弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告が、原告に対し、平成元年七月三日付けでした公文書非公開決定を取り消
す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、大阪府の区域内に住所を有する者であり、被告は、大阪府公文書公開
等条例(昭和五九年三月二八日大阪府条例第二号。以下「本件条例」という。)二
条四項の実施機関である。
2 原告は、被告に対し、平成元年六月一九日付けで、本件条例七条一項に基づ
き、政治資金規正法の適用を受ける特定の八政治団体が同法の規定により被告に提
出した昭和六一年分(本件請求ではその一部)及び昭和六二年分の収支報告書(以
下「本件請求文書」と総称する。)の写しの交付による公開(以下、政治資金規正
法規定の収支報告書の写しの交付による公開に係る事務を「本件公開事務」とい
う。)の請求(以下「本件請求」という。)をした。
3 被告は、原告に対し同年七月三日付けで、本件請求について、政治資金規正法
に係る事務は、地方自治法一八六条三項により、国から都道府県選挙管理委員会に
その管理が委任されている機関委任事務であるところ、自治省選挙部政治資金課長
から各都道府県選挙管理委員会の書記長に対し発せられた昭和六〇年五月二四日付
け事務連絡において、政治資金規正法二一条二項につき、収支報告書の閲覧は認め
られるが、同文書の写しの交付は認められない旨の解釈が示されており、同文書の
写しの交付をしてはならない旨の国からの「明示の指示」があるので、本件請求に
は本件条例九条三号が適用されるとの理由で非公開決定(以下「本件処分」とい
う。)をした。
4 原告は、被告に対し、平成元年八月二五日付けで、本件処分について、異議申
立てをしたが、被告は、同年一二月六日付けで、右異議申立てを棄却する旨の決定
をし、右決定を記載した書面は、同年一二月七日、原告に到達し、原告は、平成二
年一月三〇日、本訴を提起した。
5 本件処分は、本件条例九条三号の解釈適用を誤った違法なものである。
6 よって、原告は、本件処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし4の各事実は認める。
2 同5は争う。
三 被告の主張
1 本件公開事務は機関委任事務であること
地方自治法別表第三、三、(二)に掲げられているとおり、政治資金に関する収支
報告書の公開に関する事務は、地方自治法一八六条一項、三項に基づき、都道府県
選挙管理委員会が管理しなければならない国の事務であり、いわゆる機関委任事務
であって、本件条例九条三号の「法律又はこれに基づく政令の規定により知事その
他の執行機関の権限に属する国等の事務」(機関委任事務)に当たる。
2 同号の「主務大臣等から」の「公にしてはならない旨の明示の指示」の存在
(一) 自治省選挙部政治資金課長は、被告を含む各都道府県選挙管理委員会の書
記長に対し、政治資金規正法二一条に関して、収支報告書等の閲覧において収支報
告書等を複写機又は写真機により写すことは消極に解する旨記載した「政治資金規
正法関係質疑集」と題する文書(乙第四号証。以下「本件文書(一)」という。)
を昭和五四年五月二八日付けで送付している。
(二) また、同課長は、同各委員会の書記長に対し、同条に関して、地方公共団
体が政治資金規正法において閲覧の対象としている収支報告書について条例に基づ
き写しの交付をすることはできないと解する旨記載した「政治資金規正法関係質疑
集」と題する文書(乙第五号証。以下「本件文書(二)」という。)を昭和六〇年
五月二四日付けで送付している。
(三) 本件文書(一)及び本件文書(二)(以下「本件各文書」と総称する。)
の右各送付によって、被告に対して収支報告書の写しを交付してはならない旨の指
示がなされており、この各指示(以下、本件文書(一)の送付による指示を「本件
指示(一)」と、本件文書(二)の送付による指示を「本件指示(二)」といい、
本件指示(一)及び本件指示(二)を「本件各指示」と総称する。)は、本件条例
九条三号の「主務大臣等から」の「公にしてはならない旨の明示の指示」に当た
る。
3 よって、本件処分は、本件条例九条三号に基づき適法になされたものである。
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1、2(三)、3はいずれも争う。
2 同2(一)、(二)の各事実は認める。
