前日に本件事件現場付近にいた
ということに尽き,直ちに本件事件の犯人の特定に結び付くわけではな
いことは明らかであり,これをもって,原告甲1と本件事件との結び付き
が立証されたとはいえない。
以上検討したことからすると,本件訴訟で提出された全証拠によっても,
原告甲1と本件事件との結び付きを立証として十分とは認め難い。
(イ) 本件証拠保全手続によって得られた証拠により,本件アリバイを認定で
きるか。
原告甲1は,本件事件当日である昭和55年10月30日午前11時こ
ろ,本件事件現場から直線距離で約31キロメートル離れたH会事務所に
いて朝礼に出席していたと供述し(甲97,原告本人),本件証拠保全手続
において,H会の同僚であるN,O及びPの各尋問調書(甲3の82,甲3の
83,甲3の113)の各証言結果記載部分もいずれもこれと符合している。
前記アの認定事実を踏まえて,N,O及びPの前記証言結果の信用性
について検討するに,次のとおりこれを裏付ける客観的事実が認められ
る。
a 本件総合捜査報告書(丙1及び丙2)においても,原告甲1は,昭和55
年10月初めから同年11月中旬までの約1ヶ月間,H会において,Iの偽
名を使用して新聞購読の拡張のアルバイトに従事していたこと,原告甲
1が,昭和55年10月31日,H会の新聞購読拡張に従事したことは認め
ている。
b Mの尋問調書(甲3の84),契約カード(特に甲4の56から72まで,甲4
の150から160まで),本件大学ノート(特に甲4の90から94まで),本
件契約カード日計票(特に甲4の73から79まで),本件カード受付簿(特
に甲4の80から83まで,甲4の165から174まで)及び弁論の全趣旨
によれば,H会のPを総班長,Oを班長とする新聞拡張員の班の1日の
営業活動は,昭和55年10月当時は,基本的に次のとおり行われてお
り,原告甲1が新聞購読の拡張を行う場合もこれと同じであったと認める
ことができる。
(a) H会では,埼玉県内で新聞購読の拡張に従事する新聞拡張員は,
午前10時15分から午前11時までの間にH会事務所に出勤し,朝礼
に出席した上,点呼を受けることになっていた。原告甲1は,総班長を
P,班長をOとする新聞拡張員の班に所属していた。朝礼においては,
総班長であるPが出席者を点呼し,日報をつけた。新聞拡張員は,当
日拡張に入る新聞販売店と実際に新聞購読の拡張を行う区域の指定
を受け,使用する拡張材料を指示された。
(b) 午前11時ころ,同じ販売店に行く新聞拡張員は,車等で販売店に
向った。
(c) 新聞拡張員は,販売店に挨拶し,販売店が用意した拡張材料を受
け取った後,各自が指定された区域に散って新聞購読の拡張を行う。
(d) 午後8時ころ,新聞販売店に戻り,新聞拡張員は,その日獲得した
契約カードを提出して,班長であるOと販売店にチェックを受ける。契
約カードを受け取ったOは,契約カードに「H会 日付 P班」という日付
入りスタンプを押し,販売店に提出する。班長又は販売店は,契約カ
ードを本件カード受付簿と照合して不良カード(新規の購読契約に当
たらないもの。以下同じ)であるか否かをチェックし,本件カード受付簿
に記入する。監査の結果を日報に記入し,販売店の「記入済」という検
印を受ける。カード綴りの1枚は販売店に,1枚はH会に持ち帰る。
(e) 新聞拡張員の一部は,H会事務所に戻り,一部は,その場で解散す
る。事務所に戻った新聞拡張員は,その日の営業成績に応じて,班長
から内金を受け取る。PはH会に持ち帰られた日報をもとに,団員の個
人別の営業成績を本件大学ノートに記入する。
(f) 私用などの事情で,朝礼に出席できない場合は,新聞拡張員は,例
外的に責任者の許可を得た上で,途中から新聞購読の拡張に従事す
ることもある。その際,班長は,新聞販売店に事情を説明した上で,拡
張材料を預ける。新聞拡張員は,まず販売店に行き,拡張材料を受け
取り,新聞購読の拡張に入る。
c 原告甲1の契約にかかる契約カード①から⑨まで(特に甲4の56から7
2まで,甲4の150から160まで)については,昭和55年10月29日か
ら31日にかけての日付が記入され,契約カード④⑤⑥(特に甲4の61
から66まで)については,本件事件当日である昭和55年10月30日と
記入されているものの,日付入りスタンプの印影は29日となっている。
前記bのとおりのH会のシステムからすると,新聞拡張員にとって,契約
カードは,歩合制の給料を請求するための基礎になる書類であるから,
他の人間がIの名前を記載することはありえないし,契約日欄に他の日
付を記入することも考えられない。
契約カードに記載されている日付が10月30日となっている一方で班
長であるOが押した日付入りスタンプの日付の印影が10月29日と異な
っている点については,前日に使用した日付入りスタンプの日付部分を
変更せずに押印した可能性がある。
d 本件大学ノート(特に甲4の90から97まで)は,Pが契約カードを集計し
た日報に基づき作成するものである。Iというインデックスがついた10月
度のページには,「29」の数字が左下の方に記載されている。「29」の
欄には,「中福」とあり,その右側に「0221④」との数字が記載されてい
