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裁判例


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       主   文
特許庁が、昭和四二年三月二二日、同庁昭和三九年審判第三八九一号事件について
した審決は、取り決す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判等
一 原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。
二 被告代表者は、適式の呼出を受けながら、本件各口頭弁論期日に出頭せず、答
弁書その他の準備書面の提出をもしない。
第二 原告の請求の原因
原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、つぎのとおり述べた。
(特許庁における手続の経緯)
一 原告は、昭和三九年八月五日、被告を被請求人として、被告が商標権者である
登録第五八二二五三号商標(その構成は別紙第一目録記載のとおり。以下「本件商
標」という。)について、登録無効の審判を請求したが、特許庁は、同庁昭和三九
年審判第三八九一号事件として審理のうえ、昭和四二年三月二二日、「本件審判の
請求は成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本
は、同年四月二六日原告に送達された(出訴期間として三月が附加された。)。
(本件審決の理由の要点)
二 本件商標は、白無地の書面に西洋紋章にいう盾を変形したものとリボンの図形
を結合した図形、すなわち盾の上部を薄い板状に線描きし、かつ、盾の末端のやや
上部の両側を少し括つたように狭め、その地内のほとんどすべてを黒色で塗りつぶ
して表わし、盾地の中央部よりやや下部を真横に幅狭に切り除き、この個所に一見
リボンを思わせる図形をはめ込むように配置し、その両端を上方(上記板状図形の
下部)に、外側に丸めるように描き(該図形(表面)の下辺の両端と盾の両端を線
で連結し、かつ、その内部を輪郭線との間に少し間隔をあけて黒色で塗りつぶして
ある。)、その表面の内部に角ゴシツク書体とローマン書体との中間的な書体風の
「STORK」の欧文字を横書きし、さらに上記板状図形の上部に腹這いになつて
首を延し右を向いている鳥(鶴を思わせる。)を写実的に描き、かつ、該描画中の
下部よりリボン図形(表面)の上辺の上部にわたつて「S」字形の図形を重画し、
盾地以外のものについても、すべて黒色で表わして成り、旧第二〇類車両、船舶そ
の他運搬用機械器具およびその各部を指定商品として、昭和三四年五月六日の登録
出願にかかり、昭和三七年一月九日にその登録がされたものである。
 つぎに、請求人の引用にかかる登録第四一九六三〇号商標(以下「引用商標」と
いう。)は、白無地の書面に欧文字と各事物の混合図形、すなわちその中央部にフ
アツシヨンシヤドー書体風の「R」のローマ字を表わし、かつ、該文字の中央部
に、同書体風の「C」のローマ字を掛けるように重画し、さらに「R」のローマ字
の右下方の背後に、同書体風の「C」のローマ字を隠すように表わし、その右にや
や小さく同書体風の「O」のローマ字を表わし、「R」のローマ字の上部に弧状に
した止木(全体を黒色で、一見鳥の脚が当たる所と思われる部分を白抜きにして描
いてある。)を描き、さらにその上部に、長い嘴を左に向けた鳥の頸部(その末端
を三裂にし、左右の部分を外側に向けて描いてある。)を写実的に描き、「R」の
ローマ字の下部に、リボンを思わせる横長方形の図形(リボンの両端は上方に、外
側に丸めるように描いてある。)を、その表面を黒色で塗りつぶして描き、その内
部に角ゴシツク書体の「THE RALEIGH」の欧文字を白抜きで表わし、該
図形の下部に同書体風の「NOTTINGHAM」および「ENGLAND」の各
欧文字をいずれも上記文字に比し小さく、かつ後者を前者よりやや小さく、幅狭に
二段にして横書きし、上記リボンおよび止木以外のものについても、すべて黒色で
表わして成り、旧第二〇類自転車、自動自転車、三輪車およびそれらの部分品その
他本類に属する商品を指定商品として、昭和二七年一月一〇日の出願にかかり、同
年一二月一五日にその登録がされたものである。
本件商標と引用商標との類否について比較検討する。
 外観上においてみるに、両者の態様がそれぞれ前記するとおり複雑な構成よりな
るものであるけれども、もとより両者にかかる指定商品とくに「自転車」に附する
商標にあつては、一般にこれら両商標のような混合図形が採択されることが決して