五 原告の反論
1 本件公開事務は固有事務であること等(被告の主張1に対して)
(一) (1)ある特定の事務が機関委任事務とされ、その事務に対する国の関与
が留保される理由は、(1)同事務が専ら国のみの利害に関係し、地方の利害に無
関係であるからか、(2)同事務について国が一定水準を維持し、全国平均し統一
的・画一的に処理する必要があるからか、(3)同事務について国が少なくとも最
低水準を維持することを必要とするからである。
(2) しかるに、本件公開事務のように、政治資金規正法上収支報告書の閲覧が
認められ、同文書が公開されることを前提とし、その公開方法として写しを交付す
るという内容の事務は、右(1)ないし(3)のいずれの場合にも該当せず、機関
委任事務とすべき実質的根拠は認められない。
(3) したがって、むしろ、「地方自治の本旨」(憲法九二条)に基づき、本件
条例が制定され、同条例二条二項、一二条ないし一四条において公文書の公開方法
について写しの交付を当然に認めている趣旨に照らすと、本件公開事務は、機関委
任事務ではなく当該実施機関たる被告固有の事務であるといわねばならず、本件条
例九条三項は適用されない。
(二) 仮に本件公開事務が機関委任事務であるとしても、地方自治法や国家行政
組織法の諸規定も、機関委任事務に関し知事等が第一次的には自らの判断と責任に
おいて管理執行することを予定していること、また、機関委任事務といえども地方
公共団体の本来の自治事務と密接に関係しており、当該事務処理に際しては各地方
公共団体の実態を最大限考慮しなければならないところ、大阪府においては住民の
「知る権利」を実現するという重要な目的のために本件条例が制定されており、か
かる実態を十分に考慮すべきであることに照らすと、本件条例に基づく情報公開事
務については、当該実施機関の判断を国等の判断に優先させるべきであり、本件条
例九条三項は適用の余地がない。
2 本件各指示の本件条例九条三号の「公にしてはならない旨の明示の指示」への
不該当(被告の主張2(三)に対して)
(一) (1) 自治省作成文書の各機関への送付が同号の「指示」に当たるか否
かは、当該文書の表題、発行記録、発行者、発行者の押印の有無、文書の内容等を
総合的に検討し、判断する必要がある。
(2) しかるに、本件各文書は、表題も「質疑集」と記載されているのみであ
り、発行記録も「事務連絡」と記載され(ただし、本件文書(二)について)、発
行者である自治省選挙部政治資金課長の課長印も押印されていないなど文書の形式
自体整っておらず、その内容も、収支報告書の写しの交付ができるか等の質問に対
し、「できないと解する。」等と記載されているだけで、その理由については何ら
触れられていない。
(3) したがって、このような本件各文書の形式、内容等に照らすと、同文書
は、自治省の政治資金規正法についての法律解釈を示したものにすぎず、本件各指
示をもって同号の「指示」に当たるものということはできない。
(二) (1)機関委任事務といえども、委任者たる国等が地方の受任機関等を無
限定に指揮監督できるものではなく、その指揮には実質的合理性が必要であるとと
もに、住民の「知る権利」の保障という本件条例の制定目的の重要性に照らし、
「知る権利」に対する制約たる公開除外事由への該当性については厳格に解釈すべ
きである。これらのことからすると、同号の「明示の指示」に該当するためには、
その指示自体に合理的、具体的理由の存することが必要であるといわねばならな
い。
(2) しかるに、本件各文書は、いずれも写しの交付について、できないと解す
る旨記載しているのみで、その解釈の合理的、具体的理由はまったく示されていな
い。
政治資金規正法制定当時とは異なり、現代の高度情報化社会の中で、複写機の利用
はもはや常識であり、市民の政治参加に資するという同法の趣旨を考えれば、同法
二一条二項の「閲覧」には写しの交付も含まれると解するのが合理的である。現に
マスコミ関係者には写しが交付されている。
したがって、本件各指示には、何ら合理的、具体的理由はないものといわねばなら
ない。
(3) よって、本件各指示は、同号の「明示の指示」には当たらない。
(三) (1) 本件条例二条二項において「公文書の公開」とは、公文書を閲覧
に供し、又はその写しを交付することをいうものとされているので、同条例九条本
文の「公文書の公開をしてはならない。」との文言は、公文書を閲覧させ、かつ、