る。Pの尋問調書(甲3の113)によると,「29」の数字は,日付を示し,
「中福」とは,J販売所を示す。上記「0221④」は,最初の「0」の数字
は,購読期間1か月間の購読契約件数,次の「2」は,購読期間3か月間
の購読契約件数,次の「2」は,購読期間6か月の購読契約件数,次の
「1」の数字は,契約締結月の翌月から新聞購読を行うというものであ
る。次の「④」は,その日の合計契約締結件数である。その左側にある
「6500 4000 26500」との数字は,「6500」は,その日に獲得した
契約数,購読期間に応じて計算して支払われる歩合給のうち,その日に
手渡される内金を示し,「4000」は,月に2度,まとめて支払われる際に
加えられる残金である。「26500」は,その日までの上記残金の累計で
ある。この記載によれば,原告甲1が,29日にJ販売所に行き,購読期
間1か月間の購読契約を0件,購読期間3か月間の購読契約を2件,購
読期間6か月間の購読契約を2件の合計4件を獲得し,その日に6500
円を受領し,その日に獲得した契約の残金を4000円とし,その日まで
の残金の合計を26500円と記載したと認められる。
また,「30,31」の欄には,「 )」の記号の横に「0321⑤ 7500 5
000 31500」との数字が記載されている。前記と同様にこの記載を解
すると,原告甲1は,10月30日及び翌31日にかけて,1か月間の購読
契約を0件,3か月の購読契約を3件,6か月の購読契約を2件の合計5
件を獲得し,30日,31日分として7500円を受領し,30日,31日に獲
得した契約の残金を5000円とし,その日までの残金の合計を31500
円と記載したものと認められる。
また,本件大学ノートの前記記載は,この契約実態に基づいて,算定
され,支払われたI名義の10月13日から同月31日までの給与支払明
細書(甲4の107から109まで)の総支給金額31500の記載とも合致し
ている。
e 本件契約カード日計票(特に甲4の73から79まで)の形状は,別紙5の
とおりである。別紙5-1の本件契約カード日計票の形状(1)のとおり,同
書面の右上には55年10月29と記入されたページの左側の表にはIと
記入された行があり,上部に11月,12月,1月,3月と書かれた列との
交点の欄に各1と記入されている。また,別紙5-2の本件契約カード日
計票の形状(2)のとおり,右上に55年10月30と記入されたページの左
側の表にIと記入された行があり,上部に11月と書かれた列との交点に
1と,1月と書かれた列との交点に2と表記されている。さらに,別紙5-
3の本件契約カード日計票の形状(3)のとおり,右上に55年10月31と記
入されたページの左側の表にIと記入された行があり,上部に11月と書
かれた列との交点に1と,2月と書かれた列との交点に2と表記されてい
る。J販売所の店長の妻で同店の経理を担当していたUの説明によると
(甲3の22),本件契約カード日計票は,H会の新聞拡張員の誰がどの
ような購読期間の契約をしてきたかを各日付ごとに記載したものである。
そこで,11月などの表記が購読開始月を示すものと考えて,契約カード
の契約期間の表示と比較してみると,次のようになる。
契約日欄に29日の表示のある契約カード①②③(特に甲4の56から
60,甲4の150から154まで)のうち,①(V)の購読開始月は56年3月
であり,②(W)は55年12月,③(X)は55年11月であって,11月1,1
2月1,3月1という,本件契約カード日計票の右上に55年10月29と記
入されたページ(別紙5-1の本件契約カード日計票の形状(1)参照)の
記載と一致している。ただし,購読開始月1月の契約カードは発見されて
いない。契約日欄に30日の表示のある契約カード④⑤⑥(特に甲4の6
1から66まで)のうち,④(Y)の購読開始月は56年1月であり,⑤(Z)の
購読開始月は55年11月,⑥(A’)の購読開始月は56年1月であって1
1月1,1月2という本件契約カード日計票の右上に55年10月30と記入
されたページ(別紙5-2の本件契約カード日計票の形状(2)参照)の記
載と一致している。契約日欄に31日の表示のあるカード⑦⑧⑨(特に甲
4の67から72まで,甲4の155から160まで)のうち,⑦(B’)の購読開
始月は55年11月であり,⑧(C’)の購読開始月は56年2月,⑨(D’)の
購読開始月は56年2月であって11月1,2月2という,本件契約カード
日計票の右上に55年10月31と記入されたページ(別紙5-3の本件契
約カード日計票の形状(3)参照)の記載と一致している。
また,本件契約カード日計票による昭和55年10月29日,同月30
日,同月31日の契約数は,本件大学ノートの集計結果とも一致してい
る。
以上からすると,本件契約カード日計票は,購読開始月という側面か
ら,契約カード④⑤⑥(特に甲4の61から66まで)が本件事件当日であ
る10月30日原告甲1によって契約された事実を裏付けており,その記
載の形式内容からみて作為的に記載された疑いは全くないものと認めら
れる。ちなみに,契約カード,本件大学ノート及び本件契約カード日計票