少なくないところであり、一方この種商品の需要者はその構造、性能などについて
仔細に吟味することは勿論のこと、同時にそれに附してある商標についても注意深
く観察するのが通例である点に鑑みるときは、両者は、その構成にかかる各事物を
相異にするものであることが明らかであるので、畢意外観上において相紛らわしい
ものではないとみるのが至当である。
 また、称呼上および観念上においてみるに、もとより両者がいずれもその構成に
かかる各事物と各欧文字が互に一体不可分の関係にあつて、そのうちのいずれか一
つを欠く場合には商標の機能を喪失するというものではないし、まして簡易迅速を
尚ぶ商取引の実際に徴するときは、看者をして、前者よりは、その構成要素中に顕
著に表示されてある鶴を思わせる鳥の描画の部分を着目、印象させ、これより「つ
る」の称呼および「鶴」の観念を生じさせるものであるとみるのが相当である。
 これに対し、後者よりは、その権利主体である「ザ・ラレイ・サイクル・コンパ
ニー・リミテツド」(THE・RALEIGH・CYCLE・COMPANY・L
IMITED)の名称との関係において、しかもその構成要素中に顕著に表示して
ある「THE RALEIGH」の欧文字の部分を着目、印象させるところである
ので、これより「ざ・られい」(THE RALEIGH)の称呼および観念を生
じさせるものであるとみるのが自然である。
このような訳であるので、両者は、称呼上および観念上においても互に類似しない
商標であるといわなければならない。
 してみれば、本件商標は、その指定商品が引用商標の指定商品と同一または類似
するものであつても、叙上のとおり外観、称呼および観念のいずれの点においても
引用商標に類似しないものであることが明らかであるので、なんら旧商標法(大正
一〇年法律第九九号)第二条第一項第九号の規定に違反して登録されたものではな
いと判断せざるをえない。
 また、本件商標は、叙上のとおり引用商標に非類似であり、また引用商標が著名
であるとの立証もない以上、これをその指定商品に使用するも、広く取引者および
需要者をして、あたかも引用商標権者より出所した商品であるかのような混同を生
じさせるおそれはないというを実験則に照し明らかであるので、同法第二条第一項
第一一号の規定に違反して登録されたものでもない。
 したがつて、本件商標は、商標法施行法第一〇条第一項の規定によつて、なお効
力を有する旧商標法第一六条第一項第一号の規定により、その登録を無効とすべき
限りでない。
(本件審決を取り消すべき事由)
三 本件審決は、つぎのとおり判断を誤つた違法があるから、取り消されるべきも
のである。すなわち、本件商標の構成、その指定商品および登録に至る経緯、なら
びに、登録第四一九六三〇号商標(その構成は別紙第二目録記載のとおり。)の構
成、その指定商品および登録に至る経緯は、いずれも本件審決の認定するとおりで
あるが、本件商標は、つぎに述べるとおり、引用商標と類似するものであるのに、
本件審決は、これと異なる判断をしたものであつて、違法といわなければならな
い。
(一) 外観の類似について。
 本件審決は、(1)本件商標および引用商標は、それぞれ複雑な構成よりなるも
のであること、(2)両者の指定商品とくに「自転車」に附する商標にあつては、
一般にこれら両商標のような混合図形が採択されることは、決して少なくないこ
と、(3)この種商品の需要者は、その構造・性能などについてのみならず、それ
に附してある商標についても、注意深く観察するのが通例であること、を根拠とし
て、両者が、その構成にかかる各事物を相異にするものであることが明らかであ
り、外観上において相紛らわしいものではないとみられる旨を述べているが、前記
(1)の事実は、右の結論とどのように関係するのか理解できず、また、(2)に
おける「両商標のような混合図形」とは何を意味しているのかも理解できない。も
し、これが鳥の頭部を表わした図形の下部にローマ字のモノグラム・リボン等を配
した図形という趣旨であれば、原告はこれを否認する。もし、ローマ字と図形との
結合商標という程度であるならば、これが前記結論と結びつく理由が理解し難い。
さらに、(3)において、商品自転車等の需要者は、その商品との関係において、
構造・性能のみならず、商標についても注意深い観察をなすべきことを述べている
が、自動車等の、高価な、しかも構造・性能等について一見了解し難いものであれ
ばともかく、自転車は、現在のわが国の一般的生活水準からみてそれほど高価なも
のではなく、また、構造・性能等も店頭において一見すればほぼ了解しうる程度の