その写しを交付してはならないとの意味に解すべきである。
(2) そして、同条三号にいう「公にしてはならない」との文言は、右「(公文
書の)公開をしてはならない」との文言と同義であるから、「公にしてはならな
い」との文言も、文理解釈上、閲覧させ、かつ、その写しを交付してはならないと
の意味に解すべきである。
(3) しかるに、本件各指示は、いずれも閲覧が認められている文書の写しを交
付することができないという指示であり、閲覧させることまでも禁止するものでは
ないから、本件各指示は、同号の「公にしてはならない」旨の指示には当たらない
ものといわねばならない。
五 原告の反論に対する被告の認否及び再反論
1 原告の主張はいずれも争う。
2 原告の反論1(一)に対して
ある特定の事務が、機関委任事務であるか否かは、法律の規走により決定される立
法政策の問題であり、法律の文言を離れて一般的な理由をもとに機関委任事務か否
かを論じ得るものではない。
3 原告の反論1(二)に対して
機関委任事務については、地方自治法上、主務大臣の指揮監督を受けることが明記
されており、本件公開事務について実施機関の判断が優越することはない。
4 原告の反論2(一)に対して
通常、自治省に対する質疑については「・・・と解する。」との表現のもとに回答
が示されるが、それは回答者たる自治省の意見、見解を示したものであり、また自
治省はその質疑回答を各都道府県に送付することによって当該事務の統一的な処理
を指揮しており、政治資金規正法の運用についても、従来から自治省選挙部政治資
金課において、本件各文書のような質疑集の形式でこれを取りまとめて回答者なる
自治省の意見、見解を示すと同時に、同質疑集を各都道府県選挙管理委員会に通知
することにより、全国統一的な事務処理を指揮しており、本件各指示も、かかる指
揮の一環であって、本件条例九条三号の「指示」に当たる。
5 原告の反論2(二)に対して
本件条例における公文書の公開を請求することができる権利は、憲法上の「知る権
利」から直接導き出されるものではなく、本件条例において初めて具体的な権利と
して創設され、存在するに至ったものである。
したがって、本件条例で定められた範囲においてのみ、他の法令に抵触しない範囲
で公文書の公開が認められるものであり、非公開規定を制限根拠ととらえて殊更厳
格に解釈しなければならないものではない。
また、機関委任事務については、地方自治法上、主務大臣の指揮監督を受けること
が明記されており、本件条例九条三号がそれとの調整を図った規定であることから
すると、同号に該当するためには、主務大臣等からの明示の指示があれば足り、そ
れ以上に、指示についての合理的、具体的理由を要するものではないことは、同条
の規定からも明らかである。
6 原告の反論2(三)に対して
本件条例二条二項において、「公文書の公開」とは「公文書を閲覧に供し、又はそ
の写しを交付すること」をいうとされており、本件条例九条の「公開してはならな
い文書」にその写しを交付してはならない文書が含まれることは規定上明らかであ
る。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1ないし4の各事実は当事者間に争いがない。
二 本件処分の適法性(請求原因5、被告の主張、原告の反論及び被告の再反論)
について
1 本件処分は、本件条例九条三号に基づき非公開を定めたものであるところ、本
件条例九条は、三号において、「法律又はこれに基づく政令の規定により知事その
他の執行機関の権限に属する国等の事務に関して、主務大臣等から公にしてはなら
ない旨の明示の指示がある情報」を挙げ、この「情報が記録されている公文書につ
いては、公文書の公開をしてはならない。」と規定している。
これは、「法律又はこれに基づく政令の規定により知事その他の執行機関の権限に
属する国等の事務」、すなわち、いわゆる機関委任事務に関する情報についても本
件条例による公開の対象となることを前提としつつ、他方、機関委任事務における
委任者たる国等の指揮監督権を公文書公開の場面においても保障するために、右指
揮監督権に基づき「主務大臣等から公にしてはならない旨の明示の指示」がなされ
た場合には、その指示を尊重して公開できないことを定めたものであると解され
る。
そこで、本件においては、本件公開事務が、同号の「法律又はこれに基づく政令の
規定により知事その他の執行機関の権限に属する国等の事務」(機関委任事務)に