の各記載について作為的に本件事件当日である昭和55年10月30日
のアリバイを策出したものとすると,本件大学ノートの記載は,10月30
日及び翌31日の契約件数を合わせて記載しており,これでは,本件犯
行当日のアリバイの裏付けとはならない。このことからも,およそ前記各
記載はアリバイ策出を図ったものとは考えられない。
f 証拠(甲3の18,甲4の12から52まで)によれば,原告甲1は,本件事
件当日,新聞勧誘業務を行っている際にK市立K第三中学校の陸上競
技大会を見たと供述しているが,本件事件当日,たしかに前記中学校で
は,陸上競技大会が開催されていたと認めることができる。
g 原告甲1は,H会にIの偽名で,アルバイトとして勤務しており,他の同僚
と私的なつきあいを一切しておらず,N,O,P及びMなどのH会の関係
者らが,原告甲1を個人的にかばい,虚偽の証言をあえてするような事
情は,本件全証拠によっても認めることはできない。
以上の事実によれば,原告甲1が本件事件当日である昭和55年10月
30日新聞購読の拡張を行っていたことが契約カード,本件大学ノート及び
本件契約カード日計票の各記載によって裏付けられており,N,O及びPの
各尋問調書(甲3の82,甲3の83,甲3の113)の各証言結果と相まって,
本件事件の犯行が行われた昭和55年10月30日午前11時ころH会の朝
会に参加していたとの本件アリバイを認定することができる。
(イ) 本件証拠保全手続後において,原告甲1が本件被疑事実を犯したことを
疑うに足りる相当な理由があったといえるかについて
被告都は,別紙4の再捜査関係の証拠に基づき,本件アリバイは成立せ
ず,原告甲1が本件被疑事実を犯したことを疑うに足りる相当な理由があっ
たといえると主張するので,以下検討する。
前記アの認定事実によれば,次のとおり認められる。
a 前記(ア)aからcまでに説示したとおり,本件目撃者らに対する再度の写
真面割捜査を行っているが,これによって得られた各供述調書は信用性
に乏しい。
b 被告都の前記主張にそう本件総合捜査報告書②(丙2)は,既に説示し
た契約カード,本件大学ノート,本件契約カード日計票の各記載とN,O
及びPの各尋問調書(甲3の82,甲3の83,甲3の113)の各証言結果
記載部分などに照らし採用できず,他に本件全証拠によるも,原告甲1
がアリバイを立証する証拠を策出したことを認めるに足りる証拠はない。
なお,被告都は,H会では,新聞購読契約が成立した場合,2枚ないし
3枚綴りのノーカーボン複写式の契約カードに契約の相手方(購読者)
名,契約年月日,購読月数,拡張員名等を記載した上,1枚を購読者に
交付し,他の1枚を新聞販売店に提出することになっていたにもかかわ
らず,本件証拠保全手続時に押収されたH会に提出された契約カードに
は,「昭和55年10月29日」「昭和55年10月30日」などと記載されてい
るのに,契約の相手方(購読者)から任意提出を受けた契約カードには,
1枚を除き,契約年月日が記載されていないことを捉え,契約カードの日
付に関しては,本件事件前日(10月29日)あるいは本件事件当日(10
月30日)の日付を策出した疑いがあると主張する。
しかし,契約者から任意提出された契約カードに日付の記載がないこ
とは,契約カードの日付の客観的な正確性に疑いを生じさせる一事情で
はあるものの,そのことから契約カードの日付を虚偽に記載したことには
結び付かない。のみならず,原告甲1は,契約を締結した際,相手方に
契約カードの日付を記入しないまま渡しておき,H会に帰った後,H会に
提出する際に契約カードの日付を記入したこともあると説明しており(原
告甲1本人),この説明も一応納得できないわけではない。契約カードの
日付の正確性については,前記説示のとおり,本件大学ノート及び本件
契約カード日計票により客観的に裏付けられていることから,被告都の
主張は理由がない。
c 被告都は,前記(ア)aからcまでに説示した以外にも,本件総合捜査報告
書(丙1及び丙2)で引用されている各証拠については,その大部分を本
件訴訟において証拠として提出していないため,個々具体的に証拠の信
用性についての裏付けはされておらず,ひいては,その信用性に乏しい
というほかはない。
d 保全後のOの供述調書①②(丙3,丙11)及び保全後のNの供述調書
(丙12)は,いずれも本件アリバイ主張を裏付けるOの尋問調書(甲3の
83)及びNの尋問調書(甲3の82)中の各証言結果と矛盾し,これを弾
劾する内容のものである。しかし,これらの供述調書には,本件訴訟に
おいて提出された前記証拠には,各供述者の署名・押印がなく,また,本
件証拠保全手続時の同人らの尋問調書に比し,各供述の時期,内容,
供述を変遷させた理由が明らかにされていないことなどからみて,その
信用性が高いとは認められず,前記各尋問調書の証言結果の記載を揺
るがすものではない。
e 被告都は,平成16年1月20日の当審第20回口頭弁論期日において,
原告甲1の嫌疑について,今後,上級審においてもこれ以上の立証をす
る意思がない旨言明した。(弁論の全趣旨)
 以上からすると,前記の再捜査関係の証拠については,本件アリバイに