ものであり、薬品等のように人の健康ないし生命に直接関係するものでもないか
ら、他類の一般商品に比し、商標の類否に関し、需要者がとくに高度の注意能力を
有し、また、とくに綿密な注意を払うものとして判断すべき必然性はない。むし
ろ、原告は、自転車における商標の表示は、一般に自転車前輪の支承パイプに装着
させる金属製プレート等により行なわれるものであり、このような商標表示態様に
おいては、細部の識別は困難で、両者とも、漫然、鳥の頭部図形として観察される
にすぎないと考える。要するに、本件審決は、商標の外観類否判断において深くい
ましめられている対比的観察をすることにより、前記の結論に達したものであるか
ら、この結論は、容認できない。
(二) 称呼・観念の類似について。
 本件審決は、両商標の称呼・観念の類否について判断するにあたり、本件商標か
らは「つる」の称呼および「鶴」の観念が生ずるのに対し、引用商標からは、その
権利主体である「ザ・ラレイ・サイクル・コンパニー・リミテツド」の名称との関
係、およびその構成要素中に顕著に表示してある「THE RALEIGH」の欧
文字より、「ざ・られい」の称呼および観念が生ずる、と述べている。引用商標中
に「THE RALEIGH」の文字があるために、これより「ザ・ラレイ」(む
しろ、正しくは、「ザ・ローリー」)の称呼を生ずる可能性は、必ずしも否定でき
ないが、前述したように、商品自転車に使用される金属製プレート等において、右
の「THE RALEIGH」のような文字を適確に認識し、しかも、これを
「ザ・ラレイ」ないし「ザ・ローリー」と称呼することを、わが国における自転車
の一般需要者に期待することは、むしろ困難であり、少なくとも、これが「トリ」
等と略称され、観念される可能性を否定することはできない。なお、権利主体との
関係についていえば、実際の取引の場において、商標は、その商品の出所が、具体
的に何々会社等というような営業主体の商号とは無関係に、ただ何人かの営業にか
かることを認識させるための標識として作用するのであるから、商標の称呼・観念
を認定する場合に、商標権者の商号を参酌することは許されない。他方において、
本件商標の称呼・観念は、決して、審決理由中に認定されているように「つる」・
「鶴」ではありえない。本件商標の構成から、これが鳥ないし鳥の頭部であること
を認識することができても、これを「鶴」であるとするに足る明確な特徴は示され
ていないからである。本件商標中の「STORK」という英語に着目し、あるいは
これを「こうのとり」、「ストーク」と認識し、そのように称呼し・観念すること
も、まつたく否定はできないが、これは、審決自体が否定しているか、少なくとも
積極的に肯定していないところである。引用商標について述べたと同様に、本件商
標の称呼・観念は、「つる」・「鶴」ではなく、「トリ」でなければならない。本
件審決が、前記のような構成の両商標において、なぜ、一方の称呼・観念が、文字
部分「STORK」から生ぜず、「鳥の描画の部分を着目、印象………これより
「つる」の称呼及び「鶴」の観念を生じさせ……」としながら、他方の商標につい
ては、もつぱらその文字部分に着目して、「ざ・られい」と称呼し、「THE R
ALEIGH」の観念を生ずるとされたのかは、理解し難いところである。したが
つて、両商標は、称呼・観念においても相類似するものと考えられるべきである。
かりに、百歩を譲つて、本件商標の称呼は「ストーク」であり、引用商標の称呼が
「ザ・ラレイ」ないし「ザ・ローリー」であるとしても、なお、観念において、両
者は類似である。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一 被告は、適式の呼出を受けながら、本件各口頭弁論期日に出頭せず、答弁書そ
の他の準備書面の提出をもしないから、原告主張の事実を自白したものとみなされ
る。
二 右事実によれば、本件商標の構成は別紙第一目録に、引用商標の構成は同第二
目録に、それぞれ記載されたとおりであり、両商標の登録に至る経緯は本件審決の
認定するとおりであつて、両商標の構成について本件審決が述べているところも、
ほぼ首肯しうるものと認められるが、本件審決は、本件商標が引用商標と外観にお
いて類似しないとした点において、判断を誤つた違法があるというべきである。す
なわち、
(一) 本件審決は、
(イ) 本件商標および引用商標が、いずれも複雑な構成からなつていること。
(ロ) 両商標に共通な指定商品、とくに自転車については、両商標のような混合
図形が採択されることが少なくないこと。
(ハ) この種商品の需要者は、その商品の構造・性能についてくわしく吟味する
