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裁判例


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主         文
1 A事件被告は,A事件原告に対し,15万5660円及びこれに対する平成15年6月7
日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 A事件原告のその余の請求を棄却する。
3 B事件被告は,B事件原告に対し,9万5665円及びこれに対する平成15年7月18
日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
4 B事件原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は,A事件につきこれを10分し,その2をA事件原告の,その余をA事件被
告の負担とし,B事件につきこれを10分し,その8をB事件原告の,その余をB事件被
告の負担とする。
6 この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 A事件請求
A事件被告は,A事件原告に対し,24万4575円及びこれに対する平成15年6
月7日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2B事件請求
B事件被告は,B事件原告に対し,47万8328円及びこれに対する平成15年7
月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,後記本件交通事故につき,A事件原告がA事件被告に対し,民法709
条による損害賠償(弁護士費用を含む)を,A事件被告運転車両に損害保険契約を
締結していたB事件原告が,A事件原告所有車両を運転していたB事件被告に対
し,商法662条1項により代位取得した損害賠償をそれぞれ請求している事案であ
る。
1 争いのない事実等
以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠(該当箇所に掲記)及び弁論の
全趣旨によって容易に認定することができ,この認定の妨げとなる証拠はない。
(1) 本件交通事故
① 発生日時    平成15年6月7日午後4時25分ころ
②発生場所    名古屋市西区a通b丁目c番地先道路上
片側4車線のa通と片側1車線のd通とが直交する交差
点(以下「本件交差点」という)内(甲1,2,3の1ないし
9)。
③ 関係車両甲   自家用軽四乗用車
④ 甲車両運転者B事件被告
⑤ 甲車両所有者  A事件原告
⑥ 関係車両乙   自家用普通乗用車
オートマチック車
⑦乙車両運転者  A事件被告
⑧乙車両所有者  C
(2) B事件原告の自動車保険契約と保険代位(丙3,4)
乙車両所有者CはB事件原告との間で乙車両につき損害保険契約を締結し,
B事件原告はこの契約に基づき,本件事故により乙車両に発生した損害である4
7万8328円を平成15年7月17日に支払った。これによりB事件原告は,商法6
62条1項によりB事件被告に対する請求権を代位取得した(代位しうる金額につ
いては後述)。
2 争点
本件事故の態様(過失割合)
(1) A事件原告及びB事件被告の主張
本件事故は,a通の第一車線を東進していたB事件被告が本件交差点をd通
へ左折しようとしたところ,a通の第二車線を同一方向に走行していたA事件被告
が,甲車両に乙車両をかぶせるように左折進行したため,乙車両左後部と甲車
両左前部が衝突したものであり,B事件被告に結果回避可能性はなく,過失責任
を負うものではない。
なお,A事件原告の損害は以下のとおりである。
① 甲車両の修理代金 19万4575円
② 弁護士費用         5万円
(2) A事件被告及びB事件原告の主張
本件事故は,a通の第一車線から左折を開始したA事件被告がd通の横断歩
道を渡ろうとしていた歩行者のため横断歩道手前で停車していたところ,後方か
ら走行してきたB事件被告運転の甲車両が乙車両の後部に衝突したものであ
る。
乙車両の修理代金   47万8328円
第3 当裁判所の判断
1 双方車両の損傷から認められる本件事故態様
(1) 甲6号証の1ないし8及び甲5号証によれば,甲車両の左フロントフェンダーの
前方角部分(以下「X点」という)に塗料の摩耗を伴う損傷が,同左フロントフェンダ