関する前記認定を覆すに足る証拠であるとはいえない。
さらに,本件では,原告甲1以外に本件指名手配を受けたE’は,平成4
年ころ,同F’が平成5年ころ,それぞれ本件事件に関する被疑事実により
逮捕されたが,いずれも起訴猶予処分となっており(証人E’,弁論の全趣
旨),その理由は明らかにされていないものの,犯行の重大性からして嫌疑
不十分であると推測されることからすると,本件目撃者らの各供述をもとに
して,その面割供述を原告甲1と本件事件を結びつける唯一の証拠として,
同時期に全国指名手配を受けていた原告甲1に対する本件被疑事実の嫌
疑を判断するに際しては,捜査本部としては,一層慎重になるべきであった
といえる。
(ウ) 以上の事実によれば,本件アリバイが認定できること,他方原告甲1と
本件事件の犯人とを結び付ける唯一の証拠である本件目撃者らの各供述
の記載部分は,少なくとも本件訴訟において提出された証拠を前提とする
限り,原告らにおいて本件の争点を本件証拠保全手続後の違法性に限定
した点を考慮に入れても,なお信用性に乏しいと言わざるを得ない。
したがって,本件アリバイが認定できる本件においては,被告都すなわ
ち捜査本部が,本件証拠保全手続後においても,なお,原告甲1が本件被
疑事実を犯したことを相当程度是認し得ることを裏付ける捜査資料を有し
ていたことを認めることができない。
そうすると,昭和56年3月19日から同年4月30日まで行われた本件証
拠保全手続後に,原告甲1に対する本件被疑事実について,同人がこれを
犯したことを疑うに足りる相当な理由があったとは認めることができず,ひ
いては,その判断に,合理性,相当性があったと認めることもできない。
(3) 以上から,被告都の本件証拠保全手続後の本件逮捕状請求は違法である。
なお,逮捕状請求手続について違法であることが認められる以上,捜査機関
は,その職務上の注意義務に違反しており,その過失を肯定することができる。
2 争点②(捜査機関は,本件逮捕状請求を行う際に,疎明資料として本件証拠保全
手続によって得られた証拠を添付する義務を負うか)について
前記1で判示したとおり,被告都の本件逮捕状の請求手続は,本件証拠保全手
続後において,原告甲1が本件被疑事実を犯したことを疑うに足りる相当な理由が
ないのに行われたことになり,それ自体違法であるから,本争点については判断す
るまでもない。
3 争点③(裁判官の違法性)について
(1) 前記説示したとおり,本件逮捕状の請求手続は違法であり,これに基づく,本
件逮捕状の発付の裁判についても結果的にみて誤りがあったと認めることがで
きる。
(2) 裁判官の逮捕状の発付行為についての違法性の判断基準
一般に争訟の裁判においては,裁判官の職務行為に,結果として法規範に違
反する瑕疵が存在したとしても,そのことによって直ちに国家賠償法上の違法と
なるものではなく,裁判官の職務行為が同法上の違法となるためには,当該裁
判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど,裁判官がその付与された
権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別な事情が
あるときに限られる。この理は,逮捕状発付の裁判についても同様であると解す
べきである。なぜなら,
ア 争訟の裁判に関する上記基準は,裁判官の独立及び法令解釈の相対性,
事実認定における自由心証主義については,争訟の裁判とそれ以外の裁判
とで区別する十分な理由はない。
イ 逮捕状発付については,準抗告ができず上訴等の救済手段は予定されてい
ないが,勾留裁判の段階で逮捕の違法性を争うことができるので,この点でも
争訟の裁判と強いて区別する理由はない。
ウ 令状発付の是非の判断は迅速かつ,捜査の密行性の要請から限定された
資料に基づいてなされなければならない。この点からすると,他の裁判に比
し,裁判官の判断について違法性をより厳格に適用すべき理由は乏しい。
以上からすると,逮捕状の発付の裁判の違法性については,争訟の裁判と同
様に,前記説示が妥当するといえる。
したがって,原告らの主張は,上記特別の事情についての主張がなされてい
ないことから,主張内容それ自体に照らし失当であり,その余の点について判断
するまでもなく,理由がないと言わざるを得ない。
(3) 原告らは,裁判官において,いわゆる職権証拠調義務があると主張するので,
以下この点について判断する。
逮捕状の発付も一種の命令であるから,法43条3項,同規則33条3項によ
って必要な事実の取調べは可能である。しかしながら,逮捕状の発付手続につ
いては,以下の点を指摘することができる。
ア 逮捕状の発付は,捜査の比較的最初の段階において行われるものであり,
緊急性,捜査の密行性の要請も考えると,この段階で,証人尋問をしたり鑑定
を命じたりすることは予定されていない。
イ 刑事訴訟規則143条の2が逮捕状請求者に限ってその者から事情聴取しあ
るいは書類の提出を求めることができる旨の特則を規定しているのは,上記
アの点を考慮していると考えられる。
ウ 現行法上,逮捕については,準抗告などの不服申立て手段が認められてお