当たるか(争点1)、また、同号の「公にしてはならない旨の明示の指示」が認め
られるのか(争点2)の二点が問題となる。
以下、右各争点につき検討する。
2 争点1について
(一) 被告の主張1について
地方自治法一八六条一項は、「選挙管理委員会は、法律又はこれに基づく政令の定
めるところにより、・・・国、他の地方公共団体その他の公共団体の選挙に関する
事務及びこれに関係のある事務を管理する。」と規定し、同条三項は、「第一項の
規定により選挙管理委員会の権限に属する国、他の地方公共団体その他公共団体の
事務の中で、法律又はこれに基く政令の定めるところにより選挙管理委員会が管理
しなければならないものは、・・・都道府県の選挙管理委員会にあっては別表第
三・・・の通りである。」と規定し、同規定を受けて同法別表第三、三、(二)
は、「政治資金規正法の定めるところにより、・・・政治資金に関する報告書
の・・・公開に関する事務を行うこと」を掲げている。
同法一八六条三項が規定する右「選挙管理委員会の権限に属する国、他の地方公共
団体その他公共団体の事務の中で、法律又はこれに基く政令の定めるところにより
選挙管理委員会が管理しなければならないもの」とは、いわゆる機関委任事務であ
って、本件条例九条三号の「法律又はこれに基づく政令の規定により知事その他の
執行機関の権限に属する国等の事務」にほかならない。
したがって、別表で掲げられた右「政治資金に関する報告書の・・・公開に関する
事務」も、本件条例九条三号の「法律又はこれに基づく政令の規定により知事その
他の執行機関の権限に属する国等の事務」に当たるところ、本件公開事務が、右
「政治資金に関する報告書の・・・公開に関する事務」に含まれることは明らかで
あり、本件公開事務は、本件条例九条三号の「法律又はこれに基づく政令の規定に
より知事その他の執行機関の権限に属する国等の事務」に当たるものと解される。
(二) 原告の反論1(一)について
原告の反論1(一)は、収支報告書の公開に関する事務のうち写しの交付について
は、機関委任事務ではないと解すべきである旨主張するものと理解することができ
るが、そのように限定的に解することは、前示の「政治資金に関する報告書
の・・・公開に関する事務」と特段の限定を付することなく規定している地方自治
法(別表)の規定にそぐわないうえ、原告が主張する実質的根拠に乏しい等の理由
も直ちに賛同することができるものではなく、原告の反論を採用することはできな
い。
なお、甲第二〇号証(播磨信義神戸学院大学教授の意見書)には、もし政治資金規
正法において収支報告書の公開について何ら規定をしていないとすれば、同報告書
の公開に関する事務が機関委任事務となることはなく、したがって、被告は本件公
開事務について国から「指示」を受けることもなく、本件条例により当然公開され
ることになるのに、同法に収支報告書の「閲覧」に関する規定があるがゆえに、同
報告書の公開に関する事務が機関委任事務とされ、本件公開事務について「指示」
を受けて公開できなくなるというのは、公開を是認する立場を採っている同法の趣
旨に反する結果となり、論理的に矛盾すると主張するが、右主張は、現行法を前提
としない仮定に基づく議論であって、これを採用することはできない。
(三) 原告の反論1(二)について
前示のとおり、本件条例が委任者たる国等の指揮監督権を尊重して、本件条例九条
三号を置いている以上、本件公開事務を含む本件条例に基づく情報公開事務につい
て、当該実施機関の判断を国等の判断に優先させるべきである旨の主張は成り立た
ないものといわねばならない。
3 争点2について
(一) 被告の主張2(一)、(二)の各事実は当事者間に争いがない。
(二) 被告の主張2(三)について
(1) 前示のとおり、本件条例九条三号は、機関委任事務における委任者たる国
等の指揮監督権を公文書公開の場面においても保障するために、右指揮監督権に基
づき「主務大臣等から公にしてはならない旨の明示の指示」がなされた場合には、
その指示を尊重して公開できないことを定めたものであるから、ある行為が同号の
「指示」に当たるか否かは、右指揮監督権の行使としてその行為がなされたかどう
かによって判断すべきである。
ところで、甲第三号証、乙第四、第五、第八、第九号証、証人Aの証言及び弁論の
全趣旨によると、(1)従来から、自治省は、機関委任事務等の運用上の法律問題
等に関する個々の質問に対して「・・・と解する。」との表現のもとに回答を示す
形式で自治省の意見、見解を明らかにするとともに、その質疑回答を各都道府県に