と同時に、それに附してある商標についても注意深く観察するのが通例であるこ
と。
を考えれば、両商標がその構成要素としている事物を異にしていることが明らかに
認識されるものであつて、両商標は、外観上相紛らわしいものではないとみられる
旨判断している。
(二) しかしながら、右(イ)、(ロ)、(ハ)の事実ないし事情を根拠とし
て、看者が両商標の構成上の差異を明確に認識すると断ずることは、理由のない速
断といわざるをえない。すなわち、右(イ)の点については、前記のとおりの構成
よりなる両商標は、他の多くの商標にみられる、単に一連の文字よりなり、あるい
は、一個の図形からなるような簡単な構成に比し、たしかに複雑な構成を持つとい
いえよう。つぎに、右(ロ)の点については、甲第九号証の一ないし二〇(その成
立についても被告において自白したものとみなされる。)によれば、自転車および
その部品等を指定商品とする商標にあつては、前記のような簡単な構成のもののほ
かに、多くの文字と数個の図形を組み合わせた、本件審決のいう「両商標のような
混合図形」といいうるような構成のものも少なくないことが認めえないではない。
しかし、右(ハ)の点について考えると、両商標に通ずる指定商品、とくに自転車
が、本件商標の登録当時において、その需要者にとつて必ずしも安直に購入できる
ものとはいえず、したがつて、需要者らは、購入にあたつて、その構造・性能等に
相当の留意をし、調査をするのを通例としたことは明らかであるが、だからといつ
て、右商品が、特段に貴重なものであるとか、または、外部からの観察や試乗等に
よつてその構造・性能等を調査することがきわめて困難である等の事情が認められ
ない以上、需要者が、右商品を購入するにあたつて、その構造・性能のみでなく、
その商標についても、他の商品におけると異なり、とくに注意深く観察するのを通
例としたということはできないといわざるをえない。まして、両商標の指定商品に
含まれる自転車の部品等についてみれば、商標の調査の程度に関し、これを他の一
般商品と区別すべきいわれはない。
(三) そこで、右(イ)および(ロ)の事実、ならびに、
(ニ) 自転車における商標の表示が一般に自転車前輪の支承パイプに装着される
金属プレート等により行なわれる
事実(この事実も被告において自白したものとみなされる。)
を考慮したうえ、本件商標と引用商標との外観上の類否について判断する。まず、
両商標は、いずれもその上部に、右向きと左向きとの差異はあるが、くびの長い鳥
の上部を顕著に表示し、その下に、リボンを思わせるような両商標に共通の図形
や、両商標に共通しない図形および欧文字を組み合わせて表示しているものであ
る。そして、本件商標の中央よりやや下の部分に表示された「STORK」の文字
および引用商標の下部近くに表示された「THE RALEIGH」の文字も、相
当明らかに看取される。しかしながら、両商標の指定商品の需要者および取引者の
中には、右「STORK」および「THE RALEIGH」の欧文字の意義を解
しうる者も少なくないであろうが、一方、わが国における英語の普及度からみて、
右各文字の意義を解しえず、したがつて、これから格別強い印象を受けない者も相
当数にのぼるであろうことも見易いところである。これに反し、両商標に顕著に表
示された前記くびの長い鳥の上部は、程度の差はあるが、いずれも写実的に表現さ
れており、それ自体が何人にも身近に感ぜられるものであるため、看者の多くの者
に強い印象を与えるものとみるのが相当である。そして、以上の事実に、自転車に
おける商標の一般的表示態様に関する前記(ニ)の事実をあわせ考えれば、両商標
が、その形状に若干の差異があり、そしてまた、前記(イ)、(ロ)の事実から、
需要者等は、自転車の商標についてはやや慎重に観察する傾向があろうと考えられ
るにもかかわらず、時と所を異にして観察されるとき、その外観から彼此混同され
るおそれがあることは、否定できないところといわざるをえない。したがつて、右
と異なり、両商標がその外観において類似しないとした本件審決は、その点におい
て判断を誤つた違法があるというべきである。
三 以上説示したとおりであるから、その主張の点に違法があることを理由に本件
審決の取消を求める原告の本訴請求は、その他の点について判断するまでもなく、
その理由があるものとして、これを認容すべく、訴訟費用は、行政事件訴訟法第七
条、民事訴訟法第八九条により被告の負担とすることとし、主文のとおり判決す
る。
(裁判官 三宅正雄 杉山克彦 楠賢二)
<11638-001>
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