らず,逮捕手続においては,当事者主義構造が取られていない。そうすると,
そもそも被疑者側に逮捕手続に関与する機会を与えることを予定していると
はいえない。
以上からすると,令状を担当する裁判官としては,被疑者側から本件におけ
るような上申等がなされたとしても,令状発付の可否を決する上で必要があれば
逮捕状請求者に対してこれらの事由について事情聴取をしたり,資料の提出を
求めれたりすることが可能であるものの,それ以上,被疑者側の申出等に対応
しなければならない義務があるとはいえない。
したがって,原告ら主張の職権証拠調義務についてはこれを認めることはで
きない。
(4) よって,原告らの被告国に対する請求については,その余の点について判断
するまでもなく,理由がない。
4 争点⑤(損害額)について
本件証拠保全後の本件逮捕状請求の継続により,被った原告らの損害につい
て検討する。
(1) 前記第2の1前提となる事実,後記認定に供した証拠及び弁論の全趣旨によ
ると,次の事実が認められる。
ア 警視庁司法警察員は,東京簡易裁判所裁判官に対し,昭和56年1月13日
以降平成7年7月14日まで,当初1か月,その後は3か月ごとに本件逮捕状
の更新請求を行った。原告甲1は逃亡を続け,本件逮捕状の執行を受けるこ
とはなく,本件事件の公訴時効期間は平成7年10月30日の経過により完了
した。(前記第2の1前提となる事実(4)(5)の認定,甲97,原告甲1本人)
イ 捜査本部は,昭和56年1月13日,原告甲1について本件逮捕状を請求し,
同月14日,本件指名手配を報道機関に発表した。この事実は,本件事件の
重大性から原告甲1の顔写真が我が国内に公開された上で,広く報道され
た。(前記第2の1前提となる事実(2)の認定,甲3の6,7,甲97,甲98,原告
甲1本人,原告甲2本人)
ウ 原告甲1は,原告甲2に対し,昭和56年2月18日ころ,文書で自分には,本
件アリバイがあり,本件事件には全く関与しておらず,無実であることを伝え
た。原告甲2は,これを受けてF弁護人らを原告甲1の弁護人として選任し,昭
和56年3月19日から同年4月30日までの間,本件証拠保全手続を行った。
F弁護人らは,昭和56年6月16日,「逮捕状却下申請書」を提出した。原告
甲2は,本件逮捕状請求が継続している間,その請求がなされる度に,逮捕
状請求の取消ないし発付を止めるよう,警視庁及び東京簡易裁判所に要請し
た。(前記第2の1前提となる事実(3)の認定,甲15から甲69《各枝番を含
む。》,甲71から甲95,甲98,原告甲2本人)
エ 原告甲2は,昭和56年1月13日から平成7年11月1日までの間,原告甲1
に対する本件被疑事実により,数回,警視庁により家宅捜索を受けた。(甲9
8,原告甲2本人,弁論の全趣旨)
オ 原告甲1は,元千葉大生であり,本件事件当時,いわゆる中核派の活動家
として行動し,公務執行妨害,兇器準備集合等の罪で逮捕・勾留されたことも
あり,また,住居所を定めず,通常の生活においては,偽名を用いており定職
には就いていなかった。(甲3の7,甲3の46,甲97,丙1,丙2,原告甲1本
人) 
(2) 以上の認定事実に基づき,原告らの損害を検討する。原告甲1が,本件証拠
保全手続後においても約15年間,殺人犯人として本件逮捕状の発付を受け,
全国指名手配を受けたことによる精神的苦痛は,多大なものであったことは推
測に難くない。原告甲2が,実子である原告甲1が殺人事件の犯人として,長期
間にわたって逮捕状請求を受け続け,指名手配されたことにより,受けた精神的
苦痛も同様である。また,原告甲2において,本件アリバイを立証するためF弁
護人らに対し証拠保全手続を委任し,その他証拠収集活動を行うなどして費や
した労力,費用も少なからぬものであった(弁論の全趣旨)と認められる。
上記の事情のほか,本件逮捕状の請求に起因する損害については,刑事補
償の対象とはならないことなど本件訴訟に顕われた諸般の事情を総合考慮する
と,その慰謝料については,原告甲1につき200万円,原告甲2につき100万
円をもって相当と認める。
第4 結論
以上のとおり,原告甲1の請求については,被告都に対し,200万円及び平成7
年11月1日(不法行為の後)から完済まで民法所定の年5分の割合による遅延損
害金を求める限度で,原告甲2の請求については,被告都に対し,100万円及び
平成7年11月1日(不法行為の後)から完済まで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金を求める限度で,理由があるのでこれらを認容し,その余は理由がな
いのでこれらを棄却することとし,原告らの被告国に対する請求は,理由がないの
でいずれも棄却し,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第28部
裁判長裁判官  小  島     浩
   
   裁判官  千  葉  和  則
   
   裁判官 澤  井  真  一
(別 紙)1
 疎 明 資 料 目 録
1 丙1号証及び丙1号証に「参照」として記載された疎明資料
 文書の標目作成年月日  作成者 供述者  備考