ーの中央部分には塗料の摩耗を伴わない凹みが認められる。また左ヘッドランプ
カバーに損傷は認められない。これらの事実からすると,甲車両への圧力は,X
点のみに集中的に加えられ,その圧力の伝播により同フェンダー中央部分に凹
みが生じたものと推察される。
(2) 乙1号証及び丙2号証によれば,乙車両の左リヤフェンダーの後方(以下「Y点」
という)に衝撃による凹みが,リヤバンパーに横に流れるような擦過痕が認められ
る。これらの傷跡からすると,乙車両への圧力は,まずY点に,次いでリヤバンパ
ーへと継続的に加えられたものと推察される。
(3) 以上の衝突部位,損傷状態を総合すると,甲車両のX点と乙車両のY点とが衝
突し,次いでX点と乙車両のリヤバンパーとが接触したものと理解される。そして
甲車両にあってはX点のみが損傷しその圧力でフェンダー中央部分に凹みが生
じていることからすると,本件交通事故は,甲車両のX点が乙車両のY点に8時方
向から衝突し(圧力の加えられた方向を時計の短針の位置になぞらえて何時方
向からの衝突と表現する。なお,乙車両は前方を0時,後方を6時の位置に置
く),その後,乙車両のリヤバンパーを擦るようにして接触したものと解すべきこと
となる。なぜなら,もし7時方向からの衝突であれば,甲車両のヘッドランプカバ
ーも破損したはずであり,もし9時方向からの衝突であれば,乙車両のY点に衝
突した後にリヤバンパーと擦れた際,甲車両の左フロントフェンダーには擦過痕
ないし更に重大な損傷が生じたはずだからである。
2既述した本件事故態様と当事者双方の主張との整合性
(1) A事件原告及びB事件被告の主張を検討する。
同主張は,①本件事故は,本件交差点を左折しようとした甲車両に対し,a通
の第二車線を走行していた乙車両がかぶせるように左折進行したため生じたも
のである。②B事件被告に結果回避可能性はなく過失責任を負わないというもの
である。
そこで①の点につき検討するに,乙車両が甲車両にかぶせるように左折した
のであれば,第一車線を走行する甲車両に対し乙車両は直交するような位置関
係となることから,Y点に対しX点が8時方向から衝突することは充分可能であり,
しかも乙車両が進行しているからこそX点はY点と衝突し,その後に乙車両のリヤ
バンパーを擦るように接触しうることが認められる。したがって,この主張には本
件事故態様との整合性が認められ,この主張に沿うB事件被告の供述は充分信
用するに足る。
次いで②の点につき検討する。法は,車両が左折するときは徐行しなければ
ならないと規定し(道路交通法34条1項),徐行とは直ちに停止することができる
速度と定義付けている(同法2条1項20号)。してみると,左折時に直ちに停止し
えずに本件事故を惹起した以上,甲車両が徐行していたとは認められず,かつ衝
突したY点が乙車両の最後部であることも加味すると,甲車両が徐行さえしてい
れば,本件事故を回避しうる可能性は高かったといえよう。B事件被告に過失責
任がないとはいえない。
(2) A事件被告及びB事件原告の主張を検討する。
同主張は,①乙車両は本件交差点を第一車線から左折したところを甲車両に
追突された。②乙車両はd通を横断する歩行者のため本件交差点で停車中に追
突されたというものである。
そこで検討するに,①の点については,a通の第一車線から片側一車線のd通
に左折した幅180㎝の乙車両(丙5)のY点に,引き続いて左折した幅139㎝,長
さ329㎝の甲車両(甲4)のX点が8時方向から衝撃を与え得るかが問題となる
(甲車両が本件交差点を左折するつもりであったことはB事件被告の供述により
認めることができる)。ところで,本件交差点の角部分の歩道は円周様の形状に
すみ切りされているが(甲3の9),この角部分に沿って左折する乙車両のY点も
歩道に近接した場所を円周状に旋回をすることとなる。この道路端に近接して円
周様の軌跡を描くY点に,幅139㎝,長さ329㎝の甲車両が,しかも乙車両の後
部を追走し,同様の軌跡を描くはずの甲車両が,わざわざ乙車両の左側に回り
込み,しかも8時の方向から衝撃を与えうるなどとは(甲車両が歩道上から本件
交差点に進入したのであればともかく)とうてい想定することができない。
更に詳述するに,乙車両に後続する甲車両の運転席から,乙車両の左折によ
りY点の描く軌跡を見た場合,乙車両が左折するにつれ,乙車両のY点が甲車両
から見て右側に移行するようなことがあれば,Y点に対しX点が8時方向から衝突