送付することによって当該事務の統一的処理を図ってきており、政治資金規正法の
運用についても、自治省選挙部政治資金課において、本件各文書のような質疑集を
作成して、それにより自治省の意見、見解を明らかにするとともに、同質疑集を各
都道府県選挙管理委員会に送付することにより、政治資金規正法三〇条の指揮監督
権に基づき、全国統一的な事務処理がなされるよう指揮してきたこと、(2)他
方、被告も、従来から、右質疑集の送付を受けた場合には、同質疑集に記載されて
いる問題について自治省の解釈に従う事務の運用ないし判断をしてきたこと、
(3)被告の事務局主幹であるAが、本件請求の後、平成元年六月、自治省選挙部
政治資金課のB課長補佐に対し、本件各文書の送付を自治大臣の指揮監督権に基づ
く指示と解釈してよいのかについて問い合わせたところ、同課長補佐は、本件各指
示は指揮監督権に基づく指示である旨回答したこと、(4)その後、Aが、本件処
分に対する原告の異議申立てについての公文書公開審査会の審議が進む中で、再
度、自治省選挙部政治資金課長Cに同様の確認をしたところ、同課長も、B課長補
佐の前記回答と同旨の回答をしたこと、(5)さらに、本件訴え提起後も、被告
が、右C課長に対し、平成二年七月一一日付け書面(乙第八号証)により、本件各
文書の送付という通知の形式の位置付け及び本件文書(一)と本件文書(二)の関
係について照会したところ、同課長から、平成二年七月二一日付け書面(乙第九号
証)により、地方自治法一五〇条を準用する同法一九二条及び政治資金規正法三〇
条により都道府県選挙管理委員会に対し指揮監督権を有する自治大臣が同法の適正
な執行と全国統一的な事務処理を図るため、同法の収支報告等に関する事務の運用
解釈上生じる疑義のうち全都道府県に共通する重要な事項について、質疑集の形式
でこれを取りまとめ、各都道府県に通知しているものである旨及び本件文書(二)
は本件文書(一)の趣旨をさらに明確にするために発したものである旨の回答を得
たことが認められる。
右認定の各事実に照らすと、本件各指示は、自治大臣の指揮監督権に基づき発せら
れたことは明らかであり、本件条例九条三号の「指示」に当たるものというべきで
ある。
(2) また、本件各指示は、本件各文書の送付をもってなされており、しかも、
本件各文書に示された指示内容は、政治資金規正法上閲覧の対象とされている収支
報告書を複写機又は写真機により写すことはできず、また、同文書の写しを交付す
ることはできないとするものであって、一義的に明確であり、本件条例九条三号の
「指示」に要求される「明示」性に欠けるところはない。
(3) さらに、本件条例二条二項において「公文書の公開」とは、公文書を閲覧
に供し、又はその写しを交付することをいうものとされており、本件各指示のよう
に写しを交付してはならない旨の指示は、「公にしてはならない旨」の指示に当た
る。
(4) したがって、本件各指示は、
本件条例九条三号の「公にしてはならない旨の明示の指示」に当たるものといわな
ければならない。
(三) 原告の反論2(一)について
前示のとおり、本件条例九条三号の「指示」に当たるか否かの判断においては、指
揮監督権の行使としてなされたものか否かが重要であり、指揮監督権行使の趣旨で
なされたものか否かの判断において、当該文書の表題、発行記録、発行者の押印の
有無、文書の内容等も参考になるとしても、本件では、前記認定のように、指揮監
督権の行使として本件各指示がなされたことは明らかであって、たとえ本件各文書
が、表題も「質疑集」と記載されているのみであり、発行記録も「事務連絡」と記
載され(ただし、本件文書(二)について)、発行者である自治省選挙部政治資金
課長の課長印も押印されておらず、その内容も、結論が記載されているだけで、そ
の理由については何ら触れられていないとしても、そのことのゆえに、本件各指示
が同号の「指示」でないことになるものとは到底いうことができず、原告の反論は
採用できない。
(四) 原告の反論2(二)について
(1) 政治資金規正法三〇条により、自治大臣は、同法の執行に関し必要がある
と認める時は、都道府県の選挙管理委員会を指揮監督することができ、また、地方
自治法一五〇条を準用する同法一九二条によっても、自治大臣の指揮監督が規定さ
れているのであるから、自治大臣の指揮監督が違憲又は違法である場合は格別、そ
うでない限り、選挙管理委員会は、その指揮監督に従わなければならないものと解