総合捜査報告書S56.5.13警部丙1
供述調書S56.4. 8警部補G’
捜査報告書S56.1. 7警部補
捜査報告書S56.1.6警部補
供述調書S56.2.5巡査部長a
捜査報告書S56.5. 2警部補
撮影報告書S56.4.1巡査部長
供述調書S55.12.30巡査部長本件目撃者A
供述調書S56.1.7警部補本件目撃者B
供述調書S56.4.24警部補本件目撃者A丙8
供述調書S56.4.24巡査部長本件目撃者B丙9
実況見分調書S56.3.23警部補丙10.17
供述調書S55.10.30警部補本件目撃者C
供述調書S55.11.27警部補本件目撃者C
供述調書S55.11.27巡査本件目撃者C
実況見分調書S55.11.30警部補
証拠物複製報告書S56.5.12巡査
大学在籍照会報告書S56.5.12巡査
捜査報告書S56.3.23警部補
供述調書S56.4.14警部補b
供述調書S56.4.16警部補H’
証拠物複製報告書S56.3.19警部補
供述調書S56.5.11警部補M
供述調書S56.5.11警部補c
証拠物複製報告書S56.5.6警部補
供述調書S56.5.2警部補c
捜査報告書S56.5.9巡査丙4
供述調書S56.5.11巡査部長T’丙6
供述調書S56.5.1巡査部長U’丙5
供述調書S56.5.7警部補N
捜査報告書S56.5.9巡査部長
2 丙2号証及び丙2号証に「参照」として記載された疎明資料
文書の標目作成年月日作成者供述者備考
総合捜査報告書S56.8.6警部丙2
報告書S56.5.21警部補
報告書(付回答書S56.5.24巡査
回答書S56.5.12明治大学学生課長
報告書S56.5.12巡査
報告書S56.5.19巡査部長
報告書S56.4.3警部補
報告書S56. 1. 7警部補
報告書S56. 1. 6警部補
供述調書S56. 2. 5巡査部長a
報告書S56.7.24巡査部長
住民票S56.3.4東京都江東区長
報告書S56. 5. 2警部補
供述調書S56. 4.14警部補b
供述調書S56. 4.16警部補H’
報告書S56. 5.21警部補
報告書S56.4.8巡査部長
報告書S56. 5.12巡査
報告書S56. 3.23警部補
報告書(2通)S56.5.20巡査
報告書S56.5.31巡査
供述調書S56.5.15巡査部長J’
供述調書S56.6.19巡査K’
実況見分調書S56.7.24警部補
報告書S56.6.5巡査
供述調書S56.6.26巡査L’
供述調書S56.7.5警部補M’
供述調書S56.6.16警部補c
供述調書S56.6.30警部補O’
供述調書S56.7.6巡査部長d
報告書S56.6.1警部補
供述調書S56.7.22警部補Q’
供述調書S56.5.10警部補O丙3
供述調書巡査部長R’
S56.7.15
供述調書S56.7.16巡査部長e
報告書S56.6.9警部補
供述調書S56.8.6警部補N丙12
報告書S56.4.22巡査
報告書S56. 5. 9巡査丙4
供述調書S56. 5.11巡査部長U’丙5
供述調書S56. 5.11巡査部長T’丙6
供述調書S56.5.8警部補V’丙7
報告書S56. 5.19巡査部長
供述調書S56. 4.24警部補本件目撃者A丙8
供述調書S56. 4.24巡査部長本件目撃者B丙9
実況見分調書S56.3.23警部補丙10.17
供述調書(3通)S56.7.22警部補Q’
供述調書S56.8.6警部補O丙11
供述調書S56.8.6警部補f
報告書S56.4.2警部補
捜査報告書S56.7.29巡査丙13
供述調書S56.7.22巡査部長本件目撃者D丙14
実況見分調書S56.8.5巡査部長丙15
報告書S56.7.14巡査
供述調書S56.6.5巡査部長X’
供述調書S56.5.27警部補Y’
供述調書巡査部長W’
S56. 4.11
供述調書S56.4.13巡査部長Z’
実況見分調書S56.4.30巡査部長
報告書S56.7.24巡査
(別 紙)2
本件目撃者らの供述調書目録
各目撃者については,氏名,住所がいずれも黒塗りで消されており特定されていな
いので,当裁判所において便宜上A,B,C,Dと付した。
1 本件証拠保全手続以前に作成されたもの
(1) 本件目撃証人Aの昭和55年12月30日付け司法警察員に対する供述調書(「
保全前の本件目撃者Aの供述調書」と略称する。)
(2) 本件目撃証人Bの昭和56年1月7日付け司法警察員に対する供述調書(「保
全前の本件目撃者Bの供述調書」と略称する。)
(3) 本件目撃証言Cの昭和55年10月30日付け司法警察員に対する供述調書(「
保全前の本件目撃者Cの供述調書①」と略称する。)
(4) 本件目撃証言Cの昭和55年11月27日付け司法警察員に対する供述調書2
通(「保全前の本件目撃者Cの供述調書②③」と略称する。)
2 本件証拠保全手続後に作成されたもの
(1) 本件目撃証人Aの昭和56年4月24日付け司法警察員に対する供述調書(丙
8)(「保全後の本件目撃者Aの供述調書」と略称する。)
(2) 本件目撃証人Bの昭和56年4月24日付けの司法警察員に対する供述調書
(丙9)(「保全後の本件目撃者Bの供述調書」と略称する。)