することも可能となるかもしれない。しかしながら,トラックやバスのように後輪か
ら車両の最後部まで距離のある車両であれば,上記のように左折により右側に
移行することもあろうが,乙車両のような普通乗用車であれば,左折によりY点は
更に前方に,そして左方へとの軌跡を道路端に近接して描くことになる。してみる
と,幅139㎝かつ長さ329㎝の甲車両が幅180㎝の乙車両の左側面からしかも
8時方向から衝突しうると想定することはやはり困難といわなければならない。
次いで②の点につき検討する。もし乙車両が交差点で停車していたのであれ
ば,オートマチック車である乙車両は,クリープ現象を回避するためブレーキペダ
ルが踏まれていたと推察される。そのようにして停車する乙車両のY点に甲車両
のX点が追突したのであれば,双方の衝突点の損傷は更に甚大となった可能性
が高く(例えば甲車両のヘッドランプカバーも破損したであろう),かつ衝撃は一回
的なものとなり,乙車両のバンパーの擦過痕も生じなかったのではなかろうか。ま
た,もしバンパーに接触することになったとしても,停車した乙車両に対し,走行
する甲車両が衝突する形となるため,甲車両のX点のみが集中的に損傷すること
はなく,更に甲車両の左前方部分に甚大な損害が生じたのではないだろうか。乙
車両が甲車両と同等ないしは若干低めの速度で進行していたと想定してはじめ
て,甲車両は,乙車両のY点に衝突後バンパーと接触することも可能となり,しか
もバンパー部位に擦過痕を生じさせながら,甲車両のX点のみが集中的に傷つ
き,その後甲車両と乙車両が離れることになったと推察されるのである。
以上より,A事件被告及びB事件原告の主張は本件事故態様との整合性に欠
け,この主張に沿うA事件被告の供述は採用できない。
(3) 小括
上述したところから,本件事故は,a通の第一車線を甲車両により東進してい
たB事件被告が本件交差点をd通へ左折しようとしたところ,a通の第二車線を乙
車両により同一方向に走行していたA事件被告が,甲車両に乙車両をかぶせる
ように左折進行したため,乙車両左側面後部及び後部バンパーと甲車両左前部
角部分が衝突したものであり,B事件被告には徐行義務違反による,A事件被告
には左折する際にはあらかじめ道路の左側端に沿って徐行しなければならない
義務に違反した不法行為責任が認められ,両者の過失はA事件被告8割,B事
件被告2割と解するのが相当である。
3 弁護士費用について
弁護士費用が不法行為と相当因果関係のある損害と認められるのは,不法行為
によって被害を受けた者が,損害の回復を弁護士に依頼するのが通常必要な手段
といえるからであろう。ところで,簡易裁判所における訴え提起は請求原因に代えて
紛争の要点を明らかにすれば足り(民訴法272条),かつ審理も短期間で終了す
る。そして本件のような物損交通事故事案にあっては,主張は当事者が体験した事
実のみで足り,立証も損壊車両や事故現場の写真,経験した事実の陳述等に限ら
れ法律専門家の助力を必要としない。また過失割合が主要な争点となろうが,争点
自体難解なものではなく,特に専門的な法的知識を要するものでもない。してみる
と,簡易裁判所における物損交通事故事案については,一般私人であっても簡便に
訴訟を提起,追行することができ,その上請求額,過失相殺後の認容額ともに少額
であることをも加味すると,このような事案における弁護士費用を不法行為と相当因
果関係に立つ損害と認めるには,特段の事情のない限り慎重でなければならない。
A事件原告の弁護士費用請求には理由がない。
4結論
(1) A事件について
A事件原告の所有する甲車両の損害額は19万4575円(甲5)である。実際に
は,この損害はA事件被告とB事件被告の共同不法行為により発生したと解され
るところ,弁論の全趣旨によれば,A事件原告は,A事件被告の負担部分につい
てのみ請求しているものと認められる。そこで,A事件被告の過失割合を乗じた
金額である15万5660円(194,575×0.8=155,660)を損害額と認定する。
(2)B事件について
B事件原告の請求額は47万8328円(丙3)である。B事件原告もB事件被告
の負担部分についてのみ求償していると認められるので,B事件被告の過失割
合を乗じた金額である9万5665円(478,328×0.2=95,665)を認容することとす
る。
名古屋簡易裁判所
裁 判 官下  村  資  樹

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