される。したがって、機関委任事務といえども、委任者たる国等の受任機関への指
揮には実質的合理性が必要であるとの原告の反論は、その指揮が違憲又は違法なも
のであってはならないという限度では、これを採用することができるが、さらに進
んで指揮の当不当まで問題にすべきであるとの見解であるとすれば、これに賛同す
ることはできない。
(2) また、本件条例で規定する公文書の公開を求める権利は、憲法二一条で保
障された国民の知る権利に資するものではあるが、憲法から直接導き出されるもの
ではなく、本件条例により創設的に認められたものというべきである。
そうすると、いかなる公文書を開示の対象とするかは、条例の制定権者が決定すべ
き立法政策上の問題であり、非開示事由の要件に該当するか否かの判断において
も、
その規定の文理及び趣旨に照らして判断されるべきで、それ以上に、文理及び趣旨
を超えて限定的に解釈すべき理由はない。
(3) 本件条例九条三号には、「明示の指示」が違憲又は違法である場合には、
同号にいう「明示の指示」には当たらない旨の規定はないが、右(1)で述べたと
ころからすると、そのことは当然の前提として規定されなかったと解することがで
き、「明示の指示」が違憲又は違法な場合には同号にいう「明示の指示」には当た
らないものというべきである。
(4) そこで、本件各指示が違憲又は違法なものであるかについて判断する。
(1) まず、本件各指示が憲法に違反するとは認められない。
(2) 政治資金規正法二一条二項においては、「閲覧を請求することができ
る。」と規定し、写しの交付については、明文上何らの規定も設けられていないと
ころ、一般に法文においては、「閲覧」と「写しの交付」とは区別して用いられて
おり、「閲覧」の中に「写しの交付」も含まれているとの解釈を採ることはできな
い。
しかしながら、同法上、「写しの交付」を積極的に禁ずる規定もなく、政治団体及
び公職の候補者が政治活動に要した資金の収入及び支出の状況を公開し、国民の不
断の監視と批判の下に置くことにより不正あるいは不当な政治資金の授受を未然に
防止し、もって政治活動の公明と公正を確保しようとする政治資金規正法の趣旨に
照らすと、同法が右趣旨に合致する「写しの交付」等を積極的に禁じているものと
まではみることはできず、「写しの交付」を認めるか否かは収支報告書の公開事務
を担当する機関(自治大臣又は都道府県の選挙管理委員会)の裁量に委ねられてい
るものと解するのが相当である。(現に、甲第九号証及び原告本人尋問の結果によ
ると、自治省は、報道関係者に対し、収支報告書について騰写を容認していること
が認められる。)
そこで、本件各指示に右裁量権の濫用・逸脱があるということができるかが問題と
なるが、政治資金規正法は閲覧を認める規定しか置いていないことからすると、一
応は閲覧のみで足りるとの政策判断があるものと解されるのであり、原告主張の複
写機の利用の拡大という事情や同法の右趣旨を考慮しても、なお、本件各指示につ
いて右裁量権の濫用・逸脱があるものとまでは認められない。
したがって、本件各指示が違法であるということもできない。
(五) 原告の反論2(三)について
本件条例九条三号は、前示のとおり、国等の指揮監督権を尊重する趣旨であり、こ
のような趣旨に照らすと、同号にいう「公にしてはならない」との文言も、原告が
主張するように、閲覧させ、かつ、その写しを交付してはならないとの意味に限定
的に解する理由はなく、むしろ、閲覧させ、又は、その写しを交付してはならない
との意味に解すること、すなわち、これらのいずれか一方のみを禁止することも是
認していると解することが右趣旨に合致するのであり、原告の反論は採用すること
ができない。
4 以上のとおり、本件処分は、本件条例九条三号に基づき適法になされたものと
認められる。
三 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行
訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 福富昌昭 森 義之 西田隆裕)

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従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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