(3) 本件目撃者Dの昭和56年7月22日付けの司法警察員に対する供述調書(丙
14)(「保全後の本件目撃者Dの供述調書」と略称する。)
(別 紙)3 
本件証拠保全手続関係証拠目録
1 証人Nの証拠保全手続裁判官の尋問調書(「Nの尋問調書」と略称する。)(甲3
の82)
2 証人Oの証拠保全手続裁判官の尋問調書(「Oの尋問調書」と略称する。)(甲
3の83)
3 証人Mの証拠保全手続裁判官の尋問調書(「Mの尋問調書」と略称する。)(甲
3の84)
4 証人Pの証拠保全手続裁判官の尋問調書(「Pの尋問調書」と略称する。)(甲3
の113)
5 本件契約カード日計票(押収番号14 甲3の22添付写真No11から14まで,
甲4の73から79まで)
6 P作成の大学ノート(押収番号28 甲3の23添付写真No.2から4まで,甲4の
90から97まで)
7 契約カード9枚
(1) お名前欄にV,契約日欄55年10月29日,右下の契約者欄にIとのサイン
が記載され,H会/55.10.29/P班と記入された日付入りスタンプが押さ
れた契約カード(「契約カード①」と略称する。)(押収番号4 甲3の22添付写
真No.4,甲4の60,甲4の150から154まで)
(2) お名前欄にW,契約日欄55年10月29日,右下の契約者欄にIとのサイン
が記載され,H会/55.10.29/P班と記入された日付入りスタンプが押さ
れた契約カード(「契約カード②」と略称する。)(押収番号5 甲3の22添付写
真No.2,甲4の56,57)
(3) お名前欄にX,契約日欄55年10月29日,右下の契約者欄にIとのサイン
が記載され,H会/55.10.29/P班と記入された日付入りスタンプが押さ
れた契約カード(「契約カード③」と略称する。)(押収番号6 甲3の22添付写
真No.3,甲4の58,59)
(4) お名前欄にY,契約日欄55年10月30日,右下の契約者欄にIとのサイン
が記載され,H会/55.10.29/上原班と記入された日付入りスタンプが押
された契約カード(「契約カード④」と略称する。)(押収番号7 甲3の22添付
写真No.6,甲4の63,64)
(5) お名前欄に繁冨英夫,契約日欄55年10月30日,右下の契約者欄にIとの
サインが記載され,H会/55.10.29/上原班と記入された日付入りスタン
プが押された契約カード(「契約カード⑤」と略称する。)(押収番号8 甲3の2
2添付写真No.7,甲4の65,66)
(6) お名前欄にA’,契約日欄55年10月30日,右下の契約者欄にIとのサイン
が記載され,H会/55.10.29/上原班と記入された日付入りスタンプが押
された契約カード(「契約カード⑥」と略称する。)(押収番号9 甲3の22添付
写真No.5,甲4の61,62)
(7) お名前欄にB’,契約日欄55年10月31日,右下の契約者欄にIとのサイン
が記載され,日付入りスタンプが押されていない契約カード(「契約カード⑦」と
略称する。)(押収番号10 甲3の22添付写真No.8,甲4の67,68)
(8) お名前欄にC’,契約日欄55年10月31日,右下の契約者欄にIとのサイン
が記載され,日付入りスタンプが押されていない契約カード(「契約カード⑧」と
略称する。)(押収番号11 甲3の22添付写真No.10,甲4の71,72)
(9) お名前欄にD’,契約日欄55年10月31日,右下の契約者欄にIとのサイン
が記載され,日付入りスタンプが押されていない契約カード(「契約カード⑨」と
略称する。)(押収番号12 甲3の22添付写真No.9,甲4の69,70,甲4
の155から160まで)
8 本件カード受付簿(押収番号13,甲3の22添付の写真No15から18まで,甲
4の80から83まで,甲4の165から174まで)
9 I名義の給料支払明細書(押収番号30 甲4の107から109まで)
10 葉山岳夫弁護士作成の昭和56年3月2日付け報告書(甲3の18,甲4の12
から52まで)
(別 紙)4
再捜査による証拠目録
以下,かっこ内丙号証の掲記がされたものは,本件訴訟において被告都から提出
されものの,それ以外の証拠は提出されていない。
1 原告甲1が中核派の非公然活動家であることの再捜査
(1) G’の司法警察員に対する昭和56年4月8日付け供述調書
(2) 司法警察員作成の昭和56年5月2日付け捜査報告書
(3) 司法警察員作成の昭和56年4月3日付け報告書
(4) 司法警察員作成の昭和56年7月24日付け報告書
 
2 面割捜査を含む本件目撃者らに対する再写真面割捜査等によるもの
(1) 司法警察員作成の昭和56年4月1日付け撮影報告書
(2) 保全後の本件目撃者Aの供述調書(丙8)
(3) 保全後の本件目撃者Bの供述調書(丙9)
(4) 司法警察員作成の昭和56年3月23日付けの実況見分調書(丙10)
(5) 保全後の本件目撃者Dの供述調書(丙14)
(6) 司法警察員作成の昭和56年8月5日付けの実況見分調書(丙15)
(7) 司法警察員作成の昭和56年7月14日付け報告書
3 原告甲1のH会における勤務状況等に関する捜査によるもの
(1) 司法警察員作成の昭和56年5月12日付けの証拠物複製報告書
(2) 司法警察員作成の昭和56年5月12日付けの大学在籍照会報告書
(3) 司法警察員作成の昭和56年3月23日付けの捜査報告書
(4) 国井幸治の司法警察員に対する昭和56年4月14日付けの供述調書
(5) H’の司法警察員に対する昭和56年4月16日付けの供述調書
(6) 司法警察員作成の昭和56年5月21日付け報告書
(7) 司法警察員作成の昭和56年5月24日付け報告書(付・回答書)
(8) I’作成の昭和56年5月12日付け回答書
(9) 司法巡査作成の昭和56年5月12日付け報告書
(10) 司法警察員作成の昭和56年5月19日付け報告書
(11) 司法警察員作成の昭和56年4月8日付け報告書
(12) 司法警察員作成の昭和56年5月20日付け報告書2通
(13) 司法警察員作成の昭和56年5月31日付け報告書
(14) J’の司法警察員に対する昭和56年5月15日付け供述調書
(15) K’の司法警察員に対する昭和56年6月19日付け供述調書
(16) 司法警察員作成の昭和56年7月24日付け実況見分調書
(17) 司法警察員作成の昭和56年6月5日付け報告書
(18) L’の司法警察員に対する昭和56年6月26日付け供述調書
(19) M’の司法警察員に対する昭和56年7月5日付け供述調書
(20) Mの司法警察員に対する昭和56年6月16日付け供述調書
(21) O’の司法警察員に対する昭和56年6月30日付け供述調書
(22) P’の司法警察員に対する昭和56年7月6日付け供述調書
(23) 司法警察員作成の昭和56年6月1日付け報告書
(24) Q’の司法警察員に対する昭和56年7月22日付け供述調書
(25) Oの司法警察員に対する昭和56年5月10日付け供述調書(丙3)(「保全後
のOの供述調書①」と略称する。)
4 契約カードの記載についての裏付け捜査によるもの
(1) 司法警察員作成の昭和56年3月19日付け証拠物複製報告書
(2) Mの司法警察員に対する昭和56年5月11日付け供述調書2通
(3) Mの司法警察員に対する昭和56年5月11日付け供述調書
(4) 司法警察員作成の昭和56年5月6日付け証拠物複製報告書
(5) R’の司法警察員に対する昭和56年7月15日付け供述調書
(6) S’の司法警察員に対する昭和56年7月16日付け供述調書
 
5 原告が昭和56年10月29日に新聞購読拡張を行っていたことを捜査したことによ
るもの
(1) Mの司法警察員に対する昭和56年5月2日付け供述調書
(2) 司法巡査作成の昭和56年5月9日付け捜査報告書(丙4)
(3) T’の司法警察員に対する昭和56年5月11日付け供述調書
(丙6)
(4) U’の司法警察員に対する昭和56年5月11日付け供述調書
(丙5)
(5) Nの司法警察員に対する昭和56年8月6日付け供述調書(丙12)(「保全後の
Nの供述調書」と略称する。)
(6) 司法警察員作成の昭和56年4月22日付け報告書
(7) Q’の司法警察員に対する昭和56年7月22日付け供述調書(3  通)
(8) V’の司法警察員に対する昭和56年5月8日付け供述調書
(9) 司法警察員作成の昭和56年5月19日付け報告書
(10) 保全後の本件目撃者Aの供述調書(丙8)
(11) 保全後の本件目撃者Bの供述調書(丙9)
6 N,O及びPに対する再事情聴取によるもの。
(1) Nの司法警察員に対する昭和56年5月7日付け供述調書(2通)
(2) 保全後のOの供述調書①(丙3)
(3) Oの司法警察員に対する昭和56年8月6日付け供述調書(丙11)(「保全後
のOの供述調書②」と略称する。)
(4) 保全後のNの供述調書(丙12)
7 本件事件当日,原告甲1が新聞購読拡張を行っていたことを前提にした場合に本
件アリバイが成立するか否かについて捜査によるもの
(1) W’の司法警察員に対する昭和56年4月11日付け供述調書
(2) 司法警察員作成の昭和56年5月9日付け捜査報告書
(3) 司法警察員作成の昭和56年4月2日付け報告書
(4) 司法警察員作成の昭和56年7月29日付け報告書(丙13)
8 原告が昭和56年10月31日に出勤したかを捜査したことによるもの
(1) Q’の司法警察員に対する昭和56年7月22日付け供述調書(2 通)
(2) 保全後のOの供述調書①(丙3)
(3) 保全後のNの供述調書(丙12)
(5) 保全後のOの供述調書②(丙11)
(6) X’の司法警察員に対する昭和56年6月5日付け供述調書
(7) Y’の司法警察員に対する昭和56年5月27日付け供述調書
(8) W’の司法警察員に対する昭和56年4月11日付け供述調書
(9) Z’の司法警察員に対する昭和56年4月13日付け供述調書
(10) 司法警察員作成の昭和56年4月30日付け実況見分調書
(11) 司法警察員作成の昭和56年7月24日付け実況見分調書
9 原告甲1が,本件事件後行方不明であること等を捜査したことによるもの
 (1) 司法警察員作成の昭和56年7月24日付け報告書
 (2) 司法巡査作成の昭和56年5月12日付け報告書

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